ノートルダム・ド・パリ <英語版>
Bunkamura
東急シアターオーブ(東京都)
2013/02/27 (水) ~ 2013/03/17 (日)公演終了
満足度★
フランスミュージカルは性に合わないようです
もうかなり昔、代々木で、「十戒」を観た時と、全く同じような感想を持ちました。
せっかくメロディは美しい曲が多いのに、とにかく、曲も物語進行も、緩急がなさ過ぎて、単調で、眠くなります。
アクロバティックなダンスの方はそれなりに楽しめますが、こんなに何もかも歌詞で説明しちゃうミュージカルは初めて観た気がします。
役者が、全く演技する必要がないほど、全ては歌詞の中に…って感じの舞台。
ユーゴーの原作は読んだことがないので、何とも言えませんが、きっともう少し、人間描写に深みのある原作なのではと推察します。
このミュージカルを観る限り、出て来る人物、誰も彼も愚か者だらけで、どう頑張っても、感銘も受けなければ、同感もしません。
「アイ・ラブ・ユー」の歌詞が、これほど陳腐に聞こえた作品も初めてでした。
ネタバレBOX
後ろで、アクロバティックなダンスをされてる方々の技にばかり目が行きました。
こんなに、誰ひとりにも感情移入できないミュージカルって、ある意味凄いとさえ思います。
脚本が相当おざなりなんだと思います。
歌詞が全ての感情を説明過多にして、役者には、演技表現で感情を伝える術がないので、どなたも手持無沙汰のような演技をされていました。
ただ、出てきて歌って引っこんで、後ろで、ダンスしての繰り返し。
曲が単調ながら、メロディラインが綺麗なのと、グランゴワール役の俳優さんの歌声が抜群だったので、救われた気がしました。
カジモト役の方もお上手な方なのでしょうが、あまりにも脚本が稚拙なので、本領発揮できずにお気の毒な印象でした。
虚言の城の王子
空想組曲
吉祥寺シアター(東京都)
2013/03/03 (日) ~ 2013/03/10 (日)公演終了
満足度★★★★★
相変わらずの構成力に感心します
ほさかさんお得意の二重構造も、いつもより、分り易く、その分、テーマがダイレクトに胸を打ちました。
所々、ベタ過ぎると感じる部分もありましたが、観終えてみれば、やはりあのテイストで、正解だったのではと思えます。
役者さんの力量に、アンバランスも感じたものの、後半良くなったので、結果オーライ感。
ネタバレBOX
最初の、皆瀬と萩野が、図書館で同じ本を手に取るまでのシーン、少しだけ、長過ぎるように感じました。
あの芝居のバランス計算をすると、あの場面が、どうも配分が悪い印象を受けました。もう少し、早く、二人が出会う方が、もっと後の余韻を強めるように思います。
いつも、ほさか作品は、ダークファンタジーという謳い文句で表現されますが、私には、まるでダークには感じられない清涼剤的ファンタジーです。
あまり言葉を出さなかったかなたが、皆瀬の書いた物語を朗読し始めるあたりから、涙が持続して流れました。
かなたとそなたの兄弟関係が一番切なかったかな?兄のそなたは、共依存症になっていて、弟よりもむしろ異常性が垣間見られるのですね。その兄を、何に絶望しているのかわからないことに絶望していた弟のかなたが、引っ張るように家路に誘う様子が、胸に沁みました。
王子の演技にはちょっとへこまされた渡辺さんも、貴臣の演技の方は共感して観られました。たぶん、まだ空想組曲風な演劇手法の加減を体得していらっしゃらないのでしょうと思います。資質はある方だと思うので、またどこかで拝見できることを楽しみにしています。
皆瀬役の加藤さんの終盤の演技、大好きでした。
彼女に依存して勝手ばかりしていた高遠が、萩野の病室に研修医として姿を現すのは、ちょっとやり過ぎな感じもしましたが、許容範囲ではありました。
とにかく、二重構造の芝居の、観客への情報提供の順路や配分が、まるで、設計図のような緻密な構成で、この職人芸には、また今回も脱帽させられました。
何だか、とっても好みのラストシーンでした。
三月花形歌舞伎
松竹
新橋演舞場(東京都)
2013/03/02 (土) ~ 2013/03/26 (火)公演終了
満足度★★★★
松緑の丑松は発展途上
本当は、大好きな長谷川伸の「暗闇の丑松」観たさに行ったのですが、観終えてみれば、菊之助のお三輪の方が満足感高い印象でした。
昼の部は、丸本物の「三笠山御殿」と世話物の「暗闇の丑松」の2狂言立て。
間に40分の幕間があるだけで、日頃、いろいろなジャンルの演劇を見慣れている観客には、むしろ良いかもしれませんが、今までの歌舞伎公演の幕間形態に慣れた年配の方には、トイレタイムとして不適当では?とやや心配になりました。
お三輪の菊之助と、お米の梅枝が、共に、女形としての風格と所作において、各段の成長ぶりだったのが嬉しくなりました。
松緑の丑松は、初役だし、まだ体に落ちていない感があります。台詞の言い回しとかはかなり努力されたなと感じますが、長谷川伸の女性感が色濃く出ているこの演目の台詞の読みが甘いと感じました。
更に上演を重ねて、役を自分のものにして頂ける日を心待ちしたいと思います。(お父様の辰之助さんの丑松には戦慄が走った記憶がありますので)
ネタバレBOX
「妹背山婦女庭訓」は、子供の頃、父から「ロミオとジュリエット」みたいな話だよと教わり、大変興味を持って観劇したものの、やはり、高校生の頃までは、あまり面白いと感じられない演目でした。
中年以降、ようやく、この作品の魅力に気づき始めた気がしています。
この「三笠山御殿」の場は、求女に片思いするお三輪という町娘が主人公なので、中心のストーリーとはやや逸れた展開ですが、今回、気づいたのは、この場面、歌舞伎狂言には珍しく、普段なら脇役に過ぎない官女達のしどころが多いんですね。
今までずいぶん拝見した場ですが、今回の官女は粒ぞろいだった気がして、時代ものには珍しく、退屈せずに観られました。
「暗闇の丑松」は、現代にも通じるような、親切な人だと信頼していた人間に騙され、悲劇へと突き進む男女の悲哀がテーマの芝居。
でも、この芝居、台詞をよく聞きとると、作者のトラウマにも似た女性感が主軸にあることがわかります。
何人も殺人を犯す丑松ですが、観客に見える場所で殺されるのは、四郎兵衛の女房お今だけ。このお今を殺す時の丑松の台詞が大変重要です。
その慟哭にも似た深い丑松の叫びが、松緑の台詞からは伝わらなかったのが残念です。やはり、仁左衛門や勘三郎の丑松にはまだまだ距離があるようです。
新歌舞伎だけに、現代的な舞台装置の工夫が、楽しめる舞台ですが、冒頭の、向の家の噂話の会話が聞き取れないのは残念でした。
この演目、時代ものを得意とされる、小劇場演出家にも是非チャレンジして頂きたい演目です。
奇妙旅行
ワンツーワークス
テアトルBONBON(東京都)
2013/02/28 (木) ~ 2013/03/10 (日)公演終了
満足度★★★★★
古城さんのお仕事ぶりは秀逸かつ重厚
いつも思うことですが、古城さんの作・演出作品は、隙がなく、常に職人芸を見るような安心感があります。
初演は観ていませんが、テーマに興味があり、観劇しました。
重いテーマですが、見せる工夫が随所にあるので、あまり深刻にならずに済み、エンタメ作品としての面白さもしっかり加味された、秀逸な作りの芝居になっていました。
いつも多様されるムーブが、今回の作品では、特に生きているように感じました。
アフタートークで、韓国で上演された、リュ・ジュヨンさん演出の同作品との比較もあり、最後まで、興味の尽きない話題で、より充実した余韻のおまけもあり、実りの多い観劇ができました。
迷いましたが、観て良かった!
