これまでCoRichでは公演情報のシェアをはじめ、全国の小劇場団体を対象に開催するCoRich舞台芸術まつり!などを通じ、地域を拠点とする団体とさまざまな交流を持ってきました。そんな豊かな出会いや関わりを活かして、keicobaでは、全国各地で活躍する表現者へのオリジナル連載【出張インタビュー】シリーズを始動。地域を拠点にさまざまな形で演劇に携わる人々の歩みや現在地をお伝えします。
Vol.4は、福岡を拠点に演劇ライターとして活動する傍ら、一般社団法人 「街と劇場」の代表理事も務める中川實穗さんが登場。東京でのキャリアを活かし、地域を横断して公演の取材やパンフレット制作に携わるほか、福岡の演劇情報をまとめた月刊フリーペーパー「観劇せん?」の発行など、観客と演劇との出会いにフォーカスした多様な活動に注目が集まっています。中川さんの活動や指針、そして、「街と劇場」初の主催公演であるMrs.fictions presents『15 Minutes Made東京/福岡』福岡公演についてお話を聞きました。

30代で演劇ライターへ 40代で新たな挑戦に舵を切って
―中川さんは2013年より演劇ライターとしてのキャリアをスタートさせ、東京で数多くの公演の取材やパンフレット制作を手掛けてこられました。2024年末には故郷である福岡に拠点を移し、さらに精力的に地域を横断した様々な取り組みをされています。そもそも演劇に携わるようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
演劇ライターを始めたのは30代の頃でした。それまでは福岡で広告のコピーライターをやっていたのですが、東日本大震災をきっかけに色々なことを考えて「ライターがやりたい」と思うようになって…。上京を決めたのは、福岡にいたらコピーのお仕事をついもらっちゃうだろうし、環境的にライターの道を切り開くのは難しいと思ったからなんです。だから、退路を断つような気持ちで丸腰状態で上京してライター活動を始めました。当時は演劇や劇団のことも全然知らなくて、自分にとっての観劇は遠足に近いというか、「誘われたら観る」くらいの距離感だったんですよ。でも、仕事になって観る機会も増えて、どんどん好きになって…。最初の取材は代打のライター。「予定していたライターさんが来れなくなった」と連絡がきて、全く知らない作品について必死に調べて取材をしました。今となっては怖くて読めないですが…(笑)。
―同業である中川さんへのインタビューということもあり、きっと共感することも多いのだろうなと思ってはいたのですが、早くも大共感しています(笑)。私もデビュー記事のURLは怖くて開けないです!
私も直前まではいけるんだけど、クリックがどうしても…!(笑)。でも、そんな風に知らないなりに様々な演劇の取材を重ねたり、観に行っているうちにお仕事や知り合いが増えて、東京でやっていけそうだと思えるようになったんですよね。それこそ、今こうして故郷に戻って新しいことを始めた時にも、東京で出会ったいろんな人が気にかけてくれたり、励ましてくれて…。演劇を通じた様々な出会いや経験があったからこそできることだと感じています。

―福岡に拠点を移すことを決められた背景にはどんな経緯があったのでしょうか?
「死ぬ時は福岡がいい」みたいな気持ちは元々持っていて…。健康体でいれば何十年後の話なんですけど、「今だ!」と思ったのは、お仕事でご一緒していたアーティストの方の何気ない言葉がきっかけでした。その方が九州ツアーに行った際のエピソードを「こんなに親切にしてもらった」とすごく嬉しそうに話して下さったんです。そのことに対して身内のような喜びを感じると同時に、そのどれもが私にとっては当たり前の感覚である、ということにふと気づいたんですよね。
―タクシーの運転手さんがメーター止めて観光スポットを見せてくれたり、福岡在住の友人が手厚くアテンドしてくれたり…。私自身、福岡に行った時にとても温かく歓迎してもらった経験があります。
福岡の人って、ウェルカム精神が強いんですよ。外から福岡に来てくれることが嬉しいから。東京で暮らしている時は当たり前すぎて気づかなかったんですけど、そうした話を聞いた時に「これが都会と地域の一つのギャップなんだ」と感じました。そして、同時に気づいたのは、東京で生きている自分自身がうっすらとした寂しさを感じているということ。もちろん都会ならではの居心地の良さもあるんですけど、でも、なんかずっとうっすらと寂しい。そう気づいた瞬間に「帰ろう」と思ったんですよね。「今帰れば、福岡でまた一つ新しいことに挑戦できそう」と感じたことも大きかったです。もちろん何歳からでもチャレンジはできるけど、60代になってから始めるのと、40代で始めるのでは色々違うだろうなと思ったんです。

