うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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男の60分 -2014-

男の60分 -2014-

ゲキバカ

王子小劇場(東京都)

2014/03/19 (水) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

躍動する小学生
初めてのゲキバカ、すんごい楽しかった!
笑っているうちにいつの間にか泣いてた。
“ノスタルジー”と“子どもの時間”のバランスが良く、脚本の巧さに脱帽。
段ボール箱のみのセットもいいし、BGMと照明も好き。
変にオサレにしない無邪気なダンスが素晴らしく、ストーリーを盛り上げる。
子どもを演じると役者の力量がモロに出るが、
平面的でないキャラが生き生きとして本当に魅力的だった。
ケーよ、あんまり似ていてあなたの今後の人生が心配になる(笑)

ネタバレBOX

大きな段ボール箱が舞台を囲むように置かれている。
弟(菊池祐太)が跡を継いでいる故郷の家へ、
母の葬儀のために帰って来た兄(西川康太郎)は
蝉の声を聞きながら子ども時代のことを思い出す…。

再現される子ども時代のエピソードが秀逸だ。
在日の子コチュジャン(伊藤亜斗武)、貧乏で万引きするトッタン(書川勇輝)、
悪天候の中、川で泳いで足を怪我する河童(石黒圭一郎)、
野球からサッカーに転向するケー(伊藤今人)、
そしてメンバーを率いるもじゃお(鈴木ハルニ)。
兄弟はこのメンバーといつも一緒だった。
葬儀の準備をする兄弟の会話がとても繊細で「静」であるのと対照的に
子ども時代は躍動感あふれる「動」の展開だが、
内容はただ「動」なだけではなく、子どもの社会をリアルにとらえている。
だからその中で“怪獣ごっこ”のギャグがめちゃくちゃ冴えて大笑いした。

作・演出の柿ノ木タケヲさんの設定はどちらかというと情緒的で
ラスト、葬儀の準備中に弟の子どもが生まれたり、
売れない作家の兄が母を書きたいと語ったりと、思い入れたっぷりなのだが
対照的に子ども時代の演出のはじけっぷりが見事で、そのバランスが素晴らしい。

隙のない役者陣が全員素晴らしく、子ども時代は圧巻。
ダンスの振り付けが自然な子どものエネルギーを表現していて
伊藤今人さんの“作為を感じさせない”センスに魅了された。
それにしても今人さんとあの人の激似ぶり、あれは演技を超えている(笑)

ゲキバカの役者さんっていいなあ。
おかげで私も、王子で素敵な夏休みを過ごしたのであった。
ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

ショパンの馬鹿!!!~別れの夜~

劇団東京イボンヌ

ワーサルシアター(東京都)

2014/03/18 (火) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★

名曲誕生秘話(笑)
クラシックの名曲をテーマにナンセンスコメディーを紡ぐという東京イボンヌ、
組み合わせのあまりのギャップに想像がつかなかったが
これがバカバカしくて可笑しかった。
赤ちゃんがえりのシューマンにホラーのようなその妻クララなど
あっと驚くキャラのオンパレード、圧巻は貫禄ありまくりのジョルジュ・サンド。
ショパン、大変だったんだね。
でもあそこまでしなければ自分の気持ちが解らないなんて、
やっぱり君はお馬鹿さんだ♪

ネタバレBOX

劇場に入ると下手側舞台の手前にピアノが置かれている。
舞台上にはショパンの家の居間、横長のテーブルに椅子が5脚。
色白で長身のショパン(土橋建太)は自信が無くてほとんど挙動不審状態。
家政婦のステラ(本堂史子)に励まされたり叱咤激励されたりしている。
奔放で他の男とも自由に付き合う肉食獣ジョルジュ・サンド(小俣彩貴)と別れたくて
その相談をするために今日友人達を呼んでいる。
シューマン(古賀司照)とその妻クララ(串山麻衣)、
リスト(阿部英貴)とその恋人マリー伯爵夫人(平野尚美)は
どうしたらあの怖ろしいジョルジュ・サンドが別れ話を受け入れるか知恵を出し合うが…。

ぶっ飛んだキャラ設定にびっくりしているうちに
観ているこちらまで騙されてしまう構成が巧い。
つまりはジョルジュ・サンドの方が1枚も2枚も上手だったということで
彼女のてのひらでピアノを弾いているショパンが見えて来る構造。
最後にようやく自分の気持ちに気づいたショパンに名曲が降りて来てスランプ脱出♪

ジョルジュ・サンドの強烈な存在感が際立っている。
小柄な小俣彩貴さんが出て来ると場が緊張するのが伝わって来て可笑しい。
阿部英貴さん演じる自信家リストが友人のためにだんだん熱くなっていくところが良い。
良妻賢母のクララ・シューマンが「馬車でその上を何度も行ったり来たりして…」と
夫を脅すところがとても好き、平野尚美さんもっと狂気じみて下さい(笑)

クラシックファンを満足させるためかピアノの音量が大きく、時々台詞を聞くのが辛い。
聴かせどころを絞るなど、工夫が必要な作品もあるだろうなと思った。

ナンセンスコメディと銘打ったからか若干キャラ設定に無理も感じられたが
観客をも欺く構成は面白かったし、後半マジなショパンの演出は良かった。
次はシリアスな設定と感動的な台詞の東京イボンヌも観てみたいと思った。




海に降る雪を魚達は知らない

海に降る雪を魚達は知らない

ユニット TOGETHER AGAIN

劇場MOMO(東京都)

2014/03/18 (火) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★

そしてまたくり返す
3.11をテーマにしながら、原発建設当時の揺れる地元を描くという視点がユニーク。
反対していたら生活が成り立たなくなる…という当時のリアルな実情や
賛成派と反対派、都市と地方、官と民、といった構図を再現することで
“私たちはみんなで原発を作ってしまった”という大きな失敗をもう一度問いかける。
何かを強く批判する時は、説明的で饒舌になりがちだが
金子真美、藤井びんという2人のベテラン俳優は
“説明を忘れさせる”台詞と、人物像の陰影の深さでその存在が際立っている。
観終わって、フライヤーの写真の重みがじわりと押し寄せて来る作品。

ネタバレBOX

震災直後の写真が大きく映し出されて、舞台は始まる。
震災後間もない原発の町を記録しなければと、映像作家スズキ(塩原啓太)は
ビデオカメラを携え単独で現地入りする。
スズキはそこで出会った老婆に導かれ、原発建設をめぐって真っ二つに割れる
40年前の「魚の町」へとタイムスリップする。
反対派のリーダーイサキ(坂浦洋子)、その伯母のカサゴ(金子真美)、
農業青年タコスケ(石塚良博)、絵描き志望のメバル(佐藤睦)らが住む町へ
電力会社のアサバ(若林正)や不動産屋のアカメ(藤井びん)がやって来る。
姿を消していたメバルの兄ワカシ(千葉誠樹)も3年ぶりに戻ってくる。
提示される条件に負けて次々と賛成に回る人々、家族の対立、
暗躍する男たちによるあからさまな贈収賄等をスズキは克明に記録していく…。

魚の名前を持つ人々のキャラが鮮やかで共感を呼ぶ。
反対派にも賛成派にもそれぞれの暮らしがあり、それを守ろうとして闘っている。
この作品の特徴のひとつは、きれい事では済まされない、時に取引さえもするような
推進派と反対派の関係がリアルに描かれていることだ。
このリアルさが、被災しなかったエリアに安穏とする私たちの責任をも鋭く問うてくる。

リアルさを支えるのは役者陣の人物造形に負うところが大きい。
特に、金と電力会社への就職を武器に次々と土地を買収していく不動産屋アカメ。
彼もまたこの土地で生まれ、中学卒業の翌日に集団就職の列車に乗ったひとりだった。
都会へ出て行かなければ生活できない故郷に強力な企業と将来を誘致する、
それこそが未来を創ると信じる彼もまた、この土地の人間なのだ。
藤井びんさんの不遜な表情には何かを信じて疑わない者の動じない強引さがにじむ。
最近立て続けに拝見した、台詞のほとんどない、或いは少ない舞台とはうって変わって
この作品では“説得”より“ねじ伏せて”事を進めようとするアカメの言葉に
圧倒的な説得力があって素晴らしい。