加害者と被害者、決して相容れない関係でも、どこかで、区切りをつけて、前に進む努力だけはしなければと苦悩するのは、これからも人間の定めなのかもしれませんが、個人間のレベルの話ではなく、国同士となると、尚更困難。
でも、今日のアフタートークのように、両国が、少しでもお互いの国民性に理解と気づきがあれば、いつか気持ちが寄り添うことも夢ではないかもしれないと思ったりしました。
ネタバレBOX
娘を殺された両親と、殺した男の両親が、共に、1泊旅行に出かけ、それぞれの思いに決着をつけようと、もがき苦しむ様を、きちんと練り上げた戯曲で、一気に見せる手法が、実に巧みな技でした。
二組の両親を演じた、重藤さん、山下さん、長田さん、関谷さん。どなたも、秀逸な演技で、少しもわざとらしさがなく、自然と、観ている側も、彼らの心情に寄り添うことができました。
犯人役を演じた奥本さんは、驚くほど、目力のある方で、彼に睨まれた関谷さんが怯むのに乗じて、客席の私も、一緒に怖さを感じてしまうくらいでした。
小さなカバンから、犯人を殺そうとする父親の殺人用の武器が次々ト出て来たり、殺された少女のバックから、血が滴り落ちたり、まるで手品のような演出もスリリングで、同時に、視的好奇心も満たして、本当に、見せる工夫がお見事でした。
登場人物の心情を投影するような、安定しない椅子など、小道具にも気配りが感じられました。
お互いに、解決のつかない思いを何とか、理性で押しとどめて、明日を生きて行こうと苦慮する親の心情をロデオのムーブで終わらせるラストシーンが、大変心に深く印象づけられました。
続・11人いる! 東の地平 西の永遠
Studio Life(スタジオライフ)
紀伊國屋ホール(東京都)
2013/02/28 (木) ~ 2013/03/17 (日)公演終了
満足度★★★
大目に見ちゃう
はい!くれない様ご推察通りでして、スタジオライフファンのワタクシと致しましては、どんなに、芝居の流れが予定調和で、実社会の現実より悠に危機感なく、舞台進行がのんべんだらりしていても、もう、久々に、山本・及川のゴールデンコンビのお芝居を観られただけで、かなり満足致しましたです。
「11人いる!」の時の方が、ストーリー展開は、かなりスリリングでしたが、続編は、どことなく、学芸会テイスト。
それでも、私の観たJupiterキャストは、曽世さんも含め、ライフの主翼揃いで、ミーハー感覚で満足感いっぱいになりました。
たぶん、これは、宝塚ファンの感覚に似通っているのだと自覚します。
ネタバレBOX
実際の世の中が、巧妙な悪だくみで、がんじがらめの今だからこそ、たまには、こういう、必ず、大演壇になるとわかっている芝居を観るのは、心の安らぎになったりします。
現実世界では、今やほとんど正義は勝たないから、せめて物語の世界ぐらいは、最後は正義が勝つ方が、嬉しいですね。
ただ、「11人いる!」の方は、題名に偽りなく、宇宙大学の試験で、誰かが生徒ではないという、人数が合わないことの、サスペンスチックなワクワク感がありましたが、今回の続編は、主要な4人以外は、ほとんど脇役も脇役で、やや題名に違和感を感じました。続編と言うよりは、スピンオフ作品という雰囲気。
及川さんの相変わらずの可愛さ、美しさが絶品で、山本さんのどこかピントのずれた好青年ぶりのタダトスとの相性抜群。お二人が、宇宙船の操縦室で仲良く助け合うシーンは、操縦かんの握り方を初め、そこに小道具が存在するかのような仕草の巧みさに嬉しく、顔を綻ばせてしまう自分がいて、あー、やっぱり、このコンビの恋人役の芝居をもっと観たいなあと思わせられました。
火消しの赤毛役の仲原さん、存在感と愛嬌を併せ持った役者さんで、一目でファンになりました。
秘を以て成立とす
KAKUTA
シアタートラム(東京都)
2013/03/01 (金) ~ 2013/03/10 (日)公演終了
満足度★★
脚本の設定に基本的齟齬がある
これが、ファンタジーや不条理劇の形態なら、きっと後ろの席で号泣されていた若い女性同様、私も、KAKUTAファンの一人として、結構感動して席を立っていたかもしれません。
しかし、この脚本には、実社会の常識を逸脱する、明らかな齟齬があると、私には感じられました。
前回公演の「ひとよ」の時にも感じたのですが、最近の桑原さんの戯曲は、あまりにも、主人公の境遇を特化した異質な世界に設定し過ぎているのではないでしょうか?
