おかしな二人
テアトル・エコー
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2018/12/01 (土) ~ 2018/12/12 (水)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/03 (月) 19:00
面白かった。ズボラと超几帳面のふたりの同居生活が、性格の違いて衝突する。その大真面目ぶりやあきれぶりも面白いし、セクシー姉妹との「合コン」の脱線ぶりもよかった。セシリーの胸の谷間!にドキドキしました。
イーハトーボの劇列車
こまつ座
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/02/05 (火) ~ 2019/02/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
いろいろに考えさせられ、発見がありました。「宮澤賢治の評伝劇」なのですが、単純な評伝とはいえない仕掛けが満載で、一言で言えば宮沢賢治批判の芝居ということもできます。農民たちの演じる劇中劇になっており、賢治の思い描いたユートピアが、農民の現実から遊離したお坊ちゃんの夢想に過ぎないではないかという批判です。これは驚きでした。もしかしたら井上ひさしは、賢治の話より、重労働と出稼ぎと借金にあえぐ農民の苦しみを訴えたかったのではないでしょうか。
なんといっても、主人公宮沢賢治があくまで受け身の存在で、賢治の父や、監視役の賢治批判の方が、質量ともに圧倒的です。漫才で言えば賢治はボケ役で、ツッコミを受けてうまく返せないボケ役。
それでもなお賢治の残しだ詩や童話が私たちを惹きつけるのはなぜか。考えさせられます。
俳優たちはみなはまり役で、見事な出来でした。まず松田龍平がシャイなボケ役の賢治にぴったり。そこに実直な生活者の立場から批判を突きつける山西淳が強烈です。賢治に呆れつつ、憎めない友人役の土屋佑壱も場を大いに盛り上げました。ナイロン100℃の村岡希美も、何気ない仕草で観客を引きつけ、とぼけた味で素晴らしかった。これだけのキャストが揃う舞台も滅多にありません。
長塚圭史の演出も素晴らしい。昔の小学校のような木製椅子と畳だけで場面を次々転換させる舞台作りも見事でした。
ガラスの動物園
東宝
シアタークリエ(東京都)
2021/12/12 (日) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2年前文学座で見たときよりも発見が多かった。「追憶の劇」という冒頭の宣言のとおり、数年後のトムの回想であること、ローラがビジネス学校に通うふりを半年も続けていたこと、開戦で異国の冒険が(映画俳優だけでなく)自分たちもできるというトムのセリフ。遠くに憧れて家族を捨てて「異国へ行った」父の存在が意外に大きいこと。等々。
ローラと踊ったジムが、誤って ガラスのユニコーンの角を折って壊してしまう。ローラはあまり気にせず、というか清々したかのように「これでこの子も普通の馬になれて、良かったのよ」という。ローラ自身が、普通の幸せを手にできたかのように。その直後、ローラの夢は崩れ去る。天国から地獄へのこの落差は、やはりすごい芝居である。
一幕目は、これが名作戯曲なのだろうかと、不遜にも疑ったが、終幕すると、名作だと確信した。さらに今回は、麻実れいのデフォルメしたワガママで自分勝手で世間知らずの母親ぶりが、自然主義的リアリズムの退屈さを救った。倉科カナの美しさ、愛らしさは、目立たない人物というローラの役柄とは相反したように一幕では思った。しかし二幕の極端な引っ込み思案ぶりから恋の喜びへ、輝く幸せからどん底への、短時間でのジェットコースターなみの落差は見事だった。
修道女たち
キューブ
本多劇場(東京都)
2018/10/20 (土) ~ 2018/11/15 (木)公演終了
満足度★★★★★
良かった。宗教がテーマといっても、大したことないだろうと思っていたら、とんでもない。「献身と救済」という直球ど真ん中の芝居だった!途中は笑いも、劇的な見せ場もたっぷりあって、最後にテーマにドーンと迫る。3時間15分(休憩込み)と長い芝居なのに、休憩後の2幕目(1時間45分)は全く時間の長さを感じなかった。俳優陣もアンサンブル、緩急ともに見事。まれにみる欠点のない舞台だった。
セールスマンの死
