土反の観てきた!クチコミ一覧

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ぬれぎぬ

ぬれぎぬ

アマヤドリ

シアター風姿花伝(東京都)

2014/04/01 (火) ~ 2014/04/23 (水)公演終了

満足度★★★

正義と悪について考えさせられる
この劇団の特徴的な要素である詩的な台詞やダンス的な身体表現を用いない、リアリズムの会話劇で、物語と演技の力で見せる作品でした。

警察や戸籍制度に関して独自の法律が定められている行政特区を舞台に、ストーカー殺人を犯した若い男と、老人の大量安楽死殺人を行った中年の女が、民間の派遣社員であるソーシャル・ワーカー達と対話するシーンを中心にして、ソーシャル・ワーカー達のプライベートでのエピソードも絡み展開し、様々な考え方がぶつかる様子がスリリングでした。
特区という設定を用いることによって、単純な善悪二元論ではなく法律と倫理の関係についても考えさせる内容になっていたのが印象的でした。

緊迫した口論や重い沈黙といった深刻なシーンの中にもふとコミカルなやりとりがあったりする、緊張と弛緩のバランス感覚が良かったです。
机と椅子といくつかの家電が置かれただけのシンプルなセットを動かさずに登場人物の立ち位置のみによっていくつかの場所を描き分けていたのは良かったのですが、家電や途中でわざわざ出してくるあるアイテムを用いる必要性は感じられず、もっと切り詰めた表現でも良いと思いました。

浮いていく背中に

浮いていく背中に

原田ゆう

北品川フリースペース楽間(東京都)

2014/04/04 (金) ~ 2014/04/06 (日)公演終了

満足度★★★

後ろを見ながら歩く
浮遊感のある文体と特徴的な空間による淡く謎めいた不思議な質感が印象に残る作品でした。

人生があまり上手く行っていない男1人と女2人が後ろ向きにゆっくり歩く「バック歩行」で緩やかに関係する物語で、大半の台詞がモノローグで、2人あるいは3人が舞台上にいてもあまり会話がなされず、「〜した」と言った後に「〜してしまった」と言い直す文体が多用され、独特の感触がありました。
バック歩行については何故そうするのかは明言されないものの、人生に起きた大小の出来事を伝える話の文末を言い直すことと組み合わさって、過去を後悔しつつも少しずつ進んで行こうとする人の心境が身体表現として象徴されている様に感じました。

いくつかのエピソードが語られるものの、ドラマとしてのクライマックスが無く淡々と続くのが印象的で、中盤までは独特の雰囲気に引き込まれましたが、この様な形式で100分という上演時間は少々長く感じられました。
ダンサーである作者ならではのコンテンポラリーダンスについてのエピソードが楽しかったです。

幅1.5m程の細長い舞台の両側に客席があり、照明は天井にはほとんど吊されずに舞台両端に組まれたスチールのアーチに設置され、横から照らし出す空間演出が新鮮でした。

ヴォツェック

ヴォツェック

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2014/04/05 (土) ~ 2014/04/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

貧困による破滅
貧しさから身を滅ぼしてしまう男を描いた、オペラと聞いて一般的にイメージされる様な華美なイメージとは無縁の作品を大胆なヴィジュアル表現で演出し、演劇としてもインパクトがありました。

舞台全面に数センチメートルの深さの水が張ってあり、その上空に吊られた巨大な部屋が前後・上下に移動する斬新な舞台美術の中で物語が展開し、主人公とその近しい者以外は奇怪な出で立ちで、ヴォツェックが狂っている様に見えるが実はヴォツェック以外が狂っているのではないかと表現している様でした。
黒いスーツに帽子姿のアンサンブルがパンやお金がばら蒔かれる度に水しぶきを上げて拾いあげようとしたり、鼓手長や楽隊が乗るステージを持ち上げて歩いたりと権力に支配された貧乏な庶民達を象徴していました。酒場のシーンでは髪が薄く白塗りのメイクにすすけた衣装でゾンビの様な人々が群れていて不気味でした。
ヴォツェックとマリーの子供が本来登場しないシーンでも舞台上にいて、端で佇んでいたりペンキで壁に単語を書いたりするのが、この作品が持つ救いの無さを強めていました。最後のシーンで登場する児童合唱も黒いスーツに帽子の姿で、貧困が子供の世代に連鎖することを象徴していたのが印象的でした。