そのために、実社会の常識からは、かなりずれた展開が多く、不自然に感じてしまう部分が多々あるように思うのです。
せっかく、人間洞察にも優れ、それを虚構の人物に転化して、感動作を送り出せる力量をお持ちの作家で演出家でいらっしゃるのですから、もっと、どこにでもいそうな人間の深層心理をリアルに描く作品で、勝負して頂けたらと願わずにはいられませんでした。
その点を詳しく言及するとネタバレになってしまうので、ネタバレ欄は、公演終了後に追記したいと思います。
ネタバレBOX
公演が終了したようなので、今回の作品に疑問を感じた点を追記します。
この作品、クリニックの院長である晋太郎が、過去のトラウマから、多重性人格になり、その人格ごとに、吉見さん、清水さん、成清さんの3人の役者さんが演じ分けする構成です。この手法は、演劇的にはとても面白い趣向だと思うし、そうすることで、芝居が中盤になるまで、観客の興味を引っ張り、厭きさせない効果は抜群にあるとは感じるのです。
でもですよ、観客には3人違って見える、晋太郎とハリオと赤城ですが、芝居の中の登場人物には、3人の顔は同じに見える筈ですよね。
診療してて、急に赤城に変身したり、道で急にハリオが暴れても、近所の人にしてみたら、あのクリニックの先生は異常だとすぐにばれる筈だと思うのです。ましてや、アナフラキシーショックで急死したと思われている患者を、診療ミスだとスクラム組んで、デモしてるような地域なら、まずその前に、あんな多重人格の医者は追放しろって騒ぎになりそうに思うけど…。
それに、夫や兄がそういう危険人物だと知りながら、診療させている家族の常識も疑います。
晋太郎が、医者ではなく、アーチストか何かなら、この芝居も納得して、素直に感動できたと思うのですが、医者という職業設定が、あまりにも、現実に即していないと思うのです。
それに、高山さん演じる実美は、晋太郎が赤城に変身したところを目撃してる筈なのに、ずっと、このクリニックには医者が二人いると思いこんでいるところにも無理があると思います。
役者さんの演技は、総じて、皆さん、秀逸ですが、ただ個人的好みとして、若狭さんは、こういう偽悪的な人物役は任でないように感じました。
ハリオ役の清水さんも熱演でしたが、この難解な役をどう演じていいか、少し、迷いを払拭されていない感じが見受けられた気がしています。
「目を見て嘘をつけ」ぐらいの、誰にも思い当たる経験や思いを桑原流に凝縮表現された作品を、是非、次回には期待したいと思いました。
相変わらず、女優桑原さんの部分には、大満足なだけに、そう願わずにはいられない思いがありました。
遠い夏のゴッホ
TBS
赤坂ACTシアター(東京都)
2013/02/03 (日) ~ 2013/02/24 (日)公演終了
満足度★★
悪くないけど、さして面白くもない感じ
全く、チラシの説明とか読んでいなかったので、あの画家のゴッホのお話なのかとずっと誤解していました。
よくチラシを見たら、ちゃんと松山さんが土の中で羽化するのを待っている体勢の写真が載っていましたね。
というわけで、「ブンナよ、木から下りてこい」をちょっとライトにした感じのストーリー展開でした。
不愉快になる類の芝居ではなかったので、何となく観てしまいましたが、この料金で観るにはちょっと内容が希薄な気もしました。
主演の松山さんより、脇の吉沢さん、田口さん、鷲尾さん、彩乃さん等の方が印象的でした。
筒井さんがご出演とは全く知らず、帰宅してチラシを見てビックリしました。筒井さん色消えていました。つまり、役者さんとして、成長されたんだなあとしみじみ。
もう少し、テンポアップして、上演時間を短くしたら、お子さんとかも観られるタイプのファミリー向け芝居になるかもしれません。
ただ、笑いを取ろうとして設定されたシーンがそれほど面白くないので、あれはいらないと思いました。
ネタバレBOX
以前、この公演を話題にしていた安蘭さんのファンの方が、「あんな芝居に付き合わされるなんて…」とお嘆きでしたが、確かに、安蘭さんの女王アリの役は、それほど為所がなく、もったいない気がしました。
虫の世界の、下剋上的な、ハードなテーマではなく、あくまでも、松山さんのゴッホと、美波さんのベアトリーチェの二匹の蝉の純愛がテーマなので、物語にさしたる葛藤もドラマチックな盛り上がりもないので、正直かなり退屈なシーンが多く感じました。
平清盛同様、老いたる主人公が、死ぬ間際になっても一向に歳を取った感じがしないのも、リアルさの点で、どうなんだろうとやや疑問でした。
ダンスの得意なアンサンブルメンバーがせっかく出演しているのに、蜥蜴などの振付に工夫が足りないのも残念に思いました。
オープニングの、全員が声を揃えて、台詞を喋る場面も、揃えたつもりで、不揃いなので、よく聞き取れず、その後の心的導入を阻害された遠因だったようにも感じました。
トリオ
LEMON LIVE
OFF OFFシアター(東京都)
2013/02/14 (木) ~ 2013/03/05 (火)公演終了
満足度★★★★★
ひたすら嬉しかった
ビフォートークで、主宰の斎藤さんのお人柄に触れ、益々レモンライブのファン度加速しました。
せっかく、面白い芝居を観ても、その後の作演主宰に、一気に不快な思いを感じたことは何度かあるので、斎藤さんと日替わりゲストのトークが始まった時は、身構えてしまいましたが、観て良かった!
お人柄も、見目麗しさも、想像以上の素敵な主宰さんでした。
大好きな西牟田さんの舞台も久し振りだったし、3人の女優さんの体を張った名演技に、日頃の憂いをすっかり忘れ、大笑いの連続でした。
日替わりゲストは、山田さんの日でしたが、この役、かなり重要な役どころで、毎日変わるゲストの資質で、きっとまるで違うテイストの芝居が楽しめそうです。
行けるものなら、山路さんの日も観たいなあと切実に思いました。
それにしても、こういう観客が心から楽しめる芝居を上演して下さる団体に出会うと、今や、地獄で仏の心境!
私にとって、レモンライブとの出会いは、一生の宝ものになりそうです。
日替わりゲストの演じる役名も、すごく洒落てる。斎藤さんのセンスの良さを感じます。
ただ、とても、良かっただけに、小道具のティッシュ箱に、時代考証的な不備を感じたのと、たぶん、野口さんのアドリブ的なシーンで、間違いがあった点がちょっと残念ではありました。
ネタバレBOX
漫才トリオ3人の、それぞれの特性を生かした配役がお見事!
