秘を以て成立とす 公演情報 KAKUTA「秘を以て成立とす」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★

    脚本の設定に基本的齟齬がある
    これが、ファンタジーや不条理劇の形態なら、きっと後ろの席で号泣されていた若い女性同様、私も、KAKUTAファンの一人として、結構感動して席を立っていたかもしれません。

    しかし、この脚本には、実社会の常識を逸脱する、明らかな齟齬があると、私には感じられました。

    前回公演の「ひとよ」の時にも感じたのですが、最近の桑原さんの戯曲は、あまりにも、主人公の境遇を特化した異質な世界に設定し過ぎているのではないでしょうか?
    そのために、実社会の常識からは、かなりずれた展開が多く、不自然に感じてしまう部分が多々あるように思うのです。

    せっかく、人間洞察にも優れ、それを虚構の人物に転化して、感動作を送り出せる力量をお持ちの作家で演出家でいらっしゃるのですから、もっと、どこにでもいそうな人間の深層心理をリアルに描く作品で、勝負して頂けたらと願わずにはいられませんでした。

    その点を詳しく言及するとネタバレになってしまうので、ネタバレ欄は、公演終了後に追記したいと思います。

    ネタバレBOX

    公演が終了したようなので、今回の作品に疑問を感じた点を追記します。

    この作品、クリニックの院長である晋太郎が、過去のトラウマから、多重性人格になり、その人格ごとに、吉見さん、清水さん、成清さんの3人の役者さんが演じ分けする構成です。この手法は、演劇的にはとても面白い趣向だと思うし、そうすることで、芝居が中盤になるまで、観客の興味を引っ張り、厭きさせない効果は抜群にあるとは感じるのです。

    でもですよ、観客には3人違って見える、晋太郎とハリオと赤城ですが、芝居の中の登場人物には、3人の顔は同じに見える筈ですよね。

    診療してて、急に赤城に変身したり、道で急にハリオが暴れても、近所の人にしてみたら、あのクリニックの先生は異常だとすぐにばれる筈だと思うのです。ましてや、アナフラキシーショックで急死したと思われている患者を、診療ミスだとスクラム組んで、デモしてるような地域なら、まずその前に、あんな多重人格の医者は追放しろって騒ぎになりそうに思うけど…。

    それに、夫や兄がそういう危険人物だと知りながら、診療させている家族の常識も疑います。

    晋太郎が、医者ではなく、アーチストか何かなら、この芝居も納得して、素直に感動できたと思うのですが、医者という職業設定が、あまりにも、現実に即していないと思うのです。

    それに、高山さん演じる実美は、晋太郎が赤城に変身したところを目撃してる筈なのに、ずっと、このクリニックには医者が二人いると思いこんでいるところにも無理があると思います。

    役者さんの演技は、総じて、皆さん、秀逸ですが、ただ個人的好みとして、若狭さんは、こういう偽悪的な人物役は任でないように感じました。
    ハリオ役の清水さんも熱演でしたが、この難解な役をどう演じていいか、少し、迷いを払拭されていない感じが見受けられた気がしています。

    「目を見て嘘をつけ」ぐらいの、誰にも思い当たる経験や思いを桑原流に凝縮表現された作品を、是非、次回には期待したいと思いました。

    相変わらず、女優桑原さんの部分には、大満足なだけに、そう願わずにはいられない思いがありました。

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    2013/03/03 00:22

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