うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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眠る羊

眠る羊

十七戦地

LIFT(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

奢る平家
「国民の理解を得て比良坂家を守るため」平易な言葉を使って
証人喚問のリハーサルをするものだから、政治の話が大変解り易くなった。
国を守ると言いながら、守りたいのは一族とその立場、プライド、既得権。
過去作品のようなダイナミックな展開や大胆なファンタジー要素は薄れたが
その分現実とリンクして“多分絶対あるある”的なリアリティが色濃く漂う。
キャラの立った一族に加えて有能な秘書達が事態を引っ張るのが面白く
過去の経緯はともかくラスト次男の選択は、潔くて清々しい。
このラストは作者の理想・ファンタジーか、国の行方を託すひとすじの光か。
それにしてもスペース、テーマ、人数など、敢えて難しい制限をかけた中での
この設定と会話の緊張感は素晴らしい。
また意外なキャスティングで役者の新たな面を見事に引き出している。

ネタバレBOX

証人喚問を控えた与党国防部会の衆議院議員が、想定問答集を元にリハーサルを行う。
亡き父の後を継いで国防一族である3人の息子たちはそれぞれ要職についているが
今や3人とも不正疑惑の渦中にあり、次男である議員はその釈明を求められている。
リハーサルには3人のほか、母親、議員の妻、秘書3人、左翼系の妹、
そして彼らが身を寄せているこのギャラリーのオーナーで亡き父の秘書兼愛人の女性。
リハーサルが進む中新事実が次々と発覚し、事態は予想しなかった方向へと動き出す。
次男は、最終決断を迫られる。
「調査中」と逃げるか、認めて謝罪するか…。

まずこの証人喚問をエンタメ化するという設定が素晴らしい。
そもそも一般人とかけ離れたモラルや金銭感覚で動く政治家や官僚という存在に
滑稽さを見いだすところがユニークかつ鋭い。
証人喚問というショーの演出を練る舞台裏を暴く面白さが秀逸。

柳井作品には珍しく笑いをもたらしているのも、この“存在の滑稽さ”だ。
へそでも見なくちゃ頭を下げることができない、ボクが国を守り動かすと決心している、
親切な人からすぐ金を借りる、自分が正しいとマジで信じている、人の話を聞かない、
最後はやっぱり金がモノを言う、バレなければ大抵のことは大丈夫…etc.
といった生態が現実とリンクし、その既視感が可笑しい。

キャラの設定にメリハリがあるのも魅力的。
いつも沈着冷静でクールな役が多かった北川さんが
傲慢で横柄で「殺してやる!」とか言う次男の与党議員を演じるのが大変楽しい。
意外に凶暴な役とか似合いそう。
防衛省装備施設本部調達課にいながら軍需商社から平気で金を借りる
オペラ狂いの長男を演じた澤口渉さん、
“小役人のぼんくら”と言われる屈折を
軽いノリでやり過ごそうとあがく様が情けなさ全開で印象的。

困った3兄弟とは対照的に彼らを支える秘書たちは非常に優秀で、そこもまたリアルだ。
“素朴な人”でなく立板に水みたいな秘書を演じた真田雅隆さん、
都会的なキレの良い台詞がリハーサルを牽引して魅力的だった。
結果的にリハーサルをリードした、亡き父の秘書兼愛人美咲を演じた植木希実子さん、
冷静に状況判断をしながら重大な決断をさせる、理知的なキャラがぴたりとはまる。

ダメダメ一族を描きながら、作者はどこか一縷の望みを託しているように見える。
左翼寄りの妹礼子が、最後レコーダーを受け取らず美咲に委ねるところ、
一族の失脚を前にどこか明るい兄弟たち、
潔くバッジを外す決断をした次男も、最後は屈託のある美咲に対して本音で向き合う。
柳井氏の“絶望しないために必要なファンタジー”を感じた。

柳井氏のtwitterを見るといつも、リラックスした自虐ネタに笑いつつも
「制限の中で印象的なメッセージを効果的に発信する」という作家としての言葉を感じる。
それは単なるつぶやきというレベルを超えていて
この瞬発力とクオリティが戯曲の核になっているような気がする。



かもめ~21世紀になり全面化しつつある中二病は何によって癒されるのか、あるいはついに癒しえないのか、に関する一考察~

かもめ~21世紀になり全面化しつつある中二病は何によって癒されるのか、あるいはついに癒しえないのか、に関する一考察~

アロッタファジャイナ

ギャラリーLE DECO(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★

中二病なう
Aチーム観劇。
自意識、自己愛の突出する思春期を指す“中二病”という視点が新鮮。
登場人物を3組のカップルにしぼり、それぞれ“中二病なう”、“中二病こじらせ型”
“中二病達人”の3様を鮮やかに見せる。
15歳の宇野愛海さんが初々しく、まさに中二病現在進行形かと思わせるあたり
計算された演出ともとれるが、リアルにみずみずしい舞台となった。
その反面、若さゆえか浅さも見られたが、第4幕最後のニーナは熱演だった。

ネタバレBOX

演技スペースを3方から客席が囲んでいる。
コンクリートむき出しの床に白い布で覆われたソファ、同じく小さな椅子、
客席横の階段手すりも白い紙でくるまれている。

古い形式を否定し、新しい演劇を創るのだと息巻くトレープレフ(内田明)。
大女優アルカージナ(辻しのぶ)を母に持ち、
その愛人は人気作家のトリゴーリン(石原尚大)である。
若く美しいニーナ(宇野愛海)を主役にトレープレフは新作を披露するが
母はハナから小馬鹿にしてまともに観ようともしない。
愛するニーナもトリゴーリンに奪われ、トレープレフは屈辱と怒りと憎しみに狂う。
トレープレフを愛するマーシャ(香元雅妃)は、思いを断ち切るように
自分を思い続けてくれたメドヴェージェンコ(宮本行)と結婚する。
4年後に弄ばれたかもめが帰ってきた時、絶望したトレープレフは拳銃自殺する…。

という昼メロみたいな「かもめ」だが
登場人物が3組のカップルだけというシンプルな作りで骨格がくっきりした感じ。
「中二病にでもならなきゃ恋愛なんてできないぜ」というメッセージが
込められていたかどうかは不明だが、
臆病かストーカーかという極端なケースに走りがちな昨今の恋愛事情とは裏腹に
“恋愛コミュニケーションとその手腕”を観た思いがする。

トレープレフとニーナ 「中二病なう」
まだ自分を客観視出来ない、実力も把握していないにもかかわらず
他人の才能を批判することだけはいっちょ前なトレープレフ。
ちょっと自分を悲劇のヒーローにし過ぎている嫌いはあるが
マザコン全開でわからんじんの草食系っぽさが良く出ていたと思う。
ニーナ演じる宇野さんがリアルタイムで経験値の少ない方だから
そこはリアルなのだが、素で勝負するには他が濃いだけにちょっと弱いかな。
4幕で村に戻って来た所は頑張っていたけど、今15歳の宇野さんが
もう少し大人になった時の崩れたニーナを観てみたいと思った。

マーシャとメドヴェージェンコ 「中二病こじらせ型」
自分の事は解っているつもりで、実は解っていない中途半端なお年頃。
頭で解って行動しても、気持ちがついて行かなくて空中分解するマーシャと
全部解って結婚したくせにやっぱりそれじゃいやだよう、と
トレープレフにあたり散らすメドヴェージェンコの仮面夫婦が上手い。
感情表現がさらりとした手触りのマーシャに対して
ねちねち陰湿で嫌味なメドヴェージェンコの組み合わせも良いバランス。

