うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇

ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇

シアターオルト Theatre Ort

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/04/03 (木) ~ 2014/04/13 (日)公演終了

満足度★★★★

テーブルの上の銀河鉄道
劇団単体で宮沢賢治演劇フェスティバルを行うという企画もユニークだが
切り口を「銀河鉄道の多様性」と「賢治の言葉の音楽性」の2つに絞ったのが鋭い。
演劇と宮沢賢治の関わりを端的に表していると思う。
白木の長テーブルに並んだ食事の支度が美しい。
ミートローフやマッシュポテト(に見えた)、水、りんご、ミニトマト、皿とナイフとフォーク。
その周囲にレールがめぐらされ、おもちゃのSLが、かたかたと小さな音を立てて走る。
三方から囲んだ舞台奥には天井から白い布が流れていて、
まさに天の川という見立てに相応しい。
東北の豊かな恵みを食卓にのせ、自分はそこを鉄道で走り抜ける…。
死を問い続ける賢治を乗せた、はるか銀河への旅である。

ネタバレBOX

「青森挽歌」が挿入されたことで、“友人の死を受け入れる”ジョバンニの苦悩に加え
“死を選択した”カンパネルラが、死とは何かと問う悩みが深くなった。
ジョバンニを演じる八代進一さんのすっきりとした軽い立ち姿が
シリアスな命題を際立たせてとてもよかった。

“カンパネルラは君を助けるために死んだ”と級友から言われたザネリは
“彼は力がなかったから手を離してしまったんだ”という意味のことを平然と答える。
「最後にお父さん、お母さんと言っていた」とまでザネリに言わせている。
カンパネルラの犠牲的精神と、ザネリの利己的な態度を対比し強調することで
作者の北村氏自身が「本当のこと」を突き付けてくる。
この創作を喚起するのは、やはり原作の豊かさ大きさという気がする。

鳥捕り(舘智子)とサソリの話をする女(藤谷みき)が面白くて良いバランス。
客席の近くまで来て演技することが多かったので
全員衣装の布の美しさがよく見てとれた。
照明もドラマチックできれいだった。

「カンパネルラ!」とジョバンニが叫ぶと、やっぱり泣いちゃうんだなぁ。
イエドロの落語 其の壱

イエドロの落語 其の壱

イエロー・ドロップス

新宿カールモール(東京都)

2014/03/08 (土) ~ 2014/04/11 (金)公演終了

満足度★★★★

粋なふたり
おぼんろのメンバーでもある
さひがしジュンペイさんとわかばやしめぐみさんのユニットで、
そのスタートはおぼんろよりずっと古い。
落語の有名な演目という明確な元ネタを3つ合わせた構成と、
濃い色合いの芝居が超個性的。
二人とも洗練された端正な顔を躊躇なく崩して芝居するところが素晴らしい。
“始末の唄”最高♪

ネタバレBOX

「始末の極意」
始末=節約の大家に教えを請う者が、
「扇子の半分を5年使い、次の5年は残りの半分を使えば10年もつ」と言うと
大家は、「自分は孫子の代まで伝える。扇子を動かさずに顔を動かす」と答える。

「品川心中」
品川の女郎お染は、季節の行事にかける金が無いので後輩から馬鹿にされる。
悔しまぎれに死のうと決め、どうせ死ぬなら心中しようと相手を金蔵に決める。
純朴な金蔵と一緒に桟橋へ行き、ためらう金蔵を突き落とした時、
店の若い者が「金が出来た」と知らせに来て止められ、お染は思い直して店へ戻る。
一方金蔵も、遠浅だったため死にそびれていた…。

「転宅」
お妾さんにお金を渡して旦那が帰って行くのを聞きつけ、泥棒が忍び込む。
ところが鉢合わせした妾のお梅から
「自分は元泥棒、あの旦那には愛想が尽きたから一緒に逃げて」と誘われる。
その気になった泥棒は、妻となるお梅に今日の売上(?)を巻き上げられた上
二階にいる用心棒を怖れて、明日また来る約束をして帰る。
約束通り泥棒が翌日行ってみると、お梅は引っ越しした後で
近所中の人が間抜けな泥棒を待ちうけていた。

3つの古典落語をつないで“お染金蔵”の二人が
心の隙間を埋めるまでの旅路を辿る。
この構成にイエドロ独自のエピソードとパフォーマンスを挿入するところが面白い。
声がもったいないからと、端折ってところどころ発声せずに歌う“始末の唄”が最高!

また「品川心中」と「転宅」の段では、
わかばやしめぐみさんが仕掛ける側になって
あの魅力的な口跡と表情で大いに魅せられた。
白塗りって一度素顔を隠しているのに、逆に豊かな表情が際立つから不思議だ。
心中の相手に選ばれてしまった男も、金を巻き上げられる泥棒も
その人の良さが表情からにじみ出る。
拍子木の音でメリハリをつけた演出も息がぴたりと合って芝居っぽさ全開。

江戸っ子の口調を気持ちよく再現して落語好きには大変楽しかった。
噺家が創る“粋な世界”を芝居仕立てにするのはとても難しいことだ。
本当に大好きで深く研究し工夫したのだなあと思う。

両親も私も大ファンだったので、古今亭志ん朝師匠の独演会には何度も行った。
師匠が亡くなった時「葬儀に行くから会社休む」と言って周囲に説得されたのも懐かしい。

ひとつ難点は会場の狭さ。
あのスペースにあの人数、あの椅子、傾斜が無いから難しいのだろうけれど
やっぱりちょっとキツイなあ。
末原拓馬さんが細やかに気を使って下さっていたが
もう少し観る側の快適さも考慮していただけると嬉しい。
「其の弐」も楽しみにしてるからさ♪
私の好きな「野ざらし」とかいい女も出て来るし、どうでしょうか?
英霊だヨ!全員集合

英霊だヨ!全員集合

劇団東京ミルクホール

SPACE107(東京都)

2014/04/02 (水) ~ 2014/04/06 (日)公演終了

満足度★★★★

圧巻のドリフ再現
第20回本公演で解散公演って、ホントですか?!って感じだけど
圧巻のドリフネタが素晴らしく、笑った笑った。
このクオリティで再現されるとリアルタイムで観ていた“全員集合世代”は泣けて来る。
浜本ゆたかという人の、肉体的・精神的な運動神経の良さとセンスが際立つ。
「今のうちに出来ることは全部やりたい」とぬかすアバ・シンザブロウ首相、
漫画のように良く似たイシバさんを巧みに真似て
政権を揶揄しつつ「ふざけるな!」というメッセージを発信する。
で、時々やけにいい台詞を言ってまた泣かせる。
バビ市、なんでやめるのよ…。

ネタバレBOX

靖国神社で出会った8年間ひきこもりのネット右翼青年と韓国人青年。
2人は、英霊でありながら靖国に入らず彷徨っている
他の英霊を探す手助けをすることになる。
英霊たちが再び集結してもう一度やりたいこと、それは「点呼」であった。
あのドリフの伝説のネタである…。

アバ首相に「国民がお国のために死ぬには靖国が必要だ」と言わせるあたり
相変わらずドタバタしながら鋭い批判の目が光る。
「靖国より千鳥ヶ淵の方が居心地がいいんだよ」と彷徨う英霊が言うのも良かった。
自分の存在価値を見出せないひきこもり青年が変化していく様も感動的だ。

お馬鹿な展開の中でびっくりするような正論を吐き、
すごいなと思ってるとすぐくだらないことを始める。
この“あざなえる縄の如き両極の混在”がミルクホールの魅力だ。
そこにダンスが入るといい感じに句読点が打たれる。

浜本さんは他の人のギャグの間も視線が緩まない。
アドリブで間をつないでいる時も目は素になっていない。
そのプロに徹したところがいいんだな。
ハリマオもいいけど短髪軍服も似合ってた。
ダンスのキレもいいし、泣かせる台詞も上手い。

バビ市、劇団員だけで小さいところでコメディやってくれませんか?
大仕掛けでなくても、きっと台詞で笑わせる舞台になると思う。
男女両方いけるんだし人数も少なくて済むでしょう?(そういう問題じゃないか…)