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2018/11/03 (土) ~ 2018/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/11/16 (金) 19:00
とにかく戯曲が優れている。どこもすきのない、緊密に組み立てられた芝居。去年、テネシー・ウイリアムズの「欲望という名の電車」(大竹しのぶ主演)を見たが、アーサー・ミラーとウィリアムズが、アメリカ戦後演劇の双璧であることがよくわかった。家庭劇、主人公の持つ過去零落、舞台の緻密さでよく似ている。
風間杜夫は最初ずっとぶっきらぼうで嫌味な感じだったが、だんだん苦しい内面も見せていく。「俺は愛されていたんだ」というセリフが痛切だった。山内圭哉は実は気弱で自己主張できない感じがよく出ていた。
片平なぎさの母親もよかった。同情を誘う演技だった。実は現状にしがみついているだけで。夫の誤った教育も放置している無力で罪深い存在なのだが。
幸せなマイホームが、最後は誰もいなくなるように、意外と静的な芝居だと思った。
雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた
流山児★事務所
座・高円寺1(東京都)
2019/02/01 (金) ~ 2019/02/10 (日)公演終了
満足度★★★★★
清水邦夫が82年に書いた戯曲。
戦争の傷を抱えていきる人々と、戦後の左翼運動で挫折した若者たち へ捧げるオマージュだった。
青春の愚行と情熱のシンボルともいうべき、「ロミオとジュリエット」を、戦争とたたかいに身を投じて夢破れ、寂しく老い た女たちが演じる。見事な換骨奪胎による戦争と戦後の男たちへのエレジーだった。
舞台には本当に30人もの女優があらわれ、圧巻。その最初の勢揃いの場面は、女子校の同窓会さながらの心地よい騒がしさであった。ロミオの登場が二転三転する展開が見事で、とくにかつての男役スター役の伊藤弘子と、その妹(実は…)役の、坂井香奈美が良かった。歌と音楽も劇とピタリあって、一層感動を深めた。
久々に見た骨太にして猥雑、リアルにしてイデアルな芝居だった。
文、分、異聞
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2022/12/03 (土) ~ 2022/12/15 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
もはや50年前になったが、三島由紀夫の左翼批判戯曲の上演をめぐって文学座が大揺れした事件を描く。どう料理するのかと思っていたが、なかなか趣向とたくらみにとんでいた。
舞台はたくさんの椅子が並んだ雑然とした空間。ズバリ文学座のアトリエ(けいこ場)である。そこで、三島戯曲を上演するかどうかの議論が始まる。上演に反対する制作部。三島との関係を壊したくない演出部。杉村春子が「これをやったら文学座はおしまい」と断固反対する…。あれ、杉村にしてはやけに若い女優を使うな。それにしても結論の見えている議論を延々続けるのだろうか?と思っていると「お疲れ~」とかいって、みんなばらける。じつはさっきまで8時間続いた劇団総会のエッセンスを若い研究生たちが物まねしていたとわかる。
ここからがこの芝居の本編。研究所1期生、2期生たちが「三島を守れ、上演賛成」とまとまるが、演技が下手でくすぶっているキョウコ(梅村綾子)が一人、杉村崇拝から、反対する。皆はキョウコをなじってヒートアップ。マユミ(=小川真由美!、鈴木結里)の侮蔑の言葉がキョウコをおいつめる。キョウコが泣き出し、みなあまりにやりすぎたと反省するが、今度はキョウコが許さない。そんな中、研究生たちはアトリエの外から鍵をかけられ、閉じ込められる。マユミはこれからテレビの撮影があるから、どうしてもすぐ出たい。自信のないタダヒコ(奥田一平)は劇団の幹部陣に眼をつけられると将来がないと恐慌をきたす。キョウコが「何とかする代わりにみんなに上演反対派になれ」と交換条件を出す…。
文学座研究所の1期生、2期生はその後有名になった俳優がずらり。小川真由美のほかトオル(武田知久)は江守徹、シン(松浦慎太郎)は岸田森(岸田國士の甥)とわかる。ほかは後で調べるとお調子者のミノリ(川合耀祐)は寺田農、杉村春子をやったキリッとしたチホ(渡邊真砂珠)は(悠木千帆=樹木希林)、主役に抜擢されたタイゴ(小谷俊輔)は草野大吾等々。キョウコも大塚京子というモデルがいる。そうした実在のモデル人物たちの中に、普段はおとなしくて声もほとんど聞き取れない架空の人物(ケイスケ=相川春樹)を加えて、役者の卵たちの夢と不安、羨望と嫉妬、恋と打算の群像劇に仕立てた。
