ぽに
劇団た組
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2021/10/28 (木) ~ 2021/11/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
主演の松本穂香さんにやられた。彼女のファンなら絶対必見。そうでなくても叩きのめされる筈。公園の砂場をモチーフにした円形舞台にほぼ出突っ張り。隅には天井からぶら下がる長大な鎖に繋がれた二基のブランコ。もう一方の隅には人の登れるアスレチックネットが。
特にファンではなかったのだが、彼女の舞台はまた観たいと素直に思った。男を駄目にする性的フェロモンをムンムンと無意識に身に纏っている。それが自然に表現されており、演じている感じが全くしない。素でこういう人なんだろうなと勝手に思い込んで観ていた。作者の口癖である「〜なので」も大量に作品内に炸裂。『火の鳥・未来編』のムーピーを想起させる。(相手の心を読み取って好む容姿に変化する究極の異星生物)。
演出の狙いでもあるのだろうが、役者の舞台上の声が小さく台詞が聴き取り辛い。ここはもう少し音響に頑張って貰いたいところ。自分は4列目だったのだが判らない会話がかなり有り、勝手に想像して観ていた。···なので、本当に作品を理解しているのかの自信はない。
『友達』がつまらなかったので、今作は全く期待していなかった。今や作者は何をやっても観客も批評家も褒めてくれる状況。何か不条理な鬼ごっこでも見せて、高尚な哲学でもあるようなそれっぽい雰囲気と余韻でごまかすんじゃないかと勘繰っていた。申し訳ない。
作者の分身である、(仮)彼氏役お馴染み藤原季節氏の相変わらずのクズっぷり。些細な言葉尻を捉えて、幼稚な口論に持ち込むいつものプレイ(西村博之か?)。毎回彼の演ずる役を見ていると「若手俳優には碌な人間がいないんだなあ」との偏見が刷り込まれていく。彼は何故かクッションの腕をいつも持ち歩いている。
男を駄目にする女と、女を駄目にする男のクズ・ロマンスが主旋律。松本さんはシッターのバイトをしていて平原テツ氏演ずる5歳児を担当。(自分は障害者若しくは引きこもり自閉症患者の成人男性と勘違いしていた。言う事が大人び過ぎている)。かなりの規模の地震が発生し、タワマンの外に出るが戻れなくなる。我儘放題に要求し泣き喚くガキにうんざりして別れ、独り男の家に歩いて帰宅してしまう。ドラマはそこから始まる。
作品内の世界では、子供が恨みを遺して死ぬと“ぽに“になり、縁の深かった者に取り憑いてその家に産まれる子供を冥界に連れて行くとされる。“ぽに“を御祓いする為に当事者は失明のリスクを背負わされる。
この一つだけズレている世界観が松本人志企画オリジナルビデオ『頭頭(とうず)』っぽい。設定は『ぼぎわんが、来る』っぽくもある。
音楽劇 百夜車
あやめ十八番
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2021/10/29 (金) ~ 2021/11/02 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
第一幕75分休憩10分第二幕75分。
マグマのように噴出する情熱。想像の十倍凄いミュージカルだった。観劇と云うよりLIVEを見せ付けられた感覚。溜まりまくった無数の不遇な才能が吐き出す先を探して長年喘いでいたようだ。『シカゴ』のように綿密で『ラ・ラ・ランド』のように解放的。これは劇場で体感した方が良い。
今作を映画化するならば、故大林宣彦か?(大林宣彦には二面あって、『理由』とかの編集センス抜群なA面大林宣彦の方。B面の自主映画作家系大林宣彦は皆が嫌いな奴)。
ずっと最上級の生演奏が奏でられ、歌も上手いし曲も良い。ダンスの振付やアイディアもよく練られていて隙がない。雑然とした雑誌編集部のオフィスと裁判所が見事に重ねられた舞台セット。
週刊記者役192cm(前田日明と同じ!)の浜端ヨウヘイ氏が圧倒的な歌声で観客を唸らせる。味のある訛りで人柄を滲み出させつつ、本業は歌手だった!ちょっと笑っちゃうくらいレベルの高い歌声が劇場中を木霊する。ここは帝国劇場か?
ヒロインの金子侑加(ゆうか)さんも魅力的。彼女に惚れた男5人が次々と自殺していき、魅惑と疑惑に彩られた容疑者役。しかも本人の本業は団子屋の女将!