アルカージナとトリゴーリン 「中二病達人」
つまりは相手を翻弄するようになって初めて一人前なのだという貫禄のカップル。
欲しい物は馬乗りになって首絞めんばかりになってでも引き留める女王様。
彼女の言いなりになっているようで実はちゃっかり若いニーナもモノにするおじさん。
飽きたら捨ててまた女王様の元へ戻るあたり、大したもんださすがちょい悪オヤジ。
いい年して、ここぞと言う時には中二病を引っ張り出して己を鼓舞し、
純粋な情熱と言う名の下に好き放題しちゃう都合のよいカンフル剤として使う。
若いもんが敵うわけないわ。

という大人への階段がとても良く俯瞰出来て大変面白かった。
中二病の克服には恋の挫折と恋の成就、きっと両方必要なのかもしれない。
エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-

エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-

東京マハロ

駅前劇場(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/04 (火)公演終了

満足度★★★★

エースに会いたい
「エースが死んだ」という知らせを受け、15年ぶりに高校球児たちが集まる。
音信不通だったエースのその後、棺桶の無い通夜、噴き出す不満。
謎が明らかになる終盤、登場しないエースの顔が浮かんで来るような秀作。
達者な役者陣の台詞が素晴らしく、台詞のほとんど無い藤井びんさんがまた良い。
喪主である妻の言葉に、かつての球児たちと一緒に私も泣いていた。
なぜあのエースが死ななければならなかったのかと。

ネタバレBOX

劇場に入ってまず、雰囲気ある珈琲店のセットに目を奪われた。
つやつやしたテーブルと椅子、ステンドグラスの窓、柔らかい照明、
カウンターのしつらえやメニューに至るまで、そこに身を置きたくなる空間があった。
作者のこの空間への愛情とこだわりがあふれるようなセットだ。

高校時代、あの松坂から練習試合の申し込みを受けるほどの実力校は
絶対的なエースを誇っていた。
ところがある試合中の偶発事故でエースは致命的な怪我を負い、
結局それが元で野球を辞めて転校して行った。
その後の足取りを誰も知らないまま15年が経ったある日
突然エースの死が知らされて、当時のメンバーが集まることになった。
高校時代、大人の空間として彼らが憧れた場所、珈琲「エリカ」に現われた面々は
平静を装いながらもそれぞれが屈託を抱えている。
先輩への批判、捺子を巡る攻防、夫への疑惑、そしてエリカでのあの事件…。
エースの死の謎を前に、しまい込んでいた思いがふきこぼれ始める…。

「久しぶり~」と言いながら腹の内に別の思いを秘めている人々の
“何かある”表情が徐々に変化していく様が秀逸。
展開に無理がなく、理由を見つけて難しいことから逃げたい人間の心理が極めて自然だ。
体育会系に限らず、誰もが覚える自己肯定と言い訳に思わず笑ってしまう。
しかしそこに、逃げもせず、誰も恨まずに去って行った者がひとりいるとなると
話は少し違ってくる。
まして一番傷付き人生さえ狂ってしまったその彼が、
唐突に消えてしまったとあれば尚更。
この15年間、側でエースを見てきた妻の言葉に泣かずにはいられなかった。
その事実の前で、ちっぽけなプライドや自己肯定など何の意味があるだろう。

“しがない”がスーツ着ているみたいなお宮の松さん、
台詞のタイミングと間が素晴らしく、会話の妙を堪能した。
高校時代からイケイケだった捺子を演じた山口芙未子さん、
フェイスブックに写真を載せたがりの現在が相変わらずな感じで、
それがまた中身の空ろさを見せて上手い。
ほとんど台詞の無いマスターを演じた藤井びんさん、
味わいのある目線で、沈黙をそれと感じさせない演技が素晴らしい。
主宰で作・演出の矢島弘一さん、前説とチョイ役で登場されたが
口跡と声が魅力的で、この方の芝居をちゃんと観てみたいと思った。

エースはいつもエースだったのだ。
野球を辞めた後もエースだったし、葬儀が終わった今も燦然と輝くエースである。
「エリカ」は神保町に実在する珈琲店だそうだが、
その店名の由来である花言葉がひと言つぶやかれるラストが良かった。
誰も皆「エリカな人々」だったのだ、そしてエースもまた。
蜜月の獣

蜜月の獣

小西耕一 ひとり芝居

RAFT(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/03 (月)公演終了

満足度★★★★

切ない狂気
ひとり芝居というのはユニット名だそうで、第四回公演となる今回は三人芝居。
軽そうなキャラと会話のリズムにいつもより笑って観ていたら
中盤から一気に小西モード全開、重くてじっとり行きつく先は切ない狂気。
登場人物が抱えるトラウマが明らかになった途端
それまでの場面が違ったものに見えて来る展開と
時間軸をずらす構成が上手い。
優しさには自己チューがもれなくついてくる感じの、3人の会話が絶妙だ。

ネタバレBOX

ケンジ(河西裕介)、ショウヘイ(小西耕一)、ミツコ(宍戸香那恵)の3人は同い年。
バツイチのケンジにミツコを紹介して付き合うように勧めたのはショウヘイだ。
二人は同棲を始めたが、ミツコは心配性なケンジの束縛にうんざりし始めている。
だがケンジの心配性には深い理由があり、それにはケンジの元妻が関わっていた。
一方ミツコにも大きな秘密があった。
そして実はミツコのことがずっと好きだったショウヘイは
ケンジと距離を置くミツコにある決意を打ち明ける。
それがきっかけでこんなことになるとは思いもせずに…。

セックスをめぐる深いトラウマが、人生に大きな影を落とす話。
そのトラウマに触れずにいるうちは、優しい関係が保たれるのだが
ひとたび過去の記憶が現実に重なると、もう制御不能になってしまう。

簡単に打ち明けたり共有したり出来ない悩みは
次第に歪み曲がりねじれながら何度となく反芻され、濃度が高くなっていく。
異様な言動の最初のひと言は、さらりと“変なヤツ”程度に描かれるのだが
後にあれが狂気の片鱗であったかと思うと戦慄する。
時系列を入れ替えることで、行動の理由が後から判明するのがとても効果的だ。

3人の、それぞれひとりよがりで思い込みが強く、
思考の悪循環を断ち切ることができないキャラクターが際立っていて面白い。
ケンジ役の河西裕介さん、繊細で優しく、妻を救えなかったことで
自分を責めながら同時に自分以外を攻撃する複雑な表情が上手い。

ただ3人中2人までもが、犯罪被害者又は犯罪被害者の家族であるという設定は
ちょっとドラマチック過ぎて感情移入しにくい気がした。

小西さんの書く脚本は、ひとり芝居でも相手の台詞が聴こえてくるようだった。
二人芝居では現代のすれ違う会話が降り積もって行く様を描いた。
三人芝居になったらぐっと空間が広がって会話が豊かになった。
会話の“遊び”みたいな、空気感も含めてそのやりとりが可笑しくて笑った。
笑った分、後半の“暴走する個人的行き場の無い感情”の怖しさが際立った。
個人を掘り下げることで、繋がることが難しい孤独な時代が浮び上ってくる。

当日パンフに“ワークショップオーディション”の告知が載っていたが
次は“劇団ひとり芝居”的に人数が増えるのだろうか。
相変わらず早々とタイトルも決定していて、次回7月の公演が楽しみでならない。

あの世界

あの世界

MCR

OFF OFFシアター(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

渾身の罵詈雑言
久々に強烈なやつをくらって、くらくらしながら笑った。
罵詈雑言はこうでなくっちゃ。
追い詰められた人間の本音がある、そして
罵詈雑言を浴びせながらその相手を心底愛している。
こんな罵詈雑言が書けるのは櫻井智也だけだ。
設定、台詞、キャラ、役者、全てがリング、じゃなくて舞台に結集した充実のカード。

