Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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ヴィクトリア

ヴィクトリア

シス・カンパニー

スパイラルホール(東京都)

2023/06/24 (土) ~ 2023/06/30 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

白を基調とした舞台にはベッドといす二つだけ。そこに(やはり白い衣装の)大竹しのぶが、ヴィクトリアという女性の生涯を一筆書きのように描き出す。かわいい女性が運命に翻弄される哀れ。冒頭は43歳からはじまる。43歳に近づこうと頑張ったのか、たしかにいつもにまして大竹が若々しく見える。パーティーでリヒャルト・シュトラウスとあいさつするところから、19世紀末の時代をうかがわせる。もはや結婚生活の破綻した夫との関係、そこに襲い掛かる不幸、…。ヴィクトリアの生涯は「欲望という名の電車」のブランチを思わせるところが多く、大竹の演技の厚みが光る。
1時間10分

ネタバレBOX

最後に出てくる少女、そして大竹にまるで天上からのように響く老婆の声は、大竹自身の物だったのだろうか。少女期と老年とが二重写しになった。
新ハムレット

新ハムレット

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2023/06/06 (火) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

深刻劇や英雄譚のようにとられるハムレットを、ただの世慣れない反抗的若者に変えて見せた。それは自負と自己嫌悪がない混ざった太宰治その人の分身なのである。だからハムレットは「自殺 苦しみから逃れる方法はそれだけなのだ」「よってたかって僕を機違いにしようとしている(バビナール中毒事件!)」とごちる。それを、クローディアスは「国のため)君の実感を欺いてください」といさめ、「先王が生きてていれば先王に反抗している。先王を軽蔑し、てこずらせているでしょう」と見抜いている。一場の二人のやり取りだけでも、太宰治の才能は明らかであり、五戸真理枝のカット・演出はよくできていた。

レアチーズ(駒井健介)は屈託のない陽気な青年、ポローニアスはただの子煩悩の好々爺である。これはハムレットの家族と対照的。ただポローニアスは次第に舞台回しへと役割を上げていき、王を試す芝居もポローニアスの発案で行われる。太宰版ハムレットはそんな人物ではないからの選手交代である。

男優陣が好演。とくにポローニアスの池田成志は、この芝居の中軸を担って力演だった。ハムレットの木村達成もこんなにうまい俳優とは知らなかった。立ち姿もセリフも、感情のニュアンスもいい感じだった。平田満も、出番はこの二人に比べて少ないが、渋い苦労人ぶりがよく出ていた。唯一、家族外・宮廷外の人間であるホレーシオの加藤諒は、舞台をかき回すトリックスターで、ユーモアとデフォルメがよかった。

太宰自身が「上演するための戯曲ではない」と前口上しているように、原作はそれぞれのセリフがとんでもなく長い。小説は人間の内面を語るためのものだということがよくわかる。特に一人称小説はそうだ。五戸真理枝さんは舞台用にうまく刈り込んでメリハリをつけた。編集はさすがだった。

ネタバレBOX

先王殺しはうわさに過ぎないようだが、ポローニアスの「私は見たのです。見たのです」(何を見たかは不明)の執拗な攻めに、さしものクローヂヤスもキレて刺し殺してしまう。太宰の改変悲劇である。ただ、クローヂヤスがシロなら、騒いでいるだけでポローニアスを殺すのは行き過ぎでは? 殺すということは「クロ」なのかという疑いも起きる。実はクローヂヤスの容疑はグレーのままと言えるだろう。(本人は「一度頭で考えただけ」というが、それも当人の弁でしかない)

ガーツルードが(オフィーリヤのかわりに)池に身を投げるのも、少々苦しいつじつま合わせでしかない。(「ハムレット」なのだから、もう少し人が死なないと、という)

しかし家庭の悲劇が高まったちょうどその時、大音響とともに「戦争」が始まる。なんと! 原作の出版は1941年7月。すでに日米開戦は必至と思っていたのだろうか。舞台でも中央の赤丸を大きく右にずらした日章旗もどきが掲げられ、クローヂヤスのカーキ色の服の胸にも同じ日の丸もどき。小さな悲劇(王家だけど)を、国家の暴力が飲み込んでいく様は、シェイクスピアのノルウエーの進軍をもとにしながら、それを超えた。
ノートルダムの鐘【1月6日~8日公演中止】

ノートルダムの鐘【1月6日~8日公演中止】

劇団四季

京都劇場(京都府)

2022/12/18 (日) ~ 2023/04/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

大司教フロロー(野中万寿夫)の若き日の弟との別れから、カジモド(寺元健一郎)が怒りと悲しみからフロローと対決するまでをテンポよく見せていく。ただ一つ一つの情景がアッサリ気味。たとえばカジモドがジプシーのエスメラルダ(松山育恵)と出会う、祭りの日も、カジモドがタブーを破って人前に我が身をさらすためらいが少なくて、十分な葛藤なしに流れてしまう。フロローがエスメラルダに横恋慕するのも、なぜそれほどに恋焦がれるのかわからない。そう決まっているから恋するというように見える。

