うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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SOU - 双・相・想 -

SOU - 双・相・想 -

演劇ユニット ランニング

ザムザ阿佐谷(東京都)

2013/11/20 (水) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★

改めてタイトル上手い!
出演者だけでなく作家も演出家も毎回入れ替わるというユニークなユニットで
第3回という今回は2人の作家による2本立て。
同じセットを使い、全く違う2つの物語が繰り広げられる。
コンパクトで、企画と演出の面白さが味わえる舞台だった。
観終わって、改めて2つのタイトルの上手さに感心した。

ネタバレBOX

①「パンジーな乙女達」作:井保三兎 演出:元吉庸泰

舞台は段差のある2つの空間に区切られている。
上手の一段高くなったところはラジオ局のスタジオで
落ち着いた声の女性が、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」などかけながら
リスナーからの葉書を読んだりしている。
ディレクターの男性とADの女性がブースの外で
25年も続いた番組が今日最終回を迎えたことをあれこれ話している。

一方とあるマンションには4人の女たちがメールで呼び出されて集まって来る。
「先生」と呼ばれる作家は、曜日ごとに違う女性をここへ呼んで
法外とも思える金額を渡していた。
子どもを抱えた女、親の借金を抱えた風俗嬢、いじめられている女子高生、
そして路上で詩を作る女…。
みな作家に声をかけられて週に一度
ただ食事を作るだけとか、一緒にごはんを食べるだけでお金をもらっていた。

それぞれの事情が明らかになる中、部屋の奥から作家の死体が発見される。
自分がやったと打ち明ける詩人の女。
やがてラジオではパーソナリティの女性が重大な告白を始める。
「私は夫を殺しました」
その夫とは、別居しているあの作家だった…。

作家の謎めいた行動とそれを見守る妻の心理が面白い。
よくある事情を抱えた女たちの表情もいい。
ディレクターとADの二人がマンション場面とかぶるシーンが少々わかりにくい。
場面の切り替えにもうひと工夫あれば
もっと鮮やかに2つの空間が対比されたような気がする。
登場しない作家と、その妻の深い孤独が伝わってくる舞台。
AD役の辺見のり子さん、風俗嬢の江崎香澄さんが印象的だった。
いくつかあるパンジーの花言葉が、女たちの個性を端的に表していてよかった。

②「終末の天気」 作・演出:元吉庸泰

もう何か月も前から隕石の衝突によって世界は終わる、と伝えられている。
あれこれ試したが回避は不可能で、ついに明日衝突のその日を迎える。
地方の高校の演劇部で、最後の稽古をしようと張り切る桃子だが
部員はちっとも集中しないし、変な不良にはからまれるし、
肝心の脚本は最後の2ページがまだ作家から届かない。
学校には他に行き場のない教師やOB達が集まって来ている。
そしてその時は刻々と近づいて来る…。

今実在の作家・演出家たちを短く評した台詞がおかしい。
「柿食う○は力入れて台詞言えばいい」とか笑ってしまった。
諦めと開き直りの中、ひとり奮闘する桃子(藤桃子)が健気。
作家と演出と主演、3人でてっぺんを目指そうという決意が初々しい。
遠く離れてしまった作家の星耶と“交信”する姿に信頼と情熱が伝わってくる。

ちょっと同じところをぐるぐる回っているような印象を受けたのは
似たような台詞が繰り返されるからか。
もっと劇中劇でドラマチックに語らせても良かったと思う。
最後の日に学校を掃除する西川先生(西川智弘)のキャラが面白そうだったので
もっと演劇がらみのエピソードが聞けたらより深みが増した気がする。
最後の日に演劇人が何を想って学校に集まったのか、
演劇部が舞台なのだからその理由を演劇に集中してもよかったと思う。
その結果の”屋上集結“もきっと素敵だ。
さめザわ

さめザわ

張ち切れパンダ

サンモールスタジオ(東京都)

2013/11/13 (水) ~ 2013/11/20 (水)公演終了

満足度★★★

喜劇の果てのブラックは好き
職場で名前すら覚えてもらえない存在感の薄い男「鮫沢」の特技は「死んだふり」。
生きている時には誰にも気づいてもらえない男が
死んだ途端に注目を浴び、周囲を大混乱に陥れる。
そのギャップが面白くて止められなくなった男のうすら悲しい人生模様が面白い。
いまひとつ“オチ切れなかった感”が残るラストがちょっと消化不良かな。

ネタバレBOX

古いスーパーの事務室、ロッカーが並び、部屋の隅に事務机がひとつ。
休憩室らしいテーブルと椅子、ソファー、漫画本が無造作に積み上げられている。
冒頭、このテーブルに仰向けにもたれたまま鮫沢が死んでいる。
見守る店長、その妻、同僚たち、警官。
鮫沢は何故死んだのか、殺されたのか、もしそうなら犯人は…?

フラッシュバックのように巻き戻されるその日の出来事。
いるんだかいないんだかわからない鮫沢の側で、
同僚たちは次々とうっかり秘密をこぼしてしまう。
商品万引き、不倫、単なるいじめ、大事な思い出の品をめぐる争い…。
そしてその都度鮫沢は殺される、何度も、何人にも…。

鮫沢の特技が「死んだふり」というのが面白い。
「ウケ」を狙ってとんでもない行動に出て、その反応を楽しむというのは
他に自己アピールの術を知らない若者が思いつきそうなことだが、
単なる悪ふざけでなく、痛みと物悲しさを感じさせるところが上手いと思う。
傾いたスーパーを買収する大手スーパーの社員が
鮫沢の高校の同級生で、彼の特技をよく知っていたというエピソードも○。
鮫沢のコミュニケーション下手なねじれた性格を物語る。

鮫沢役の深井邦彦さんがとても良かった。
存在は薄いが、緊張しやすく周囲を観察する目を持っていて、
折りあらば見返してやろうと思っているようなところもある男。
思い込みが激しくて人の思惑をつかむ感覚がちょっとずれている男。
特に高校時代のエピソードで、同級生のせっかくの誘いを断った後の
泣き笑いの表情、自己嫌悪と寂しさの混じった表情が秀逸。
役柄とは裏腹に、深井さんの存在感は大きい。

店長の妻役の小林美江さん、その妹役の中島愛子さんが上手かった。
キャピキャピバイトのゆみちゃん役、古市香菜さんの
したたかな世渡り上手ぶりが徹底していて良かった。

従業員による犯人探しや、お巡りさんの出入りに時間を割くよりも
個々の殺人エピソードに丁寧な理由が描かれていたらもっと共感できたと思う。
死んだふりから起きあがった鮫沢の反応もきちんと見たかった。
結局鮫沢は最後本当に死んでしまったのか、起き上がったのは皆の願望なのか。
どちらでも良いが、みんなは露呈した秘密にどう始末をつけるのか、
登場人物たちの変化が書かれていないところが物足りない。
当日パンフにもあるが「役者のキャラクターに助けられて」いる。
脚本の多少の無理や隙間を、役者陣がよく頑張って補っていたと思う。
でも個人的に「喜劇の果てのブラック」というテイストは、とても好きです。






韓国現代戯曲連続上演

韓国現代戯曲連続上演

韓国現代戯曲連続上演実行委員会

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/11/06 (水) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

洪明花さんとナギケイスケさん
韓国の若手作家の3作品を、小池竹見(双数姉妹)・金一世(世amI)・山田裕幸(ユニークポイント)が演出。
バラエティに富んだ作風でそれぞれ違ったテイストが楽しめた。
中でも、シンプルな二人芝居「上船」(ユン・ジヨン作・山田裕幸演出)に強烈な印象を受けた。
無駄のない台詞、ドラマティックな結末、舞台美術、ユニークな演出。
洪明花さんとナギケイスケさんの味わい深い演技が素晴らしかった。

ネタバレBOX

①「真夜中のテント劇場」 作:オ・セヒョク 演出:小池竹見

舞台中央にたっぷりと大きな白い布がくしゅくしゅと置いてある。
やがてそれが、会社に労働環境の改善を求めるテントデモ活動のテントになる。
素早くフックをかけてロープで布を引き上げると舞台は広いテントの内部になった。
ここで籠城第1日目のナウン(洪明花)の使命感と高揚感、孤独を描きながら
口は悪いが籠城に付き合う後輩のチョウン(北見直子)と二人、
力強く豊かな想像力で不安な夜を乗り切る様がつづられる。

外界から隔絶され、抵抗の証であるテントが
やがて大きく波打つ雲海となるところに、掲げる目標と希望の広がりが感じられる。
終了後に洪明花さんから
「テントデモは韓国で一般的な抗議行動のひとつ」という解説があった。
仲間を得て朝を迎えるナウンの喜びが、改めてさぞやと思われた。

②「秋雨」 作:ジョン・ソジョン 演出:金世一

ここはつい先日、一晩に5人の死者が出たラブホテルの足元にある公園。
ホテルの一室で「社長」と呼ばれる傍若無人な客、相手をする若い女、
そしてポン引きのような若い男が死ぬ。
別の部屋で客を取る盲目の中年女性と、料金をごまかすその客も。
仮面をつけた謎の男が現われると、次々と死んでいくのだ。
実は仮面の男と盲目の女、若い女はかつて家族だった…。