ひきこもり青年を演じた最年少の星浩貴さん、初々しい若さが好感度大。
生着替え(?)ありがとうございました。

ミルクホールの皆さん、また「おいっす!」と勢ぞろいするのを待ってます。



Re:verse

Re:verse

アヴァンセ プロデュース

本多劇場(東京都)

2014/04/02 (水) ~ 2014/04/06 (日)公演終了

満足度★★★★

かくも過酷な生存
“生き残る”ということは、かくも過酷なことなのか。
東日本大震災の翌年、再び巨大直下型地震に見舞われた関東地方を舞台に
ひとりの女性ジャーナリストがインタビューを試みる。
家族を喪った被災者を怒り狂わせ、二度目の試練を与えるかのような彼女の質問。
答えるうちにのたうちまわるように乱れていく被災者たちの心情。
緊張感ありまくりの展開となぜそこまで、という疑問が解けるラストが秀逸。
生き残った人々は皆、自分に出来なかったこと、出来たはずのことを探し
自分を“許されざる者”として糾弾し続ける。
それは“助かって良かった”という安堵の感情からは程遠いものだ。

ネタバレBOX

舞台中央にテーブルと椅子が置かれている。
まるで足場を組んだような金属製の階段と2階部分が
それを見下ろすように囲んでいる。
女性ジャーナリストが夫と子どもを置いて家を出るまでの顛末のあと、
その女性が被災者にインタビューをする場面に移る。
父を救えなかった男、義母を喪った嫁、津波にのまれて娘の手を離してしまった母、
仲間を置き去りにして逃げた消防団の男など、皆胸に暗部を抱えている。
ジャーナリストは彼らに容赦無い疑問を投げかける。
例えば「元々不仲だったのではありませんか?」と。
「たとえそのために死人が出ても真実が知りたい」と言って憚らないその態度には、
マスコミの人間特有の傲慢さが前面に出ていると感じさせるが
やがて彼女自身、置いて来た夫と息子たちを喪った身であり
同じような立場の人たちが一体どうやって生きているのかを知りたいという
悲痛な思いで質問しているのだと判る。
そして彼女を強く批判していた消防団の男が、全てを話したあと自ら命を絶つ。
誰もが巻き戻せない時間の中で、後悔の海で溺れるようにもがいている…。

被災地の人々の心の裏にあるのは、喪失感と同じくらいの“後悔の念”であったと思う。
こんな喪い方をするなら、別の選択をすれば良かったというどうしようもない後悔。
あまりに唐突で暴力的な奪われ方をすると、もはや死者に非を見出すことなど
不可能であり、非は全面的に生者に移行する。
背負いきれない自己否定と闘い続ける苦しみは、生きる意味も気力も奪う。

作者は徹底的に“後悔する人間”に密着し、フラッシュバックのように繰り返す
「あの時別の選択をしていたら」という思いを肯定するかのように描く。
それは“後悔してもはじまらないから前を向いて生きよう”という世間の流れや
時間が経って次第に薄れる記憶と真っ向から対立する。
人は後悔する生き物なのだ。

私は前回の公演を観ていないが、大きな空間を良く作っていると思った。
群像の中で、ひとりのジャーナリストが真ん中で喧嘩を売るように挑んでいく姿が
やがて同じ喪失感を共有する者の必死な思いであったと判る構成も上手い。

冒頭から子役が達者なのだが、技術が勝っているような印象を受けた。
死ぬ前にカメラの前で語った消防団の男の告白には泣けた。
他人には「生きるんだよ」と言いながら、家に帰って首を吊る男。
人間の抱える矛盾の優しさと切なさを感じさせるキャラが素晴らしい。
配役表があったらな、と思った。

毒っ気を振り撒く作者のイメージと重なりながらも
根本にある“不完全な人間を受容する”姿勢が感じられて、
他の作品も観てみたくなった。


『あら、救急車』   『夜まわり隊』

『あら、救急車』   『夜まわり隊』

ATラボ

高田馬場ラビネスト(東京都)

2014/03/27 (木) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★★

マリオネット
運悪く関わり合いになってしまった人にはえらい迷惑なことだが
傍で見ている分にはイライラしながら笑っていればよい、という人間模様。
オチがイマイチはっきりしなくて「そこが見たい、知りたい!」的な欲求が残るのは
作者ギィ・フォワシィ氏の意図するところなのか…?

ネタバレBOX

①「夜まわり隊」
夜中に散歩していた男がとっつかまったのは「夜まわり隊」と称するこん棒を持った男。
警官みたいに尋問された挙句、私生活をあれこれ詮索される。
駐車場に止めた車からカーナビ等を盗まれないよう不審者を捜している夜まわり男は、
異様に疑り深く、おまけに傍若無人な男だった…。

「お前の家を家宅捜索する」と言われてついにキレた男は
夜まわり男に突進して二人とも倒れ込むが、そこで暗転…。
その後どうなった?
あの叫び声はどっちのもの?
結局どっちが勝ったの?
と、野次馬としては知りたい事だらけ。
身の潔白を証明するのは、自由な国と言えども極めて難しいのだと痛感。

②「あら、救急車」(土屋直子さんの回)
“誰も死なない老人ホーム”がキャッチフレーズのホームの一室で、
「もうすぐ死ぬ」と騒ぐ歩けない岩崎さんは、ひとりで死ぬことを極度に怖れている。
別室の入居者のぶ子さんを呼びつけてはかみ合わない会話を交わし、
わがままを言って人をこき使い、挙句の果てにいつも悪態つき合って大騒ぎ。
結局看護師に叱られて、薬を飲んでいびきをかいて眠る日々。
ある日のぶ子さんが窓から外を見て「あら、救急車」と言ったその一言がきっかけで
岩崎さんが“身代わり脱出作戦”など計画したところから、事態は思わぬ方へ…。

孤独な老人の本音がわがままいっぱいに描かれていて
昨今のものわかりの良い年寄りとは一線を画すキャラが面白い。
だけど妄想もわがままも度が過ぎると、後が大変なことになって、
自分の首を絞めることになるんだよ、ふぉっふぉっふぉっ…って話。
ブラックな終わり方でこちらの方がちとすっきりはするが
のぶ子さんが見た救急車って、本当は何だったの?
看護師のダークなキャラがリアル、実は一番怖いのはこの人か…。
「40 Minutes」

「40 Minutes」

TABACCHI

スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)

2014/03/21 (金) ~ 2014/03/24 (月)公演終了

満足度★★★★

サムライ三様
企画自体はとても面白いし、投票制も興味深い。
小さいハコでやった方が、より作品が活かされると思う。
さらに共通のテーマを設けず「40分」という時間の縛りだけでも
個性が十分発揮されて、劇団のカラーが際立つかもしれない。


ネタバレBOX

① 劇団チョコレートケーキ 「○○六○猶二人生存ス」

客入れの時から波の音が流れている。
特攻兵器、人間魚雷「回天」の訓練基地で起きた事故の犠牲者を描く。
舞台中央、横長に置かれた机の上、上手側に閉じ込められた二人、
回天の生みの親とも言える黒木大尉(西尾友樹)と樋口大尉(岡本篤)が座っている。
下手側には整備担当の後藤(浅井伸治)がストーリーテラーとして立ちつくしている。
海底に沈んで取り乱す樋口に、黒木が告げる。
「冷静な遺書を書け、自分たちの死を美談にすることで
後に続く者はためらわずに死んで行ける」

何かを守るため、誰かのために死ぬのは当然という時代の空気が、
あの時多くの人の命を奪った。
”潔く死ぬのがサムライ”である事を徹底的に利用したのである。

極限状態にあって尚驚くべき強じんな精神力を保てるのが
そのサムライ精神教育の賜物であることは何とも皮肉なことだ。
生き残った後藤の「空気が、多くの若者を殺した」という
苦渋に満ちたその叫びこそが作者の訴えるものであろう。
これは反戦と言うより、“反空気”とも言うべき、現代への警鐘にも聞こえる。
“なんとなく、ねばならぬ”という胡散臭さへの。

「サムライ」とは机上の理想のために死ぬものなのか。
無駄の無い台詞と圧縮したような時代の息苦しさが素晴らしい。
出来れば、少し舞台を見下ろすような位置から観てみたかった。
舞台のさらに机の上の演技を見上げるよりも、彼らの絶望を俯瞰してみたいから。
浅井さんの端正な語り口に後悔と苦渋がにじんで秀逸。

