
5月29日(金)より中野の水性にて、大竹このみ ひとり芝居『わたし、こども部屋おばさん』が開幕する。本作は、贅沢貧乏のメンバーであり、俳優としても多方面で活躍する大竹このみの初の一人芝居。出演だけでなく、台本執筆も自ら担い、演出は山田由梨と共同で手がけるという、初挑戦づくしの公演だ。
この人生は、わたしだけのもの──。俳優として生きること、家族の一人として生きること、労働や社会の中で生きること…。いくつもの肩書きや関係性を横断しながら、さまざまな生の実感をその身一つで体現する約70分の人生劇。今を生きる上で感じる孤独や葛藤、不安や戸惑い、そして、自らの人生を肯定しようとすること。自身と格闘しながら等身大の姿で創作に向き合う大竹このみに、本作の意気込みについて話を聞いた。

エッセイから演劇の輪郭を立ち上げて
―まずは、今回の企画の着想や一人芝居をやろうと思ったきっかけからお聞かせ下さい。
2023年に所属している贅沢貧乏の活動で、公演を目的にしない稽古に取り組んでいた時期があって、メンバー間で自分たちの演技体について話し合ったり、実践をしたりしていたんです。その活動のなかで、「一人の俳優としても自分のスタイルを確立させていきたい」とか「もっと自信も持って舞台に立ちたいな」という気持ちが生まれて…。そんな話をしていた時に、(山田)由梨さんが「一人芝居とかやってみたら?」と言ってくれたんです。それが一人芝居公演を意識し始めた最初のきっかけでした。その翌年の年末に劇団の本公演『おわるのをまっている』があったので、終演後の年明けに「一人芝居やります!」と宣言をしました。

―内容としても私小説のような手触りがあり、稽古でもこのみさんがご自身を外にひらきながら舞台に立たれていることがすごく伝わってきました。
やるって決めた時点では、自分のことを書くつもりは全くなく、一人芝居の既存戯曲をやろうかなと思っていたんです。でも、既にある脚本や、誰かに脚本を書いてもらったりするよりも、「自分の言葉で書いた方が面白いかもしれない」と思うようになって…。とはいえ、何から書き出したらいいかわからなくて由梨さんに相談をしたら、「まずはエッセイを書いてみよう」となったんです。これまでの自分を振り返りながらいくつかのエピソードを書いて、最初の3本を提出した時に由梨さんに「まだまだ奥に本当のこんちゃんが隠れてるね」「もっと書けるはず」と言われて…。10年来の仲だけあって、見透かされていたんですね(笑)。それで、ああでもない、こうでもないと書き続けていくうちに誰にも話したことなかったコンプレックスにまつわる言葉がポツポツと出てきて、そのエピソードが今回の作品の核に繋がっています。

―上演もですが、脚本を書くということもこれまでにはない挑戦だったことが伺えるお話です。
そうなんですよ。去年のちょうど今頃に映画監督の長久允さんのワークショップに参加したんですけど、その経験も自分の中でとても大きなものでした。ワークショップ内の課題で短い脚本を書く時間があったのですが、長久さんがご自身で脚本を書く時の方法やプロセスをシェアして下さって…。初心者の自分にとってはその全てが新鮮で、重要なヒントが詰まった刺激的な時間だったんですよね。
個人が生きている実感や葛藤をフィクションに託して
―ともに演出を手がける山田由梨さんとの対話や長久允さんのワークショップを経て、台本のベースや作品の輪郭が徐々に出来上がっていたのですね。『わたし、こども部屋おばさん』というタイトルはなかなかのインパクトですが、内容についてもお聞きできますか?
バイトをしながら俳優として夢を追っている自分と、実家暮らしの箱入り娘で、すごく大事にされている自分。そうした自分の今の状態や状況が「こども部屋おばさん」という言葉にすごく当てはまっていると感じたんです。劇中にはマッチングアプリで知り合った男性と会うシーンや、幼少期に遭遇した性にまつわる出来事を振り返るシーンもあるのですが、私自身は性的な部分や恋愛的な部分といったプライベートをオープンにしている人間ではないので、どこまで自分を投影するかについては葛藤や戸惑いもありました。でも、「演劇」という枠組みや「フィクション」の力を借りて、個人の生きている実感や感情を表現することはできる、とも感じていて…。女性として生きる上で傷ついたことや、恐怖を感じたことって、私だけでなく、みなさん何かしら心当たりがあるのではないかと思うので、作品を通じて観客の方と手を繋げるような瞬間があるのではないか、とも思っているんですよね。

