空鉄砲 公演情報 柿喰う客「空鉄砲」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    気が狂っている。作家(中屋敷法仁)の脳内に力ずくでぶち込まれた観客が乗せられるのは妄想と情動のジェットコースター。『ミクロの決死圏』のようにインナースペースの至る所を猛スピードで駆け巡って行く。素舞台で着の身着のまま、三人の役者が語るのは家族と同性愛と虚構。何一つ解決しないミステリー小説と、映画化を口実にしたいつまでも撮影の始まらない極私的リハーサル。完全に気が狂っている令和型寺山修司は満杯の女性客で狂熱。

    ネタバレBOX

    ベストセラー連発の大御所ミステリー作家が自宅の風呂場で遺体として発見、死因はヒートショックと見られた。若き息子(永島敬三氏)はその父の死を映画化しようと試みる。長年父の愛人であった解体工(玉置玲央氏)は主演に無名の役者(田中穂先氏)を推薦する。役者は作家そっくりに整形を重ねた、解体工の腹違いの弟であった。映画の為の役作りと称して、自宅に役者を住まわせる息子。在りし日の再現を繰り返すうちに三人の脳内が現実と虚構の垣根を越え、死んだ作家=父=愛人=“兄を虜にした男”の仕掛けた大伽藍の性愛絵巻へと。

    キーワードは「ケダモノの白い涎」と「弾の出ない由緒ある火縄銃」、「貴方の子供を作りたい」男と「空鉄砲」を持て余す男。元乃木坂の若月佑美さんと新婚ほやほやの玉置玲央氏のエロスが腐女子を惑わす。田中穂先氏が作家の役を演じるのだが、突然憑依するようで怖い。

    個人的にはラストの歌(KinKi Kidsの『Kissからはじまるミステリー』)とアフタートークが作品の余韻を掻き消してしまうようで少し勿体無い気も。何か有りがちな風景に観客はほっとしてしまい予定調和の安心を得てしまう。妄想なら妄想でキッパリ叩き付けてさっさと終幕しても、それも一つの立派なファン・サービスだろう。

    作家の産まれてくる息子への想いを込めた作品は変態的な内容となり、世間の評価は低かった。それを本屋で立ち読みした中学時代の解体工は、異様に興奮し精通に至る。「ケダモノの白い涎」を垂らしたことをファンレターにて作家に告白。数年後その作品が映画化するとなってオーディションで役を勝ち取る。しかし彼を一目見た作家は業界に圧力を掛けて芸能界を追放させる。理由は「一目惚れ」だった。彼を愛人にして情事に耽る作家。金を一切仲介させないことが二人の歪な関係性を更に特別なものとするプレイへと。作家の息子は母を亡くし、愛人の下に入り浸り帰って来ない父に孤独を募らせる。ある日父から見せられた先祖代々伝わる由緒ある家宝の火縄銃、それを抱いたまま布団に入り興奮、精通に至る。十五の夜、父と解体工を密室に閉じ込めて性行為を見せることを強要。歪んだ性癖は父を媒介にした純愛か。

    挿絵画家の石原豪人と彼の絵に性的興奮を植え付けられた「自殺サイト殺人事件」の前上博の関係を想起。
    女性向けの同性愛であって、男性的には物足りないのがやや不満。(その気のないこちらもベロンベロンに興奮させて欲しかった)。石原豪人の名言に「女はホモの美少年を見ると濡れるんです。」と云うのがあるが、きっとそれは真理なのだろう。

    こういう形態の作品が成り立つのは小劇場演劇の特権。商業演劇、TVや映画になると説明を求められ、理路整然とした納得を要求される。舞台は作家のぶつぶつとした独り言を複数の役者で彩りを添えただけだと観客は理解しているので、受け止める度量が深い。このレベルの語り口を当たり前のように許容する観客の熟練度に拍手。

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    2022/01/22 17:29

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