うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

401-420件 / 498件中
テノヒラサイズの飴と鞭と罪と罰

テノヒラサイズの飴と鞭と罪と罰

テノヒラサイズ

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2012/11/06 (火) ~ 2012/11/12 (月)公演終了

満足度★★★★

行け, X10!
そのポリシーとも言うべき、“きっかり90分、全員つなぎを着て舞台にはパイプ椅子だけ、
美術や音響、照明に頼らない“という劇団の姿勢に興味津々で出かけた。
今回は小道具が増えていつもとは少し違った面を見せたということだそうだが
関西風のノリで押してくるのかと思いきや、品のある笑いでびっくりした。

ネタバレBOX

富士山に地熱発電所を造るという国家プロジェクトのため
複数の企業の担当者が山頂本部に滞在して半年。
空気も薄いが、ライバル企業をけん制しつつ単身赴任の孤独と闘う厳しい現場だ。
密かに手を組まないかと談合を持ちかける企業もいるし
人間関係も煮詰まりがちで、個人的にせこい嫌がらせを繰り返したり
必要以上に親切な人間にイライラが爆発し、皆で吊るし上げたりしている。

そんなとき富士山に噴火の兆しが現れ、地震のような揺れが頻発、
エレベーターの中に作業員が閉じ込められてしまった。
プロジェクトの中止という最悪の局面に直面する中
メンバ―たちは企業人として、また一開発者としての
生き方を問い直される・・・。

横長のテーブルにパイプ椅子、後ろには壁のように積まれた段ボール箱。
テーブルの上にある大きな富士山の模型の他にはセットも無い。
富士山頂でのプロジェクトXみたいなシチュエーションがまず面白かった。
限られた空間でスケールの大きい話を想像させる。

一人ひとりのキャラにもう少し情報があれば、もっと面白いと思う。
例えば“父親が塀の中と外を行ったり来たりしている”シード工業(田中美甫)のような
バックグラウンドがコンパクトに紹介されたら
この日本一高いところで闘う者たちの気概みたいなものが感じられて
各自の行動に説得力が増すように思う。

関西風にもっと笑いを取りに来るかと思っていたがきっちり演技して揺れたりしない。
ならば尚更過酷な現実の中で闘うプロジェクトXの企業人と
心の中のファンタジーワールドとのギャップが大きい方が面白い。

ミツカネ産業(湯浅崇)の振れの大きい芝居が面白かった。
頭髪ネタは必然か(笑)
現実からファンタジーへの転換を牽引している。

大同電力(松木賢三)のホロリとさせるラストも良かった。
なんだこの人、いい人じゃんみたいな。
企業人と情で動く人との両面を丁寧に見せていた。

関西弁でもなく、ある意味とても洗練された劇団だと思う。
アフタートークで役者陣が語ったように、
大阪の“いつものを待ってる”お客さんとはいろんな点で違っただろうけれど
次はパイプ椅子だけの“超シンプル”なのも観てみたいと思わせる舞台だった。
 新譚サロメ   (改訂版) 

 新譚サロメ   (改訂版) 

ウンプテンプ・カンパニー

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2012/10/29 (月) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★★

「首を所望せよ」
あの“預言者ヨハネの首を所望したサロメ”の話が
平家の落人伝説が伝わる小さな島に場所を移して語られる。
古風な島言葉と島崎藤村の詩を用いた劇中歌、設定ががらりと変わることで
“男と女”の普遍的な“不可解さ”が浮き彫りになる。 
そうだ、預言者の首を所望せよとサロメに告げたのは、この母親だったのだと思い出させるような舞台だった。

ネタバレBOX

階段を降りると、舞台スペースを三方から囲むように客席が作られている。
ぼうっと中から灯りが洩れるような太い木が2本、
1本の根元には賽の河原のような石が積まれている。
暗転の後、島に流れ着いた一人の男がここ「イザヨイの穴」で目覚めたところから話は始まる。

その昔平家の安徳天皇は入水して8歳で崩御した事になっているが
実は生き延びていたという伝説があちこちに残っている。
この島もそのひとつで、安徳天皇に娘のウズメを差し出した男の末裔が
今も島を牛耳る男、よろう鐵である。
彼は弟の妻律を奪って弟を死に追いやり、今また妻の連れ子サキを我が物にしようとしている。

島に流れ着いた男、与太者の寿安は島に災いをもたらすとして追われる身となり
祭りで舞を舞った後よろう鐵のものになることになっているサキは
この寿安を唯一の救世主として捨て身ですがりつくが拒否されてしまう。
舞の褒美に何でも欲しいものを与えようというよろう鐵に
今は囚われている「寿安の首」と叫ぶサキ。
目を大きく見開いて、島を眺めながら波間を漂う寿安の首・・・。

台詞を言ったあとにト書きも読んで描写するのがユニーク。
たった今生々しい台詞を吐いた次の瞬間、距離を置いてその自分を描写する。
あるいは台詞にしない胸の内が短い言葉で表現される。

座付き作家の加蘭京子さんが好きだという島崎藤村の詩に
曲をつけて歌う劇中歌が不思議な雰囲気を醸し出す。
生演奏のピアノに合わせて難しいメロディーの歌を全員一度はソロで歌う。
歌詞が良く分かる歌い方は素朴な歌唱ながら好感が持てる。
一番多く歌うのは冒頭きれいなダンス(?)と踊っても乱れない歌を聴かせた
千鳥・ウズメ・謎の女…を演じた森勢ちひろさん。

与太者の寿安を演じた鈴木太一さん、
人生を投げているようでどこか潔癖な寿安がはまっている。

よろう鐵の妻律を演じた西郷まどかさん、
夫を裏切り死に追いやってまで欲しかった男が、今は自分の娘を欲している。
「欲するとはどういうことか」身を以て娘に教える母親の業が素晴らしい。
もともと聖書で、サロメに「首が欲しいと言え」というのはこの母なのだ。
この母の残虐性が、運命に流される娘に向かって流れ込んでいくような印象を受けた。
魔性の女は着物の着付けもきれいでとても素敵だった。

サキを演じた板津未来さん、
母親を憎み、義父であるよろう鐵を憎み、自分の運命を憎み
唯一愛した寿安に拒否された絶望から「首」を所望する狂気が伝わってくる。
しかもそれは、宿命を受け容れて”初めて自ら選択した事”だったという決意の証明でもある。

繊細でドラマチックな照明が素晴らしい。
微妙な変化とタイミングで舞台に時の経過と奥行きが生まれ
観ている私たちは彼らと同じ時間を過ごす。

愛する男の首とは、単なる“殺してしまえホトトギス”の心境ではなく
絶望の代償・孤独の証、そして母親から受け継ぐ業でもある。
元のサロメ、平家の伝説、そこへ島の男女のいくつものエピソードが重なって
サキの狂気の必然性が説得力を持ってくる。

──寿安の首、今どのあたりを漂っているのだろう・・・。
リンクス東京 感謝!! 来年も東京で!!

リンクス東京 感謝!! 来年も東京で!!

演劇ソリッドアトラクションLINX’S

上野ストアハウス(東京都)

2012/10/24 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

充実の遠出
LINX’S TOKYOのAチームを観る。
関西のひとりの演劇ファンが企画して実現したというこの東西相互乗り入れイベント、
未見の劇団を知る絶好の機会であり、本公演を観たいと思う劇団がいくつもあった。
6劇団が20分ずつという集中度も程良く、企画の面白さと今後の可能性を
感じさせる充実した時間だった。
この日のMCは伊藤今人と西川康太郎の二人。
コンパクトでメリハリがあり、よいMCだったと思う。

ネタバレBOX

1. THE 2VS2(2対2と読むそうな)「ファンファーレと熱狂」
  クリスマスの恋愛ものかと思ったら有馬記念の馬の話。
  ホレた雌馬を追いかけて本番も頑張って走ったのに去勢されてしまった馬の末路。
  中盤これが人の話ではなく馬の話なのだと判るのが可笑しい。
  天使と悪魔のように彼らを操りそそのかし、その気にさせようとしていたのが
  ジョッキーだったというのも、馬と判れば納得の面白さ。
  種明かしのタイミングのセンスが抜群。

2. 劇団エリザベス 「あひるぐち、ハニー。」
  一度観たかったエリザベス。
  アニメの声優みたいな声で、彼に会いに行くとウキウキする女の子が登場。
  この女の子を演じる長谷美希さんが素敵。
  キレのあるダンスが素晴らしくて見とれてしまった。
  もう一人の田中ありすさんの脚の組み替えも超お見事。
  シュールな展開がまた考えさせるもので、引き込まれた。
  キャラのイマドキ感と予想をはるかに超える身体表現の豊かさ、
  価値観を揺るがすストーリー性に、本公演を観てみたいと思った。

