満足度★★★
劇作家の力
政治、移民、戦争からドメスティック・バイオレンスまで、現代社会に見られる様々なスケールの問題を織り込んだ、考えさせられる内容でありつつ、さらに劇作家の存在意義についても意識させられる挑発的な要素もありました。
近未来の日本を思わせる世界が舞台で、人の価値は数値で判断され、隣の地域との争いが起きているという環境の中で「心の豊かさ」について悩む人々の姿が劇作家の男を中心に描かれていました。
多くの要素を物語に組み入れる手腕は素晴らしいと思いますが、盛り込み過ぎに感じられ少々技巧が鼻に付きました。
劇作家が自らを「心の専門家」と呼び、問題解決の糸口を与える特別な人物として描かれていて(モダニズム〜ポストモダニズムの名作家具が並ぶ舞台美術の中で、彼の部屋だけがクラシカルな家具だったのも象徴的でした )、作者の中津留さんの劇作家としての志しの強さと共に、自己賛美的な面も感じられ、釈然としない印象が残りましたが、当日パンフレットの文章を読むとその様な反応を見込んで作ったことが書いてあり、「虚構」に上手く乗せられてしまったのかもしれません。
役者達の演技がリアルで緊張感があるドラマに引き込まれましたが、映画や小説でも表現が出来る内容に感じられ、個人的には演劇という形式ならではの表現がもっとあっても良いと思いました。