② JACROW 「刀と天秤(はかり)」

東電OL殺人事件の被害者渡邊泰子を描いた作品。
東電の管理職にあるOLが、夜は円山町で客を引いていた、
しかも4年間ほぼ毎日、一晩にお客4人と自らにノルマまで課して。

世間を驚愕させたあの女性の心理に迫ろうとしたのは解るが
作家が「この場面をやります」と語りながら進行し、時には作家も演じる
という構成にする必要性があまり感じられなかった。
もっとシンプルに泰子にフォーカスし続けても良かったような気がする。
衣装を着替えなくても泰子の頑ななまでにストイックで孤独な生活は伝わる。
映像で場所を示すのがスタイリッシュで判り易く、それで十分場転は可能かと。

仁王立ちになって、全く卑屈さを感じさせない客引きの様子を見ても
何か強い信念を持って選択した結果だろうと思わせる。
それは亡き父への尊敬と思慕なのか、その父を軽んずる母への反発なのか。
「サムライ」が岡田以蔵のように誰かを喜ばせたくて人を斬るのだとしたら
喜んでくれる人を失った後は、もう自分の存在価値など見いだせなくなるだろう。
あの孤高の立ち姿を、作者が人斬り以蔵に重ね合わせたというのも
何となくわかるような気がする。
彼女には、幸せになろうとする気持ちが微塵も感じられない。

③ 電動夏子安置システム 「召シマセ腹ヲ」

初めての電動夏子は、なるほど“ロジカルコメディ”と言われる劇団だった。
最大与党の「保民党」、「新党もののふ」っていうのが可笑しい。
オーバーアクトで徹底的に政治家を揶揄するところも良い。
広報担当スタッフを演じるなしお成さんの歯切れの良い台詞と
ラストの黒い思惑が効いていて、“おぬしやるのう感”が楽しい。
「サムライ」とは腹を括って嘘をつく人々のことか。
ちょっと中華の出前男が黙って突っ立っている時間が長くて不自然だったかな。

男の60分 -2014-

男の60分 -2014-

ゲキバカ

王子小劇場(東京都)

2014/03/19 (水) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

躍動する小学生
初めてのゲキバカ、すんごい楽しかった!
笑っているうちにいつの間にか泣いてた。
“ノスタルジー”と“子どもの時間”のバランスが良く、脚本の巧さに脱帽。
段ボール箱のみのセットもいいし、BGMと照明も好き。
変にオサレにしない無邪気なダンスが素晴らしく、ストーリーを盛り上げる。
子どもを演じると役者の力量がモロに出るが、
平面的でないキャラが生き生きとして本当に魅力的だった。
ケーよ、あんまり似ていてあなたの今後の人生が心配になる(笑)

ネタバレBOX

大きな段ボール箱が舞台を囲むように置かれている。
弟(菊池祐太)が跡を継いでいる故郷の家へ、
母の葬儀のために帰って来た兄(西川康太郎)は
蝉の声を聞きながら子ども時代のことを思い出す…。

再現される子ども時代のエピソードが秀逸だ。
在日の子コチュジャン(伊藤亜斗武)、貧乏で万引きするトッタン(書川勇輝)、
悪天候の中、川で泳いで足を怪我する河童(石黒圭一郎)、
野球からサッカーに転向するケー(伊藤今人)、
そしてメンバーを率いるもじゃお(鈴木ハルニ)。
兄弟はこのメンバーといつも一緒だった。
葬儀の準備をする兄弟の会話がとても繊細で「静」であるのと対照的に
子ども時代は躍動感あふれる「動」の展開だが、
内容はただ「動」なだけではなく、子どもの社会をリアルにとらえている。
だからその中で“怪獣ごっこ”のギャグがめちゃくちゃ冴えて大笑いした。

作・演出の柿ノ木タケヲさんの設定はどちらかというと情緒的で
ラスト、葬儀の準備中に弟の子どもが生まれたり、
売れない作家の兄が母を書きたいと語ったりと、思い入れたっぷりなのだが
対照的に子ども時代の演出のはじけっぷりが見事で、そのバランスが素晴らしい。

隙のない役者陣が全員素晴らしく、子ども時代は圧巻。
ダンスの振り付けが自然な子どものエネルギーを表現していて
伊藤今人さんの“作為を感じさせない”センスに魅了された。
それにしても今人さんとあの人の激似ぶり、あれは演技を超えている(笑)

ゲキバカの役者さんっていいなあ。
おかげで私も、王子で素敵な夏休みを過ごしたのであった。
ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

劇団東京イボンヌ

ワーサルシアター(東京都)

2014/03/18 (火) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★

名曲誕生秘話(笑)
クラシックの名曲をテーマにナンセンスコメディーを紡ぐという東京イボンヌ、
組み合わせのあまりのギャップに想像がつかなかったが
これがバカバカしくて可笑しかった。
赤ちゃんがえりのシューマンにホラーのようなその妻クララなど
あっと驚くキャラのオンパレード、圧巻は貫禄ありまくりのジョルジュ・サンド。
ショパン、大変だったんだね。
でもあそこまでしなければ自分の気持ちが解らないなんて、
やっぱり君はお馬鹿さんだ♪

ネタバレBOX

劇場に入ると下手側舞台の手前にピアノが置かれている。
舞台上にはショパンの家の居間、横長のテーブルに椅子が5脚。
色白で長身のショパン(土橋建太)は自信が無くてほとんど挙動不審状態。
家政婦のステラ(本堂史子)に励まされたり叱咤激励されたりしている。
奔放で他の男とも自由に付き合う肉食獣ジョルジュ・サンド(小俣彩貴)と別れたくて
その相談をするために今日友人達を呼んでいる。
シューマン(古賀司照)とその妻クララ(串山麻衣)、
リスト(阿部英貴)とその恋人マリー伯爵夫人(平野尚美)は
どうしたらあの怖ろしいジョルジュ・サンドが別れ話を受け入れるか知恵を出し合うが…。

ぶっ飛んだキャラ設定にびっくりしているうちに
観ているこちらまで騙されてしまう構成が巧い。
つまりはジョルジュ・サンドの方が1枚も2枚も上手だったということで
彼女のてのひらでピアノを弾いているショパンが見えて来る構造。
最後にようやく自分の気持ちに気づいたショパンに名曲が降りて来てスランプ脱出♪

ジョルジュ・サンドの強烈な存在感が際立っている。
小柄な小俣彩貴さんが出て来ると場が緊張するのが伝わって来て可笑しい。
阿部英貴さん演じる自信家リストが友人のためにだんだん熱くなっていくところが良い。
良妻賢母のクララ・シューマンが「馬車でその上を何度も行ったり来たりして…」と
夫を脅すところがとても好き、平野尚美さんもっと狂気じみて下さい(笑)

クラシックファンを満足させるためかピアノの音量が大きく、時々台詞を聞くのが辛い。
聴かせどころを絞るなど、工夫が必要な作品もあるだろうなと思った。

ナンセンスコメディと銘打ったからか若干キャラ設定に無理も感じられたが
観客をも欺く構成は面白かったし、後半マジなショパンの演出は良かった。
次はシリアスな設定と感動的な台詞の東京イボンヌも観てみたいと思った。




海に降る雪を魚達は知らない

海に降る雪を魚達は知らない

ユニット TOGETHER AGAIN

劇場MOMO(東京都)

2014/03/18 (火) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★

そしてまたくり返す
3.11をテーマにしながら、原発建設当時の揺れる地元を描くという視点がユニーク。
反対していたら生活が成り立たなくなる…という当時のリアルな実情や
賛成派と反対派、都市と地方、官と民、といった構図を再現することで
“私たちはみんなで原発を作ってしまった”という大きな失敗をもう一度問いかける。
何かを強く批判する時は、説明的で饒舌になりがちだが
金子真美、藤井びんという2人のベテラン俳優は
“説明を忘れさせる”台詞と、人物像の陰影の深さでその存在が際立っている。
観終わって、フライヤーの写真の重みがじわりと押し寄せて来る作品。