体当たりの演技が続き、頑張っている女優さんの役者魂に、猛烈に元気をもらえました。
3人と関係があった、男性の名前はトリオさん。この題名には、そういう意味もあったのですね。
もう3人の女優さん、ハチャメチャ演技の連続なのに、どなたも最高に魅力的で、観ているだけで、幸せになれる観劇タイムでした。
ただ、野口さんのりつ子が、学芸会のエピソードを語る件、一枚二枚と数えるのは「四谷怪談」のお岩さんではなく、「皿屋敷」ものの、お菊さんです。
もしかしたら、ここは、野口さんのアドリブに委ねられてる場面かもしれず、斎藤さんの脚本ではないかもしれませんが、やはり、こういう誤解は、残念でした。
ロックオペラ モーツァルト
ネルケプランニング
東急シアターオーブ(東京都)
2013/02/11 (月) ~ 2013/02/17 (日)公演終了
満足度★★★★
インディゴバージョンは、楽しめました
今日は、山本さんがモーツアルト役の方のバージョン。
先日、芝居としてのドラマ性の薄さは、体感したので、今日は、土反さんもおっしゃるように、コンサートを楽しむつもりで観に行きました。
そうしたら、今回は、素直に楽しめました。
山本モーツアルトは、40歳近さは微塵も感じさせない、若々しい少年ぽさを体現されて、さすがのベテラン俳優ぶり。
意外と、中川さんのサリエリも良く、サリエリだけの観点から言えば、こちらの配役の方が好みでした。
アロイジア役のAKANEさん、コンスタンチェ役の秋元さん、共に華も実力もあり、お二人の反目して歌うデュエットが、印象に残りました。
ローゼンベルト伯爵役の湯澤さん、面白すぎ!
今日は、カーテンコールで、すぐさま立って大拍手をして、嬉しい気持ちで、帰宅することができました。
ネタバレBOX
サリエリに関しては、中川さんの方が、全力で演じていらしたようで、役に真実味を感じました。
あまり、出来が良くない脚本の場合、山本さんの方が、芝居を膨らませる技術は上だと思うので、この点でも、インディゴバージョンの方が、芝居の質は高いのではと思いました。
ローゼンベルク伯爵の湯澤さんが、サリエリの口調を真似て、観客に大受けする場面がありますが、これも、中川さんのサリエリの方が特徴があるので、面白く感じました。
先日も感じましたが、この舞台、アンサンブルのダンスがなかなか他には観られない振付が多く、観た目にも、斬新で、視覚的に美しい群舞で、見ごたえがありました。
レオポルトは、鶴見さんが演じられた方が良かったような気はしますが、この作品、もう少し練り直したら、再演も期待したくなる部分もありました。
アンナ・カレーニナ
東宝
ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)
2013/02/05 (火) ~ 2013/02/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
初演より、深みが増した舞台に瞠目
確か初演の頃は、鈴木裕美さんは、まだミュージカル演出には不慣れでいらしたように思うのですが、あれから、ずいぶんたくさんのミュージカル舞台の演出もこなされて、この舞台は、初演の出来栄えを悠に凌ぐ深みのある作品に進化していました。
裕美さんの演出も進化したし、主演の一路さんが、ご自身の人生経験が役の上に反映されて、アンナの人間描写が精密になった気がします。
初演には、一路さんの役作りの上の戸惑いが見えたように感じたのですが、今回は、完全にアンナ自身として、舞台に立っていらしたように思います。
また、葛山さんのレウ゛ィンの存在感が、更に増し、暗くなりがちな作品に、気持良い明るさを加味して、素晴らしく、遠野さんのキティとのコンビが、観ているだけで、観客を幸せな気分にしたと思いました。
ウ゛ロンスキーの伊礼さんは、期待どおりの適役だし、井之上さんのアンナの兄は、舞台を軽妙に導く道化的役どころで、舞台を温め、山路さんのカレーニン、春風さんの噂好きな女、福麻さんの家政婦等、脇も好配役尽くめで、終始、舞台に釘づけになる濃密な運びの作品でした。
子役の清水詩音ちゃんも、女の子なのに、セリョージャという男の子役を、見事に演じて、本当に最近の演劇界は、子役の宝庫だと嬉しくなりました。
ネタバレBOX
一路さんのアンナが、初演より、弾けていたことにビックリしました。
原作は、恥ずかしながら、読んだことはないのですが、最近の日本の離婚形態などにも、相通じるものがあって、これは、脚本の小池さんと演出の鈴木さんが、卑近なストーリーとして、練り直した結果なのかなと思ったりもしました。
主役のアンナよりも、夫のカレーニンの心情の方に、共感する部分が多く、素直に妻に気持ちを表出できない、不器用な男性の側面に、涙が誘われたりしました。
ですから、絶望して、鉄道自殺をするアンナよりも、後に残された、ウ゛ロンスキーやカレーニンの方に、感情移入して、気の毒な気持ちになってしまいました。エンディングのシーンが、余韻があって、初演より素敵な終わり方だったように感じました。
ホロヴィッツとの対話
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2013/02/09 (土) ~ 2013/03/10 (日)公演終了
満足度★★★★
想像とは趣の違う芝居でした
題名から、もっと硬質な対話劇を想像していましたが、全く違って、そこは三谷さんらしい、笑いのふんだんにある二組の夫婦のライトコメディタイプの舞台でした。
最近の三谷作品の中では、かなり芝居としての完成度の高い作品だと思いましたし、何より、渡辺謙さんの舞台を拝見できて幸せな充足感もあったのですが、もうひとつ、満足度がマックスにならなかったのは、実在の登場人物の造型に、お子さんのいない三谷さんの頭で拵えた親の姿を感じてしまい、生の人間の心情をリアルに感じられない部分があったからかなと思います。
出演者4人は、皆さん、大好演。初舞台の和久井さんも、舞台上の立ち姿に違和感がなく、幕あきの頃心配された発声の違和感も、徐々に緩和されて、舞台女優として、見事なスタートを切られたと感じました。
ネタバレBOX
クラシックの世界の知識はほとんどないに等しいので、ホロウ゛ィッツの妻のワンダが、名指揮者トスカー二の娘だったことも、二人の間のお子さんソニアが、親の期待に応えられず、挫折して、早逝した事実も、今回初めて知りました。
でも、高泉さん演じるワンダが度々、自分の子育てを自慢して、「ソニアの場合はね…」と、娘の名前を口に出すので、このソニアはもうこの世にはいないのだろうという予感はありました。
でも、何事も、指図して、気持の良い来客ではないホロウ゛ィッツ夫妻に対して、堪忍袋の緒が切れたエリザベスが、真相を暴露して、ソニアが自殺まがいの死に方をしたとわかってから、私には、どうも、このワンダのこれまでの台詞が腑に落ちない気がしてしまって仕方ありませんでした。
先日のケラさんの芝居のように、娘の死を受け入れられず、まだ生きていると本気で思っている母親ならいざ知らず、自分の期待が強すぎて、娘が押しつぶされて死を選んでしまったと気づいた筈のワンダが、相変わらず、自分の子育て術をエリザベスに自慢げに押し付けようとする行為が、どうしても、本当の母親の心情や行動とは逸脱して思え、三谷さんの、頭の中で作り上げた人物像のように感じ、今一つ、登場人物の心情に寄り添うことができませんでした。(ただ、これは、あくまでも、私がこの芝居だけから得た感覚で、実際のワンダがこういう言動をしていたのであれば、三谷さんの作劇如何の問題ではないので、私の受け止め方が間違っているのかもしれませんが)
舞台には、登場しない、フランツとエリザベスの子供達のエピソードにしても、お子さんのいない作者の描いた子供は、やはり絵に書いた餅的な存在感しかなく、その点も、この芝居が、更に膨らみ損ねた理由ではないかなと思います。
それと、これも、無学なので、確かなことはわかりませんが、あの当時、あの国で、猫の去勢手術にカンパするというような発想があったのでしょうか?