3. 劇団ニコルソンズ 「セックスレス夫婦の大冒険」
  今とても勢いのある劇団ニコルソンズ。
  ゾンビ発生というパニックムービーばりの設定の中
  セックスレス夫婦や結婚詐欺師、コスプレ風俗嬢やキャバクラのオーナーなど
  生き残った人々は、死を覚悟して懺悔を始めそれがまた波紋を呼ぶ。
  風俗嬢の数学的あえぎ声(?)には笑ってしまった。
  次回はシンプルな役者4人による作品を観てみたい。

4. シアターOM「うしとら」プロジェクト 「うしおととら外伝ECLIPSE金環日食」
  冒頭のたっぷりとドラマチックな台詞回しが私的にはすごく好み。
  いまやこういうのってアニメか渋い時代劇くらいしかお目にかかれない気がする。
  20分の中でもう少し「うしお」と「とら」の語る言葉も聴きたかった。
  全巻制覇目指して公演中ということだが、
  継続してひとつの原作を舞台化するという試みに
  作品理解と世界観の共有の深さを感じる。
  作者の藤田和日郎さんが、毎回公演チラシを特別に描いてくれるという話に
  このプロジェクトに対する信頼ぶりがうかがえる。

5. 彗星マジック 「丘の上で描いた絵の話」
  なんて素敵な衣装なんだろう。
  ずっと眺めていたいようなエプロンをつけて少年は丘の上で絵を描いている。
  毎日毎日風景に話しかけながら、その風景の移り変わりを重ねていく。
  その少年が近くの工場から来るロボットであり、
  彼の寿命が尽きようとしていることがわかったとき
  「風景」は動けない自分を哀しんで慟哭する。
  ──「僕」は「君」が描いてくれた「木」だよ、描いてくれてありがとう
  ロボットに辿り着いて両脇から彼を支える「木」の姿にボロ泣きしてしまう。
  ロボット(この日は木下朋子さん)の絵を描く動作が計算されていて美しい。
  宮崎駿ばりの設定と、世界を逆から見るその視点のユニークさが光る。

6. ステージタイガー 「虎をカる男」
  動物に育てられた人間を引きとって、人間社会に適応できるようにする先生…
  オオカミ、虎、亀(?)、マンボウ(??)
  実は先生は、大学の研究室で人間とつきあうよりも、
  彼らと触れあって少しずつ人間らしくなっていく過程を見ている方が好きだった。
  次第に人間らしくなっていくことが喜びである反面、
  先生の苦手な“人間関係”が生じて来る怖れに怯えるという矛盾が面白い。
  奇想天外な設定の中に“人間社会の面倒臭さ”が描かれていて意外に鋭い。
  もっと筋肉を前面に出した公演が基本らしいから、そう言うのも観てみたい。


もうこれは個人が企画する段階ではないだろう、石田さんすごい。
定期的にこういうショーケース的イベントがあると、観たい劇団は一気に広がる。
ただ、“内輪の交流会”的な雰囲気が濃すぎると
結果劇団関係者の情報交換に終わってしまいそう。
「ビジネスライクでクールな運営」と「熱い楽屋」を両輪として
きちんと定着して定期イベントになってくれたら嬉しいなあ。

Bチームも観たかったのに日程的に行けなかったのが残念。
それと最終日のMCがバンタムクラスステージの福地さんだなんて
もっと早く教えて欲しかった(/_;)

しっかし上野は遠かった・・・。
遠かったけど楽しかった。
秘密の繭

秘密の繭

劇26.25団

OFF OFFシアター(東京都)

2012/10/24 (水) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★★

繭は藪の中
複数の人間の記憶の中にあるひとつの出来事。
それぞれの思い、思い込み、誰かを守りたい気持ちが交錯して
真実はもうわからなくなってしまっている。
わかっているのは「着地点を探すのは自分自身」だということ。
キャラにはまった役者が生き生きとして魅力的な舞台だった。

ネタバレBOX

「中の下」くらいの弁当を売るアカネ弁当店が物語の舞台。
上がり框の低い店舗兼住居は敷居も低いようで、様々な人が上がり込んでくる。
ここには店主の茜(中澤功)と中3の娘政美(浅利ねこ)、それに
住み込みのアルバイト塔子(星原むつみ)が住んでいる。
そこへある日政美の異母兄 古賀ちゃん(長尾長幸)が久々に訪れる。
迎えた茜と政美は嬉しいのと同時に彼の真意を計りかねて複雑な思いを抱く。
7回忌を迎える父親の死に絡む記憶が蘇る・・・。

冒頭、過去にここで起こったと思われる事件が再現され
シリアスな話なのかと思っているとそうではない。
だいたい長身の中澤功さんがスカートはいて“お母さん”だし。
足がきれいで違和感もなく、すんなりお母さんになっている。
ハイバイなどで成功している“男のお母さん”って私は好きだ。
必要以上の女っぽさを排し、清潔感があって母性が際立つ気がする。

このお母さんと古賀ちゃんが、それぞれ自分がやったと思っている事件。
その真相は繭にくるまれ、政美を含めた3人はその周囲をぐるぐる回っている。
まるで「藪の中」みたいに、ひとりひとりが違った風景を記憶している。

この過去の事件がフラッシュバックのように時折差し込まれながら
日々ここにやって来る人々が描かれるのだが
店の日常を断然面白くするのがキャラの立った登場人物だ。

まず住み込みアルバイトの塔子を演じる星原むつみさん、
この立膝して弁当かっ食らう豪快な女性が面白い。
登校拒否になった政美に対して、意外な優しさと的確な言葉を投げかける。
この人のキャラに勢いがあって雰囲気を牽引する。

「美術館に勤めながら人の悩みを聞いて小銭を稼いでいます」と自己紹介する
気功師見習い中国人リーを演じる林佳代さんも面白い。
いかにもな日本語のイントネーションと大陸的自己中心思想(?)が可笑しい。
全員で歌を歌ってひきこもった政美を外へ連れ戻そうという(天の岩戸か!)
“我的方法最上解決”(多分こんな発想だろう)スピリッツ全開。

ちょっと危ない隣の床屋を演じた杉元秀透さん、“いるいるこういう人”感ありまくり。
古賀ちゃん役の長尾長幸さんは不思議な役者さんだ。
イマイチはっきりしなくて優柔不断な古賀ちゃんが妙にリアルなのは
この人の声とか表情が魅力的なせいだろうか。

暗転とは別に、役者さんが整然と小道具を抱えて移動する場面転換が効果的。
役のまま時間の経過を感じさせる移動で、ごく自然に次のシーンに流れて行く。
ただ過去の出来事の真実は一体どうだったのかがはっきり描かれないので
若干消化不良な感じが残る。
古賀ちゃんが“旅に出る”のは自己犠牲なのか“着地点”を見つけたのか
評価のしようがなくてもやもやする。

完結させないのは続編につなげるためだとしたら、それもアリだと思う。
事の真相と、それを人々がどう受け止めるか。
それがあって初めて、各自の着地点が見いだせると言うものだろう。
45Av(フォーティフィフスアベニュー)の悲劇

45Av(フォーティフィフスアベニュー)の悲劇

メガバックスコレクション

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2012/10/20 (土) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

もう一度観たら
舞台に向かって横いっぱいに事故現場と化した地下鉄構内が広がる。
最後まで緊張の途切れない台詞と
ドラマチックな照明が印象的な舞台だった。
もう一度観たら、何が視えるだろうと思わせるラストが忘れられない。

謎解きもよいが、登場人物のキャラが立体的で面白い。
2015年10月21日のN.Y、時代を反映した登場人物の背景が活きている。
前川史帆さんが凛としてとても魅力的な人物を見せた。

ちょっと残念だったのは、登場人物の職業が明かされた時に
ちらっとオチを予想した人が結構いたのではないかということ。
ネタバレするわけにはいかないのでこの辺でやめとこ・・・。

それにしてもメガバックス、毎公演重症患者のうめき声がリアルだ。
思わず“もう楽にしてやれ!”と思ってしまう。
荒唐無稽な設定が説得力を持つのはこんなところにも理由があるような気がする。

こい!ここぞというとき!(2012年サンモールスタジオ最優秀演出賞、受賞)

