ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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もはやしずか

もはやしずか

アミューズ

シアタートラム(東京都)

2022/04/02 (土) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

主演の橋本淳氏、た組の『在庫に限りはありますが』の妻に不倫されるハンバーグ店店主が印象深いが、今回は全く別のキャラに。自閉スペクトラム症の弟の事故をトラウマに抱え、大人になり結婚した今もずっと引きずっている。
妊活に励むその妻、黒木華さん。この当代随一の天才女優の内面はぽっかりと口を開けた暗いがらんどうのよう(偏見)。昔『黒い家』と云う映画のキャッチコピーに使われた「この人間には心がない」の文句を思い出す。ニコニコ笑う彼女との暮らしはゾッとする。
主人公の母親役、安達祐実さんも負けてはいない。この二人の怒鳴り合いが見てみたかった。これだけキャリアを積んでもイメージとしては若手女優。
主人公の父親役、平原テツ氏は珍しくまともな人間像だがクライマックスで見せ場あり。
黒木華さんの妹役、天野はなさんは見事なキャスティング。何となく同じ雰囲気を纏っている。
上田遥さんも抜群のキャスティングで、本物か?と思った。こういうキャラをこのタイミングで放り込むセンスが図抜けている。
個人的MVPは藤谷理子さん、児童発達支援センター、療育園(?)の研究生。菅野美穂のモノマネをする高田紗千子(梅小鉢)に喋り方がそっくり。人をムカつかせる天才で、クライマックスの安達祐実さんとのバトルは語り草。このシーンだけでも観る価値充分。かなりこの役に手応えがあったのでは?

作者はピンボールのように跳ね回る女性の感情の描き方が絶品。一度感情のスイッチが入ると全く論理的な会話にならず、無駄な遣り取りが途方に暮れる程延々と続く。周囲の女性の嫌な面を逐一メモっているかのような人間観察。

かなり面白い脚本。
子供時代、障害児の弟の事故がトラウマになっている主人公。妊娠した妻が出生前診断で障害児の確率50%と聞かされる。動揺し困惑しどうにか妻を説得しようとするが・・・。

ネタバレBOX

藤谷理子さんVS安達祐実さん&平原テツ氏のバトルが最高。子供を事故で失った遺族の家を訪ねてきて、遺族の心のケアの会へ勧誘。その無神経な物言いにブチ切れた二人、平原氏は彼女を包丁でぶっ殺そうとする。ストレスから異物を口にするようになった橋本淳氏は、その修羅場に我関せずでスティック糊をパクパク食べる。この青い糊がういろうみたいで美味しそう。

ここから時間は飛んで、離婚して一人暮らしになった橋本淳氏がデリヘルを呼んでいる。そこにいきなり押し掛けるのは別れた妻と自分の両親。左肩に薔薇のTATTOOの務所帰りのデリヘル嬢。逃げられない状況。一体何の話なのか判りゃしないギャグ。観客大受け。

産まれた子供に障害がなかったことから、今更よりを戻そうとする黒木華さん。スマホの赤ちゃんの写真を見せようと。
泣きながら弟の事故死のトラウマを吐露し、自分に子供を育てていく自信がないことを言葉を尽くして伝えようとする橋本淳氏。「いつまでも過去に拘っていては・・・」と両親は復縁を後押し。多分この流れに押し切られて行くんだなあ、と観客は思う。そこにベランダの窓と対面の壁の上部から滴り落ちる大量の血。これは幻影なのか、それとも暗示なのだろうか?

ラストの話のまとめ方に逡巡したような停滞。何か違う。デリヘル嬢の上田遥さんも同席していた方が良かった。そして彼女に最終的なジャッジが委ねられるような。
ツインテールドールハウス

ツインテールドールハウス

四日目四回目

北池袋 新生館シアター(東京都)

2022/04/08 (金) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

この作家、こじらせてるな。大林宣彦とか『台風クラブ』とか、観た筈なんだが全く思い出せないあの辺の自意識暴走映画の数々。自主映画の与太っているあの感じ。それと共に松竹の誰にも評価されなかったが、観た人間の記憶深くにこびり付いた無名映画なんかの味わいも。特に何の説明もなく突き放される感覚が逆に心地良い。

主演の“金曜日のアイ”さんは『翔んで埼玉』の二階堂ふみ似。自信過剰で何でも出来る。
お嬢様役水落燈李さんは写真の撮られ方がエロい。(撮る撮られるは一方的な物だからエロスが成立するのか)。
親友役は「ラビット番長」の鈴木彩愛(あやめ)さん。
優等生役は井澤佳奈さん、ピアノは弾いているのか?
カメラでしか他者と関われない自主映画顔の越石裕貴(こしいしひろき)氏が最高。こういうキャラの出現で男性客はホッとする。西海渡と云う名前であだ名はマゼラン。秀逸。
誰も彼もが無意識のうちに何かに追い詰められて苦しんでいる。

話は越石氏に撮影のモデルを依頼されたアイさん。その様子を覗き見ていた水楽さんもモデルを頼まれる。ツインテールのロリータ・ファッション。そこで事件が・・・。
脇を固める鈴木さんと井澤さんが巧い。

ネタバレBOX

水楽さんは撮影終了後固まってしまい人形化。実家に電話すると「あの娘そういうとこがあるから。どんな形であれ幸せそうならそれでいい。」と突き放される。
アイさんは自宅に連れて帰ってずっと世話をすることに。
ある時彼女のおさげを解くと、彼女は動き出し御礼を言って帰宅していく。
ラストは彼女の屋敷の庭園で行われている桜の会を訪ねて行き二人は再会する。

レオス・カラックスの『ポーラX』と云う映画があって主人公は“真実”を文学にしようともがき苦しむ。そして最後に到頭気付いてしまう。偽物の自分が“真実”だと思って手を伸ばしていたものもまた偽物でしかないことを。「偽物の自分には偽物しか手に入らない」。
人間の永遠のテーマである「自分と他人」。この病をこじらせていって欲しい。
そのあとの教員室

そのあとの教員室

enji

吉祥寺シアター(東京都)

2022/04/08 (金) ~ 2022/04/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

舞台美術が見事、しみじみと見てしまう。市川崑映画のように小道具から凝りに凝りまくっている。音響もかなり練られていて雨漏りの音からぐっと来る。戦後まもなくの時代の雰囲気を巧く表現。
舞台は教員室、GHQ主導による教職追放が行なわれ、軍国主義思想を持つとされた教師達は排斥に。そこに現れたGHQの女性、戦時中のこの学校の教育がどのようなものだったか、教師一人ひとりに己の責任を追求していく。

