インタビュー

劇団だるめしあん『ラブイデオロギーは突然に〈劇場版〉』インタビュー

文筆家 丘田ミイ子

8月7日(金)より座・高円寺1にて、日本劇作家協会プログラム 劇団だるめしあん25周年記念公演『ラブイデオロギーは突然に〈劇場版〉』が開幕する。2001年の旗揚げ以降、「えっちでポップなファンタジー」をモットーに、人々が社会で傷つきながらもその先へと立ち向かう姿を明るく描いてきた劇団だるめしあん。本作はそんな団体の歩みやカラーが凝縮された代表作の一つであり、同時に、長年女性が社会によって受けてきたさまざまな差別や抑圧に切り込んだ、フェミニズムの本質を問うエンタメ社会劇でもある。

物語の舞台は、かつてティーンを中心に話題をさらったケータイ小説『あまこい』。20年の時を経て、原作者とそのドラマ化を担当した脚本家が出会い、ひょんなことから『あまこい』の世界に転生してしまう、というストーリーだ。初演から2年を経て、Wキャストのフルスケール版としてリクリエーションに励む劇団だるめしあん。本作に込められた思いについて、作・演出を手がける坂本鈴に話を聞いた。

作・演出:坂本鈴

ケータイ小説の世界に転生 そこで見つめる、かつての罪と傷

―『ラブイデオロギーは突然に』は2年前に開催された『ガチゲキ!!』復活前年祭内で初演され、話題を呼びました。今回は〈劇場版〉と銘打っての再演ですが、その経緯からお聞かせいただけますか?

おっしゃる通り、初演時の手応えが大きかったんですよね。「自分が作りたいものはこういうものだったんだ!」という実感を得られた作品だったので、より多くの人に観てもらいたいという思いがありました。今回は劇団だるめしあん25周年記念公演でもあり、そうした節目を鑑みた時にも、団体としても作家としても一つの集大成と思える、名刺代わりのような作品なんですよね。今回を〈劇場版〉としているのは、初演がフェスでの上演だったこともあり、伏線編・ネタバレ編みたいな感じで上演していたからなんです。また、初演では長年ともに歩んできたメンバーである河南由良が出演していなかったので、「団体の代表作をメンバーが出ている作品にしたい」という劇団としての思いもありました。そんな背景もあり、完全版の本公演作品としてリクリエーションすることに決めました。

劇団だるめしあん 写真左から河南由良、坂本鈴

―ケータイ小説の原作者とそのドラマ化を担当した脚本家の女性2名が、20年の時を経て出会い、ケータイ小説の世界に転生する。初演を拝見した際、この始まりからグッと引き込まれたのですが、設定はどういったことから着想を得ているのでしょうか?

『ガチゲキ!!』復活前年祭のフェスティバルテーマが「月9」だったこともあり、最初は登場人物が平成の月9ドラマの中に転生する話を書こうかなと思っていたんです。そのリサーチの一環で平成のカルチャーを調べている内に「そういえば、ケータイ小説ってあったな」とふと思って。改めて読んだら、往々にして女性の主人公たちが「そんなことある?!」ってくらい酷い目に遭い続けるんですよ。しかも、それらが“真実の愛”によって救われる、という構造や展開もパターン化していて…。これは、当時の価値観を表象する一つのメディアであると感じましたし、そういった物語を今の視点で見つめ直すことで、価値観やラブストーリーそのものの捉え方を変えていけるような作品が作れるんじゃないかなと思ったんです。

『ラブイデオロギーは突然に』初演(『ガチゲキ!!』復活前年祭で上演)

―家庭内暴力や性加害、望まぬ妊娠に思いがけない事故や病気…。たしかに、思い返すとケータイ小説の主人公たちの身にはさまざまな被害や悲劇が降りかかっていたように思います。

そうなんですよ。運命の相手だと思っていた男と悲惨な別れ方をして、別の男と付き合ったら今度はDVを受けてしまうとか、救いを求めて辿り着いた先で新たな被害に遭う、というような生々しさも描かれているんですよね。あと、執筆を通して、セクハラをセクハラだと思っていなかった自分自身にも気づきました。例えば、年上の男性に突然頭をポンポンされるとかも、別にそんなに嫌なことだと思ってなかったな、とか…。

―当時の自分と今の自分のギャップのようなものにも気づいた、と。

これは個人差もあって、そこまで嫌なことだと思わない人もいるかもしれないのですが、当たり前のように若い女性がそんな風に扱われる社会は良くないと思うんですよね。でも、ケータイ小説をはじめ、平成のドラマや漫画にはそういう描写がすごくあるんですよ。お決まりのように先生が口説いてくるとか、それを羨ましいと思って見ている子がいるとか、そういう物語の世界観や空気感自体にもハラスメントされていたんだな、って気づいたんですよね。時代の空気感として、若い女性がとりわけ中高年男性の消費の対象になりがちだったというか…。