ネタバレBOX

震災直後の写真が大きく映し出されて、舞台は始まる。
震災後間もない原発の町を記録しなければと、映像作家スズキ(塩原啓太)は
ビデオカメラを携え単独で現地入りする。
スズキはそこで出会った老婆に導かれ、原発建設をめぐって真っ二つに割れる
40年前の「魚の町」へとタイムスリップする。
反対派のリーダーイサキ(坂浦洋子)、その伯母のカサゴ(金子真美)、
農業青年タコスケ(石塚良博)、絵描き志望のメバル(佐藤睦)らが住む町へ
電力会社のアサバ(若林正)や不動産屋のアカメ(藤井びん)がやって来る。
姿を消していたメバルの兄ワカシ(千葉誠樹)も3年ぶりに戻ってくる。
提示される条件に負けて次々と賛成に回る人々、家族の対立、
暗躍する男たちによるあからさまな贈収賄等をスズキは克明に記録していく…。

魚の名前を持つ人々のキャラが鮮やかで共感を呼ぶ。
反対派にも賛成派にもそれぞれの暮らしがあり、それを守ろうとして闘っている。
この作品の特徴のひとつは、きれい事では済まされない、時に取引さえもするような
推進派と反対派の関係がリアルに描かれていることだ。
このリアルさが、被災しなかったエリアに安穏とする私たちの責任をも鋭く問うてくる。

リアルさを支えるのは役者陣の人物造形に負うところが大きい。
特に、金と電力会社への就職を武器に次々と土地を買収していく不動産屋アカメ。
彼もまたこの土地で生まれ、中学卒業の翌日に集団就職の列車に乗ったひとりだった。
都会へ出て行かなければ生活できない故郷に強力な企業と将来を誘致する、
それこそが未来を創ると信じる彼もまた、この土地の人間なのだ。
藤井びんさんの不遜な表情には何かを信じて疑わない者の動じない強引さがにじむ。
最近立て続けに拝見した、台詞のほとんどない、或いは少ない舞台とはうって変わって
この作品では“説得”より“ねじ伏せて”事を進めようとするアカメの言葉に
圧倒的な説得力があって素晴らしい。

電力会社のアサバがまー嫌なヤツで、これがまた巧い。
南京玉すだれなんて時代がかった出し物で、ますます人の神経を逆なでするあたり
演じる若林正さんが嫌いになりそうなほど(笑)

反対派の拠点でおでん屋をしながら人々を見つめるカサゴの
一歩引いた視点が効いている。
演じる金子真美さんが一升瓶のふたをぽんっとてのひらで閉める音も心地よく
この土地に居ながらこの土地を憎み、同時に離れがたい愛着もあるという
複雑な心境をぶっきらぼうな台詞に込めて秀逸。
彼女の最後の決断に涙が止まらなかった。

反対派のリーダーとして先頭を走り続けるイサキ、
坂浦洋子さんの熱演でこの土地への思いは伝わってくるが、
窓の外の自然や幼いころの思い出だけでここを守ろうと説得するのはちと弱い気がする。
現実的な推進派の意見に比べて、イサキの理由は情緒に傾きがちだ。
もう少し何か、施設運営とか施設の子ども達を守るとか、具体的な強い理由が欲しい。
もっとも、それこそがあの当時推進派に押し切られた理由なのかもしれない。

メバルの不思議な力がとても魅力的で、スズキに
「この町の将来を知りながらなぜその事実を人々に知らせない」と叫ぶところ、
何も出来ない無力な自分への絶望感が痛切。
そのメバルと寄り添って生きて行く決意をしたタコスケを演じた石塚良博さん、
繊細な表情と溌剌とした青年らしさがとても良かった。

ただ最初にスズキと出会った老婆と、最後にもう一度対峙する所が見たいと思った。
撮った映像をスズキがこれからどうするのか、
ドキュメンタリーにはどんな力があるのか
魚の町へ誘った老婆に、その決意を語って欲しかった。
裁判所の場面より、むしろあの老婆がスズキに伝える言葉が聞きたかった。
それはそのまま今日の私たちへのメッセージであると思うから。
ちょっと待って誰コイツ!こんなヤツ知らない

ちょっと待って誰コイツ!こんなヤツ知らない

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

踊るPMC野郎
客入れパフォーマンスのあと、6つの短編とそれをつなぐ幕間のショートストーリー、
そして終演後に30分のアフターイベントまで付くという
まるで“数量限定春のスペシャル幕の内弁当”みたいに盛りだくさんで素敵な企画。
通常公演とは違ったテイストのラインナップが楽しく
キレの良いダンスの素晴らしさにびっくりした。
エンタメ精神全開の構成もポップンらしくて好きだが
作品自体に力があるのだから、もっとシンプルな構成でも成立すると思う。
ただ短編を並べただけでも、個々の作品は十分際立つはず。
★の5つ目は素晴らしいダンスに捧ぐ。

ネタバレBOX

開演前のパフォーマンス、今回はCR岡本物語さんのももクロに代わり
増田赤カブトさんの“あの歌姫”ガガ。
これがマジで面白くて、まー会場が盛り上がること。
初期の頃はただ衣装と目玉だけで“ガガって”いたが
今回はそのパフォーマンスに努力とセンスが表れていてとても素晴らしかった。
ボリューミーなボディながら顔の輪郭などが引き締まってその変化に驚く。
「私の彼は甲殻類」で見せたひとり芝居の充実ぶりにも、目を見張るものがある。
笑いを取る間とタイミング、ピュアな台詞など、ポップンで鍛えられたんだなあと思った。
吹原幸太さんとコンビで仕切る司会も臨機応変でゆとりが感じられ、とても良かった。

「ふたりは永遠に」、近未来SF世界に夫婦の相手を思いやる心が満ちていて
あっと驚くラストの真実がすごい。
「触り慣れた手のひら」のホラーもセットや演出が効いていて大変面白かった。
吹原さんはぶっ飛んだ設定やあり得ないシチュエーションの中で
普遍的な人の欲望や矛盾、弱さなどを際立たせるのが巧い。
危ないギャグも下ネタも、一本通った太い幹の枝葉だからこそ笑って済ませられる。
短編というコンパクトなサイズで、それが強調されたところが面白かった。

黒バックの舞台にオレンジ色のキューブが椅子やベンチとなる
シンプルなセットが鮮やか。
最終話では壁の一部が開いたりして、スタイリッシュな一面を見せた。
この最終話でのサイショモンドダスト★さんとNPO法人さんのやりとりは
クールで味わいがあってとても良かった。

そして何と言っても「悪魔のパンチ」で見せた迫力あるダンスシーン。
塩崎こうせいさんの素晴らしい動きから目が離せなかった。
正直、ストーリーが吹っ飛ぶくらいの強烈な印象。
この方の所属する劇団X-QUESTを観てみたくなった。
女の子みたいにきれいな顔だけど、意外に力強い野口オリジナルさんにもびっくりした。
岡本さんは、“挙動不審のおどおどタイプ”と“謎の大魔王タイプ”
それに“脱いだり着たり”とマルチぶりをいかんなく発揮してやっぱり素晴らしい。

別にオネエ系ではないのに何だかいつも女性役を振られるNPO法人さん、
やっぱり女性の繊細さが出るから納得してしまう。
アフターイベントのようなお遊びタイムに中途半端でなくきちんと演技するから
ポップンは面白いんだなあ。
妙なお題を出されてもちゃんと個性が表れて感心するもの。

短編ダーク編、短編ホラー編など、吹原作品の別の顔をもっと観てみたい。
これから毎回最後に全員のダンスを入れるっていうのはどうでしょう?
開演前も終演後も踊る踊る…これからはこのパターンか?!(希望)



楽屋

楽屋

劇団チョコレートケーキ

「劇」小劇場(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

浮遊する女優魂
世代を超えた女優たちの本音と哀愁が凝縮された「楽屋」という空間。
脚本の面白さ、メリハリの効いた台詞と間、キャストの素晴らしさを堪能した。
劇中劇ながら、これほど「三人姉妹」に感動したのは初めてだった。
暗闇を際立たせる照明が劇的で素晴らしい。