音楽は無調で親しみ易い旋律が皆無ですが、調性のある音楽では表現出来ない緊張感や不穏感が出ていて、所々で現れる調性感のあるハーモニーが際立っていました。舞台裏で演奏する軍楽隊や、舞台上で演奏する酒場の楽隊、ピアニスト(わざと調律を狂わせたピアノを演奏)が狂気で歪んだ世界を描いていて効果的でした。

ヴォツェックを演じたゲオルク・ニグルさんの狂気に侵されて行く演技が素晴らしかったです。

さらに/ハイ・クオリティー

さらに/ハイ・クオリティー

ナカゴー

王子小劇場(東京都)

2014/03/25 (火) ~ 2014/04/03 (木)公演終了

満足度★★★

哲学的SFな『ハイ・クオリティー』
馬鹿馬鹿しくて騒がしい内容でありながら、人間とは何かを考えさせる要素もあり、ただ笑えるだけではない作品でした。

ペットとして扱われている掃除機/掃除機を操るロボ/人間の3つのクラスの境界があやふやになって行く展開で、精神異常者/正常者やロボ/人間といった2つのクラスで同様のモチーフを扱った作品は良くあるのですが、3つのクラスにしたことで混迷の度合いが高まっていて物語に深みが出ていて良かったです。

激しい口論中に第三者がポロッとこぼす台詞のとぼけた風味が楽しかったのですが、その手法を多用し過ぎていて、後半ではくどく感じました。

篠原正明さんの映画の吹き替えの様な声色と台詞回しが魅力的でした。川上友里さんの壊れた演技も強烈でした。

交互上演の『さらに』は下品過ぎてあまり楽しめなかったのですがこちらの作品は興味深く観ることが出来、敢えて異なるテイストにした作風の広さ(しつこさは共通していましたが)が印象に残りました。

さらに/ハイ・クオリティー

さらに/ハイ・クオリティー

ナカゴー

王子小劇場(東京都)

2014/03/25 (火) ~ 2014/04/03 (木)公演終了

満足度★★

下品さが際立つ『さらに』
ひたすら下ネタが続くナンセンスな物語を癖の強い演技で描く、低俗で酷い内容ながら、台詞の文体や間にセンスが感じられ、最後まで飽きること無く観ることの出来る作品でした。

ある出版社の社長・副社長の兄弟が恨みを持つ者達に襲われるというストーリーですが、全然中身が無くて擬画化されたセックスシーンが何度も繰り返されるだけで、あまりのくだらなさの徹底ぶりに逆に潔さを感じました。
終盤の展開はゾンビ物やアクション物の映画を彷彿とさせる盛り上がりがありましたが、中盤で冴えていた台詞のセンスが弱まってしまっていて残念でした。

映画の台詞を思わせる文体が会話に終始ぎこちなさを感じさせていて印象的でした。他の人が話している時に台詞を被せるタイミングが絶妙で、妙な間が楽しかったです。

素舞台に椅子とテーブルだけで小道具も紙製の安普請な美術と、赤と青の悪趣味な色合いのまま変化の無い照明がチープさを強化していました。

春琴抄

春琴抄

財団法人日本オペラ振興会 藤原歌劇団/日本オペラ協会

新国立劇場 中劇場(東京都)

2014/03/28 (金) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★

平板な印象
谷崎潤一郎の代表作をオペラ化した作品で、所々で絵的に美しい場面はあったものの、盛り上がりに欠ける様に思いました。

第1幕は暗い空間に屏風、上空にパネルのみのミニマルな美術で、登場人物達の動きも少なく能の様でしたが、物語として平坦で退屈に感じました。
第2幕冒頭ではナトリウムランプの色味を消した明かりの中、回り舞台の上で人形の様に固まった状態で登場し、正面まで来たところで普通の照明となり、カラフルな衣装を着た出演者達が動き出すところが印象的でしたが、その様な演出にした必然性が感じられず、残念でした。
第3幕になってやっとドラマとして動きが出てきましたが、春琴が舞台奥の光に向かって歩くラストで出演者が全員舞台に現れる意味が分かりませんでした。

和風の旋律に不協和音やグリッサンドが絡む音楽が単調で、オーケストラの演奏もズレが目立ち、魅力を感じませんでした。上手舞台と同じ高さの上手に筝と三絃の奏者が座り、オーケストラと音響的、視覚的に分離していて効果的でした。