面白い芝居だった。これから文学座をしょっていくであろう若手俳優たちのシャープでエネルギッシュな姿がよい。1時間55分。
斬られの仙太【4月25日公演中止】
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2021/04/06 (火) ~ 2021/04/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
戦前の左翼運動を幕末維新の水戸・天狗党に仮託して描いた作品である。農民(大衆)と武士(知識人)の関係をニヒルなまでに冷徹に捉えている。尊皇攘夷の大義のために天狗党と行動を共にした農民の仙太(伊達暁)が、藩の内部抗争にあけくれる運動の実態に嫌気をさして一度は田舎に引っ込む。それでも、天狗党の加多(小泉将臣)に説得され、再び運動に身を投じたのに、最後は切り捨てられる。
加多はかつて仙太の疑問には理があると感じるような広い視野をもつ男である。それでも、最後は泣いて武士の側に立つ。維新後の自由党も、結局、天狗党と変わらないというニヒルな見方もされている。「農民のことを本当に考えているかどうかを見極めなきゃダメだ」というせりふがあるが、そういう革命党なら信頼できるとも取れるし、そうでないから革命党は信頼できないともとれる。左翼演劇の当事者だった三好十郎の転向表明とも、運動批判とも、信条告白とも取れる。前向きに取るなら、農民大衆の側にたったカッコとした運動を作ろうという呼び掛けでもあろうか。
大きな維新の動きを狭い筑波山近辺の出来事で描くので、「オフェーリアの死」の知らせのような、伝聞情報が多い。と思っていたら、ここぞというところでは真剣で斬り合う剣劇シーンが見られて、盛り上がる。女性の少ない芝居だが、芸者役の陽月華に切ない花があった。まじめに働き続ける段六役の樋口寛之も、みんな頭に血が上っている人々の中で、ホッと落ち着ける存在感があった。
もと戯曲は7時間あるのを4時間20分(20分の休憩2度含む)にカットしたというが、話に無理はないし、ほとんど長さも感じなかった。見終わって、清々しさが残った。スピーディーでメリハリのついた見事な演出だった。舞台は、奥がかなり高い傾斜舞台で、セットはほとんどない。そこにふすまを置いたり、木戸を置いたりして、場所の違いを示す程度。目で見るというより、語って聞かせる濃密なセリフ劇である。ただ衣装や刀は幕末の農民、武士をしっかり示していた。
だからビリーは東京で
モダンスイマーズ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
平凡な青年と売れない役者たちのなんてことない話なのに、笑いが絶えず、人生の難しさと面白みを考えさせる。いい芝居だった。ある素人劇団の、2017年からコロナ禍までの3年余りを描く。
2017年11月、石田凛太朗(名村辰)の入団面接から始まる。勘違いで俳優になろうと思い立ち、勘違いで売れない劇団応募した。でだしから、ゆる〜い感じと、上出来のコントのような笑いが気持ち良い。
幼馴染のマミ(伊東沙保)とノリ(成田亜佑美)の二人の女優の、互いに相手を嫌ったり軽蔑したりしつつ、表面は仲良くしている様子が、芝居ならではの形で示される。二人は互いの関係を全く異なるものに解釈しているのが面白い。
倫太郎が年に一回、田舎の父のところに行く。父はアルコールを絶って居酒屋を経営する。父と息子の関係が、凛太郎の「ビリー・エリオット」にめちゃくちゃ感動したことと繋がる展開は、見事な伏線回収に感動した。
恭しき娼婦2018
新宿梁山泊
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2018/10/10 (水) ~ 2018/10/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
サヘル・ローズは娼婦役なんだけど、上品なイノセンスと、芯のある強さと、媚びない誇りがあって最高だった!サルトルの戯曲なのに、自警団に追われる朝鮮人をかくまう話になっていてびっくり。見事な翻案だった
カミノヒダリテ
