あの世界 公演情報 MCR「あの世界」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    渾身の罵詈雑言
    久々に強烈なやつをくらって、くらくらしながら笑った。
    罵詈雑言はこうでなくっちゃ。
    追い詰められた人間の本音がある、そして
    罵詈雑言を浴びせながらその相手を心底愛している。
    こんな罵詈雑言が書けるのは櫻井智也だけだ。
    設定、台詞、キャラ、役者、全てがリング、じゃなくて舞台に結集した充実のカード。

    ネタバレBOX

    プロレスファンの熱気が押し寄せる後楽園ホールの控室。
    地味な中年プロレスラー有川(有川マコト)は、これから始まる試合で
    “プロレス”をするつもりでいる。
    だが敵はどうやら“ガチ”で来るらしい。
    かつて有川とタッグを組み、膝を壊して引退していた櫻井(櫻井智也)は、
    実家の駄菓子屋の手伝いを放り出してこの2ヶ月間トレーニング指南をして来た。
    現状維持、安全なプロレスでこの場を凌ぎ、
    飲み屋の女アニータ(後藤飛鳥)に金を貢ぎたい有川。
    ちょっとしょぼいがいまだ現役の有川に夢を託し、
    ファンの期待を裏切らないガチ試合をして欲しい櫻井。
    ここへ来て全く意見の合わない二人は、取材に来たプロレス記者(堀靖明)や
    アニータを巻き込みながら、試合直前の控室で怒涛のバトルを繰り広げる…。

    この作品のキモ、血管切れそうな罵詈雑言は、究極の“価値観のぶつかり合い”である。
    二人の価値観は櫻井の引退を機にどんどん離れて行き、今ではだいぶ距離がある。
    ケガしないようにしてアニータと旅行に行きたい有川の守りの姿勢も共感を呼ぶし
    危険なガチ試合にもし勝てたら、この先の人生が大きく変わると期待する櫻井にも
    (たとえそれが引退した櫻井の夢を託す身勝手なものであっても)共感する。
    これだけ力の入った会話を聞きながら全く疲労を感じないのは、ひとえに
    二人の罵詈雑言が放つ鬱屈や卑屈、自己嫌悪、言い訳に“普遍性”があるからだ。
    観ている私の感情が1時間15分ずっと舞台から乖離することがない。

    この会話に取材記者堀靖明がレフェリーのように割って入るのがまた可笑しい。
    終盤、有川と櫻井がタッグを組んでいた頃の試合を記者が再現する場面、
    相変わらず熱いが滑舌の良い堀さんの実況中継は、プロレスへの愛に満ちている。
    作・演出との相性の良さを感じさせて素晴らしい。
    二人の罵詈雑言を固唾を飲んで見守る台詞の無い時間も、この人は上手い。

    見た目日本人、実はチリ人のアニータを演じた後藤飛鳥さん、
    天然の“拝金主義”ぶりもはまっていて、その突出してクールな価値観が効果的。
    “それ言っちゃう…”的な本音をえぐってしまうしたたかな女が可愛かった。

    “のちに「今年最もエキサイティングな試合」と呼ばれることになる試合”が
    このあと始まると言うことは、ガチで行ったんだろう、そうだろう有川?!
    そう、人生はガチなのよ。
    ラスト、肩で風切って控室を出て行く男3人とほとんど同じ気持ちで
    私もOFF OFFシアターを出たのであった。


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    2014/02/20 23:17

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