1曲毎に区切りがあるイタリアオペラの様な作品ではないのに、オーケストラの演奏が続く中で拍手やブラボーの声(いかにも身内なノリでした)を掛けていて、興を削がれ集中して観ることが出来ませんでした。

金色時間、フェスティバルの最中。

金色時間、フェスティバルの最中。

珍しいキノコ舞踊団

世田谷パブリックシアター(東京都)

2014/03/27 (木) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★

踊る楽しさ
コンテンポラリーダンス卒業を謳って、親しみやすいパフォーマンスを繰り広げる楽しい公演でした。

舞台中央にテントを設え、上空には三角旗を吊った、南国のキャンプ場を思わせる開放的な雰囲気のセットの中でカラフルな衣装を着た女性ダンサー達が昔のヒット曲に乗せて軽やかに踊り、レビューショウ的な構成でした。
開演前にはダンサー達がロビーに出て来ていて、観客と話したりテーマ曲を歌いながら踊ったりして、開演してからも途中でトークがあったり写真撮影OKタイムを設けたり観客にも踊る様に促したりと、舞台と客席に境目を設けないフランクな雰囲気作りが印象に残りました。
緩い雰囲気で進行しリラックスして楽しめましたが、密度が薄く感じられ、終盤のYMOの曲で踊るシーンまではあまり引き込まれませんでした。

ダンスを限られた人達だけの物にしない意図は伝わって来ましたが、表現方法が素直過ぎて、あまり好みではありませんでした。劇場でなく、スタンディングのライブハウスや屋外での公演だったら、個人的にもっと楽しめたと思います。

悪霊

悪霊

地点

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2014/03/10 (月) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

切実で滑稽な堂々巡り
ドストエフスキーの長編小説を100分に構成した作品で、信仰や社会革命についての回りくどい台詞が続き、内容としてはあまり飲み込めなかったにも関わらず、圧倒的なパフォーマンスに何とも言い難い感情が刺激されました。

開演前から勢いを変えながら絶えず降り続ける雪(発泡スチロール製でリアルな降り方でした)の中で、語り手であるGは舞台の外周部を反時計回りに走り続け、他の登場人物達も同様に走ったり取っ組み合ったりしながらで地点ならではの奇妙なイントネーションとリズムによる台詞が飛び交い、堂々巡りが会話と動きで表現されていました。
雪も動きも止まり、静寂が支配する時間が美しく、真っ白だった空間に衣装を脱ぐことによって色が現れる終盤が印象的でした。

シリアスなテーマを扱っていながらも所々にばかばかしい表現が盛り込まれ、切実さと滑稽さがお互いを際立たせていました。台詞の文節の仕方によって真面目な台詞を一瞬シュールに聞こえさせる手法が効果的に使われていました。

客席エリアに比べてはるかに広い演技エリアは中央部分に向かって2段刳り貫かれて底が見えない形状となっていて、それを活かした役者を見せない演出が印象的でした。
地響きあるいは遠い雷鳴の様な低音、銃声、アヴェ・マリアと歌う合唱の断片が交錯する、緊張感のある音響デザインが素晴らしかったです。
おそらく柔道着をリメイクした衣装が格好良く、また何度も行われる取っ組み合いにも呼応していて良かったです。

ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

劇団東京イボンヌ

ワーサルシアター(東京都)

2014/03/18 (火) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度

笑えない騒々しさ
ショパンの『別れの曲』の(フィクションの)誕生物語を描いたコメディー作品でしたが、個人的には脚本・演出・演技とも好みではなく、全く笑えませんでした。

ナンセンスコメディーとの触れ込みでしたが、意外と筋の通った内容でナンセンスさはほとんど感じられず、コメディーらしさもハイテンションでオーバーな演技ばかりで、思惑の行き違いやシチュエーションによって笑わせる意図が感じられず、ただ騒がしいだけにしか感じませんでした。
冒頭から登場人物が出揃うまではストーリーテラー的に客席に話しかける女中が中盤以降はその役割が失われていたり、シューマンの躁鬱病(そもそも鬱の描写になっていなかったと思いました)が物語に絡んで来なかったりと、設定が活かされていない様に思いました。

登場人物がピアノを弾くシーンでアップライトピアノの向こう側で演奏する振りをするのは音がそこから聞こえて来て実際に弾いているみたいで、面白い見せ方でした。
日本の話が出てくるシーンで『葬送行進曲』が伴奏音型はそのままにメロディーが『さくらさくら』に変容するのは音楽的ユーモアセンスがあって良かったです。もう少しこの様な遊びを入れても良いと思いました。