ネタバレBOX

プロレスファンの熱気が押し寄せる後楽園ホールの控室。
地味な中年プロレスラー有川(有川マコト)は、これから始まる試合で
“プロレス”をするつもりでいる。
だが敵はどうやら“ガチ”で来るらしい。
かつて有川とタッグを組み、膝を壊して引退していた櫻井(櫻井智也)は、
実家の駄菓子屋の手伝いを放り出してこの2ヶ月間トレーニング指南をして来た。
現状維持、安全なプロレスでこの場を凌ぎ、
飲み屋の女アニータ(後藤飛鳥)に金を貢ぎたい有川。
ちょっとしょぼいがいまだ現役の有川に夢を託し、
ファンの期待を裏切らないガチ試合をして欲しい櫻井。
ここへ来て全く意見の合わない二人は、取材に来たプロレス記者(堀靖明)や
アニータを巻き込みながら、試合直前の控室で怒涛のバトルを繰り広げる…。

この作品のキモ、血管切れそうな罵詈雑言は、究極の“価値観のぶつかり合い”である。
二人の価値観は櫻井の引退を機にどんどん離れて行き、今ではだいぶ距離がある。
ケガしないようにしてアニータと旅行に行きたい有川の守りの姿勢も共感を呼ぶし
危険なガチ試合にもし勝てたら、この先の人生が大きく変わると期待する櫻井にも
(たとえそれが引退した櫻井の夢を託す身勝手なものであっても)共感する。
これだけ力の入った会話を聞きながら全く疲労を感じないのは、ひとえに
二人の罵詈雑言が放つ鬱屈や卑屈、自己嫌悪、言い訳に“普遍性”があるからだ。
観ている私の感情が1時間15分ずっと舞台から乖離することがない。

この会話に取材記者堀靖明がレフェリーのように割って入るのがまた可笑しい。
終盤、有川と櫻井がタッグを組んでいた頃の試合を記者が再現する場面、
相変わらず熱いが滑舌の良い堀さんの実況中継は、プロレスへの愛に満ちている。
作・演出との相性の良さを感じさせて素晴らしい。
二人の罵詈雑言を固唾を飲んで見守る台詞の無い時間も、この人は上手い。

見た目日本人、実はチリ人のアニータを演じた後藤飛鳥さん、
天然の“拝金主義”ぶりもはまっていて、その突出してクールな価値観が効果的。
“それ言っちゃう…”的な本音をえぐってしまうしたたかな女が可愛かった。

“のちに「今年最もエキサイティングな試合」と呼ばれることになる試合”が
このあと始まると言うことは、ガチで行ったんだろう、そうだろう有川?!
そう、人生はガチなのよ。
ラスト、肩で風切って控室を出て行く男3人とほとんど同じ気持ちで
私もOFF OFFシアターを出たのであった。


風雲!チキン野郎城2

風雲!チキン野郎城2

ポップンマッシュルームチキン野郎

ステージカフェ下北沢亭(東京都)

2014/02/18 (火) ~ 2014/02/18 (火)公演終了

満足度★★★★★

イケメン
受付や司会進行にもメンバーひとりひとりの個性が表れていて新鮮な印象を受けた。
CR岡本物語さんが真摯な態度で案内してくれるだけで、もう感動してしまう。
この人は服を着ても着なくても同じスタンスで存在するところが素晴らしい。

完成間近のDVDチラ見せ上映会も面白かったし
昨年上演された短編をマジでやってくれたのもとても良かった。
吹原幸太さんの、笑いを封印した作品に感動した。
来る3月のショートショートフルパワーズでも、こういう風に
本公演とは全く違った作風のものをやってくれるのか!と期待が膨らむ。

今さらだが間近で見ると、イケメンを揃えた劇団なんだなあと思った。
日頃かぶり物やメイクでよくわからないということもあるかもしれないけど…。
とっても楽しかった、平日の昼間っから行ってよかったなぁ\(^o^)/

燃ゆる

燃ゆる

ノアノオモチャバコ

「劇」小劇場(東京都)

2014/02/15 (土) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★★

行動の理由
「天然の火」を精製して売る村、という設定や、滞在すると必ず火事が起こる男など
謎の多い設定がミステリアスでとても魅力的。
もう少し説明があったらもっと面白くなったような気がするが
ちょっと観客の想像に委ねられる部分が多すぎてミステリーが消化不良なのが残念。
村人の行動の深い理由が語られたら、
「天然の火」が”意志を持つ生きている火”である事が強調され
さらに奥行きが出たのではないかと思う。

ネタバレBOX

特産品の「天然の火」を精製する山奥の工場では
火口岩(かこうがん)を切り出し、中に火種があるかどうかを探して精製する
という昔からの方法で生産を続けている。
そこへ人工の火を大量生産する企業から威圧的な提携を持ちかけられ
工場長はじめ従業員たちは大揺れ。
一方ふらりとこの村に現われた若い男は「火を集めてしまう」という特殊な体質で
長く留まると火災が起こるので、各地を転々としていた。
工場と大手企業の攻防、天然の火の由来、火傷のある女…と謎が深まる中
工場の心臓部である大窯の火が消えそうになって人々はパニックになる…。

人工の火を大量生産することでのし上がって来た新興企業の
超オタク男(生野和人)が狂喜して挙動不審になるほど
「天然の火」には温かさがあって素晴らしいという。
便利で安価なだけでない本物の持つ品質と価値を際立たせた演出は面白かった。
途中炎を表すような身体表現も役者さんたちの集中力が伝わって来て良かったと思う。

けれど最後まで明らかにされないことがいくつかあり
そのせいでちょっと置いてきぼり感が残る。
私がつかみ損ねているのかもしれないが、例えば

○「天然の火」と大窯の秘密(誰かが大窯に入らなければいけないの?)
○老人と工場や「天然の火」とのかかわり
○提携する企業の言いなりにならざるを得ないほど工場が行き詰った理由
○工場長の娘が異様なまでに大窯の火にこだわる理由
○旅人が感じた臼井の母の思いとはどんなものか

等が気になってせっかくの熱演が遠くに感じられた。
もう少し個々の秘密を解り易く見せても、作品の魅力は半減しないと思う。
”意志を持つ火”のエピソードが語られるのを今か今かと待っていただけに
ちょっと残念。



ダークナイトライジング

ダークナイトライジング

カプセル兵団

ワーサルシアター(東京都)

2014/02/13 (木) ~ 2014/02/18 (火)公演終了

満足度★★★★

隊長
黒づくめの男ばかりでくり広げるマジで可笑しな会話劇第二弾。
第一弾はヒーローたちによる悲哀に満ちた日常だったそうだが
今度は怪人たち、つまり悪役の悪役による悪役のための“歴史と論理と愚痴”大会。
“世界の警察”アメリカを揶揄しながら特撮ものの歴史を紐解く辺り
吉久氏の脚本はさすがのうんちく。
途中日替わりゲストが出て来てからは、怒涛のユルイ展開に笑ってしまった。

ネタバレBOX

あるバーに呼び寄せられるように集まった4人の怪人たち+ひとりのさすらう怪人。
彼らは皆、かつては世界征服・地球侵略を企てる組織で暗躍してきたが
今は崇拝する指導者もなく行きなずんでいる、いわゆる“時代遅れ”の怪人。
そこに登場する大首領(?)に、一同悪の組織再結成に参加することを誓う。
しかし実はメンバーの中に…。

当日パンフにあるように“もし怪人がサラリーマンだったら”みたいな会話。
悪役も苦労する組織編成や変遷が語られ、その分析がなかなか面白かった。
本日のゲスト稲田徹さん、ひとまわり膨らんだ藤岡弘ぶりが楽しく
また声がこの役にはもったいないほど、いや相応しく、素晴らしい。
かつて犯罪組織に所属、今は地球に隠れ住んでいるマスター役の谷口洋行さん、
その陰影あるたたずまいが“何かありそう”感満載で秀逸。
案の定“つづく…”を思わせるマジな終わり方は特撮ものに相応しく次回が楽しみになる。