― おっしゃる通り、さりげない日常を映し出しながら、要所要所で女性として生きる上での戸惑いや葛藤も浮かび上がってきて、「こういう気持ち、自分だけじゃないんだ」と思える瞬間がありました。
20代の頃はまだまだ未熟な部分も多く、自分の人生や、女性として生きる上で感じていることを元に一人芝居をやろう、なんて考えには至らなかったんですけど、30代といういい大人になって、「今なら思いっきりやれるのかもしれない」と思ったんですよね。同時に、「今このタイミングでやっておかないと先に進めないかも」という実感もありました。学生の頃から俳優をやってきて、劇団のメンバーとしても10年活動をしてきたなかで「ここらでちゃんと自分の力を全部使ってやるべきなんじゃないか」と。そういう意味で、ついに時が来たな、という感じでした。

―劇場は中野の水性。この場所選びについてはどんなこだわりがあったのでしょう?
去年に宝宝の『みどりの栞、挟んでおく』という作品を水性で観劇して、すごくひらかれたいい空間だなって思ったんです。作品の力もあると思うのですが、演じる側としてすごく興味を惹かれる空間でしたし、観ている側としてもすごく心地が良かったんですよね。ドアの向こうで商店街を歩いている人がふと立ち止まって中を見ていたり、そういう偶然が発生するのも面白くて…。特別な場所でありながら、日常がすぐそこに見える。そんな空間が今回の作品にも合っているなと感じたんです。
稽古で感じる孤独、他者のまなざしの大きさ
―水性という空間とのセッションも楽しみにしています。稽古はどうでしょうか? 一人芝居ということで、やはり贅沢貧乏の劇団公演はじめ、他の現場とは違ったアプローチもあるかと思うのですが、新たな発見や気づきなどはありましたか?
稽古では由梨さんをはじめ、劇団メンバーや見学に来てくれた俳優仲間にも色々と助けてもらっているのですが、誰もいない一人の空間で稽古をする時間もあって、そんな時にしみじみとみんなの存在の有り難みを感じます。一人で稽古をしていると、ふと、めちゃくちゃ孤独を感じるんですよ。「今、わたしは一体誰に向かってこの言葉を届けているんだろう?」と思ったりして、稽古って誰かに自分を見つめてもらう時間でもあったんだな、ということを改めて感じました。一人で同じシーンを繰り返しやっていると、どれがいいのかもわからなくなってくるし、だんだん1000本ノック的なトレーニングのような手触りになっていくんです。もちろん、そのことによる新たな気づきもたくさんあるのですが、この表現が適切か、自分一人でジャッジまではできないので、由梨さんやメンバーや見学者の方がいてくれる時は心強く、稽古がすごく濃密なものになっていると感じますね。
― 一人芝居であっても、一人じゃない。贅沢貧乏のコミュニティの豊かさや、演じる人と見ている人との関係性についても考えさせられるお話です。
先月に贅沢貧乏が不定期で開催しているトークイベントがあったのですが、その中で「試演会」という形で本作を一部上演させてもらったんです。そこで初めてお客さんに向けた上演を実践させてもらって、「これこそが演じるってことなんだ」と痛感したんですよね。もちろん、お客さんに見られることによる緊張もあるんですけど、ある種の安心感もあって、なんというか、孤独じゃないって思えたんです。自分は人に見せるために表現を、演劇をしているんだなって改めて思いましたし、お客さんを含めた周囲の人から影響や刺激を受けて、やっと舞台に立てているんですよね。そうした関係が結ばれて初めて演劇は成立する。そんな風にも感じました。トークイベントに来てくれたお客さんたちが帰り際に、熱心に感想を伝えてくれたり、演出の提案もしてくれて、本当に皆さんの力をいただいてこの作品を作っていると実感しました。