電力会社のアサバがまー嫌なヤツで、これがまた巧い。
南京玉すだれなんて時代がかった出し物で、ますます人の神経を逆なでするあたり
演じる若林正さんが嫌いになりそうなほど(笑)

反対派の拠点でおでん屋をしながら人々を見つめるカサゴの
一歩引いた視点が効いている。
演じる金子真美さんが一升瓶のふたをぽんっとてのひらで閉める音も心地よく
この土地に居ながらこの土地を憎み、同時に離れがたい愛着もあるという
複雑な心境をぶっきらぼうな台詞に込めて秀逸。
彼女の最後の決断に涙が止まらなかった。

反対派のリーダーとして先頭を走り続けるイサキ、
坂浦洋子さんの熱演でこの土地への思いは伝わってくるが、
窓の外の自然や幼いころの思い出だけでここを守ろうと説得するのはちと弱い気がする。
現実的な推進派の意見に比べて、イサキの理由は情緒に傾きがちだ。
もう少し何か、施設運営とか施設の子ども達を守るとか、具体的な強い理由が欲しい。
もっとも、それこそがあの当時推進派に押し切られた理由なのかもしれない。

メバルの不思議な力がとても魅力的で、スズキに
「この町の将来を知りながらなぜその事実を人々に知らせない」と叫ぶところ、
何も出来ない無力な自分への絶望感が痛切。
そのメバルと寄り添って生きて行く決意をしたタコスケを演じた石塚良博さん、
繊細な表情と溌剌とした青年らしさがとても良かった。

ただ最初にスズキと出会った老婆と、最後にもう一度対峙する所が見たいと思った。
撮った映像をスズキがこれからどうするのか、
ドキュメンタリーにはどんな力があるのか
魚の町へ誘った老婆に、その決意を語って欲しかった。
裁判所の場面より、むしろあの老婆がスズキに伝える言葉が聞きたかった。
それはそのまま今日の私たちへのメッセージであると思うから。
ちょっと待って誰コイツ!こんなヤツ知らない

ちょっと待って誰コイツ!こんなヤツ知らない

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

踊るPMC野郎
客入れパフォーマンスのあと、6つの短編とそれをつなぐ幕間のショートストーリー、
そして終演後に30分のアフターイベントまで付くという
まるで“数量限定春のスペシャル幕の内弁当”みたいに盛りだくさんで素敵な企画。
通常公演とは違ったテイストのラインナップが楽しく
キレの良いダンスの素晴らしさにびっくりした。
エンタメ精神全開の構成もポップンらしくて好きだが
作品自体に力があるのだから、もっとシンプルな構成でも成立すると思う。
ただ短編を並べただけでも、個々の作品は十分際立つはず。
★の5つ目は素晴らしいダンスに捧ぐ。

ネタバレBOX

開演前のパフォーマンス、今回はCR岡本物語さんのももクロに代わり
増田赤カブトさんの“あの歌姫”ガガ。
これがマジで面白くて、まー会場が盛り上がること。
初期の頃はただ衣装と目玉だけで“ガガって”いたが
今回はそのパフォーマンスに努力とセンスが表れていてとても素晴らしかった。
ボリューミーなボディながら顔の輪郭などが引き締まってその変化に驚く。
「私の彼は甲殻類」で見せたひとり芝居の充実ぶりにも、目を見張るものがある。
笑いを取る間とタイミング、ピュアな台詞など、ポップンで鍛えられたんだなあと思った。
吹原幸太さんとコンビで仕切る司会も臨機応変でゆとりが感じられ、とても良かった。

「ふたりは永遠に」、近未来SF世界に夫婦の相手を思いやる心が満ちていて
あっと驚くラストの真実がすごい。
「触り慣れた手のひら」のホラーもセットや演出が効いていて大変面白かった。
吹原さんはぶっ飛んだ設定やあり得ないシチュエーションの中で
普遍的な人の欲望や矛盾、弱さなどを際立たせるのが巧い。
危ないギャグも下ネタも、一本通った太い幹の枝葉だからこそ笑って済ませられる。
短編というコンパクトなサイズで、それが強調されたところが面白かった。

黒バックの舞台にオレンジ色のキューブが椅子やベンチとなる
シンプルなセットが鮮やか。
最終話では壁の一部が開いたりして、スタイリッシュな一面を見せた。
この最終話でのサイショモンドダスト★さんとNPO法人さんのやりとりは
クールで味わいがあってとても良かった。

そして何と言っても「悪魔のパンチ」で見せた迫力あるダンスシーン。
塩崎こうせいさんの素晴らしい動きから目が離せなかった。
正直、ストーリーが吹っ飛ぶくらいの強烈な印象。
この方の所属する劇団X-QUESTを観てみたくなった。
女の子みたいにきれいな顔だけど、意外に力強い野口オリジナルさんにもびっくりした。
岡本さんは、“挙動不審のおどおどタイプ”と“謎の大魔王タイプ”
それに“脱いだり着たり”とマルチぶりをいかんなく発揮してやっぱり素晴らしい。

別にオネエ系ではないのに何だかいつも女性役を振られるNPO法人さん、
やっぱり女性の繊細さが出るから納得してしまう。
アフターイベントのようなお遊びタイムに中途半端でなくきちんと演技するから
ポップンは面白いんだなあ。
妙なお題を出されてもちゃんと個性が表れて感心するもの。

短編ダーク編、短編ホラー編など、吹原作品の別の顔をもっと観てみたい。
これから毎回最後に全員のダンスを入れるっていうのはどうでしょう?
開演前も終演後も踊る踊る…これからはこのパターンか?!(希望)



楽屋

楽屋

劇団チョコレートケーキ

「劇」小劇場(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

浮遊する女優魂
世代を超えた女優たちの本音と哀愁が凝縮された「楽屋」という空間。
脚本の面白さ、メリハリの効いた台詞と間、キャストの素晴らしさを堪能した。
劇中劇ながら、これほど「三人姉妹」に感動したのは初めてだった。
暗闇を際立たせる照明が劇的で素晴らしい。

ネタバレBOX

濃い闇に浮び上る3つの化粧台、上手側に座る女優(伊東知香)は
間もなく幕が開く「かもめ」のニーナ役を演じる準備に余念がない。
後の2つの化粧台では2人の女が黙々と化粧を続けている。
ニーナが出て行った後、2人は互いに担当した役を振り返り披露し合う。
しがないプロンプ人生でも役には愛着があり、誇りもある。
やがてその2人、顔に火傷の痕がある戦前の女優(松本紀保)と
首に大きな切り傷のある戦後の女優(川田希)は、どちらも幽霊であることが判る。
そこへもうひとり、枕を抱えた元プロンプターの女優(井上みなみ)が現われ、
ニーナ役の女優に向かって「自分にニーナの役を返せ」と詰め寄る。
楽屋には時代を超えて女優たちの魂が浮遊している…。

生きている女優も死んだ女優も、舞台にかける情熱は同じ。
時代の違いはあるが、ついに表舞台に立てないままプロンプターで終わった2人が
命果てた後も楽屋に執着する気持ちが怖ろしくも切ない。

松本紀保さん演じる三好十郎の「斬られの仙太」、口跡と気風の良さが心地よく
その台詞を愛唱する気持ちがビシビシ伝わってくる。
伊東知香さんのニーナ、井上みなみさんのニーナの後で聴くと
その経験値と味わいが一段と深く共感を呼ぶのは私自身の世代に近いからか。
“いろんなものを犠牲にして”ここまで来た意地と気概にあふれた独白が
現代の女優らしくリアルで素晴らしかった。

「かもめ」も「マクベス」も「三人姉妹」も、戯曲のエッセンスを感じさせて本当に楽しい。
あの「三人姉妹」のラスト、思わず別公演として観てみたいと思った。
偉大な戯曲に女優たちの思いを乗せる脚本が巧みなのは言うまでもないが、
特に衣装を変えることも無くショールひとつで切り替えるシンプルな演出が秀逸。
前半幽霊2人の動きが抑えられていたことも、
後半の劇中劇でほとばしるような情熱との対比が鮮やかになって効果的だと思う。

チョコレートケーキが昨年9月に上演した「起て、飢えたる者よ」で
渋谷はるかさん演じる管理人の妻が変貌する様を観た時
表面上の顔と、秘めた本性とのギャップをえぐり出すのが巧いなあと思ったが
生と死、時代の違い、キャリアの差などを鮮やかに対比して見せて素晴らしかった。
改めてチョコレートケーキは全方位的に優れた劇団であると思わずにいられない。



Jack moment.