カジモドの心のうちを示すため、聖堂の聖人像やガーゴイルたちがコロスになるのも、説明的な感じ。シリアスな悲劇のつくりなのだが、物語の大きなうねりにのれなかった。

東京の四季劇場で23年5月27日(土曜)夜に見たのだが、サイトにその情報がないので、ここに書いておく

音楽劇「ブンとフン」

音楽劇「ブンとフン」

NHKエンタープライズ

よみうり大手町ホール(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/23 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

井上ひさしの、お偉いさんを揶揄し(「権威がなければ皆ただの人間」)、戦争にあきれ(「魂がないと人間は」)る歌の数々がおもしろい。フン先生(橋本良亮=イケメン)のパソコンから飛び出した=50年前の原作の設定がアップデートされている=ブン(浅川梨奈=かわいい)の奇想天外の大泥棒の話である。「ブン、どこにでもいるブン、誰にでもなるブン、ふしぎなブン、ゆかいなブン」のブンの歌を聴いて、「ブン=文=ことば」なのだと初めて気づいた。井上ひさしは芝居に演劇論をおりこむように、小説に文学論を入れていたのだ。言葉こそ、何でもできる不思議で愉快な存在なのだと。しかも原作の小説よりも、この歌が長く、内容を膨らませている。この脚色のおかげで、一層井上ひさしの隠し味がくっきりした。(権威を盗め」の歌も、拡充している)

ブンが誰にでもなるところを、フン先生以外の俳優が、入れ代わり立ち代わりブンになって見せる演出も面白かった。
ブン逮捕のため呼び出される悪魔(松永玲子)が、弾けた演技でキャラが立っていて面白い。今回トップの怪演である。

ピアノ(かみむら周平、音楽も)、ギター、ヴァイオリン(鹿野真央、出演も)の音楽をバックに、朗読劇としては十分に質の高いものだった。ナレーターは升毅。

ネタバレBOX

ブンとフンは愛し合うようになる展開は、小説だと親子のような愛情だが、舞台では恋人同士に。俳優に合わせた自然な変更だ。おかげで若い人気俳優二人のロマンスで舞台もロマンチックに。ロマンスは芝居の脚色なので「ただ好きなのさ 理屈はいらない」の歌もは脚色かと思ったら、原作にあったのは意外だった。原作の持つの幅の広さ、人生の知恵の豊かさは半端ない。

ラストは小説とは違っていた。裁判で有罪になったブンは、北朝鮮とロシアのブンと衝突し、危なくなる。それを救おうと、フン先生が小説に新たに手を入れよう、というところで幕。原作では、刑務所は嫌なものという常識を覆し、「ブンにならって盗みましょう、みんなで仲良く盗みましょう」「はいりましょうよ 刑務所天国良いところだよ」と、さわがしい大団円?になる。

今ふと思ったが、井上ひさしのこのラスト、ひさしの個人的ナンバーワン映画「ミラノの奇跡」に似ていないか? 「ミラノの奇跡」は、バラックのユートピアを警察に追われた貧民たちが、みんな揃って天国へ登っていく。
この夜は終わらぬ。

この夜は終わらぬ。

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2023/06/02 (金) ~ 2023/06/16 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開演前、連れが「あのエレベーター本物?」と言っていた。なわけないだろ!と思ったが、そう錯覚するほどリアルな美術。病院の待合室での一夜の出来事だが、問題抱えたちょっと痛い人たちが、次々とくるわくるわ。夜間中学の外国人生徒(山田貢央、椎名慧都、齋藤隆介、佐藤礼菜)、その教師(千賀攻嗣=唯一の常識人だった)をはじめ、元夫の選挙結果が気になる入院患者(佐藤あかり)、年下の女性が偉そうな警察官コンビ(釜木美緒、渡辺聡)、認知症の女性(松本潤子)…はてはSMクラブの女王様(釜木美緒=二役、気づかなかった)と奴隷(渡辺聡=二役、同じく)、外国人差別丸出しの暴行相手の代理人の弁護士(滝佑里)などなど。(千賀さん以外は、俳優座にこんな役者いたかな?という感じで新鮮だった)

これだけ盛りだくさんで、テンションずっと高くて、1時間55分でおさめていたのは驚き。しかも外国人差別を助長するようなアプリを入管庁が配っている事態まで見せつけられた。日本はどうなっているんだよという気になる。作演出の伊藤毅は「多文化共生」というテーマを劇団からもらったそうだが、「多分に混沌」という感じだった。とにかく、テンション高く、苦笑と活気にとんだ芝居だった。

