さめザわ 公演情報 張ち切れパンダ「さめザわ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    喜劇の果てのブラックは好き
    職場で名前すら覚えてもらえない存在感の薄い男「鮫沢」の特技は「死んだふり」。
    生きている時には誰にも気づいてもらえない男が
    死んだ途端に注目を浴び、周囲を大混乱に陥れる。
    そのギャップが面白くて止められなくなった男のうすら悲しい人生模様が面白い。
    いまひとつ“オチ切れなかった感”が残るラストがちょっと消化不良かな。

    ネタバレBOX

    古いスーパーの事務室、ロッカーが並び、部屋の隅に事務机がひとつ。
    休憩室らしいテーブルと椅子、ソファー、漫画本が無造作に積み上げられている。
    冒頭、このテーブルに仰向けにもたれたまま鮫沢が死んでいる。
    見守る店長、その妻、同僚たち、警官。
    鮫沢は何故死んだのか、殺されたのか、もしそうなら犯人は…?

    フラッシュバックのように巻き戻されるその日の出来事。
    いるんだかいないんだかわからない鮫沢の側で、
    同僚たちは次々とうっかり秘密をこぼしてしまう。
    商品万引き、不倫、単なるいじめ、大事な思い出の品をめぐる争い…。
    そしてその都度鮫沢は殺される、何度も、何人にも…。

    鮫沢の特技が「死んだふり」というのが面白い。
    「ウケ」を狙ってとんでもない行動に出て、その反応を楽しむというのは
    他に自己アピールの術を知らない若者が思いつきそうなことだが、
    単なる悪ふざけでなく、痛みと物悲しさを感じさせるところが上手いと思う。
    傾いたスーパーを買収する大手スーパーの社員が
    鮫沢の高校の同級生で、彼の特技をよく知っていたというエピソードも○。
    鮫沢のコミュニケーション下手なねじれた性格を物語る。

    鮫沢役の深井邦彦さんがとても良かった。
    存在は薄いが、緊張しやすく周囲を観察する目を持っていて、
    折りあらば見返してやろうと思っているようなところもある男。
    思い込みが激しくて人の思惑をつかむ感覚がちょっとずれている男。
    特に高校時代のエピソードで、同級生のせっかくの誘いを断った後の
    泣き笑いの表情、自己嫌悪と寂しさの混じった表情が秀逸。
    役柄とは裏腹に、深井さんの存在感は大きい。

    店長の妻役の小林美江さん、その妹役の中島愛子さんが上手かった。
    キャピキャピバイトのゆみちゃん役、古市香菜さんの
    したたかな世渡り上手ぶりが徹底していて良かった。

    従業員による犯人探しや、お巡りさんの出入りに時間を割くよりも
    個々の殺人エピソードに丁寧な理由が描かれていたらもっと共感できたと思う。
    死んだふりから起きあがった鮫沢の反応もきちんと見たかった。
    結局鮫沢は最後本当に死んでしまったのか、起き上がったのは皆の願望なのか。
    どちらでも良いが、みんなは露呈した秘密にどう始末をつけるのか、
    登場人物たちの変化が書かれていないところが物足りない。
    当日パンフにもあるが「役者のキャラクターに助けられて」いる。
    脚本の多少の無理や隙間を、役者陣がよく頑張って補っていたと思う。
    でも個人的に「喜劇の果てのブラック」というテイストは、とても好きです。






    0

    2013/11/19 21:26

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大