日本の古典芸能である能が好きだという作家の作品らしく
冒頭から前傾姿勢で透明なビニール傘をさしてしずしずと歩く登場人物が
まさに能のような歩き方で、これが“死者”の彷徨を思わせて強烈な印象。
ビニール傘を使った殺人のアイデアと繊細な照明が秀逸。

③「上船」 作:ユン・ジヨン 演出:山田裕幸

港の近くでおでんの屋台を営むキム・ユギョン(洪明花)。
ある日もう最終の船も出た後、ひとりの客ソン・チャンムク(ナギケイスケ)がやって来る。
彼は「28年前の約束を思い出して」やって来たかつての恋人だった。
互いに会いに行ったのに会えなかった時のことなど初めて語り合う二人。
やがて来るはずのない船がやって来て、彼はそれに乗り込むが…。

おでん屋の女将を演じる洪明花さんが素晴らしい。
途中「イイダコがあるよ」と客に勧め、注文が入ると実際に調理し始めたので驚いた。
フライパンを火にかけて油を熱し、タコを炒めてしょう油らしいものを加えると
香ばしい香りが客席まで漂って来た。
全ての手順がよどみなく、商売人らしい無駄のない手つきで
これが舞台である事を忘れさせるようなリアルさに引き込まれた。

自分の親がついた嘘のせいで男がやむなく去って行ったことや
その時身ごもっていた子どもを喪って自分も自殺を図った女の過去などが明らかになり
男が最期にどうしても会っておきたかった気持ちが切々と伝わってくる。
ラスト、男が船であの世へと旅立つのを見送って初めて女が屋台の外へ出て来る。
杖をつき身体を傾けながら歩く女が、この不自由な足のせいで
どんな気持ちでたった一度の恋を諦めたか、胸を締め付けられる思いがする。
号泣する彼女に観ている私も思わず寄り添いたくなるシーンだった。

台詞と役者の見事な融合や演出の面白さで「上船」が最も完成度が高いと思うが
3作とも個性あふれる作風でとても面白い企画だった。

一晩たってこれを書いていてまた泣けて来た。
やっぱり☆5つにしようと思う。
栄え

栄え

MCR

駅前劇場(東京都)

2013/11/06 (水) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★

少し薄味だった
“イケメンを多数集めた舞台が人気らしいので、それに便乗して借金でも返してやろうか、
と企んだ結果がそこから遠く離れた今作品“(説明文より)…うん、合ってる。
看板に偽りなしだ。
思いがけずSF仕立てなのだが、そのシュールさが日常の延長線上にあるのが櫻井流。
男がしょぼい人生をやり直すには、絶対不可欠なものがあった。
一つは友情、もう一つは男よりちょっと積極的な女の勇気。
いつもの”切羽つまった男の捨て身の優しさ”が薄味だったような気がするのは
展開のせいか、見せ場の台詞がイマイチ際立たなかったせいか?

ネタバレBOX

客入れのBGMがとても素敵で、相変わらずセンスの良さを感じさせる。
冒頭男子校の教室では、櫻井智也先生が品行方正であるはずもなく
つられるように生徒もそれなり。
その生徒の中に、40歳の栄(友松栄)がいた。
彼はある日突然、この高校生時代にタイムスリップしてしまったのだ。
だから全てを知っている、40歳になった同級生の夢破れた姿も
東北に巨大地震が起こることも
そしてこれから栄に訪れる伊達(伊達香苗)との恋が哀しく終わることも…。

事情を知った友人堀(堀靖明)と小林(小栗剛)が
「こんな奇跡が起こったんだ、未来を変えることだって出来るはずだ!」
と栄を励ますが、彼は「どうせ何も変わらない」と全てを諦めている。
だが先に変わったのは友人たちの方だった、という所が感動的。

ミュージシャンになりたいという目的を後押ししてくれる栄に感謝しつつ
しょぼい未来を変えてみせると決意する小林。
自分には小林のような目的が無いと、深く内省する堀。
そして宗教法人の跡取りとしての全てを捨て、栄と共に生きると誓う伊達。
それらに背中を押されるように人生が変わって行く栄。

MCRの作品の中で私が断トツに好きな「貧乏が顔に出る」、
次に好きな「俺以上の無駄はない」には究極の男の優しさがあった。
“いちいち理由は言わないが大事なものは守る”という捨て身の優しさがあった。
罵詈雑言の果てにじ~んと男気を感じさせる間があった。
今回も小林と堀の心情にそれは見られたが、饒舌な台詞の中に埋もれがちだったかな。
小林の「栄、俺に感謝して金を貸してくれ!」という見せ場のキメ台詞など、
流れの中に埋没してもったいない気がした。
ラスト、栄と伊達の思いがけない(笑)キスシーンはとても良かった。
イケメンでなくても素敵なラブストーリーは成立することを見せてくれて楽しかった。

タイムスリップしても未来は変えられない…と思いきや
努力すれば結構変えられる、でも変わらない人もいるってところが
櫻井さんの面白いところで好きだ。
でも伊達や小林のその後が、ちょっと知りたかった。
私が見落としたのかしら。

堀靖明さんの髪の毛ぷるぷる震える力演が好きだ。
栄の父親役本井博之さんのいーかげんな感じ、小栗さんのギターの上手さ、
伊達香苗さんの豊かな胸が印象に残った。
【本日千秋楽は15時から!!!】『そこで、ガムを噛めィ!! 〜The Baseball comedy! 2013〜』 (※当日券は全ステージ出します!!!)

【本日千秋楽は15時から!!!】『そこで、ガムを噛めィ!! 〜The Baseball comedy! 2013〜』 (※当日券は全ステージ出します!!!)

8割世界【19日20日、愛媛公演!!】

テアトルBONBON(東京都)

2013/10/30 (水) ~ 2013/11/04 (月)公演終了

満足度★★★

☆3つ半です!
客入れから劇中まで音楽が好み。
日高ゆいさんの素晴らしいピッチングフォームとタイミングの良い効果音が
試合シーンのテンションを一気に上げる。
この男から女になった助っ人ピッチャーとか、
「チームで一番男らしい」と言われる優しい女性マネージャーなど
魅力的なキャラが何人も登場するのだが
せっかくの設定が活かし切れていない感じがとてももったいない。

ネタバレBOX

舞台装置というにはあっさりし過ぎな“部室感”漂うミーティングルーム。
草野球チーム「東松原ドラゴンライオンズ」は
0勝26敗という屈辱的な相手チーム「梅ヶ丘パレッツ」との試合を明日に控えている。
明日手術を受ける監督のためにも、どうしても明日は勝たなくてはならない。
そこへ強力な助っ人が現われる。
その女性藤沢みちるは、かつて「武士沢」という男で
「神」と呼ばれるピッチャーだった。
そして決戦の日、チームも人生も大逆転はなるのか…?!

途中部室が野球場に転換するところがとても面白かった。
日高ゆいさんは、ソフトボールでもやってたのかというカッコいいピッチングフォーム。
ちょっと緩い笑いと試合シーンのメリハリがとても良かった。
ダンスのキレがあと一歩上がったら、もっと劇的に盛り上がると思う。

新人君の自己紹介をくり返すより、それをしながら
チームメンバーのキャラ紹介が欲しかったかな。
せっかく個性豊かなチームメンバーがそろっているのだから
ギャグ以外の台詞でキャラをアピールする場面があったらもっと共感出来た。

入院中の監督の代理でやって来た奥さんにも
“置物”だけでなく何かあるはずだと思って観ていたし
優しいマネージャーのとんでもない秘密とか、
新人君の驚きの隠れた才能とか、ついつい期待してしまった。
いつか出るだろうと思っていたら何も出てこなかった感じが残念。

あの設定なら、もっと面白い台詞と展開の広がりが可能だと思う。
まだまだ実力の8割しか発揮されていないのが勿体ない。
”看板女優”日高ゆいさん、さすがの安定感と振り切れ具合が○。
鈴木雄太さんの次に期待して☆の数は3.5としたい。
魔女の猫探し ご来場誠にありがとうございました!

魔女の猫探し ご来場誠にありがとうございました!