裁判員に選ばれた大森茉利子さんは異常な精神科医の夫によるモラハラDVに長年耐え忍んでいる。
その夫、谷戸(やと)亮太氏演ずるイカれた精神科医は、アンガールズの田中卓志を思わせる不快なジェスチャー。
教誨師役岡本篤氏の存在はかなり重要。こういうどっかりと足場を固めた確立された視点があることによって、娯楽ジャーナリズムの類いから文学へと作品は昇華する。
主人公的立ち位置の永田紗茅(さち)さん、文芸誌希望ながら週刊誌に配属された新入社員役。彼女がこの事件をどう見ているのかをもっと知りたかった。
容疑者の腹違いの弟役溝口悟光(ごこう)氏、この事件の底流に流れるDNA(血脈)の呪いを意識させる。
容疑者の父親役、中山省吾氏。最低最悪の屑親、DVモンスターのように見せて中古文学(平安時代の文学)に長けたインテリ。今作の主要人物の共通点として、この中古文学への敬愛が挙げられる。
記者の婚約者役、内田靖子さんの歌声も凄まじい。全く息継せずにオペラ調に歌い続ける技術、圧倒される。
拝金ジャーナリズムの権化のような週刊誌編集長役、蓮見のりこさん。どう考えてもヒールなのだが、腹の決まった覚悟を任侠極道のように抱えてみせる。屑の一念が反転すると、美しくさえ思える不思議。
話題の毒婦を独占取材する為、記者に獄中結婚すら要求するクズ週刊誌。容疑者は中古文学を専攻していた為、記者は和歌にて接触を試みる。か弱い生真面目な容疑者は果たして本当に5人を殺したのだろうか?
「あの怪物の名は太陽の塔」
The Stone Age ブライアント
サンモールスタジオ(東京都)
2021/10/27 (水) ~ 2021/10/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ヒロインの石松千明さんが素晴らしい。70年代のあの感じの女の子。文通相手に会いにわざわざ大阪まで出て来た東京の女子高生。開演前SEで「雨にぬれても」が流れ、バート・バカラックの叙情的なムードで舞台は開幕する。大田康太郎氏演ずる一癖も二癖もある癇癪持ちのおじさんと愉快に山道を歌って歩く少女。牧歌的な光景、和やかなひと時、それが一変するのはおじさんの目的地は知的障害者施設で、娘に会いに来たことを表明してからだ。
若い頃の香川照之を思わせるルックスの綾田將一(あやだしょういち)氏も見せてくれる。「不幸な子どもの生まれない運動」を推進する役所の人間役。ヒール的立ち位置ながら、誰よりも“善意”について真剣に思索する人物である。
1970年に開催された大阪万博の名残り、岡本太郎の代表作「太陽の塔」。障害者施設近くの展望台から、それは神々しくも禍々しくも見下ろせる。
知的障害者は果たして幸せなのか?一人の女性がノートに「死にたい」と書いて脱走する。
オウム真理教の信徒で、学生時代障害者支援のボランティアをやっていた女性がいた。彼女は何でこんな生まれながらに苦しまなくてはならない子供達が存在するのかずっと思い悩んでいた。麻原彰晃の本を読んで「前世の宿業〈カルマ〉」と云う理論に納得し入信、やっとすっきりしたそうだ。このように、人間が思い悩むのは矛盾や不条理にはっきりとした解答を求めてのこと。嘘でも解答を得れば、もうそのことはどうでもよくなる。その女性も解答を得た事で障害者の苦しみは「自業自得」と楽になったのだろう。
それぞれの“善意”が交通渋滞を起こし、考えれば考える程底なし沼の奥深くに嵌まり込んでしまう。答は一つではない。無数にありつつ、矛盾しながらもそれは共存していく。
ちーちゃな世界
青春事情
駅前劇場(東京都)
2021/10/27 (水) ~ 2021/10/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
素晴らしい。ささくれ立った脳髄が不思議と癒される。何か甲本ヒロトの事を考えてしまった。ヒロトのブルーハーツ時代の名言、「幸せとはなるものじゃなく、それを感じる事が出来る心を手に入れることなんだ」。宗教家か?と思う程のカリスマ性。全国の救いを求めた少年少女達の熱量を処理し切れずにバンドは解散した。