ピアノの高音域調律が狂っていてせっかくの生演奏が変な響きになってしまっていたのが気になりました。全体的に無駄に照明の色を変え過ぎで、安っぽく感じましたが、ミラーボールを用いて劇場内に音符型の光を漂わせたのは素敵でした。

夜の来訪者

夜の来訪者

03

ザ・ポケット(東京都)

2014/03/19 (水) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★

社会構造と良心
資本主義社会の非情さや人間のエゴをミステリー仕立ての物語の中に描いた名作戯曲を、ストレートに演出していて物語の魅力は伝わりましたが、演技が物足りなく感じました。

婚約のパーティーをしている家族の所へ夜に警部が訪れ、そこにいる皆がある女性の自殺に関係あることが明らかにされた後、意外な方向に話が展開するストーリーで、ただの犯人探しに止まらない、社会や良心の在り方について考えさせる内容でした。
ラストでは、奥に現れた女中が縛っていた髪をほどき赤い照明で照らされ、壁面にはウネウネとした模様が映し出され、女中がこの一夜の騒ぎを陰で操っていたかの様に描いていましたが、そこまでの抑制の効いた演出に対して唐突で過剰な表現に感じられました。

半数程の役者が翻訳劇ならではの台詞が馴染んでいなくて、敢えてわざとらしく演技しているのか、そうは意図していないのにわざとらしく見えてしまっているのかがはっきりしない演技となっていて、もどかしく思いました。

手前と奥に円形の穴がうがたれた壁が立ちトンネル状に見える幅より奥行きの方が大きいステージが新鮮でした。
舞台セットの形状のせいだと思いますが、声が反響してエコーが掛った様な音響になっていて、聞き取れない訳ではないものの違和感がありました。

ARCHITANZ 2014 3月公演

ARCHITANZ 2014 3月公演

スタジオアーキタンツ

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/03/20 (木) ~ 2014/03/21 (金)公演終了

満足度★★★

酒井はなさんソロが圧巻
『Boy Story』(ユーリ・ン振付)
香港の中国への返還をモチーフとした作品で、明確なストーリーは分かりませんでしたが、中国の皇帝を思わせる真っ赤な衣装とイギリスを象徴するかの様な黒スーツ姿の対比が印象的でした。ハワイアン(?)や日本のフォーク等、選曲がユニークでした。

『The Second Symphony』(ウヴェ・ショルツ振付)
シューマンの交響曲第2番の第3楽章に乗せて2組の男女ペアが青い背景に青い衣裳で流れる様に踊る姿が美しい作品でした。ムーブメントも構成も古典的で、男性ダンサーの目立つ部分は少なくサポートに徹していて、現代的な要素が感じられないのが残念でした。

『Castrati』(ナチョ・ドゥアト振付)
去勢することによって大人になってもボーイソプラノの声を保ち続けた歌手をモチーフにした、「男らしさ」について考えさせられる作品でした。黒のワンピース状の衣装を着た8人が全身肌色の質素な格好の男をいたぶる様子が描かれ、はっきりしたストーリーは無い感情表現がはっきりした振付で、素早くてダイナミックな動きが多用され、ミュージカルのダンスの様な雰囲気もありました。

『Mopey』(マルコ・ゲッケ振付)
元々は男性ソロの為の作品を初めて女性が踊るとのことで、酒井はなさんのダンスは男性的な力強さと女性的な華やかさが両立していて、引き込まれました。コミカルな雰囲気がある細かい動きが多く、半分以上の時間は客席に背中を向けていて、ストレートに感情を訴える様な振付ではないものの、心を動かす不思議な魅力がありました。ロウソクの火を消すかの様に息を吹いて暗転するラストがユーモラスでした。

空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語―

空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語―

松竹

新橋演舞場(東京都)

2014/03/05 (水) ~ 2014/03/29 (土)公演終了

満足度★★

スーパー歌舞伎
イキウメの前川知大さんの作・演出による、哲学的でありながらエンターテインメント的趣向に富んだ作品でしたが、長い上演時間の割にはあまり満足できるボリューム感がありませんでした。