御真影(昭和天皇の肖像写真)。
奉安殿(御真影や教育勅語を安置する為に学校に置かれた社のようなもの)。

千代延(ちよのぶ)憲治氏 グアム島からの帰還兵の教師。骨の髄までガチガチの帝国軍人。
鈴木浩之氏 怪優伊藤雄之助っぽい前教頭、職を奪われることに。戦時中から天皇崇拝の教育に批判的だった。
松山尚子(ひさこ)さん 敗戦後、すぐ米軍に寝返って愛人になった女教師。
足立学(がく)氏 新教頭であり、松笠(マッカーサー)なんて名前のギャグも。
紗織さん 善人っぽい若い女教師。
蜂谷英昭氏 若い女教師の婚約者。
永井博章氏 亀田親父似の大工。英語ペラペラで有能。
家納ジュンコさん 日本人ながらアメリカ人の養女になったGHQの教育改革の責任者の一人。

前半はどれだけ歪んだ教育で子供達を洗脳してきたかを突き付けていく。生徒達から調査収集した声が教師の罪を糾弾する緊迫感。糾弾された紗織さんのエピソードが素晴らしい。千代延憲治氏が逆に米国の教育の罪を糾弾するシーンにも観客は固唾を呑んだ。
後半は探偵物調にシフトチェンジ。語られるテーマは重い。
崇拝する錦の御旗が“天皇”から“民主主義”になっただけで、権力と同調圧力に屈することには何の変わりもないのだ。

ネタバレBOX

生徒への調査による回答用紙は紗織さんを糾弾する。「戦時中、何か事ある度にビンタをされた」と。罪の意識に泣く紗織さんは「教師を辞める」と口にする。だが生徒の文章はこう続く。「今後教えて貰いたい教師は?」「先生(紗織さん)です」。

千代延憲治氏は家納ジュンコさんを糾弾する。空襲で日本の何の罪もない故郷の村を焼き払い人々を殺戮した罪、原爆を落として無差別大量虐殺をした罪。「米兵をそう教育した貴女の罪は裁かれないのか?」と。ここのシーンが今作の一つのクライマックス。

演出が固い。教員室を覗き見ている子供達なんかを配置して多角的に攻めても面白い題材。視点がもう一つあると構図が立体的になる。自殺した教員の肉声が聴きたかった。事件の真相が天皇崇拝思想の核心を抉るものであって欲しかった。
「流れる」と「光環(コロナ)」

「流れる」と「光環(コロナ)」

劇団あはひ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/04/03 (日) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『流れる』

高尚で難解なスカした会話の応酬で観に来たことを後悔させる、批評家狙いの張りぼて作品ではない。能の『隅田川』だとかほぼ一切関係ない。鈴木清順やキアロスタミ(『風が吹くまま』)、ATG映画なんかの手触り。奇妙だが心地良い世界。台詞が断トツに秀でている、ギャグ満載の絶妙な遣り取りの会話劇。
「ああ え? は そう はあ そうか」。

予備知識として『鉄腕アトム』の設定だけ知っておいた方が良い。科学省長官であり天才科学者の天馬博士の息子、飛雄が交通事故死。彼は息子そっくりのロボット、アトムを作るもやはり息子の代わりにはならず、ロボットサーカスに売り飛ばしてしまう。

松尾芭蕉役上村(かみむら)聡氏、鈴木浩介の雰囲気で何処かロンブーの淳っぽくも見える。目を大きく見開いて唖然とするアメリカンなリアクションに観客もどっと受ける。とにかく自然な口調がジャズのベースのよう。
河合曾良(そら)役中村亮太氏、その辺の大学生そのまんま。リアルで憎めないキャラ。
謎めいた女役鶴田理紗さん、乗船券の売り切れた渡し船に乗りたがる。何を思っているのか皆目見当が付かない。
天馬博士役踊り子ありさん、『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』で演じた鮮烈なヒロインが記憶に新しい。会話の受けが見事。
アトム役古瀬リナオさん、148cm でまさに子供のよう。歩き方、動作、会話がロボットそのもので目を奪われる。この役は難しい。

話は旅に出ようと船を待つ芭蕉と曾良が喫煙所にいるとチケットを探す女が現れる。向こう岸では慰霊祭、船はなかなか出航しない。

かなり面白かったのでもう一本の『光環(コロナ)』も観たかった。何の先入観も持たず目の前の遣り取りを味わった方が楽しめる。取り留めのない会話と間だけでこの空間に魔法をかけてみせた。

ネタバレBOX

隅田川で数年前、天馬博士の息子、飛雄が水難事故で死亡。去年また男の子が溺れて亡くなったが見付かった遺品には「トビオ」と書かれてあった。しかも誰も遺族は名乗り出て来ない。そこで地元の住民は慰霊碑を建て慰霊祭を毎年やることに。天馬博士は「もう二度とこんな事が起こらないように」と、飛雄そっくりのロボット、アトムを創造。水難救助の任を与え渡し船に乗せて警備を行わせている。そして自ら船頭として船に搭乗。天馬博士は妻が亡くなってから髪を伸ばし、一見女性に見える。
アトムはお母さんを探し続けている。飛雄の記憶なのか?存在しない幻を追い求めているのか?
謎の女は「一年前に死んだ子供は自分の子だ」と言う。

推論として、飛雄の死に哀しみ母親も早世。母親を待つ飛雄は亡霊としてもう一度水死を繰り返す。それを知った母親の亡霊が慰霊に向かう。(全く違うかも)。

松尾芭蕉とかアトムの記号が強すぎて、物語の邪魔をしている感も。普通に妙な余韻の残るちょっと不思議な話で良かったような。何の意味もない普通の会話だけでこれだけ面白いとは。受け答えと間、松尾芭蕉以外の内面が全く見えない設定の面白さか?
LAST RENTAL VIDEO

LAST RENTAL VIDEO

!ll nut up fam

萬劇場(東京都)

2022/04/06 (水) ~ 2022/04/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『トイ・ストーリー』や『シュガー・ラッシュ』風味で『ラスト・アクション・ヒーロー』なんかも思い出す。

寂れたレンタルビデオ店、常連客のカップル(奥田龍平氏と熊手萌〈めぐみ〉さん)が週一で借りに来るぐらい。映画大好きな奥田氏は夢中になって作品を選び、大好きな奴は何度も借りる程。そんな男に付き合わされて、ワンカップ大関片手に斜に構えた熊手さん。けれど再生ボタンを押せば二人が部屋で眺めるレンタルDVDは虚構のマジックで世界を塗り替えてくれる。

閉店後の店では借りられなかったDVD達が思い思いの鬱憤を吐き出している。
藤代海(ふじしろかい)氏、アメコミ映画のスーパーヒーロー。やたらカッコイイ。
椎名亜音さん、無視されまくるコメディ映画ヒロイン。
松岡里奈さん、ヘイトを買いまくるミュージカル映画ヒロイン。歌が場にそぐわない程巧い。
緑川良介氏、探偵映画の知的な主人公。
小島ことり氏、魔法ファンタジー映画の主人公。

