実演鑑賞
満足度★★★
『流れる』
高尚で難解なスカした会話の応酬で観に来たことを後悔させる、批評家狙いの張りぼて作品ではない。能の『隅田川』だとかほぼ一切関係ない。鈴木清順やキアロスタミ(『風が吹くまま』)、ATG映画なんかの手触り。奇妙だが心地良い世界。台詞が断トツに秀でている、ギャグ満載の絶妙な遣り取りの会話劇。
「ああ え? は そう はあ そうか」。
予備知識として『鉄腕アトム』の設定だけ知っておいた方が良い。科学省長官であり天才科学者の天馬博士の息子、飛雄が交通事故死。彼は息子そっくりのロボット、アトムを作るもやはり息子の代わりにはならず、ロボットサーカスに売り飛ばしてしまう。
松尾芭蕉役上村(かみむら)聡氏、鈴木浩介の雰囲気で何処かロンブーの淳っぽくも見える。目を大きく見開いて唖然とするアメリカンなリアクションに観客もどっと受ける。とにかく自然な口調がジャズのベースのよう。
河合曾良(そら)役中村亮太氏、その辺の大学生そのまんま。リアルで憎めないキャラ。
謎めいた女役鶴田理紗さん、乗船券の売り切れた渡し船に乗りたがる。何を思っているのか皆目見当が付かない。
天馬博士役踊り子ありさん、『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』で演じた鮮烈なヒロインが記憶に新しい。会話の受けが見事。
アトム役古瀬リナオさん、148cm でまさに子供のよう。歩き方、動作、会話がロボットそのもので目を奪われる。この役は難しい。
話は旅に出ようと船を待つ芭蕉と曾良が喫煙所にいるとチケットを探す女が現れる。向こう岸では慰霊祭、船はなかなか出航しない。
かなり面白かったのでもう一本の『光環(コロナ)』も観たかった。何の先入観も持たず目の前の遣り取りを味わった方が楽しめる。取り留めのない会話と間だけでこの空間に魔法をかけてみせた。