ネタバレBOX

いくら日本に疎い外国人でも、手術中の手術室に何度も飛び込むとか、ありえないだろう。「ネパール人の血は日本人に輸血できるの?」という生徒を、教師が厳しく叱責するのも、優しい思いやりある教師の設定から言ってチグハグ。女性弁護士も嫌味がストレートすぎて、現実離れしている。弁護士バッヂがないのもいただけない。そのほか、そのほか。

場面の都合で、夜間中学生たちみんなが長い間トイレに行っているときもあった。
このように突っ込みどころや無理筋満載なのだが、舞台の活気と日本社会のゆがみを提示する心意気とパワーは感心した。
R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム

R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/06/09 (金) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

冒頭、一人のサラリーマンが二つの家族の「お父さん」を同時にやっていて、おやッと思った。気持ち悪いほど仲の良い「家族」はネットの疑似家族で、隙間風の吹いているのがリアルの家族(舞台ではそれを同じ空間で別俳優が同時に演じる)と分かってきて、題名の意味も分かってがぜん面白くなる。そして、「お父さん」が殺される。(この場面は一瞬だが、迫力ある)

以下、殺人事件の真相究明となるのだが、取調室と、マジックミラー越しの別室と、過去のネット家族たちと、取り残されたリアルお母さんと、最大4つの出来事を、同時に舞台上で演じさせる。こうした時空間の処理は見事。同じ場面を巻き戻して別角度から見たり、演劇的想像力を喚起される。

高校生16歳の娘役の川畑光瑠が、本当の高校生のようだった。イラついたり、落ち込んだり、不機嫌だったりが、思春期らしい不安定さをよく出していた。リアルお母さんの小林桃子の弱い女の底の強さ、ネット娘の東史子の強気の裏の寂しさ、人恋しさも、それぞれよく出ていた。

ネタバレBOX

最後のどんでん返しは素晴らしかった。携帯でやり取りする相手の男が怪しいのかと思っていたが、アッと驚く仕掛けだった。(これは原作の手柄)

アフタートークで、「舞台で相手のセリフを聞くとは?」という客席の質問に、出演俳優がいい答えを返していた。奥村洋治「会話になってないと思う俳優もいる。あいてのことばを聞いて起きるさまざまの感情をきちんと感じて、その感情で自分のセリフを言うのが大事」みょんふぁ「その場での感情の変化を省略しないで、スピードも落とさないで超高速で心を動かすのが俳優の仕事なのだと思う。そこは映像とも違う。舞台上では感情の省エネをしないように心掛けている」

宮部みゆき「R.P.G.」は2001年作。平野啓一郎「決壊」は2008年だが、共通点を感じた。「R.P.G.」ではネットでの家族ごっこが悲劇を生み、「決壊」ではブログでかいた家族の悪口が悲劇のきっかけとなる。どちらもネットでの行為が、リアル家族に修復可能なしっぺ返しをくらわせる。
海の木馬

海の木馬

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/05/30 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

生き残った元特攻兵(小野武彦)の現在から、戦争末期の振洋特攻隊の生活へとワープする。部隊長演じる原口健太郎の厳しい鬼上官でありながら、手綱の緩め方も知っている(本部から特攻兵は大事な武器だから大切にしろと言われているからだが)老練さが、心憎いばかりに見事。

4人の若い特攻兵(小野もこの一人)と二人の上官、二人の整備兵という軍人たち。それに対する勤労奉仕隊の村人たちはいわばコロスである。軍人たちとコロスが一体となった、繰り返される出撃命令と解除の緊張感と愚劣さが見ごたえがあった(こうした誤情報による出撃命令と解除が終戦までに51回も繰り返されたそうだ)。同じく悲劇のクライマックスと事後の混乱ぶりもダイナミックであった。

ネタバレBOX

爆発事故のあと、生き残って一人呆然とする兵(小野武彦)と、そのまわりで、地元の婦人たちが戦争で失った愛する人を思いながら泣き崩れる。そこまでは冷静に見ていたのに、そこにきて急に目頭が熱くなった。ごく平凡なシーンなのに、我ながら驚いた。一種の「ツボにはまった」というものだろう。

今回は桟敷童子得意の屋台崩しの美術はない。その分、舞台が広く使えてよかった。最後の仕掛けとしては、天井からいくつも砂が落ちてきて、何本もの砂の柱が現れる。
楽園

楽園

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2023/06/08 (木) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

作者の山田佳奈はコンプレックスを抱えた痛い女性たちを描くのがうまい。今回は沖縄らしき南の島の祭祀に集まった7人の女性たち。保守派の村長の娘(清水直子)の尊大さと焦り、反対候補として村長選に立った区長の妻(深谷美歩)の肩身の狭さなど、いくつかの対立・衝突が絡みあう。女たちのいがみ合いと厚かましさがヒートアップし、祭祀そっちのけで暴露と開き直りのバトルが繰り広げられる。