他にも、怪獣ヤクザホラーダンスお姫様冒険戦争サムライアクション・・・、ありとあらゆる映画が借りられるその日を待ち望んでいる。
借りて観て貰えないと何も始まらない存在、何年も見向きもされない日々に嫌気が差し、それぞれ現状を打破せんと策を講ずるが・・・。

映画愛に満ち溢れた逸品。奥田熊手カップルを観ているだけで幸せな気分。今作のアイディアは抜群で、何かの拍子にディズニーに目が止まってDisney+の配信作品なんかに声が掛かったら面白い。脚本の奥行きは深く、映画マニアならニヤニヤする筈。キャストはやたら豪華でサービス抜群、お薦め。

ネタバレBOX

店を脱走しようとする一団は大通りの交通量の激しさに討ち死に。緑川良介氏率いるグループは他の作品を殺して自分達のレンタル率を上げようと企む。

敢えて文句を付けるなら、後半の展開がイマイチで、緑川氏の行動に哲学がない。『ブレードランナー』のルドガー・ハウアーのように神々しくカリスマとして描くべき。全てを無意味だと理解してもこれをやらなくてはならなかったのだ、と。

みんなに呆れられる脳天気なミュージカル映画、松岡里奈さんをカップルが観賞。この下りを伏線として虚構と現実の垣根を揺さぶって欲しかった。彼女の映画に心揺さぶられるカップル。DVD界の物語と現実世界の物語を同時進行させてクライマックスに混合させカタストロフィを。
もう少し短くシェイプしてスタンダードな作品に刈り込みたい。
海街diary

海街diary

“STRAYDOG”

シアターサンモール(東京都)

2022/03/30 (水) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

当時、映画は観た。綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず四姉妹に母親役は大竹しのぶ。広瀬すずのイメージ・フィルムみたいな感じの記憶。(是枝裕和監督はアイドルの箔付けみたいな仕事ばかりやっている印象)。
今回の舞台は、花奈澪さん、須藤茉麻さん、後藤萌咲(もえ)さん、KANOさん四姉妹に母親役は芳本美代子さん。キャスティングが絶妙で、その時点で勝ちは見えている。
花奈澪ファン感謝祭を思わせるようなコスプレ祭り。喪服、ナース服、チアガール、浴衣・・・。ますます綺麗になっているように見えた。更にファンは増えるだろう。須藤茉麻さんはナイスバディを仕上げてサバサバ系女子を好演。後藤萌咲さんが自然で驚く程良かった。わざとらしさがない。KANOさんは高畑充希っぽく手堅い。いつの間にやら渋い助演女優になっていた、みっちょんも見せ場を作る。
特筆すべきはカマドウマの存在で、話の進行が停滞し行き詰まるタイミングで発生。このアイディアとセンスが森岡利行監督の真骨頂。「ああ、そんな手があったか?」と同業者は感嘆する筈。ここを思い付くのと付かないのとは雲泥の差。
姉妹ユニット『Les.R』(レ・アール)の生演奏が舞台上段で奏でられ見事。ドジ看護師アライ役の高野渚さんが観客を泣かせる名シーンを披露。この人、やるな。

父親が浮気から離婚、ニ年後母親も男を作り、祖母に子供達を押し付けて出て行った。母親代わりとなった長女花奈澪さんは看護師となって鎌倉の広く古い屋敷を切り盛りする。次女の須藤茉麻さんは信用金庫に勤めるも恋愛依存症体質、三女の後藤萌咲さんは勤務先の店長とデキている。ある日出て行った父親の訃報が届く。身寄りのなくなった再婚相手の娘、KANOさんを四女として引き取る事にする花奈澪さんだったが・・・。

大阪公演もあるのでお薦め。映画を観ておいた方が更に楽しめるかも。花奈澪さんの演技は本当に素晴らしい。

ネタバレBOX

KANOさんが完全無欠のスーパー美少女なのが勿体無い。家族と故郷を失い、見知らぬ他人との同居生活の日々に戸惑い孤独を噛み締めつつも、いつの日にかこここそが自分自身の生きる場所だったと気が付く過程が重要。彼女のエピソードが情報の羅列で余り意味を為さない。

『リトル・フォレスト』もこの流れで舞台化出来そう。(韓国版の方が良い)。
STRAYDOGは階戸瑠李さんが亡くなってから、久し振りに観た。
ながいながいアマビエのはなし

ながいながいアマビエのはなし

劇団 枕返し

小劇場メルシアーク神楽坂(東京都)

2022/03/31 (木) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前SEで繰り返された槇原敬之の『PENGUIN』がめちゃくちゃ良い曲。開幕するとこの曲を使う意味が解けた。
「人生大逆転ツアー」と銘打ったバスツアーの参加者達。車の故障の為、下車すると深い森が眼前に広がっている。森に行ってみようとする者達とそれを拒否する者達に分かれる。そこに現れるのが皆さんお待ちかねアマビエ兄妹。人間大のペンギンの姿形に河童のルックス。驚愕した残りの皆も森へと走って行くのだが・・・。

アマビエとは江戸時代(1846年5月)熊本県の海に出現した謎の妖怪。夜ごと海に怪異な光が発生、役人が小舟で調査に赴いた処、人語を解する化物が出現。「今年より六年の間、豊作が続くが同時に疫病も発生す。私の姿を描き写し、その絵を人々に見せよ。」とのお告げ。絵心のない役人は海上でせっせとアマビエをデッサン。その絵を江戸に送った。数度の清書の段階でアマビコがアマビエになった説もある。
全国民に見せるべく、絵なんてろくに描けない男が代表してアマビエを描かせられる災難。「何で俺が・・・?」と身の不運を呪ったことだろう。その苦渋のアマビエの絵が200年近く経ってブレイクする面白さ。多分本物は全くこんなんじゃなかった筈。

今回のコロナ騒動でマニアック妖怪アマビエが大注目。妖怪掛け軸専門店の「大蛇堂(おろちどう)」のツイートから、このブームが始まったとされる。アマビエの絵を掲げることでコロナの災厄から逃れようと。

御利益があるかも知れないので、是非アマビエを拝みに足を運んでみては如何だろうか。

ネタバレBOX

アマビエが伝える疫病はコロナ、しかし皆もうとっくにそんなものにうんざりしている。森から出ようとする人達に対し、アマビエは個々の記憶のイメージを弄って訴え掛ける。「ここから出てはいけないのだ」と。子供の頃の鬼ごっこ、未だに「もういいよ」と言われるのを待ち続ける男。サウナに入ったが、出るタイミングが分からずずっと我慢する男。新婚3ヶ月で離婚を切り出された男。騙されて多額の借金を抱えた女・・・。
話の途中で放り投げたように物語は終わる。