私には、最近の小劇場に多い猫ネタに思えてしまって、ここにも違和感を感じました。
でも、段田さんと高泉さんのコンビの演技は最高に面白いし、舞台は久しぶりの渡辺さんも、蔭の名調律師の喜びと、誇りを見事体現して下さって、芝居の構成も巧みですし、これだけ満足度の高い三谷作品は、久々でしたから、大変気持のよい、劇後感であったのは確かです。
ロックオペラ モーツァルト
ネルケプランニング
東急シアターオーブ(東京都)
2013/02/11 (月) ~ 2013/02/17 (日)公演終了
満足度★★
観客の刷り込みに助けられる舞台
たぶん、カーテンコールで、立たずに座っていたのは私一人だったかもしれません。
今日の会場を占めていたと思われる、中川さんファンのほとんどが、嬉しそうにスタンディングして、中川さんがモーツアルトを演じるインディゴバージョンのプレビュー初日に、喝采の声をあげていました。
でも、長年、数々の舞台を観て来た私にとっては、もう三十年以上の山本耕史ファンとして、夢の共演舞台の実現であったにも関わらず、かなり満足度は低い舞台でした。
たぶん、今日の公演に満足していた観客は、ほとんどの方が、あの中川さんんを一躍有名アーチストに飛躍させた、傑作ミュージカル「モーツアルト!」の目撃者ばかりだと思うのです。
もう二度と観られないかもと諦めかけていた中川さんのモーツアルトを再び観られるのですから、ファンなら、その時点で、期待感で胸がいっぱいになる筈です。この舞台、私から見ると、かなり、脚本が底が浅いという印象でした。人物の葛藤描写も通りいっぺんだし、宣伝で謳われているような、モーツアルトとサリエリの二人の芸術家の対峙シーンもなきに等しいものでした。
でも、多くの観客は、あの「モーツアルト!」で見聞した中川ウ゛ォルフガングの痛ましい苦悩を脳内保存しています。
また、「アマデウス」を観た観客は、サリエリの、モーツアルトに対する憧れと嫉妬を知っています。
そういう、ありがたい、観客の刷り込みに助けられて、多くの観客にとっては、満足できる作品になったのではと思いました。
ネタバレBOX
セットも、ストーリー進行も、どう考えても、あのウイーン傑作ミュージカル「モーツアルト!」の上澄みを掬い取ったような印象の舞台でした。
一部、学芸会演技の域を出ない役者さんもいましたが、各人は、かなり健闘されてはいたと思います。
でも、とにかく、脚本の人間描写が浅薄で、感情や、葛藤も、全て台詞で説明してしまいます。
東宝の「モーツアルト!」では、ほとんど登場しない、モーツアルトの母役の北村さんは、いつもの「ダウンタウンフォーリーズ」でのコント演技とほぼ一緒の表情。とても、息子を思って、旅に同行した母親の愛情は微塵も感じられません。
一番不可解だったのは、鶴見辰吾さんが演じられた役で、この役の必然性がわかりませんでした。(誤解のないように、書きますが、決して鶴見さんのせいではなく、彼はこの役を懸命に愛情深く演じていました)
帰って、公演HPの解説を読んだら、彼の役は、二役で、酒場の店主と、運命を象徴する化身の役だったようですが、舞台を観る限り、二役を演じていることさえ気づきませんでした。運命を象徴すると言えば、やはり思い出すのは、「モーツアルト!」の子役が好演したアマデですが、この鶴見さんの役は、その二番煎じにしか思えないし、本当に、どうして舞台上にこの役が必要なのか、理解に苦しみました。
ただ、何のかの言っても、中川さんと山本さんのミュージカルでの共演は、私にとっては至上の喜びで、お二人が、最後に、デュエットするだけでも、嬉しくなりましたから、観て良かったとは思います。
サリエリは、1幕では、狂言回しのみの任務で、歌は1曲も歌わないので、お二人のファンの方には、各人がモーツアルトを演じるバージョンの方をお勧めしたいと思います。
この舞台のサリエリは、「アマデウス」のサリエリとは比較しようもないくらい、しどころの少ない役どころでしたから。
宣伝文句にある「二人の男は惹かれあい、傷つけあった」なんて、高尚な心理描写や人間関係は、どこをどう探しても、全くみつけられない作品でした。
テイキング サイド ~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~
WOWOW
天王洲 銀河劇場(東京都)
2013/02/01 (金) ~ 2013/02/11 (月)公演終了
満足度★★★★★
行動の規範は、自己の感情?