旅館の若い嫁(豊原江理佳)のはつらつさとアンニュイさのまじりあった雰囲気が独特。どろどろした閉鎖的人間関係をよく知るからこそ嫌気をさした若者のいら立ちを示して印象的だった。テレビの取材に来た東京の人(土居志央梨)も、新鮮な好奇心と、コンプラさえ破る「面白い絵作り」優先の仕事に時に自省する素直さが好感持てた。出戻りの娘(西尾まり)と、「孫の顔を見られんつらさがわかるか」などと古い頭の母親(中原三千代)の痴話げんかが、「あるある」で舞台を活気づけていた。司さま(増子倭文江)ひとりが、俗人たちの泥仕合に超越して祭祀に責任を持って孤高だった。。

旅館のタジキスタン人の従業員というのが、一度も登場しないのに、笑いをとるうえでも(土居の変な突込みに、あきれぶりといぶかし気をたっぷり示す豊原の表情が見事)、秘密の暴露の上でもカギになる展開も面白かった。

人魂を届けに

人魂を届けに

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2023/05/16 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

冒頭が素晴らしい。 暴力を見逃したために1万円をもらって 魂の一部を「押し買い」される。 魂は失う、「これは比喩ではない」という メッセージであり、本編の予告編。男・八雲(安井順平)が森の中の 一軒家にたどり着く。 そこには 不思議な 家族が暮らしている。 お母さん (篠井英介)に 男は 「息子の亡骸 を持ってきた」という。「その亡骸とは魂だ 」「声が聞こえる」という。 男は 拘置所の刑務官で、 息子は死刑執行された、多くの人が死んだ 悲劇だという。ここから少し 奇妙で多面的な話が始まる。

お母さんは森の中に自殺しに来た人や、野垂れ死にしそうになった男たちを見つけ出したは、この家に連れてきていた。 キャッチャー イン ザ フォレストという 当然 キャッチャー イン ザ ライ を連想させる。 ホールデン少年が 汚れた大人社会から無垢な少女を守る存在だとすれば、 お母さんは 腐敗と侮辱にまみれた社会で 傷つき 落ちこぼれた男たちを守っている、と言えるだろう。 そこにこの 作品のモチーフを見ることができる

連れてこられたのは みんなからバカにされて自殺しようとした男(大窪人衛)など。

刑務官の知り合いの陣(盛隆二)という男をやってくる。陣は実は公安で この家はテロリストの巣窟だという。 お母さんは 書類改ざんで自殺した男の妻で、自分の恨みを 助けた男たちに伝え社会に戻してテロをさせていると。 ここにも 無差別殺傷事件が 目立つ 今の日本のフラストレーション が感じられる。

ネタバレBOX

息子の魂の話は 消え、 いつのまにか 男の身の上話になる。息子の行方不明、妻の家出とそのトラウマの話。そして男は、ライブ会場で銃乱射した歌手の 銃弾に右膝を打ち抜かれびっこになった。 この歌手が お母さんの息子だという。息子は刑死なのか、自殺なのか、そこは「藪の中」のようにわざとずらしてあった。

とにかく最後、 男は 僕も社会に戻ったら拘置所のキャッチャーになるという。落ちてくる 受刑者を受け止めるキャッチャーに。どういう意味だろうか。刑死者の魂を救う受け止める というのか、死刑から救うということ。現代社会の病と闇んいつながる、印象的なフックを多く持ちながら、最後まで謎に満ちた作品というしかない。
老いらくの恋

老いらくの恋

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/05/24 (水) ~ 2023/05/31 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

戯曲の批評性と俳優の人間味がうまく結びついたいい舞台だった。とくに青年劇場の誇るベテラン葛西和雄、藤木久美子、吉村直の自然なユーモアがすばらしい。葛西と吉村の「金色夜叉」ごっこは大いに笑える(お宮役で倒れた吉田が、隅っこで起きようとしてなかなか起きられない何気ない所作に、客席は爆笑した)。葛西が妻役の藤木に長年の感謝を云おうとして、本番では練習とは全く違う展開になってしまうおかしさも極めて上質だった。

山下惣一原作の、農業金言が要所要所で光る。「規模拡大する農家がいれば、狭い農村では土地を失う農家もいるということだ」「競争ではなく共生」「農業は工業とは違う。成長よりも安定、拡大よりも持続が大事」「いくつになっても楽しみが見つけられる。農業やっててよかった」等々。

若手も奮闘していた。特に将来の農業を支えるカップルを演じた藤代梓と安田遼平は初々しくて、応援したくなる。農業とともに、青年劇場の未来の希望を感じた。美術もよかったが、茶の間のセットと、シャインマスカットを植えた畑のセットの転換はどうだろうか。これをセット転換でなく、うまくシームレスに演じる手はなかったかと思う。

ネタバレBOX

最近、芝居というものはどこに着眼してみればいいのかということを考える。今更ではあるが、プロットやセリフに現れる思想、風俗、人間観社会観を見るのはまず初歩的な見方だろう。それは戯曲に書いてあるし、わざわざ舞台で演じなくてもわかるものだ。同じ戯曲でも再演、再再演、あるいは数十年時間をおいて、違う演出・キャストで演じるのは、同じ戯曲でもそのたびに違うものがその舞台にあるからだろう。その違いは何か?