『ラブイデオロギーは突然に<劇場版>』甘組稽古場より 左からキャストの田実陽子、若尾颯太

―女子高生として平成を過ごした世代としても心当たりがあるお話です。

殴られてもしつけだと思ってしまうとか、雑に扱われても愛情だと思ってしまうとか、社会や世界そのものから理不尽にグルーミングされている状況もあったのだ、と思ったんです。他にも、図書館でのラブシーンという際どい展開がラブラブ幸せSEXとして描かれ、しかもその果てに妊娠しちゃったりするんですけど、「まずその前に避妊はどこにいったんだ!」と思ったりもしましたね。ロマンティックというパッケージにされているけど、実はめちゃくちゃ乱暴で加害的な話だったりする。そして、そうした物語を自分もまた違和感なく受け止めていた時間があったりもして…。だけど、自分も歳を重ね、今の時代を生きていると、若い人に対して「こんな目に遭ってほしくない」と強く思うし、作品を通じて「こんな目に遭わなくていいんだよ」って改めて言いたい、と思ったんです。

消費されづらいシスターフッド、新たなエンパワーメントの形を目指して

―劇中でも、物語の生みの親である40代の女性二人が、転生した小説の中でかつて自分たちが囚われていた価値観を見つめ直し、悲劇的な運命を回避しようと奮闘する姿が印象的に描かれます。そこで描かれる女性像に対しても非常にクリティカルな視点で描かれていますよね。

そもそも、40代の女性が主人公に据えられている作品自体がすごく少ないと思ったんです。執筆前に調べていく中でもその事実に改めて衝撃を受けましたし、これはやるべきだと思いました。こんなに中年男性のバディものの作品が数多くあるにも関わらず、中年女性のバディものが少ないのはなぜなんだ!と。もっと言うと、それは女性の俳優が40代になった時にやる主演の役がないということなので、かなり問題なのではないか!と。そう思ったんですよ。

―すごく共感します。

あと、アニメなどでも少しずつ女の子のバディものが増えてきて嬉しさを感じる一方で、男性によって意図せず性的に消費されてしまう部分もまだまだあるので、「せっかく出てきたシスターフッドもまだまだ消費の対象だな」とも感じていて…。そんな中で、「なんとか消費されづらいシスターフッドのエンタメを作りたい」という挑戦の気持ちで本作を書きました。

―これまでの作風ともまた違う角度から切り込んだ挑戦作なのですね。

そうですね。自分の作家性としても、この20年ほど「えっちでポップな社会派」として、女の子が楽しく自分たちの性を楽しめるような「性の解放」を描いた作品も発表し続けてきたんですけど、それをポジティヴに受け取ってくれる同世代や同性の観客がいる一方で、どうしてもおじさん層の性的消費になりうる状況もあり、疲弊してしまうこともあったんですよね。そういった経験を経て、自分たちがいざ中年の女性になり、当時より消費の対象ではなくなった時に「若い子たちに同じ思いをさせたくない」と痛感し、「もっと違う形でエンパワーメントできるんじゃないか」と思って、作風を変えたんです。昔は直接的にキスをしたり、パンツを振り回したりする描写もあったのですが、別の方法があるだろう、と。演出面でもそういうことを考えるようにもなりました。

―昨年上演された、セカチコこと『バイトの面接に遅刻しそうだったが、どうやら遅刻していたのは世界の方だったらしい』でも性描写がありましたが、肌の露出も俳優間の身体接触もなく、しかしセックスをしていることはわかる、というとても興味深い描き方でした。

セカチコにはベッドシーンが2つあったんですけど、一つは、男性がとにかくめちゃくちゃハードに筋トレをしてその横で女性が楽しそうにスクワットをする、という描き方で、もう一つは、セックスの喜びを明るいチアダンスで表現したんですよね。ずっとフェミニズム演劇をやってきた気持ちはあるし、根本的なところは変わっていないんですけど、昔はどこか、“隠れフェミニスト”みたいな気持ちでいた気がします。今の方が堂々と「私はフェミニストです」「これはフェミニズム演劇です」と言えるようになってきたのは、時代の流れもだいぶあると思いますね。

『バイトの面接に遅刻しそうだったが、どうやら遅刻していたのは世界の方だったらしい』(「カンテン『The Foundations』Final.」にて上演)

クリエイティヴな2つの稽古場 Wキャストに込めた思い

“平成”をテーマに、プリクラで撮影されたキャスト写真
左:恋組(上段左から高羽彩、河南由良、吉岡あきこ、木村美月、大内彩加、林美月、甲斐優風汰、中嶌聡、堤和悠樹)右:甘組(上段左から田実陽子、小泉まき、岡田優、小林桃香、陽向さと子、榊原あみ、若尾颯太、菅野貴夫、木内コギト)

―今回はさらに甘組と恋組のダブルキャストでの上演ですが、どんな魅力や見どころがあるでしょうか?