満員の観客は劇団への信頼に満ちている。舞台は東京から5~6時間掛かる片田舎のペンション。そこに居るのはちょっと失礼な人懐っこいオーナー、物忘れのひどい奥さん、ヘビースモーカーの料理人、毒舌のIT社長、書けない児童文学者etc.···。そして東京から訪れる闇を抱えた女性。まあ有りがちな人情喜劇と思わせつつ、かなり人間世界の深い所まで思索した上で刃を切り込んでいる。この手の話は諸刃の剣で、作劇に嘘があると観客は敏感に察知して拒否反応を起こす。今作は安易なカタルシスで逃げなかった点も素晴らしい。
凄まじく残酷な世界にうんざりしながらも生きていかざるを得ない人々が、どうにか“想像力のカプセル”を飲み込んで立ち向かっていくような喜劇。いい事ばかりじゃないけど、悪い事ばかりでもない。気の滅入ってる人にお勧め。
シャンデリヤvol.2
U-33project
高田馬場ラビネスト(東京都)
2021/10/20 (水) ~ 2021/10/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
評判が目茶苦茶悪い為、相当つまらないのでは?と構えたがまあ許容範囲。この作家、笑いのセンスは壊滅的に無い。面白いことをする事が笑いなのではなく、普通な事をしていても可笑しな情景は多々ある。コンビニ店員の男が派手にキモい男をアピールするのだが、全く方向性が逆向き。一生懸命普通を装いつつ、どうしても零れ落ちてしまうリアルさこそが笑い。兎に角演出のテンポがのろい。観客の脳内思考判断の先へ先へと駒を進めてこそが喜劇。笑いは”カルチャーギャップ“と“間”なのだ。
観客の散々募らされた鬱憤がラストの『夜迷い荘殺人事件』にて大爆発。これは普通に面白い。小泉愛美香(あみか)さんとまひたんさんにはセンスを感じる。小泉さんの「取り敢えず出ましょう」は名台詞。観客もドッカンドッカン沸いていた。外山(とやま)達也氏の刑事も観客の準拠枠として機能。
Jeanne
鬼の居ぬ間に
「劇」小劇場(東京都)
2021/10/20 (水) ~ 2021/10/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ジャンヌ・ダルクと云えば、ドライヤーの『裁かるるジャンヌ』を観たような気がするが全く記憶にない。ゴダールの『女と男のいる舗道』で娼婦ナナ(アンナ・カリーナ)が映画館でそれを観て涙を流す名シーンの方が印象的。
ちなみにジャンヌの故郷のドンレミ村は上野のドンレミー・アウトレット店(激安スイーツ販売で有名)の語源にもなったとのこと。
主演の奥野亮子さんが美しい。19歳で火刑に処せられることとなる、600年前フランスの軍隊を率いて戦った男装の少女に相応しいカリスマ性。神のお告げを聞いた片田舎の農夫の娘が王太子シャルルの下を訪ね、軍の指揮を任される。戦意高揚の旗印としての宣伝効果を狙ったものだろうが連戦連勝、シャルル7世の戴冠に貢献することとなる。だがイングランド軍に捕らわれるとシャルル7世は見捨て、見せしめの異端審問で虐め抜かれて死刑。その裁判記録が克明に残っており、余りの非論理的な遣り取りにうんざりする。
ドンレミ村の幼馴染役笠島智さんも印象に残る。時節柄、眞子さまに似てるなあと思った。
執行官役菊池豪氏は『一九一一年』の良心的弁護士役が記憶に残る。今作では『ベルセルク』の異端審問官モズグスを思わせる強烈なキャラクター。
ジャンヌの母親役田中千佳子さんの秘められた胸の内が物語のキーとなる。
1431年のジャンヌ・ダルクの異端審問と1455年のジャンヌ・ダルク復権裁判が同時進行で語られていく。前者では彼女を見棄てたシャルル7世(伊藤俊輔氏)が何故今頃こんな申し立てをするに至ったのか?それにはある女性(小口ふみかさん)の登場が関係してくる。
ゴールドシャワー
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2021/10/15 (金) ~ 2021/10/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
麿赤兒(まろあかじ)氏78歳、ヨガの達人のような衰えない肉体。フランソワ・シェニョー氏(38歳)の研ぎ澄まされた肉体は胸の膨らみのない女体のよう。足の細さは整形したのか?と思う程、お尻の美しさは異様。紐パンにファウル・カップだけの姿。これで歌も上手く顔の造形も端正で、踊らせれば江頭2:50の芸術ヴァージョンやバレエダンサーのフェッテ、ニジンスキーってこんな感じだったのか?と思わせる。