Jack moment.

バンタムクラスステージ

萬劇場(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

行く川の流れ
シカゴを舞台に思いがけなくギャングになってしまった会計士の男と熾烈な抗争を描く。
物静かな時計屋の男が物語の進行役を務め、
バンタム特有の整然とした場転(舞台には折りたたみ椅子とテーブルだけ)により
スピーディーながら一つひとつが腑に落ちる展開で脚本の巧さが際立つ。
登場人物が人間臭く魅力的で、キャスティングの妙を存分に味わった。
Jackと Frogのキャラが素晴らしく、スピンオフが観たくなる。
それにしてもバンタムの銃声は音質・音量・タイミング全てが素晴らしい。
照明に工夫があり、シンプルな舞台が劇的に変貌するのも見事だった。

ネタバレBOX

ちょっと映画の吹き替えみたいな台詞も時代と場所を感じさせて雰囲気がある。
「スティング」や「オーシャンズ11」みたいな痛快犯罪劇かと思いきや
後半事態はどんどん悪い方へと転がって行く。
シカゴのボスが入れ替わる度、時計屋によって繰り返される台詞が
どうしようもない無常感を醸し出して効果的だ。
フライヤーにある「方丈記」の精神が色濃く漂い始める。

丁寧な人物相関図が配布されて判り易く、よくこの人間関係をまとめたと感心する。
時流に乗ってのし上がろうとするギャングたちと
多くを持たなくても幸せになれると考えるジャックは対照的だ。
反撃に転じたジャックの選択眼で声をかけられた“落ちぶれ軍団”が集まって
チームを作り大仕事をやり遂げるプロセスが面白く、ここをもっと見ていたかった。
ここが充実すればするほど、ラストの二転三転が口惜しく、爽快で、
且つ“生きる場所を見出すために生きる”人の哀愁が浮き彫りになる。

ジャックを演じる信國輝彦さん、誠実な風貌がこの役にはまって実にリアル。
苦学して会計士になった堅実な男が知識を生かしてギャングに立ち向かう
痛快な役にぴったりで、ラストの潔い身の処し方も説得力があった。

フロッグ役の土屋兼久さん、自信なさげな時計屋の息子が
巻き込まれた果てにギャングの一味となり次第に立場が変わって行く様が
声や視線まで繊細に演じていて素晴らしい。
ジャックの婚約者マリーに不器用ながら心を寄せるシーンなど切なさ全開。
土屋さんはマジでポニーテールが一番似合う(と勝手にそう思う)。

ダニー役の福地教光さん、今回も今すぐ金が必要な理由は“女”という
どうしようもなく純で、立場に溺れやすく、虚勢を張りたがる男(しかも振られる)を
生き生きと演じていて、またそういうダメ場面で色気があるから面白い。
バンタムは、二枚目看板役者に“スーパー完璧主役”ではなく
こういう“情けな系ダメ男”を当てるところが本当に巧いと思う。
もったいないようでいて、実は次が楽しみになるのはこの意外性のためだ。

久しぶりに身体に響く銃声とエンタメ精神に大変満足。
次のバンタムはどんな作風だろう?
シリアスかコメディか、ダークなサスペンスか、銃声かナイフか、猟奇的か変質的か…
ってもう私の個人的期待が渦巻いて、今から楽しみでならない。
萬劇場、JR大塚駅まで行きさえすれば、そこからは近いと知った。
新しい等高線

新しい等高線

ユニークポイント

シアター711(東京都)

2014/03/11 (火) ~ 2014/03/18 (火)公演終了

満足度★★★★

地図屋の抵抗
東京にある地図会社の、昭和15年から終戦の20年夏までの5年間を描いた作品。
戦争中、国力を示す地図は国策の名の下、いとも簡単に書き変えを命じられた。
ユニークポイントらしい史実に基づいたストーリーに市井の人々のエピソードが絡む。
そのエピソードのバランスが、観ている私の興味と微妙にずれているように感じた。
私の知りたい事はひと言の説明で終わってしまい、
逆に会話のテンポが滞るように感じる場面があった。
時代とリンクした説得力あるテーマの選択はまさにユニークで新鮮。

ネタバレBOX

「色彩堂」は先代から続いた地図会社である。
社長(佐藤拓之)始め先代の頃から仕える森田(植村朝弘)ら社員の目下の悩みは
国の指導で軍需工場を“公園”とするなど地図を書き換えなければならないことだ。
さらに全国の地図会社は廃業届を提出して、政府のコントロールの下
一つの組織に統合されることになる。
戦局の変化に伴って市民の暮らしも否応なく変わって行く。
軍需景気、満州、特高、疎開、そしてヒロシマに原爆が落ちて終戦へと向かう中
地図屋の秘めた抵抗が初めてことばにされる…。

社員3人が皆住み込みで働く会社の雰囲気が温かい。
そこへ加わったお手伝いの純子(水田由佳)が
素直でよく働くが、ことばを発しないという設定が象徴的だ。
どうやら東北なまりを咎められたかして口を閉ざすようになったらしい純子は
ここへ来てから文字を覚え、さらに地図を描く技術も身につける。
「美しい等高線を描くので、戦争中僕が徹底的に教えたんだ」と
社長はひと言で説明するが、私はその事情が知りたいと思った。
自分に自信がなく無知で素朴な存在であった純子が
“美しい等高線を描く”と判ったいきさつや、特殊な技術を習得していく成長の過程こそ
その後の日本と重なるような気がする。

冒頭純子が連れて来られた時の会話が少しもどかしく、なかなか始まらない感を覚える。
特高に引っ張られた社員の事情も不明で(確かに特高は理由が無くてもやるのだろうが)
彼が本当に不敬罪に当たるような行為をしたのかどうか
私の見落としかもしれないが、それまでの彼の態度からして唐突な印象が残った。

軍の命令により終戦直後の地図を作るため、社長と共にヒロシマへ行くことになった時
思わずことばが口をついて出た純子に、社長が語りかける。
「これからは自分の言葉で話せばいい」
もはやどこからも規制されず、自立して自ら語り始める日本を象徴することばだ。
終戦の半年前、社長と内務省官僚(平家和典)が本音で話す場面も印象的だ。
地図屋の仕事に対する誇りと、関東大震災の時の哀しみをくり返すまいと言う
悲痛な思いが吐露されて、地図の持つ別の意味を考えさせる。

濃く熱く人情120%の森田を演じた植村朝弘さん、
巧いしそのキャラもテンションも私は好きだが、見慣れるまで少々浮いていたかも。
受ける社長が淡々として落ち着いた物腰だから余計そう見えてしまうのかもしれない。
誰からも信頼され相談される、とても魅力的なキャラだけにもったいない気がする。

ほとんど台詞の無い純子を演じた水田由佳さん、
丁寧な表情と視線が良かったと思う。
ひとつこれは脚本のことだけれど、終戦後の場面で違和感を覚えた。
お手伝いさんが雇い主の前でテーブルに突っ伏して寝たりするだろうか。