とりあえずだけれども、やはり舞台上の俳優を見ることが第一だろう。その存在、声、所作に、笑ったり、反発したり、身につまされたりが入り口であり、批評の土台である。さらに芝居を「体験」すること、美術、照明、音楽、セリフ、ステージング…の総合。その時間、劇場に身を置いて得られる経験の質の豊かさ。ここで観客もまた、笑ったり、あるいは静まり返ったりして、劇場での互いの体験を一緒に作っていることも見逃せない。ミュージカルや東宝や松竹の商業演劇の観客満足度の高さがそこにはある。

戯曲のもつ思想を核としながら、俳優の存在をまじかに見ての劇場でえられる体験の質の評価、これがすぐれた劇評ということになるのではないだろうか。ただ抽象的にそういっても、始まらないので、結局は個別の芝居の経験を何とか言語化しようと四苦八苦することになるのだけれど。
金閣炎上

金閣炎上

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/05/12 (金) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

1950年の金閣寺放火事件の小説化は三島由紀夫の「金閣寺」が世に有名だが、水上勉の小説「金閣炎上」もなかなかの労作である。この舞台は、小説をもとに水上自身が戯曲を書いた。三島作品は犯人・養賢の「美への嫉妬」という言葉から発想した、美をめぐる観念小説である。

一方、水上は養賢の「あんなものは禅寺に不要だ。ない方が長老も小僧も苦しまなくてすむ」という言葉から発想した。前半彼の生い立ち、父母との関係をたどったうえで、後半、金閣寺における小僧生活でつもりつもった恨みつらみ、極端に吝嗇な長老の仕打ちと金満寺という実態のギャップへの憎悪をこれdもかと積み重ねていく。実録に近いと言われるほどの小説の舞台化なので、事実に即しているのであろう。養賢が次第に不満と恨みをふくらませていく過程は、長老によるたびたびの叱責に対する歯ぎしりする思いにくわえ、学生の友人の証言や、女郎買い(実際にあった)の場面などで、いわば主観と客観の双方から積み上げられていく。

養賢が金閣寺職員の収入や拝観料収入を尋ねるなど、いつもカネを気にしている性分が、その後の行動の土台として描かれていた。さらに戦後の金閣寺が、戦中の中国の傀儡政権の首席陳公博をかくまったとき、陳たちが池の鯉をとって食べ、麻雀三昧で遊び暮らしたことを、養賢は「殺生を禁じる禅寺でなにごとか」と憤慨する。この「殺生禁止」こそ、少年時代に狩猟したとき、僧侶だった父に激しく叱られ叩き込まれた教えだった。

三島「金閣寺」を読んだときは、美の妄執にとらわれた青年の衝動的行為を理解しがたくおもったが、「金閣炎上」では、考えた末に放火した犯人の心情には理屈が通っている。理解できると思った。実際の養賢はどちらだったかは、別問題のようであるが。

養賢役の君澤徹は新人だが迫力ある熱演だった。減量したのか、こけた頬とくぼんだ眼で、孤独で狷介で、近寄りがたい養賢の雰囲気をよく出していた。長老に叱られるたび、ぶるぶると唇を震わせて恨みをためていく演技も怖いほどだった。

Wの非劇

Wの非劇

劇団チャリT企画

駅前劇場(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

性加害の問題を明るい笑いに変えて批判する。とにかく面白い。冒頭から超スピーディな場面転換で、若手大物監督(みずき)による新人女優(小関千尋)に対する性加害の問題と、それをめぐって泣き寝入りか告発するか、女優の事務所関係者の利害も絡んで右往左往する。人権と正義より利害と打算で動く人間の姿に、笑いながら身につまされる。

若手大物監督の所属する芸能プロが「ジョニー」で、社長はジョニー北澤(市原一平)。ジャニーズJrならぬジョニーブラザーズがステージの練習に流れるのが、性被害を実名で告発したカウアン・オカモトの曲。モデルは明らかで、ちくりとした風刺に客席からもたびたび笑いが起きる。ジョニー北澤が姉の会長(山本陽子)と、監督の性加害疑惑のもみ消しを図りつつ、若いブラザーたちを「合宿所」に呼び出す…。ここらへんから今日ただ今の問題の核心にせまっていく。