嘗て宮廷で王侯貴族が愉しんだ様な演物、そんな贅沢な気分を味わえる。こんなものなかなかお目にかかれ無い。
ドント・コールミー・バッドマン
24/7lavo
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2021/10/14 (木) ~ 2021/10/19 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
一切守りに入らず、攻めに行く姿勢と心意気に頭が下がる。ステータスを防御力0、攻撃力100に振り分けたような、こういう剥き出しの作品をやれる若い劇団の羨ましさ。どうしようもなくボロボロな鏡に映った自分自身と、ひたすら取っ組み合う痛々しい様を見せ付けられる。しかもそれはかなり攻めた喜劇でもあるのだ。
三つのエピソードが脈絡なく同時進行で語られる。
①小劇団を立ち上げて旗揚げ公演を迎えようとする青年。
②病んだ中学教師のクラスに転校して来る中学生。
③マッチングアプリでカフェに待ち合わせた男女。
笑いの方向性が自分好みで、もうちょっとしつこくやっても面白かった。照明役はもっと歳行って根拠のないプライドだけを抱えた、話をする気も起こらない気の滅入るおっさんの方が良かった。
凄く退屈で詰まらないシーンも多々ある。だが、出来の悪さが反転してそのまま強みに変わるクライマックスの熱量。
「土砂降りの痛みの中を傘も差さず走っていく。やらしさも汚らしさも剥き出しにして走ってく。」
観に行く価値充分。
そして、死んでくれ
M²
ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)
2021/10/13 (水) ~ 2021/10/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
強烈な作品。85年前に起こった陸軍“皇道派”によるクーデター未遂、「二・二六事件」を真摯に叩き付ける。上演前会場では事件の半年後に開催されたベルリン・オリンピックのラジオ実況中継が延々と流され、当時の空気感が醸成される。事件に興味を持ったなら、笠原和夫脚本の映画『226』が判り易い。(映画の出来は悪い。)
磯部元一等主計〈=大尉〉(小山貴司氏)、映画版では竹中直人。一線を越えた狂気のテロリストの目をしている。
栗原中尉(豊田豪氏)、映画版では佐野史郎。兵士を率いて行進する写真が有名。
安藤大尉(ナカムラユーキ氏)、映画版では三浦友和。決起への参加を最後まで保留し続ける。どことなく奥田瑛二に似ていて思慮深く理智的。
野中大尉(中西浩氏)、映画版ではショーケン。「我狂か愚か知らず、一路遂に奔騰するのみ」との句が有名。
河野航空兵大尉(熊谷嶺氏)、映画版では本木雅弘。思い詰めた文学青年の繊細さを感じさせる。
真崎大将(織田裕之氏)、映画版では丹波哲郎。斉木しげるっぽい、すっとぼけたコンニャク的応対がリアル。
この国を良くする為に、1483名の兵を率いて複数の権力者を暗殺し警視庁を占拠。「昭和維新」を掲げ、天皇親政の軍事国家の樹立を目指す。ほぼ史実通り、徹底的に削げるだけ削ぎ落とした出演者九人だけの密度の濃い「二・二六」。思い詰めた観念が迸り、噴出する情念が鮮血となって真白な雪を染め上げる。劇団チョコレートケーキが好きな方にお勧め。”暴力“とそれを突き動かす“強靭な精神”だけが世界を変える。
クロノス
LOGOTyPEプロデュース
中目黒キンケロ・シアター(東京都)
2021/10/06 (水) ~ 2021/10/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
日曜の中目は何処もかしこも行列でコロナ騒ぎもすっかり終わったような賑やかさ。キンケロ・シアターの前にも大行列が見えて驚愕。それは隣で行われているモデルの大屋夏南さんのフリマだった。
傑作。成井豊作品は押し付けがましい感動と気恥ずかしい人間讃歌が嘘臭くていまいち好きになれなかった。(大して観ていないので失礼だが。)『劇場版ドラえもん』を小学生ではなく、大の大人が演っている感覚。新興宗教的“感動ポルノ”とは流石に言い過ぎだが。