劇団東京乾電池

アトリエ乾電池(東京都)

2013/10/28 (月) ~ 2013/11/04 (月)公演終了

満足度★★★★

猫の名前が覚えられない
アトリエ公演は2度目だが、いつ来ても居心地の良い空間。
月曜夜の初日は補助椅子が出る盛況ぶり。
別役実の作品としてはとてもすっきり腑に落ちて解りやすい。
今回の魔女の相方は谷川昭一朗さん、
2人の“間”がもう可笑しくて客席からは頻繁に笑いが起こる。
ちょっとほろりとさせる“おとなの泣いた赤おに”みたい。
この魔女のキャラが実に魅力的。

ネタバレBOX

舞台上手に小屋のような建物、ささやかな庭にガーデンテーブルと椅子が二つ。
何でか古い和式の便器が転がっている。
あの魔女(角替和枝)が猫を探しまわる声から始まる。
この庭に、町で“猫探し”を請け負う男(谷川昭一朗)がやって来る。
なぜかいつも依頼主と猫の名前が同じ。
そして文句を言いながらも魔女とお茶を飲んで帰る。

呑気でマイペな二人が他愛のないやりとりをしているうちに
後半話はいきなりブラックになってびっくりする。
がーん、そういうことだったの…?
そして魔女が魔女である事を証明するかのような“魔女の一撃”が振り下ろされる。
やっぱり魔女は魔法を使うんだ…。
私がとても好きなのは、その一撃にウェットな感傷を含んでいることだ。
魔女の義理人情って素敵じゃないか。
そして黙って去って行くラストがいい。
子どものとき読んで大泣きした「泣いた赤おに」みたいで、しみじみする。
別役さんってこういうしゃれた大人の童話みたいなのも書くんだと思った。

日々の生活の中でついて行けない話に疲れた時は、こういう会話が心に沁みる。
我慢せず、力まず、好き勝手に、沈黙を怖れず、好きじゃないけど嫌いでもない、
そんな相手とずずずっと音をたててお茶を飲む二人。
あなたたち、いっそお付き合いしたらどうでしょう?
そう声をかけたくなる、絶妙な中年男女である。
『うれしい悲鳴』/『太陽とサヨナラ』(終演しました! ご来場ありがとうございました!)

『うれしい悲鳴』/『太陽とサヨナラ』(終演しました! ご来場ありがとうございました!)

アマヤドリ

吉祥寺シアター(東京都)

2013/10/23 (水) ~ 2013/11/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

圧倒する台詞
ひょっとこ乱舞時代も含めて、私にはこれが初めての広田作品。
冒頭から“伝わる”台詞の素晴らしさに圧倒された。
劇場の広さに負けない声と滑舌、聴きとりにくい台詞もなく豊かな表現力が素晴らしい。
役者さんは大変だろう長台詞満載の芝居は、若干饒舌で長さを感じるものの
最後まで柔軟なパワーにあふれていて飽きさせない。
社会や政治に対する明快な批判と、詩情豊かな台詞、
広田さんって両方書ける人なんだなあ。

ネタバレBOX

近未来の日本では、有権者が提案した政策案を政府が抽選で法律化するようになる。
制定された法律は“アンカ”と呼ばれ例外なく実行される。
実行するのは“泳ぐ魚”と呼ばれるエリート国家公務員集団だ。

泳ぐ魚のメンバーマキノ久太郎(西村壮悟)は、
子どもの頃エレベーターに閉じ込められる事故で父と弟を喪い、自分は痛覚を失った。
その久太郎が、アンカ遂行中に出会ったミミ(藤松祥子)と恋に落ちる。
ミミは、“なんでも過敏症”で無菌状態の部屋から出ることが出来ない。

やがて新たなアンカにより、植物状態の患者は移植のために臓器を提供することになる。
それは、くも膜下で倒れたミミの母親を殺すことを意味する。
そしてミミは、「母親を殺すなら私も殺せ」と一歩も譲らない。
母親の臓器は取り出され、決断を迫られた久太郎はついにミミの首に手をかける。
その直後、政権は倒され、泳ぐ魚は解散となった…。

痛覚とは何だろう。
痛覚を持たない久太郎の方が、泳ぐ魚の他のメンバーよりずっと痛みを知っている。
にもかかわらず組織に抗えなかった彼は、ミミを殺してしまう。
組織の空気に負けてしまったから。
“空気による政治”が今の日本や官僚、会社人間たちを端的に表わしていて面白い。

久太郎役の西村壮悟さんは長台詞になると“素”が顔を出すような気がする。
「工場の出口」に出演されていた時もそう感じたけれど
役と距離を保つのを止めて、素で語り始めるような
久太郎なのか西村壮悟なのか境界線を曖昧にして一気に入って行くように見える。
それが観ていてとても自然で心地よい。
エレベーターの中で、他の8人が次々と死んでいく
暗闇の中での1週間を語るところなど、その皮膚感覚がリアルに伝わってくる。

病気のせいで周囲から隔絶されているミミが、小学校卒業と同時に親友を拒絶し
母親とだけは「何があっても一緒にいる」と決意するところ、
感情を爆発させて、謝って、でもやっぱり独りになるのがどうしても怖いという
逡巡するミミの長台詞に説得力があって思わず涙がこぼれた。
「母親と一緒に死にたい」という極端な主張の理由として納得させるものがあった。

螺旋階段や地下と繋がる四角い穴など、広い空間を縦横に使って清々しい。
時折挿入される群舞が、高揚感を共有する感じで効果的。
役者陣は隙が無くてみな上手いが、特に印象的だったのは
比佐仁さん、西川康太郎さん、鈴木アメリさん、百花亜希さんなどまた観たいと思った。

底の浅い政府が提示する価値観の無意味さと、それに追随する虚しさ、
“空気”ごときに支配される社会などいずれ崩壊する。
しっかりしようぜ日本人、でなけりゃ妙な指導者が現われて憲法をいじり始める。
ひょっとこ乱舞ってこういうのだったのか、
伝えたい事がたくさんある作者が、演劇という手段を選んだ情熱を強く感じる。
次は新生アマヤドリの作品を観たいと思う。











『武器と羽』

『武器と羽』

Oi-SCALE

駅前劇場(東京都)

2013/10/23 (水) ~ 2013/10/28 (月)公演終了

満足度★★★★

林灰二という人
脚本の構成と“登場人物全員が嘘をついている”という設定が面白い。
前説からするりと本編に入るあたり、BGM、照明、都市伝説、何気ない“哲学”、
そしてラストで見せる奇妙な“都会における秘密の共有”と真実…。
全編に林灰二という人のセンスと軽やかさがあふれている舞台。
追いつめられながら、開き直ったしたたかさを併せ持つ登場人物たち。
その微妙な揺れを表現する役者陣もはまっている。
林灰二さん、あの面白い前説は嘘じゃないですよね?

ネタバレBOX

案内の人がライトで足元を照らしてくれるほど劇場内は薄暗い。
舞台上には工事現場のコーンが数個並んでいるが、中に電球が入っていて
緑色っぽい、青っぽい光を放っている。
劇場を斜めに貫く通路が出来ており、コーンはそれに沿って置かれている。

前説を終えて客席に背を向けると、林灰二は公園で友達を待つ男になる。
奥から友人がバイクを押して出て来て、この公演に幽霊が出るという噂話などしながら
二人は駐輪場を探して劇場の外、受付のあるスペースへと出て行く。
この長い通路が公園の往来となり、下手に公園のベンチ、
上手には警察の取り調べ室がある。

事件は、公園で腐乱死体が発見されたことから始まる。
問題はその周囲の、掘りかけの穴らしきものだった。
それのおかげで単なるホームレスの死は、殺人事件ではないかと疑われることになる。
そして同じこの公園で、カッターナイフによる通り魔事件が連続して起こる…。

登場人物が全員嘘をついていることがキモである。
腐乱死体の第一発見者、通り魔事件の被害者二人、自首して来たコンビニの男、
そして捜査する警察官も全員嘘をついていて
例えば腐乱死体の第一発見者は猫好きで毎日えさをやりに来るが、
実はそのえさに農薬を混ぜている。

元を辿れば腐乱死体となったホームレスの男(林灰二)が
「俺を殺してくれ」とコンビニの男(池上幸平)に頼んだことが発端だった。
ホームレスの男は誰かのために自分の人生も命も棒に振った。
そして自分の中の“悪”を許さず罰したことにより“神”の如き存在となった。
コンビニの男と通り魔の被害者(川元文太、肥後あかね)の3人は
公園に通って腐乱していく遺体を見守り、秘密と安らぎを共有する。
そして「僕たちも“神”のように、悪を退治しなければならない」と
コンビニ男は二人にカッターナイフを渡し、
3人はそれぞれの“悪”をやっつけるべく実行に移すのである。

時間を遡って行く見せ方、照明や映像の使い方が上手い。
嘘つきたちのエピソードが丁寧なので嘘が薄っぺらでなく、ちゃんと理由が見える。
ホームレスが、「空を飛びたい」と言うコンビニ男に
「飛べるよ。羽ならあるじゃない、見えないの?
僕には見えるよ、黒い羽が」
と告げる場面。
素朴な風貌で淡々と、だがあまりにも当然のように告げるので思わず気押されるほど。
「真実か否か」ではなく「信じるか否か」が問われる瞬間だ。
林灰二という人の素のような演技が、あり得ないことに説得力を持たせて秀逸。

見えていないだけで“武器と羽”は誰もがセットで持っている物かもしれない。
「自由である事は何よりも尊い」と言う林灰二さん、
次にあなたが解放してくれる世界を、また観たいと思う。
この世の楽園

この世の楽園

鵺的(ぬえてき)

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2013/10/23 (水) ~ 2013/11/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