ネタバレBOX

濃い闇に浮び上る3つの化粧台、上手側に座る女優(伊東知香)は
間もなく幕が開く「かもめ」のニーナ役を演じる準備に余念がない。
後の2つの化粧台では2人の女が黙々と化粧を続けている。
ニーナが出て行った後、2人は互いに担当した役を振り返り披露し合う。
しがないプロンプ人生でも役には愛着があり、誇りもある。
やがてその2人、顔に火傷の痕がある戦前の女優(松本紀保)と
首に大きな切り傷のある戦後の女優(川田希)は、どちらも幽霊であることが判る。
そこへもうひとり、枕を抱えた元プロンプターの女優(井上みなみ)が現われ、
ニーナ役の女優に向かって「自分にニーナの役を返せ」と詰め寄る。
楽屋には時代を超えて女優たちの魂が浮遊している…。

生きている女優も死んだ女優も、舞台にかける情熱は同じ。
時代の違いはあるが、ついに表舞台に立てないままプロンプターで終わった2人が
命果てた後も楽屋に執着する気持ちが怖ろしくも切ない。

松本紀保さん演じる三好十郎の「斬られの仙太」、口跡と気風の良さが心地よく
その台詞を愛唱する気持ちがビシビシ伝わってくる。
伊東知香さんのニーナ、井上みなみさんのニーナの後で聴くと
その経験値と味わいが一段と深く共感を呼ぶのは私自身の世代に近いからか。
“いろんなものを犠牲にして”ここまで来た意地と気概にあふれた独白が
現代の女優らしくリアルで素晴らしかった。

「かもめ」も「マクベス」も「三人姉妹」も、戯曲のエッセンスを感じさせて本当に楽しい。
あの「三人姉妹」のラスト、思わず別公演として観てみたいと思った。
偉大な戯曲に女優たちの思いを乗せる脚本が巧みなのは言うまでもないが、
特に衣装を変えることも無くショールひとつで切り替えるシンプルな演出が秀逸。
前半幽霊2人の動きが抑えられていたことも、
後半の劇中劇でほとばしるような情熱との対比が鮮やかになって効果的だと思う。

チョコレートケーキが昨年9月に上演した「起て、飢えたる者よ」で
渋谷はるかさん演じる管理人の妻が変貌する様を観た時
表面上の顔と、秘めた本性とのギャップをえぐり出すのが巧いなあと思ったが
生と死、時代の違い、キャリアの差などを鮮やかに対比して見せて素晴らしかった。
改めてチョコレートケーキは全方位的に優れた劇団であると思わずにいられない。



Jack moment.

Jack moment.

バンタムクラスステージ

萬劇場(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

行く川の流れ
シカゴを舞台に思いがけなくギャングになってしまった会計士の男と熾烈な抗争を描く。
物静かな時計屋の男が物語の進行役を務め、
バンタム特有の整然とした場転(舞台には折りたたみ椅子とテーブルだけ)により
スピーディーながら一つひとつが腑に落ちる展開で脚本の巧さが際立つ。
登場人物が人間臭く魅力的で、キャスティングの妙を存分に味わった。
Jackと Frogのキャラが素晴らしく、スピンオフが観たくなる。
それにしてもバンタムの銃声は音質・音量・タイミング全てが素晴らしい。
照明に工夫があり、シンプルな舞台が劇的に変貌するのも見事だった。

ネタバレBOX

ちょっと映画の吹き替えみたいな台詞も時代と場所を感じさせて雰囲気がある。
「スティング」や「オーシャンズ11」みたいな痛快犯罪劇かと思いきや
後半事態はどんどん悪い方へと転がって行く。
シカゴのボスが入れ替わる度、時計屋によって繰り返される台詞が
どうしようもない無常感を醸し出して効果的だ。
フライヤーにある「方丈記」の精神が色濃く漂い始める。

丁寧な人物相関図が配布されて判り易く、よくこの人間関係をまとめたと感心する。
時流に乗ってのし上がろうとするギャングたちと
多くを持たなくても幸せになれると考えるジャックは対照的だ。
反撃に転じたジャックの選択眼で声をかけられた“落ちぶれ軍団”が集まって
チームを作り大仕事をやり遂げるプロセスが面白く、ここをもっと見ていたかった。
ここが充実すればするほど、ラストの二転三転が口惜しく、爽快で、
且つ“生きる場所を見出すために生きる”人の哀愁が浮き彫りになる。

ジャックを演じる信國輝彦さん、誠実な風貌がこの役にはまって実にリアル。
苦学して会計士になった堅実な男が知識を生かしてギャングに立ち向かう
痛快な役にぴったりで、ラストの潔い身の処し方も説得力があった。

フロッグ役の土屋兼久さん、自信なさげな時計屋の息子が
巻き込まれた果てにギャングの一味となり次第に立場が変わって行く様が
声や視線まで繊細に演じていて素晴らしい。
ジャックの婚約者マリーに不器用ながら心を寄せるシーンなど切なさ全開。
土屋さんはマジでポニーテールが一番似合う(と勝手にそう思う)。

ダニー役の福地教光さん、今回も今すぐ金が必要な理由は“女”という
どうしようもなく純で、立場に溺れやすく、虚勢を張りたがる男(しかも振られる)を
生き生きと演じていて、またそういうダメ場面で色気があるから面白い。
バンタムは、二枚目看板役者に“スーパー完璧主役”ではなく
こういう“情けな系ダメ男”を当てるところが本当に巧いと思う。
もったいないようでいて、実は次が楽しみになるのはこの意外性のためだ。

久しぶりに身体に響く銃声とエンタメ精神に大変満足。
次のバンタムはどんな作風だろう?
シリアスかコメディか、ダークなサスペンスか、銃声かナイフか、猟奇的か変質的か…
ってもう私の個人的期待が渦巻いて、今から楽しみでならない。
萬劇場、JR大塚駅まで行きさえすれば、そこからは近いと知った。
新しい等高線

新しい等高線

ユニークポイント

シアター711(東京都)

2014/03/11 (火) ~ 2014/03/18 (火)公演終了

満足度★★★★

地図屋の抵抗
東京にある地図会社の、昭和15年から終戦の20年夏までの5年間を描いた作品。
戦争中、国力を示す地図は国策の名の下、いとも簡単に書き変えを命じられた。
ユニークポイントらしい史実に基づいたストーリーに市井の人々のエピソードが絡む。
そのエピソードのバランスが、観ている私の興味と微妙にずれているように感じた。
私の知りたい事はひと言の説明で終わってしまい、
逆に会話のテンポが滞るように感じる場面があった。
時代とリンクした説得力あるテーマの選択はまさにユニークで新鮮。

ネタバレBOX

「色彩堂」は先代から続いた地図会社である。
社長(佐藤拓之)始め先代の頃から仕える森田(植村朝弘)ら社員の目下の悩みは
国の指導で軍需工場を“公園”とするなど地図を書き換えなければならないことだ。
さらに全国の地図会社は廃業届を提出して、政府のコントロールの下
一つの組織に統合されることになる。
戦局の変化に伴って市民の暮らしも否応なく変わって行く。
軍需景気、満州、特高、疎開、そしてヒロシマに原爆が落ちて終戦へと向かう中
地図屋の秘めた抵抗が初めてことばにされる…。

社員3人が皆住み込みで働く会社の雰囲気が温かい。
そこへ加わったお手伝いの純子(水田由佳)が
素直でよく働くが、ことばを発しないという設定が象徴的だ。
どうやら東北なまりを咎められたかして口を閉ざすようになったらしい純子は
ここへ来てから文字を覚え、さらに地図を描く技術も身につける。
「美しい等高線を描くので、戦争中僕が徹底的に教えたんだ」と
社長はひと言で説明するが、私はその事情が知りたいと思った。
自分に自信がなく無知で素朴な存在であった純子が
“美しい等高線を描く”と判ったいきさつや、特殊な技術を習得していく成長の過程こそ
その後の日本と重なるような気がする。

冒頭純子が連れて来られた時の会話が少しもどかしく、なかなか始まらない感を覚える。
特高に引っ張られた社員の事情も不明で(確かに特高は理由が無くてもやるのだろうが)
彼が本当に不敬罪に当たるような行為をしたのかどうか
私の見落としかもしれないが、それまでの彼の態度からして唐突な印象が残った。