だが今作は素直に面白い。兎に角話の進め方人物の紹介の仕方がスピーディーで、何を簡略化してどの情報をどの順番で提示するのかのセンスも冴えている。舞台美術も壮麗で、要のクロノス・ジョウンターのデザインの美しいこと、まるで原子炉のような。これが象徴するのは崇めるべき“神”であり、どうにもならない無慈悲な現実でもある。オープニング、鉄格子の重い扉がゆっくりと左右に開かれた時、“神”と人間との戦いが火蓋を切る。
深夜の科幻博物館に侵入者。社員の平田友貴氏が殴って捕まえ、館長の今出舞さんに報告。館長は警察を呼ぶ前にその男と話したいと言う。気絶していた男、南翔太氏はここに展示されているガラクタ機械、クロノス・ジョウンターを求めていた。二人はその理由を訊ねる。男が語り出すのは、誰にも信じて貰えない“時間”との壮大な戦いの話。いつしか二人はその話にのめり込んでゆく。
美人館長役、今出舞さんの最大の武器である滑舌の良い早口が炸裂。熊本弁の無骨な平田友貴氏の体育会系キャラとの相性も悪くない。この二人がずっと南翔太氏の回想話を袖で聴いている設定がいい。時に応援し、時に突っ込み、観客のガイドラインとしての役割を果たしてくれる。今出舞さんは本当に良い女優になっている。主演の南翔太氏の汗だくの熱演、好感が持てるキャラなので観客はその姿をずっと観ていられる。看護婦役の梅山涼さんは出てきた時、「この娘がヒロインだな」と勝手に思っていた程綺麗。後輩のプロボクサー役堀田怜央氏は畑山隆則っぽい肉付けでカッコイイ。妹役難波なうさんは強烈な芝居の味付けで作品にコクを齎す。架空の話には手触りの重力が必須。
クロノス・ジョウンターの設定も秀逸。タイムマシンとは根本的に違う。物質を過去に転送する装置なのだが、時間流の反発に遭って未来へと弾き飛ばされてしまう。過去から現在へは帰れないのだ。余りにも大きいそのリスク。主人公は中学時代からずっと片想いしていた女性の事故死を救う為、全てを捨てて装置を作動させる。
土のバッキャロー!!
株式会社Ask
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2021/10/06 (水) ~ 2021/10/12 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
面白い。開幕するや山形のぶどう園の幼馴染の青年二人の会話からスタート。これが説明口調の台詞の羅列、如何にもな大仰なリアクションの遣り取りが続き、わざとらしい空気感の醸成にげんなり。TVドラマ調の説明演技ばかりでリアリティーが感じられずこれは···、と思っていたのだがそれは杞憂ですぐに引っ繰り返る。
オガタワイナリーの社長である斉藤レイさんの登場だ。その地での日々の暮らしを纏った訛り、汚れたスニーカー、ずっと舞台を動き回り視線で空間を広げ会話の一つ一つに観客が気になるようなボールを投げ入れる高度なテクニック。一気にこの世界に引き込まれた。何かしら観客に感情移入させる取っ掛かりがあれば、話に入っていけるもの。
コメディ・リリーフの大林素子さんも大活躍。ちょっと痩せ過ぎなのが心配だが、彼女の登場で舞台がパッと明るくなる。國島直希氏演ずる狂気のシスコン男も観客を沸かせた。涎をダラダラ垂れ流ししつこく繰り返すボディタッチ、計算尽くなら天才的。妹役森崎りなさんは指原莉乃似で可愛かった。
山形県のワイナリーが舞台。次期後継者の娘(中右遥日〈なかうはるか〉さん)が四年間のワイン造りの研鑽の旅を終えて帰郷。その彼氏(杉江優篤〈まさひろ〉氏)は近くの果樹園を継いでいたが、退屈な日常からの脱出を思い描いている。そこに東京から見学に訪れる甲斐千尋さん。“ワイン馬鹿”の女達と”どうにか自分を変えたい“と願う人達のささやかな巡り合い。
兎に角観ているだけでワインについてかなり詳しくなった気が。異常なワイン人気の理由もどこかしら腑に落ちた。葡萄とワインの事だけで一年中頭がぐるぐる廻っている斉藤レイさんと中右遥日さん親子が羨ましくも思える。ずっとワインのつんと鼻を突く芳醇な香りと、舌の奥をもわっと刺激する濃厚な酸味が甘く漂っているような空間だ。品のある上質な会話劇。
レプリカシグナル
たすいち
シアター711(東京都)
2021/10/06 (水) ~ 2021/10/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
大森さつきさんはVRキャラっぽい容姿、カリスマ性がある。スタイル抜群の美脚、絶対領域。だが何か変な違和感をいつも観客に抱かせる不思議さ。印象的な目のせいか?