フライヤーも当日パンフも、等高線を思わせるストライプの色が美しい。
年表と1場~5場を解り易く示したページも親切で嬉しい。

「コントロール出来ないものをコントロールしたがる」政府の愚行が
再びくり返されようとしている今、
「物語は作るのではなく、発掘するもの」という作・演出の山田裕幸さんの姿勢が
端的に表れた作品であり、その危機感を私も共有したいと思う。
ヒロシマへ行った後、地図屋の戦後はどんなものになったのか、
そして地図は、どのように時代を写して行ったのだろう。





大きなものを破壊命令(再演)

大きなものを破壊命令(再演)

ニッポンの河川

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2014/03/01 (土) ~ 2014/03/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

全ては役者からくり出される
“何やら大きな力に対峙する人々”を描いた作品”とのことだが
まさに“対峙する”人々が躍動する舞台だった。
並走する複数の物語を瞬時に切り替えるのは
舞台の隅の丸いボタンを「かちゃん!」と力強く踏む照明のON &OFF。
手にしたカセットを自分で入れ替えながらBGMを流すという超アナログな手法が
役者の台詞と絶妙にマッチして一体感ありまくり。
四方から観ている観客と対峙する緊張感にあふれた60分。

ネタバレBOX

両国国技館のように四方から客席に囲まれた舞台。
天井から様々な照明器具が下がっていて、どれも柔らかな光を放っている。
四隅のうち三方には自転車が吊り下げられている。
舞台の端に丸いボタンが設置されている。

これからボルダリングかバレーボールの試合でもするのかといったいでたちの4人、
カセットテープをポケットに詰め込み、ウォークマンや照明器具を装備して登場する。
①熊谷の首絞めジャックをやっつけて俺が一番のワルだってことを証明してやる
 と息巻く14歳の神林衛(佐藤真弓)と先生、仲間たち
②ラバウルのジャングルで、軍を脱走して来た4人姉妹が
 小さな葉音にも緊張しながら敵の襲来に備えて銃を構える
 そんな中でも鎌倉育ちの4姉妹はかつて叔父様が持ちこんだ
 長姉の縁談の話、夏祭りの夜の話で盛り上がる

とういう主に二つのストーリーが交錯しながら進むのだがその切り替えが実に鮮やか。
台詞、動き、照明、BGMを繰り出すのが全て役者だからタイミングに勢いがある。
何か自分より大きなものに対峙する時の緊迫感が伝わってくる。
それが真剣であればあるほど、傍で観ている私たちは可笑しくてたまらない。

場面が目まぐるしく変わるのにつれて、キャラも180度変わるのがまた楽しい。
中学生からいきなり艶やかな声、小津映画みたいにちょっと早口で
「…ですのよ」なんて言う。
あれは原節子か山本富士子かという印象だが、とてもこなれた感じで素敵。
佐藤真弓さん演じる14歳の神林衛が生き生きと悪ぶってとても魅力的。
たおやかな姉が“叔父さん”になったりするから目が離せない。
“身体を開く”お姉さまと、鳩の鳴き声と動きにはホント笑ってしまった。
中学からラバウルへ、瞬時に切り替わるキャラにブレが無く、その集中力が素晴らしい。

何だろう、この面白さは…。
他のスタッフがやればいい事を自分たちでやって、手間はかかるし順番は気になるし、
腰回りは重くなるし、衣装に色気は無いし。
だけど首絞めジャックにも鳩にも、“マジで対峙する”姿には素直な強さがある。
遊びにも見える4人の役割に、野外劇のように素朴な“なんでもやらなきゃ”感がある。
演劇にはこんな表現があって、こんな見せ方があるのだということをおしえてくれる。
このコンパクトな構成に充実の台詞、福原充則さんの脚本・演出に魅了された。

自転車のライトが花火になる抒情的なラストがとてもよかった。
破壊しようとして立ち向かった結果、逆にやられてしまった者の末路が美しい。
役者陣が皆楽しそうに演じているのがわかる。
書くのも演るのも大変だろうけれど、またこういうのを観たいので宜しくお願いします。
ただチラシが読みにくいのよね…(^_^;)


眠る羊

眠る羊

十七戦地

LIFT(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

奢る平家
「国民の理解を得て比良坂家を守るため」平易な言葉を使って
証人喚問のリハーサルをするものだから、政治の話が大変解り易くなった。
国を守ると言いながら、守りたいのは一族とその立場、プライド、既得権。
過去作品のようなダイナミックな展開や大胆なファンタジー要素は薄れたが
その分現実とリンクして“多分絶対あるある”的なリアリティが色濃く漂う。
キャラの立った一族に加えて有能な秘書達が事態を引っ張るのが面白く
過去の経緯はともかくラスト次男の選択は、潔くて清々しい。
このラストは作者の理想・ファンタジーか、国の行方を託すひとすじの光か。
それにしてもスペース、テーマ、人数など、敢えて難しい制限をかけた中での
この設定と会話の緊張感は素晴らしい。
また意外なキャスティングで役者の新たな面を見事に引き出している。

ネタバレBOX

証人喚問を控えた与党国防部会の衆議院議員が、想定問答集を元にリハーサルを行う。
亡き父の後を継いで国防一族である3人の息子たちはそれぞれ要職についているが
今や3人とも不正疑惑の渦中にあり、次男である議員はその釈明を求められている。
リハーサルには3人のほか、母親、議員の妻、秘書3人、左翼系の妹、
そして彼らが身を寄せているこのギャラリーのオーナーで亡き父の秘書兼愛人の女性。
リハーサルが進む中新事実が次々と発覚し、事態は予想しなかった方向へと動き出す。
次男は、最終決断を迫られる。
「調査中」と逃げるか、認めて謝罪するか…。

まずこの証人喚問をエンタメ化するという設定が素晴らしい。
そもそも一般人とかけ離れたモラルや金銭感覚で動く政治家や官僚という存在に
滑稽さを見いだすところがユニークかつ鋭い。
証人喚問というショーの演出を練る舞台裏を暴く面白さが秀逸。

柳井作品には珍しく笑いをもたらしているのも、この“存在の滑稽さ”だ。
へそでも見なくちゃ頭を下げることができない、ボクが国を守り動かすと決心している、
親切な人からすぐ金を借りる、自分が正しいとマジで信じている、人の話を聞かない、
最後はやっぱり金がモノを言う、バレなければ大抵のことは大丈夫…etc.
といった生態が現実とリンクし、その既視感が可笑しい。

キャラの設定にメリハリがあるのも魅力的。
いつも沈着冷静でクールな役が多かった北川さんが
傲慢で横柄で「殺してやる!」とか言う次男の与党議員を演じるのが大変楽しい。
意外に凶暴な役とか似合いそう。
防衛省装備施設本部調達課にいながら軍需商社から平気で金を借りる
オペラ狂いの長男を演じた澤口渉さん、
“小役人のぼんくら”と言われる屈折を
軽いノリでやり過ごそうとあがく様が情けなさ全開で印象的。

困った3兄弟とは対照的に彼らを支える秘書たちは非常に優秀で、そこもまたリアルだ。
“素朴な人”でなく立板に水みたいな秘書を演じた真田雅隆さん、
都会的なキレの良い台詞がリハーサルを牽引して魅力的だった。
結果的にリハーサルをリードした、亡き父の秘書兼愛人美咲を演じた植木希実子さん、
冷静に状況判断をしながら重大な決断をさせる、理知的なキャラがぴたりとはまる。

ダメダメ一族を描きながら、作者はどこか一縷の望みを託しているように見える。
左翼寄りの妹礼子が、最後レコーダーを受け取らず美咲に委ねるところ、
一族の失脚を前にどこか明るい兄弟たち、
潔くバッジを外す決断をした次男も、最後は屈託のある美咲に対して本音で向き合う。
柳井氏の“絶望しないために必要なファンタジー”を感じた。