特撮ものに詳しくない私も、サラリーマンみたいな怪人の会話に笑ってしまった。
みんな強い指導者を求めているんだね。
でもそういう時が危ないのだよ、フォッフォッフォッ…って声が
聞こえたような聞こえないような(笑)
荒野の家

荒野の家

水素74%

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/02/07 (金) ~ 2014/02/16 (日)公演終了

満足度★★

不条理と非常識
不条理劇ってキャラクターが共感を呼ばないものなのだろうか。
これは「自分を省みない人々」の話である。
登場人物に共感するのが難しく、距離を感じずにはいられなかった。
この作品では個々の人物の置かれた状況が極めてリアルな問題を抱えている。
状況設定が超リアルなだけに、不条理より“非常識”が先立ってしまって
会話に不快感が残ったというのが正直なところ。
水素74%は2回目だけど、これが不条理というものかしら…。



ネタバレBOX

30歳で20年間ひきこもりの真也(玉田真也)は、
自分の言うことを聞いてくれない母親(高木珠里)に
カッターナイフを突き付けて脅すような息子だ。
母親はそれでも息子を溺愛して何をされようと決して離れようとはしない。
溺愛する息子に対する母親の話し方、声のトーンが異様で目を引く。
共依存のようないびつさで結びつきながら脅し、懇願し、抱き合う母子。

父親(永井秀樹)は稼ぐことで責任を果たしていると思って来た結果、蚊帳の外状態。
両親が兄にかまけていつも放っておかれていた妹(石澤彩美)は、
結婚相手と子どもを作る気になれず、一時的に出戻って来た。
おまけに隣家の女性は自分の義理の父親の介護をお願いしたいと押しかけて来る。
そして父親と妹は、母の留守にひきこもり矯正施設の“登山スクール”へ
真也を預けようと画策し、ついに家族は崩壊していく…。

不条理劇って少ししか観たことはないけれど、
“誰かを待ち続ける”とか“誰かが死ななくてはならない”といった
のっけから理不尽な世界に、ちょっと変だが
どこか自分と重なる登場人物が出て来て共感し連帯感が生まれ、
思うようにならないシチュエーションが面白くなる…と思っていた。

役者さんは熱演だったけれど
やはりこのタイプのお芝居は私には難しい…(^_^;)
幸福な職場(再々演)

幸福な職場(再々演)

劇団 東京フェスティバル

駅前劇場(東京都)

2014/02/05 (水) ~ 2014/02/12 (水)公演終了

満足度★★★★★

幸せになるために必要な4つのこと
謎かけもひねりもない直球ストレートな“いい話”でありながら、道徳の教科書でなくエンターテイメントとして成立しているところが素晴らしい。“ひたむきな人”とは、こんなにも周囲を変化させる。そして人は、工夫次第で幸福な職場を作ることが出来る。ノンフィクションを柱に、リアルだがよく整理された台詞が、事の経緯を自然に効果的に見せて上手い。笑いのセンスもいいし役者陣がいい。泣くような場面ではないのに泣いてしまったのはなぜだろう?和尚の言う「幸せになるために必要な4つのこと」が、私にはあるだろうか?今もそれを考えている。

ネタバレBOX

王と長島がまだ新人だった昭和34年、チョークメーカーの地味な事務所が舞台。
養護学校の教師(土屋史子)が卒業生を雇ってもらえないかと頼みに来る。
もう何度か訪れているが、知的障害者への理解が今よりさらに無い時代、
会社の専務(岡田達也)は、手間のかかる従業員を雇う
ゆとりも理由も無いと渋っている。
この時の教師の真摯な言動に圧倒されるものがあった。
「親より長生きできない者がほとんどの彼らに、働く体験だけでもさせてやって欲しい」
土下座して頼みこむ教師の姿に、昨今の“土下座パフォーマンス臭”は微塵もない。
誰かのために損得を度外視して頭を下げるひたむきさに打たれて思わず涙がこぼれた。

2週間の体験労働は全て順調に行ったわけではなく、理解と人手と工夫が求められる。
問題点と改善の工夫、そのプロセスがリアルで、実話の力が感じられた。
効率の悪さに悩む専務に、和尚(朝倉伸二)が投げかける言葉がいい。
「仕事に人を合わせているように見える、人に仕事を合わせたらどうか」

従業員のうち、障害者に寄り添っていこうとする男(菊池均也)と
非効率的だと否定する男(滝寛式)のやりとりもリアルで、
豊かなキャラクターのバランスも良い。

そして何と言っても知的障害者を演じた桑江咲菜さんが素晴らしい。
話し方のトーンとか間とか、とても努力されたのだろうと思う。
彼女の「お仕事、楽しい!」と休憩も取らずに働く姿が周囲を変えていく。
それは饒舌なアピールではなく、ひたむきな姿がそうさせるのだが
決して多くない台詞に集中力と緊張感があり、動きの全てに神経が行き届いている。
結果的にその後50年間勤め続ける実在の方を、説得力を以て演じる。
舞台上で職場を変えていく存在が、観客をも巻き込んでいくのが伝わって来て感動した。

作・演出のきたむらけんじさんは、前説で肝心の
「携帯電話など音の出る電子機器…」というくだりを忘れて引っ込むような
のほほんとした雰囲気の方だが、この作品の素晴らしいところは
障害のあるなしに関わらず、「人はなぜ働くのか」ということを
鋭く問うているところだ。

熱心な教師の訪問に辟易していた専務に和尚が言う台詞が実に秀逸。
─人が幸せになるには4つのものが必要だ。
「愛されること、誉められること、人の役に立つこと、必要とされること」
最初の1つは親からもらえるが、あとの3つは働くことで得られるものだ。
だから人は働きたいのだ…と。

終演後、思わず受付で赤・青・黄・白のチョーク4色セットを買った。
これで何をしようというわけではない、だが和尚の言った4つのものは
「働く目的」であると同時に「生きる意味」でもある。
私にとって、それを日々問いかける小さなお守りになると思う。
電磁装甲兵ルルルルルルル

電磁装甲兵ルルルルルルル

あひるなんちゃら

OFF OFFシアター(東京都)

2014/01/28 (火) ~ 2014/02/02 (日)公演終了

満足度★★★★

”なんちゃら”な統一感
その劇団名からも脱力感が伝わって来て素敵だが
“緊張を強いない”会話でありながら、メリハリがあって面白かった。
「ル」が7つ並んだ理由はそれだったのかぁ。
”ちょっと困った人”ばかり出て来るが、役者陣がその微妙な困り具合を見せて上手い。

ネタバレBOX

中央に椅子が2つ、ゴミ箱がひとつというさっぱりした舞台。
登場したタナカ(根津茂尚)は、しきりに外を気にしている。
地球の外から侵入してくる敵を討つために作られたロボットの訓練を見ているのだ。
1,2,3、の3機が合体すれば最強のはずだが、双子のマツナミ兄弟はともかく
もう一人の“天才アオヤマ”と気が合わないため、3機はうまく合体できない。
一方何とかしてあのロボットのパイロットになりたいのに、
清掃係のタナカは毎日アピールするがライバル多すぎてうまくいかない…。