ユートピア
singing dog
「劇」小劇場(東京都)
2021/10/01 (金) ~ 2021/10/05 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
良いシナリオだ。板垣雄亮(ゆうすけ)氏演ずる父親が強烈。独裁者であり、絶対的な支配者。”家族“を司る教祖であり、その根幹となる造物主。『血と骨』や『モスキート・コースト』、父親版『愛を乞うひと』でもある。前半は観ているだけで死にたくなる程苛烈。思い当たる節がある人にとっては観ちゃいられない地獄絵図。この父親が象徴するものが、人間を苦しめている諸悪の根源なのではないかとさえ。ババ抜きでそれを表現するテクニック。
三人兄妹の末っ子の述懐から始まる。父親への呪詛、その父親に追従した兄への憎悪、惨めな奴隷としての生涯を終えた母親への無念。母の死から家を出、もう二度と父と会うつもりもなかった。そこに父親が癌で倒れ、緊急手術で危篤状態の知らせが来る。長らく家を離れていた長男、長女、次男が実家に何年振りかに集まる。
板垣氏は兇悪な呉智英と云う感じ。何を言っても話が成立しない人間の典型。そのモンスターに対抗する対となる存在、内海詩野(うつみしの)さんも凄まじかった。母親と次女、叔母さん役もこなす。五人芝居で今作を演らせる劇団の要求も恐ろしい。内海さんの瞬間的な表情の変化がこの作品に緩急をつけている。次女の同棲相手である坂井宏充(ひろみつ)氏もギスギスした話を中和する重要なキャラ。三人兄妹の怨念の中立な聞き役でもある。
落花生(ピーナッツ)を三人がひたすら食べながら会話をするのだが本当にかなりの量を食べている。矢鱈とそれが気になる。物語は三人の父親に対するトラウマ話の回想から、何故かそれを聴いている父親の魂へと視点は移っていく。
設定は有りがちだが、真摯に取っ組み合った作家の魂の彷徨を是非とも体験すべき。
盲年【東京公演】
幻灯劇場
こまばアゴラ劇場(東京都)
2021/09/30 (木) ~ 2021/10/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
能の『弱法師(よろぼし)』をモチーフに捨てた盲目の我が子を家に連れ帰る父親の話。···では無いようだ。いろんな要素を詰め込み過ぎて、逆に散漫な味になってしまった印象。好き嫌いはかなり分かれるだろう。料理と同じで旨味成分が多過ぎても不味く感じるように人は出来ている。この題材ならもっとタイトに絞り込んだ方が客はのめり込んで観た。
ステージの下部が出入りできるようになっていて、グレート・ムタ宜しく役者が匍匐前進で消えたり現れたり。見たことのない装置で演者を撮影し、その姿をイラスト風に変換してリアルタイムでステージ背面の二面の壁に投影してみせたり。アイディアと技術が迸る。変換した3Dデータ画像はバレットタイムのようにぐるぐるぐるぐる廻る廻る。何じゃこりゃ未来都市か?と驚いた。特筆すべきは衣装デザインで、鈴木みのるの剃り込みや象形文字のようにジャケットをカットして、それを糸で縫い合わせたオーダーメイド。色々引っ掛かるので、着脱は大変そうだ。
駅で飛び込み自殺の高校生、目撃者は元裁判官と主人公である盲目の青年。青年は目が見えないものの、「許すな」と呟いた轢死者の最後の言葉を聴き取っていた。元裁判官の男は、その青年が自分が棄てた我が子であることに気付く。
女刑事役の松本真依さんが非常に魅力的。クールにもコメディにも振れるキャパシティ。毎日毎日彼女の下に自首してくる高校時代の友人役は橘カレンさん、彼女の告解すべき犯した罪とは?