劇的な設定であぶり出す本音
気がつくと役者と同じリズムで、息を詰めて成り行きを見守ったり
呼吸も荒く反論したくなったり、相手の言葉にびくっとしたり。
感情移入する登場人物ばかりではないにも関わらず、
客観的に距離を保って観ていることができないほど揺さぶられた。
劇的な設定の中で、あぶり出されたものは普遍的な感情だった。

ネタバレBOX

客席がコの字型に舞台を囲んでいる。
真っ白な丸テーブルが3つ、背もたれの高い椅子も真っ白。
波の音が大きくなって、ここが海辺に近いテラスのような場所だと判る。
ここに3組の男女がやって来る。
暴力的な言葉と態度で彼女を支配したがる男と、怖くて逃げられない女。
入籍はしていないが去って行く彼女を何としても引き留めたい男と、新しい男と逃げた女。
仮面夫婦を演じながら別れようとはしない男と女。
全員白っぽい、ベージュかオフホワイトの衣装で、
逃げた女のみモノトーンのきっぱりした衣装。

女ばかり3人になったところへ謎の青年が現われて言う。
「あんな男、殺してあげますよ」
このチェックのシャツの男は、“自分の好きな正義”に則って
いない方がいい人間を淘汰するのだと演説をぶつ。
そして執拗に「あなたもそれを望んでいますよね?」と迫るのだ。
精神を病んでいるかのようなこのチェックのシャツ男を
初め気味悪く思っていた女たちは、次第に深層心理を掻き出されていく。
じゃあ殺す他に、断ち切る方法はあるだろうか…?

冒頭から支配男(井上幸太郎)と彼女(とやまあゆみ)のやりとりに釘付け。
彼女を小突きながらスマホを向けて動画だか何だかを撮り続ける男。
時に恫喝し、髪を掴んで引きずり回すその様がこの上なく不気味で怖い。
殺す以外に方法があるか、という心理に説得力を与える。
とやまあゆみさんがとてもきれいなので、ますます共感してしまう。
井上幸太郎さんの目つきと”間”が本当に怖ろしく、
この方の他の芝居も観てみたいと思った。

勝手に殺せばいいのに チェックの男は何故女たちの同意を求めるのか。
ホテルの自分の部屋に監禁した3人の男を殺すのは簡単なはずなのに
自分の正義を理解できない女たちにイライラしながら
思いこみと身勝手な論理を滔々と展開して同意を求める男の目的は何なのか。

その疑問は解けないまま 少しずつ変化している女たちの言動の方に興味は移っていく。
支配男が自分のスマホを地面に叩きつけて壊し、
「お前の携帯出せよ。携帯、携帯、携帯、携帯…」とゆっくりだがだんだん声が大きくなる中
バッグから取り出した携帯を男と同じくらい大きな音を立ててたたきつける彼女。
この緊迫感と爆発するような叩きつける音が、劇場の空気をつん裂いて素晴らしい。
3人の中で一番明確に「殺す以外に彼から逃れる術は無いんです」と言っていた彼女だ。
このあとこの二人の関係はどうなるのだろう。
もう以前と同じ力関係は保てないような気がする。

仮面夫婦の女を演じた佐々木なふみさん、支配男に足蹴にされて地面に転がったあと
振り向きもしない夫を見やりながら離れた椅子に座るところ、
しばらくしてこちらを向いた時、スカートに涙が一粒こぼれたのが見えた。
まっとうで常識的でクールなキャラを通していたが
不意に、内に張りつめていた深い絶望感が露呈したようで胸を衝かれた。
緊張感を維持する厳しさが見事だった。

謎の男役の酒巻誉洋さん、犯罪者と宗教家が合体したような
“ オリジナルな正義”を振りかざす超ウザい男が上手い。
同じようなことを、何度も言葉を変えて説得を試みるのだが
飽きることなく聞いていられるのは台詞に強靭な意志と変化があるから。
しかしヤな奴だな、この男は(笑)

──本当は殺してやりたい

という本音を一度白日の下に晒してしまったからには、もう元には戻れない。
謎の男は、女たちの舌先から細い糸をつまんで
内蔵深くしまいこんでいた本音をずるずると引きずり出して見せた。
舞台は、主導権が少しバランスを崩したところで唐突に終わる。

人に頼まなくても自分で殺せばいいんだ…
その気になればいつでも殺せる…
忘れてしまえば殺したも同然…

相変わらずの男たちに比べて、どこか強度を増したような女たちが面白い。
謎の男は、女たちの未来を確実に変えたのだ。
秋の螢

秋の螢

(公財)可児市文化芸術振興財団

吉祥寺シアター(東京都)

2013/10/10 (木) ~ 2013/10/16 (水)公演終了

満足度★★★★★

鄭義信さんの台詞
“第一線で活躍する俳優・スタッフが岐阜県可児市に滞在しながら作品を制作、
可児市から全国に発信する質の高い作品を目指す“というプロジェクトの6作目。
最近毎月どこかしらでその作品がかかっているような鄭義信氏の作品。
彼の生みだす人々はどうしてこんなに弱くてさびしがり屋で温かいのだろう。
メリハリの効いた演出と充実の役者陣によって、生き生きとした人物像が立ち上がる。
その結末に、何だかほっとして涙が止まらない。

ネタバレBOX

タモツ(細見大輔)と修平(渡辺哲)は細々と貸しボート屋をして暮らしている。
タモツの父文平は21年前、兄の修平に幼い息子を預けて若い女と駆け落ちした。
穏やかな生活を乱したのは、失業して終日ボートに乗っていたサトシ(福本伸一)、
さらに周平を頼って突然やって来たお腹の大きいマスミ(小林綾子)。
そして以前からタモツにだけ見える死んだ父文平の幽霊(栗野史浩)が時折やって来る。
「戻ってくる」という父の言葉を信じて待ったのに裏切られたタモツは
「これからは家族だ、嘘はつかない」という周平の言葉を信じて一緒に暮らしてきた。
その周平に秘密があって、自分には何も知らされなかったということがショックだった。
タモツの心は乱れに乱れ、ついに「ここを出ていく」と告げる…。

舞台をきれいに半分に分け、上手部分はボート小屋外の板敷きになっている。
冒頭タモツがそこでホースで本物の水を撒き、盥の水をぶちまけたのでびっくりした。
下手は小屋の内部、今は客に食事を出さなくなって専ら二人のための食堂になっている。
この二つの空間がうまく区切られていて、小屋の壁と小さな窓を境に
登場人物の人に見せない内面や、他の人には見えない父の幽霊との会話等が展開する。

「家族だから嘘はつかない」と言われて必死にそれを信じ
周平と家族になろうとしてきた幼いタモツの心が健気で哀しい。
周平が初めて自分の過去を打ち明け、タモツに謝って言う言葉が
”家族”というものを明確に定義していて忘れられない。

「家族だから嘘をつかないというのは、本当は違う。
嘘をついても隠し事をしても、それを受け入れるのが家族なんだ」

血のつながりも理由もなく、ただ優しさと許して受け入れる気持ちだけで繋がる人々。
みなそれぞれ本当の家族となるべき人を失っている。
その人々が、吹き寄せられたボートのようにこの岸に流れ着いて
肩を寄せ合って暮らしていくのだというラストにほっとして素直に安心する。

タモツ役の細見大輔さん、幽霊の父につっけんどんな態度をしながらも
30歳の誕生日に(幽霊が!)買って来てくれたシュークリームを
泣きながら食べるところが秀逸。
傷ついた分、必死に周平を信じてきた純粋な少年が
どこか幼さをまとった頑なな青年に成長した、その姿がとても自然。

幽霊の父親文平を演じた栗野史浩さん、白いスーツに身を包み軽快に出て来て
いつもタモツに「早くあっちの世界に帰れ!」と言われながらも
息子が気になって仕方ない様が、可笑しくて哀しい。
終盤、最高にカッコよく「じゃあな」と言って別れたのに
ラスト、また出て来てタモツに呆れられたのには笑ってしまった。
栗野さんの華やかな容姿となめらかな台詞、それに派手な衣装で
厳しい状況にある人々の話が一気に明るくなる。

この舞台は、厳しい現実とそれを笑い飛ばす人の底力のバランスが素晴らしい。
鄭義信さんによる、ベタなようで繊細なキャラが吐きだす台詞は
人の心の本質を突いていて真に迫る。
うまくいかない人生なら毎日見聞きしている。
たくさん辛い目に遭って、でも優しい人に出会うこともあって
人生は悪いことばかりじゃないということを
こうして舞台で、リアルなキャラクターが豊かな台詞で体現してくれると
何だかほっとして、私も大丈夫なのだと思えてくるから不思議だなあ。
ファニー・ガール

ファニー・ガール

シンクロ少女

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2013/10/04 (金) ~ 2013/10/14 (月)公演終了

満足度★★★★

選択の理由
「選択」を示すことは同時に「選択しなかった方」を強く意識させる。
どちらにしても「選択」とは痛みを伴うものなのだ。
シンクロ少女、平易な台詞と丁寧な演技で劇的な展開を“隣の出来事”みたいに見せる。
いつの間にかディープな人間関係に首までつかって2時間半。
空間構成と照明の上手さが印象的で
重いテーマと軽やかなキャラのバランスがとてもよい。