「人生大逆転ツアー」がそもそも何をやろうとしていたのか意味不明。もう安易に「自殺ツアー」でよかったのでは。そこに偶然居合わせた離婚した夫婦を話の核にして、死にたいのにコロナに怯えてマスクをする面々の矛盾。アマビエとの出逢いで森を出る男と最後まで出ない女。

「たぶん君と僕とじゃ行けない場所が、二人の行かなきゃいけない場所」と槇原敬之は歌っていた。
彼女たちの断片

彼女たちの断片

東京演劇アンサンブル

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

私の体は私のもので、他の誰のものでもない。

大学生仙石貴久江さん(初音ミク調の髪色)が推しとのセックスで妊娠。友人の永野愛理さんに相談するとネットで色々と調べてくれる。
日本ではまだ認可されていない経口中絶薬(Women on Webと云うカナダの非営利団体が世界中の女性達の安全な墮胎を支援する為安価でネット販売)を使うことに。
かなりの出血を伴う人工流産の為、永野さんの母(原口久美子さん)の友人(洪美玉〈ほんみお〉さん)が家を貸してくれて泊まることに。
その夜、その家に集まった女達の抱えてきた痛みを大きな真白なシーツのような優しさが包み込む。

友人の山﨑智子さんの歌うオリジナル曲が素晴らしい。沖縄民謡調のこぶしが効いている。
その家の家主である志賀澤子さんと常連の喫茶店店員、奈須弘子さんの語るエピソードも印象的。最早文学だ。珠玉の連作短編集を読んでいる感覚。

これこそ女性監督が映画化してTOHOシネマズシャンテなんかで上映するべき題材。連日女性が押し掛けムーヴメントになることだろう。今作を必要としている女性は無数にいる。
こらえ切れなかった痛みとそれをねぎらう優しさが空間に満ち満ちてゆく。どんなに言葉を尽くしても誰にも判って貰えなかった苦しみを、自身の痛みとして受け止め抱き締めてくれる人達との出逢い。そりゃ演者も観客も皆泣く。頬を伝う涙で気付くのは、誰かに分かって欲しかった自分。

作者の石原燃さんは太宰治の孫!
必ず再演されるだろうから、必見。

ネタバレBOX

家父長制と云う言葉がいかめしく古臭い。もっと別の言い換えが出来ないものか?本当に今作を観るべきは十代の少女達だと思う。TikTokに夢中な彼女達に伝える言語を模索しなくてはならない。フェミニズムが本当に日本で覚醒する為には、男社会の間違った価値観に支配誘導されていることを気付かせないといけない。そしてそんな価値観は如何様にも変えられることを伝えないといけない。

寝室で仙石貴久江さんと語る永野愛理さん、大きな壁面に彼女の姿が大写しにされるLIVE的な演出。リアルタイムで撮影されたものを映し出している。効果的で良い。
永野愛理さんにカリスマ性すら感じた。彼女の語り口なら話を聴いてみようと思う人も多いのでは。
洪美玉さんに非常に見覚えがあるのだが、思い出せなかった。志賀澤子さんが堕胎と日本の歴史を滔々と語る部分の演出が余り好きじゃない。作品内に巧く忍ばせて欲しかった。
彷徨いピエログリフ

彷徨いピエログリフ

9-States

駅前劇場(東京都)

2022/03/25 (金) ~ 2022/03/28 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

オンラインでネットニュースの配信を行っている会社。新人記者の松木わかはさんは“誰か”の為になる記事を書くことを志しているも、編集長の小池首領(どん)氏には相手にされない。有能な先輩、瀬畠淳氏(少し橋下徹似)に教えを請うことに。そんな時、会社に15年前の記事の訂正を求めて青年(西田アツヒコ氏)が押し掛けてくる。それは編集長が書いた、轢き逃げを起こした警察官が飲酒運転だったと云う記事。当時大々的なニュースとなり、飲酒運転の厳罰化に世論を誘導することとなった。

ステージの上部、上手と下手に一台ずつモニターが設置されており、暗転の折に詩的なモノローグが流れる。『正義とは果たして何なのか?』がテーマ。かなり根源的なものに踏み込んでいる為、観客一人ひとり自分の半生を振り返って自問自答するような作品。タイトルの「ピエログリフ」とは「ピエロ」(道化師)と「ヒエログリフ」(長年解読されなかった古代エジプトの象形文字)を組み合わせた造語であろう。

先輩記者役、浅賀誠大氏がコメディ・リリーフで大活躍。グルメライター役の板野こっこさんは『ちーちゃな世界』が印象的だったが、今回も面白い。ゴシップ記者役森山太氏はリアルな価値観で観念的な青臭い感覚など物ともしない強さを。こういう現実的な人間を登場させることにより、地に足の着いた話に。絵空事の正義ごっこではない。

作家の脳細胞内に入り込み、観念の迷宮を彷徨うような体験。正義について延々と考えさせられる。果たして松木わかはさんは自身を肯定することが出来るのだろうか?お薦め。

ネタバレBOX

この世の正義とは「関係性と感情移入」だと自分は思っている。ある事件が起こったとして、加害者と被害者、どちらと関係性が強いか、どちらの立場に感情移入し易いか。人は自分と関係性が強く、感情移入出来る方の味方に付く。それは習性だ。

九龍町の工場排水のくだりはもっと丁寧にやって欲しかった。『排水=汚染=悪』の構図が、別角度から見れば意味が全く逆転してしまい主人公が絶句する。(原発誘致と同じ)。正義は人の数だけ存在することを知り、自分を見失う大切なエピソード。ちょっとこの描き方では判り辛い。
音楽の使い方がTVドラマっぽく下手。(観客の感情の誘導を直接的に促す系) 。
事件の真相は飲酒運転でよかったと思う。台風も被害者の痴呆、徘徊癖も要らない。一切逃げ場も無く、飲酒を隠す為の轢き逃げ逃亡が真相でよかった。それでこそ人間の物語。その上で水野絵理奈さんを救済に導く方法を模索するべき。瀬畠淳氏が祖父の復讐の為に写真を偽造するのはおかしい。

帰り道、青山真治が死んだニュースを知り、彼の映画『EUREKA/ユリイカ』を思い出す。バスジャック事件に巻き込まれ心に傷を抱えた幼い兄妹を乗せて九州を旅するバス運転手・役所広司の話。行く先々で殺人事件が起こり、犯人は中学生の兄だった。警察に捕まった彼のことを斉藤陽一郎が語る。「まあ、あいつにとってはこれはこれで良かったのかもな」。そこで突然ブチ切れた役所広司は斉藤陽一郎をボコボコにする。「これで良かった訳がねえだろう!俺は認めんぞ!断じてそんなことは認めんぞ!」。このシーンが鮮烈で青山真治の肉声を聴いた気がした。正しかろうが間違っていようが、俺は断じて認めん。この世の条理を司る神がいたとして、そいつを引き摺り降ろしてでもこの世を正してやる。その瞬間の自身の本能を全肯定する熱情、ロゴスをパトスが一瞬で破壊する刹那。そんな光景に人間は打ち震える。重要なのは正しさではなく、「これは間違っている」と感じた心。正しさを選ぶのではなく、間違ったものを排除していくこと。
耳があるなら蒼に聞け・ハンズアップ2022