何となく、そういう隠れたテーマが浮かび上がって来るような印象を受けました。
立場の異なる6人の登場人物。その一人一人に、作者がしっかりと命を吹き込んだ脚本の秀逸さに、驚嘆しました。
平さんと筧さんの一騎打ちの芝居なのかと思っていたのですが、誰もが、重要人物で、各人に、人間の本質が封じ込められていて…。
「ドレッサー」や「戦場のピアニスト」でも、驚嘆させられたのですが、この作品は、更にその上を行く傑作でした。
行定監督も、舞台処女演出作は、如何にも映画監督の演出でしたが、舞台演出家としても、腕を上げられたなあと嬉しくなりました。
平さんと筧さんももちろんですが、脇の、小林さん、鈴木さん、福田さん、小島さんの好演が光り、珠玉の人間ドラマになっています。
ただ、私は、以前、フルトウ゛ェングラーの子供を宿した女性側から描かれた舞台作品を観たことがあるので、大よその、時代背景や、人物の履歴をわかっていて、この作品も理解しやすかったのですが、歴史に疎い方には、難解な芝居かも知れないと思いました。
戦慄の走る映像もあるので、トラウマになりそうな方には、おススメできないかも。
ネタバレBOX
小林さん演じる、ヘルムートが、筧さん演じるアーノルドに向って、「自分の感情にまで検閲を掛けた」という趣旨の台詞を投げかけるところがありますが、この作品、まさに、人間の感情と対峙して、ずっと息を呑み続ける舞台でした。
ナチに抵抗せずに、ベルリンに留まったフルトウ゛ェングラーにしても、ユダヤ人の迫害を目近に目撃し、ナチの所業を憎んでやまないアーノルドにしても、その立ち位置だから、行動した結果をお互いに、自己肯定するけれど、もし、別の立場だったら、どういう行動に出ていたのか、自分でも確信できない部分が必ずある筈で、結局、微力な人間の最後の行動規範は、それぞれの感情以外にはないのかもしれないと思わせられました。
主要人物の二人より、アーノルドの尋問を見守る、反ナチ運動の闘士の娘エンミと、ユダヤ人で、両親が迫害に遭ったにも関わらず、フルトウ゛ェングラーの生み出す音楽の虜になっているウィルズ中尉の、感情の発露シーンの秀逸さに舌を巻きました。
どの人物も、実に、リアルで、各人の言動に納得が行き、その度、その人物に感情移入してしまうので、観客は終始、登場人物全員に、味方しなければならない定めで、傍観者ではいられない立場に立たされます。
それを思うと、この「テイキングサイド」は、まさに当を得たタイトルで、作者のお手並みあっぱれと感じ入りました。
ただ、ナチによる実際のユダヤ人迫害の生々しい場面が、アーノルドの悪夢という形で、目の前で映し出されるため、観客は、それを目にしないわけには行かず、気の弱い方には、おススメできない舞台かもしれないので、その点に不安のある方は、観劇なさらない方が良いと思います。
イノセント・ピープル “原爆を作った男たちの65年”(再演)
劇団昴
あうるすぽっと(東京都)
2013/01/30 (水) ~ 2013/02/03 (日)公演終了
満足度★★★
明日にすべきだったかも
何故かと言えば、明日は、演出の黒岩さんのポストトークがあるからです。
この作品、演出意図を伺わないと、感想が大きく異なる気がするのです。
登場する主要人物は、皆アメリカ人なのに、一向にアメリカ人ぽくないんです。まるで、日本人のお話みたい。仕草や表情が、あまりにも日本的な役者さんばかり。最初は、そのせいで、この舞台世界に心が同化せずにいました。でも、待てよ!と思いました。昴って劇団は、翻訳劇の上演が多いでないの。私は、何度もこの劇団の翻訳劇を観ているけれど、今まで、登場人物をここまで日本人的に捉えたことはないぞ!って。
で、もしかしてと思ったわけです。役者に、アメリカ人らしさを要求しない、むしろ日本的な演技は、演出意図かもしれないと。
そうであれば、これは、なかなか秀作です。
原爆投下を、日本人は、被害者としてしか捉えられない。でも、アメリカ人は、やむを得ない選択だったと、肯定的に捉える。
こういう事態は、いつの時代も、どこの戦争でも、常に普遍的な事象なのかもしれません。
そして、内地の人にとっては、元々他国であった異民族の沖縄の人に起こる悲劇は、どこか他人事なのかもしれないと、今の現実社会の不条理を想い、やるせない気持ちになりました。
今後のアメリカとの対等な付き合いも、益々困難なのだろうと、未来に希望が見えなくなったりもしますが、この舞台を、演劇作品としてだけ、評価するなら、かなり、まとまりのある佳作だったと感じました。
ネタバレBOX
もし、登場人物を、わざとアメリカ人的に演じさせない演出だとするなら、これは、原爆を日本人が先に開発して、立場が逆の場合もあり得たという、普遍的な芝居なのかもしれないと感じます。
でも、もし、昴の役者さんの力量が足りず、アメリカ人を演じているつもりで、誰もそう見えないのだとしたら、この芝居は、失敗作だと思うわけで。
それと、もう一つ考えられるのは、幾らアメリカ人の名前をつけた登場人物を造型したところで、所詮、日本人である作者には、アメリカ人気質を表出する台詞等の構築に無理があったのかもしれないという点。そうであれば、幾ら演出意図でなくても、役者も懸命にアメリカ人を演じようにも、根本の人物の描き方に問題があるということになります。
だから、評価の難しい芝居でした。
ただ、演出意図だったかなとは思うのです。原爆を開発したブライアンの娘、シェりルが、被爆2世の高橋と恋愛して、被爆者側の視点に立つ人間になった途端、何故か彼女がアメリカ人に見える演技をされたように思うから。
だとすれば、そこまで、計算されたこの黒岩さんの演出は巧みだと思わざるを得ません。
ですが、いつも黒岩さんが常套手段とされる、薄明かりでの、出演者による、場転やセットの配置換えは、コメディではないので、今回の作品には、不向きだったと思います。
口論の後に、そのキャストが素知らぬ顔で、家具や小道具を移動するのは、どうしても、舞台の切迫感を削ぐと思いますので。
実際、開発者のアメリカ人が、来日し、絶対謝罪の言葉を述べなかったシーンをドキュメンタリー番組で観たことがありますが、この畑澤さんの創作戯曲では、被爆者である日本人と娘の間に生まれた孫が、またお腹に子供を宿し、そのお腹を、ブライアンが、愛おしい表情で触ることで、加害者と被害者の相互の関係に、何か光明が見えるという仕掛けが施されています。それが、たとえフィクションだと知ってはいても、何か、明るい希望が見える気がして、秀逸な脚本だと感じました。
たとえば、争っている領土は、相互の民族の間に生まれた混血児に限定して住める土地にすればいいのになんて、無理な妄想が、頭によぎったりしました。
いづれにしろ、いろいろ思うことの多い芝居でした。
演劇集団 砂地 『Disk』
演劇集団 砂地
シアタートラム(東京都)
2013/01/24 (木) ~ 2013/01/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
濃密かつ秀逸極まる!
今まで観た全ての芝居が陳腐に思えると錯覚してしまう程、まるで上質な翻訳劇のような、味わい高度な作品でした。
人物の一挙手一投足、台詞の一字一句に、目も耳も一瞬たりとも離せない、濃密度の濃い舞台でした。
こういう硬質な演劇を構築できる船岩さんの才気に、衝撃を受けます。だって、私の長男より、年下でいらっしゃるのに…。
途中まで、この作品の観劇には不釣り合いな若い女性のけたたましい笑い声が後ろから聞こえたのですが、後半は、固唾を呑んで凝視していたような気配。彼女に、感想を聞いてみたい気がしました。
これ、外国語に翻訳して、オフブロードウエイとかで上演したら、トニー賞とか取るようなレベルの舞台ではないでしょうか?