こい!ここぞというとき!(2012年サンモールスタジオ最優秀演出賞、受賞)

ポップンマッシュルームチキン野郎

サンモールスタジオ(東京都)

2012/10/18 (木) ~ 2012/10/29 (月)公演終了

満足度★★★★

”ここぞというとき”逃げない話
「いい大人がよくもまあ…」という馬鹿馬鹿しさがポップンの魅力。
笑っているうちに怒涛のナンセンスに巻き込まれて
気がつけばいつしか私も一緒に車に乗っていた・・・。

ネタバレBOX

逆田真(加藤慎吾)は父親を探している。
小さい時に家を出ていったきりの父親は、興信所に頼んで調べてもらうと
新宿で店をやっていると言う。
その店「無いチンゲール」はぼったくりバーで、父はそこのママになっていた。
名前を隠して客として入った真は、父親の婚約者アスオ(仁田原早苗)を探しに
店の従業員やアスオの大家(小岩崎恵)と共に車に乗り込む羽目になる。
そして様々な人と出会いながら、札幌を目指すのだった。

舞台を上下に割っての構成が面白い。
下では張りぼてカーが2台(?)疾走し、
上では車を降りたところでの出来事が描かれる。

無いチンゲールのママで真の父親(吹原幸太)が上手い。
父親として家族を持っていた時期を「無かった事にしたい」と言いつつ
さっき別れた男が息子だったと判ると(やっぱり…)と一瞬取り乱す。

ストーリーを牽引するもうひとつの力が
バーの従業員カツ子(サイショモンドダスト★)のパワーだ。
サイショモンドダスト★さんって手術してたっけ?
客席後ろの方から観ていたので思わず目を凝らすほど本物みたいな胸してた。
スキの無いなり切りぶりといい、客の財布を盗るタイミングといい素晴らしい。

CR岡本物語さん、相変わらず極小衣装で身体を張っての芝居が可笑しい。
この人の“声はイケメン、実はヘンタイ”な役どころは
いつもポップンのポップンたるテイストを支える役目を果たしている。

ポップンの作品にはいつもマイノリティへの共感があって
今回もゲイやSM愛好者、幽霊や未来からの訪問者、
果てはジャガイモ・玉ねぎに至るまでみんな一緒に車に乗って行く。
これは、それぞれが抱える葛藤や旅の理由を乗せたロードムービーだ。
幽霊の心情などほろりとさせて、まさにタイトルの”ここぞというとき”を思わせる。

ちなみに私がポップンを好きな理由のひとつに”間のセンス”がある。
カレー云々のあたりでは、その”間”に爆笑してしまった。
次のシーンで何気にジャガイモと玉ねぎがいなくなっているのも可笑しい。

ラスト、名乗らないまま一人車を降りてから
今別れた父親の携帯に電話をかける真。
走る車の中でその電話を受ける父親。
一瞬だけ二人が浮かび上がってすぐに暗転して終わる。
この終わり方がすごく効いている。
なんて洒落たエンディングなんだろう。

この思いがけず丁寧な人の気持ちの掬い方があるから
ったくいい年してよくやるよ、と笑いながらまた次も観たくなるんだよなあ。
東京バンビ 最後の公演 !?

東京バンビ 最後の公演 !?

元東京バンビ

OFF OFFシアター(東京都)

2012/10/16 (火) ~ 2012/10/21 (日)公演終了

満足度★★★★

”詰めの甘さを情で補う”個性全開
劇団の作・演出の稲葉氏が失踪(?)して窮地に追い込まれての公演。
一体どーしたのよ的な興味も手伝ってか、雨になった平日の夜、劇場は満席となった。
別に解散することないんじゃないの?と思ったのは私だけか?

ネタバレBOX

冒頭シリアルキラーの女(赤崎貴子)がナイフを持って男に襲いかかるところから始まる。
ふとしたことからその女と結婚したはやし(はやし大輔)は、1年経っても
挙動不審なほど幸せいっぱい、勝手にしろってほどデレデレしている。
ある日彼は自宅に地下室があることを発見、そこに見知らぬ男(アダチヒロキ)が監禁されていることを知る。
妻がシリアルキラーであると言われも尚認めたくないはやし、
しかしついに妻がナイフを手にしながら「私を止めて!」と叫ぶのを目の当たりにする。
これが劇中東京バンビが上演しようとしている作品のストーリーである。

“シリアルキラー妻”の話がフィクションなら、一方は“リアルバンビ”のノンフィクション。
台本が進まなくて苦しむアダチや、
途中不安になったキャストが降りると言うのを説得しながらの稽古風景が描かれる。
そしてようやくシリアルキラーの台本は完成したが、ひどい演出に出演者が全員降板、
本番前日ついにアダチは一人ぽっちになってしまう。
ひとりで複数の役を演じながら途方に暮れていると、
そこへ戻ってきたのははやしだった・・・。

東京バンビの持ち味は、“詰めの甘さを情で補う”ところだ。
もう少し突き詰めればきれいに完結するかも、というところで
「まあ、しょうがないじゃん」「そんなこと言わずにそこを何とか」
と情に訴える(時に土下座をする)。
それは演劇論的にイマイチなのかもしれないけれど
人の弱さやダメさ加減、何よりそういう連中を放っておけない人々の気持ちが
にわかに現実味を帯びて来る。
アダチが「観に来てくれよ、ブースに席作るから」と電話をかけていた
あの相手は稲葉氏だろうと思う。
こういう所も“情で動く”バンビらしさの現われだ。

リアルバンビの稽古風景がどこまで事実なのかは解らない。
しかし、稽古途中で「アダチまでもがバックレたか」と全員蒼白になった時の
はやしのふりしぼるような叫び。
そしてラスト、戻ってきたはやしと台詞を叫ぶアダチの泣き笑い。
二人ともマジで泣いてたから、こちらもマジで泣けて仕方がなかった。
このふたりぽっちの絆こそ究極の“情で動く”バンビの個性だと思う。
この”最後感”の醸し出し方、結構上手いし
ネタとしてなら逆にしたたかさが頼もしい。

稽古風景のナンセンスはとても可笑しかったし
客演のはじけっぷりも楽しかった。
加藤美佐江さん、整った顔立ちで美人なのにあの壊れっぷりは素晴らしい。
客席の反応は”最後だから”というご祝儀だけではなかったと思う。
東京バンビ、再結成を待ってるぜ!
『グレイトフル♥ティア~ズ』

『グレイトフル♥ティア~ズ』

劇団コスモル

OFF OFFシアター(東京都)

2012/10/10 (水) ~ 2012/10/14 (日)公演終了

満足度★★★★

”Vシネ系ベタピュア”
笑いとシリアス、ベタと洗練、混在する矛盾が醸し出す不思議な空気の中で
ラストは思いがけず泣けてしまった。
何だろう、これ。
日本刀も振りまわすが、姉弟や男と女のベタな情愛もあり、という展開は
“Vシネ系ベタピュア”・・・?

ネタバレBOX

倉庫のような事務所、探偵ミカミ(石原義信)がソファで寝ている。
5年前に別れた恋人日山ゆり(奥村円佳)が夢に出て来て「ミカミくん…」と呼びかける。
目が覚めるとゆりから手紙が届き「私が死んだら死の謎を解いて」と書かれていた。
追いかけるように河川敷でゆりの死体が発見され、ミカミは捜査を開始する。
調べていくと会員制ショー・クラブ「くちべに」と、その裏のコールガール組織が浮かぶ。
ゆりは一体誰に殺されたのか、ミカミは「くちべに」に乗り込む・・・。

ミカミの夢や過去の出来事の場面では透けるようなスクリーンが下りて
そこにどでかい文字で台詞が映し出されるのがアナログで面白い。
探偵事務所の壁に冷蔵庫や黒電話が収納されているのも面白い。
すっきりコンパクトな空間でおしゃれな探偵物語が始まるかと思いきや
昔懐かしいコントのような刑事の兄(鳥飼卓司)が出て来てびっくり。

「くちべに」の主いばらを演じる作・演出で主宰の石橋和加子さんがすごい存在感。
父親から暴力を受けて育ったいばらは
その父が女と出ていった後、弟を手にかけようとした母親を殺して少年院に入った。
15歳でシャバに戻って弟と暮らし始め、
やがて政財界の大物を顧客に持つ会員制高級クラブ「くちべに」を運営するようになる。
クラブで歌い踊る一方で、人を殺めた時の記憶を失っているいばらの表情が良い。
大げさでコントのような周辺の芝居は、結果として
いばらの重い人生と姉をかばおうとするヤクザな弟一角(山内康央)、という
主軸のシリアスさを際立たせている。
姉が母親を殺した理由を知る前の一角のやり場のない憤りやいら立ちの表現に説得力があった。
いばらと共にクラブを運営している男Viper(山本光政)、最初は違和感もあったが
最後彼女の名前を呼ぶところ、優しくて哀しくてとても良かったと思う。

