満足度★★★★★
いろいろに考えさせられ、発見がありました。「宮澤賢治の評伝劇」なのですが、単純な評伝とはいえない仕掛けが満載で、一言で言えば宮沢賢治批判の芝居ということもできます。農民たちの演じる劇中劇になっており、賢治の思い描いたユートピアが、農民の現実から遊離したお坊ちゃんの夢想に過ぎないではないかという批判です。これは驚きでした。もしかしたら井上ひさしは、賢治の話より、重労働と出稼ぎと借金にあえぐ農民の苦しみを訴えたかったのではないでしょうか。
なんといっても、主人公宮沢賢治があくまで受け身の存在で、賢治の父や、監視役の賢治批判の方が、質量ともに圧倒的です。漫才で言えば賢治はボケ役で、ツッコミを受けてうまく返せないボケ役。
それでもなお賢治の残しだ詩や童話が私たちを惹きつけるのはなぜか。考えさせられます。
俳優たちはみなはまり役で、見事な出来でした。まず松田龍平がシャイなボケ役の賢治にぴったり。そこに実直な生活者の立場から批判を突きつける山西淳が強烈です。賢治に呆れつつ、憎めない友人役の土屋佑壱も場を大いに盛り上げました。ナイロン100℃の村岡希美も、何気ない仕草で観客を引きつけ、とぼけた味で素晴らしかった。これだけのキャストが揃う舞台も滅多にありません。
長塚圭史の演出も素晴らしい。昔の小学校のような木製椅子と畳だけで場面を次々転換させる舞台作りも見事でした。