実演鑑賞
満足度★★★★★
井上ひさしの、お偉いさんを揶揄し(「権威がなければ皆ただの人間」)、戦争にあきれ(「魂がないと人間は」)る歌の数々がおもしろい。フン先生(橋本良亮=イケメン)のパソコンから飛び出した=50年前の原作の設定がアップデートされている=ブン(浅川梨奈=かわいい)の奇想天外の大泥棒の話である。「ブン、どこにでもいるブン、誰にでもなるブン、ふしぎなブン、ゆかいなブン」のブンの歌を聴いて、「ブン=文=ことば」なのだと初めて気づいた。井上ひさしは芝居に演劇論をおりこむように、小説に文学論を入れていたのだ。言葉こそ、何でもできる不思議で愉快な存在なのだと。しかも原作の小説よりも、この歌が長く、内容を膨らませている。この脚色のおかげで、一層井上ひさしの隠し味がくっきりした。(権威を盗め」の歌も、拡充している)
ブンが誰にでもなるところを、フン先生以外の俳優が、入れ代わり立ち代わりブンになって見せる演出も面白かった。
ブン逮捕のため呼び出される悪魔(松永玲子)が、弾けた演技でキャラが立っていて面白い。今回トップの怪演である。
ピアノ(かみむら周平、音楽も)、ギター、ヴァイオリン(鹿野真央、出演も)の音楽をバックに、朗読劇としては十分に質の高いものだった。ナレーターは升毅。