ネタバレBOX

舞台はシンプル、階段状になっていて2つの家族がそれぞれ小さなちゃぶ台に集う。
上の家族は10歳のシイちゃんと父親、母親は家を出て別の男の元へ走った。
下の家族は高校生のジュンとカスミ、オカマのサダハルの3人。
カスミは事故で死んだジュンの実母の姉だ。
カスミは性欲の無い処女だが、ジュンを育てるためにはもう一人の存在が必要と考え
オカマのサダハルと結婚した。 

シイちゃんは、父親が病気で亡くなった後かつて自分を棄てた実母の元へ行く。
新しい父親と彼の連れ子である妹がいるところだ。
高校生のジュンは、付き合っている彼女ではなく
親友ソノヤの彼女ミツコといる方が楽しいと感じている。

そして15年後…。
明らかにカスミたちと暮らした方が幸せだと思われるのに
実母の元へ行くことを選んだシイちゃん。
案の定シイちゃんの実母は再び別の男の元へと出て行き
シイちゃんの夫は血の繋がらないあの妹と不倫している。
ミツコはジュンと一緒にいると楽しいと自覚しながら、長く付き合ったソノヤと結婚した。
交通事故で失明したソノヤは、息子のショウタがジュンの子どもではないか
という疑念がぬぐえなくて、素直に愛することができない。
そしてミツコはジュンと不倫している…。

冒頭から一気にシイちゃんのキャラクターに惹き込まれた。
母親の記憶が無いシイちゃんが、ジュンに「ジュンちゃんのお母さんの話をして」とせがむ。
もう何度も話した、交通事故で死んだ母親の話をするジュン。
痛ましい話なのに悲惨な感じではなく、むしろ数少ない“母のエピソード”として
大切に、楽しげに語っている。
このシーンの“普通でないのにどこか温かい”感じが秀逸。
シイ役の浅野千鶴さんの作り過ぎない10歳ぶりが素直で良い。
15年後、結婚したシイちゃんにすんなり移行しているところも自然で無理がない。

シイちゃんを取り巻く人々のキャラがまた皆魅力的だ。
クールなカスミを演じる坊薗初菜さんがよくはまって、身勝手な実母に向かって
「私はシイちゃんをうちの養子にしてもいいと思ってる」と
啖呵を切る(ように私には見える)ところが素晴らしい。
行動は合理的だが、ちゃんと人の気持ちを見ている。

いい人達ばかりの中で、ひとり困ったちゃんがシイちゃんの実母カツコ。
演じる墨井鯨子さんの「私はもう昔の私じゃない!」と主張する
ご都合主義で結局何も変わらない女の、ムキになる台詞が上手い。
15年後、思った通り“いなくなってる”事実に、真実味を与える。

平易な言葉を紡ぐ台詞が共感を呼ぶ。
何より役者の気持ちが言葉と同時進行で高まって行くのが見てとれる。
それはとてもリアルで、観ている私の心も一緒について行くのだが
時々少し饒舌過ぎてインパクトに欠ける。
こんなにドラマチックな決断をするのに
あるひと言にスイッチが入って涙が止まらない…という
強烈なカタルシスに繋がらないことがちょっと物足りなかった。

いきなり始まるミュージカルにはちょっとびっくり。
BGMでなく、歌って踊らなければいられなかったのか…。

それにしても
どうして“こっち”じゃなくて“そっち”なんだ?
どこか失敗の匂い漂う“そっち”の選択をした理由は何だろう?
壊れるところを見なければ気が済まないのか、終わりにできないということか?
テーマの重さと、シイちゃんの軽やかさのバランスが絶妙で後味は悪くない。
シイちゃんの“多分もう結論は出ている”選択に思いを馳せながら
私は「選択」の理由を今も考えている。
花札伝綺

花札伝綺

流山児★事務所

Space早稲田(東京都)

2013/10/03 (木) ~ 2013/10/11 (金)公演終了

満足度★★★★★

詩人の台詞
昨年のインドネシア、英国、カナダと回った海外公演で喝采を浴びた作品。
“見世物”のだいご味、芝居の原点を感じさせるエネルギー溢れる舞台に
これがアングラであるとかなんとか、そういう括りなどどーでもよくなる。
役者陣と演出の充実ぶりに、レパートリーというシステムの良さを再認識した。
改めて“詩人が書いた台詞”の、言葉のすごさを感じる舞台だった。

ネタバレBOX

舞台中央にドラキュラが入るような棺桶が立てかけられ、蓋に時計が嵌め込まれている。
大正時代の下町の葬儀屋、この家の人間は
父親の団十郎始め猫に至るまで皆死んでいる。
一人娘の歌留多だけが生きていて、彼女は盗人・墓場の鬼太郎に恋して結婚すると言う。
団十郎は死んだ美少年に娘を誘惑するように持ちかけ、
歌留多を何とか死の世界へ取り込もうとするが…。

全員白塗りの顔でキョンシーみたいだから死者であることがすぐ分かる。
それが実に生き生きとしているから可笑しい。
着物をアレンジしたキッチュな衣装がカラフルでいかにも外国でウケそう。
歌って踊って、生きている者を死の世界へ取り込もうという目的に向かってまっしぐら。
「♪さあ、思い出してみな、死んでないヤツが一人でもいたか?♪」

のっけからこの価値観の逆転が素晴らしい。
「不完全な死体として生まれ、何十年かかかって完全な死体となるのである」という
テラヤマ自身の言葉通り、生きていることなど
完全なる死体になる為の通過点に過ぎないのだ。

墓場の鬼太郎がとても魅力的で、演じる伊藤弘子さんがタカラヅカのように素敵。
ソロも確かな歌唱力で、安心して聴いていられる。
何を盗んでも朽ち果ててしまうなら「視えないものを盗んでやる」という
盗人としての矜持も鮮やかに、死の世界でも変わらずこれを貫くところが痛快だ。

鬼太郎の仕事を助ける獄門次を演じた谷宗和さん、
登場人物の多くがカタギではないが、中でも裏街道を歩んできた人間らしい
軽やかな身のこなしや台詞に色気があってとても魅力的だった。

卒塔婆おぎんを演じた平野直美さん、
お歯黒のメイクとキョーレツなキャラで忘れられないが、歌も上手い。
すごい存在感で、舞台に出て来るとどうしても目がそちらに行く。

棺桶も使った出ハケが自然で人数の多さを感じさせないスピーディーな展開。
歌が話の流れを断ち切るような舞台も多いが、これはむしろ流れを加速させる。
その理由は歌詞とダンスの表現力だと思う。
歌詞が台詞と強くリンクしているから聴いていて無理がない。
そして振り付けが、芝居の続きとして違和感なく“演じられている”。
エネルギッシュな舞台だが、勢いで押し切るのではなく緻密なバランスが感じられた。

この日は流山児★事務所の次回作品「テラヤマ歌舞伎 無頼漢」の脚本を担当する
中津留章仁氏の姿もあった。
「作品を作ることは人と人とのぶつかり合い」という流山児氏。
テラヤマの詩的な台詞を、“論理”の中津留氏がどんな本にするのか、今から楽しみだ。
マイホームマイホテルマイパートナーハネムーン/久保らの歩く道

マイホームマイホテルマイパートナーハネムーン/久保らの歩く道

コーヒーカップオーケストラ

OFF OFFシアター(東京都)

2013/10/02 (水) ~ 2013/10/09 (水)公演終了

満足度★★★★

オカマの座長
自称“バカのできる劇団”というだけあって突き抜けっぷりが見事。
単なるおバカで終わらないのは、誰もが持つ不安を絵にして見せるからだ。
オカマのイチロウ、ちっちゃい不良、豪快な母…等のキャラが
キョーレツながら、ちゃんとしんみりさせるところをセットにしていて実に魅力的。

ネタバレBOX

婚約中のマサル(前田昴一)とシズカ(中尾ちひろ)は
マサルの友人オカマのイチロウ(後藤慧)の実家が営むホテルにやって来た。
イチロウと、離婚した父タロウ(ヨシケン)、母ハナコ(タカハシカナコ)の3人は
ここ数年、祭りの日だけ一緒に過ごしている。
祭りの夜、偶然の再会、シズカの隠された過去、そしてもっと大きなマサルの秘密。
“不安”と“前向き”がせめぎ合う中、マサルは決断を迫られる。
やっぱり別れた方がいいんじゃないか…。

出だしから何て素敵なオカマのイチロウ。
後藤慧さんはすべすべの脚で、背の低さもチャームポイントにしてしまう。
高校時代のカミングアウトシーンが切なくて良かったなあ。

ちっちゃい不良のアツシを演じたモリサキミキさん、
一貫したテンションとなりきりぶりで、素顔が思い浮かばないほど。
あの風貌、あの話し方でだんだん説得力を増してくるからすごい。
「俺を呼ぶときはこの鈴を鳴らしな」って(笑)

母ハナコ役のタカハシカナコさん、
再婚話がマジかと思えるほど(事実マジなのか今もわからない)迫真の告白。
相撲→プロレス→恋するおばさんと、振れ幅マックスの演技が素晴らしい。