ある人にとってはどーでもいいことが
別の人にとっては切実な問題だったりして、そこのズレが可笑しい。
ただ“ユルイ”会話が続くのではなく、そこに誰かの真剣な気持ちがある。
会話にメリハリがあるのはそのせいだと思う。
パイロットになりたい“かわいそうなタナカ”と呼ばれる彼の切なる希望や
自分たちを見分けて欲しい双子の兄(三瓶大介)と弟(堀靖明)のレクチャー(?)など
その真剣な気持ちに対して、周囲の無関心と無頓着のギャップが大きいから面白い。

軽妙な前説でも笑わせた脚本・演出の関村さんは、
会話の中で“期待した反応とは違う反応が返って来た時の「?」”を取り出して見せる。
「へ?」というその繊細な間が絶妙。

双子が声を合わせて“眼鏡は顔の一部です…”と言うところ、良かったなあ!
息が合っていて、本当の双子みたいだった(笑)
だいたい片方が太って眼鏡かけてるのに誰も区別できない双子っていう設定が○。
相変わらず力まずにいられないシチュエーションに置かれる堀さんの台詞が上手い。
戦隊ものっぽい歌も良かった。
そろいもそろって“ちょっと困った人”ばっかりなのも良い。
ひとり普通っぽいタナカがやっぱり可哀そうになるのがリアルだ。

あひるなんちゃらって、作品だけでなく創ってる人の人柄も観劇環境も
全てが“なんちゃら”な感じで、統一感ありまくりなのであった。
その統一感が、劇場に入ってから出るまでもれなくついてくるところが
楽しくて素晴らしい。
第5回公演 初恋

第5回公演 初恋

日穏-bion-

「劇」小劇場(東京都)

2014/01/29 (水) ~ 2014/02/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

上品・上質なエンターテイメント
平成25年春―昭和25年―平成25年秋―昭和39年という
4つのオムニバスが緩やかに繋がりながら流れている。
少ない人数の間で交わされる無駄のない台詞が素晴らしく
登場人物が背負う背景が説明的でなく伝わってくるところが巧み。
役者陣の演技にメリハリがあって4本を一気に魅せる。
随所に笑いがあるが、第四話のラストは泣かずにいられなかった。

ネタバレBOX

第一話 平成25年・春 「観覧車」
ヘビースモーカーの高山登(原田健二)と高所恐怖症の手塚悦子(木村佐都美)は
面識もないのに、混雑する観覧車にカップルとして乗せられてしまう。
なぜか途中で止まってしまった観覧車の中で、
二人は禁断症状とパニックで思わず素顔をさらけ出すことになる。
高所恐怖症の悦子が緊張のあまり挙動不審になって行く様が可笑しい。
コントになりそうな寸前でリアルに見せる、その加減が見事だった。

第二話 昭和25年・夏 「手紙」
冒頭は戦地に赴いた平和守(杉浦大介)とその帰りを待つ千代子(キタキマユ)との
手紙のやりとりである。
戦時下にこんな素直に未来を語る内容が検閲を通ったのか判らないが
この手紙が初々しい分、7年後の再会は痛切極まりない。
不自由になった足を折り曲げるようにして座る守の背中は絶望的で頑なだ。
生還しても幸せになれない人がたくさんいたであろうことを感じさせる。
守と一緒に暮らしている水商売の珠恵(村山みのり)の
大雑把なようで人の気持ちがわかるキャラクターが効いている。

第三話 平成25年・秋 「幼なじみ」
晴彦(深津哲也)、雪子(竹中友紀子)、夏実(廣川真菜美)の兄弟の住む町に
幼なじみの和男(曽我部洋士)が転勤で帰ってくる。
思うようにならない一方通行ばかりが行き交う初恋通り。
会話のテンポが良く、切ない話なのに不思議と暗くはない。

第四話 昭和39年・冬 「故郷の雪」
古い娼館の桃子(岩瀬晶子)の元へ奇妙な客(管勇毅)がやって来る。
別れた彼女とのやり取りを再現するのだと言って桃子に彼女を演じさせる男。
「相手の気持ちを考えていない、私は私だ」とキレる桃子に
男はようやく自分の事ではなく、桃子のことを尋ねる。
桃子にも戦地からの帰りを待っていた男がいたのだ。
変な客の思い詰めた自己チューな態度が超上手くて笑った。
東北弁の桃子の素朴さが、初恋の哀しい結末を際立たせる。
男の迷いのない暴走ぶりが可笑しく、それだけに後半の変化がドラマチック。
“再現”も悪くないと思わせるラストが秀逸で、涙が止まらなかった。

4つのストーリーが細い鎖で繋がっているところがいい。
さりげなく、彼らのその後が語られていて胸を衝かれたりする。
厳選された台詞と絶妙の間が素晴らしい。
話がひとつ終わる毎に、スクリーンに当時の映像が映し出されるのも
時代背景が瞬時に理解出来てよかった。
客入れの時から流れるBGMがストレートに時代を思い起こさせるのも効果的で
音量・選曲、それに照明もあいまってとても上品・上質な舞台。
6年ぶりの再演に出会えて本当に良かった。
劇読み!Vol.5   ご来場ありがとうございました。

劇読み!Vol.5 ご来場ありがとうございました。

劇団劇作家

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2014/01/22 (水) ~ 2014/01/28 (火)公演終了

満足度★★★★

G「五臓六腑色懺悔」
劇作家の、劇作家による、劇作家のための相互研鑽とプレゼンを目的とした劇団。
この公演は戯曲のプレゼンであり、戯曲と劇作家の見本市でもあるという。
今回上演13作品のうちの一つを観たのだが、
「芝居」と「朗読」の違いのひとつとして「ト書き」の面白さを見せつけてくれた作品。
アングラテイスト香る、歌舞伎のケレン味もたっぷりな、私の好きなタイプ。
肝心なところで噛んだのがちょっと残念だったが、ぜひ芝居にして欲しいと思った。

ネタバレBOX

客席が演技スペースをコの字に囲んでいる。
中央に一段高い演台があり、そこでト書き(三原玄也)が
ハリセンはたきながら語り始める。
蛤(ささいけい子)は、かつて男との生活に邪魔だと
幼い息子捨吉を寺へ置き去りにした。
蛤は懲りずに男を渡り歩きついに自殺未遂、あの世とこの世の境界をさまよううち
トコヨミ(清水泰子)と出会い、懺悔して何とか息子を探し出したいと訴える。
トコヨミが探してみると、捨吉の中で“好戦的な物欲”と“それをいさめる力”の
二つの勢力がせめぎ合ってついに自己分裂、今は昏睡状態にあると言う。
トコヨミの力で息子の体内に入り込み、対立する二つを和解させて蘇生させるべく
蛤は捨て身の策を講じる…。

荒唐無稽な筋立てに、勢いのある歌舞伎仕立てがぴったり。
流れるような江戸弁も心地よく、若い役者さんも驚くほどはまっていた。
五臓六腑が天狗組と河童組の二手に分かれて対立する様が面白い。
人間の相反する気持ちの葛藤がそのまま描かれている。
行きずりの蛤が、双方に働きかけて和解させるというシンプルなストーリーも良い。
自己犠牲の理由が“母の情愛”という古典的なテーマであることが活きてくる。

清水泰子さん演じるトコヨミが味わい深い。
どうしようもない生き方をして来た蛤を突き離さずにチャンスを与える。
スレていてもいいはずなのに、包容力と艶のある蛤を演じたささいけい子さん、
天狗が惚れるだけのことはあって、唄声も優しく美しい。

黄泉の世界と体内世界、芝居になったらどんな風になるだろう。
上演時間が2時間超というのはちょっと長いかな。

それにしても、芝居の動作が朗読の“ト書き”で説明されると、
一気に想像力が刺激され、風景が広がる。
キレの良い江戸弁が素晴らしく、異世界を堪能して楽しかった!


