さよならを教えて 公演情報 サスペンデッズ「さよならを教えて」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    大人になっちまった悲哀
    もの想う大人は皆解っているのだ、自分のダメなところくらい。
    だけど解っているのにダメな方へと傾いて行ってしまう。
    そしてだんだん大事な人を大事にしなくなる。
    早船さんの無駄のない台詞で、それもまた人とのつながり方のひとつなのだと気づく。
    コテコテダンスもありの濃い目の味付けながら、やはり毎日食べても飽きない”人の心の普遍性”を描いていてその切なさにどうしようもなく涙がこぼれる。
    婚約している二人の関係が壊れていく時の緊張感がどきどきするほど秀逸。
    山田キヌヲさん、とても上手いしきれいだった。衣装も素敵。

    ネタバレBOX

    舞台は壁紙などの内装工事を請け負う小さな会社。
    宏美(岩本えり)は父の代からのこの会社を受け継いでいる。
    婚約者の洋介(佐野陽一)は中学の同級生だが、彼は勤めていた会社で
    大きなプロジェクトに失敗してから変わってしまったと宏美は感じている。
    異動先の部署で部下の女性からパワハラと訴えられ
    結局会社をクビになった洋介を見かねて「ウチを手伝ってくれない?」と持ちかけた宏美。
    今は一緒に仕事しているが、昔からのやり方に批判的な洋介とことごとく対立する。
    同じく中学の同級生で、病気退職して戻って来た夏子(山田キヌヲ)も
    ここで仕事を手伝っている。

    職人や、地主で大家の夫妻等が出入りするこの事務所で
    次第に相手に寛容でいられなくなっていく宏美と洋介。
    ネットでのバーチャルな世界に逃げ込む職人、大家夫妻の嫁姑問題、
    そして夏子の驚愕の行動…・。
    小さな世界で絡まり、引っ張り合い、ほどけてしまう人間関係の脆さ哀しさが描かれる。

    「終わりが見えるとやさしくなれる」という洋介の言葉が沁みる。
    このまま続くと思うから、うんざりして粗末に扱ってしまう私たちの習性を言い当てている。
    「結局自分に自信がないんだ」という言葉もリアルに説得力がある。
    自信がないから強い態度に出る、相手を威圧する。
    デスクに向かう洋介を演じる佐野さんの全身から、
    自分にも周囲にも苛立っている様子が伝わって来たし
    それをそのまま宏美にぶつけるところでは観ていてこちらも緊張した。
    ありがちなハッピーエンドでないところもよかった。

    夏子のクールな観察とストレートな物言いが爽快。
    入院前事務所に来て、会社を去る洋介と見送る宏美に
    「別れてもいいから二人で(見舞いに)来て」というところ。
    “さよならの仕方”を考えさせていいなあと思った。
    かわいいニットキャップが似合う山田キヌヲさんがとても素敵だった。

    大家の奥さんを演じた野々村のんさん、
    この方は“困った人”を可愛らしく見せるのが上手いと思う。
    情熱的な“なりきりダンス”が面白かった。

    中学時代の回想シーンを挿入して
    もの想う大人になってしまった哀しみと不安を際立たせた結果
    宏美が夏子を思いやって泣く場面に説得力が増した。
    ここもまた、子ども時代と決別するもうひとつの“さよなら”だったような気がする。

    2

    2013/12/05 00:39

    0

    0

  • ヒメツルソバさま

    コメントいただき有難うございます。
    私は好きなんですね、こういう”わかっているけど傾いていく感じ”の哀しさ。
    3人全員に、どこかしら共感できる部分があって、そこも良かったです。

    2013/12/12 01:22

    ほんとにね。大人になるって、こういうことだったのかと思わせる。あんなに自信たっぷりに見えた夏子の弱さは中学の冷えピタのころからずっと持ち続けていたもの。人は大人になるにつれ、いろんなものを手放して、ちがうしがらみを身にまとってしまう。でも持って生れた変わらないものってあるんでしょうね。それがその人の生き方を方向づける。中学の同級生、三者三様の考え方、生き方、それぞれにどこか自分を見る思いがしました。

    この芝居、いつもの劇団らしさがなくて全然だめっていう意見の人もいましたが、私は初めて見て、また見たいと思いました。

    2013/12/12 00:00

このページのQRコードです。

拡大