父タロウ役のヨシケンさん、
他で押しの強い役やスマートな役をいくつか拝見したが
ダメダメ、ぐだぐだの”情けな系”もまた似合うと知った。
後悔しながら生きる父親が、ストーリーにリアルな共感を呼ぶ。

過去の再現ドラマを挿入して登場人物を説明するところが
自然ですんなり納得させる。
オーソドックスな構成が突出したキャラを活かし、舞台全体に安定感を与える感じ。

脚本の上手さと同時に、役者陣の力量があって初めて成立する舞台だと思う。
スケジュールの都合でもう1本の「久保らの歩く道~新たなる人生の旅立ち~」が
観られないのが残念、こちらもすごく観たくなった。
それと、やっぱり物販で手ぬぐい買えば良かった…(ちなみに400円)。
悪夢六号室【東京大阪2都市開催】

悪夢六号室【東京大阪2都市開催】

ニコルソンズ

駅前劇場(東京都)

2013/09/27 (金) ~ 2013/09/29 (日)公演終了

満足度★★★★

ダンスがすんだらいいこと言うじゃん
ダンスが上手いとこんなにも全体のクオリティが上がるのかと改めて実感。
“ヤクザ”、“オカマ”、“焦ってる30代の女”、“マザコン男”、“愛人体質”等々
いわゆる典型的なそれぞれのキャラが、表面上だけでなく丁寧に描かれていて
踊ってもギャグってもちゃんと中心に戻ってくるから、舞台に安定感がある。
いいこと言うじゃないの、この人…みたいな台詞がキマって楽しい。
初日のせいか、中盤ちょっとリズムに乗り切れなくて間延びした印象だが
そこはどんどんシャープになるだろう。
あー、なんか久しぶりにケラケラ笑っちゃったな。

ネタバレBOX

中央に四角いボックスが4つ置かれ
太った男が口にテープ、手錠、トランクス姿で座っている。
「拉致ってごめんなさいね~」という長身でオカマの殺し屋…。
何と殺し屋は、「これはあんたの妻の依頼だ」と言う。
男は妻の本当の姿を面白可笑しく語らなければならない、
殺し屋が退屈したとき、彼は殺されてしまう…。
彼の口から語られる妻の過去、浮気の真相、マザコンの事実…。
この事件を仕掛けたのは一体誰なのか?

いやもう鮎子役のJunko☆さんのダンスが素晴らしい!
ダンスを取り入れる劇団はたくさんあるが、正直踊らない方が…というレベルもある。
Junko☆さんだけでなく、玉上鈴子さん始め男性陣もキレ良く踊って楽しい楽しい♪

ヤクザと堅気、嫁と姑、ママとマザコン息子とか、典型的な人物像ながら
普遍的な人の気持ちが台詞になっていて腑に落ちる。
オカマ役の立山誉さん、きれいな立ち姿でほれぼれするようなオカマぶり。
ミカ役の玉上鈴子さん、姑役の赤星まきさんなど吹っ切れた女優陣が魅力的。
生まれてすぐからGPSを埋め込まれたという息子を演じた西郷豊さん、
この人の表現力が話を引っ張って行く感じで面白かった。

ニコルソンズ、役者がそろっている所へ実力派の客演でとても充実している。
脚本にサスペンステイストと安定感があり、笑いのバランスも絶妙。
終盤キメの台詞が気持ちよく響いて人物像の魅力が増すところがまたいい。
ただの軽いコメディに終わらない味わいがあるところが強みだと思う。
ニコルソンズ、ぜひまた観たい劇団。
30才になった少年A

30才になった少年A

アフリカン寺越企画

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2013/09/24 (火) ~ 2013/09/26 (木)公演終了

満足度★★★★★

アフリカン寺越の血管
選んだテーマの大きさにひるむことなく
アフリカン寺越の、こめかみの血管が切れそうなほどの直球勝負。
このストレートさが、複雑な現実からシンプルに太い動脈を取り出して見せる。
上から”更生させる者”が登場しないことで”更生しようとする者”の目線が際立った。
理不尽でも自分勝手でも、リアルな叫びから血の通った人間像が立ちあがる。
店長、あなたに彼を殺すことはできない。

ネタバレBOX

舞台正面にずらりと並んだ漫画本。
上手に文机、きちんと置かれた描きかけの漫画と筆記用具、インク。

新聞店に住み込みで働く30才の男(アフリカン寺越)の部屋。
彼は14歳のときに自分の漫画をけなした同級生を橋の上で突き飛ばし死なせた
という過去があり、3年前この町に戻って来た。
同僚の男(中川拓也)もまた、強制わいせつの犯罪歴がある。
新聞店の店長(末廣和也)は彼らの過去を承知で雇っている。

30男を見かけたとやって来る元保護司の女(橋本亜紀)、
同僚の彼女(森由月)らが次々とこの部屋を訪れる。
そして町の噂で“人殺しがいる店”で働きたくない、と辞めて行く他の従業員。
自分が原因だと、この部屋を出て行く準備をしている30男に
「橋の上から突き落としてお前を殺してやりたい」と迫る店長、
「人を殺した僕はいつか誰かに殺されるんだろうと思ってました」と答える30男…。

“スキンヘッドに目力ありまくり”という風貌のせいばかりでなく
アフリカン寺越の存在感が際立つ舞台。
刑務所のような部屋の整理整頓ぶりや、同僚カップルに対する
「過去は過去、今やってないなら何にも問題ない!」という言葉、
あの日喧嘩の原因となった漫画を今も描き続ける姿に
彼の“やり直すのだ”という切なる気持ちがあふれている。
意識していないかもしれないが、そうせずにいられない、どこか切羽詰まった日常。
「もしあの時…だったら」という彼の慟哭のシーン
私たちの「あ~あ、もうちょっと…だったら良かったのになあ」という
“日々の残念”の延長線上に、犯罪の偶発性と危険があることを意識させて秀逸。

「いつ帰って来たの」とやって来た元保護司が上手い。
オーバーアクト気味の演技と無遠慮な言動から、
最初は“噂好きな世間代表”みたいなキャラかと思ったが
立ち直って欲しいあまり平手打ちをしたことから保護司をクビになった熱い人で
今も彼の理解者であることがじわじわと伝わって来る。

互いの過去を打ち明け合った同僚カップルのエピソードが良かった。
犯罪当事者でさえ、
“自分の過去は受け入れて欲しいのに他人の過去は受け入れ難い”という現実。
まして犯罪者に縁のない世間の人々はどうか、容易に想像がつく。
ぐだぐだ迷う同僚の男がとてもリアルだった。

以下、私の希望的結末…。
店長を頼ってこの街に戻って来た30男に、終盤
「殺人者が怖かったから当り障りなく接していた」と告白する店長、
それは嘘ではないだろう、でもそれだけではないはずだ。
この3年間、店長は過去に罪を犯した者を雇って一緒に仕事をしてきた。
更生とは「自分を信頼してくれる人に応えたい」という気持ちだと思う。
彼らのその気持ちが仕事を支えて来た、その事実に店長は気づくべきだしきっと気づく。
犯罪者であってもなくても、「信頼してくれる人に応える」生き方は同じじゃないか。
もう一人過去に罪を犯した者を雇って、みんなで信頼し信頼される仕事をしよう。
それが“更生を信じてもらう”唯一の方法だ。

漫画を段ボールに詰めるアフリカン寺越の姿を見ながら
「絶望するな」と叫びたい衝動に駆られた。
教育論、更生哲学を持ち込まずにストレートな台詞で魅せる企画、素晴らしいと思う。

アフリカン寺越、あなたの別の顔、別の台詞も観てみたくなった。
『起て、飢えたる者よ』ご来場ありがとうございました!

『起て、飢えたる者よ』ご来場ありがとうございました!

