稽古場レポート

some ports『ある港』稽古場レポート

some ports

『ある港』

2026年6月26日(金)〜28日(日)

とある「港」区の稽古場で、some ports『ある港』の稽古を見学した。

稽古場の扉を開けると、作・演出・出演のミミマルとともに、7A、新田佑梨、日和下駄が、意見を交わし合っている。テキストに登場する「コンビニ」について。

「コンビニの解像度をあげたいですね、テキストに出てくるコンビニが、どんなコンビニなのか伝わるようにしたいです」

「どこに何があるのかってことをイメージしていくってことですよね」

「いくつかの棚で、商品を手に取ることはできます?」

「買わないものは触らないかもしれないです」

「成分表の確認とか」

「うーん……」

「例えば観光に来たという身体性だとどうです?」

「あ、なるほど。観光ね!」

どのような身体性で臨むと、観客にとっての「コンビニ」のイメージが豊かになるのか。言葉のやりとりは穏やかで、誰かが何かを提案するたびに、全員の動きが変化する。柔軟な空気。アイデアを試しやすい。いい稽古場だ。

ミミマルは言う。「『ハレとケ』のハレの舞台じゃなくて、ケの舞台みたいなものをどうやったら作れるかと考えています。家から役者が来て、アップとかしないで、そのまま普通に舞台に上がって、終わったら、バイトのシフトが上がったみたいに帰ってく、みたいな形で上演をしたいなと考えたりとか」

稽古場の空気もまた、それぞれの俳優の日常の延長線上にあるような、そして、それがたまたま交わったような柔らかさがある。

今回が旗揚げ公演でもあるため、some portsという団体について、ここで記しておこう。

some portsは、2011年から2018年にmimimalという団体名で活動していたミミマルが、あらたに立ち上げた団体。some portsという団体名には、「港(=port)で異なるものが出会い、交わり、また旅立っていく場所」という思いと、「インターネットの【ポート】として、距離を越えて異なるものを接続する回路」として「複数の観客と接続する場所としての空間を作る」という思いが込められている。

以前は、「セカイ系を、アンチ的なスタンスで、生身の体でちゃんとやるみたいな感じ」の演劇作品を作っていたと言うミミマル。現在は、言葉に対するこだわりが強いと言う。

「例えば代名詞で、『僕』とか『私』とか『俺』とか、どれもしっくり来ないんです。どの一人称もしっくり来なくて、それを抱えたまま、ものを書いています。今回で言うと、役名が役割をそのまま表現している。架空の人物の名前を与えるのではなく、テキストには『Pa』『Pb』と表記しています。『P』はプレイヤーのことで、『プレイヤーのa』と『プレイヤーのb』。それから、『わたし』と『わたしたち』。わたしには『渡し』という意味も込めています」

「いわゆる普通のドラマみたいなものには、そこまで興味がないんです。表現するときには、そのドラマ自体を俯瞰して、外側から見るようにしている。今回の作品も、完全にどっぷり物語の中に登場人物が入るようなことはしたくないので、文語体が途中で入ったり、入り込みすぎそうになると没入から引き戻すような、外から見るような視点を入れるようなテキストを書いています。演劇を『お客さんがどういう風に見るか』みたいな、『見せ方のデザイン』みたいなものに興味があります」

話を聞いていると、新しい観劇体験ができそうな気がして、どんどん興味が湧いてくる。

ミミマルの6年ぶり、休止からの再出発に向けては、mimimal時代に多数作品に出演していた日和下駄の存在が大きいと語る。

「日和さんはすごく率直に意見を言ってくれます。それこそ『面白くない』というようなことも。だからこそ僕は日和さんのことを信頼しています。そう言ってくれる人ってなかなかいないですよね。全然嫌な気持ちにはならずに、『面白くないなら面白くしてやろう』という気持ちになります」

今回、日和下駄は出演者であるとともに、制作面やキャスティングなどで大いにサポートをしている。円盤に乗る派に所属し、自身の身体や思考をどう演劇に接続するかを深く面白がる演劇的知性と、周囲から愛される「生活者としての魅力」を両立している俳優である。多くの団体で制作を務めており、プロデューサーとしての視点も持っている。

日和下駄

『ある港』の出演者は4名。7A、新田佑梨、日和下駄、ミミマルである。

7Aは、モデルやスタイリストなど、特定の枠にあてはまらないジャンルレスな活動をしており、コントユニット『明日のアー』の常連キャストであるほかD地区『京王』などに出演。自らのことを演劇1年生と言うが、フラットにその場にいられる強さがあり、人の視線を集める。

7A

新田佑梨は、青年団に所属。お布団では制作も務め、アクセシビリティへの取り組みを進めている。『演劇のための演技論』(2024)、『演劇のための演技論その2』(2026)を発行し、役と俳優が同時に存在するためのアプローチを言語化。舞台上の出来事を観客も含めた劇場空間で「共有」することに価値を見出し、実践している。