冒頭に出演者一同による口上があり、ユーモラスな演出でそのまま本編に突入し、自分の彫る仏像が民衆の為ではなく権力者の為になってしまっていることに悩んで彫ることを止め、ついには仏像を壊す様になってしまった若い仏師の悟りの物語で、命の大切さや正義について考えさせる内容でした。
各幕で派手な立ち回りや台詞の聞かせ所があり、飽きさせないように工夫された構成で、特に三幕目中盤からは派手な演出が連発され、エンターテインメントとして楽しめました。

雅楽の楽器や西洋系の打楽器も使った音楽の録音を流していて、普通の歌舞伎の三味線と唄中心の物に比べて迫力があったものの、決めの台詞の度に感傷的な音楽が流れるというベタな演出が最後まで続き、安っぽくて興醒めしました。
笑わせようとしていないと思われる場面で笑いが起きていて、古典物だと現代との感覚の違いで仕方がない所もあるとは思うのですが、新作であればシリアスな箇所はちゃんとシリアスに感じられるように調整して欲しいと思いました。

福士誠治さんが歌舞伎役者同様の良く通る台詞回しで魅力的でした。浅野和之さんがコミカルな狂言回しを演じていて場を和ませ楽しかったです。佐々木蔵之介さんは役作りもあるのでしょうが、こもった発声で周りから浮いている様に感じました。

家族の休日

家族の休日

公益社団法人日本劇団協議会

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/19 (水)公演終了

満足度★★★

家族の崩壊
普通に見える家族のバランスが崩れて行く物語で、終盤のカタストロフ的展開が印象的でした。

5人姉妹の中の次女が家を出ると言い出したことをきっかけに、5人と親の関係とそれそれが抱える負の部分があらわになって行き、母も父も殺された後にエピローグとして幸せだった頃の光景が描かれる構成で、佐々木透さんは物語性の無い前衛的な作品を作るイメージがあったのですが、この作品はオーソドックスな作りとなっていました。

救いの無い悲惨な内容でありつつも所々にコミカルな箇所がありましたが、作家の狙った笑い所と演出家の狙った笑い所がずれている様に感じました。
日曜日の夕方をイメージさせるテレビ音楽を用いていたのは楽しいアイディアでしたが、その音楽に合わせて踊る演出は物語の流れを止めてしまっている様に思えました。逆に、笑える変な台詞があるのをあまり目立たせずに軽く流していたの様に感じました。

ソラマメ型の少し上がったステージ、上空に同じ形状のフレーム、奥の壁にはシーンによって角度を変えるグラフィカルな帯状のオブジェ、家族それぞれの動物の毛皮柄のクッションが80年代的雰囲気を醸し出していましたが内容との絡みが見えて来ず、勿体なく思いました。

父親を演じた荒谷清水さんは出番は短いものの、狂気に満ちた演技でインパクトがありました。

ケレヴェルム

ケレヴェルム

関かおり

シアタートラム(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★

想像力を刺激する静謐さ
無駄な要素の無いストイックなダンスで、時間や人体の間隔が融解して行く様な、観る人の想像に任せる作品でした。

男女とも明るいグレーのミニマルな衣装を身に付けたダンサーの居る場所だけがうっすら照らされ、音楽は一切用いずに数箇所で一瞬効果音が入るのみで、体と床が擦れる音や意図的に出す呼吸音のみという刺激の少ない環境の中、リズミカルだったり激しい動きは用いず、大半の時間で他人と接触するか床に寝た状態でゆっくり静かに動いて奇妙な姿を形作り、人間以外の様々な生物をイメージさせました。途中で照明を衣装に取り付けて密集するシーンでは深海生物が内側から発光しているようで美しかったです。
数分間のシーンが緩やかな暗転で終わると30秒程の間の後に緩やかな明転で次のシーンに入るパターンが80分間続くのは少々長過ぎると思いました。

視覚的・聴覚的に抑制されているところに嗅覚という通常の舞台芸術では用いられない要素の表現があって、ひんやりとした空気感をイメージさせる香りがユニークでした(暖かさを感じさせる香りも使用していたそうなのですが、そちらは分かりませんでした)。
液体が流れ出た様な輪郭の黒の鏡面の床がダンサーの姿を写し出し、空間の拡がりが感じられて印象的でした。

シフト

シフト

サンプル

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★

禍々しく滑稽な人達
チラシの晴れやかなビジュアルとは正反対の禍々しい雰囲気が濃厚な作品で、気持ち悪さのあまり逆に笑える内容でした。

結婚して妻の出身地である村に移り住んだ男が、その土地ならではの奇妙な風習に巻き込まれていく物語で、伝統に固執する人達の滑稽さがシュールな性的表現を多く盛り込みながら描かれていました。

