劇トクッ!

小手伸也 |「白紙のスケジュール」を越えて――『コテンペスト』で魅せる、不屈のエンターテイナーの生き様〈後編〉

『真田丸』での劇的な脚光、そして『コンフィデンスマンJP』や『SUITS/スーツ』での大ブレイクを経て、今やテレビ・映画・バラエティに引っ張りだこの名バイプレイヤー・小手伸也。しかし、その華やかな成功の直前には、スケジュール帳が白紙になり廃業を覚悟した危機が存在していた。CoRich舞台芸術!チャンネルでの対談動画『劇トクッ!』を元にした全4回連載の最終回では、背水の陣で挑んだ三谷幸喜作品での裏話、そして舞台初主演作『コテンペスト』への情熱、表現者としての未来像を語り尽くす。

「この舞台が終わったら、バイト先で正社員になる」――崖っぷちで迎えた転機

2016年、NHK大河ドラマ『真田丸』で自意識過剰な武将・塙団右衛門役を演じ、大きな話題を呼んだ小手伸也。早稲田大学で別々の演劇サークルに所属し、互いを知りながら共演機会のなかった主演・堺雅人との初共演や、自由度の高い演技で一躍知られる存在となったが、当時の生活は依然として苦しく、アルバイトを継続する日々が続いていた。

翌2017年、三谷幸喜作・演出の舞台『子供の事情』(シス・カンパニー公演/新国立劇場 中劇場)への出演が決定。しかし、その時点での小手のスケジュール帳は、この公演以降が「完全に白紙」という壮絶な崖っぷち状態であった。第一子が誕生したばかりの小手は、「この舞台で何の結果も残せなければ俳優を辞め、バイト先で正社員になろう」と固く決意し、文字通り背水の陣で舞台に臨んだ。

「なんで仕事がないの?」――大泉洋、天海祐希らが打ち砕いた「自己否定」

公演期間中、出演者たちの飲み会で「この後のスケジュールが真っ白なんです」と漏らした小手に、大泉洋、天海祐希、小池栄子といった一流の共演者たちは一様にきとんとし、異口同音に問いかけた。「えっ、なんで? あなたほどの役者に仕事がないなんて、意味がわからない」――。

卑屈になり、自らの価値を不当に低く評価していた小手に、第一線の俳優たちが示した純粋な「戸惑い」と「リスペクト」。それは「己を卑下することは、自分を認めてくれている相手の信頼を裏切ることだ」という強烈な気づきを与えた。自意識の殻を破り、周囲の期待に100%応える「覚悟」を決めた小手は、ここから怒濤のブレイクへと駆け上がっていく。

『コテンペスト』開幕――エゴイストではなく「エンターテイナー」として

その後、ドラマ『コンフィデンスマンJP』(五十嵐役)でのブレイクやバラエティでの目覚ましい活躍を経て、小手は50歳を過ぎて「正面からシェイクスピア戯曲と向き合いたい」という熱望を抱く。しかし、長年の盟友である村上大樹(拙者ムニエル)が脚本・演出を手がけることになった企画のタイトルは、なんと俺もそろそろシェイクスピア・シリーズ『コテンペスト』(原作:W.シェイクスピア/小田島創志 翻訳「テンペスト」より)であった。

自らの名前が冠されたタイトルに当初は「恥ずかしすぎる」と猛反発した小手だったが、共演の鈴木保奈美らから「面白いじゃない!」と後押しされ覚悟を決める。「自分がどう魅せたいか(エゴ)ではなく、周囲や観客が求めるものに全力を尽くす(エンターテインメント)」という自らの哲学へと昇華させ、“妖精おじさん”こと内木弁慶役(地方の老舗百貨店・天平ストアを舞台にした復讐劇の主演)として、本多劇場およびCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールでの舞台を見事に牽引してみせた。

海外進出からインド映画(ボリウッド)へ?――挑み続ける表現者の未来

今後の展望について問われた小手は、「地上波ドラマでの主演」や「海外進出」といった一見無理と思える高いハードルに挑み続ける意欲を明かした。「これまでの人生、いつも恐怖やプレッシャーを感じる『少し無理なハードル』を必死で越えることで、1段ずつ成長してきた。一生その挑戦は続いていく」と語る。

高校時代に電車内で見知らぬ女子高生から「カレー味」と評された独特の濃い顔立ちを引き合いに出し、「ハリウッドがダメならボリウッド(インド映画)で超絶ダンスを踊る主役を目指す」と笑いを誘う姿には、どんな状況をも最高のエンターテインメントへと変換してみせる不屈の俳優魂が宿っていた。内向的だった少年時代から、演出用語「コテる」の迷路を経て辿り着いた稀代のバイプレイヤー・小手伸也。彼の表現の旅は、これからも観客に驚きと歓喜を与え続けていくはずだ。

【連載完結】全4回をご愛読いただきありがとうございました

演劇メディア「keicoba」では、今後も時代を切り拓く演劇人たちの知られざる哲学とストーリーを深掘りしてお届けしていきます。

【動画出典】CoRich舞台芸術!チャンネル『【劇トクッ!】小手伸也、登場!④』

URL: http://www.youtube.com/watch?v=QcdGOIYDMwI

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