この姉と弟と男の情や、ミカミと一角の日本刀による殺陣などのテイストが
まさにこてこてVシネ路線な気がするのだが、私はこれが結構好きだ。
ミカミとゆり、ミカミと一角の関係がベタな演出ながらとてもピュアに感じられる。
ミカミと一角の握手の場面など、タメも長いが引っ張りも長くて歌舞伎のようなテンポだ。

ちょっと残念だったのは、ミカミがゆりの遺体を最初に見た時の反応。
忍び込んだユリの実家で、刑事の兄との対面に驚いてゆりの遺体との対面がおろそかになった。
ラスト、ミカミが目を閉じてゆりとの再会をかみしめるところが
超ベタな演出ながら何だか泣けてしまったほど良かっただけに
途中もゆりとの関係を大切にして欲しかったと思う。

ダンスはもう少しレベルアップして絞り込んだ方が効果的な気がした。
ミカミのキーボード演奏など、前後の準備が必要なものは舞台の流れをさえぎりがちだし、
役者がソファを移動させたり小道具を手渡ししてハケるところなども
演出の工夫でもっと整理できるのではないかと思った。

いばらのキャラが鍵を握る展開が面白いだけに、
ミカミと一角のひとすじの涙がより浮き彫りになるような演出に期待したい。
ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

おぼんろ

ゴベリンドン特設劇場(東京都)

2012/09/11 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

リピートの理由
毎日「ゴベリンドンの沼」を観て来た人達のコメントを読みながら
「もう一度あの空間に身を置きたい」と思うのはどうしてなのだろう。
そして千秋楽、私は再び廃工場の前に立っていた。
当日券の、最後の最後の方に並んで見切り席に座った時、
ここで34回目のステージに立つ5人のことを考えてなんだか泣きたくなった。

ゴベリンドン(高橋倫平)の慟哭と関節が外れるかと思うほどの動きが素晴らしい。
彼の「すまない…」と言いながらのたうちまわるような苦しみが
誰もが持つ弱さと死への怖れから生まれたものであるだけに、一層切なく哀しい。
この異形の者が深い共感を呼ぶのは、設定の巧みさと高橋倫平さんの演技力だろう。

今回は私の足元に照明があったこともあり、照明操作の繊細さや
音響のタイミングの完璧さも感じることが出来た。

最後のステージを終えて挨拶したらすぐ、預かった客の靴を運び、台本を販売し、
乾杯の飲み物を配る5人の動きを見ていると
何か他の公演とは違う“心地よい温度”を感じる。
5人の演技だけでなく、客席や美術や廃工場といった
芝居を取り巻く全てのものが、来る人を歓迎してくれる。
何度も足を運ぶリピーターもきっとそれを感じているのだと思う。

頬に涙の雫を描いたメイクが流れて落ちている5人の顔を見て、改めて判ったのだ。
私は今日ここへ、ただこの5人に会いたくて来たのだと──。
私はもう次の舞台を心待ちにしている。

小さなエール

小さなエール

643ノゲッツー

OFF OFFシアター(東京都)

2012/10/02 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了

満足度★★★★

変わろうとする人にエールを送る
道徳の授業みたいに“反省”し“心を入れ替える”主人公が出来過ぎの感もあるが
「じゃあどうすればいいのか」という根源的な問いに対して
作者は反論を覚悟の上でひとつのメッセージを発信していると思う。
役者が自ら操作する照明による独特の雰囲気が超現実的なシーンを和らげる。

ネタバレBOX

父親の七光りで豪邸で好き勝手に暮らし、父の愛人の娘たちを
虐待するようにこき使っていた涼太(海老根理)。
会社の経営コンサルタント(谷仲恵輔)の助言にも耳を貸さず
ついに父親は病死、会社は乗っ取られ、妹は通り魔に刺されて死んでしまう。
新しい主としてこの豪邸に乗り込んで来たのは社長令嬢で、
涼太が何度も振ってコケにしてきた娘だった。
他に生きる術を持たない涼太は、彼女に仕える身となってしまう。

ここから社長令嬢始め、こき使って来た使用人たちから
執拗な報復を受ける生活が始まる。
ほとんど昼の連ドラみたいに怨讐渦巻く環境の中で涼太は驚くべき変化を遂げる。
自分のこれまでを反省し、復讐する人々の理由も含め全てを受け容れていくのだ。
その姿は、「零落ぶりを見に来ました」とうそぶく坊主などよりよほど宗教者のようだ。

この豪邸の主の会社に、次々取り入っては潰してきたコンサルタント自身が
たった一度の買収失敗によってリストラされ落ちぶれる様は壮絶だ。
結局涼太の変化が、愛人の娘たちや社長令嬢の心にも作用して
人々はひとつずつ小さな灯りを手にしてこの屋敷を去っていく──。

こんなに真摯に反省、受容して人の心を理解できる人間が
どうして最初あんなに人を人とも思わないような扱いをしてきたのか
その変化に飛躍があり過ぎるから、違和感を覚えざるを得ない。
だが、「じゃあどうすればいいのか」という開き直ったような問いかけに
作者は直球ストレートでひとつの思いをぶつけて来る。

「いじめる人間が変わらなければ何も変わらない」
いじめられて逃げ出しても、先生に言いつけても、マスコミが騒いでも、警察が介入しても
いじめはなくならないし何も変わらない。
平然と他者の痛みを「笑う」行為は、「想像力の欠如」に他ならない。
作者はそこに気付いた涼太の苦悩を描き、彼に小さなエールを送っている。

役者が操作する小さな灯りは、過去と現在を照らし分け、個々の孤独を浮き上がらせる。
横断歩道で鳴る「ぴっぽっぴっぽ・・・」という音が終始小さく流れて
目の前の上下関係が間もなく逆転するのをカウントダウンしているようだ。
次はあの坊主が宗教法人としてこの豪邸を買い取って、いつか脱税で捕まって・・・
みたいな展開もありかもしれないと想像させる。

海老根理さんの素直な表現が、涼太の激変ぶりを“性善説”として訴えてくる。
コンサルタントの谷仲恵輔さん、少し前に芝居屋風雷坊の「今夜此処での一と殷盛り」で
探偵を演じてとても印象的だったが、
「サラリーマンの自信」が時として「想像力の欠如」から来るものだと言うことを
ブレない演技でまたまた強烈に印象付けた。

涼太の渡す小さなキャンドルが、そのまま
変わろうとする人々への小さなエールに見えた。
「人が変わる」とは、それ程に難しく苦しいものなのだ。
ことほぐ

ことほぐ

intro

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/09/29 (土) ~ 2012/10/01 (月)公演終了

満足度★★★★

おかずはないが飯はある
本来めでたいはずの妊娠を誰からも祝福してもらえない3人の女が
ひとつ屋根の下で貧乏共同生活をしている。
根拠のない希望を食い散らかして、絶望を蹴散らして
生まれて来る子どもと2人分あがきまくる女たちに、私はいつしか寄り添っていた。

ネタバレBOX

劇場へ入ると、舞台を挟んで奥と手前に向かいあうかたちで客席があった。
奥の客席へは黒い敷物の上を歩いて舞台を横切って行く。
舞台中央が3人が共同生活するアパートの部屋。

北海道の盆踊りには「子供の部」と「大人の部」があり、曲も踊りも違うのだそうだ。
隣の公園からその「子どもの部」の盆踊りが流れて来る部屋で
お腹の大きい女3人が元気に喧嘩している。
水道代として渡した2千なにがしのお金でピザを食べてしまったさとみ(のしろゆう子)を
その妹えりこ(柴田知佳)と家主である愛子(菜摘あかね)が責めているのだ。

愛子は不倫相手の子を妊娠している。
さとみはDV夫から逃げて来て別れたいと思っている。
えりこは誰の子かわからない子どもを産もうとしている。

いやー、落ち込んだり文句言ったりしながらもたくましいやね。
一環して「産むのだ」ということに迷いが無い(妊娠初期には迷ったかもしれないが
結果として産むと決めた)、後悔する発言が皆無であることはすごいと思う。