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
タイロンが悪魔のように喋り出すところから、どんどん芝居に引き込まれ、ジェイソンとタイロンの対決にはまさに固唾を飲んだ。大変な迫力と、人間の振幅の大きさに揺さぶられる舞台だった。母が不品行な行いに突然のめり込んだり、ジェイソンの父を母は見殺しにしたのか、など理由がはっきりしないところもあるが、そこを役者の迫力と力わざでねじふせた。
ジェイソンとタイロンを見事な声色で演じ分けた森山智寛の熱演は圧巻の一言だった。
背景に古い宗教の教えにしがみつくアメリカ南部の風土があるが、そんな理屈抜きに、舞台の事件に心底ゾクゾクさせられた。
その恋、覚え無し
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/04 (火) 14:00
とても素晴らしい舞台でした。4人の盲目の女性祈禱師たちを神目(カンメ)と呼んでいましたが、こうした独特の命名も含め、美術、衣装、所作、物語の全てから、現代とは違う、しきたりの厳しい前近代的山村の世界が現出します。
そこに起こる幼女の「神隠し」事件や、過去の因縁の糸が絡み合って、テレビでも映画でも見られない、演劇ならではの没入体験を味わいました。ラストの光景も素晴らしいですが、水車が突然回り出す不気味さも抜群でした。
この秋、一番の舞台です。
「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」
名取事務所
「劇」小劇場(東京都)
2023/11/17 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
屠殺人ブッチャーを拝見。 かつて ラビニア (架空の国、もとソ連の一国か)で残虐な拷問を行った男(高山春夫)に対して、 若い女(万里紗)が 復讐を始める。 その冷酷さが怖い。 最初は何も関係なく見えた若い男(西尾友樹)が、実は意外な関係があって事態に巻き込まれる。その過程がスリリング。最後に どんでん返しもあり、息をつかせない。
100分とコンパクトだが、最後まで緊張感に満ちた 芝居だった。
長い長い恋の物語
玉造小劇店
ザ・スズナリ(東京都)
2023/02/14 (火) ~ 2023/02/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
3代にわたる在日韓国・朝鮮人の人生を、ときに大阪の笑いをまぶしながら、つらすぎず軽すぎず、絶妙のバランスで描いた。主軸は戦争中に日本にわたってきたパク・ソジン=木村辰男(うえだひろし)と、社長のお嬢様の桜子(松井千尋)の、遠くから思いあっている恋。
朴は戦争中、監督と社長にはげしくいじめられる。初仕事につらい肥え汲みをやらされ、殴るける、果ては犬の格好までさせられる。監督(野田晋市)の意地悪さが本当に憎々しい。兄は戦死。戦争は終わった後で兄の息子は朝鮮戦争に志願して戦死と、不幸が続く。会社の先輩で実は在日の男(カン・ソンヒョ)は、帰還運動で「地上の楽園」を歌う北朝鮮へ。当時は革新勢力がこぞって帰還運動を後押ししたが、いま複雑な気持ちは抑えがたい。
東京五輪が迫るころ、ベテランのみやなおこ、美津乃あわが、それぞれ木村の子・洋子、桜子の子・珠希で、小学生のかっこうで、無駄にはしゃいで出てくるところから、笑いが醸し出されてくる。珠希は母の桜子に「ガードの向こう(朝鮮人部落の鶴橋)に行っちゃダメ」と厳しく言われていたが、ある日、エイヤっと、ガード向こうの洋子の家に遊びにいく。そこで、赤いスイカと、気のふれた伯母のある出来事に、珠希はショックを受ける。その事件をめぐり、学校に呼ばれて再会する木村と桜子。ここで野田晋市が女校長役で、用務員(笑福亭銀瓶)との掛け合いで笑わせる。悪役とへんな女形を演じて違和感のない野田が見事。
さらに時がたち、桜子の父の社長(コング桑田)が、自分の秘密を語り、後事を木村に託す。がたいのでかいコングの出番は戦前とこの時だけだが、この場面は迫力と重みで強烈な印象を残す。もう64歳の作者のわかぎゑふは、朴の兄嫁と洋子の息子役の二役をやる。とくに息子役は野球帽のつばを後ろにかぶって、アラレちゃん眼鏡をつけ、あまり男には見えないが、でもかわいい子役だった。成績優秀な木村の次男(カン・ソンヒョ)が留学前に、爪とぎでなぜが指の腹をこすっている。パスポートをとるので、ずっと拒否してきた指紋押捺をせざるを得ない。それで癪だから指紋を消すというのは、なるほどと感心した。
