海に降る雪を魚達は知らない 公演情報 ユニット TOGETHER AGAIN「海に降る雪を魚達は知らない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    そしてまたくり返す
    3.11をテーマにしながら、原発建設当時の揺れる地元を描くという視点がユニーク。
    反対していたら生活が成り立たなくなる…という当時のリアルな実情や
    賛成派と反対派、都市と地方、官と民、といった構図を再現することで
    “私たちはみんなで原発を作ってしまった”という大きな失敗をもう一度問いかける。
    何かを強く批判する時は、説明的で饒舌になりがちだが
    金子真美、藤井びんという2人のベテラン俳優は
    “説明を忘れさせる”台詞と、人物像の陰影の深さでその存在が際立っている。
    観終わって、フライヤーの写真の重みがじわりと押し寄せて来る作品。

    ネタバレBOX

    震災直後の写真が大きく映し出されて、舞台は始まる。
    震災後間もない原発の町を記録しなければと、映像作家スズキ(塩原啓太)は
    ビデオカメラを携え単独で現地入りする。
    スズキはそこで出会った老婆に導かれ、原発建設をめぐって真っ二つに割れる
    40年前の「魚の町」へとタイムスリップする。
    反対派のリーダーイサキ(坂浦洋子)、その伯母のカサゴ(金子真美)、
    農業青年タコスケ(石塚良博)、絵描き志望のメバル(佐藤睦)らが住む町へ
    電力会社のアサバ(若林正)や不動産屋のアカメ(藤井びん)がやって来る。
    姿を消していたメバルの兄ワカシ(千葉誠樹)も3年ぶりに戻ってくる。
    提示される条件に負けて次々と賛成に回る人々、家族の対立、
    暗躍する男たちによるあからさまな贈収賄等をスズキは克明に記録していく…。

    魚の名前を持つ人々のキャラが鮮やかで共感を呼ぶ。
    反対派にも賛成派にもそれぞれの暮らしがあり、それを守ろうとして闘っている。
    この作品の特徴のひとつは、きれい事では済まされない、時に取引さえもするような
    推進派と反対派の関係がリアルに描かれていることだ。
    このリアルさが、被災しなかったエリアに安穏とする私たちの責任をも鋭く問うてくる。

    リアルさを支えるのは役者陣の人物造形に負うところが大きい。
    特に、金と電力会社への就職を武器に次々と土地を買収していく不動産屋アカメ。
    彼もまたこの土地で生まれ、中学卒業の翌日に集団就職の列車に乗ったひとりだった。
    都会へ出て行かなければ生活できない故郷に強力な企業と将来を誘致する、
    それこそが未来を創ると信じる彼もまた、この土地の人間なのだ。
    藤井びんさんの不遜な表情には何かを信じて疑わない者の動じない強引さがにじむ。
    最近立て続けに拝見した、台詞のほとんどない、或いは少ない舞台とはうって変わって
    この作品では“説得”より“ねじ伏せて”事を進めようとするアカメの言葉に
    圧倒的な説得力があって素晴らしい。

    電力会社のアサバがまー嫌なヤツで、これがまた巧い。
    南京玉すだれなんて時代がかった出し物で、ますます人の神経を逆なでするあたり
    演じる若林正さんが嫌いになりそうなほど(笑)

    反対派の拠点でおでん屋をしながら人々を見つめるカサゴの
    一歩引いた視点が効いている。
    演じる金子真美さんが一升瓶のふたをぽんっとてのひらで閉める音も心地よく
    この土地に居ながらこの土地を憎み、同時に離れがたい愛着もあるという
    複雑な心境をぶっきらぼうな台詞に込めて秀逸。
    彼女の最後の決断に涙が止まらなかった。

    反対派のリーダーとして先頭を走り続けるイサキ、
    坂浦洋子さんの熱演でこの土地への思いは伝わってくるが、
    窓の外の自然や幼いころの思い出だけでここを守ろうと説得するのはちと弱い気がする。
    現実的な推進派の意見に比べて、イサキの理由は情緒に傾きがちだ。
    もう少し何か、施設運営とか施設の子ども達を守るとか、具体的な強い理由が欲しい。
    もっとも、それこそがあの当時推進派に押し切られた理由なのかもしれない。

    メバルの不思議な力がとても魅力的で、スズキに
    「この町の将来を知りながらなぜその事実を人々に知らせない」と叫ぶところ、
    何も出来ない無力な自分への絶望感が痛切。
    そのメバルと寄り添って生きて行く決意をしたタコスケを演じた石塚良博さん、
    繊細な表情と溌剌とした青年らしさがとても良かった。

    ただ最初にスズキと出会った老婆と、最後にもう一度対峙する所が見たいと思った。
    撮った映像をスズキがこれからどうするのか、
    ドキュメンタリーにはどんな力があるのか
    魚の町へ誘った老婆に、その決意を語って欲しかった。
    裁判所の場面より、むしろあの老婆がスズキに伝える言葉が聞きたかった。
    それはそのまま今日の私たちへのメッセージであると思うから。

    3

    2014/03/19 03:00

    0

    0

  • t.againさま

    こちらこそ素晴らしい作品をありがとうございました。
    改めて鋭い視点を持つ作品に出会えたこと、感謝しております。
    また次の作品を楽しみにしています♪

    2014/03/21 02:54

    詳しい紹介、批評の数々ありがとうございます

    ご指摘通り役者さんに恵まれた公演だと思ってます

    「アカメ」藤井びんさんについては、ご自身が福島県三春町の出身であり、いろんな思いがやはり滲み出てます。

    2014/03/20 10:44

    ありがとうございました

    何が残る舞台だったか、自身、今反芻し問い直してるとこです。

    2014/03/19 05:14

このページのQRコードです。

拡大