耳があるなら蒼に聞け・ハンズアップ2022

企画演劇集団ボクラ団義

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2022/03/19 (土) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『耳があるなら蒼に聞け~龍馬と十四人の志士~』

坂本龍馬を殺したのは一体誰なのか?慶応三年十一月十五日(1867年12月10日)、京都の近江屋にて暗殺された坂本龍馬(沖野晃司氏)と中岡慎太郎(大神拓哉氏)。『ハロー張りネズミ』の一篇を思い起こすようなミステリー。
1870年2月、箱館戦争にて捕らえられた元京都見廻組・今井信郎〈のぶお〉(竹内尚文氏)のもとに板垣退助(今井孝祐氏)と謎の女(森岡悠さん)が現れる。「誰が坂本龍馬を斬ったのか?」。今井信郎は「その日現場に居て全てを見ていた」と語り出す。そこで彼が見た事実とは日本の歴史が引っ繰り返るような驚愕の光景・・・。

緑谷紅遥さんが可愛かった。

ネタバレBOX

話は興味深いのだが登場人物が多過ぎて回りくどく長い。タイトルは龍馬暗殺の汚名を着せられることとなる新選組について龍馬が嘆くもの。非常に解りにくい。新選組側からも一人語り手を立てるべきだった。
『サロメ奇譚』

『サロメ奇譚』

梅田芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/03/21 (月) ~ 2022/03/31 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

朝海ひかるさんの芸能生活30周年記念作品、去年年末結婚もされたので長年のファンからは祝福の舞台となった。とにかくこの人のファンは幸せで、未だに女学生のようなサロメ(設定では32歳)が雷に打たれたような恋に身を震わせ、下着姿でバレエを舞う姿に見惚れることが出来る。どんな役でも成立させてしまうこの天才女優は内面から染み出した心のかたちが姿形を段々と覆っていくよう。元宝塚男役トップスターから、近年は井上ひさしの戯曲に多く出演。喜劇からシリアスから作品に準じて初めからそんな人だったように存在する。

新約聖書の『マルコによる福音書』に記されている実話がモチーフ。イエス・キリストに洗礼を授けた洗礼者ヨハネ(ヨカナーン〈ヘブライ語〉)は後に救世主の到来を告げた“先駆者”と呼ばれることとなる預言者。古代パレスチナの領主ヘロデ王の妃ヘロディアを非難した罪で獄に繋がれた。妃の娘、サロメが宴の席での見事な舞踏の報酬として彼の首を所望する。
この逸話を19世紀フランス、耽美主義文学者オスカー・ワイルドが戯曲化。そのドイツ語訳をリヒャルト・シュトラウスが曲を付けオペラ化。世紀末芸術として喝采を浴びた。

更に今作は舞台を現代日本に翻案。風俗王と呼ばれる悪趣味な社長(ベンガル氏)、その妻(松永玲子さん)、娘のサロメ(朝海ひかるさん)、忠実な側近(東谷英人氏)、落ち目の幹部(萩原亮介氏)、チャラい若手社員(伊藤壮太郎氏)、そして謎めいた預言者ヨカナーン(牧島輝氏)。
かなり喜劇風味、現役JKのような妄想に塗れたサロメの純愛がおかしくて哀しい。

ネタバレBOX

「ヨカナーン、お前の唇にキスをするよ」、好きな男とキスがしたかっただけの話で他には何もない。自分はその純粋なる偶像崇拝の空虚さが好きで、何処まで行っても世界には自分一人しかいない感覚。朝海ひかるさんのルックスに合っている。

朝海ひかるさんの独り芝居でも成立するもので、他の俳優は書き割りのよう(多分意図的)。そこに不満を抱く人もいるだろう。もっとちょこちょこ弄れば今後どんどん面白くなっていく要素がある。

これを月船さららさんならどう料理するか?なんてことを考えて観ていた。
耳があるなら蒼に聞け・ハンズアップ2022

耳があるなら蒼に聞け・ハンズアップ2022

企画演劇集団ボクラ団義

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2022/03/19 (土) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

3/27(日)を持って無期限活動休止になる『ボクラ団義』の暫定最終公演、日替わり二本立て。
『ハンズアップ2022』

海辺の洋館、登場人物達は気付くとそこに居て強制的にデス・ゲームに参加させられる。全員一部の記憶に靄が懸かっており何かを忘れさせられている。落ちぶれた人気アイドル(平山空さん)とマネージャー(高橋雄一氏)、親友を殺してしまったボクサー(沖野晃司氏)、声の出なくなったヴォーカル(田中彪〈ひょうが〉氏)、リズムを刻めなくなったベーシスト(毎熊〈まいぐま〉宏介氏)・・・。少し、映画『人狼ゲーム』シリーズに似た設定。

ネタバレBOX

沖野晃司氏がボクサーの肉体に作り上げてきて精悍。平山空さんは松浦亜弥を彷彿とさせるアイドルムーヴ。片山陽加さんはベリーショートに。ヒールの外科医役友常(ともつね)勇気氏が物語を回していく。虚言癖の病に取り憑かれている緑谷紅遥(くれは)さんが可愛かった。

『ボクラ団義』、ざっと数えて今まで9本観ていた。なんだかんだ楽しませて貰ってきた。独特な設定に無理のある流れ、やたら説明口調で押し切る展開・・・、いやそれも含めて好きだった。地に足の付いた作劇では辿り着けない地平へと、思い切り跳んだダイナミズム。70年代東映のプログラム・ピクチャーを思わせるアイディア満点、出来赤点の強味。(悪口ではなく褒めている)。結局、深作欣二なんかもそうだけど狂熱のシーズンがあって、熱にうなされて闇雲に何かに手を伸ばした日々。碌な作品は残っていないのだけれどあの頃のような熱情に滾る馬鹿げた作品はもう二度と作れやしない。理性や計算で賄えるものではとてもなかった。今になってみればどうやって創ったのかも分かりゃしない。それはまるで『一瞬の夏』のような煌めき。
久保田唱氏作品へのシンパシーは、藤子・F・不二雄(藤本弘)マインドを根底に感じるからだと思う。
赤き方舟

赤き方舟

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2022/03/19 (土) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