ネットの投降者たちも2回ほど出てきて、彼らの心ない言葉が登場人物を苦しめる。現代がネット社会であることもきちんと表現している。
濃い内容を、なりふり構わぬスピード重視でコンパクトな舞台に。95分休憩なし。

ネタバレBOX

ジョニー事務所が被害を訴えた女優の過去を洗ううち、意外な事実がわかって、問題が過去のいじめ加害になっていく。ここでAIが書いた映画脚本がネタとして使われているところ、ジャニー〇〇の性加害同様、今この時の話題を瞬時に拾うセンスはさすがだ。性被害を訴えた女優が、実はかつていじめで同級生を自殺に追い込んでいたという展開は、恐るべき発想。それで女優は逆に追い詰められてしまう。

あれっ、性暴力はどうなるの?と思っていると、芝居ならではの飛躍とドタバタで、問題は再び性暴力に戻り、意外な結末をつける。アッと驚くアクロバットである。「セーラー服と機関銃」の薬師丸ひろ子(神野千愛)も出てきて、笑わせられた。

「非劇」とは劇にあらず。心無い現実である、という意味。うまいタイトルである
リゴレット<新制作>

リゴレット<新制作>

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2023/05/18 (木) ~ 2023/06/03 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

主役三人の歌手が素晴らしかった。醜い道化師・リゴレット役のロベルト・フロンターリのバリトンの凄みある絶唱、裏切られてもなお愛に献身するジルダ役の可憐な若手ソプラノ、ハスミック・トロシャン(アルメニア人)の伸びやかな澄んだ高音、多くの女に手を付ける遊び人だけど、それぞれの愛にうそはないマントヴァ侯爵役のテノール、イヴァン・アヨン・リヴァス(南米ペルー出身)の明るい声。

オケも快調なテンポでメリハリがあり、歌を邪魔しない抑制もある。演出・美術・衣装もシンプルだけど、情景を作るところはしっかりと描きこんでいた。要所要所の四重唱もばらんすよい。そうしたしっかりした土台の上に歌手の素晴らしさがきわだった。オペラ通の先輩も「近来にないいい公演だった」と言っていた。

1,2年前にMETのライブビューイングをWOWOWで見たが、現代的な演出が目立って、肝心の作品の方は影か薄くなってしまい、あまり内容を覚えていない。今回見て、どういう話かがよく分かった。

地獄のオルフェウス

地獄のオルフェウス

文学座

文学座アトリエ(東京都)

2023/05/09 (火) ~ 2023/05/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

最初、主役の二人は現れない。近所のおばさん2人(頼経明子、金沢映実)が延々、女主人公の不幸な過去と、彼女の夫との愛のない生活を噂する。他にもこの南部の田舎町の住民が次々現れ、誰が誰やらと思ううち、主人公レイディ(名越志保)が帰ってくる。流れ者の色男ヴァル(小谷俊輔)が店で働き始め、最初はヴァルに邪険にしていたレイディの隠された思いが明らかになってゆく……のが本筋。

ところが、最後はまたも街の人々によって、とんでもない結末になる。全く救いのない芝居。愛も夢も希望も、南部の因習的な差別と非情な暴力の前についえ去っていく。そのやりきれなさを描いた。冒頭と最後が主人公たちでも副主人公でさえなく、わき役たちによって(幕開きは女の、幕引きは男の、という違いはある)占められているのは、この芝居の芯の主人公が、誰なのかを雄弁に語っている。

レイディの期待と怖れ、たくましさと弱さ、臆病と行動という複雑な姿を名越志保が堂々と演じていた。本当の思いを普段は見せないのが切ない。秘めるほどにそれだけ思いのリアリティーが高まる。押し殺すような低い声と澄んだ高い声とを使い分けるセリフ術がよかった。小谷俊輔も、地に足のつかない青二才のヴァル(30歳と繰り返し言うが、本当だろうか)を好演した。

3幕もの(3時間=休憩2回各10分含む)

ファインディング・ネバーランド

ファインディング・ネバーランド

ホリプロ

新国立劇場 中劇場(東京都)

2023/05/15 (月) ~ 2023/06/05 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ジェームズ・バリの生い立ちと、公私にわたるゆきづまりが根っこにある(最初に明かされるわけではない)。そこに光をもたらしたシルヴィア夫人とその4人の子供たち(史実は最初3人で、のちに生まれた子もいて5人)との出会い。外見を繕い堅苦しい大人の世界を嫌い、子どもたちの無垢と空想の世界へのあこがれが刺激される。世間の冷たい目をはねのけて、ピーター・パンの舞台に結実する。そういう盛りだくさんの内容を2時間30分(休憩20分別)のミュージカルに入れ込んでいる。そして、思いがけない不幸。当然舌足らずなところは出るし、日本初演の(しかも初日を観劇)まだこなれないぎこちなさもある。でも、シルヴィアたちに見せる「ピーター・パン」の初日は素直に感動した。そして、子どもたちがリードする最後のフィナーレもすばらしかった。

