劇トクッ!

小手伸也 |インナーチャイルド結成、そして演出用語「コテる」が導いた10年の迷路と『真田丸』への奇跡〈中編②〉

学生演劇の修羅場を経て、いよいよ自身の美学を具現化する劇団innerchild(インナーチャイルド)を旗揚げした小手伸也。劇団☆新感線やNODA・MAPといった超大舞台へ抜擢され、順風満帆に見えた彼の俳優人生だったが、その裏側には演劇界の怪物たちに翻弄され、「コテる」という演出用語まで生まれた深い迷路があった。CoRich舞台芸術!チャンネルでの対談動画『劇トクッ!』を元にした全4回連載の第3回では、自身の劇団論と、10年に及ぶ試行錯誤がNHK大河ドラマ『真田丸』へ結実するまでの劇的なドラマを明かす。

「心の回復」を描く劇団innerchild旗揚げ――緻密な構造とプロデュース思考

小手はダニエル・キイスの作品や多重人格・精神病理学に強い影響を受け、1998年に自らの劇団innerchild(インナーチャイルド)を旗揚げする。当時流行していたサスペンス劇における「謎解きの道具としての精神疾患」に強い疑問を抱き、「心が傷つき、どう回復に向かうのかという真摯な救いの物語を作りたい」という切実な動機がその出発点だった。

俳優として舞台を破壊するコメディリリーフ(クラッシャー)の印象が強かった小手が、作家・演出家として提示した作品は、テトリスを隙間なく組み立てるような恐ろしいほど繊細で密度の高い構造劇だった。さらに彼は、固定劇団員の制約を避け、毎回テーマに合った客演を迎えるプロデュースユニット形式を当時から導入。最先端のアナログ映像演出などを取り入れた舞台はコアな演劇ファンの絶大な支持を集め、アンケート回収率は異例の9割を超えたのである。

NODA・MAPと劇団☆新感線――二大巨頭の現場で知った「真逆の天才」

自劇団の運営と並行し、小手は劇団☆新感線(『直撃!ドラゴンロック3 轟天 対 エイリアン』等)やNODA・MAP(『オイル』等)といった演劇界の最高峰から相次いでオファーを受ける。野田秀樹の劇作においては「役者個人の面白さを極限まで抽出して作品に織り込む天才」に触れ、いのうえひでのりの演出においては「緻密に計算された美学と演出プランに役者がいかに完璧に応えるか」という職人技を体感する。

「これほど真逆の天才たちの現場を20代のうちに立て続けに経験できたことは、役者としての最大の糧となった」と小手は回想する。演劇界のトップに駆け上がったかに思えたが、ここから彼の俳優人生は思いもよらぬ「迷宮」へと踏み込んでいくのだった。

「コテるな!」――演出用語と化した自分と、10年間の試行錯誤

ある舞台で、観客の視線と笑いを一人占めしようと全力で前に出る芝居を繰り広げた小手。プロとしての責務を果たした自負があった彼に、先輩俳優から「お前、浮いてるかもしれないぞ」と密かに警鐘を鳴らし、のちに別の俳優から決定的な事実を告げられる。

「今、稽古場で演出用語として『コテみたいな芝居をするな=コテるな』って使ってるぞ」。良かれと思って全力で繰り出した自らの演技スタイルが、演出家たちの間で「前に出すぎる悪例」として名指しされていたのだ。

傷ついた小手は、己の「自意識」を押し殺し、引き算の抑えた演技へとシフトする。しかし、その演技を見た俳優からは「コテ、つまんなくなったな」と言われてしまうのだった。出せば「コテる」と言われ、抑えれば「つまらない」と言われる――。答えを失った小手は、そこから10年間にわたる演技の迷路へと迷い込むことになった。

原点回帰と『真田丸』――自意識過剰な武将・塙団右衛門への結実

迷走の末、小手が辿り着いたのは「頼まれた要求に徹底的に徹する」という、かつての少年時代と同じ「受動性の極致」であった。己の自意識を制圧し、演出家の求めるピースとして完璧に機能させる表現法を確立していく。

そんな折、NHKの制作陣が小手の出演舞台を目にする。探していたのは、「強烈な自意識過剰さを持ちながら、それをコントロールできる俳優」であった。10年の迷走を経て「自意識のコントロール」を完全にマスターしていた小手伸也は、NHK大河ドラマ『真田丸』の塙団右衛門役に抜擢される。自分の名を売ろうと必死になり空回りする、愛すべき自意識過剰な武将――。10年苦しんだ「コテる」という呪縛こそが、彼を全国区のブレイクへと導いた奇跡の鍵となったのである。

次回は「『白紙のスケジュール』を越えて――『コテンペスト』で魅せる、不屈のエンターテイナーの生き様」

『真田丸』『コンフィデンスマンJP』『SUITS/スーツ』で一気にブレイクを果たした小手伸也。背水の陣で挑んだ三谷幸喜作品での裏話と、舞台初主演作『コテンペスト』に込めた演劇愛を語る完結編。

【動画出典】CoRich舞台芸術!チャンネル『【劇トクッ!】小手伸也、登場!③』

URL: http://www.youtube.com/watch?v=BEieb6zgUZA

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