ガラスの動物園 公演情報 東宝「ガラスの動物園」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    2年前文学座で見たときよりも発見が多かった。「追憶の劇」という冒頭の宣言のとおり、数年後のトムの回想であること、ローラがビジネス学校に通うふりを半年も続けていたこと、開戦で異国の冒険が(映画俳優だけでなく)自分たちもできるというトムのセリフ。遠くに憧れて家族を捨てて「異国へ行った」父の存在が意外に大きいこと。等々。

    ローラと踊ったジムが、誤って ガラスのユニコーンの角を折って壊してしまう。ローラはあまり気にせず、というか清々したかのように「これでこの子も普通の馬になれて、良かったのよ」という。ローラ自身が、普通の幸せを手にできたかのように。その直後、ローラの夢は崩れ去る。天国から地獄へのこの落差は、やはりすごい芝居である。

    一幕目は、これが名作戯曲なのだろうかと、不遜にも疑ったが、終幕すると、名作だと確信した。さらに今回は、麻実れいのデフォルメしたワガママで自分勝手で世間知らずの母親ぶりが、自然主義的リアリズムの退屈さを救った。倉科カナの美しさ、愛らしさは、目立たない人物というローラの役柄とは相反したように一幕では思った。しかし二幕の極端な引っ込み思案ぶりから恋の喜びへ、輝く幸せからどん底への、短時間でのジェットコースターなみの落差は見事だった。

    ネタバレBOX

    一番の発見は、ジムが実は婚約済みで、もう会えないとわかったあと、姉のローラがずーっとセリフも動きもないこと。倉科カナはその間、恍惚の表情を浮かべて虚空を見つめていた。現実を遮断して、夢の世界に逃避していたのか。そしてジムが去り、トムが家を出ていったあと、やっと悲しみを取り戻して母と抱き合って泣く。
    母は「職場の同僚が来月結婚することを知らないなんて」とトムをなじる。トムは「職場は仕事するところだ」と開き直るが、このセリフは実はトムの胸に刺さっただろう。ローラを決定的に傷つけた、その引導を渡したのは自分だと。前回見たときより、この一夜の出来事がローラの精神を決定的に崩壊させ、トムを一生自責で苦しめた致命的意味を感じた。
    それは、母(麻実れい)が、それ以前のデフォルメとコミカルから、切々たる悲しみに変貌したことからも受け止められる。

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    2021/12/28 21:32

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