素晴らしかったのはイマジネーションを刺激する台詞の数々。「天国は太陽、それは夕陽の中にある。」「地獄は影の中に。人は誰もがそれを連れて歩いている」。
暫しのおやすみ
劇団競泳水着
駅前劇場(東京都)
2021/10/02 (土) ~ 2021/10/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
照明の微妙な明暗で演出を付けているような繊細な物語。淡々とした会話の積み重ねは是枝裕和監督の『海街diary』を思わせる。ほぼ女優オンリーの人間模様(男性は一応三人)、役作りと云うよりも本人の持つ内面の魅力を引き出していくような。凄いのは彼女達が役そのものに見えてくるマジック。同性が憧れるような連ドラ主演のトップ女優(不倫発覚で休業中)、若手No.1のアイドル女優、いつしか観客には本当にそんなふうに見えている。絶対女性が演出していると思いきや、これまた男性。よくこんな関係性を物語に紡げるものだ。感心する。
皆の憧れのトップ女優・鮎川桃果さん、その姉・川村紗也さん、姉の旦那の妹・谷田部美咲さん、美人スタイリスト・今治(いまばり)ゆかさん、キーを握るアイドル・岡野桃子さん、天才新人女優・竹田百花さん、敏腕マネージャー・都倉有加(ゆうか)さん、そして今作の主人公とも言うべき人気アイドル女優・菊原結里さん。菊原さんは元ご当地アイドルということで長身でスラリとした山本美月似、演技もいける。
テーマは『挫折と再起』。
無理にドラマを作らずに、ふと感情が零れ落ちる瞬間を捉えている。雑然とバラ撒かれたパズルのピースが偶然に少しだけ重なる時、今まで見えなかった物が浮かび上がる。
これを其処らの男達の話で作ったら、もっと陰鬱で気が滅入る、見ていられない作品になりそう。きらびやかな芸能界の女優の話にした所が流石。下手にテレビ局の控室、上手にマンションの一室と云う舞台設計もスタイリッシュ。
綺麗どころ満載で細やかな情緒の機微を紡ぎ上げる。特に女性にお勧め。
虹の人〜アスアサ四ジ イヅ ジシンアル〜
ラビット番長
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2021/09/30 (木) ~ 2021/10/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
秀逸な脚本。高度に練られた立体的な人物模様を、ただ観ているだけで誰もが理解可能なものに変換。物語はほぼ史実通り。テーマは『見えることと見えないこと』。脚本・演出は井保三兎(いほさんと)氏。(エル・サントの息子、エル・イホ・デル・サントと関係あるのか?)
風に揺らされちりりと鳴る風鈴の音から物語は始まる。避暑地に訪れた京大の学者(井保三兎氏)と京都のアマチュア地震研究家の青年(大川内延公〈おおかわうちのぶひろ〉氏)の邂逅。ちょっと変わった青年は毎日空を見詰め、“虹の切れ端”を探す。虹の形状と大きさ、滞空する時間によって地震発生を予知出来ると言う。この椋平広吉(むくひらひろきち)が電報にて1930年11月26日の北伊豆地震を予知してみせたことから、世界中がその研究に注目することに。当時エジソンとアインシュタインから称賛の手紙が送られる程の世界的ニュース。地震予知の軍事利用を見据えた軍部を巻き込んで、その研究の真偽が問われるのだが···。
あっと驚くラストの仕掛けはかなりのカタルシス。こういう脚本を書ける人間はそうはいない。大絶賛の嵐も当然。素直に観た方が良い。
ヨコハマ・ヤタロウ~望郷篇~
theater 045 syndicate
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2021/09/30 (木) ~ 2021/10/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
これは観ておいた方が後々語り草。主演のヨコハマ・ヤタロウ役今井勝法氏は『魁!!男塾』の松尾鯛雄に似ている。宮下あきらの漫画のキャラのような強烈なインパクト。全裸でウエスタンと云うと『エル・トポ』を想像するが、もっと永井豪テイストで、関東地獄地震後の荒廃した日本を描いた『バイオレンスジャック』の方が近い。
『マクベス』の三人の魔女の予言により、死ぬことが定められた無敵のガンマン、全裸のヤタロウ。殺した相手の思い残したことを果たす“約束”を自らに化し、背負った“約束”にがんじがらめにされていく。