柳井氏のtwitterを見るといつも、リラックスした自虐ネタに笑いつつも
「制限の中で印象的なメッセージを効果的に発信する」という作家としての言葉を感じる。
それは単なるつぶやきというレベルを超えていて
この瞬発力とクオリティが戯曲の核になっているような気がする。



かもめ~21世紀になり全面化しつつある中二病は何によって癒されるのか、あるいはついに癒しえないのか、に関する一考察~

かもめ~21世紀になり全面化しつつある中二病は何によって癒されるのか、あるいはついに癒しえないのか、に関する一考察~

アロッタファジャイナ

ギャラリーLE DECO(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★

中二病なう
Aチーム観劇。
自意識、自己愛の突出する思春期を指す“中二病”という視点が新鮮。
登場人物を3組のカップルにしぼり、それぞれ“中二病なう”、“中二病こじらせ型”
“中二病達人”の3様を鮮やかに見せる。
15歳の宇野愛海さんが初々しく、まさに中二病現在進行形かと思わせるあたり
計算された演出ともとれるが、リアルにみずみずしい舞台となった。
その反面、若さゆえか浅さも見られたが、第4幕最後のニーナは熱演だった。

ネタバレBOX

演技スペースを3方から客席が囲んでいる。
コンクリートむき出しの床に白い布で覆われたソファ、同じく小さな椅子、
客席横の階段手すりも白い紙でくるまれている。

古い形式を否定し、新しい演劇を創るのだと息巻くトレープレフ(内田明)。
大女優アルカージナ(辻しのぶ)を母に持ち、
その愛人は人気作家のトリゴーリン(石原尚大)である。
若く美しいニーナ(宇野愛海)を主役にトレープレフは新作を披露するが
母はハナから小馬鹿にしてまともに観ようともしない。
愛するニーナもトリゴーリンに奪われ、トレープレフは屈辱と怒りと憎しみに狂う。
トレープレフを愛するマーシャ(香元雅妃)は、思いを断ち切るように
自分を思い続けてくれたメドヴェージェンコ(宮本行)と結婚する。
4年後に弄ばれたかもめが帰ってきた時、絶望したトレープレフは拳銃自殺する…。

という昼メロみたいな「かもめ」だが
登場人物が3組のカップルだけというシンプルな作りで骨格がくっきりした感じ。
「中二病にでもならなきゃ恋愛なんてできないぜ」というメッセージが
込められていたかどうかは不明だが、
臆病かストーカーかという極端なケースに走りがちな昨今の恋愛事情とは裏腹に
“恋愛コミュニケーションとその手腕”を観た思いがする。

トレープレフとニーナ 「中二病なう」
まだ自分を客観視出来ない、実力も把握していないにもかかわらず
他人の才能を批判することだけはいっちょ前なトレープレフ。
ちょっと自分を悲劇のヒーローにし過ぎている嫌いはあるが
マザコン全開でわからんじんの草食系っぽさが良く出ていたと思う。
ニーナ演じる宇野さんがリアルタイムで経験値の少ない方だから
そこはリアルなのだが、素で勝負するには他が濃いだけにちょっと弱いかな。
4幕で村に戻って来た所は頑張っていたけど、今15歳の宇野さんが
もう少し大人になった時の崩れたニーナを観てみたいと思った。

マーシャとメドヴェージェンコ 「中二病こじらせ型」
自分の事は解っているつもりで、実は解っていない中途半端なお年頃。
頭で解って行動しても、気持ちがついて行かなくて空中分解するマーシャと
全部解って結婚したくせにやっぱりそれじゃいやだよう、と
トレープレフにあたり散らすメドヴェージェンコの仮面夫婦が上手い。
感情表現がさらりとした手触りのマーシャに対して
ねちねち陰湿で嫌味なメドヴェージェンコの組み合わせも良いバランス。

アルカージナとトリゴーリン 「中二病達人」
つまりは相手を翻弄するようになって初めて一人前なのだという貫禄のカップル。
欲しい物は馬乗りになって首絞めんばかりになってでも引き留める女王様。
彼女の言いなりになっているようで実はちゃっかり若いニーナもモノにするおじさん。
飽きたら捨ててまた女王様の元へ戻るあたり、大したもんださすがちょい悪オヤジ。
いい年して、ここぞと言う時には中二病を引っ張り出して己を鼓舞し、
純粋な情熱と言う名の下に好き放題しちゃう都合のよいカンフル剤として使う。
若いもんが敵うわけないわ。

という大人への階段がとても良く俯瞰出来て大変面白かった。
中二病の克服には恋の挫折と恋の成就、きっと両方必要なのかもしれない。
エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-

エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-

東京マハロ

駅前劇場(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/04 (火)公演終了

満足度★★★★

エースに会いたい
「エースが死んだ」という知らせを受け、15年ぶりに高校球児たちが集まる。
音信不通だったエースのその後、棺桶の無い通夜、噴き出す不満。
謎が明らかになる終盤、登場しないエースの顔が浮かんで来るような秀作。
達者な役者陣の台詞が素晴らしく、台詞のほとんど無い藤井びんさんがまた良い。
喪主である妻の言葉に、かつての球児たちと一緒に私も泣いていた。
なぜあのエースが死ななければならなかったのかと。

ネタバレBOX

劇場に入ってまず、雰囲気ある珈琲店のセットに目を奪われた。
つやつやしたテーブルと椅子、ステンドグラスの窓、柔らかい照明、
カウンターのしつらえやメニューに至るまで、そこに身を置きたくなる空間があった。
作者のこの空間への愛情とこだわりがあふれるようなセットだ。

高校時代、あの松坂から練習試合の申し込みを受けるほどの実力校は
絶対的なエースを誇っていた。
ところがある試合中の偶発事故でエースは致命的な怪我を負い、
結局それが元で野球を辞めて転校して行った。
その後の足取りを誰も知らないまま15年が経ったある日
突然エースの死が知らされて、当時のメンバーが集まることになった。
高校時代、大人の空間として彼らが憧れた場所、珈琲「エリカ」に現われた面々は
平静を装いながらもそれぞれが屈託を抱えている。
先輩への批判、捺子を巡る攻防、夫への疑惑、そしてエリカでのあの事件…。
エースの死の謎を前に、しまい込んでいた思いがふきこぼれ始める…。

「久しぶり~」と言いながら腹の内に別の思いを秘めている人々の
“何かある”表情が徐々に変化していく様が秀逸。
展開に無理がなく、理由を見つけて難しいことから逃げたい人間の心理が極めて自然だ。
体育会系に限らず、誰もが覚える自己肯定と言い訳に思わず笑ってしまう。
しかしそこに、逃げもせず、誰も恨まずに去って行った者がひとりいるとなると
話は少し違ってくる。
まして一番傷付き人生さえ狂ってしまったその彼が、
唐突に消えてしまったとあれば尚更。
この15年間、側でエースを見てきた妻の言葉に泣かずにはいられなかった。
その事実の前で、ちっぽけなプライドや自己肯定など何の意味があるだろう。

“しがない”がスーツ着ているみたいなお宮の松さん、
台詞のタイミングと間が素晴らしく、会話の妙を堪能した。
高校時代からイケイケだった捺子を演じた山口芙未子さん、
フェイスブックに写真を載せたがりの現在が相変わらずな感じで、
それがまた中身の空ろさを見せて上手い。
ほとんど台詞の無いマスターを演じた藤井びんさん、
味わいのある目線で、沈黙をそれと感じさせない演技が素晴らしい。
主宰で作・演出の矢島弘一さん、前説とチョイ役で登場されたが
口跡と声が魅力的で、この方の芝居をちゃんと観てみたいと思った。

エースはいつもエースだったのだ。
野球を辞めた後もエースだったし、葬儀が終わった今も燦然と輝くエースである。
「エリカ」は神保町に実在する珈琲店だそうだが、
その店名の由来である花言葉がひと言つぶやかれるラストが良かった。
誰も皆「エリカな人々」だったのだ、そしてエースもまた。
蜜月の獣