社会のせい、相手のせい、自分のせい・・・たぶん全部あるだろうが
“複合貧乏”みたいなこの状況をどう見るか、その視点によって道は決まりそうだ。
役所へねじ込むか、相手に慰謝料を要求するか、プライドを捨てるか。
3人はそのどれをもしないで「妊婦が幸せじゃないなんておかしい」と憤り、
「私たちは貧乏じゃない」と呪文のように唱えている。

多分ひとりではこの状況を受け容れられないだろう。
だから3人は喧嘩しながら、「出てけ!」とキレながら、それでも一緒に丸くなって眠る。
親切ごかしに近づいてきた隣人(加藤智之)の、“自分より下を見たかった”という告白に
ようやく誰かのせいにしている場合じゃないと目が覚めて
さとみは離婚を決意、一番行きたくなかった場所、実家へ頭を下げて戻ろうと決める。
えりこはパートナーが必要だと、自分達を下に見て喜んでいた隣人に
「この子の父親になりませんか?!」と言ってみたりして相変わらず懲りない女だ。

出演者全員の盆踊りが賑やかに繰り広げられ、ひとり、また一人と舞台を去って
愛子だけが取り残されたように佇んで終わる。
盆踊りが「子どもの部」から「大人の部」に移って、
時間の経過と地域性、妊婦たちの変化が映り込んでとても良かったと思う。
照明がまたとても繊細で効果的だった。

妊婦は皆孤独だが、救いが無いわけではない。
愛子の兄や、えりこのバイト先の上司だって優しい人達で心配してくれている。
文句言いながらもさとみの実家は助けてくれるだろう・・・。
社会を代弁するような隣人の無職男だって、水は提供してくれる。
この男を含めた4人が、おかずも無しで白いご飯を食べる場面が良かった。
米と水と、互いにあるものを持ち寄った結果の白いご飯だ。
全員丁寧に「いただきます」と箸を取って無言で食べた。
本来あるべきおかずはないが、白いご飯はあるじゃないか・・・。
切ないながら希望が見えて、何だかちょっとほっとしたのだった。

「ことほぎ」「ことほぐ」と来て、次は何だろう?
「ことほいだら・・・」どうなったのか、続きを見てみたい気がする。
中野坂上の変

中野坂上の変

小西耕一 ひとり芝居

RAFT(東京都)

2012/09/27 (木) ~ 2012/10/02 (火)公演終了

満足度★★★★★

バラエティに富んだひとり芝居
私はまだ小西さんの舞台を2本しか観たことがないが、いずれも強烈な印象を受けた。
70分とコンパクトな中で変化に富んだ5つのストーリーが展開するのが楽しい。
4人の作家が脚本を提供するだけのセンスと実力、それを受け容れる素直さが感じられる充実の舞台だった。

ネタバレBOX

初めて中野のRAFTへ行った。
段差のある客席もゆったりしていて椅子も座り心地がいい。
座席に置いてある当日パンフの中に劇場内での注意事項がもう書いてある。
たぶんすっきりと始まるに違いない。

1.「五十嵐教授の講義~僕こそ君の地球防衛軍~」 作・根元宗子(月刊「根元宗子」)
五十嵐教授は大学で「恋愛心理学」の講義をしている。
これまで何人もの女性に振られ、それから「恋愛心理学」を極めたと言う教授は、
「男としての道」を説き、それを実践していたのだが・・・。

いきなり教授の講義が始まって、その口調に少しびっくり。
こういう話し方をする小西さんを初めて観た。

2.「欲望」作・ハセガワアユム(MU)
カメラマンの男がモデルに話しかけながらシャッターを押している。
「そうそう、いいよ~。ほんとに可愛いねぇ」といかにもカメラマンらしい乗せ方。
そのうちにモデルのある発言にひどく動揺する。
彼の口から出た言葉は「10歳」「手を縛って」・・・。

怪しいでしょ、このカメラマン、アイスキャンデーとか。
でもこの“火サス”の犯人みたいなカメラマンが妙にはまってるから面白い。

3.「マジでインする5秒前」作・櫻井智也(MCR)
「よっちゃん」は始めて彼の古いアパートに来てシャワーを浴びている。
彼はそのよっちゃんに向かって話しかける。
ずっと友達で来たのに、なぜかここへ来て男女の関係になったらしい二人の
あからさまな会話が声高に続く。

個人的に一番面白かった作品。
台詞に勢いがあって、演じる人の腹の底からずるずるといろんなものが
引きずり出されてくる感じ。
若い男女には若いなりの見栄や不安や寂しさがあって、
そのコントロールにこんなに苦労するのか。
古いアパートのシャワーの水圧がこんなにもシチュエーションに彩りを添えるとは(笑)
優男の小西さんが、普通の“男っぽさ”全開なのがとても面白かった。

4.「僕の話」作・舘そらみ(ガレキの太鼓)
落語家のように座布団に正座して29歳の役者が語り始める。
夕べ人を初めて人を殺したのに平気な顔で「恋人同士の芝居」なんか出来ない・・・。

どこまで事実でどこからが創作なのか一瞬分からなくなるような、
境界線上を歩いている感じがしたのは、緊張感が伝わってくるから。
自分はいつ、どこから演じ始めるのか、24時間演じているのか、
役者さんなら誰もが持っている葛藤なのかもしれない。

5.「脚」作・小西耕一 特別出演 山田奈々子(日替わり)
モデルの女性が画家のアトリエにやって来たが、彼は脚しか見ないし脚しか描かない。
調べてみると“脚ばかり描く”有名な画家で、再びモデルの依頼が・・・。

二人芝居のこの日の相手役は山田奈々子さん。
つい先日MCRの舞台で男どもを罵っていた奈々子さん、今回は画家のモデル役。
「描く」という行為を挟んで向き合う画家とモデルは
次第に発言がストレートになり、結果的に自分自身をさらけ出していく。
そのプロセスと正直な自分を出しきった満足感みたいな表情が面白い。
脚かストッキングか、確かにそれは問題だ(笑)

暗転を挟んですっきりと進行する5つのストーリー。
役者が作品に出会うことの大切さを強く感じた。
日頃の舞台で与えられた役を演じることはもちろんだが、
「こういう役をどう演じてくれるかな」という興味や
「こういう役を演じさせて欲しい」という要求を
ひとり芝居というスタイルは実現してくれる。
役者さんにとっては大変なことだろうが、
変化と進化を同時にプッシュする強力な推進力かもしれないと思った。


新団体結成「祝賀会」

新団体結成「祝賀会」

マサ子の間男

やまがた舟唄(渋谷)(東京都)

2012/09/28 (金) ~ 2012/10/01 (月)公演終了

満足度★★★★

「温度調節は亀の下で」
居酒屋の宴会場という場所の面白さに加えて、コントとミュージカルという
”ポッキーと舟盛りがいっぺんに来てマヨネーズで食べたら結構美味しかった”みたいな感じ(?)レトロなハコに優しい男たちがよく似合う夜だった。(タイトルは出演者の発言から)

ネタバレBOX

お風呂屋さんのような入口で靴を脱いで上がり、受付を済ませて宴会場へ入ると
まー懐かしい感じの畳敷きの広間。
カラオケの画面に歌詞と映像が流れ、後は誰かがマイクを持って歌うだけという状態。
奥に大きいフィッティングルームのような半円の舞台があり、
真っ赤な緞帳が左右から閉じるようになっている。
ここで歌うのかぁ、と思って眺めながら
座布団席じゃなくて赤いスツール席にしよう、と座る。
役者さんがビールやお茶、乾き物等を売っているのでお茶を買った。
団体名を記入する紙に考えて来た名前を書き、あとはまた思いついたら書こう。

福田転球さんが言いだしっぺらしいが、合計7人男ばかりの団体である。
飲んだり食べたりしながらゆる~い感じで始まった。
今日は3部構成とのこと。

第1部は昔よくテレビで見たNHKの「てんぷく笑劇場」みたいなコント芝居。
ナンセンスから人情に移る感じの“昭和”な展開。
爆笑するほどではないが、この会場に妙にしっくりして
取り敢えず一人ひとりの役者さんを観察する。

第2部は劇場としての機材が一切無い状態での身体表現。
暗転・明転は出演者の指示で、客がまぶたを閉じたり開いたりして自分で調節する。
ストロボも客が目をしばしばさせて、スローモーションの動きを点滅させるという
何ともアナログな手法だが、これがとっても面白かった。
いつも目がちかちかするが、ストロボはこれでいいじゃんと思ってしまった。