感動したのはアンサンブルが活躍するコーラス場面。俗なディナーを頭の中でぶち壊す「頭の中のサーカス」も、次々と変わる場面で同じメロディーを繰り返した手法が効果的面白かった。山崎育三郎(ジェームズ・バリ)のソロやデュエット曲は見事な美声で聞かせたが、美しすぎてどこかドラマとかみ合わない気がした。うますぎて、バリの未熟さ、不器用さが消えてしまうというか。当たっていないかもしれないが、あえて一言すれば「歌うのでなく語る」ことが必要かもしれない。

ネタバレBOX

死にそうなティンカー・ベルを救うために、ピーター・パンが「もし妖精を信じているなら、どうか拍手して」と4人の子供たちに願う場面。子供たちより先に、わからずやの祖母(杜けあき、好演)が憑かれたように手をたたき、客席からも割れんばかりの拍手が起きる。実際の、「ピーター・パン」の初演のエピソードを再現したものだが、沸き起こる拍手に思わず目頭が熱くなった。いい場面だった。
天守物語

天守物語

SPAC・静岡県舞台芸術センター

駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場(静岡県)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/06 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

噂のSPACを初めて拝見。予想以上に面白かった。セリフを語るスピーカーと演技するムーバーを分けた二人一役が新鮮で、この古風な芝居にマッチしている。インドネシアのガムランのような東南アジア的音楽もふさわしい。亀姫主従が猪苗代に帰っていく姿は、ロケット花火を飛ばしたり、屋外劇ならではの趣向もある。

ネタバレBOX

獅子像の目をつぶされて、富姫が哀れな女性に戻った段では、表情を失って呆然と動く彼女が文楽人形のように見えた。セリフを演者がしゃべらない二人一役ならではの印象。

最後に現れる獅子像を彫った老職人は、白い鷹のような衣装を着て、富姫が逃がした(亀姫に贈った)白鷹の恩返しのようにも見えた
サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―

サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―

キョードー東京

東京建物 Brillia HALL(東京都)

2023/04/14 (金) ~ 2023/04/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

稲垣吾郎の誇りと良心とで葛藤するサンソンが堂々として見事。

ネタバレBOX

大鶴佐助のルイ16世が、知的だがひ弱な善人ぶりを示して、存在感があった。ギロチンの刃を丸い湾曲型から、シャープな斜め型に改良するアイデアをルイ16世が出す。歴史の皮肉をここまで凝縮して見せたのには恐れ入った。
ハートランド

ハートランド

ゆうめい

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/04/20 (木) ~ 2023/04/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

どこか山村にあるらしい一軒家の、手前から奥までの各間を三段ブロックのようなセットでつくる。そこへやってきた若い映画監督二世と女性の助手が、後から来た家のものと宴会する。そのうち地元の男が監督に「人の人生を盗んで飯を食うんだろう」とケチをつけ喧嘩になる。地元の男が、映画監督を連れて外へ出ると、人格が変わったように平謝り。自分のアトリエ(3段ブロックの一番高い部屋の下)へつれていく。その様子を盗み撮りする家主(相沢一之)。家に居候し、スマホを数百台並べる若い中国女(sara)…。
いったい何を言いたいのか。

ネタバレBOX

家主は昔、映画の盗撮をしていたところを、若い映画監督につかまって、つきだされたことがある(そのシーンは、冒頭にあり、後で因果がつながる)。その仕返しをしようと、監督の酔態やマリファナ酔いの様子を盗撮しているのだ。

映画の盗撮も、人の人生をつまみ盗んで映画を作るのも、同罪ではないか、という作者のシニカルな思いが見えるが、それが深まらない。断片的な皮肉で終わっている。
夜叉ヶ池

夜叉ヶ池

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2023/05/02 (火) ~ 2023/05/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

泉鏡花のこの怪異譚は、古人の知恵に耳を貸さない近代人(とくに成金とえせ権力者)の愚かさと、愛に身を捨てる男女の献身との対比を描いたもの。原作のセリフにない大破局のスペクタクルを、ステージングのダンスとサウンドと、すべてを飲み込む大山嘯で描いて、圧巻の舞台だった。

山奥で朝に夕に鐘をつく老夫婦(勝地涼、瀧内公美)の静かな生活から幕を開け、そこに旅の途中の学者・学円が通りかかり、因縁話が明らかになる。老夫婦は実は若く、白髪頭はかつら。夫は3年前行方不明になった伯爵家の三男の萩原だった。この村では700年来の竜神との約束で、明け六つと暮れ六つと丑三つ時の日に三度、鐘を突かないと、夜叉が池の竜神があばれてふもとの村々を湖にしてしまうという。その鐘撞の老人が倒れたのに、たまたま居合わせた萩原が後を継いだというのだ……。これが話の導入。