蜜月の獣

小西耕一 ひとり芝居

RAFT(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/03 (月)公演終了

満足度★★★★

切ない狂気
ひとり芝居というのはユニット名だそうで、第四回公演となる今回は三人芝居。
軽そうなキャラと会話のリズムにいつもより笑って観ていたら
中盤から一気に小西モード全開、重くてじっとり行きつく先は切ない狂気。
登場人物が抱えるトラウマが明らかになった途端
それまでの場面が違ったものに見えて来る展開と
時間軸をずらす構成が上手い。
優しさには自己チューがもれなくついてくる感じの、3人の会話が絶妙だ。

ネタバレBOX

ケンジ(河西裕介)、ショウヘイ(小西耕一)、ミツコ(宍戸香那恵)の3人は同い年。
バツイチのケンジにミツコを紹介して付き合うように勧めたのはショウヘイだ。
二人は同棲を始めたが、ミツコは心配性なケンジの束縛にうんざりし始めている。
だがケンジの心配性には深い理由があり、それにはケンジの元妻が関わっていた。
一方ミツコにも大きな秘密があった。
そして実はミツコのことがずっと好きだったショウヘイは
ケンジと距離を置くミツコにある決意を打ち明ける。
それがきっかけでこんなことになるとは思いもせずに…。

セックスをめぐる深いトラウマが、人生に大きな影を落とす話。
そのトラウマに触れずにいるうちは、優しい関係が保たれるのだが
ひとたび過去の記憶が現実に重なると、もう制御不能になってしまう。

簡単に打ち明けたり共有したり出来ない悩みは
次第に歪み曲がりねじれながら何度となく反芻され、濃度が高くなっていく。
異様な言動の最初のひと言は、さらりと“変なヤツ”程度に描かれるのだが
後にあれが狂気の片鱗であったかと思うと戦慄する。
時系列を入れ替えることで、行動の理由が後から判明するのがとても効果的だ。

3人の、それぞれひとりよがりで思い込みが強く、
思考の悪循環を断ち切ることができないキャラクターが際立っていて面白い。
ケンジ役の河西裕介さん、繊細で優しく、妻を救えなかったことで
自分を責めながら同時に自分以外を攻撃する複雑な表情が上手い。

ただ3人中2人までもが、犯罪被害者又は犯罪被害者の家族であるという設定は
ちょっとドラマチック過ぎて感情移入しにくい気がした。

小西さんの書く脚本は、ひとり芝居でも相手の台詞が聴こえてくるようだった。
二人芝居では現代のすれ違う会話が降り積もって行く様を描いた。
三人芝居になったらぐっと空間が広がって会話が豊かになった。
会話の“遊び”みたいな、空気感も含めてそのやりとりが可笑しくて笑った。
笑った分、後半の“暴走する個人的行き場の無い感情”の怖しさが際立った。
個人を掘り下げることで、繋がることが難しい孤独な時代が浮び上ってくる。

当日パンフに“ワークショップオーディション”の告知が載っていたが
次は“劇団ひとり芝居”的に人数が増えるのだろうか。
相変わらず早々とタイトルも決定していて、次回7月の公演が楽しみでならない。

あの世界

あの世界

MCR

OFF OFFシアター(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

渾身の罵詈雑言
久々に強烈なやつをくらって、くらくらしながら笑った。
罵詈雑言はこうでなくっちゃ。
追い詰められた人間の本音がある、そして
罵詈雑言を浴びせながらその相手を心底愛している。
こんな罵詈雑言が書けるのは櫻井智也だけだ。
設定、台詞、キャラ、役者、全てがリング、じゃなくて舞台に結集した充実のカード。

ネタバレBOX

プロレスファンの熱気が押し寄せる後楽園ホールの控室。
地味な中年プロレスラー有川(有川マコト)は、これから始まる試合で
“プロレス”をするつもりでいる。
だが敵はどうやら“ガチ”で来るらしい。
かつて有川とタッグを組み、膝を壊して引退していた櫻井(櫻井智也)は、
実家の駄菓子屋の手伝いを放り出してこの2ヶ月間トレーニング指南をして来た。
現状維持、安全なプロレスでこの場を凌ぎ、
飲み屋の女アニータ(後藤飛鳥)に金を貢ぎたい有川。
ちょっとしょぼいがいまだ現役の有川に夢を託し、
ファンの期待を裏切らないガチ試合をして欲しい櫻井。
ここへ来て全く意見の合わない二人は、取材に来たプロレス記者(堀靖明)や
アニータを巻き込みながら、試合直前の控室で怒涛のバトルを繰り広げる…。

この作品のキモ、血管切れそうな罵詈雑言は、究極の“価値観のぶつかり合い”である。
二人の価値観は櫻井の引退を機にどんどん離れて行き、今ではだいぶ距離がある。
ケガしないようにしてアニータと旅行に行きたい有川の守りの姿勢も共感を呼ぶし
危険なガチ試合にもし勝てたら、この先の人生が大きく変わると期待する櫻井にも
(たとえそれが引退した櫻井の夢を託す身勝手なものであっても)共感する。
これだけ力の入った会話を聞きながら全く疲労を感じないのは、ひとえに
二人の罵詈雑言が放つ鬱屈や卑屈、自己嫌悪、言い訳に“普遍性”があるからだ。
観ている私の感情が1時間15分ずっと舞台から乖離することがない。

この会話に取材記者堀靖明がレフェリーのように割って入るのがまた可笑しい。
終盤、有川と櫻井がタッグを組んでいた頃の試合を記者が再現する場面、
相変わらず熱いが滑舌の良い堀さんの実況中継は、プロレスへの愛に満ちている。
作・演出との相性の良さを感じさせて素晴らしい。
二人の罵詈雑言を固唾を飲んで見守る台詞の無い時間も、この人は上手い。

見た目日本人、実はチリ人のアニータを演じた後藤飛鳥さん、
天然の“拝金主義”ぶりもはまっていて、その突出してクールな価値観が効果的。
“それ言っちゃう…”的な本音をえぐってしまうしたたかな女が可愛かった。

“のちに「今年最もエキサイティングな試合」と呼ばれることになる試合”が
このあと始まると言うことは、ガチで行ったんだろう、そうだろう有川?!
そう、人生はガチなのよ。
ラスト、肩で風切って控室を出て行く男3人とほとんど同じ気持ちで
私もOFF OFFシアターを出たのであった。


風雲!チキン野郎城2

風雲!チキン野郎城2

ポップンマッシュルームチキン野郎

ステージカフェ下北沢亭(東京都)

2014/02/18 (火) ~ 2014/02/18 (火)公演終了

満足度★★★★★

イケメン
受付や司会進行にもメンバーひとりひとりの個性が表れていて新鮮な印象を受けた。
CR岡本物語さんが真摯な態度で案内してくれるだけで、もう感動してしまう。
この人は服を着ても着なくても同じスタンスで存在するところが素晴らしい。

完成間近のDVDチラ見せ上映会も面白かったし
昨年上演された短編をマジでやってくれたのもとても良かった。
吹原幸太さんの、笑いを封印した作品に感動した。
来る3月のショートショートフルパワーズでも、こういう風に
本公演とは全く違った作風のものをやってくれるのか!と期待が膨らむ。

今さらだが間近で見ると、イケメンを揃えた劇団なんだなあと思った。
日頃かぶり物やメイクでよくわからないということもあるかもしれないけど…。
とっても楽しかった、平日の昼間っから行ってよかったなぁ\(^o^)/

燃ゆる

燃ゆる

ノアノオモチャバコ

「劇」小劇場(東京都)

2014/02/15 (土) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★★

行動の理由
「天然の火」を精製して売る村、という設定や、滞在すると必ず火事が起こる男など
謎の多い設定がミステリアスでとても魅力的。
もう少し説明があったらもっと面白くなったような気がするが
ちょっと観客の想像に委ねられる部分が多すぎてミステリーが消化不良なのが残念。
村人の行動の深い理由が語られたら、
「天然の火」が”意志を持つ生きている火”である事が強調され
さらに奥行きが出たのではないかと思う。