第3部はミュージカル「居酒屋一番」。
居酒屋の宴会場でミュージカルだよ!
コレが一番面白かった。
「アメリカ人」とか、「影」とか、居酒屋一番の店長と店員たちが歌って踊る
“アカペラ”ミュージカルなのだが、妙に本物の展開を踏んでいて可笑しい。
歌、みんな結構上手だし、動きもそろってる。
「アメリカ人」の英語がまた上手いのでこれもびっくりした。

メンバー一人ひとりを検索してみたら、みなさんキャリアの長いベテランさんで
すごい経歴の持ち主なので驚いた。

福田転球・・・・吉本興業所属の俳優・演出家 「天球劇場」主宰
        客の反応を見ながらのアドリブがこなれていて安心して見ていられる。
高木稟・・・・・「転球劇場」所属の俳優 子役としてデビュー
        そうか、社長になる前は子役だったのか・・・。
松之木天辺・・・オペラシアター「こんにゃく座」や「イデビアン・クルー」に所属していた
        俳優・ダンサー
        「かえるのうた」が妙に色気があって上手かったので気になった人。
西うらしんじ・・関西の「遊気舎」に所属していた俳優
        長身で手足の長い、絶壁の持ち主、一度見たら忘れない顔。
シューレスジョー・・よしもとのピン芸人 海外青年協力隊で野球を教えにジンバブエに
          2年半行っていたことがある。
          この芸名の由来を調べたらとても興味深かった。
小林高之・・・・「THE黒帯」所属の俳優
        時代劇も出来る声よしの人。
神保良介・・・・ニナガワカンパニー・ダッシュで俳優スタート 出演作品がすごい!
        アメリカ人役の英語が上手過ぎ。

全員のプロフィールとか、顔と名前が一致するような資料を配っても良かったのでは?
私が調べた少ない情報よりずっとインパクトがあるはず。

お笑い系の人とマジな役者さんが一緒になって創るから
「笑いをとる」事にだけ固執するのとはちょっと違う舞台。
初日はまだちょっと遠慮がちだったように見えたが
“ゆるい進行”と“テンポの良い演目”でメリハリつけたらもっと盛り上がると思う。
やまがた舟唄という場所の面白さや、役者さん達の優しい対応がとても良い。
こういう場所やアドリブに鍛えられている方たちだから
回を重ねるごとに双方向で反応も良くなっていくだろう。
“シチュエーションコメディとミュージカルを足して宴会風味にした”(?)
居酒屋の新メニューを食した感じ♪
団体名が決まるのを楽しみにしています。
貧乏が顔に出る。

貧乏が顔に出る。

MCR

サンモールスタジオ(東京都)

2012/09/20 (木) ~ 2012/09/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

変わらなくちゃいけませんかね?
ああ、全くその通りだと思わせるこのタイトルに惹かれて
新宿のサンモールスタジオへ行ったのだ。
再演だそうだがなるほどMCRらしさ全開のテーマ。
「人は簡単に変わらない」「ってゆーか変わらなくちゃいけませんかね?」
という開き直りに似たスタンスがまたいい。
罵倒しながら、男たちは哀しいほど優しい。

ネタバレBOX

トイレはあるが風呂は無い…ような6畳一間のアパートの一室が舞台。
トモ(櫻井智也)、じゅんや(おがわじゅんや)、ヒロ(北川広貴)の3人は
このおんぼろアパートで一緒に暮らしている。
元々はトモの彼女が借りていた部屋で、トモは今でも出て行った彼女が忘れられない。
トモはミュージシャンになりたい賽銭泥棒で、じゅんやは深夜のコンビニ店員、
ヒロは会社をサボってばかりいる会社員だ。
トモはいつも押し入れの上段に布団を敷いて座っている。

このダメダメ3人組の生活にある日お地蔵さんがやって来る。
酔っぱらったトモが担いで来てアパートの廊下に置いたのだが、
このお地蔵さん、“人の記憶を金で買う”という
「徳」なんだか「得」なんだか解らない力を持っていたのだった。
トモは「ギターの弾き方」など次々と自分の記憶をお地蔵さんに買ってもらい、
お地蔵さんの足元に出現する現金を手にしていく。

この部屋には毎日様々な人々が訪れる。
じゅんやに自分の部屋に引っ越しておいでよ、と迫る恋人の奈々子(山田奈々子)や
トモの弟大介(三瓶大介)、大家の息子奥田(奥田洋平)、
そしてヒロの会社の同僚東谷(東谷英人)等々・・・。
そして人の良いヒロがこの同僚にあからさまに利用されていくところから
ついにあることが起こってしまう・・・。

MCRの今回の“ヤなやつ”は、会社の金を横領して
その罪を平然とヒロになすりつけようとする男だ。
極悪人でもないし特権階級でもない、私たちとさして変わらない人間が
少しだけ要領が悪くて根性が足りなくて甲斐性がない人間を
徹底的に下に見て利用する、しかもそれを「当然でしょ?」とうそぶく。
MCRの芝居を観ると、このフツーの人間ほどたちが悪いものはないことに気づかされる。

櫻井智也の書く罵詈雑言満載の台詞には、
「てめえだって俺らと大して変わらねぇくせしやがって偉そーに…」という
人を見下す輩に対する憎悪に近い感情があって
そこに私は毎回否が応でも共鳴してしまう。

次から次へとお地蔵さんに記憶を売ってしまうトモの行為は
荒唐無稽なようで実は私たちに“価値観”を問うてくる。
車の運転、ギターの弾き方、自分の名前、かつての彼女…。
「それ、要るのか要らないのか?」

お地蔵さんの足元に出現する金額にも笑ってしまう。
トモが自分の名前を売って、20円持って戻ってくるのが可笑しい。
金額はあくまで“自分にとってどれくらい大切か”ということで
彼にとって名前なんてどーでも良かったということだ。

みんなに迷惑をかけたくないと極端な行為に出て
結局自分が怪我をしてしまったヒロ。
ヒロのことだから、この先ずっと何かにつけて謝りながら生活するだろう。
そのヒロの記憶を売ってしまって「気にするな、俺は全然覚えてないから」という
トモ流の究極の友情に、何だか泣きそうになった。
初対面のようにまたヒロと再会したトモが「お前、面白いな」と受け容れた時
また3人の共同生活が始まることが、私は心底嬉しかった。
じゅんやもいずれ戻ると思うし(笑)

貧乏も顔に出るが、金の使い方も顔に出る、優越感も顔に出る。
そんなことを思った舞台だった。
ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

おぼんろ

ゴベリンドン特設劇場(東京都)

2012/09/11 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

立ち上がるキャラクター
主宰の末原拓馬がきれいな顔で情熱的に語るから
その青いパッションに惹かれて人が集まるような印象があったが、
それは大きな誤解だった。
5人の役者の一人ひとりが創り込む登場人物が何と魅力的なことだろう。
廃工場のシャッターの内側は、痛みを伴う大人のファンタジーの世界だった。

ネタバレBOX

廃工場の中が丸ごと物語りの世界になっている。
廃材を利用したという飾り付けも、役者の衣装も、
観る者を架空のその国へと惹き込む。
悲劇に悲劇が重なるようなストーリーの根幹にあるのは
人間の尽きることのない欲望と孤独を怖れる気持ち、
そして大切な誰かを守ろうとする、身勝手なほどの愛情だろうか。

役者がそこにいるだけで、一人ひとりのキャラクターが立上がって来る。
ゴベリンドンを演じた高橋倫平さん、高い身体能力を生かした
縦横無尽の動きが魔物の孤独と哀しみを一層引き立てている。
“死ねない運命”にもがき苦しむゴベリンドンの慟哭が
びんびん伝わって来て素晴らしい。

死体洗いの老婆ザビイを演じたさひがしジュンペイさん、
欲の塊のようなこの老婆は、金品も欲しいが
実は人々から一目置かれたくて仕方がないという
孤独の裏返しのような欲求にまみれている。
その観るもの誰にでもある俗っぽい気持ちを
見透かすような台詞に魅せられる。

二人の叔母メグミを演じたわかばやしめぐみさん、
この人のちょっとハスキーなアルトの声は本当に魅力的。
“沼の声”として歌う所もミステリアスな感じが素敵だし、
ちっちゃな顔で、紅一点の華やかさと母親の温かさを両方表現できる人だ。

