すべての夜は朝へと向かう 公演情報 劇団競泳水着「すべての夜は朝へと向かう」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    そして人は朝を待つ
    特別な事件は起こらないが、リアルでありながら厳選された台詞と構成が素晴らしく、
    群像劇の登場人物がそれぞれ丁寧に描かれて“おまけのキャラ”なんてひとりもいない。
    ”芝居のリアル”の面白さを堪能させてくれる作・演出が秀逸。
    泣くような話じゃないのに、ラスト何だか涙が出て来た・・・。

    ネタバレBOX

    舞台は上下2つの空間に分かれている。
    それぞれにソファとテーブル、上は元予備校教師修(武子太郎)の部屋で
    下は神田夫妻(根津茂尚・細野今日子)の部屋だ。

    冒頭、修が登場して自分の恋愛顛末を一人称で語り始める。
    予備校講師だったとき、生徒の高校生千晴(相楽樹)と交際して振られ、
    別に職場にバレたわけではなかったが、結局予備校を辞めてしまった。
    今はバーテンとして働いている。
    高校生千晴の姉が、下の空間の妻・神田真希だ。

    修の部屋に飲みに来た予備校講師仲間4人それぞれの恋愛模様と
    神田夫妻の静かなすれ違い生活が描かれる。

    妻の心を知りたくて友人に「妻を誘って反応を教えて欲しい」と持ちかける夫、
    彼の妻に近づきながら次第に心惹かれていく男、
    年下の彼氏に執着し過ぎて振られる女、
    喧嘩しないと本心が伝えられないカップル、
    ひと回りも年下の男の子から告白される女・・・等々
    みんなすんなり転がらない恋に悩んでいる。

    上野友之さんの脚本・演出は奇をてらったものではないし、大事件も起こらない。
    でも登場人物の心の揺れが水のように沁み込んで来て深く共感してしまう。
    照明の効果でテンポ良く場面が切り替わって、次のカップルに焦点が当たるという構成。
    一人ひとりに丁寧に添うような無駄のない台詞と自然な仕草。
    ヘタな役者なら退屈になりかねないところだが、皆見事にはまって生き生きとしている。
    客は“不自然”に敏感だし、リアル過ぎると余計なものまでついて来る。
    “芝居のリアル”は日常から普遍性を抽出したものであると思うが、そこの加減が絶妙。

    元予備校講師修を演じた武子太郎(たけしたろう)さん、
    艶のある声で、でも張り過ぎず、不思議な色気のある人だ。
    どこかで聴いた声だと思ったらサイバー・サイコロジックの「掏摸」に出ていらした。
    その時は役の特殊性もあってあまり入り込めなかったのだが
    今回どこにでもいる普通の男という逆に難しい役を自然に繊細に演じて素晴らしい。

    つきあっている年上の女に別れを告げ、ひとまわりも年上の女性に告白する
    元ひきこもりの青年を演じた大柿友哉さん、ストーカーめいた行為に辟易しつつ
    勇気を振り絞って別れを告げるところ、ひきこもりだったというコンプレックス、
    それらがとても素直に伝わってきて、東京駅での告白に“朝”が来たことを感じさせる。

    高校生役の相良樹さん、恋の意味は良く分かっていなくても、
    姉夫婦の不和は微妙に感じ取る繊細さを持つ千晴を自然に演じている。
    制服の高校生を演じると妙に力が入る役者さんを見かけるが、千晴の適度な脱力感が超リアル。

    終盤、千晴と修は街で偶然再会するのだが
    千晴が立ち去った後、修は「本当に好きだったんだ」とつぶやく。
    その短い言葉に、千晴より大人で“執着”や“替え難さ”を覚えた男の哀しみが溢れていて
    せつなくて泣きそうになった。

    「明けない夜はない」けれど、時に「明けても夜のままの人生」はある。
    それでも私たちは「朝」を信じて眠りにつく。
    その繰り返しの中でちょっと立ち止まって考えさせる舞台だった。
    「朝」って、きちんと向き合わないと訪れないものなんだね。

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    2012/12/16 11:26

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