Day By Day

Day By Day

劇団かさぶた

OFF OFFシアター(東京都)

2014/01/23 (木) ~ 2014/01/26 (日)公演終了

満足度★★★

【豚チーム】必然性
おおみそか、夫婦の家を訪れる妹、友人、隣人…。
かき乱される日常の中から、大切なものが転がり出て来る。
という筋だったように思うが、話が動き出すまでの会話が散漫で引っ張る力が弱い。
原因は設定と台詞に必然性が薄いことだろうか…。

ネタバレBOX

夫婦の元に「芝居の役作りのために夫婦を観察したい」という理由で
突然転がりこんで来る妻の妹とか、
日頃付き合いもないのに「歯が痛い、歯医者で働いてるんだから何とかして」と
押しかけて来る隣人とか、ちょっと設定に説得力がないので
冒頭から登場人物に距離を感じてしまう。
終わってみれば、妹も隣人もなかなか魅力的なキャラなだけに残念。

確かに私たちの日常会話は散漫で、あちこち飛んだりズレたり聞き落としたりするものだ。
だが夫がテレビの修理を依頼する電話をしながら頻繁に妻に話しかけたりすると
(話しかけられて中断するのではなく)、
それが落語の“小言幸兵衛”みたいなキャラを強調するならいざ知らず
必然性を欠く行為や会話が重なっていくうちに、観ている側は関心が薄れてしまう。

故意か偶然か、妹のおかげで夫婦の間に新たな気持ちが生まれるが
それは物語の根幹をなすに相応しい温かさと微笑ましさを持っている。
もっとシンプルにこの気持ちを軸に見せても素敵なストーリーだと思う。

登場人物のキャラが魅力的だし、役者陣は熱演だった。
妹役の有沢未希さん、マイペースな不思議ちゃんが可愛くて良かった。
夫役の南雲康司さん、ラストで一気に「いい人じゃん!」と思わせるところが上手い。

かさぶたは、そのHPの“市街劇”がインパクト大でとても魅力的だったので
あのシンプルでダイレクトなアプローチを舞台にも期待したい。

幻夜

幻夜

観覧舎

OFF OFFシアター(東京都)

2014/01/10 (金) ~ 2014/01/13 (月)公演終了

満足度★★★

自由は孤独
不思議な芝居だった。
夢を紡いだような、現実を重ねたような、でも全体はまとまらない感じ。
だから「幻夜」なのか…。
文(ふみ)と武(たける)の関係はいかにもありそうで、そのもどかしさが妙にリアル。
当日パンフにあるように、去年の夏から稽古を始めたという丁寧な作りが伝わってくる。

ネタバレBOX

開演前から舞台では中野あきさんが音楽プレーヤーを聞きながら踊っている。
時折思い入れたっぷりに歌い出したりする。
一段高くなった居室に倒れ込みタオルケットにくるまったところで、前説登場。

これは武(今村洋一)に振り回された文(中野あき)の妄想なのか。
それとも自由を追い求めていたら独りになっていた武の妄想なのか。

文という名前の女性は3人登場するが、いずれも武に思いを寄せて報われない。
武は妊娠した文をブンちゃんに押し付ける。
ブンちゃんはその子が自分の子であってもなくても受け入れる。

いくつもの“文と武”のエピソードが語られるが、全体としてまとまってはいない。
ただ、各々のエピソードは妙にリアルだ。

例えば武役の今村洋一さんの、“自由を求めていく”姿勢はいつもブレない。
どうやら彼にとっての自由は“束縛されないこと”であるらしい。
少なくとも彼がそう信じ切っていることが伝わってくる。
だから結婚などもってのほかで、文はいつも置いてきぼりだ。
しかし自由を追い求めた結果、武の周りには誰もいなくなる。

日置達哉さん演じる、車を自慢したい男も面白かった。
出会ってすぐデートに誘う男、“めちゃんこ速い“車で富士急ハイランドに誘う男。
一つひとつの台詞にチャラいながらも熱心な(?)説得力があって可笑しかった。

“オチ”は不可欠ではないのかもしれないが
作者の世界に近づくためにも、もう少し理解の手助けがあったら
個々のエピソードがもっと活きるような気がする。

ラスト、富士山になった文がひとりになった武に「頑張れ―!」と叫ぶところ、
自分を一番に考えてくれない男を、
それでも応援する気持ちが切なくて泣きそうになった。
観ている私の中で、もっと登場人物が集結したら
さらに強く揺さぶられたのではないかと思った。


人魚の夜

人魚の夜

青☆組

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/01/10 (金) ~ 2014/01/20 (月)公演終了

満足度★★★★

名言
美しく儚い設定で語られる、これは受容と再生の物語に見える。
受け入れ難いことを受け入れるとは、わかっているのにこんなにも難しい。
陸に上がる魚たちは、その思いの強さから荒っぽい方法を取るが
人間は曖昧な表情で途方にくれている。
シュールな展開もあるが安定した構成、
藤川修二さんの熱演と荒井志郎さんの繊細なたたずまいが魅せる。

ネタバレBOX

5度の大きい戦争のあと、男しか生まれなくなって
男たちは魚を嫁にした時期があった…という昔話が語られる。
魚の嫁たちは雨が降ると陸に上がって男のもとに通った。
逢いたい気持ちがつのると、魚たちは雨が降るように祈り、それは時に強い台風となる。
だからこの町は雨の日が多いのだ、と言い伝えられる地方が舞台。

2年前台風の日に行方不明になった冬子(小瀧万梨子)の靴が発見され
夫の孝博(荒井志郎)の手により、役所で正式に死亡届の手続きがされようとしている。
冬子の父で元教師の正彦は、その孝博と二人で暮らしていた。
少年時代の正彦が慕った合唱部顧問の先生(渋谷はるか)や
冬子の妹春江(大西玲子)、ある事件から家に出入りしなくなった夏雄(井上裕朗)ら
正彦をめぐる過去と現在が行きつ戻りつしながら葬儀の日を迎え、別れの日が訪れる…。

ある日突然理由もわからないまま誰かを喪うという喪失感を共有する人々。
夫も、父も、兄妹も、みなそれぞれが互いを思いやって暮らしている。

無理強いをせず、誰かの気持ちが動くのを待つタイプの進展がむしろ新鮮で
けじめをつけてこの家を出ていこうとする孝博の静かな動きや
その孝博を慕って世話を焼く春江のかいがいしさ、
言葉にならない心情が静かな立ち居振る舞いと何気ない日常の会話に溢れている。
こんなにも豊かな表現を、日頃私たちはきちんと見ているだろうかと思う。
言語化されたことのみを取り沙汰し、その他の表現をないがしろにしていないだろうか。

少年期と老年期(この間が全くない)を行き来する正彦役の藤川修二さんが熱演。
この父はこの後も淡々と生きて行くのだろうが、その寂しさが胸に迫る。
取り残された夫を演じた新井志郎さんの繊細な台詞とたたずまいが魅力的。
理由探しと思い出の反芻に明け暮れる夫の日々が思われて切ない。
「お父さんはこれからどうするんですか?」と尋ねながら涙がにじんでいたシーン、
再び取り残される父親を思いやる切実な問いかけにもらい泣きしてしまった。

溌剌とした合唱部の顧問として指導する反面
「あの先生は魚だ」と噂される小波先生を演じた渋谷はるかさん、
キレの良い台詞と凛とした姿勢が素晴らしく、不意に見せる妖艶な表情との
落差がインパクト大。

夏雄が、死んだ冬子と交わした手紙が良かった。
率直に結婚の幸せをつづる手紙に対して、葬儀の時にやっと返事をしたためる兄。
平易な言葉で語られていて、演じる井上裕朗さんの朗読が泣かせる。
登場人物の言葉の中で、この2通の手紙が最も素直だ。

