エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ- 公演情報 東京マハロ「エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    エースに会いたい
    「エースが死んだ」という知らせを受け、15年ぶりに高校球児たちが集まる。
    音信不通だったエースのその後、棺桶の無い通夜、噴き出す不満。
    謎が明らかになる終盤、登場しないエースの顔が浮かんで来るような秀作。
    達者な役者陣の台詞が素晴らしく、台詞のほとんど無い藤井びんさんがまた良い。
    喪主である妻の言葉に、かつての球児たちと一緒に私も泣いていた。
    なぜあのエースが死ななければならなかったのかと。

    ネタバレBOX

    劇場に入ってまず、雰囲気ある珈琲店のセットに目を奪われた。
    つやつやしたテーブルと椅子、ステンドグラスの窓、柔らかい照明、
    カウンターのしつらえやメニューに至るまで、そこに身を置きたくなる空間があった。
    作者のこの空間への愛情とこだわりがあふれるようなセットだ。

    高校時代、あの松坂から練習試合の申し込みを受けるほどの実力校は
    絶対的なエースを誇っていた。
    ところがある試合中の偶発事故でエースは致命的な怪我を負い、
    結局それが元で野球を辞めて転校して行った。
    その後の足取りを誰も知らないまま15年が経ったある日
    突然エースの死が知らされて、当時のメンバーが集まることになった。
    高校時代、大人の空間として彼らが憧れた場所、珈琲「エリカ」に現われた面々は
    平静を装いながらもそれぞれが屈託を抱えている。
    先輩への批判、捺子を巡る攻防、夫への疑惑、そしてエリカでのあの事件…。
    エースの死の謎を前に、しまい込んでいた思いがふきこぼれ始める…。

    「久しぶり~」と言いながら腹の内に別の思いを秘めている人々の
    “何かある”表情が徐々に変化していく様が秀逸。
    展開に無理がなく、理由を見つけて難しいことから逃げたい人間の心理が極めて自然だ。
    体育会系に限らず、誰もが覚える自己肯定と言い訳に思わず笑ってしまう。
    しかしそこに、逃げもせず、誰も恨まずに去って行った者がひとりいるとなると
    話は少し違ってくる。
    まして一番傷付き人生さえ狂ってしまったその彼が、
    唐突に消えてしまったとあれば尚更。
    この15年間、側でエースを見てきた妻の言葉に泣かずにはいられなかった。
    その事実の前で、ちっぽけなプライドや自己肯定など何の意味があるだろう。

    “しがない”がスーツ着ているみたいなお宮の松さん、
    台詞のタイミングと間が素晴らしく、会話の妙を堪能した。
    高校時代からイケイケだった捺子を演じた山口芙未子さん、
    フェイスブックに写真を載せたがりの現在が相変わらずな感じで、
    それがまた中身の空ろさを見せて上手い。
    ほとんど台詞の無いマスターを演じた藤井びんさん、
    味わいのある目線で、沈黙をそれと感じさせない演技が素晴らしい。
    主宰で作・演出の矢島弘一さん、前説とチョイ役で登場されたが
    口跡と声が魅力的で、この方の芝居をちゃんと観てみたいと思った。

    エースはいつもエースだったのだ。
    野球を辞めた後もエースだったし、葬儀が終わった今も燦然と輝くエースである。
    「エリカ」は神保町に実在する珈琲店だそうだが、
    その店名の由来である花言葉がひと言つぶやかれるラストが良かった。
    誰も皆「エリカな人々」だったのだ、そしてエースもまた。

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    2014/02/28 03:52

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