兄のトシモリ演じた藤井としもりさん、
この人の表情や瞳は何か哲学的なものを感じさせる。
魔物を恨みながらも、その魔物と契約してしまった自分を
激しく責める気持ちがどこかあきらめに似た表情ににじんでいて
凄惨な行為に走る心理に説得力を与えている。

作・演出で弟タクマを演じ末原拓馬さん、
まずこの世界観を一から作り上げたことがすごいと思う。
ゴベリンドンの森、沼、伝説と俗世がクロスするエピソード、
これらを目に見えるかたちにしたのがあの廃工場だ。
純なタクマがどれほど悲しかったか計りしれないが、
それでも大好きな兄を一人にはしないというラスト、
小さな希望の芽を残したところに救いがあって温かい気持ちになった。
幼さの残るタクマが少しずつ大人になっていくところがとても良かった。

気温が下がったことに加えて扇風機もあり、劇場は大変快適だった。
ビールケースの椅子にぷちぷちの座布団がこれまたとても良かった。
360度スムースに向きを変えて観ることができる。
都心のヘンな客席の劇場に持ち込みたいくらいだ。

末原拓馬さんの前説に情熱は感じるが、
始まりは一気に物語りに入った方が効果的かもしれないと思った。
この廃工場へ足を踏み入れた瞬間、
私たちは物語りの世界に引きずり込まれる。
この劇場にはそれだけの力があるし、
観客の想像力をもう少し信じても良いと思う。
もちろん終演後にいろんな話が聞けるのはとても楽しい。
5人の努力の賜物である特設劇場、
こういう空間でいつでもロングランできたら本当にいいね!
エッグ

エッグ

NODA・MAP

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

ふかっちゃんパワフル
まず新生プレイハウスの空間がとても魅力的。
鉄板の顔ぶれで挑む思いがけないテーマと、椎名林檎の歌が効果的な舞台。
仲村トオルの声が良いし、妻夫木聡の明るく真摯なキャラが存分に生きる。
深津絵里の(歌も含めて)細い体からは想像も出来ないほどの存在感が印象に残った。

ネタバレBOX

卵の殻を割らずに白身と黄身を取り出すというほとんど冗談みたいな
「エッグ」というスポーツに国民は熱狂している。
オリンピックの正式種目になったら参加するのだと
リーダー格の円谷(仲村トオル)を中心にチームは日々練習に明け暮れている。
舞台はチームのロッカールームで、長方形の白いロッカーが並び
時にはそれがドアになって人々はそこから出入りする。
この整然と自在に移動するロッカーによる空間の仕切り方が秀逸。

新入りメンバーのアベ(妻夫木聡)はやる気満々、
彼は新しい手法でチームに勝利をもたらし一躍花形選手になる。
アベはチームのオーナー夫妻の娘でシンガーソングライターのいちごいちえ(深津絵里)と政略結婚、
彼は純粋に妻を愛するが、妻は円谷さんが好きだったのに…と夫を無視する。

やがてこの時代設定が第二次世界大戦中の満州であることが明らかになってから
文字通り卵はある方向へと転がり始める。

スポーツである「エッグ」の技術は細菌兵器に応用され、人体実験へとつながっていく。
日本の敗戦が決まるとオーナー夫妻によって責任は全てアベに押し付けられ、
彼は細菌を植えつけられて満州に置き去りにされる。
そこで初めて「誰からも愛されなかった」夫をひとりに出来ないといちごは駆け戻って来る。
そして夫の車椅子に寄り添った時、爆撃に遭って夫と運命を共にする──。

作・演出の野田秀樹の、「誰もやらないからボクがやる」的な挑戦は評価したいと思う。
前半は野田秀樹自らの劇場改修ネタも含めてコメディタッチ。
「演劇はおもしろくあるべき」(特別号外インタビューより)というポリシーのせいか
後半のシリアスな部分の比重が少なくかけ足の印象が否めない。
暗い歴史である「丸太」の人体実験を扱うのに、ラスト近く雪崩のような描き方で
オチはしっかり社会問題にしてみました、みたいな感じ。
演出自体はストレッチャーや白いカーテン、ビニールのような透明シート等を使ったりして
シリアスな展開にふさわしい緊張感があってとても良かったと思う。

野田秀樹自身、井上ひさしやつかこうへい、寺山修司の各氏に対する
オマージュがあると語っているが、(前出のインタビュー)
井上ひさしならもっと正面からどかんと扱う気がするなぁ。
遠慮がちにぼかしたり、ささっと足早に通り過ぎる所が
スタイリッシュに傾いていて、説得力という点では若干弱い印象を受けた。 

ラスト、孤独なアベの元へ戻って来たいちごの行動にちょっと飛躍があり過ぎて
もう少しその前から気持ちの変化とか無かったのかなと思った。
4年間の結婚生活で、一方的に愛され大切にされてきたいちごの心情が
どこかで動いていたからこそ、ラストあの行動に結びついたのだと言う気がするから。

難しい椎名林檎の歌を、深津絵里は我儘アイドルのキャラでよく歌ったと思う。
声も良いし音域も広いが、いかんせん歌が難しくて生歌は気の毒。
エンディングに流れたのはCDらしいが、それはとても上手かった。
椎名林檎本人かと思っちゃった。

奥行きのある舞台を使って出演者みんな手前から奥へよく走り、舞台全体がダイナミック。
アンサンブルの動きに勢いと力強さがあって爽快感があり、
後半の満州を追われるスローモーションのシーンでは溜めた動きに心情がこもっていた。
橋爪功は大好きな役者さんのひとりだが、小悪党みたいな役をやると何とはまるんだろう。
ひびのこづえさんの衣装もシンプルで美しく、秋山菜津子と深津絵里はとても素敵だった。


A HALF CENTURY BOY

A HALF CENTURY BOY

久ヶ沢牛乳

本多劇場(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★

ふーん・・・
久ヶ沢徹さんはSET所属の俳優・ナレーターということで50歳。
身長180㎝のガタイのいい人らしい。
でも全然知らなかった・・・。
だけど岩井秀人とケラリーノ・サンドロヴィッチが本を提供するんだから
”この役者にこれをやらせたい”と思わせる俳優さんなのだろうと期待して出かけた。

会場は熱心な女性ファンでいっぱい。
そして始まってみれば、まあ先回りするようによく笑うこと笑うこと。
そりゃ面白いですよ。
小宮孝泰、いしのようこ等達者な人が出てるしギャグは外れがない。
でもそんなに壊れたように笑うのは、かえって異様な感じがする。
身内ならではのネタには温度差を感じざるを得ない。

どのパートをどの作家が担当したのかがわからないのが残念だった。
岩井さんはこれかな、ケラさんはここかしら、と考える楽しみはあるにしても
久ヶ沢徹という俳優の魅力を引き出す為に複数の作家が本を提供するというのとは違う。
彼の半生記におけるいくつかのエピソードを脚色するに留まっている気がした。
”誰が書いても久ヶ沢徹の半生記”なら、逆にどうしてこの脚本家がそろったのか
どうして日替わりゲストに谷原章介とかが来るのか、
しろうとさんが楽しめるような裏話を聞かせて欲しかったなあ。

ふーん、本多でこういうのもやるんだって感じ。
久ヶ沢徹ファンクラブ向けイベント、
目的の違ういちげんさんにはついて行けないものであった。

勉強不足でどーもすいません。

ルルドの森

ルルドの森

バンタムクラスステージ

コア・いけぶくろ(旧豊島区民センタ-)(東京都)

2012/09/07 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

生きている古代信仰
パイプ椅子と折りたたみテーブル、それに何枚かの布を使っただけのセットで
取調室からホテルの部屋、凄惨な犯行現場や司法解剖室まで自在に魅せる。
猟奇的殺人事件の謎解きと、人の心理の不可解さ満載の舞台。
息もつかせぬ緊張感のうちに事件は起こり、銃声が響き、犯人は笑った・・・。

ネタバレBOX

昔中学校の体育館の舞台はこんなだったっけ、と思いながら席に着いた。
校長先生が卒業証書を渡すようなひときわ高い舞台。
セットも何もなくて奥にパイプ椅子が見える。

事件はもう6件起きている。
いずれも遺体の一部、脳や肝臓などがきれいに持ち去られている猟奇的殺人だ。
そして7件目が発生する。
犯人は同一犯なのか、それとも別の人物か・・・。
事件を追う捜査本部のメンバーたちが関係者に当たるうち
昔カルト的人気を誇ったテレビ番組「ルルドの森」と
その主演女優菱見玲子(山本香織)に行きつく。
捜査官三島(福地教光)と黒船(早川丈二)は知らず知らず
次第に危険な森へと足を踏み入れて行く──。

