行方不明 公演情報 ブラジル「行方不明」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    櫻井は櫻井
    MCRの櫻井智也が主演、客演する彼を観るのは初めてだ。
    いつもは自分が書いた台詞を喋る彼が
    人の書いた作品をどんな風に演じるのか興味もあって楽しみに出かけた。
    スーツの櫻井智也も初めてだったが、いつもの“あの感じ”があって嬉しくなった。
    私はなんでこんなにこの人の台詞が好きなんだろう?

    ネタバレBOX

    舞台は数段の階段で、上と下とのスペースに分かれている。
    ここを行き来することで場面転換したり、遠く離れた相手との距離を表したりする。
    全体が黒っぽく色彩の無い舞台。

    年下の上司から理不尽ないじめを受けながら新しい職場で働く小野(櫻井智也)。
    生まれて来る子どもの為にも我慢しようとするが、ある日とうとうキレて会社を辞める。
    家に帰れば妻(幸田尚子)の不倫現場に出くわし、離婚を切り出される始末。

    途方に暮れて数日前に電話をくれた友人手塚(諌山幸治)に電話してみたが通じない。
    彼の住む高知県へ飛び不動産会社の家を訪れると、5日前から行方不明だという。
    彼の妻はどうやら若い従業員と怪しい仲。
    手塚が通っていたという喫茶店のマスターと共に彼の足取りを追う小野は、行く先々で彼に関する信じがたい話を耳にする。
    どうも手塚は、小野の知っている手塚ではなくなってしまったらしい。
    かつて、小野がとった行動が原因で手塚は自殺未遂を起こした。
    そのことも行方不明の原因の一つではないか…と必死になっていく小野。
    やがて小野は、人を食うという“牛鬼伝説”が伝わるこの地で
    信じられないような光景を目にする・・・。

    冒頭、手塚が小野に電話して来る場面の会話にもう引きこまれる。
    男同士の“久しぶり”な会話が、どうにも妙な距離を置いているように見える。
    あとになって、ある重大な出来事が二人の距離を決定的なものにしたのだと判るのだが
    さりげなく、だが確実に違和感を覚えさせる櫻井智也の会話が上手い。

    この人の台詞はいつもドロップアウトした人の目を感じさせる。
    ──俺もたいしたことねーけどよ、てめぇのそれは人としてどーなんだ?
    という開き直った怒りがにじんでいる。
    それが今の世の中で結構真っ当だったりする。

    もうひとつ、櫻井智也の演じるキャラクターは他人に執着しない。
    罵詈雑言は立て板に水だが、自分については多くを語らない。
    自分の中ではぐだぐだでも、他者に対してはあきらめがよい。
    そもそも期待していないからかもしれないが、そこが彼の“優しさ”のような気がする。

    MCRの“櫻井語”がこの作品にも自然に出ていて
    あてがきとしか思えない台詞は生き生きとしている。
    ぶっきらぼうだが、拭えない後悔を一生引きずって行く小野は
    手塚の変化を受け容れられないし、責任も感じている。
    理解できない友人の幸せを、それでも祈って止まない。

    ブラジリィー・アン・山田さんの本は、
    この櫻井智也の個性を100%活かしていると思う。
    品の良いエロとあっけらかんとしたグロ、
    ブラックでシュール、全てのバランスがとても良い。
    ぼかさないグロさはカラッとしていて不快感もない。
    指先を切るシーンより、首がすっ飛ぶシーンの方が
    非現実的で生々しさが無いものだ。

    櫻井智也の周囲を夢とも現実ともつかないキャラクターが往来し
    牛鬼の存在を浮かび上がらせる。
    片腕の工場長、犬の不動産屋、外国人労働者・・・。
    外国人労働者は面白いが、少し長さを感じたところもあった。

    不倫妻の色気と牛鬼の凄み、両方を自在に演じる幸田尚子さんが素敵だ。
    ブラックドレスで平然と男の首を絞める怪力の持ち主を軽やかに演じている。

    びっくりするような展開はすべて妄想の中だったのか。
    ひとりになって思うことはやはり死んだ友人のことだったのか。

    夢と現実の境界線も曖昧なまま、別れた元妻が幸せそうなのを見かけて
    小さく笑って立ち去る男。
    いつになくスーツで出ずっぱりの櫻井智也が、えらくカッコよかった。
    私は桜井智也の乾いた声が好きなのだと改めて気付いた舞台だった。

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    2012/11/22 02:43

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