重信房子、遠山美枝子、永田洋子、森恒夫、坂東國男、坂口弘。今作は彼等を知っている人も全く知らない人にも意図が判り辛い作品。知らない人を切り捨てるか、知らない人に向けて丁寧に作るかどっちかに振り切るしかなかった。今年5月重信房子が出所するとの事でそれに合わせて作ったのだろうと勝手に思い込んでいた。連合赤軍は出尽くしているが、日本赤軍や東アジア反日武装戦線”狼“”大地の牙“”さそり“は物語にし辛い。重信房子の人生を通して日本の思想史を描くのではないかと。

女性3人は黒いヒジャブで顔を隠しており、登場の時まで誰だか分からない。まずは重信房子(前澤里紅〈りく〉さん)、次に遠山美枝子(吉水雪乃さん)。こうなるとラストは永田洋子(増田さくらさん)しかいない。また、この話か・・・。
重信房子と遠山美枝子が出逢い親友になる。海外拠点を作る為重信はパレスチナに、遠山は山岳ベースでの合同軍事訓練に参加。これが今生の別れとなった。

吉水雪乃さんが偉く可愛かった。森恒夫役の山村鉄平氏の演説がド迫力。永田洋子(ひろこ)の役をやると何故か女優は生き生きする。女性のある種のピカレスク・ヒロインの元型なのかも。

ネタバレBOX

とにかく描き方が中途半端。若い子からすると、何が何やらだろう。こんな端折るなら、もっと焦点を絞った方がいい。

事件の全容を知りたかったら、若松孝二の映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程〈みち〉』か山本直樹の漫画『レッド』がお薦め。冬の雪山で2ヶ月で12人の同志をリンチで殺した共産主義の理想に燃えるインテリ達のお話。この事件の衝撃で日本の新左翼運動への大衆のイメージが決定的に変わった。
海外に拠点を移した重信房子達『日本赤軍』は、 イスラエルのテルアビブ空港乱射事件、ハイジャックや大使館占拠事件を繰り返した。

遠山美枝子役は高橋かおりや坂井真紀など美人女優が演るのが通例となっているが、実際は仲間内から『おばさん』と呼ばれるような感じの人だったそうだ。
山岳ベースで起こったことについては大塚英志の『「彼女たち」の連合赤軍 サブカルチャーと戦後民主主義』が評論としてずば抜けて面白い。永田洋子は獄死するのだが、『瀬戸内寂聴・永田洋子往復書簡―愛と命の淵に』なんて本もある。全くイメージと違ってちょっと天然の無邪気な人っぽい。
マリーバードランド

マリーバードランド

やみ・あがりシアター

北とぴあ ペガサスホール(東京都)

2022/03/17 (木) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

南極大陸の西部にある地域、無主地(どの国にも属していない)のマリーバードランド。そこを結婚式の新名所にしようとブライダルプランナー会社とツアープランナー会社が手を組んだ。それぞれの社の男女の結婚式をそこで大々的にやり、結婚情報誌で特集を組んで貰う社運を賭けた一大プロジェクト。氷原のペンギンの大地で一生に一度の思い出を。結婚式会社からは新郎の川上献心氏、旅行会社からは 新婦の加藤睦望(むつみ)さん。南極の氷をケーキに見立てて真っ赤なシャンパンを注ぐその時、予期せぬ闖入者が現れる。新婦の元カレ、荒波タテオ氏であった・・・。

岩井美菜子さんがたかみなっぽい。市川歩さんの雰囲気が作品の重みとなり、地に足を付ける。加藤睦望さんは凄い女優、最初から最後まで気が狂っている。

ネタバレBOX

日野あかりさんの役が43歳の美魔女独身。そう言われてみると確かにそう見える。加藤睦望さんの肩甲骨が美しい。

コメディの難しさ、何か笑うに至らなかった。『劇団鹿殺し』に似た感触、説明過多。ネタはホイチョイ・プロダクションっぽい。ただ好感度は非常に高いので、不快なネタで笑いを取るよりはいいのかも知れない。やっぱり加藤睦望さんの異様な存在感だけが記憶に刻まれている。
OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』

OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』

OM-2

日暮里サニーホール(東京都)

2022/03/17 (木) ~ 2022/03/19 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

当日パンフが小冊子の教材となっており、OM―2(旧名・黄色舞伎團2〈おうしょくまいぎだんツー〉)、真壁茂夫氏による宮沢賢治論が展開される。NHKのドキュメンタリー『宮沢賢治 銀河への旅 ~慟哭の愛と祈り~』で提示された宮沢賢治同性愛者説。盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)で1学年下の保阪嘉内(かない)と出逢い、叶わぬ恋に終生身を焦がした、とする。今作はこの観点から宮沢賢治(佐々木敦氏)と保阪嘉内(野澤健氏)の内宇宙を、『銀河鉄道の夜』や『風の又三郎』をまぶしながら舞踏朗読映像演劇で表現。無限の想像力とアイディアが駆使され、気の狂わんばかりの湧き上がる激情がステージ上から客席へとどくどく溢れ落ちていく。宮沢賢治論として一見の価値有り。

物凄く健康的な前衛アングラ、柴田恵美さん率いるコンテンポラリー・ダンスは若き女性達による正統派暗黒舞踏。何度も倒れ起き上がる動作を繰り返し、肘や膝を痛めないのか心配になる程。クンダリーニ・ヨーガの修行や五体投地を彷彿とさせる。オープニングの鉄道列車の走行音にストンプを合わせていくダンスに高揚。オノマトペをヒューマンビートボックス風に組み合わせた曲も面白い。一切、宮沢賢治と関係ないのだが一番印象に残った。一度、曲なし舞踏オンリーで観てみたい。
なかなか得難い体験が出来るので是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

佐々木敦氏は全身を使って生命から宮沢賢治の詩を絞り出していく。(表情が永田裕志に似ているような)。舞台上部に字幕が投影され、頭上からは無数の小さなスーパーボールや紙吹雪が降り注ぐ。床に置いたトランクからは侏儒の野澤健氏がひょっこり顔を出す。寺山修司や唐十郎の世界。

自分は宮沢賢治が同性愛者だとは思わないが、そう仮定して解釈すると非常に面白くなることは事実。

寺山修司の『観客席』は観客と役者の垣根を何とか破壊しようとする試みだった。安全な位置から虚構(見世物)を眺めていた筈の者達に自分と云う役を演じているのだと自覚させる為に。今作のラストは場内が明るくなる中、演者達は灯りの消されたステージ上で椅子に座り、帰っていく観客達を観賞しているもの。伝説のハリウッドのギミック映画王、ウィリアム・キャッスルのようにあの手この手で垣根を崩壊させて欲しい。
リムーバリスト―引っ越し屋―

リムーバリスト―引っ越し屋―

劇団俳小

萬劇場(東京都)

