キミガミテタ明日 公演情報 TEAM 6g「キミガミテタ明日」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    主人公は平田貴之氏(ブラマヨの吉田と博多大吉をブレンドしたような雰囲気)演ずる葬儀屋の倅、矢野雅清。学生時代にプロを目指してお笑いトリオを組んでいた。子供が出来てやめたアフロの岸健太郎(吉成浩一氏)と、家庭を持っても独り夢を追い続ける一ノ瀬昌太〈しょうた〉(笑福亭べ瓶〈べべ〉氏)。妙なカリスマ性がある陽気な昌太には妻(市原茉莉さん)と最愛の娘のひまり(いしひろのさん)がいる。『自分の人生を愛し、愛する人生を生きろ。』とは ボブ・マーリーの名言。昌太はこれに近い座右の銘を掲げている(正確には覚えていない)。
    昌太のお気に入りの秘密の場所は、とある海岸のある地点。そこから見えるのは満月が鏡のような海面に映し出され、互いに向き合っているような夢幻的光景。主人公の母が亡くなった晩、こっそり連れて来てくれたことがある。
    そんなある日、一本の電話が鳴り、陽気で明るい筈の世界はその残酷な姿を露わにすることとなる。

    前半が単調でイマイチのれないが、市原茉莉さん演ずる昌太の妻の登場からいよいよ物語が門を開く。彼女の熱演に一気にこの世界にのめり込んでいった。
    葬儀屋の父親、田中リュウ氏が長谷川和彦に似ていた。
    後半に訪れる阿南敦子さんの独白といしひろのさんの叫ぶ台詞は必聴。その文学性の奥の深さにずっと脳裏にこびりつき、思索させられる。ここだけでも必見のシーン。
    カーテンコール時、阿南敦子さんは号泣。その想いの深さにこちらからは想像もつかない程の苦難の日々を感じた。
    是非、観に行って頂きたい。お薦め。

    ネタバレBOX

    構成をもっとバッサリやっても良かったのでは。昌太の葬式から始めてもいいと思う。
    チラシのヴィジュアルが素晴らしいので、これをステージ上で見せない手はない。巨大な満月が海面に映り、月光による光の道が夜を縦に切り裂く。この光の道を通って誰もがあの世に行くと云う。そこでは死んでしまった懐かしい面々が宴の準備をして待ってくれている。「いつの日か辿り着いたそこで旨い酒を酌み交わそう。」と昌太。
    愛する娘への誕生日プレゼントとして、名前の由来となった向日葵をありったけの数、育てている。満月の夜、この世で一番の美しさをプレゼントしようと。

    冒頭、駅で電車を待っている面々。そこに人身事故による運行の遅延のアナウンス。口々に文句を付ける人々の声。

    ラストは冒頭の場面が繰り返される。飛び込み自殺者を罵る人々に向かって、ひまりが叫ぶ。「死にたかったんじゃないよ!生きたかったんだよ!」。この台詞が一番胸に残った。

    『自殺は最期まで生と向き合った者の足掻きの行為である』とは凄い観点。今作の魅力はただのオプティミズム(楽天主義)に見せかけてニヒリズム(虚無主義)を肯定した上での反転にある。薄っぺらい妄想上の人生讃歌ではなく、毎日の生活の痛みに紡がれた言葉。阿南敦子さん演じる姉が、自殺未遂の過去を語り出すシーン。自身の体験から弟の死は自殺かも知れないと語る。自殺であったとしてもいいのだ、と。

    中盤から物語は昌太が自殺ではなく事故死であったことを証明する旅が展開され、ハッピーエンドに向かって話は進む。その通俗的な流れを断ち切り、一変させる工夫が今作の肝。ライトサイドとダークサイドを共に肯定することによって深みを増す昌太の人物像。(ニセ大仁田こと故森谷俊之を思い出した)。それ故に「死にたかったんじゃないよ!生きたかったんだよ!」の声が痛い。

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    2022/03/04 14:15

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