彷徨いピエログリフ 公演情報 9-States「彷徨いピエログリフ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    オンラインでネットニュースの配信を行っている会社。新人記者の松木わかはさんは“誰か”の為になる記事を書くことを志しているも、編集長の小池首領(どん)氏には相手にされない。有能な先輩、瀬畠淳氏(少し橋下徹似)に教えを請うことに。そんな時、会社に15年前の記事の訂正を求めて青年(西田アツヒコ氏)が押し掛けてくる。それは編集長が書いた、轢き逃げを起こした警察官が飲酒運転だったと云う記事。当時大々的なニュースとなり、飲酒運転の厳罰化に世論を誘導することとなった。

    ステージの上部、上手と下手に一台ずつモニターが設置されており、暗転の折に詩的なモノローグが流れる。『正義とは果たして何なのか?』がテーマ。かなり根源的なものに踏み込んでいる為、観客一人ひとり自分の半生を振り返って自問自答するような作品。タイトルの「ピエログリフ」とは「ピエロ」(道化師)と「ヒエログリフ」(長年解読されなかった古代エジプトの象形文字)を組み合わせた造語であろう。

    先輩記者役、浅賀誠大氏がコメディ・リリーフで大活躍。グルメライター役の板野こっこさんは『ちーちゃな世界』が印象的だったが、今回も面白い。ゴシップ記者役森山太氏はリアルな価値観で観念的な青臭い感覚など物ともしない強さを。こういう現実的な人間を登場させることにより、地に足の着いた話に。絵空事の正義ごっこではない。

    作家の脳細胞内に入り込み、観念の迷宮を彷徨うような体験。正義について延々と考えさせられる。果たして松木わかはさんは自身を肯定することが出来るのだろうか?お薦め。

    ネタバレBOX

    この世の正義とは「関係性と感情移入」だと自分は思っている。ある事件が起こったとして、加害者と被害者、どちらと関係性が強いか、どちらの立場に感情移入し易いか。人は自分と関係性が強く、感情移入出来る方の味方に付く。それは習性だ。

    九龍町の工場排水のくだりはもっと丁寧にやって欲しかった。『排水=汚染=悪』の構図が、別角度から見れば意味が全く逆転してしまい主人公が絶句する。(原発誘致と同じ)。正義は人の数だけ存在することを知り、自分を見失う大切なエピソード。ちょっとこの描き方では判り辛い。
    音楽の使い方がTVドラマっぽく下手。(観客の感情の誘導を直接的に促す系) 。
    事件の真相は飲酒運転でよかったと思う。台風も被害者の痴呆、徘徊癖も要らない。一切逃げ場も無く、飲酒を隠す為の轢き逃げ逃亡が真相でよかった。それでこそ人間の物語。その上で水野絵理奈さんを救済に導く方法を模索するべき。瀬畠淳氏が祖父の復讐の為に写真を偽造するのはおかしい。

    帰り道、青山真治が死んだニュースを知り、彼の映画『EUREKA/ユリイカ』を思い出す。バスジャック事件に巻き込まれ心に傷を抱えた幼い兄妹を乗せて九州を旅するバス運転手・役所広司の話。行く先々で殺人事件が起こり、犯人は中学生の兄だった。警察に捕まった彼のことを斉藤陽一郎が語る。「まあ、あいつにとってはこれはこれで良かったのかもな」。そこで突然ブチ切れた役所広司は斉藤陽一郎をボコボコにする。「これで良かった訳がねえだろう!俺は認めんぞ!断じてそんなことは認めんぞ!」。このシーンが鮮烈で青山真治の肉声を聴いた気がした。正しかろうが間違っていようが、俺は断じて認めん。この世の条理を司る神がいたとして、そいつを引き摺り降ろしてでもこの世を正してやる。その瞬間の自身の本能を全肯定する熱情、ロゴスをパトスが一瞬で破壊する刹那。そんな光景に人間は打ち震える。重要なのは正しさではなく、「これは間違っている」と感じた心。正しさを選ぶのではなく、間違ったものを排除していくこと。

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    2022/03/26 09:53

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