2022/03/12 (土) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1971年オーストラリアのメルボルンが舞台。開幕早々、主演の巡査部長役斉藤淳(あつし)氏が大暴れ。奥田瑛二と諏訪太朗を足したような魅力。初日の新人(北郷〈ほんごう〉良氏)にここでのルールを叩き込む。デンゼル・ワシントン主演の『トレーニング・デイ』宜しく、警察学校では教えてくれない本当の授業の開幕。『ここには正義も糞もない。自分が生き延びる事だけが全て。』と云う論理。そこに訪れる姉妹、裕福な歯科医のエロエロな妻(荒井晃恵さん)とその妹(小池のぞみさん)。妹が旦那(八柳豪〈やつやなぎたけし〉氏)からDVを受けているとの相談。下心ムンムンの巡査部長は引っ越し屋(大久保卓洋氏)を手配して妹の逃亡の手助けをするのだが・・・。

引っ越し屋のキャラクターが良い。三木のり平みたいに飄々として卓越した仕事人。クズ旦那のクズっ振りも清々しい。妙なナンセンス・コントのような空気感。

ネタバレBOX

起承転結の“承”までは楽しめた。“転”から怪しくなる。キャラ設定の崩壊?何か変な展開だなあ。引っ越し屋が意味ありげで謎めいたムードだが何もない。
自分が楽しめる作品ではなかった。このホンにこの演出じゃ役者が可哀想。巡査部長が間抜け過ぎる。こんな手際で30年も上手くやれる訳がない。多分上演当時は警察の腐敗をパロった切れ味鋭いホンだったのだろうが、2022年に通用するものではない。もっとホンを弄ってリアルな感覚に直した方が良い。部長は姉にブチ切れて殺し、止める妹も殺す。DV旦那は狂った警察に独り立ち向かう・・・。まあ、それもそれでつまらないが。
一枚のハガキ

一枚のハガキ

劇団昴

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2022/03/16 (水) ~ 2022/03/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕75分休憩15分第二幕60分。
新藤兼人は殆ど観た記憶がない。多分何本か観ている筈。この遺作も知らなかったが観劇後やたら観てみたくなった。

昭和19年、奈良県天理教本部、召集された100名の部隊は上官のくじ引きにより次の赴任先が振り分けられた。松山啓太(中西陽介氏)は二段ベッドで一緒だった森川定造(田德真尚〈まなぶ〉氏)から一枚のハガキを渡される。それは愛する妻からのハガキ。フィリピンに派遣される定造は戦死を覚悟し、自分の代わりに妻へのメッセージを託す。

ヒロインの服部幸子(ゆきこ)さんが魅力に溢れている。観客全員、戦争未亡人の彼女に深く恋する筈。彼女の掴めそうで掴めないキャラクターが今作の核。クライマックス、主人公との軽妙な遣り取りが向かう先に絶句することだろう。誰にも予想がつかない。彼女のリアルな手触りの人生が全てで、反戦思想とかの押し付けがましい説教ものではない。後半のノリに何となく木下恵介の『お嬢さん乾杯!』を連想したが、実はその脚本も新藤兼人だった。

有田神楽団の和太鼓のパフォーマンスと八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の神楽は必見。本当に吃驚する程、見応えがある。宮島岳史(たけし)氏の奮闘にリスペクト。

ネタバレBOX

音響が残念。特に下手。台詞が所々聴き取れない。
演出と脚本が噛み合っていない感じ。シーン間のテンポが悪くリズミカルに転がっていかない。

喧嘩のシーンは無声映画っぽいおおらかなもので、こっちの線で組み立てた方が良かったのでは。木下恵介調の人情喜劇として纏めた方が観客ものれた。

服部幸子さんの甲斐甲斐しい生活の動作が一番印象に残った。
サヨナフーピストル連続射殺魔ノリオの青春

サヨナフーピストル連続射殺魔ノリオの青春

オフィスコットーネ

シアター711(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

文句の付けようがない傑作。永山則夫を知っている人も唸らされ、知らない人にもゾクゾクくる筈。とにかくキャスティングが凄まじい。この人以外有り得ない役者の勢揃い。一人ひとり主演レベルの実力派俳優陣が連なる人間山脈。超満員の観客は観劇の玄人ばかりに思えた。
永山則夫には個人的に思い入れがあるので、何かこの手の作品を観ることに躊躇していた。「いや、そうじゃねえだろう」「何でそう纏めるか」のイライラ感が嫌だった。けれど今作には素直にひれ伏す。永山則夫に観せてやりたかった。(「こんな矮小な物語にしやがって」と怒り狂うと思うが)。今村昌平の『復讐するは我にあり』が大好きな人にお薦め。今平や熊井啓の匂いがぷんぷんする。大竹野正典の作品は追悼される価値がある。

別役実っぽい空気感を感じたが、劇中で何度も歌われる小室等と六文銭の『雨が空から降れば』の作詞がまさに別役実。「しょうがない、雨の日はしょうがない。しょうがない、雨の日はしょうがない」。
主演の永山則夫役は池下重大氏、たま出版社長の韮澤潤一郎を思わせるリアルな生活臭の佇まい。ああ永山則夫だなと腑に落ちる。若き日の永山則夫役は深澤嵐氏、その切羽詰まった純情に泣かされる。4人の来訪者、本間剛(つよし)氏、吉田テツタ氏、小野健太郎氏、辻親八氏。いずれも甲乙付け難い演技合戦、プロの味を堪能。
個人的MVPは母役水野あやさんと姉役清水直子さん。登場しただけで圧倒される。水野あやさんの鍋から干しうどんを装うシーンは映画だ。
優しい姉役、清水直子さんはヤバい。石田ひかりっぽい愛想の良いにこやかな女性に見せかけて、実は天才女優左幸子の持つ底無しのカルマをゾクゾク感じさせる。放射能のような危険なオーラがムンムン立ち込めていて観客もピリピリピリピリ殺気立つ。いつかこの人で『飢餓海峡』を観てみたい。

本編終了後、ボーナス・トラックとしてアナザーストーリーの一人芝居が付いてくる。母編(水野あやさん)か姉編(清水直子さん)。自分の時は姉編だった。
気の狂った神が采配する病んだ残酷な世界、死にたくなる程うんざりする一人芝居を徹底的に叩き付けられる。「もう勘弁してくれ」と泣きたくなる程、鬱な気分にされた。必見。これを観ると母編も観たくて堪らなくなる。凄まじいサービス、参りました。