ネタバレBOX
開幕前に田中さんがひたすら走るのも、落下物と共に人物が登場するのにも、きちんとした意味合いが理解できて、どこかの誰かさんのマンネリ演出とは雲泥の差を感じました。
カバンや衣類の落下は、対人する人間の心の中に、その人物の存在がドスンと音を立てて、落下するという印象を受けました。
言い争いなどの台詞の応酬に、自然さが溢れ、まるでドキュメンタリーを観ているかのよう。
説明台詞がほとんどないにも関わらず、この登場人物一人一人の心象描写が機目細やかで、彼らのこれまでの人生の呻きが、自分の経験かと錯覚するような、不思議な感覚が走りました。
死んでしまった恋人が、何度も、恋人に向かって「描かないの?」と同じ台詞を口にしますが、観客は、その都度、この主人公の心の内に同化して、疑似体験することで、この繰り返しの台詞が、どんどん重く響く感じがするんです。
兄と妹の関係、二人の両親の関係が、観ている私にまで、伝染し、心が呻くような思いがありました。
他の登場人物達の何気ないような台詞の中にも、たくさん共鳴する部分がありました。
砂地体験は、これで3度目ですが、これだけ、独自性のある息詰まるようなオリジナルを生み出せる船岩さんには、これからも、どんどん、古典をモチーフにしない創作も期待してしまいます。
最後のシーンで、外国にあるという設定の自販機に、伊右衛門らしき、純日本的なペットボトルが見えたのだけが、やや残念でした。
あー、それにしても、田中壮太郎さん、ファンになって10年くらいになりますが、益々好きになりました。
妹役の小瀧さんも、かなりご出演作を拝見していますが、今回が最高!昔観た「ミスターグッドバーを探して」を思い出してしまって、自分には全く経験ないこの女性のトラウマが、己の過去のように感じて、自分も、昔、兄にキスを迫ったような気さえしました。私、一人っ子なのに…。
熱風
トム・プロジェクト
赤坂RED/THEATER(東京都)
2013/01/23 (水) ~ 2013/01/29 (火)公演終了
満足度★★
芝居じみた舞台
芝居なのだから、この表現はおかしいかもしれませんが、一言で言えば、脚本も演技も、トータルかなり芝居じみていました。
皆さん、それぞれ、力のある女優さんなのですが、演技をしている感が濃厚に漂うのです。
だから、観ている方も、どうも、舞台の世界の住人にはなりきれないもどかしさがありました。
それに、登場人物、誰もが、男性に捉われ過ぎて、心的自立ができていない女性ばかりなので、誰ひとり、魅力的に感じるキャラクターがいないのが、残念でした。
とは言え、チラシの雰囲気からは想像だにできなかった、今時女子を体を張って演じきった岸田さんの思いっきりの良い演技には、感服しました。林田さんの自然な佇まいも好きでした。
概して、ベテラン女優さんの方が演技過多になっていたように感じます。
桑原さん、もう少し、登場人物を熟成させて頂きたかった気がします。
ネタバレBOX
無駄に、雨や本水を使う、演出舞台に慣れ過ぎてしまったせいか、シチュエーションに反して、常に服も濡れず、小奇麗なままの女優陣の様子に、リアルさが欠如している感がありました。
また、これは、個人的好みなのですが、アウトローでもない、登場人物が、平気で、マリファナなどを吸引するという芝居に嫌悪感を感じてしまうため、そういう展開になって以降、心の中に、決定的拒絶感の壁ができてしまって、白けた気持ちで、舞台を見守るスタンスになってしまって、自分でも残念でした。
斉藤さんは、ずいぶん久しぶりに拝見し、最初は自然体の演技に好感を持ったのですが、夫に言われた台詞を再現するシーンで、急激に、演技じみてしまって、惜しい気がしました。
最後に、落下して行った者の正体がわかるのも、あの存在を提示された時点で、観客には予想が付くし、逆に、登場人物達は、どうして、その可能性に誰も気づかなかったのかと、疑問が湧きます。こういう点にも、脚本の詰めの甘さを感じてしまいました。
祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹~
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2013/01/12 (土) ~ 2013/02/03 (日)公演終了
満足度★★
壮大を装った作り話
アルジェリアのテロでの犠牲者のニュースなどを見ていると、殊更、この壮大そうな作り話が、空虚に感じられて仕方ありませんでした。
正直言って、脚本にも演出にも、何も魅力を感じることはできませんでしたが、ただ役者さんは、それぞれ、魅力的で、構成もしっかりとはしているので、4時間20分の観劇そのものは苦痛ではありませんでしたが。
古谷さんが、お元気そうでほっとしたり、伊藤蘭さんと大石さんの執事夫婦の演技が素晴らしく、印象に残りました。
ケラさんの演出は観ていませんが、蜷川さんの、またそれか?の物が落下したり、雨を降らせたり、最後の劇場機構を逆手に取った演出は、あまり必要性を感じず、ゲンナリ。
コロスのラップも、無理やり感いっぱいで、逆効果だった気がします。
ネタバレBOX
どうも先に企画ありきで、ケラさんが、熟考して、愛情を籠めて作品を生み出した気配があまり感じられない戯曲だったように感じられてなりませんでした。
ダークな「わが街」風だったり、「三人姉妹」風だったり、ギリシャ悲劇風だったり、ありとあらゆる調味料を混在させ過ぎて、味が雑になってしまった気がします。
これだけの登場人物を使って、何を描きたいのか、軸が見えないし、わざわざこんな作り話を新たに生み出さなくても、この面々で、シェークスピアや南北を上演してくれた方が、ずっと見ごたえある舞台になったのではと、この作品の上演それ自体に、意義を感じられませんでした。
でも、キャストは、端役に至るまで、適材適所で、本当に、演技を堪能させて頂けたのは幸いでした。
一番不可解だったのは、ヤンの服装が、密航してきた時のままだったこと。何故?何か、理由があるのでしょうか?
