雨 公演情報 こまつ座「」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    最後のどんでん返しが鮮やかな井上ひさしの代表作の一つ。主役の山西淳が素晴らしい。江戸のコジキから、山形の大旦那になりすまし、時には一人二役も声色でやってのける。笑いから悲劇まで、感情の微妙な振幅も自在に表現。さらに標準語から方言までを使いこなして、言葉の劇でもある本作をしっかり支えていた。

    主なキャストで13人、加えて村人・女中などのアンサンブル12人、総勢25人という大きな規模に驚いた。パーカッションの生演奏もあり、大変贅沢な芝居。先ぶとで上部が少し曲がった(五寸釘を模した)柱を軸にした回り舞台が、シンプルだが、傾斜場や、段差ある座敷などを表裏に配して、全11場の多様な場面をよく表していた。紅屋の、紅花を大きく描いた背景は、ほかは全てくすんでいただけに、特に際立っていた。

    冒頭の久保酎吉の、人形を使った背負われ役も絶品。最初は二人だとばかり思った。そのほか、名前は書かないが、芸達者揃いで、贅沢といえば、これが最大の贅沢だった。

    鉄屑拾いのトクが大旦那にうまく成りすませるかどうか、という一本筋で観客をずっと引っ張っていく。そのスリリングは差し詰め「太陽がいっぱい」のよう。トクがで突っ張りであるように、全く副筋に遊んだりはしない。でも、旦那の女房のおたか(倉科カナ)との寝間の場面が、「えつものように」というおたかの催促ひとつで、右往左往するトクに笑いが起きる。天狗に詳しい儒者(土谷佑壱)の人間離れした演技も面白い。

    底辺から這い上がる男の一代記としても、中央と地方の対立としても、欲(権勢)に目がくらんだ人間の愚かさとしても、権力と民衆の双方の非情さとしても、実に多くの問題を孕んでいる芝居だった。

    ネタバレBOX

    最後、舞台奥に広がる一面の黄色い紅花畑が鮮やかだった。そこに村人たちが立つ姿で、トクを殺したのが、ただ一部の藩の上層や商人だけではなく、民衆の支持があることを示していた。

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    2021/09/23 23:46

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