―舞台と客席を横断したコミュニケーションは演劇において非常に重要なものですよね。他に稽古場での反応や見学者の方とのエピソードで印象的だった言葉や出来事などはありますか?
家の近くで自主練をする日に、母が稽古場に来てくれた事があって。お母さんと一緒に稽古場に入るっていうのがめちゃくちゃ新鮮でした(笑)。母とのシーンがいくつかある芝居なんですけど、セリフの練習をしていたら、「ちょっと待って、そんなこと言ってない」って指摘されて(笑)。稽古を止めて、あの時の気持ちはこうだった、とかもう一度よく聞き取りしまして、セリフを直すっていうことをして、なかなか面白い稽古でした。当時母が感じていた思いを知ることができ、改めて母の役を自主練していると、涙が溢れてきて、一人で号泣しながら稽古をしたこともありました(笑)。
この作品で培った経験を、今後の活動に還元したい
―今回は、演出も山田さんとともに話し合いながら進めていらっしゃいますよね。その対話や実践の中で感じていることはありますか?
やっぱり、10年一緒にやっているだけあって、お互いのことがわかっていて、そのことがすごく大きいなと思います。一人芝居は初挑戦ですが、そういう意味ではとても安心な状態で稽古に臨めていると思います。由梨さんは私がどういう芝居をするのかはもちろん、得意なことや苦手なことも知ってくれているし、私も由梨さんの演出が意図するところなどがわかっている。なんというか、呼吸レベルのベースができているというか…。そういう共通の言語や感覚の多さに支えられているクリエーションだと感じますし、ともに温めてきた時間を上演にも活かしていきたいと考えています。
―今回の上演はもちろんですが、本作を経ての大竹さんのご活躍も楽しみになるインタビューでした。最後に、いち表現者としての今後の展望をお聞かせいただけますか?
今回初めてエッセイから台本へと「書く」という作業に挑戦をして、やっぱりすごく苦戦したし、しんどかったですね。でも、振り返ると、そのプロセスが今回の創作においてはもちろん、自分の人生にとってもすごく大事な時間だったと感じているんですよね。だから、また何かしらの形で書くかもしれないなって思います。あんなに苦しかったのに!(笑)。そのくらい自分にとって貴重な経験でしたね。あとはやっぱり、こうして一人きりで稽古をしたり、舞台に立つといった経験が今後の活動にすごく活きてくるんだろうなって思います。ここで感じた孤独や苦労も含めて、劇団活動の発展や俳優としての成長に還元していけたらと思いますし、今後も自分が感じていることや培ってきたものをエネルギーにして、新たな活動の場で精一杯発揮できたらと思います。

取材・文・稽古場撮影/丘田ミイ子
<プロフィール>
大竹このみ(おおたけ・このみ)俳優
埼玉県大宮出身。桜美林大学卒業。2015年より2年間、こまばアゴラ演劇学校無隣館2期生として平田オリザ氏に師事。2016年より贅沢貧乏(山田由梨主宰)劇団員。2017年『みんなよるがこわい』中国ツアー、2022年『わかろうとはおもっているけど』パリ公演など国内外の劇団公演に参加。ゆうめい『娘』(演出:池田亮)、少年王者舘『1001』(演出:天野天街)出演。近年では、舞台のほかドラマ・広告など活動の幅を広げている。主な出演作に、NHK「作りたい女と食べたい女」シーズン2 、Netflix「今際の国のアリス」シーズン3、WOWOW「PORTAL-X」など。
<公演情報>

大竹このみ ひとり芝居『わたし、こども部屋おばさん』
作・演出・出演:大竹このみ
演出:山田由梨
会場:中野「水性」
上演スケジュール
5月29日(金)19:30
5月30日(土)14:00 /18:00
5月31日(日)14:00 / 17:00(追加公演)
チケット
前売:3,000円/当日:3,500円(全席自由席・税込)
https://livepocket.jp/t/kon_hitorishibai2026
宣伝美術:茶谷果倫
宣伝写真:川面健吾
応援団長:青山祥子
見守り隊員:田島ゆみか
制作:堀朝美
全面協力:贅沢貧乏
企画制作・主催:大竹このみ