最初から最後まで全く緊張感が途切れることなくストーリーにひき込まれた。
犯人と思しき人物は一人ではないし、捜査官も含めて登場人物の背景も複雑だ。
クールなようだが、犯人に対しては自分をコントロール出来ない三島がいい。
よくある刑事物とは一線を画すキャラクターがとても魅力的だ。
引退した女優菱見玲子がいかにもそれらしい美しさと貫禄を備え、
重大な秘密を抱えて悩むギャップが鮮やかだった。

この劇団はいつもそうらしいが、暗転がなく
場面転換を全て観客に見せながら行う。
役者がハケる時に椅子を持って行ったりするのだが
整然と静かに、黒子になったように、スピーディーで違和感がない。
セットがほとんど無い舞台をリアルに見せるのは音響の力もあると思う。
何度かある銃声など完ぺきなタイミングで素晴らしかった。
もうひとつ、照明による仏壇の表現などに工夫があって
こういう方法もあるのかと感心した。

それにしてもこの劇場(?)はちょっと気の毒だと思う。
下北沢辺り(他をよく知らないので取り敢えず挙げている)の
コンパクトな小劇場でやったらもっと濃密で張りつめた舞台になると思う。
そういう所でぜひまた観てみたい作品。
来年は本拠地を関西から東京に移すと言うバンタムクラスステージ。
ぜひぜひ東京でがんがんやって欲しい。
ダークなクライムサスペンス、サイコホラーなど、脚本が大変かもしれないが
笑いに頼らず無駄のない台詞とテンポの良いストーリー展開は素晴らしい。
このテイスト、笑いに転びがちな若手の小劇場系劇団とは一味も二味も違う。

私もキーワードとなった「金枝篇」を読んでみたい。
そして福地教光さん、素敵でした。
絶対また観に行きます!
眠れるホテルの羊たち

眠れるホテルの羊たち

株式会社Legs&Loins

Geki地下Liberty(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

洗練された空間
様々な理由で眠れなくなった人々が集まる癒しのホテル。
眠れないほど苦しくて、受け容れられなくて、寂しい人々にも
いろんな出来事が起こって少しずつ変化して行く。
ベタな展開と解っていながらラストはやっぱり泣いちゃった。

ネタバレBOX

開演20分前、少し暗い舞台にはもう出演者がいて話したり笑ったりしている。
中央奥にはホテルの受付カウンター、その手前に大きなソファ、
上手と下手には客室がある。
セットがシックで、スケルトンの客室の黒い枠や、そこにつけられた小さな照明が素敵だ。
前説にも出て来る白と黒の羊の衣装がかわいい。

ここは自殺の名所である樹海にほど近いホテル。
滞在費1カ月50万円には、1日2食と睡眠薬の処方がついている。
宿泊客は「自殺しないこと」を約束してチェックインする。
このホテルにある日一人の青年がやって来る。
彼にはある目的があり、それはオーナー夫妻に関わることだった・・・。

冒頭ソファに座って羊を数える少年ヒカル役の宮内彗人君はまだ11歳だという。(がんばって舞台にいっぱい出てね)
彼の母親はこのホテルにヒカルを置き去りにしたまま行方不明だ。
ヒカルは母親が見つかるのを待っている。

オーナー(新里哲太郎)は睡眠薬の代わりに切れ目なく酒を飲んでいる。
妻の深月(深華)はホテルを切り盛りしながらも常に優しく美しい。

元アイドルやヤクザ、ゲイの男(女?)、ギターをかき鳴らすナルコレプシーの男など
皆薬に頼って眠りにつくが、気をつけないと自殺を図る者が出る。
互いの気配を気にしながら、ここでは生きることが少し楽になるように見える。

青年メリノ役の梶原拓人さんがピュアでとても魅力的。
オーナー役新里哲太郎さん、飲んだくれる理由に説得力があり切なさ全開。
妻役の深華さん、美しく雰囲気抜群なのに台詞を噛んだのが惜しい!
サソリのジョー役の宮下貴浩さん、クールなヤクザがとても素敵だった。

人を救い、癒す空間の演出が巧みでいいホテルだなあと思わせる。
彼らが必要としているのは実は睡眠薬ではなくて、この空間、この人間関係だ。
最後、オーナーが傷ついたヒカルを抱きしめるところで
ベタな展開にやっぱり泣けたのは“ここにいれば大丈夫”という確信が嬉しかったから。

ギターがもっと本編の内容に絡んだら効果が集中するような気がした。
ライブのようにBGMとして演奏するとか、効果音的に入れるとか。
ただかき鳴らすだけではもったいないと思う。

役者さん達が、最後眠った場面から、一人二人ずつ起き上がって挨拶、
舞台を降りて去っていく終わり方にもセンスが感じられた。
居酒屋ベースボール、ホームページもクールなイメージだったが
その舞台もまた、洗練されたテイストが随所に感じられる劇団だった。















ナイアガラ

ナイアガラ

劇団HOBO

駅前劇場(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/10 (月)公演終了

満足度★★★★★

シリーズ化して欲しい
新宿中央公園に暮らすホームレスたちを描くほろ苦ストーリー。
“脇役体質の役者が全員脇役に徹する”とどうなるのかと思ったら
“ちゃんと舞台で会話する”とこんなに面白いということを見せてくれた。
厳選された台詞とそれを租借する役者の力、意外に(?)洒落た演出で
笑いながら、この笑いは久々の上質な笑いだと思った。

ネタバレBOX

奥行きのある舞台、ブルーシートの小屋が建っているので
ホームレスの話かと予想する。

暗転の後、座っている老人の見事な老けっぷりにびっくりした。
この山さん(喰始)、度々失禁するが、哲学的な発言で皆の尊敬を集めるインテリじいさんだ。
口元の衰えなどが自然で、喰始さんってこんなよぼよぼだったっけ?と思うほど。
この山さんを、口は悪いが親身になって世話する元建設会社社長のクマ(省吾)や
元床屋の拓(本間剛)、手癖の悪いのが玉にキズのガンちゃん(西條義将)、
最近仲間に加わった、リストラされた谷田貝(おかやまはじめ)など
ユニークな面々がそろっている。
ルポライターだという川本(古川悦史)も毎日のように通って一緒に飲んでいる。
彼らを束ねるのが、役所や支援団体・ヤクザとも“ナシをつける”社長(林和義)だ。
彼のさばき方が実に気持ちよく、それは距離感の保ち方が上手いからだと解る。
ここの住人の、互いの尊厳を大切にしながらさらりと協力し合う姿が実に良い。
普通の人のようにスーツ着て日銭稼ぎの仕事に行ったりするが
やはりどこか“ドロップアウトした人間”の哀しみと日陰感が漂う。

──この世には3種類の人間がいる。
   敵と味方と無関心だ。

──暑さ寒さも空腹も工夫すれば何とかなるが、
   孤独だけはどうしようもない。
   だから人との関係だけは断ち切ってはいけない。

山さんの言葉をみんな噛みしめていて、
初めて野宿しようと公園にやって来る挙動不審な人に
さりげなくかける言葉や眼差しにその気持ちがあふれている。

脇役体質がそろうと何が違うのだろう、と思っていたが
相手の台詞を受ける芝居がこんなに会話を面白くするのかと目から鱗の体験。
かしわ手の場面とか、酔っぱらって同じ話をする件など爆笑もの。
アドリブなんだか綿密な演出なんだかか分からないけど可笑しさ全開。

ここから抜け出して行く者、故郷へ帰る者、フクシマへ稼ぎに行く者、
そしてそっと一生を終える者・・・。
様々な人を見送って一人公園に残った谷田貝が、新入りに声をかける場面。
その労わるようなさりげなさは、かつて自分がしてもらったことそのままだ。
この終わり方が力んでなくて秀逸。
台詞と言いこの終わり方と言い、すごく洗練されていてある意味洒落た演出だと思う。
これ、「ナイアガラシリーズ」にならないかなあ、
毎回変なおじさんが出て来て、みんないろんな人生があって面白そうだと思った。

本編ではないが、劇団HOBO ホームページの「予告CM」がめちゃめちゃ笑える。
喰始さんの「森の熊さんを詩吟でやります」って可笑し過ぎでしょ。

力で押すのではなく、受ける芝居ってこういうことなのかと再認識した舞台。
この台詞、この会話、私にとって絶対次も観たい劇団となった。

このページのQRコードです。

拡大