新田佑梨

7A、新田、日和は、以前から舞台上での存在感が抜群に優れていると感じていて、私は今回、稽古場で3人がどのように稽古をしているかを見られるのを楽しみにしていた。

この日の稽古は、全10場あるテキストから、<5~6場>の稽古が中心となった。数日前に行った通し稽古を経て、個々のシーンの面白さを見つける段階に入っているとのこと。

そこにいるだけで、その佇まいが目を引いてしまう俳優が3人も集まっているなんて、贅沢だ。誰のどの瞬間を見てもすでに成立しているし、絵になるし、魅力的。さらに今回、稽古場で初めて見たミミマルの存在感もまた、ミステリアスで、吸引力がある。

ミミマル

冒頭でも書いた通り、ここは、アイデアを試しやすい稽古場なのだが、日和の提案がそれをさらに加速させた。

「今この段階ではさ、正解を探すんじゃなくて、この瞬間が面白くなることを積極的に試してみよう」

「台本をちゃんとやるぞ、じゃなくて。どうしたら面白くなるかを考えながら、たくさんの種まきをする時期なんだと思うな、今は」

今回の俳優たちが、SNS上で展開している音声による稽古記録の発言を思い出した。

「ものすごく分かりやすい物語ではないから、『とっかかり』をつくることが大事だと思う」

その「とっかかり」づくりが始まるのだ――。

それは、一つの空間に二つのレイヤーが重なっているようなシーンである。とあるプレイヤーは、そのとき、いくつかの石をぽいっぽいっと一定のリズムで投げている。

「石を投げるのをさ、投げ方変えてみようかな」

この提案が、私にとって、この作品のおもしろさが飛躍する「とっかかり」になった。

プレイヤーが、ある時点まで石を投げることを控え、ある瞬間にまとめて一気に投げる。まとめて投げられた石は、レイヤーを飛び越えて、もうひとつのレイヤーに波紋を広げる。レイヤー同士の影響力は強まり、緊張感が高まる。シーン全体の音の強弱に変化が生まれる。私はいつのまにか、稽古場全体から聞こえる音にも意識を向けるようになっていた。たった一つの変化が、こんなにも多くの繋がりをつくるとは驚きである。

その後も、演出家と俳優が、テキストの解像度を上げながら、それぞれに可能性を広げる提案をしていく。7Aのもつ佇まいは、フラットにその場にいるという「ケの状態」や文語体の混じるテキストと相性が良く、新田佑梨の一つの言葉から伝わる情報量の確かさはテキストから色が見えるよう。日和下駄は、テキストによって定められた大きな制約に対して刺激的なアプローチを続けてゆく。観客として私たちが本番で見ているものは、稽古場で座組が積み重ねてきた、たくさんの可能性のなかのひとつであるということを感じさせてくれる稽古だった。

「本番までに変わるかもしれないけど、今日のところはこれで」

稽古後に、ミミマルに、観客にこの作品をどう見てほしいか聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「豊かに誤解してほしいんです。この人物はこういう風に行動を起こすのかなとか、いろんな可能性を残しながら、物語として閉じずに、開いた形で見てもらえたらなと思うんです」

豊かに誤解してもいい作品だなんて、素敵すぎるじゃないか。

家に帰ってから、共有していただいたテキストを読んでみると、文体にこだわるミミマルのテキストには、こちらの想像力に働きかけるような面白さがあふれている。今日見たシーン<5~6場>は、こう繋がるんだ!という楽しさもあり、全体を通して長い旅をするかのよう。そしてラストシーンである。最後に一言、どうしてもこれを言っておきたい。今、私はテキストの最後のページに猛烈に嫉妬している。端的に言って撃ち抜かれる表現だ。あぁ、早く見たい。この表現がどのように立ち上げられるのか、楽しみで仕方ない。

取材・文/成島秀和

稽古場写真/丘田ミイ子、成島秀和

<公演情報>

some ports『ある港』
作・演出:ミミマル
出演:7A、新田佑梨(青年団)、日和下駄(円盤に乗る派)、ミミマル(some ports)

<会場>
SCOOL

<日程>
2026年6月26日(金)〜28日(日)
6月26日(金)14:00 19:00
6月27日(土)14:00 19:00
6月28日(日)14:00
※受付開始・開場:各回開演30分前

<チケット>
一般:3500円
U29:3000円
当日:4000円
https://reserve.tolpa.jp/reserve/8848457

※全席自由・当日精算
※U29チケット(29歳以下の方)は入場時に要証明書提示。

宣伝美術:ミミマル
制作:日和下駄
協力:円盤に乗る派、お布団、青年団
企画制作・主催:some ports

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