主演の森田さんを初め、若い役者さんの好演が光る舞台でした。
TABLOID REVUE 『密会』
ジャンクション
赤坂RED/THEATER(東京都)
2013/01/17 (木) ~ 2013/01/20 (日)公演終了
満足度★★
「夜のヒットスタジオ」みたいでした
最初チケットを買う時、いつにするか迷って、荻田さんのだから、最終日が無難かなと思って、正解だったようです。
もし、初日に観ていたら、満足度、☆1だったかもしれないので…。
還暦間近の私には、何だか、昔の「夜のヒットスタジオ」の歌謡ドラマ風で、へんてこりんなダンスショーという印象でしたが、とにもかくにも、好きな出演者揃いで、キャスト陣が、懸命に舞台を務め上げて下さったのが、救いでした。
海宝さんファンなので、彼の魅力的な表情を間近で拝見できて、幸せでした。
ネタバレにも書きましたが、スタッフのお仕事ぶりには、かなり?マークです。
舞台の前に照明器具がしつらえてあるのですが、それが、観客が通る度に、何度も倒れ、その度、最前列の観客が、位置を直していました。楽日でこれだから、きっと連日この調子だったろうと思うのですが、スタッフは、開演前に調整にも来ません。何だか、どこかの学校の文化祭のステージのようでした。
ネタバレBOX
セットが、安普請過ぎて、残念!
たぶん、内容から類推するに、もっと高級ホテルの一室のイメージではと思うのですが、このセットだと、場末のビジネスホテル風でした。
音楽も、途中で何度も音が飛んだり、とても、プロのスタッフのお仕事ぶりとは思えません。
保坂さん演じる、ホテルの清掃員の女性の回想ドラマなのかと思ったのですが、ずっと拝見していると、そういうわけでもなさそうだし、私の平凡な頭では、理解不能な展開でした。
アトランダムに、この部屋に寝泊まりした不特定多数の宿泊客の人生模様をダンスに表現した作品なのでしょうか?
5人の出演者が、何役も演じたのか、一人の役を演じたのかも、はっきりしないところがありました。
ただ、それぞれの出演者のダンスは奇麗で、堪能させて頂きました。キャストが、全員、投げやりにならずに、精一杯演じて下さって、目は確実に惹きつけられました。
特に、若いホテルマン役の海宝さんの演技が爽やか。表情だけで、様々な思いを表出し、お見事でした。AKBとかアリスチックな女装も可愛かったし、その後、女の子の鬘を脱いで、ベットで、男性として行為される演技に魅了されました。
ダンス好きな観客には、好評かもしれませんが、頭の固い私には、理解不能だったので、個人的な満足度は、やや低くなりました。
ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~
東宝
シアタークリエ(東京都)
2013/01/05 (土) ~ 2013/01/09 (水)公演終了
満足度★★★★★
何度観ても、心洗われる作品
今年の観劇初めに相応しい、清々しい舞台で、同行の友人が、心から感激していたのが、印象的でした。
改めて、ジョン・ケアードさんの作劇の巧みさに心酔しました。
今回は、短い上演期間でしたが、是非また再演を願いたい、珠玉の舞台です。
9月の公演より、客席に、笑い声が絶えず、キャストも、観客も、この作品を、良い意味で、消化吸収して膨らませていると感じられました。
ネタバレBOX
「組曲虐殺」を終えてすぐの井上さんのチェンジがうまく行くのかと、やや心配でしたが、全くの杞憂でした。
あの悩めるジャーウ゛ィス坊ちゃまは、健在でした。
愛してしまったジルーシャに対して、本当は、スミスではなく、ジャーウ゛ィスだと名乗れない苦悩を歌う「チャりテイ…」の歌が、やはり最高に、胸に沁みました。
気のせいかもしれませんが、冒頭の坂本さんの一人芝居部分が、昨年の公演より、短縮された気がして、冗長にならず、より、二人芝居としての完成度が高まったような印象を受けました。
ジルーシャの成長と共に、二人のスタンスが逆転して行く心の流れが、丁寧に描かれて、本当に、何度観ても秀逸な脚本、演出だと感嘆する舞台です。
できれば、東京だけでなく、全国の演劇ファンに観てほしい素敵な舞台作品だと思います。
ZIPANG PUNK ~五右衛門ロックⅢ
劇団☆新感線
東急シアターオーブ(東京都)
2012/12/19 (水) ~ 2013/01/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
若手二人が美しい!!
還暦間近のおばさんのクリスマスは、一人新感線。
「シレンとラギ」が今一つだったので、あまり期待せずに行きましたが、やっぱり、五右衛門シリーズは、文句なく楽しいわ!
細かいことは置いといて、ともかく、充実の客演陣と劇団主要メンバーが、久々に、一堂に会して、新感線ファンなら、大満足の舞台だと思いました。
三浦さんと、浦井さんという若い実力派が、華麗な殺陣で新風を吹き込み、年齢を重ねた、古田さんとじゅんさんは、あえてご愛敬的なデフォルメ殺陣で、逆に、舞台にもコントラストが出て、楽しい空気でした。
蒼井優さんは、か細いんだけど、円やかで、曰く言い難い魅力ある歌声。
高橋さんは、もはや重鎮の域。草葉の陰で、山岡久乃さんが、目を丸くしていらっしゃるかも。
地球ゴージャスで、驚いた三浦さんの歌はふんだんにあり、姿、顔立ち、美声と何拍子も揃って、この人、ズルイ!と思う程。彼が演じる「レミゼラブル」のマリウスをいつか拝見したいなあと思いました。
麿さんの秀吉は、まさにこんな人だったろうと思うはまり役。出番が少なく、残念でした。「SHIROH」の江守さん同様、村井さんのような、ベテラン舞台人が、こういう役どころで、新感線に出ると、やはり舞台が締まって、大好き!!
やや、今の日本の状況を皮肉る台詞などもあり、エンタメ作品なれど、なかなか奥深いものもありました。
ただ、残念だったのは、音響の反響のせいだろうけれど、歌になると、歌詞がほとんど聞き取れず、画面に出る歌詞以外は、想像を逞しくして、聴かなければならず、やや疲れました。
カーテンコールで、出演者名を、本人の横にテロップで出すアイデアは、観客に親切で、好感が持てました。
ネタバレBOX
浦井さんが、「薔薇とサムライ」のシャルル役だったのは、全く知らなかったので、登場した途端、サプライズプレゼントのような喜びでした。
天海さんの映像出演のおまけもあり、贅沢!
最近、暗号を解くのに、凝っているので、謎解きとしても、かなり楽しめる内容でした。
浦井さんとじゅんさん、浦井さんと三浦さん、浦井さんと高橋さん、三浦さんと蒼井さん、それぞれのデュエット曲が、視覚的にも聴覚的にも美しいのですが、もう少し、メロディアスな曲調なら更に良かったのにと、惜しまれます。
それにしても、浦井さんの腕の上げ方の美しさ、三浦さんの華麗な裾捌きには、見とれてしまいました。
このお二人の共演、また別の舞台でも、是非拝見したいものです。
「白波五人男」風な、勢揃いの場の名乗りあげは、観ていて、爽快!!
新感線らしい、年末の舞台に、元気をもらって帰途につきました。