より広がりを持って、色んなお客さんに届けたいということももちろんありますが、「初演でできなかったことにも挑戦したい」という思いもありました。甘組は初演のメンバーが出演しているので、初演の魅力どうやってさらに増幅させるかっていうことに挑戦ができるし、恋組では初めてご一緒する人と自信作を立ち上げるという新鮮なやりがいがあります。両チーム、オーディションを経て参加してくださっている俳優さんもいるので、新たな出会いによって生まれる変化も見どころの一つですし、初演の良さと再演の良さ、どちらの味わいも詰まった作品になりそうです。あと、俳優さんがそれぞれ異なるプランを持ってきてくれるから可能性もすごく広がりますね。私が言ったことをみんながやってくれるだけだったら両チーム似通った演劇になっていくと思うんですけど、みんなが違うものを持ってきてくれるから味も全然違うものに仕上がっていくというか…。

『ラブイデオロギーは突然に<劇場版>』恋組稽古場より 左からキャストの高羽彩、堤和悠樹、河南由良、甲斐優風汰

―2つの稽古場を行き来する刺激的なクリエーションの様子が伝わってきます。

稽古場はどちらもすごくクリエイティブで、日々ダブルキャストの意義を感じています。みんなが「ここはこうしてみるのはどう?」「これも試してみよう!」とアイデアを持ち寄ってくれるので、お芝居もどんどん豊かになっていて。あと、ここのところ「大学生の頃みたいに素直に作品作りがしたい」という気持ちがすごくあったんですよ。みんなで面白いもの作ろうよってわいわい集って、都度アイデアを持ち寄ったり、意見を交換しながら進めていく、みたいな…。演出家と俳優、客演さんと劇団員がはっきり分かれていることのプレッシャーにがんじがらめになってしまう節もあったので、初心に戻るじゃないですけど、楽しく前のめりにクリエーションしたかったんですよね。なので、こうして両チーム、意見が活発に出てくる稽古場であることは本当に楽しいし、嬉しいんです。やっぱりエンタメがやりたいし、エンタメにやりたいんですよね。なので、お客様もぜひ前のめりに楽しみに観ていただけたらと思います!

『ラブイデオロギーは突然に<劇場版>』甘組稽古場より キャストの陽向さと子

取材・文/丘田ミイ子

<公演情報>
『ラブイデオロギーは突然に〈劇場版〉』

作・演出:坂本鈴

キャスト:【甘組】田実陽子、小泉まき(中野成樹+フランケンズ)、陽向さと子(劇団だるめしあん)、若尾颯太、木内コギト(劇団だるめしあん)、菅野貴夫、岡田優(㈱オフィス33)、小林桃香(露と枕)、榊原あみ【恋組】高羽彩(タカハ劇団)、河南由良(劇団だるめしあん)、大内彩加(Spacenoid Company)、甲斐優風汰、堤和悠樹、中嶌聡、吉岡あきこ、木村美月(j-beans)、林美月(にもじ)

<会場>
座・高円寺1

<日程>
2026年08月07日(金)~2026年08月11日(火)
8月7日(金)19:00 甘★
8月8日(土)15:00甘 / 19:00 恋★
8月9日(日)13:00甘【託】 / 17:00 恋
8月10日(月)14:00 恋【託】/ 19:00 甘
8月11日(火祝)13:00 恋
★=初恋割 【託】=託児サービスあり
(詳細は座・高円寺ウェブページ https://za-koenji.jp/detail/?id=256 へ)
※開場は開演の30分前

<チケット>
一般:5,000円
U-25:3,500円(25歳以下/要身分証提示)
初恋割引:4,500円(各チームの初回)
あまこいセット券: 9,000円(両チーム観劇で各回500円割引)
杉並区民割引:4,500円(在住・在勤・在学のご本人のみ)
障害者割引 (一般):4,500円(税込/介助者1名無料)
障害者割引 (U-25):3,000円(税込/介助者1名無料)(25歳以下/要身分証提示)
※全席指定
※車いす席でのご鑑賞および障害者介助券(要証明書|1名まで無料)を希望のお客様は、下記のフォーム経由でのお問い合わせ・お申し込みをお願いいたします。
https://business.form-mailer.jp/fms/80a2a6c3352322
※杉並区民割引・障害者割引チケットは座・高円寺ボックスオフィスのみで取り扱い(入場時要証明書) https://cloud-pass.jp/project/zakoenji

<予約>こりっちチケット!v2
https://darumesian.corich.co/loveideology/toujitu/calendar

<スタッフ>
舞台監督: 土居歩 (7th FIELD)
舞台美術: 多賀慧 (黒組)
照明: 瀬戸あずさ (balance,inc.DESIGN)
音響プラン: 大嵜逸生 (大人計画 別邸)
演出助手: 由木貴
宣伝美術: 安藤理樹
主題歌制作: PEPESALE
制作:飯塚なな子((劇)ヤリナゲ)
企画補佐: タナバタカナリア
特設サイト制作: 斧口智彦 (Theatre劇団子) 

主催:劇団だるめしあん
提携:座・高円寺(指定管理者:合同会社syuz’gen)
公式HP:https://darumesian.cranky.jp/loveide2026/

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