『武器と羽』 公演情報 Oi-SCALE「『武器と羽』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    林灰二という人
    脚本の構成と“登場人物全員が嘘をついている”という設定が面白い。
    前説からするりと本編に入るあたり、BGM、照明、都市伝説、何気ない“哲学”、
    そしてラストで見せる奇妙な“都会における秘密の共有”と真実…。
    全編に林灰二という人のセンスと軽やかさがあふれている舞台。
    追いつめられながら、開き直ったしたたかさを併せ持つ登場人物たち。
    その微妙な揺れを表現する役者陣もはまっている。
    林灰二さん、あの面白い前説は嘘じゃないですよね?

    ネタバレBOX

    案内の人がライトで足元を照らしてくれるほど劇場内は薄暗い。
    舞台上には工事現場のコーンが数個並んでいるが、中に電球が入っていて
    緑色っぽい、青っぽい光を放っている。
    劇場を斜めに貫く通路が出来ており、コーンはそれに沿って置かれている。

    前説を終えて客席に背を向けると、林灰二は公園で友達を待つ男になる。
    奥から友人がバイクを押して出て来て、この公演に幽霊が出るという噂話などしながら
    二人は駐輪場を探して劇場の外、受付のあるスペースへと出て行く。
    この長い通路が公園の往来となり、下手に公園のベンチ、
    上手には警察の取り調べ室がある。

    事件は、公園で腐乱死体が発見されたことから始まる。
    問題はその周囲の、掘りかけの穴らしきものだった。
    それのおかげで単なるホームレスの死は、殺人事件ではないかと疑われることになる。
    そして同じこの公園で、カッターナイフによる通り魔事件が連続して起こる…。

    登場人物が全員嘘をついていることがキモである。
    腐乱死体の第一発見者、通り魔事件の被害者二人、自首して来たコンビニの男、
    そして捜査する警察官も全員嘘をついていて
    例えば腐乱死体の第一発見者は猫好きで毎日えさをやりに来るが、
    実はそのえさに農薬を混ぜている。

    元を辿れば腐乱死体となったホームレスの男(林灰二)が
    「俺を殺してくれ」とコンビニの男(池上幸平)に頼んだことが発端だった。
    ホームレスの男は誰かのために自分の人生も命も棒に振った。
    そして自分の中の“悪”を許さず罰したことにより“神”の如き存在となった。
    コンビニの男と通り魔の被害者(川元文太、肥後あかね)の3人は
    公園に通って腐乱していく遺体を見守り、秘密と安らぎを共有する。
    そして「僕たちも“神”のように、悪を退治しなければならない」と
    コンビニ男は二人にカッターナイフを渡し、
    3人はそれぞれの“悪”をやっつけるべく実行に移すのである。

    時間を遡って行く見せ方、照明や映像の使い方が上手い。
    嘘つきたちのエピソードが丁寧なので嘘が薄っぺらでなく、ちゃんと理由が見える。
    ホームレスが、「空を飛びたい」と言うコンビニ男に
    「飛べるよ。羽ならあるじゃない、見えないの?
    僕には見えるよ、黒い羽が」
    と告げる場面。
    素朴な風貌で淡々と、だがあまりにも当然のように告げるので思わず気押されるほど。
    「真実か否か」ではなく「信じるか否か」が問われる瞬間だ。
    林灰二という人の素のような演技が、あり得ないことに説得力を持たせて秀逸。

    見えていないだけで“武器と羽”は誰もがセットで持っている物かもしれない。
    「自由である事は何よりも尊い」と言う林灰二さん、
    次にあなたが解放してくれる世界を、また観たいと思う。

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    2013/10/26 01:57

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