ファニー・ガール 公演情報 シンクロ少女「ファニー・ガール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    選択の理由
    「選択」を示すことは同時に「選択しなかった方」を強く意識させる。
    どちらにしても「選択」とは痛みを伴うものなのだ。
    シンクロ少女、平易な台詞と丁寧な演技で劇的な展開を“隣の出来事”みたいに見せる。
    いつの間にかディープな人間関係に首までつかって2時間半。
    空間構成と照明の上手さが印象的で
    重いテーマと軽やかなキャラのバランスがとてもよい。

    ネタバレBOX

    舞台はシンプル、階段状になっていて2つの家族がそれぞれ小さなちゃぶ台に集う。
    上の家族は10歳のシイちゃんと父親、母親は家を出て別の男の元へ走った。
    下の家族は高校生のジュンとカスミ、オカマのサダハルの3人。
    カスミは事故で死んだジュンの実母の姉だ。
    カスミは性欲の無い処女だが、ジュンを育てるためにはもう一人の存在が必要と考え
    オカマのサダハルと結婚した。 

    シイちゃんは、父親が病気で亡くなった後かつて自分を棄てた実母の元へ行く。
    新しい父親と彼の連れ子である妹がいるところだ。
    高校生のジュンは、付き合っている彼女ではなく
    親友ソノヤの彼女ミツコといる方が楽しいと感じている。

    そして15年後…。
    明らかにカスミたちと暮らした方が幸せだと思われるのに
    実母の元へ行くことを選んだシイちゃん。
    案の定シイちゃんの実母は再び別の男の元へと出て行き
    シイちゃんの夫は血の繋がらないあの妹と不倫している。
    ミツコはジュンと一緒にいると楽しいと自覚しながら、長く付き合ったソノヤと結婚した。
    交通事故で失明したソノヤは、息子のショウタがジュンの子どもではないか
    という疑念がぬぐえなくて、素直に愛することができない。
    そしてミツコはジュンと不倫している…。

    冒頭から一気にシイちゃんのキャラクターに惹き込まれた。
    母親の記憶が無いシイちゃんが、ジュンに「ジュンちゃんのお母さんの話をして」とせがむ。
    もう何度も話した、交通事故で死んだ母親の話をするジュン。
    痛ましい話なのに悲惨な感じではなく、むしろ数少ない“母のエピソード”として
    大切に、楽しげに語っている。
    このシーンの“普通でないのにどこか温かい”感じが秀逸。
    シイ役の浅野千鶴さんの作り過ぎない10歳ぶりが素直で良い。
    15年後、結婚したシイちゃんにすんなり移行しているところも自然で無理がない。

    シイちゃんを取り巻く人々のキャラがまた皆魅力的だ。
    クールなカスミを演じる坊薗初菜さんがよくはまって、身勝手な実母に向かって
    「私はシイちゃんをうちの養子にしてもいいと思ってる」と
    啖呵を切る(ように私には見える)ところが素晴らしい。
    行動は合理的だが、ちゃんと人の気持ちを見ている。

    いい人達ばかりの中で、ひとり困ったちゃんがシイちゃんの実母カツコ。
    演じる墨井鯨子さんの「私はもう昔の私じゃない!」と主張する
    ご都合主義で結局何も変わらない女の、ムキになる台詞が上手い。
    15年後、思った通り“いなくなってる”事実に、真実味を与える。

    平易な言葉を紡ぐ台詞が共感を呼ぶ。
    何より役者の気持ちが言葉と同時進行で高まって行くのが見てとれる。
    それはとてもリアルで、観ている私の心も一緒について行くのだが
    時々少し饒舌過ぎてインパクトに欠ける。
    こんなにドラマチックな決断をするのに
    あるひと言にスイッチが入って涙が止まらない…という
    強烈なカタルシスに繋がらないことがちょっと物足りなかった。

    いきなり始まるミュージカルにはちょっとびっくり。
    BGMでなく、歌って踊らなければいられなかったのか…。

    それにしても
    どうして“こっち”じゃなくて“そっち”なんだ?
    どこか失敗の匂い漂う“そっち”の選択をした理由は何だろう?
    壊れるところを見なければ気が済まないのか、終わりにできないということか?
    テーマの重さと、シイちゃんの軽やかさのバランスが絶妙で後味は悪くない。
    シイちゃんの“多分もう結論は出ている”選択に思いを馳せながら
    私は「選択」の理由を今も考えている。

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    2013/10/10 00:32

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