韓国・朝鮮語のセリフも時折出て、在日であることをしっかり描いている。最後には感動のエピソードもある。在日の歩んだ長い道を印象的なエピソードで描き、日本と韓国の関係、時代と人間の変化、さらには部落問題までも絡めて見ごたえある芝居であった。パンフを見ると、ここに書いたことをふくめ、劇中のすべてのエピソードが、作者自身、あるいは友人の体験だという。
魔笛
東京二期会
東京文化会館 大ホール(東京都)
2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
序曲の目撃で、主人公の男が、自宅の子どもたちのやっていたゲームの世界に入ってしまう。魔笛の本編は、そのゲームの中の冒険になる。舞台は、斜めにおかれた大きな四角い箱のような形。背後の壁を手前と奥と二重にして、手前の壁を半開きにしたり全部閉じたりして奥行きに変化が出る。手前と奥にさまざまな映像を映し出して、視覚的にわかりやすく変化に富んだ部隊だっった。
歌手も良かった。夜の女王高橋維もコロラトゥーラが絶品。パミーナ盛田麻央が、愛を得られないと思って嘆くアリアが今回、特に胸にしみた。パパゲーノ役の近藤圭の緩急自在なコミカルさも良かった。
厳粛なザラストロの音楽から、「パパパの二重唱」まで音楽的にも非常に多彩で、聞かせどころがたっぷり。改めて名作だと再認識した
オペラ『さよなら、ドン・キホーテ!』
オペラシアターこんにゃく座
吉祥寺シアター(東京都)
2021/09/18 (土) ~ 2021/09/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
ドイツ軍占領下の、多様な人々の動きに、LGBTの問題も絡めた、非常に見応えある「ドン・キホーテ」だった。ピアノの伴奏(服部真理子)がずっとつくが、音楽と場面の演技が、歌わないところでもよく噛み合っていた。ドイツ軍占領下のフランスが舞台で、ドンキホーテになりたい不登校の女の子ベルが主人公だと、見ているとわかってくる(一幕1場)。ベルは夜中、ロシナンテとサンチョの2頭の馬を連れて冒険の旅に出ようとしていると、逃げてきたユダヤ人少女サラを匿うことに(2場)。翌朝、呼びに来た女教師オードリーを、牧場の手伝いの青年、びっこのルイの助けで追っ払い、ベルとサラは「冒険の旅」を歌い、みんなを巻き込む(3場)。
二幕、2時間35分(休憩15分こみ)
Wキャストのうち青組を拝見。ベル役の沖まどかが、小さな体でエネルギッシュに動き回り、舞台を引っ張って、存在感抜群だった。サラ役飯野薫は可憐。オードリー役梅村博美はお硬い女教師が、二幕になると、キビキビした色気のあるダンスで魅せた。道化役のサンチョ冨山直人は絶品で、徴用に出されるのをごねるところは大いに笑わせた。相手やくロシナンテ大石哲史も、うらぶれたが誠実で人情ある老馬の風情がよく出ていた。
雨
こまつ座
世田谷パブリックシアター(東京都)
2021/09/18 (土) ~ 2021/09/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
最後のどんでん返しが鮮やかな井上ひさしの代表作の一つ。主役の山西淳が素晴らしい。江戸のコジキから、山形の大旦那になりすまし、時には一人二役も声色でやってのける。笑いから悲劇まで、感情の微妙な振幅も自在に表現。さらに標準語から方言までを使いこなして、言葉の劇でもある本作をしっかり支えていた。
主なキャストで13人、加えて村人・女中などのアンサンブル12人、総勢25人という大きな規模に驚いた。パーカッションの生演奏もあり、大変贅沢な芝居。先ぶとで上部が少し曲がった(五寸釘を模した)柱を軸にした回り舞台が、シンプルだが、傾斜場や、段差ある座敷などを表裏に配して、全11場の多様な場面をよく表していた。紅屋の、紅花を大きく描いた背景は、ほかは全てくすんでいただけに、特に際立っていた。
冒頭の久保酎吉の、人形を使った背負われ役も絶品。最初は二人だとばかり思った。そのほか、名前は書かないが、芸達者揃いで、贅沢といえば、これが最大の贅沢だった。
鉄屑拾いのトクが大旦那にうまく成りすませるかどうか、という一本筋で観客をずっと引っ張っていく。そのスリリングは差し詰め「太陽がいっぱい」のよう。トクがで突っ張りであるように、全く副筋に遊んだりはしない。でも、旦那の女房のおたか(倉科カナ)との寝間の場面が、「えつものように」というおたかの催促ひとつで、右往左往するトクに笑いが起きる。天狗に詳しい儒者(土谷佑壱)の人間離れした演技も面白い。