軍の命令により終戦直後の地図を作るため、社長と共にヒロシマへ行くことになった時
思わずことばが口をついて出た純子に、社長が語りかける。
「これからは自分の言葉で話せばいい」
もはやどこからも規制されず、自立して自ら語り始める日本を象徴することばだ。
終戦の半年前、社長と内務省官僚(平家和典)が本音で話す場面も印象的だ。
地図屋の仕事に対する誇りと、関東大震災の時の哀しみをくり返すまいと言う
悲痛な思いが吐露されて、地図の持つ別の意味を考えさせる。

濃く熱く人情120%の森田を演じた植村朝弘さん、
巧いしそのキャラもテンションも私は好きだが、見慣れるまで少々浮いていたかも。
受ける社長が淡々として落ち着いた物腰だから余計そう見えてしまうのかもしれない。
誰からも信頼され相談される、とても魅力的なキャラだけにもったいない気がする。

ほとんど台詞の無い純子を演じた水田由佳さん、
丁寧な表情と視線が良かったと思う。
ひとつこれは脚本のことだけれど、終戦後の場面で違和感を覚えた。
お手伝いさんが雇い主の前でテーブルに突っ伏して寝たりするだろうか。

フライヤーも当日パンフも、等高線を思わせるストライプの色が美しい。
年表と1場~5場を解り易く示したページも親切で嬉しい。

「コントロール出来ないものをコントロールしたがる」政府の愚行が
再びくり返されようとしている今、
「物語は作るのではなく、発掘するもの」という作・演出の山田裕幸さんの姿勢が
端的に表れた作品であり、その危機感を私も共有したいと思う。
ヒロシマへ行った後、地図屋の戦後はどんなものになったのか、
そして地図は、どのように時代を写して行ったのだろう。





大きなものを破壊命令(再演)

大きなものを破壊命令(再演)

ニッポンの河川

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2014/03/01 (土) ~ 2014/03/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

全ては役者からくり出される
“何やら大きな力に対峙する人々”を描いた作品”とのことだが
まさに“対峙する”人々が躍動する舞台だった。
並走する複数の物語を瞬時に切り替えるのは
舞台の隅の丸いボタンを「かちゃん!」と力強く踏む照明のON &OFF。
手にしたカセットを自分で入れ替えながらBGMを流すという超アナログな手法が
役者の台詞と絶妙にマッチして一体感ありまくり。
四方から観ている観客と対峙する緊張感にあふれた60分。

ネタバレBOX

両国国技館のように四方から客席に囲まれた舞台。
天井から様々な照明器具が下がっていて、どれも柔らかな光を放っている。
四隅のうち三方には自転車が吊り下げられている。
舞台の端に丸いボタンが設置されている。

これからボルダリングかバレーボールの試合でもするのかといったいでたちの4人、
カセットテープをポケットに詰め込み、ウォークマンや照明器具を装備して登場する。
①熊谷の首絞めジャックをやっつけて俺が一番のワルだってことを証明してやる
 と息巻く14歳の神林衛(佐藤真弓)と先生、仲間たち
②ラバウルのジャングルで、軍を脱走して来た4人姉妹が
 小さな葉音にも緊張しながら敵の襲来に備えて銃を構える
 そんな中でも鎌倉育ちの4姉妹はかつて叔父様が持ちこんだ
 長姉の縁談の話、夏祭りの夜の話で盛り上がる

とういう主に二つのストーリーが交錯しながら進むのだがその切り替えが実に鮮やか。
台詞、動き、照明、BGMを繰り出すのが全て役者だからタイミングに勢いがある。
何か自分より大きなものに対峙する時の緊迫感が伝わってくる。
それが真剣であればあるほど、傍で観ている私たちは可笑しくてたまらない。

場面が目まぐるしく変わるのにつれて、キャラも180度変わるのがまた楽しい。
中学生からいきなり艶やかな声、小津映画みたいにちょっと早口で
「…ですのよ」なんて言う。
あれは原節子か山本富士子かという印象だが、とてもこなれた感じで素敵。
佐藤真弓さん演じる14歳の神林衛が生き生きと悪ぶってとても魅力的。
たおやかな姉が“叔父さん”になったりするから目が離せない。
“身体を開く”お姉さまと、鳩の鳴き声と動きにはホント笑ってしまった。
中学からラバウルへ、瞬時に切り替わるキャラにブレが無く、その集中力が素晴らしい。

何だろう、この面白さは…。
他のスタッフがやればいい事を自分たちでやって、手間はかかるし順番は気になるし、
腰回りは重くなるし、衣装に色気は無いし。
だけど首絞めジャックにも鳩にも、“マジで対峙する”姿には素直な強さがある。
遊びにも見える4人の役割に、野外劇のように素朴な“なんでもやらなきゃ”感がある。
演劇にはこんな表現があって、こんな見せ方があるのだということをおしえてくれる。
このコンパクトな構成に充実の台詞、福原充則さんの脚本・演出に魅了された。

自転車のライトが花火になる抒情的なラストがとてもよかった。
破壊しようとして立ち向かった結果、逆にやられてしまった者の末路が美しい。
役者陣が皆楽しそうに演じているのがわかる。
書くのも演るのも大変だろうけれど、またこういうのを観たいので宜しくお願いします。
ただチラシが読みにくいのよね…(^_^;)


眠る羊

眠る羊

十七戦地

LIFT(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

奢る平家
「国民の理解を得て比良坂家を守るため」平易な言葉を使って
証人喚問のリハーサルをするものだから、政治の話が大変解り易くなった。
国を守ると言いながら、守りたいのは一族とその立場、プライド、既得権。
過去作品のようなダイナミックな展開や大胆なファンタジー要素は薄れたが
その分現実とリンクして“多分絶対あるある”的なリアリティが色濃く漂う。
キャラの立った一族に加えて有能な秘書達が事態を引っ張るのが面白く
過去の経緯はともかくラスト次男の選択は、潔くて清々しい。
このラストは作者の理想・ファンタジーか、国の行方を託すひとすじの光か。
それにしてもスペース、テーマ、人数など、敢えて難しい制限をかけた中での
この設定と会話の緊張感は素晴らしい。
また意外なキャスティングで役者の新たな面を見事に引き出している。

ネタバレBOX

証人喚問を控えた与党国防部会の衆議院議員が、想定問答集を元にリハーサルを行う。
亡き父の後を継いで国防一族である3人の息子たちはそれぞれ要職についているが
今や3人とも不正疑惑の渦中にあり、次男である議員はその釈明を求められている。
リハーサルには3人のほか、母親、議員の妻、秘書3人、左翼系の妹、
そして彼らが身を寄せているこのギャラリーのオーナーで亡き父の秘書兼愛人の女性。
リハーサルが進む中新事実が次々と発覚し、事態は予想しなかった方向へと動き出す。
次男は、最終決断を迫られる。
「調査中」と逃げるか、認めて謝罪するか…。

まずこの証人喚問をエンタメ化するという設定が素晴らしい。
そもそも一般人とかけ離れたモラルや金銭感覚で動く政治家や官僚という存在に
滑稽さを見いだすところがユニークかつ鋭い。
証人喚問というショーの演出を練る舞台裏を暴く面白さが秀逸。

柳井作品には珍しく笑いをもたらしているのも、この“存在の滑稽さ”だ。
へそでも見なくちゃ頭を下げることができない、ボクが国を守り動かすと決心している、
親切な人からすぐ金を借りる、自分が正しいとマジで信じている、人の話を聞かない、
最後はやっぱり金がモノを言う、バレなければ大抵のことは大丈夫…etc.
といった生態が現実とリンクし、その既視感が可笑しい。

キャラの設定にメリハリがあるのも魅力的。
いつも沈着冷静でクールな役が多かった北川さんが
傲慢で横柄で「殺してやる!」とか言う次男の与党議員を演じるのが大変楽しい。
意外に凶暴な役とか似合いそう。
防衛省装備施設本部調達課にいながら軍需商社から平気で金を借りる
オペラ狂いの長男を演じた澤口渉さん、
“小役人のぼんくら”と言われる屈折を
軽いノリでやり過ごそうとあがく様が情けなさ全開で印象的。