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2013/09/19 (木) ~ 2013/09/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

自己批判します
連合赤軍あさま山荘事件を題材にした作品。
異様なルールを持つ組織の凄惨なリンチ、生中継や
女性リーダーの人間性が話題になった事件だが
実は閉鎖的な集団における“思想に理想を求め過ぎる頭でっかち”達の暴走劇でもあった。
組織の中で自分を守るために強いものに服従し、暴力に名目をつけて正当化する。
その根底にある人間の弱さをえぐるように描いた脚本が素晴らしい。
ラスト、銃口の前にたたずむ坂上の表情がこの組織の終焉を示して秀逸。

ネタバレBOX

対面式の客席から見下す舞台は、いかにも山荘のリビングらしい部屋だが
テーブルの上にごつい荷物が積み重なっていてのどかさはない。
男たちの「起て、飢えたる者よ」というインターナショナルの歌が次第に大きくなる。

軽井沢の山荘に連合戦線の5人が逃げ込み、管理人の妻を人質に立てこもる。
リーダーは紳士的に接するが、やがて彼女を“オルグしよう”という意見が出る。
平等な世の中を作るために闘っている自分たちは、人質などという不平等を否定する、
理念を伝え教育を施し、彼女を同志にして共に闘おうというのである。

いやいやそれは無理でしょ、という思惑に反して彼女は驚くべき変貌を遂げる。
夫に従い自分の意志を持たず、責任からも逃れていた自分を認め総括したのちは
覚えたての革命用語を駆使して男どもを一喝、
「総括」できない同志を批判して黙らせ、ついには5人を従えて君臨する。
そして(男たちが極度に怖れる)「永山さん」と呼ばれるようになる。
組織はどこかで“永山さん”を必要としている、という怖ろしさ。
渋谷はるかさんの「言葉ってすごいわね」という台詞に実感がこもる。

こうして女が突出する一方で、男たちは分裂していく。
せっかく永田から逃れたのに、結局同じことをして仲間を死に追いやり、5人は3人になる。
組織と思想の終わりを悟った坂上の決断、それを覆す“永山さん”。
“最後の闘士”はついこの間までおどおどしていた管理人の妻だ。
その妻がひとり、警官隊に向かってライフルを構える…。

思想が偏っているというより、運用する人間が偏っていたということが伝わってくる舞台。
疑問を持ちながらもやらなければやられる恐怖心から、皆暴力に加担していく。
リーダー坂上役の岡本篤さん、抑えた台詞がキャラに陰影を与えて
死の瞬間まで魅力的な人物像を作り上げている。
一人別組織から加わった坂内を演じた浅井伸治さん、
孤立した立場ゆえの不安と焦燥から
常に優位に立とうと激しい態度に出る姿が痛々しいほど伝わってくる。
江藤兄を演じた西尾知樹さん、最初に処刑された長兄の復讐のため
組織を誘導して来たと告白する後半、
真意を明らかにする心情が切なく、キャラに奥行きがあった。

管理人の妻を演じた渋谷はるかさん、
変貌のプロセスに無理を感じさせない演技が素晴らしい。
消え入りそうな声から恫喝する声まで、自在な台詞が舞台全体をけん引する。
総括後に夫からの電話に出た時の声、男たちが思わず凍りつくような変化を見せる。

小さな日めくりを破いて時間の流れを示す演出が効果的。
照明による切り取り方もとても良かったと思う。

人を幸せにするどころか死人を増やすとは、何と虚しい思想だろう。
思想と社会、社会と組織、組織と個人、個人と自由、
そして人は誰でもこんな風に変わる…。
劇場を出てしばらくはドミノのように次から次へと思いめぐらさずにはいられなかった。
駆け抜けるような2時間超の充実。
3年ぶりの再演に心から感謝します。
破滅志向

破滅志向

小西耕一 ひとり芝居

RAFT(東京都)

2013/09/18 (水) ~ 2013/09/22 (日)公演終了

満足度★★★★

地雷を踏みたがる男
3回目となるひとり芝居に、出演者は二人いる。
天を仰いで「あー、俺幸せだ、このまま死にたい!」みたいなことを叫ぶ男と
その男と付き合って別れてひどいことされる女の二人だ。
だが基本的にこれはひとり芝居だと思う。
脚本の構成やキャラの設定、当日パンフやブログも含めて、
自分のダメダメぶりをさらしつつフィクションの世界へするりと誘いこむ手法に
書き手としてのしたたかさと進化を感じる。

ネタバレBOX

高校で化学をおしえるソウイチ(小西耕一)は
感激しやすくすぐに「死んでもいい!」とか口走る男だ。
サエコ(菊地未来)のことが大好きで結婚するが
あることをきっかけにサエコはソウイチのもとを去ってしまう。
そしてソウイチの陰湿な嫌がらせが始まった…。

別れのきっかけがシリアスで、思わず考えさせられるが
じゃあソウイチは一生それを背負っていけるのかと言えばまず出来そうもない。
全てに理由を必要とする彼は、逆に理由さえあれば何でも正当化する男だからだ。
その証拠に自分の思いを受け入れないサエコを徹底的に傷つけようとする。
「俺の気持ちを踏みにじった」
「俺を裏切った」
彼にとってそれは彼女に制裁を加える十分すぎる理由だ。

ひとり芝居と言いながら二人出演するが
過去2回のひとり芝居の延長線上にあることを感じさせる。
サエコの反応は「無理」「怖い」の二つの言葉に集約され、ほぼ受け身。
今どきの女性としてはこのタイプの男に対する警戒心がなくあまりにも無防備だ。
それは、テーマが“破滅志向”の男の一方的な主張と行動であって
最初からコミュニケーションが欠如している関係だからだと思う。

菊地さんが、サエコと教え子のマナミの二役を演じたのはとても面白かった。
つまり誰でもいいんじゃないの?って感じで
ソウイチの身勝手な主張と行動の落差が際立つ。

大体電話で「君じゃないとダメなんだ、やり直そう」と泣いて謝ったけど
もうその時点で彼は決定的なブツを彼女に宛てて送りつけているのだ。
上手くいくなんてこれっぽっちも思わずに泣いてみせ、ダメ押しの反応を確かめる陰湿さ。
ちょっとでも“いい奴”の欠片を残そうなんて全く考えていないところが潔い。

舞台に二人が立つことで位置関係が明確になり
会話のテンションが上がってテンポも上がる。
構成の上手さもあって一気に破滅へ快進撃。

転がり落ちる自分を眺めながら“あ、これ芝居に使えそう…”とか
どこかクールに観察するスタンスが小西さんの個性だ。
言わなきゃいいのにあえて地雷を踏んで、木端微塵にならなければ気が済まない。
そうしなければ終わりにできない。

小西さん、地雷 探しながら歩いてるよね?
最高傑作 Magnum Opus “post-human dreams”

最高傑作 Magnum Opus “post-human dreams”

劇団銀石

ギャラリーLE DECO(東京都)

2013/09/17 (火) ~ 2013/09/22 (日)公演終了

満足度★★★

吠える哲学
人間とロボットとの違いを問いかけ、そこから始まる主役の交代、
そのビフォー・アフターを4つのエピソードから成るオムニバスで見せる。
シリーズで取り組むテーマが時代を反映して魅力的だ。
饒舌な哲学を叫ぶ台詞量に圧倒されるが、あんまり吠えるとキャラが霞む。
冒頭のエピソードは、映画によくある”エイリアンはどいつだ?!”状態だが
もう少しサスペンスフルな展開で惹きつけて欲しかった。
主役交代の前夜を描くエピソードをラストに持って来たのは効果的。
このロボット役2人、抑制の効いた台詞でキャラが際立つのが面白い。

ネタバレBOX

舞台正面奥にはプランターや盆栽のような鉢が並ぶ棚。
中央の四角い柱に括りつけられているのはいくつものスピーカー。
下手に上へ上がる階段がある。
今や「労働」はロボットの仕事になり、人間は怠惰で堕落した生活を送っているという設定。

エピソード1:人間であることの証明
4人の中に1人だけロボットがいる、それを探し出して特定せよ、
というバイトに応募した4人が自分は人間だという証明に躍起になる…。
カレル・チャベックの戯曲「R.U.R」が多大な影響を与えたと当日パンフにあるが
100年近く前に書かれた戯曲の科学的背景に忠実なのか
“針で突いて赤い血が出たら人間”…みたいなレベルがちょっと物足りない。
演出の指示かもしれないが、役者さんの声が大きくて逆にメリハリがなくなったのが残念。
劇場に動かし難い柱がある以上、役者の動きに何か工夫が必要と感じた。

エピソード2:人とロボットの共存
ついに全世界のロボット全てに電気信号が送られ、彼らが一斉に蜂起する。
ロボットを生み出した研究所では、「話し合えばロボットと共存できるかも…」と
切羽詰まったとはいえ、科学者としてちょっと甘いんじゃないか的な判断をして案の定…。
もう少しテンポ良く展開したら、
ロボット製造技術を独占するため一切の資料を残さなかった企業のエゴとか
混乱→絶望→取引案→絶望→話し合おうという流れがくっきりしたかと思う。

エピソード3:最後の1人
たった1人生き残った人間はただの農夫だった。
ロボット達は彼を“神”と呼び「どうかロボットの製造方法をおしえてください」と祈る。
何もできない孤独な農夫は奇跡を願いつつ世話係の旧型ロボットに執着するが
彼女はロボットとしての寿命が尽きようとしていた…。
必要な人間とそうでない人間の区別もなく殺してしまったロボットの浅はかさが
やっぱり人類にとって代わるほどのものではないんだなあと感じさせる。
地球を支配するにはもう少し頭が良くないとダメなんだよ、解ったかね明智君って感じ。

エピソード4:きっかけ
4つの中で一番舞台空間が完成していた作品。
“きっかけ”があれば、ロボットにも“愛”が解るのではないかと期待する科学者の男。
孤独な彼の助手は旧型ロボットだったので、ロボット言語しか話せず
コミュニケーションがうまく取れない。
そこで科学者は新型ロボットを導入して通訳させようと考える。
しかし旧型ロボットは、誰よりも科学者を理解し感謝の心を持っていたのだった…。