底辺から這い上がる男の一代記としても、中央と地方の対立としても、欲(権勢)に目がくらんだ人間の愚かさとしても、権力と民衆の双方の非情さとしても、実に多くの問題を孕んでいる芝居だった。
ショウ・マスト・ゴー・オン【12月3日~4日、12月7日、12月21日~24日昼公演中止】
シス・カンパニー
世田谷パブリックシアター(東京都)
2022/11/25 (金) ~ 2022/12/27 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
大いに笑わせてもらった。とにかく登場人物たちのキャラが立っている。そのキャラによるボケやずれや勘違いやわがままがうむピンチと、素っ頓狂なその解決策が笑いを呼ぶ。そして、何度失敗したり、いさめられても、全然懲りず、何度も同じ失敗をするのもおかしい。いつもの三谷喜劇は後に何も残らないが、舞台監督進藤(鈴木京香)の切ない出来事でペーソスが漂う。
それぞれの俳優が主役級の有名俳優をそろえた豪華キャストで、大変ぜいたくな時間だった。
下手の舞台袖の出来事で、本来とは逆に上手の舞台袖に舞台がある設定。舞台の様子は見えないが、適宜音が聞こえてくるし、(役の俳優たちは)こちらから舞台の様子を見ることができる。舞台・映画の「ラヂオの時間」は、本番中のラジオドラマの舞台裏のてんやわんやが見どころだが、本作はその演劇版と言える。映画で主婦作家を演じた鈴木京香が、今回舞台監督を務めているのも楽しめる。
夏の砂の上
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2022/11/03 (木) ~ 2022/11/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
松田正隆は「静かな演劇」の代表者の一人とされる。去年見た「紙屋悦子の青春」は、大声やコミカルさもある意外と普通の会話劇だったが(もちろん傑作であることは前提)、本作はまさに「静かな」劇だった。初演は平田オリザが演出したというのもうなずける。今回は栗山民也の演出。平田演出は見ていないが、アフタ-トークによると、今回の方がかなりゆっくりと、間(ま)を大きくとって演じたらしい。確かに豊かな間があった。これほど間の引き立つ芝居は珍しい
主人公の治(田中圭)の科白が「ああ」「うん」とか「何や」と、ほとんど合いの手のようなものなのに、そこに非常に豊かなニュアンスがある。ほかの人もだが、特に治に目立つ。これにも大いに感心した。仕事を失い妻にも出て行かれた鬱屈を抱えて、感情を表に出さない、言葉数も少ない人物を好演していた。
チェーホフ劇は到着から始まり、出発に終わる、とだれか言っていた。本作も妹(松岡逸見依都美=好演)が高校中退の娘優子(山田杏奈)をつれてきて、治と同居が始まる。真面目そうに見える優子が、隠れてバイトの先輩を誘惑したりじらしたり、小悪魔的要素があって面白い。治が見てないようできちんと見ていて、先輩の大学生に「早よ帰れ」と繰り返すあたりも。
造船所がつぶれ寂れていく坂の町(長崎らしいが明らかではない)の、無駄に暑いさびれた空気感が漂う。クレーンの赤錆にも通じる。その町で暮らす男、出ていく女、それぞれ確かにそこに生きている手ごたえが感じられた。傑作舞台である。
新国立劇場演劇研修所「るつぼ」
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/02/08 (金) ~ 2019/02/13 (水)公演終了
満足度★★★★★
赤狩りの嵐の中で、実際にあった魔女狩り事件を書いた古典的名作。後半の裁判のシーンから非常に緊迫感があった。「魔女などいない」というジョンの証言が通るのか、大衆を煽る少女アビゲイルの証言が通るのか。二転三転していく。
真実の証言をしながらもどうにもならないとわかったとき、アビゲイル側にくしていくメアリーなど、様々な人間のありようを浮かび上がらせていく。保身に入る人、両親に苦しむ牧師、そして主人公ジョン。奪ってもう前ない人間の尊厳が浮かび上がる。
若い俳優たちの熱演で、非常に迫力ある舞台だった。たとえ無名でまだキャリアは浅くとも、この舞台においてはみな、唯一無二の存在だった。3時間20分(15分休憩)