実演鑑賞
満足度★★★★
朝海ひかるさんの芸能生活30周年記念作品、去年年末結婚もされたので長年のファンからは祝福の舞台となった。とにかくこの人のファンは幸せで、未だに女学生のようなサロメ(設定では32歳)が雷に打たれたような恋に身を震わせ、下着姿でバレエを舞う姿に見惚れることが出来る。どんな役でも成立させてしまうこの天才女優は内面から染み出した心のかたちが姿形を段々と覆っていくよう。元宝塚男役トップスターから、近年は井上ひさしの戯曲に多く出演。喜劇からシリアスから作品に準じて初めからそんな人だったように存在する。
新約聖書の『マルコによる福音書』に記されている実話がモチーフ。イエス・キリストに洗礼を授けた洗礼者ヨハネ(ヨカナーン〈ヘブライ語〉)は後に救世主の到来を告げた“先駆者”と呼ばれることとなる預言者。古代パレスチナの領主ヘロデ王の妃ヘロディアを非難した罪で獄に繋がれた。妃の娘、サロメが宴の席での見事な舞踏の報酬として彼の首を所望する。
この逸話を19世紀フランス、耽美主義文学者オスカー・ワイルドが戯曲化。そのドイツ語訳をリヒャルト・シュトラウスが曲を付けオペラ化。世紀末芸術として喝采を浴びた。
更に今作は舞台を現代日本に翻案。風俗王と呼ばれる悪趣味な社長(ベンガル氏)、その妻(松永玲子さん)、娘のサロメ(朝海ひかるさん)、忠実な側近(東谷英人氏)、落ち目の幹部(萩原亮介氏)、チャラい若手社員(伊藤壮太郎氏)、そして謎めいた預言者ヨカナーン(牧島輝氏)。
かなり喜劇風味、現役JKのような妄想に塗れたサロメの純愛がおかしくて哀しい。