最大の敵となる横浜市長役、寺十吾(じつなしさとる)氏は突き抜けた好き放題。凄い私的な空間に劇場を塗り替えてみせた。ちょっと驚く程のテクニックで鈴木清順の映画のキャラのよう。(映画『凪待ち』のヤクザも最高だった。)ハンドマイクで「その通りでございます。」ネタは秀逸。相方である市長秘書役佐藤みつよさんが元宝塚っぽくて綺麗だった。
天野天街か?とツッコミたくなるようなリピート・ギャグ満載。手術シーンのドタバタは必見の名シーン。笑いのセンスはかなり高い。
『真夜中のカーボーイ』と『マクベス』を足した味わい。かなり面白い。
ヒ me 呼
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2021/09/24 (金) ~ 2021/10/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
前半はかなり退屈でつまらない。隣の人は早々に退席。その気持ちもよく判る。演出・天野天街の遣り口が何となく掴めてきた。こちらから心を開いて歩み寄らないと面白くなっていかない感じ。しりあがり寿の三年ぶりの書き下ろし新作。
開演前のSEがカントリー調のギター・インストゥルメンタルで凄く良い。エンディングで皆が踊る『浴衣の大団円』のフレーズがブリッジとして劇中で多用されるのだが、それも名曲。作曲・諏訪創となっているが、何か何処かで聴いた曲のような。
デモクラシイタケ役の甲津拓平(こうづたくへい)氏は太ると凄味を増して、六平直政似。ヒロイン山丸莉菜さんはえらく可愛かった。小劇場美人とでもいうのか。彼女が居ないと退屈で観ていられない位。コメディエンヌ平野直美さんは力尽くでストーリーをぶん回してくれた。
後半四分の一がやっと面白くなるのでもっと全体を短くした方が良い。
フランドン農学校の豚/ピノッキオ
座・高円寺
座・高円寺1(東京都)
2021/09/02 (木) ~ 2021/10/07 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
『ピノッキオ』三度目。六年目にしてファイナル。ずっと毎年観るつもりだっただけに残念。更にKONTA氏が持病で降板とは。(サメの声で出演はしている)。観れば観る程奥深く、何度観ても最初の地点に辿り着くような廻廊。素直にこんな作品を観賞出来た事を感謝。
ラストの辻田暁さんの舞踏は「よっしゃ、ここから始めるぞ!」の人間の詩だ。苦境に瀕した時の天龍源一郎の口癖、「そうはいくかい。」を思い出す。何もかもここから始まるようだ。
ムサシ
ホリプロ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2021/09/02 (木) ~ 2021/09/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕85分休憩20分第二幕75分。
少し早いが蜷川幸雄七回忌と云う事で、蜷川の『身毒丸』オーディションで主演デビューした藤原竜也氏主演の『ムサシ』。井上ひさしの遺作『組曲虐殺』の一つ前の作品でもある。配役も蜷川幸雄に縁のあるメンバーを揃えた。『フェイクスピア』の体調不良騒動で気になっていた白石加代子さん(79歳!)は驚く程に元気。そこそこ高さのある縁側をヒョイと飛び降り、踊り捲り舞い捲りコメディエンヌの役どころを掻っ攫う。そう言えば武田真治と白石加代子主演の『身毒丸』をここシアターコクーンで観たことを思い出した。声でキャスティングしているのかと思う程に役者皆の声が良い。塚本幸男氏の貫禄、大石継太氏の法話の素晴らしいこと。
異様にざわめく竹林が効果的で、暗転と舞台転換にじっくり時間を掛けることが作品の重みを増す。能を効果的に取り入れている。
演出も兼ねた吉田鋼太郎氏はやりたい放題好き放題。素で藤原竜也氏や溝端淳平氏が何度も吹き出す。
藤原竜也氏は生で観ると超カッコイイ。映像の何倍も魅力的なスター、とにかく絵になる。
物語は宮本武蔵(藤原竜也)と佐々木小次郎(溝端淳平)の舟島の決闘から6年後、鎌倉の禅寺宝蓮寺の寺開き(開山)。参籠の禅の最中、九死に一生を得ていた佐々木小次郎が現れ、武蔵に果し合いを迫る。沢庵和尚(塚本幸男)や柳生宗矩(吉田鋼太郎)等は何とかその無益な決闘を取り止めるように色々と策を講じるのだが···。