困った3兄弟とは対照的に彼らを支える秘書たちは非常に優秀で、そこもまたリアルだ。
“素朴な人”でなく立板に水みたいな秘書を演じた真田雅隆さん、
都会的なキレの良い台詞がリハーサルを牽引して魅力的だった。
結果的にリハーサルをリードした、亡き父の秘書兼愛人美咲を演じた植木希実子さん、
冷静に状況判断をしながら重大な決断をさせる、理知的なキャラがぴたりとはまる。

ダメダメ一族を描きながら、作者はどこか一縷の望みを託しているように見える。
左翼寄りの妹礼子が、最後レコーダーを受け取らず美咲に委ねるところ、
一族の失脚を前にどこか明るい兄弟たち、
潔くバッジを外す決断をした次男も、最後は屈託のある美咲に対して本音で向き合う。
柳井氏の“絶望しないために必要なファンタジー”を感じた。

柳井氏のtwitterを見るといつも、リラックスした自虐ネタに笑いつつも
「制限の中で印象的なメッセージを効果的に発信する」という作家としての言葉を感じる。
それは単なるつぶやきというレベルを超えていて
この瞬発力とクオリティが戯曲の核になっているような気がする。



かもめ~21世紀になり全面化しつつある中二病は何によって癒されるのか、あるいはついに癒しえないのか、に関する一考察~

かもめ~21世紀になり全面化しつつある中二病は何によって癒されるのか、あるいはついに癒しえないのか、に関する一考察~

アロッタファジャイナ

ギャラリーLE DECO(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★

中二病なう
Aチーム観劇。
自意識、自己愛の突出する思春期を指す“中二病”という視点が新鮮。
登場人物を3組のカップルにしぼり、それぞれ“中二病なう”、“中二病こじらせ型”
“中二病達人”の3様を鮮やかに見せる。
15歳の宇野愛海さんが初々しく、まさに中二病現在進行形かと思わせるあたり
計算された演出ともとれるが、リアルにみずみずしい舞台となった。
その反面、若さゆえか浅さも見られたが、第4幕最後のニーナは熱演だった。

ネタバレBOX

演技スペースを3方から客席が囲んでいる。
コンクリートむき出しの床に白い布で覆われたソファ、同じく小さな椅子、
客席横の階段手すりも白い紙でくるまれている。

古い形式を否定し、新しい演劇を創るのだと息巻くトレープレフ(内田明)。
大女優アルカージナ(辻しのぶ)を母に持ち、
その愛人は人気作家のトリゴーリン(石原尚大)である。
若く美しいニーナ(宇野愛海)を主役にトレープレフは新作を披露するが
母はハナから小馬鹿にしてまともに観ようともしない。
愛するニーナもトリゴーリンに奪われ、トレープレフは屈辱と怒りと憎しみに狂う。
トレープレフを愛するマーシャ(香元雅妃)は、思いを断ち切るように
自分を思い続けてくれたメドヴェージェンコ(宮本行)と結婚する。
4年後に弄ばれたかもめが帰ってきた時、絶望したトレープレフは拳銃自殺する…。

という昼メロみたいな「かもめ」だが
登場人物が3組のカップルだけというシンプルな作りで骨格がくっきりした感じ。
「中二病にでもならなきゃ恋愛なんてできないぜ」というメッセージが
込められていたかどうかは不明だが、
臆病かストーカーかという極端なケースに走りがちな昨今の恋愛事情とは裏腹に
“恋愛コミュニケーションとその手腕”を観た思いがする。

トレープレフとニーナ 「中二病なう」
まだ自分を客観視出来ない、実力も把握していないにもかかわらず
他人の才能を批判することだけはいっちょ前なトレープレフ。
ちょっと自分を悲劇のヒーローにし過ぎている嫌いはあるが
マザコン全開でわからんじんの草食系っぽさが良く出ていたと思う。
ニーナ演じる宇野さんがリアルタイムで経験値の少ない方だから
そこはリアルなのだが、素で勝負するには他が濃いだけにちょっと弱いかな。
4幕で村に戻って来た所は頑張っていたけど、今15歳の宇野さんが
もう少し大人になった時の崩れたニーナを観てみたいと思った。

マーシャとメドヴェージェンコ 「中二病こじらせ型」
自分の事は解っているつもりで、実は解っていない中途半端なお年頃。
頭で解って行動しても、気持ちがついて行かなくて空中分解するマーシャと
全部解って結婚したくせにやっぱりそれじゃいやだよう、と
トレープレフにあたり散らすメドヴェージェンコの仮面夫婦が上手い。
感情表現がさらりとした手触りのマーシャに対して
ねちねち陰湿で嫌味なメドヴェージェンコの組み合わせも良いバランス。

アルカージナとトリゴーリン 「中二病達人」
つまりは相手を翻弄するようになって初めて一人前なのだという貫禄のカップル。
欲しい物は馬乗りになって首絞めんばかりになってでも引き留める女王様。
彼女の言いなりになっているようで実はちゃっかり若いニーナもモノにするおじさん。
飽きたら捨ててまた女王様の元へ戻るあたり、大したもんださすがちょい悪オヤジ。
いい年して、ここぞと言う時には中二病を引っ張り出して己を鼓舞し、
純粋な情熱と言う名の下に好き放題しちゃう都合のよいカンフル剤として使う。
若いもんが敵うわけないわ。

という大人への階段がとても良く俯瞰出来て大変面白かった。
中二病の克服には恋の挫折と恋の成就、きっと両方必要なのかもしれない。
エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-

エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-

東京マハロ

駅前劇場(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/04 (火)公演終了

満足度★★★★

エースに会いたい
「エースが死んだ」という知らせを受け、15年ぶりに高校球児たちが集まる。
音信不通だったエースのその後、棺桶の無い通夜、噴き出す不満。
謎が明らかになる終盤、登場しないエースの顔が浮かんで来るような秀作。
達者な役者陣の台詞が素晴らしく、台詞のほとんど無い藤井びんさんがまた良い。
喪主である妻の言葉に、かつての球児たちと一緒に私も泣いていた。
なぜあのエースが死ななければならなかったのかと。

ネタバレBOX

劇場に入ってまず、雰囲気ある珈琲店のセットに目を奪われた。
つやつやしたテーブルと椅子、ステンドグラスの窓、柔らかい照明、
カウンターのしつらえやメニューに至るまで、そこに身を置きたくなる空間があった。
作者のこの空間への愛情とこだわりがあふれるようなセットだ。

高校時代、あの松坂から練習試合の申し込みを受けるほどの実力校は
絶対的なエースを誇っていた。
ところがある試合中の偶発事故でエースは致命的な怪我を負い、
結局それが元で野球を辞めて転校して行った。
その後の足取りを誰も知らないまま15年が経ったある日
突然エースの死が知らされて、当時のメンバーが集まることになった。
高校時代、大人の空間として彼らが憧れた場所、珈琲「エリカ」に現われた面々は
平静を装いながらもそれぞれが屈託を抱えている。
先輩への批判、捺子を巡る攻防、夫への疑惑、そしてエリカでのあの事件…。
エースの死の謎を前に、しまい込んでいた思いがふきこぼれ始める…。

「久しぶり~」と言いながら腹の内に別の思いを秘めている人々の
“何かある”表情が徐々に変化していく様が秀逸。
展開に無理がなく、理由を見つけて難しいことから逃げたい人間の心理が極めて自然だ。
体育会系に限らず、誰もが覚える自己肯定と言い訳に思わず笑ってしまう。
しかしそこに、逃げもせず、誰も恨まずに去って行った者がひとりいるとなると
話は少し違ってくる。
まして一番傷付き人生さえ狂ってしまったその彼が、
唐突に消えてしまったとあれば尚更。
この15年間、側でエースを見てきた妻の言葉に泣かずにはいられなかった。
その事実の前で、ちっぽけなプライドや自己肯定など何の意味があるだろう。