少々パターン化してきた感もあるが、青☆組のこの安定感と上品さは貴重だと思う。
お膳に並んだ湯気の上がる味噌汁や、何度となく淹れられるお茶などが
シュールな設定の中で日常を際立たせる。
ちょっときれいにまとまり過ぎな人間関係も、
“わたおに”みたいな丸出し会話に辟易する私としては心地よく聴ける。

それにしてもこの上品な作品の中で、ひときわ光る台詞を書く吉田小夏さん、
「女は魚と同じ、釣ったり買ったり拾ったりするものだ」というこの言葉は
女を男に入れ替えても、けっこう名言だと思う。



30才になった少年A

30才になった少年A

Sun-mallstudio produce

サンモールスタジオ(東京都)

2014/01/09 (木) ~ 2014/01/14 (火)公演終了

満足度★★★★

世間
昨年9月に新宿ゴールデン街劇場でアフリカン寺越企画によって上演された脚本を
リニューアルしてスケールを大きくしたというもの。
主演のアフリカン寺越は相変わらずの熱量で隙のないなりきりぶり。
新聞店に住込みで働く男の部屋を舞台にした前回の閉鎖的な設定から
一階店舗部分と二階居室部分に分かれた舞台、
登場人物も5人から11人に増え、確かに規模は大きくなった。
増えたのは“世間”の人数である。

個人的な好みと、前回公演を観ているという事情もあるのだが、
あの極小空間での濃密な“行き場の無さ”が拡散してしまったように感じた。
例えるなら、前回公演は岸を削るような急流だったが
今回は川幅が広くなった分流れが緩やかになった印象。
しかしこの重いテーマを、直球ストレートでど真ん中めがけて来る感じが素晴らしい。

ネタバレBOX

中学生の時、自分が描いた漫画をめぐる喧嘩から
同級生を橋の上から突き落として死なせた32才の男(アフリカン寺越)は
3年ぶりにその町に戻り、新聞店の住込み従業員として働いている。
ワケありの従業員を雇う新聞販売店の店長、
やはり犯罪歴のある同僚とその彼女、
橋の上で起こったあの事件を目撃しながら何も出来なかった教師、
彼を救うという名目で強引に通ってくる新興宗教の女、
それらが入れ替わり立ち替わり訪れる部屋で、男は漫画を描き続ける。
そしてついにここでも、男の過去が商店街で噂になり始める。
店の存続さえ危うくなり、追い詰められた店長は
「お前を橋の上から突き落としてやる」と迫る…。

広くなった空間と増えた人数で描かれるのは、いわゆる“世間”というやつだ。
彼を拒否し、あの小さな、漫画の本棚しかない部屋へ彼を追いやった“世間”である。
その中に、前回は無かった「宗教」を取り入れたのは
“もしかしたら救われるかもしれない”という一瞬の希望を与えて面白かった。
だが辞めていく事務員とか、通信制高校の先生・生徒、商店街の人等
前回登場しなかった人物が出て来ることの効果はそれほど感じられなかった。
それら“世間一般”を一切省いた前回の方が、
まさに“世間を狭く”生きている男の人生がくっきりと浮かび上がった気がする。
男の現在は、世間の仕打ちの結果だからだ。

人殺しを雇っている店などもう駄目だ、と絶望した店長が
「お前を橋の上から突き落としてやる」と迫るところでは
相変わらずアフリカン寺越の表情に見ごたえがあった。
今回の方が、本当に突き落とされるような気がして暗澹とした。
店長が「商店街の人に過去を正直に話せ、それでまたこのまま店を続けよう」と言い、
男が「それは今までの経験からうまくいかない」と答えるやりとりが挿入されているである。
何度も希望を持って、その都度潰された悲痛な思いがにじむ台詞だ。
考えられるたったひとつの方法がボツになあった後の「突き落としてやる」だから
なおさら選択の無さが胸に迫って、観ている私ももうダメなんだという気がした。

罪を償ってやり直せばいい、ときれい事のように言うが
実際過去に罪を犯した人と身近に接して心からそう言えるか、
ということを鋭く問いかけて来て、舞台の“世間”を批判しつつ痛みを感じる。
同僚のカップルには「過去は過去、今やってないなら問題ないじゃない?」と言いながら
自分はその言葉に全く救われていないという矛盾。

事件の現場となったこの町に、何でわざわざ男が帰ってきたのかと思うが
それはたったひとり、彼を受け入れてくれた新聞販売店の店長がいたからなのだ。
あちこち流れて、行く先々で過去がばれると拒否されて来た男が
過去を知りながら「一緒に働こう」と言ってくれたことにどれほど救われたか
その切なる思いが、危険区域での暮らしを決断させたのだと思う。

オーバーアクト気味ながら緊張感のある役者陣が良かった。
男の罪と一緒に自分の人生も壊れていった元教師役の吉水恭子さん、
後悔ともどかしさに満ちたキツイ物言いが上手い。
全編を通してギリギリの“長い間”が今回も効いている。
シリアスな状況で時折笑いを誘うペーソスも効果的。

前回の公演を観たのでつい比較してしまうのだが、
何と言ってもアフリカン寺越あっての作品である事に変わりは無く、
それがこの作品の力であると思う。
この人、この風貌で他にどんなキャラを演じるのかなあと思った。

『BULLETS ASSORTED』

『BULLETS ASSORTED』

SHOTGUN produce

池袋GEKIBA(東京都)

2013/12/28 (土) ~ 2013/12/29 (日)公演終了

満足度★★★★

GEKIBA、BGM、AKB
4人の作家による短編集。
作家の個性が端的に表れていて全く違うテイストの作品がそろった。
劇場の音響(スピーカー?)が悪かったのが残念でならない。
小さいハコなのでそれに合った音量の台詞が交わされているのに
頭上の空調の音にかき消され、BGMの大きな音にかき消され、良く解らない所多し。
それにしても達者な役者陣に圧倒された。
島田雅之さんの変幻自在ぶりと艶のある声がとても素敵だった。

ネタバレBOX

●「犬降る夜」 作・河田唱子

親友を呼び出して重大なことを打ち明ける男。
「今夜空から犬が降って来て世界が終るんだ」
荒唐無稽な話を真に迫って話す男(鶴町憲)の緊張感が素晴らしい。
一瞬でも気を抜けばただの寝言になりがちな会話が
薄気味悪い緊迫感が次第に高まって、それが頂点に達する戦慄のラストがすごい。

●「お願い、神様」 作・ほさかよう

毎週町の人々の懺悔を聞いているシスター。
変化も甲斐もない繰り返しにとうとう荒療治を施すことにした。
「あなたの心のままに」シスターのその一言で、
人々は仕返しをし、うっぷんを晴らし、復讐を始めた。
殺戮が 始まったのを聞きながらシスターはつぶやく。
こうして初めて、人は神の存在に気付くのだ…。

ほとんどシスターのひとり語りだが、振れ幅がイマイチ小さいのと
BGMの音量が大きくて台詞が聴きとれない。
前から3列目くらいでこうだから、後ろの方まで声が届いたかどうか疑問。

●「七福神の物語」 作・吉久直志

4編の中で一番短編らしくまとまって集中力のある作品。
今や七福神の出番と言えば縁起ものとして新年に一時もてはやされるだけ。
中でも暇な寿老人と福禄寿がコタツにあたりながら今年も愚痴を言っている。
八百万の神や日本の神話、インドの神などの由来や歴史の解説もあり、
AKB48になぞらえて「神様のトップ7なら俺たち全員入ってるじゃん!」
みたいな台詞に客席から何度も笑いが起こる。
登場人物がバラエティに富んでいて楽しいし、日本の宗教についてうんちくも語られる。
昔の神様は今の戦隊ヒーローみたいな存在だという論理に妙に納得してしまった。
吉久さん、日頃は時空を超えた壮大な物語を長時間見せるような舞台が多いが
こんなコンパクトな脚本も上手いのだなあと感心した。
布袋(寅泰の方)を演じた北村圭吾さんがギター片手に「ベイベー!」とやるのが好き。

