『うれしい悲鳴』/『太陽とサヨナラ』(終演しました! ご来場ありがとうございました!) 公演情報 アマヤドリ「『うれしい悲鳴』/『太陽とサヨナラ』(終演しました! ご来場ありがとうございました!)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    圧倒する台詞
    ひょっとこ乱舞時代も含めて、私にはこれが初めての広田作品。
    冒頭から“伝わる”台詞の素晴らしさに圧倒された。
    劇場の広さに負けない声と滑舌、聴きとりにくい台詞もなく豊かな表現力が素晴らしい。
    役者さんは大変だろう長台詞満載の芝居は、若干饒舌で長さを感じるものの
    最後まで柔軟なパワーにあふれていて飽きさせない。
    社会や政治に対する明快な批判と、詩情豊かな台詞、
    広田さんって両方書ける人なんだなあ。

    ネタバレBOX

    近未来の日本では、有権者が提案した政策案を政府が抽選で法律化するようになる。
    制定された法律は“アンカ”と呼ばれ例外なく実行される。
    実行するのは“泳ぐ魚”と呼ばれるエリート国家公務員集団だ。

    泳ぐ魚のメンバーマキノ久太郎(西村壮悟)は、
    子どもの頃エレベーターに閉じ込められる事故で父と弟を喪い、自分は痛覚を失った。
    その久太郎が、アンカ遂行中に出会ったミミ(藤松祥子)と恋に落ちる。
    ミミは、“なんでも過敏症”で無菌状態の部屋から出ることが出来ない。

    やがて新たなアンカにより、植物状態の患者は移植のために臓器を提供することになる。
    それは、くも膜下で倒れたミミの母親を殺すことを意味する。
    そしてミミは、「母親を殺すなら私も殺せ」と一歩も譲らない。
    母親の臓器は取り出され、決断を迫られた久太郎はついにミミの首に手をかける。
    その直後、政権は倒され、泳ぐ魚は解散となった…。

    痛覚とは何だろう。
    痛覚を持たない久太郎の方が、泳ぐ魚の他のメンバーよりずっと痛みを知っている。
    にもかかわらず組織に抗えなかった彼は、ミミを殺してしまう。
    組織の空気に負けてしまったから。
    “空気による政治”が今の日本や官僚、会社人間たちを端的に表わしていて面白い。

    久太郎役の西村壮悟さんは長台詞になると“素”が顔を出すような気がする。
    「工場の出口」に出演されていた時もそう感じたけれど
    役と距離を保つのを止めて、素で語り始めるような
    久太郎なのか西村壮悟なのか境界線を曖昧にして一気に入って行くように見える。
    それが観ていてとても自然で心地よい。
    エレベーターの中で、他の8人が次々と死んでいく
    暗闇の中での1週間を語るところなど、その皮膚感覚がリアルに伝わってくる。

    病気のせいで周囲から隔絶されているミミが、小学校卒業と同時に親友を拒絶し
    母親とだけは「何があっても一緒にいる」と決意するところ、
    感情を爆発させて、謝って、でもやっぱり独りになるのがどうしても怖いという
    逡巡するミミの長台詞に説得力があって思わず涙がこぼれた。
    「母親と一緒に死にたい」という極端な主張の理由として納得させるものがあった。

    螺旋階段や地下と繋がる四角い穴など、広い空間を縦横に使って清々しい。
    時折挿入される群舞が、高揚感を共有する感じで効果的。
    役者陣は隙が無くてみな上手いが、特に印象的だったのは
    比佐仁さん、西川康太郎さん、鈴木アメリさん、百花亜希さんなどまた観たいと思った。

    底の浅い政府が提示する価値観の無意味さと、それに追随する虚しさ、
    “空気”ごときに支配される社会などいずれ崩壊する。
    しっかりしようぜ日本人、でなけりゃ妙な指導者が現われて憲法をいじり始める。
    ひょっとこ乱舞ってこういうのだったのか、
    伝えたい事がたくさんある作者が、演劇という手段を選んだ情熱を強く感じる。
    次は新生アマヤドリの作品を観たいと思う。











    0

    2013/10/29 04:59

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大