様々な日用品や家電製品をビニールで包み天井から吊った美術が異界的雰囲気を生み出していて良かったです。対面式になっている客席の後方に横一列に並べられた人形の存在が、物語の中で語られる悲しい存在を象徴している様で不気味でかつ切なかったです。家の出入り口の表現も宗教的なものと性的なものを連想させて興味深かったです。

どの役者も良い意味で気持ち悪いキャラクターを怪演していて楽しかったです。特に男性陣の変人っぷりが強烈で、本人がシリアスになる程に奇妙さが際立つのが可笑しかったです。

演技や台詞が魅力的な場面が多かったのですが、全体に繋がっていく感覚が弱く、面白いディテールを並べている様に見えたのが勿体なく思いました。
近年の断片的な作風に比べると一貫した筋があって分かり易い内容でしたが、その分こじんまりとしていて独特の拡がりが感じられませんでした。

[新制作] 死の都

[新制作] 死の都

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/03/24 (月)公演終了

満足度★★★★

幻影
ベルギーのブルージュを舞台に、妻を亡くした男が現実と夢の間で思い悩む姿美しい音楽と美術で描いた作品でした。

妻の遺品を入れた箱(ハンス・メムリンクの『聖ウルスラ伝の聖遺物箱』を引用していました)や写真と赤いバラの花が大量に置かれた部屋に、妻そっくりの踊り子が訪れて心を惑わされるものの最後には現実を受け止める物語で、幻想的な展開が印象的でした。

元々の指定があるのか、このプロダクション独自の演出なのかは分かりませんが、黙役が演じる妻の幻影が常に舞台上に存在することによって、三角関係が明確となり分かり易かったです。妻の声が遠くから聞こえてくるシーン(実際には踊り子役がステージの外で歌い、妻役は口パク)が幻想的でした。
第2幕は本来は第1幕と異なる場所ですが、同じセットの中で演じられ、照明と背景で雰囲気を異ならせていたのが良かったです。

舞台美術が素晴らしく、ブルージュの街並みの航空写真に模型を組み合わせた背景がパースペクティブの消失点が散在していて、リアルでありながら非リアルな、空間が捩れた様な不思議な感覚がありました。

後にコルンゴルトがハリウッドで映画音楽の作曲家として活躍することを予感させる、ゴージャスで流麗な音楽が美しかったです。
主役を演じたトルステン・ケールさんはあまり調子が良くなかったのか、声量が弱く感じられる場面が多く、ラスト直前でも声がひっくり返っていまって少々残念でしたが、全体的には演奏も良かったです。

虚像の礎

虚像の礎

TRASHMASTERS

座・高円寺1(東京都)

2014/03/06 (木) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★

劇作家の力
政治、移民、戦争からドメスティック・バイオレンスまで、現代社会に見られる様々なスケールの問題を織り込んだ、考えさせられる内容でありつつ、さらに劇作家の存在意義についても意識させられる挑発的な要素もありました。

近未来の日本を思わせる世界が舞台で、人の価値は数値で判断され、隣の地域との争いが起きているという環境の中で「心の豊かさ」について悩む人々の姿が劇作家の男を中心に描かれていました。
多くの要素を物語に組み入れる手腕は素晴らしいと思いますが、盛り込み過ぎに感じられ少々技巧が鼻に付きました。

劇作家が自らを「心の専門家」と呼び、問題解決の糸口を与える特別な人物として描かれていて(モダニズム〜ポストモダニズムの名作家具が並ぶ舞台美術の中で、彼の部屋だけがクラシカルな家具だったのも象徴的でした )、作者の中津留さんの劇作家としての志しの強さと共に、自己賛美的な面も感じられ、釈然としない印象が残りましたが、当日パンフレットの文章を読むとその様な反応を見込んで作ったことが書いてあり、「虚構」に上手く乗せられてしまったのかもしれません。

役者達の演技がリアルで緊張感があるドラマに引き込まれましたが、映画や小説でも表現が出来る内容に感じられ、個人的には演劇という形式ならではの表現がもっとあっても良いと思いました。

ザ・ワールド

ザ・ワールド

大橋可也&ダンサーズ

森下スタジオ(東京都)