19歳の永山則夫は1968年10月、米軍基地内の住宅に侵入し拳銃と銃弾を盗む。東京京都北海道愛知で4人の男を衝動的に射殺して翌年逮捕。獄中で書いた手記は『無知の涙』として出版され36万部のベストセラーに。社会主義に傾倒し、ルンプロ(ルンペンプロレタリアート)を自称した。1979年死刑判決。1983年小説『木橋』で新日本文学賞を受賞、日本文藝家協会への入会を申請するも拒否される。それに反発した中上健次、筒井康隆、柄谷行人、井口時男が日本文藝家協会から脱会する騒動に。筒井康隆の『天の一角』はそれを小説にしたもので必読。1997年酒鬼薔薇聖斗(14歳)による事件が少年法改正を促し、その為突然死刑が執行されたと言われる。

ネタバレBOX

小野健太郎氏の射殺シーンのアクションが絶品。凄い反射神経。

筒井康隆が日本文藝家協会を脱会した理由は、“世間の常識”に“文学”がおもねったことが許せなかった為。そんな下らないものとは一線を画して“文学”は君臨し続けなければならない。そうでないと“文学”なんてものに何の価値も意味も無い。

永山則夫の詩、『無知の涙』とは、自分が本当に無知であったと気付いた時に流れる涙のこと。いつかそれが流れた時、その人はもう無知ではないのだ、と。

真冬の網走の海岸、姉と幼き永山則夫が流氷を眺めている。流氷は北へ北へ、暗く寒い更に北へと流れていく。遠くその上で遊ぶ一人の子供の姿が見える。
「何であの子はあんな所で遊んでいるの?」と訊く永山。
「岸に流れ着いた流氷の上で遊んでいたら、いつの間にか船のように流されていってしまったのね。」と姉。
何処までも流れていくそれを眺める二人。

内田吐夢作品のような“何か”を求めてしまう。まだ永山則夫のことを忘れる訳にはいかない。
其ノ街の涯ル

其ノ街の涯ル

中央大学第二演劇研究会

シアター風姿花伝(東京都)

2022/03/10 (木) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

凄く好きなジャンル。世界がいよいよ終わろうとしている最中、三つの世界の人々が何かに手を伸ばしている様を描く。冒頭、街頭に立つ女性が道往く人々に世界がまもなく終わることを告げる。「最後は貴方の愛する人と一緒に過ごして下さい」と。

A 現代の日本。女子大生コウは世の中が嫌になり、世界の涯てを目指し山の奥深くへと。そこには野人やら修験者、人外のモノが息を潜め目を光らせている。
B 三神(さんしん)の支配する中東のような街。三神はただの遊戯として、人間達の五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を奪って遊んでいる。アケビはこんな世界から脱け出す方法を探る。
C 神による信仰に支配された街。色付き(異能者)と色無し(普通の人)で差別されている。教祖の説く真理は歪で民衆を苦しめる。マチは病気の妹を救う為、反体制異能者グループに加わり、テロ活動を起こしている。

三つの並行世界が重なるように存在している。崖にある底無しの穴が向こうへの通路らしい。

キャスト33名がカーテン・コールで現れるのだが、全員一人ひとり見れば何となく役を把握出来る。これは凄い事でよくも上手に振り分けたものだ。大作映画並みにプロデューサーは有能。

三神は白のカラコンの上に白目を剝き出すなど土方巽テイストたっぷり。
マチの病気の妹はこの御時世にゴホゴホ盛大に咳込み続ける演出が興味深い。
包帯でぐるぐる巻きにされた癩病患者の会話のシーンを投影された字幕で表現。文字が背景に浮かび上がる遣り取りが美しい。
色付きは身体の何処かに幾何学的な印があるなどの工夫がいい。
教祖役は綾野剛っぽくねっとりとして、狂気は松田優作の『蘇える金狼』を思わせる。

これだけの話を全く退屈させない工夫が見事。面白かった。

ネタバレBOX

全く本筋に関係の無いコンビニ店長と女子大生(?)店員のエピソードが凄く良かった。世界の終わりに一世一代の告白をする店長と世界の終わりにそれをぞんざいに跳ね除ける店員。「世界の終わりだからこそそこを貫きたいの」、素晴らしい。こういうキャラこそ物語の主軸向き。

A もうすぐ月が落ちて、世界は滅びる。その事を知った女性アナウンサーは報道管制を破りTVで人々に伝える。「最後は貴方の愛する人と一緒に過ごして下さい」と。人々はそれぞれ思い思いの人のもとへと向かう。コウは全く解り合えなかった父のもとに帰る。
B 三神は遊びに飽きて別の世界へと向かう。
C 洪水が起こり、世界は滅びていく。マチは教会の巨大な鐘を落として教祖を暗殺しようとするが、その刹那Aの世界に飛ばされる。牢獄の奥深く幽閉されている教祖の父は最期の力を振り絞って、教祖と修道女の双子の兄弟姉妹(=もう一人の自分)を呼び寄せる。癩病患者として隔離されていた二人、それぞれ魂の融合を果たすかのように一つになる。

山に隠れ棲むカオナシのような物の怪は世界の終わりにすら誰にも相手にはされない。そんな彼の姿で終幕。

ラスト、三つの世界が重なって同時に終わる絵が欲しいところ。
開演時間を勘違いしてギリギリに到着してしまい、すみませんでした。
ナマリの銅像

ナマリの銅像

劇団身体ゲンゴロウ

ひつじ座(東京都)

2022/03/09 (水) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演のパチンコ屋店員益田四郎(天草四郎)役は初鹿野海雄(はじかのかお)氏、濱田岳似。
パチンコ玉を溶かした軟鉄で仏像を彫る彫刻師、ナマリ役は山﨑沙羅さん、歯列矯正中で眼が松田龍平にそっくり。
柳町明里(やなぎまちあかり)さんは島原の乱の副将山田右衛門作(えもさく)役、若い頃の指原莉乃に似ているような。マニキュアが綺麗。

天草四郎の銅像をつくっているナマリ。何度もこねては潰し、どうしても納得出来るものが創れない。このシーンが秀逸で泥の中から産まれた四郎が身体を与えられては潰されるマイムが繰り返される。四郎の肉声を求めるナマリ。江戸時代のパチンコ屋で拡声器を片手に客を煽る四郎の光景が浮かび上がる。展開される百姓残酷物語、無慈悲な圧政と奴隷のような暮らし。そこには落ちたパチンコ玉を拾い集め続ける乞食のようなナマリの姿もあった。

野田秀樹っぽい語り口でかなり好きなんだろうなあ。天草四郎の物語と云うよりも『プロパガンダ〈政治的宣伝〉と戦争』がテーマっぽい。箱馬や平台を効果的に組み合わせて群舞的に使う演出がリズミカルで冴えている。

ネタバレBOX

武田朋也氏演ずる幼馴染と四郎の関係性が『AKIRA』の金田と鉄雄を思わせる。これに少女ナマリを加えた三人の人間関係に焦点を絞った方がいい。とにかく四郎の話に観客を乗せないと島原の乱が盛り上がらない。結末は誰もが知っているのだから。今作は天草四郎である必然性が余り感じられない。

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