人に有ってロボットに無いもの、コミュニケーションのあり方などを考えさせる。
それまでの饒舌さが抑えられ、少ない台詞と静かな間で初めて情緒が生まれた。
表情の変化も自己主張もない、解説するだけのロボットに個性が生じるのが面白い。
まさに“手に手を取って”2体のロボットが外の世界へと旅立つって、いいじゃないか。
たとえその結果がロボットの一斉蜂起であり、人類の終わりであったとしても。

手法に粗さが目立つが、一環したテーマを追い続ける姿勢は評価したい。
“最高傑作”を作った人間の皮肉な行く末、次に夢を見る者は誰か、
次回公演の「A.I.」にその答えがあるのだろうか。
花と魚(第17回劇作家協会新人戯曲賞受賞作品)

花と魚(第17回劇作家協会新人戯曲賞受賞作品)

十七戦地

王子小劇場(東京都)

2013/09/12 (木) ~ 2013/09/17 (火)公演終了

満足度★★★★★

花と魚と”手”
生命体としての地球と人間というダイナミックなテーマ、
深い人物造形、ねっとりした地方都市の人間関係、
そして息もつかせぬ緊迫した台詞の応酬。
バリバリ宮崎弁でところどころ理解できないのだけれど
そんなことぶっ飛ばすリアリティと勢いを持っている。
出演者全員、そのキャラクターが立体的で本当に素晴らしい。
今この作品を再演してくれたことに心から感謝したいと思う。

ネタバレBOX

対面式の客席に挟まれた舞台スペースは極めてシンプル。
壁面に上から下がっている魚網は、何かを祝うかのように紅白の布で編まれている。
その向かい側には集会所の椅子や茶器などこまごました備品が置かれている。

もっと観光客を誘致しようと準備している宮崎県の小さな漁村に
怪物“足のある巨大な魚”が現れて次第に増殖、住民生活を脅かす。
民間の野生生物調査員が呼ばれ、対策を相談するが
村は“保護”と“駆除”とで真っ二つに割れる。
村に伝わる伝説、意図的に流される噂、組織と個人の葛藤、信頼と裏切り…と
有事の際の人間模様てんこ盛りだ。
だがあっと驚く結末は、どこか神話的でどのかでさえある。

感情的に主張し、相手を存在から否定する会話の応酬は観ていて心拍数が上がる。
この会話が早口の宮崎弁でところどころ聞き取れず良く分からない。
でも方言なんてどこもそんなもので、正確にはわからないけど大体理解できる。
この”手加減しない方言”が、冷静さを欠いた会話に緊迫感を与え
シュールなファンタジーっぽい展開を超リアルに見せる。

海千山千でしたたかな村人の思惑を複雑に交差させつつ
困難に立ち向かう人々を描いたかと思うと
“所詮人智の及ばぬところなのだ”というオチが極めて爽快。
生命体のサイクルの中で、ほんの一瞬もがいて終わる人間など
塵のような存在だと感じる。

「祈っても願ってもかなわないことがある」と主人公七生(北川義彦)が言う。
謙虚さを喪った人類に、主役の座を明け渡す以外どんな未来があるというのだろう。
「魚が陸へ上がり、海に花が咲く、そして人は魚になる」という村に伝わる言い伝えが
”ご神体”の異様な姿と共に妙な現実味を帯びてくる。
その中で、諦観しつつ同時に諦めない七生の選択は人間の向日性を見るようで清々しい。

へらへらしているようで一番事態を冷静に見ている須田大和を演じた澤口渉さん、
へらへらぶりも徹底していたが、後半七生にタオルを渡すところなど
大和の深い気持ちが視線や一挙手一投足に表れていて素晴らしかった。

婦人部部長の須田日出子を演じた峯岸のり子さん、
50代で演劇を始めた方と知って本当にびっくりした。
風琴工房の「国語の時間」やガレキの太鼓の「地響き立てて嘘をつく」でも
さらりとした手触りながら要としての存在感ありまくりだった。
今回の天然なんだかしたたかなんだかよくわからない、
でも事の核心の近くにいることは確か…という役にハマり過ぎるほどハマってる。
力の抜けた居ずまいが絶妙。

野生動物の保護を説くセンターの所長 佐糖勇樹さん、
嘘つきで他人を叩きのめすように非難し村中を引っかき回す那美江役鈴木理保さん等
徹底した隙のないキャラの構築が見事で、人間ってこういうとこあるよなと思わず納得。

この“壮大なテーマを地面に下ろして来て人間とすり合わせるような作業”に
緻密に黙々と(勝手に想像している)取り組む柳井祥緒さんという人を尊敬する。
今この若さで、この充実ぶりにこれからも期待せずにはいられない。

十七戦地のフライヤーはいつも端正で美しいが
今回のこの“手”のアップの静謐な絵はどうだ。
一目で座長北川義彦さんと判る手、物語の結末を左右する手だ。
花(藤原薫)が描く絵は全て現実のものと成る。
足のある魚も、そして最後に描いた“赤ちゃん”の絵もきっと現実のものとなるだろう。
その赤ちゃんを抱く手となることを確信させる、そんな手をしている。
カルナバリート伯爵の約束 【池袋演劇祭‘優秀賞’受賞】

カルナバリート伯爵の約束 【池袋演劇祭‘優秀賞’受賞】

メガバックスコレクション

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2013/09/13 (金) ~ 2013/09/16 (月)公演終了

満足度★★★★

できない約束
車両事故の現場で監視に当たる二人の兵士が上官から受けた謎の指示。
「応えるな、出るな、信じるな、そしてどんな小さな約束もするな」…。
設定がシンプルな分、心情がくっきりと浮かび上がって感情移入しやすい。
登場しないカルナバリート伯爵のエピソードが実にうまく機能している。
3年ぶりの再演に感謝したいと思う。

ネタバレBOX

1953年9月、大雨によるがけ崩れで列車が脱線、崖下に転落した車両事故の現場である。
下手には折れた大木とその手前に白く囲われたサークル、
正面から上手にかけては傾いた車両らしいハコが横たわっている。
床は混乱した現場らしくでこぼこしている。
下手に2カ所、正面車両の奥、上手車両の奥も出ハケが出来そう…と思っていたら
車両の下から人が這い出して来てびっくりした。

上官の命令の意味が判らないまま、塩で囲われたサークルの中にいる2人の兵士。
彼らが告げられた命令からして、もう謎だらけでいきなりつかまれる感じ。
やがてさっき2人で収容した遺体と同じ格好の人物が次々と現われて
2人は驚愕、パニックになるが、彼らの会話を聞いているうちに
死者の魂は朝までその場にとどまり、朝になると向こうの世界へ旅立つらしいと判る。
そして国や軍が隠そうとする事故原因が明らかになるにつれ
兵士は命令と自分たちの役割に疑問を抱き始める。
命令に背いてサークルから踏み出し死者たちと語り合い、仲良くなる2人。
だが死者たちの本当の目的は別にあった…。

役者がマジでつまづくほど混乱した現場がリアルに作られている。
小さな舞台にこのセットを組み、車両の下に人が入れるスペースまで作ったのに驚く。
時間軸のずらしとか、生死の逆転とか、凝った仕掛けがなく
比較的シンプルな設定であるだけに、登場人物の心情が丁寧に描かれる。

私たちは、出来ない約束に縛られながら生きている。
死んだ人たちや家族、職場、そして自分自身に課した約束=“ねばならぬ”に。
約束に固執する死者たちの気持ちが、切羽詰まって怖ろしくも哀れだが
そこから逃れるのではなく、出来ること出来ないことを見極めた上で誠実でありたいという、
作者の真摯な気持ちがストレートに伝わってくる。

兵士バロンを演じた新行内啓太さん、
揺れに揺れた末の決断に人間味が溢れ、誠実さが台詞ににじむ。
出来過ぎの台詞でもこの人が言うと、このテの展開に泣かないはずの私が
思わずうるっと来るから不思議だ。
キャラ作りが巧みなのか、新行内さんの素のキャラか…。

兵士アーツを演じた日比野線さん、
心境の変化にメリハリがあってとても良かった。
軽妙さと真面目さを併せ持つ人物像が鮮やか。

元軍人を演じたキリマンジャロ伊藤さん、
ちょっとくたびれた味わいがあり若い人の中で光っていた。
“出汁の効いた”台詞が素晴らしい。
ザック長官(星祐樹)との謎の過去についてスピンオフが出来そうなほど
奥行きを感じさせるキャラクターだ。

謎の少女エーデルを演じた本橋舞衣さん、
透明感があって雰囲気はあるが、声が聞きとれない。
空調の音に負けてしまって残念。

2010年の初演から約3年、この間には東日本大震災や福島の原発事故、
そして中国では“事故列車の埋め戻し”などもあった。
国や企業のやることは昔からどこも同じ、と言ってしまえばそれまでだが
あまりにもこれから起こることを予測していたようで
今この作品を再演する意義を強く感じる。

全ての魂は、生きている人々と約束したがっているという。
ならば私も、バロンのように応えられたらと思う。

あなたのことを決して忘れません。
ちゃんと生きていきますから、ずっと見ていてください。
それを約束します、と。

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