ネタバレBOX

特産品の「天然の火」を精製する山奥の工場では
火口岩(かこうがん)を切り出し、中に火種があるかどうかを探して精製する
という昔からの方法で生産を続けている。
そこへ人工の火を大量生産する企業から威圧的な提携を持ちかけられ
工場長はじめ従業員たちは大揺れ。
一方ふらりとこの村に現われた若い男は「火を集めてしまう」という特殊な体質で
長く留まると火災が起こるので、各地を転々としていた。
工場と大手企業の攻防、天然の火の由来、火傷のある女…と謎が深まる中
工場の心臓部である大窯の火が消えそうになって人々はパニックになる…。

人工の火を大量生産することでのし上がって来た新興企業の
超オタク男(生野和人)が狂喜して挙動不審になるほど
「天然の火」には温かさがあって素晴らしいという。
便利で安価なだけでない本物の持つ品質と価値を際立たせた演出は面白かった。
途中炎を表すような身体表現も役者さんたちの集中力が伝わって来て良かったと思う。

けれど最後まで明らかにされないことがいくつかあり
そのせいでちょっと置いてきぼり感が残る。
私がつかみ損ねているのかもしれないが、例えば

○「天然の火」と大窯の秘密(誰かが大窯に入らなければいけないの?)
○老人と工場や「天然の火」とのかかわり
○提携する企業の言いなりにならざるを得ないほど工場が行き詰った理由
○工場長の娘が異様なまでに大窯の火にこだわる理由
○旅人が感じた臼井の母の思いとはどんなものか

等が気になってせっかくの熱演が遠くに感じられた。
もう少し個々の秘密を解り易く見せても、作品の魅力は半減しないと思う。
”意志を持つ火”のエピソードが語られるのを今か今かと待っていただけに
ちょっと残念。



ダークナイトライジング

ダークナイトライジング

カプセル兵団

ワーサルシアター(東京都)

2014/02/13 (木) ~ 2014/02/18 (火)公演終了

満足度★★★★

隊長
黒づくめの男ばかりでくり広げるマジで可笑しな会話劇第二弾。
第一弾はヒーローたちによる悲哀に満ちた日常だったそうだが
今度は怪人たち、つまり悪役の悪役による悪役のための“歴史と論理と愚痴”大会。
“世界の警察”アメリカを揶揄しながら特撮ものの歴史を紐解く辺り
吉久氏の脚本はさすがのうんちく。
途中日替わりゲストが出て来てからは、怒涛のユルイ展開に笑ってしまった。

ネタバレBOX

あるバーに呼び寄せられるように集まった4人の怪人たち+ひとりのさすらう怪人。
彼らは皆、かつては世界征服・地球侵略を企てる組織で暗躍してきたが
今は崇拝する指導者もなく行きなずんでいる、いわゆる“時代遅れ”の怪人。
そこに登場する大首領(?)に、一同悪の組織再結成に参加することを誓う。
しかし実はメンバーの中に…。

当日パンフにあるように“もし怪人がサラリーマンだったら”みたいな会話。
悪役も苦労する組織編成や変遷が語られ、その分析がなかなか面白かった。
本日のゲスト稲田徹さん、ひとまわり膨らんだ藤岡弘ぶりが楽しく
また声がこの役にはもったいないほど、いや相応しく、素晴らしい。
かつて犯罪組織に所属、今は地球に隠れ住んでいるマスター役の谷口洋行さん、
その陰影あるたたずまいが“何かありそう”感満載で秀逸。
案の定“つづく…”を思わせるマジな終わり方は特撮ものに相応しく次回が楽しみになる。

特撮ものに詳しくない私も、サラリーマンみたいな怪人の会話に笑ってしまった。
みんな強い指導者を求めているんだね。
でもそういう時が危ないのだよ、フォッフォッフォッ…って声が
聞こえたような聞こえないような(笑)
荒野の家

荒野の家

水素74%

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/02/07 (金) ~ 2014/02/16 (日)公演終了

満足度★★

不条理と非常識
不条理劇ってキャラクターが共感を呼ばないものなのだろうか。
これは「自分を省みない人々」の話である。
登場人物に共感するのが難しく、距離を感じずにはいられなかった。
この作品では個々の人物の置かれた状況が極めてリアルな問題を抱えている。
状況設定が超リアルなだけに、不条理より“非常識”が先立ってしまって
会話に不快感が残ったというのが正直なところ。
水素74%は2回目だけど、これが不条理というものかしら…。



ネタバレBOX

30歳で20年間ひきこもりの真也(玉田真也)は、
自分の言うことを聞いてくれない母親(高木珠里)に
カッターナイフを突き付けて脅すような息子だ。
母親はそれでも息子を溺愛して何をされようと決して離れようとはしない。
溺愛する息子に対する母親の話し方、声のトーンが異様で目を引く。
共依存のようないびつさで結びつきながら脅し、懇願し、抱き合う母子。

父親(永井秀樹)は稼ぐことで責任を果たしていると思って来た結果、蚊帳の外状態。
両親が兄にかまけていつも放っておかれていた妹(石澤彩美)は、
結婚相手と子どもを作る気になれず、一時的に出戻って来た。
おまけに隣家の女性は自分の義理の父親の介護をお願いしたいと押しかけて来る。
そして父親と妹は、母の留守にひきこもり矯正施設の“登山スクール”へ
真也を預けようと画策し、ついに家族は崩壊していく…。

不条理劇って少ししか観たことはないけれど、
“誰かを待ち続ける”とか“誰かが死ななくてはならない”といった
のっけから理不尽な世界に、ちょっと変だが
どこか自分と重なる登場人物が出て来て共感し連帯感が生まれ、
思うようにならないシチュエーションが面白くなる…と思っていた。

役者さんは熱演だったけれど
やはりこのタイプのお芝居は私には難しい…(^_^;)
幸福な職場(再々演)

幸福な職場(再々演)

劇団 東京フェスティバル

駅前劇場(東京都)

2014/02/05 (水) ~ 2014/02/12 (水)公演終了

満足度★★★★★

幸せになるために必要な4つのこと
謎かけもひねりもない直球ストレートな“いい話”でありながら、道徳の教科書でなくエンターテイメントとして成立しているところが素晴らしい。“ひたむきな人”とは、こんなにも周囲を変化させる。そして人は、工夫次第で幸福な職場を作ることが出来る。ノンフィクションを柱に、リアルだがよく整理された台詞が、事の経緯を自然に効果的に見せて上手い。笑いのセンスもいいし役者陣がいい。泣くような場面ではないのに泣いてしまったのはなぜだろう?和尚の言う「幸せになるために必要な4つのこと」が、私にはあるだろうか?今もそれを考えている。

ネタバレBOX

王と長島がまだ新人だった昭和34年、チョークメーカーの地味な事務所が舞台。
養護学校の教師(土屋史子)が卒業生を雇ってもらえないかと頼みに来る。
もう何度か訪れているが、知的障害者への理解が今よりさらに無い時代、
会社の専務(岡田達也)は、手間のかかる従業員を雇う
ゆとりも理由も無いと渋っている。
この時の教師の真摯な言動に圧倒されるものがあった。
「親より長生きできない者がほとんどの彼らに、働く体験だけでもさせてやって欲しい」
土下座して頼みこむ教師の姿に、昨今の“土下座パフォーマンス臭”は微塵もない。
誰かのために損得を度外視して頭を下げるひたむきさに打たれて思わず涙がこぼれた。

2週間の体験労働は全て順調に行ったわけではなく、理解と人手と工夫が求められる。
問題点と改善の工夫、そのプロセスがリアルで、実話の力が感じられた。
効率の悪さに悩む専務に、和尚(朝倉伸二)が投げかける言葉がいい。
「仕事に人を合わせているように見える、人に仕事を合わせたらどうか」