2014/03/08 (土) ~ 2014/03/09 (日)公演終了

満足度★★★★

まずはダンスパフォーマンス
江東区でのリサーチに基づくというものの、リサーチとパフォーマンスの間にあまり関連が見い出せませんでしたが、不思議な光景が繰り広げられる魅力的な作品でした。

女性が1人出て来て御輿を入れる倉庫についての話を始め、男が話を受け継いだ後に長い暗転となり、その後は終盤になるまで台詞は無く、ダンスのみ表現でした。
ダンスと入っても一般的にイメージする様な音楽に合わせて踊るシーンは無く、舞踏的な動きや日常動作をデフォルメした動きが多く、暴力的で性的な雰囲気がありました。取っ組み合いの様な動きや子供の遊びの様な動きが物語性をほんのりと感じさせるのが印象的でした。

前半は照明がナトリウムランプだけで色味の無い世界が広がり、次第にLEDランプの鮮やかな原色に移り変わり、中盤でようやく普通の色味が現れるときが新鮮でした。照明器具をわざと高い位置に吊り、空間にスチールトラスの影を拡散させたり、シーリングファン越しの光で昔の映画の様なちらつきを表現したりと、何も無い空間が様々な表情を見せるのが印象的でした。

リサーチに基づくインスタレーションやトークが今後続くとのことで、よりプロジェクトの形が明らかになって行くことが予想され、楽しみです。

化粧

化粧

こまつ座

紀伊國屋ホール(東京都)

2014/03/07 (金) ~ 2014/03/21 (金)公演終了

満足度★★★

大衆演劇と母へのエレジー
一人芝居という形式に必然性を持たせた仕掛けのある戯曲で、母親や大衆演劇に対するエレジー的なものを感じさせる作品でした。

取り壊し直前の劇場で公演の初日を迎える大衆演劇の劇団の女座長の楽屋に、我が子ながら育てられずに養子に出し、その後スターとして有名になった息子が楽屋に訪ねて来ることから始まる物語で、楽屋での光景とこれから演じようとする演目が重なって現実と虚構の境目が曖昧になって行くのが印象的でした。
あたかもそこに人が居る様に話し掛けたり相槌を打ったりするタイプの一人芝居で違和感を覚えたのですが、実はその形式が物語と密接に関係していて、一人芝居であることの意味が判明する終盤がスリリングで且つ物悲しかったです。
「2、3回の稽古で覚えられないなら新劇に行け」という様な台詞や、歌舞伎やシェイクスピアで死に際に延々と長台詞があることを茶化したりするのが楽しかったです。

終盤になるまでは意味がはっきりしない効果音や美術効果の入れ方の加減が良かったです。第2幕での化粧の仕方は説明的過ぎる様に思いました(戯曲でそう指定されているのかもしれませんが)。

70分の間、本番前の支度をしながら淀みなく台詞を喋り続けた平淑恵さんの演技は素晴らしかったのですが、役の設定からすると可愛らし過ぎて、もっとドスが効いた感じでも良いと思いました。

3月歌舞伎公演「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)-車引-」「處女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)-切られお富-」

3月歌舞伎公演「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)-車引-」「處女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)-切られお富-」

国立劇場

国立劇場 大劇場(東京都)

2014/03/03 (月) ~ 2014/03/26 (水)公演終了

満足度★★★

コンパクトで分かりやすい公演
有名な2作品の上演で、休憩込みで3時間15分程度と歌舞伎にしては短めの上演時間ということもあり、身構えずに楽しめる内容でした。

『菅原伝授手習鑑 車引』
敵味方の関係となっている三つ子の兄弟が出会う場面で、物語としてはほとんど進展の無い場面ですが、主要な登場人物が全員隈取をして見得を切る、豪壮な雰囲気が楽しかったです。梅王丸と桜丸を演じた若手の

『處女翫浮名横櫛 切られお富』
恋人の為に悪に手を染めて行く女の姿を描いた物語で、耳打ちする場面と善悪が反転する場面が多いのが印象的でした。全体的は少し平板に感じましたが、最後の立ち回りの場面で女形の切り口上で終わるのが新鮮でした。
投稿人物それぞれの性格がしっかり表現されていて魅力的でした。中村時蔵さんが演じたお富は凄みの中にもユーモラスな味があって、恋に邁進する女性らしい可愛らしさを感じました。坂東彌十郎さん演じる安蔵との掛け合いが良かったです。

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