萩原と学園が夜中に夜叉が池を見に去ると、夜叉が池の鯉と蟹五郎に続いて、龍姫の白雪姫(那須凛)があらわれ、遠く離れた剣ヶ峰の千蛇が池の主への恋のために、村を見捨てて、自由に飛んでいきたいとわがままを言う。乳母が懸命に止めるが、姫は聞かず……。

静かにわびしく始まって、じわっじわっと緊張を高め、最後は予想もしなかった悲劇で、ダイナミックなカタルシスを実現する。多数の俳優・ダンサーたちのつくりだす夢幻のひと時であった。。

青年座の那須凛は私の好きな女優だが、狂おしい竜神の姫を演じて見事だった。腹黒代議士の山本亨は、帽子は宮沢賢治のようなのに、白塗りの顔に三つ揃えはヤマネコ博士のようで、ふてぶてしい俗人ぶりが迫力あった。

ネタバレBOX

鯉七の手をひれのように動かすだけで、陸に上がった魚よろしく、どてっどてッと動く姿。蟹五郎のかくかくッとした手足の動き。などなど、森山開次による異界の者たちの、人間とは違う動きが、いかにもそれらしく、妖怪たちを出現させる。

すべてが山津波に飲み込まれた後の、清浄の世界で、百合と萩原のメオトがむすばれ、遠くから学円が祈る。カタルシスのあとの光明を感じさせる幕切れだった。
エンジェルス・イン・アメリカ【兵庫公演中止】

エンジェルス・イン・アメリカ【兵庫公演中止】

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2023/04/18 (火) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

実在したロイ・コーンの人物の強烈さがこの芝居の柱で、彼がいなければ面白さは半減しただろう。ロイはソ連のスパイとしてローゼンバーグ夫妻(舞台では妻のエレナだけ出てくる)を電気椅子に送り、マッカーシーの赤狩りを裏で支え、悪徳弁護士として力を振るった。しかも同性愛者であることを隠し、エイズになったあとも肝臓がんと偽り通した。そのふてぶてしさ、アクの強さを山西惇が怪演。良識派弁護士たちの訴追と戦い、エイズで入院したあとも、大統領の側近を脅して特効薬を独り占めして、生への執着を示す。エレナの幽霊が出てきても、なんの反省もない。死のギリギリまで人を騙して「勝った、勝った」と喜ぶ。史実ではロイは59歳で死んだというから、若い!!。

もうひとりのエイズ患者・プライアー(岩永達也)と、恋人のルイス(ルー、長村航希)はリベラル(民主党)を標榜し、反共で保守で同性愛・人種差別主義の共和党嫌い。しかし、ロイ・コーンの存在感にはかなわない。リベラルは言葉だけで実態が薄い。出てくる男5人はみな同性愛者で、女3人は情緒不安定の精神安定剤中毒者と、堅物のモルモン教徒と、天使!! なんという偏った世界!!。でもその極端さが面白い。

情緒不安定のハーパー(鈴木杏)とプライアーが夢で交感する場面と、モルモンのビジターセンターのマネキンが動き出す場面が、ロイ・コーンについでおもしろい。そして天使(水夏希)が、ワルキューレのような鎧と羽根の衣装で、羽根を羽ばたかせる宙吊りシーンで楽しませてくれる。こうしたユーモアとファンタジーを除けば、ホモたちの三角四角関係の愛と裏切りと、自責と献身の劇にすぎない。

午後第一部、夜第二部の土曜日公園を観劇。美術も音楽も作り込まれた、贅沢な7時間半だった。

ネタバレBOX

エイズの感染拡大とレーガンの保守主義のアメリカだけでなく、ソ連のペレストロイカとベルリンの壁崩壊も言及される。第二部冒頭に、ソ連の大会で語る、古参ボルシェビキのシーンがあることは、世界全てに及ぶような広がりを示す。彼は「レーニンの時代には普遍的で革命的な理論があった」「子どもたちよ、理論を」と訴えるのだが。第二部の幕切れで、登場人物たちは「人間の動きのほうが早い。理論を待ってはいられなかった」と語る。

天使が預言として託す「立ち止まれ」「動くな」は、アイロニーだろう。作者が本当にそれを訴えているとは思えない。天使の保守主義を乗り越えて、人類(アメリカ)の前進と変化に期待していると思う。
第二部の終わりでは「失ったら、失いっぱなしというのはありえない」「世界は前に進んでいる」「(観客に向かって)あなた達は素晴らしい」と、かなりメッセージを強く押し出す。第二部の最後のせりふは「大いなる想像が始まる」。第一部の天使の言葉と同じだ。

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