従業員のうち、障害者に寄り添っていこうとする男(菊池均也)と
非効率的だと否定する男(滝寛式)のやりとりもリアルで、
豊かなキャラクターのバランスも良い。

そして何と言っても知的障害者を演じた桑江咲菜さんが素晴らしい。
話し方のトーンとか間とか、とても努力されたのだろうと思う。
彼女の「お仕事、楽しい!」と休憩も取らずに働く姿が周囲を変えていく。
それは饒舌なアピールではなく、ひたむきな姿がそうさせるのだが
決して多くない台詞に集中力と緊張感があり、動きの全てに神経が行き届いている。
結果的にその後50年間勤め続ける実在の方を、説得力を以て演じる。
舞台上で職場を変えていく存在が、観客をも巻き込んでいくのが伝わって来て感動した。

作・演出のきたむらけんじさんは、前説で肝心の
「携帯電話など音の出る電子機器…」というくだりを忘れて引っ込むような
のほほんとした雰囲気の方だが、この作品の素晴らしいところは
障害のあるなしに関わらず、「人はなぜ働くのか」ということを
鋭く問うているところだ。

熱心な教師の訪問に辟易していた専務に和尚が言う台詞が実に秀逸。
─人が幸せになるには4つのものが必要だ。
「愛されること、誉められること、人の役に立つこと、必要とされること」
最初の1つは親からもらえるが、あとの3つは働くことで得られるものだ。
だから人は働きたいのだ…と。

終演後、思わず受付で赤・青・黄・白のチョーク4色セットを買った。
これで何をしようというわけではない、だが和尚の言った4つのものは
「働く目的」であると同時に「生きる意味」でもある。
私にとって、それを日々問いかける小さなお守りになると思う。
電磁装甲兵ルルルルルルル

電磁装甲兵ルルルルルルル

あひるなんちゃら

OFF OFFシアター(東京都)

2014/01/28 (火) ~ 2014/02/02 (日)公演終了

満足度★★★★

”なんちゃら”な統一感
その劇団名からも脱力感が伝わって来て素敵だが
“緊張を強いない”会話でありながら、メリハリがあって面白かった。
「ル」が7つ並んだ理由はそれだったのかぁ。
”ちょっと困った人”ばかり出て来るが、役者陣がその微妙な困り具合を見せて上手い。

ネタバレBOX

中央に椅子が2つ、ゴミ箱がひとつというさっぱりした舞台。
登場したタナカ(根津茂尚)は、しきりに外を気にしている。
地球の外から侵入してくる敵を討つために作られたロボットの訓練を見ているのだ。
1,2,3、の3機が合体すれば最強のはずだが、双子のマツナミ兄弟はともかく
もう一人の“天才アオヤマ”と気が合わないため、3機はうまく合体できない。
一方何とかしてあのロボットのパイロットになりたいのに、
清掃係のタナカは毎日アピールするがライバル多すぎてうまくいかない…。

ある人にとってはどーでもいいことが
別の人にとっては切実な問題だったりして、そこのズレが可笑しい。
ただ“ユルイ”会話が続くのではなく、そこに誰かの真剣な気持ちがある。
会話にメリハリがあるのはそのせいだと思う。
パイロットになりたい“かわいそうなタナカ”と呼ばれる彼の切なる希望や
自分たちを見分けて欲しい双子の兄(三瓶大介)と弟(堀靖明)のレクチャー(?)など
その真剣な気持ちに対して、周囲の無関心と無頓着のギャップが大きいから面白い。

軽妙な前説でも笑わせた脚本・演出の関村さんは、
会話の中で“期待した反応とは違う反応が返って来た時の「?」”を取り出して見せる。
「へ?」というその繊細な間が絶妙。

双子が声を合わせて“眼鏡は顔の一部です…”と言うところ、良かったなあ!
息が合っていて、本当の双子みたいだった(笑)
だいたい片方が太って眼鏡かけてるのに誰も区別できない双子っていう設定が○。
相変わらず力まずにいられないシチュエーションに置かれる堀さんの台詞が上手い。
戦隊ものっぽい歌も良かった。
そろいもそろって“ちょっと困った人”ばっかりなのも良い。
ひとり普通っぽいタナカがやっぱり可哀そうになるのがリアルだ。

あひるなんちゃらって、作品だけでなく創ってる人の人柄も観劇環境も
全てが“なんちゃら”な感じで、統一感ありまくりなのであった。
その統一感が、劇場に入ってから出るまでもれなくついてくるところが
楽しくて素晴らしい。
第5回公演 初恋

第5回公演 初恋

日穏-bion-

「劇」小劇場(東京都)

2014/01/29 (水) ~ 2014/02/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

上品・上質なエンターテイメント
平成25年春―昭和25年―平成25年秋―昭和39年という
4つのオムニバスが緩やかに繋がりながら流れている。
少ない人数の間で交わされる無駄のない台詞が素晴らしく
登場人物が背負う背景が説明的でなく伝わってくるところが巧み。
役者陣の演技にメリハリがあって4本を一気に魅せる。
随所に笑いがあるが、第四話のラストは泣かずにいられなかった。

ネタバレBOX

第一話 平成25年・春 「観覧車」
ヘビースモーカーの高山登(原田健二)と高所恐怖症の手塚悦子(木村佐都美)は
面識もないのに、混雑する観覧車にカップルとして乗せられてしまう。
なぜか途中で止まってしまった観覧車の中で、
二人は禁断症状とパニックで思わず素顔をさらけ出すことになる。
高所恐怖症の悦子が緊張のあまり挙動不審になって行く様が可笑しい。
コントになりそうな寸前でリアルに見せる、その加減が見事だった。

第二話 昭和25年・夏 「手紙」
冒頭は戦地に赴いた平和守(杉浦大介)とその帰りを待つ千代子(キタキマユ)との
手紙のやりとりである。
戦時下にこんな素直に未来を語る内容が検閲を通ったのか判らないが
この手紙が初々しい分、7年後の再会は痛切極まりない。
不自由になった足を折り曲げるようにして座る守の背中は絶望的で頑なだ。
生還しても幸せになれない人がたくさんいたであろうことを感じさせる。
守と一緒に暮らしている水商売の珠恵(村山みのり)の
大雑把なようで人の気持ちがわかるキャラクターが効いている。

第三話 平成25年・秋 「幼なじみ」
晴彦(深津哲也)、雪子(竹中友紀子)、夏実(廣川真菜美)の兄弟の住む町に
幼なじみの和男(曽我部洋士)が転勤で帰ってくる。
思うようにならない一方通行ばかりが行き交う初恋通り。
会話のテンポが良く、切ない話なのに不思議と暗くはない。

第四話 昭和39年・冬 「故郷の雪」
古い娼館の桃子(岩瀬晶子)の元へ奇妙な客(管勇毅)がやって来る。
別れた彼女とのやり取りを再現するのだと言って桃子に彼女を演じさせる男。
「相手の気持ちを考えていない、私は私だ」とキレる桃子に
男はようやく自分の事ではなく、桃子のことを尋ねる。
桃子にも戦地からの帰りを待っていた男がいたのだ。
変な客の思い詰めた自己チューな態度が超上手くて笑った。
東北弁の桃子の素朴さが、初恋の哀しい結末を際立たせる。
男の迷いのない暴走ぶりが可笑しく、それだけに後半の変化がドラマチック。
“再現”も悪くないと思わせるラストが秀逸で、涙が止まらなかった。

4つのストーリーが細い鎖で繋がっているところがいい。
さりげなく、彼らのその後が語られていて胸を衝かれたりする。
厳選された台詞と絶妙の間が素晴らしい。
話がひとつ終わる毎に、スクリーンに当時の映像が映し出されるのも
時代背景が瞬時に理解出来てよかった。
客入れの時から流れるBGMがストレートに時代を思い起こさせるのも効果的で
音量・選曲、それに照明もあいまってとても上品・上質な舞台。
6年ぶりの再演に出会えて本当に良かった。

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