●「狼たちの午睡」 作・柳井祥緒

十七戦地2015年2月の本公演「眠る羊」のエピソード1みたいな短編だという。
“死の商人”になろうとした仲間を止めるため、粉飾決算をリークした男が、
刑期を終えた元仲間と再会する。
明かされるあの時の真実、新たな目的、事は防衛省と企業の癒着に及んでいく。
メリハリのある会話と豊富な情報量がリアルな緊張感を生む所は素晴らしい。
観ている私は事実関係を追うのが精いっぱいでちょっとゆとりがなくなってしまった。
終始緊張した会話が交わされるのだが、やはり声が聞きとれなくて残念だった。

とても充実した魅力的な企画。
短編には瞬発力と、少量で良く効く毒気が必要なんだなと思った。
河田唱子さん、超シリアスな短編と、4作品の合間に挿入される
「鍋パーティー」の軽い笑いの両方が書けるところ、次回が楽しみになった。

後は集客に応じたハコでやること、空調と音響の問題解決かな。
超満員のGEKIBA、ちょっと辛いわ…。
銀色の蛸は五番目の手で握手する

銀色の蛸は五番目の手で握手する

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターサンモール(東京都)

2013/12/27 (金) ~ 2013/12/30 (月)公演終了

満足度★★★★★

銀だこ
抜群の安定感でベタな展開、なのにこの楽しさは何だろう?
CR岡本物語(33歳)の強烈なパフォーマンスを見ながら本編の始まりを待つのも楽しい。
舞台正面奥に出ハケするスピーディーな転換も楽しい。
宇宙から来たタコが長崎県で友達と仲良く暮らすのも楽しい。
おじいちゃんが読モを目指して上京、月9に出演するのも楽しい。
レアルマドリードが地球に棲む宇宙人をかき集めてチームを強化するのも楽しい。
つまりは一途な気持ちで自分を投げ出す“無償の愛”が一本貫いているなら
周辺設定は“ありえへん世界”で全然オッケーってことなのだ。

ネタバレBOX

早めに入ったつもりでももう8割がた客席は埋まっていて、
みんな舞台上岡本さんの熱いももいろクローバーZを見て笑っている。
合間に客席の階段を駆け上がって握手をし、また舞台に駆け戻っている。
岡本さんほんとすごい運動量、本物見なくても全然いいわ、とオバサンは思う。

木村オサム(加藤慎吾)は宇宙人。
15年前に宇宙船が壱岐島に落ちて、おじい(NPO法人)に育てられた。
友達も先生もみんな彼を自然に受け入れてくれている。
だが初恋の人ハナ子(小岩崎恵)に振られたのを機に、おじいと東京へ。
そして15年後、レアルマドリードのキーパーとして活躍するオサムは
ふとしたことからハナ子の不幸な状況を知り、放っておけなくなる。
そして彼女を救うため、使ってはいけないあの能力を使ってしまうのだった…。

タコメイクがすごくて配役を確かめないと誰がやってるんだかわからない。
でもこのタコがいい子なんだな、優しくて我を忘れるほど一途でしかも芯が強い。
おじいもハナ子も、みんなこのタコに救われて生きている。
そしてその結果タコはみんなに助けられて復活した。
このベタな展開がどうしてこんなに面白くてジーンと来るんだろう。

下ネタを含むギャグや、危ないジョーク、ナンセンスなバカ騒ぎも
全ては“幸福な王子”みたいな幹がしっかり根を張っているから。
このバランスが素晴らしくいいのと軽快なテンポがポップンの持ち味だ。
“青春もの”、“純愛路線”だけでなく、“スポ根もの”の要素もきっちり押さえている。
これらひとつひとつを丁寧に重ねているところが、全体がバラケない理由だと思う。
この集中力とまとめ方が、どこかテレビドラマ的で私は好き。
お約束で安定させつつ、いかに新しいものを加えていくかが
今後の吹原氏の腕の見せどころだが
構成の上手さとあの映像センス、ベタなだけでない洗練という隠し玉もありそうで
新しい年もコメディ部門を牽引していくのではないかと期待する。

いつもながら小岩崎さんが可愛らしさを嫌みなく出して上手いし、
増田赤カブトさんも余裕が出て来たせいか面白くなった。
おじい役のNPO法人さん、スーパー高齢者に笑った。
劇団も進化し続けていくんだなあ。
岡本さんも来年は34歳か…(超余計なお世話)。


RASCAL 第1回公演 『カミノキズ』

RASCAL 第1回公演 『カミノキズ』

RASCAL

シアター711(東京都)

2013/12/25 (水) ~ 2013/12/29 (日)公演終了

満足度★★★

人生をさぼる人々
傷ついてどうすればいいのかわからない、これ以上傷つくのが怖い、
そう思った時、男はひきこもり、仲間を誘い、優しいシェルターを作った。
役者陣は魅力的だしシチュエーションも面白い。
だがちょっと丁寧過ぎたせいかテンポが悪く、集中力が途切れそうになるのが残念。

ネタバレBOX

開演直前、ひとりの男が登場して床に座りノートパソコンを打ち始めた。
段ボールが積み上げられ、黒いボックスが雑然と置かれた部屋は倉庫のよう。
ここは自殺した恋人の荷物が保管されているトランクルームの一室。
傷心の箱崎(工藤優太)は中身を見る勇気も無く、
ただ毎日パソコンでちまちま仕事しながらここに住んでいる。
そしてやはり仕事の無い入江(永井佑昌)と谷川(長谷川綾祐)も一緒だ。
3人の暮らしはぐだぐだと快適そうだが、次々と訪れる人々によって波風が立ち始める。
自殺した彼女も含めて4人の高校時代の恩師や、バイトを紹介してくれる後輩、
その後輩の彼女らしき女の子、そして死んだ彼女の親友だった山際(篠原友紀)など。
そして執拗に箱崎を問い詰める山際が、ある事実を突き付ける…。

仕事も金も無い3人が困ったね、と言いながら肩寄せ合ってトランクルームで暮らす、
という予想は早々に崩れる。
表面上はことさら軽いノリで流しているように見えて
実は入江と谷川が、まるで壊れ物でも扱うかのように箱崎を守ろうとしている。
それが箱崎の危うさを想像させて、ちょっとはらはらする。

入江役の永井佑昌さんと谷川役の長谷川綾祐さんが素晴らしい。
個性の違いが言動に良く表れていて、キャラにはまった台詞が生き生きしている。
ヤワな男を外敵から守り、立ち直るまでもう少し見守りたいという優しさが伝わってくる。

個々の人物像は個性があって面白いし、台詞もリズムが感じられてとても良いと思う。
ただ大きな流れで見ると、もう少しテンポ良く運んでも良いような気がする。
例えば意を決して箱崎が段ボール箱を開けるシーンなど
タメが長くて集中力が途切れそうになるのが惜しい。

それから煙草のシーン、この頃では前説で
「喫煙シーンがありますが、無害の煙草ですのでご安心ください」などと言うことが多い。
火をつける仕草だけで煙を出さない演技もある。
あれは本物の煙草だろうか?
ちょっと煙が気になった。

非日常的な空間の中で、誰もが持つ弱さと身勝手な解釈が浮び上る構図が面白い。
劇中「ここで人生をさぼってる」という言い方をしていたが
人にはそんな時期があってもいいんだなと思った。
希望と安堵のラストが好き。
私も何となくほっとして帰ったのだった。


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