“しがない”がスーツ着ているみたいなお宮の松さん、
台詞のタイミングと間が素晴らしく、会話の妙を堪能した。
高校時代からイケイケだった捺子を演じた山口芙未子さん、
フェイスブックに写真を載せたがりの現在が相変わらずな感じで、
それがまた中身の空ろさを見せて上手い。
ほとんど台詞の無いマスターを演じた藤井びんさん、
味わいのある目線で、沈黙をそれと感じさせない演技が素晴らしい。
主宰で作・演出の矢島弘一さん、前説とチョイ役で登場されたが
口跡と声が魅力的で、この方の芝居をちゃんと観てみたいと思った。

エースはいつもエースだったのだ。
野球を辞めた後もエースだったし、葬儀が終わった今も燦然と輝くエースである。
「エリカ」は神保町に実在する珈琲店だそうだが、
その店名の由来である花言葉がひと言つぶやかれるラストが良かった。
誰も皆「エリカな人々」だったのだ、そしてエースもまた。
蜜月の獣

蜜月の獣

小西耕一 ひとり芝居

RAFT(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/03 (月)公演終了

満足度★★★★

切ない狂気
ひとり芝居というのはユニット名だそうで、第四回公演となる今回は三人芝居。
軽そうなキャラと会話のリズムにいつもより笑って観ていたら
中盤から一気に小西モード全開、重くてじっとり行きつく先は切ない狂気。
登場人物が抱えるトラウマが明らかになった途端
それまでの場面が違ったものに見えて来る展開と
時間軸をずらす構成が上手い。
優しさには自己チューがもれなくついてくる感じの、3人の会話が絶妙だ。

ネタバレBOX

ケンジ(河西裕介)、ショウヘイ(小西耕一)、ミツコ(宍戸香那恵)の3人は同い年。
バツイチのケンジにミツコを紹介して付き合うように勧めたのはショウヘイだ。
二人は同棲を始めたが、ミツコは心配性なケンジの束縛にうんざりし始めている。
だがケンジの心配性には深い理由があり、それにはケンジの元妻が関わっていた。
一方ミツコにも大きな秘密があった。
そして実はミツコのことがずっと好きだったショウヘイは
ケンジと距離を置くミツコにある決意を打ち明ける。
それがきっかけでこんなことになるとは思いもせずに…。

セックスをめぐる深いトラウマが、人生に大きな影を落とす話。
そのトラウマに触れずにいるうちは、優しい関係が保たれるのだが
ひとたび過去の記憶が現実に重なると、もう制御不能になってしまう。

簡単に打ち明けたり共有したり出来ない悩みは
次第に歪み曲がりねじれながら何度となく反芻され、濃度が高くなっていく。
異様な言動の最初のひと言は、さらりと“変なヤツ”程度に描かれるのだが
後にあれが狂気の片鱗であったかと思うと戦慄する。
時系列を入れ替えることで、行動の理由が後から判明するのがとても効果的だ。

3人の、それぞれひとりよがりで思い込みが強く、
思考の悪循環を断ち切ることができないキャラクターが際立っていて面白い。
ケンジ役の河西裕介さん、繊細で優しく、妻を救えなかったことで
自分を責めながら同時に自分以外を攻撃する複雑な表情が上手い。

ただ3人中2人までもが、犯罪被害者又は犯罪被害者の家族であるという設定は
ちょっとドラマチック過ぎて感情移入しにくい気がした。

小西さんの書く脚本は、ひとり芝居でも相手の台詞が聴こえてくるようだった。
二人芝居では現代のすれ違う会話が降り積もって行く様を描いた。
三人芝居になったらぐっと空間が広がって会話が豊かになった。
会話の“遊び”みたいな、空気感も含めてそのやりとりが可笑しくて笑った。
笑った分、後半の“暴走する個人的行き場の無い感情”の怖しさが際立った。
個人を掘り下げることで、繋がることが難しい孤独な時代が浮び上ってくる。

当日パンフに“ワークショップオーディション”の告知が載っていたが
次は“劇団ひとり芝居”的に人数が増えるのだろうか。
相変わらず早々とタイトルも決定していて、次回7月の公演が楽しみでならない。

あの世界

あの世界

MCR

OFF OFFシアター(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

渾身の罵詈雑言
久々に強烈なやつをくらって、くらくらしながら笑った。
罵詈雑言はこうでなくっちゃ。
追い詰められた人間の本音がある、そして
罵詈雑言を浴びせながらその相手を心底愛している。
こんな罵詈雑言が書けるのは櫻井智也だけだ。
設定、台詞、キャラ、役者、全てがリング、じゃなくて舞台に結集した充実のカード。

ネタバレBOX

プロレスファンの熱気が押し寄せる後楽園ホールの控室。
地味な中年プロレスラー有川(有川マコト)は、これから始まる試合で
“プロレス”をするつもりでいる。
だが敵はどうやら“ガチ”で来るらしい。
かつて有川とタッグを組み、膝を壊して引退していた櫻井(櫻井智也)は、
実家の駄菓子屋の手伝いを放り出してこの2ヶ月間トレーニング指南をして来た。
現状維持、安全なプロレスでこの場を凌ぎ、
飲み屋の女アニータ(後藤飛鳥)に金を貢ぎたい有川。
ちょっとしょぼいがいまだ現役の有川に夢を託し、
ファンの期待を裏切らないガチ試合をして欲しい櫻井。
ここへ来て全く意見の合わない二人は、取材に来たプロレス記者(堀靖明)や
アニータを巻き込みながら、試合直前の控室で怒涛のバトルを繰り広げる…。

この作品のキモ、血管切れそうな罵詈雑言は、究極の“価値観のぶつかり合い”である。
二人の価値観は櫻井の引退を機にどんどん離れて行き、今ではだいぶ距離がある。
ケガしないようにしてアニータと旅行に行きたい有川の守りの姿勢も共感を呼ぶし
危険なガチ試合にもし勝てたら、この先の人生が大きく変わると期待する櫻井にも
(たとえそれが引退した櫻井の夢を託す身勝手なものであっても)共感する。
これだけ力の入った会話を聞きながら全く疲労を感じないのは、ひとえに
二人の罵詈雑言が放つ鬱屈や卑屈、自己嫌悪、言い訳に“普遍性”があるからだ。
観ている私の感情が1時間15分ずっと舞台から乖離することがない。

この会話に取材記者堀靖明がレフェリーのように割って入るのがまた可笑しい。
終盤、有川と櫻井がタッグを組んでいた頃の試合を記者が再現する場面、
相変わらず熱いが滑舌の良い堀さんの実況中継は、プロレスへの愛に満ちている。
作・演出との相性の良さを感じさせて素晴らしい。
二人の罵詈雑言を固唾を飲んで見守る台詞の無い時間も、この人は上手い。

見た目日本人、実はチリ人のアニータを演じた後藤飛鳥さん、
天然の“拝金主義”ぶりもはまっていて、その突出してクールな価値観が効果的。
“それ言っちゃう…”的な本音をえぐってしまうしたたかな女が可愛かった。

“のちに「今年最もエキサイティングな試合」と呼ばれることになる試合”が
このあと始まると言うことは、ガチで行ったんだろう、そうだろう有川?!
そう、人生はガチなのよ。
ラスト、肩で風切って控室を出て行く男3人とほとんど同じ気持ちで
私もOFF OFFシアターを出たのであった。


風雲!チキン野郎城2

風雲!チキン野郎城2

ポップンマッシュルームチキン野郎

ステージカフェ下北沢亭(東京都)

2014/02/18 (火) ~ 2014/02/18 (火)公演終了

満足度★★★★★

イケメン
受付や司会進行にもメンバーひとりひとりの個性が表れていて新鮮な印象を受けた。
CR岡本物語さんが真摯な態度で案内してくれるだけで、もう感動してしまう。
この人は服を着ても着なくても同じスタンスで存在するところが素晴らしい。

完成間近のDVDチラ見せ上映会も面白かったし
昨年上演された短編をマジでやってくれたのもとても良かった。
吹原幸太さんの、笑いを封印した作品に感動した。
来る3月のショートショートフルパワーズでも、こういう風に
本公演とは全く違った作風のものをやってくれるのか!と期待が膨らむ。

今さらだが間近で見ると、イケメンを揃えた劇団なんだなあと思った。
日頃かぶり物やメイクでよくわからないということもあるかもしれないけど…。
とっても楽しかった、平日の昼間っから行ってよかったなぁ\(^o^)/

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