まずは「観劇せん?」と誘える環境を フリーペーパー刊行、法人化への思い
―拠点を移すことも、ライターというお仕事を越えて新しいことに挑戦することも勇気がいることだと思うのですが、中川さんを突き動かしたものは何だったのでしょう?
少し話が遡るのですが、2021年の東京オリンピックの開会式で演出家が解任された時にすごくショックを受けたんですよ。経緯や理由についても思うことはあるのですが、それ以前にこうした大々的なパフォーマンスを行うにあたって「演出家という役職が不在でもいい」とされたこと、それがまかり通る国であること自体に戸惑いを感じたんですよね。舞台芸術という文化やそれに携わる人の存在が軽視されているようにも感じたし、そうした状況に対しては「ノー」と意思表示をする権利はあるはずだと思いました。そういう経緯で、「まず自分自身に何かを変えられる力があるって信じなくちゃダメだ」と思うようになったんです。そこから4年が経ち、新たなことに挑戦しようと思い始めた時にも「あの時考えていたことを実行するのは今なんじゃないか」と感じました。福岡から演劇文化を活性化するために、演劇の存在感を高めるために何ができるのか。そう思った時に、自分なんかがと思ったり、自分にできるのか否かを考えたり、その能力が備わるのを待っていたら、一生できないと思ったんです。だから、とにかく動きながらやるしかない。そう信じて、決心しました。
―人生のターニングポイントを迎えるにあたっての葛藤や思い伝わるお話です。そこから中川さんは福岡に拠点を移されて1ヶ月というスピードで、まず月刊フリーペーパー「観劇せん?」を刊行されました。その取り組みは他地域にも影響を与え、石川県でもインスパイア版として「観劇しまっし!」というフリーペーパーが刊行されていますよね。
そうなんです。許諾のご連絡をいただいた時はすごく嬉しかったです! そもそも「フリーペーパーを作りたい」と思ったのは、観劇以前に公演情報を知るツールが足りていないと感じたからなんです。普段から劇場に行く方や積極的に情報を取りに行く方もいるとは思うのですが、そうではない人に演劇の情報がリーチする手段がほとんどなかったんですよね。だから、公演情報が一目でわかるカレンダータイプにして、劇場だけでなく、喫茶店や本屋さんにも置かせてもらえるように動きました。

―手描きのデザインがまた温かみがあって素敵です。コメントからも作品や団体、そして演劇文化そのものへの愛が伝わってきます。
手描きになったのはイラレが使えなかったからなんですよ(笑)。私がデザイナーだったら、もっときちんとレイアウトしていたと思うのですが、結果的に手描き感も含めて気に入っていただいているみたいでよかったです! フリーペーパーの制作にあたっても、最初は情報が全然見つけきれなくて苦労しました。私の手元にも劇場で配布されるチラシ分しか情報がないような状態だったので、SNSでリサーチしたり…。今もやり方は同じなんですけど、「情報を載せて欲しい」とメールをくれたりする団体さんも増え、だんだん充実してきました。

―その後、一般社団法人 「街と劇場」を設立し、代表理事へ。法人を立ち上げるに至る経緯はどのようなものだったのでしょう?
フリーペーパーも法人化も突貫だったのですが、いろんな人が助けてくれたんですよね。福岡では毎年『キビるフェス』という演劇祭が開催されているのですが、その運営をされているアートマネージメントセンター福岡の仁田野麻美さんにお話を伺いに行った時に「福岡で演劇を盛り上げられるようがんばります」と言ったら、「一人でがんばらせないようにします」って言ってくれたんです。その言葉がすごく嬉しくて…。他にもコピーライター時代の上司や仲間が助けてくれたり、様々な場所や機会と繋げてくれる人たちの存在に支えられました。そんな中で、一般社団法人「街と劇場」を立ち上げたのは、公演を主催したいと思ったから。Mrs.fictionsさんの『15 Minutes Made』を福岡でやりたい。そう思った時に、6つも団体が出演するので移動・宿泊費を考えると興行をチケット代だけで賄うのは難しいので、福岡の企業に協賛をお願いするしかないと思いました。そのためにも法人化した方がいいな、と。「自分なんかが烏滸がましいかな」という気持ちもあったんですが、烏滸がましいと言ってやらないより、烏滸がましいけどやる方がきっと街も面白くなるはず。そう思って、とにかく私は私のできることをやろう、と。

福岡に福岡外の演劇文化を 初の主催公演に込めた想い
―「街と劇場」にとって初の主催公演となる、Mrs.fictions presents『15 Minutes Made東京/福岡』福岡公演が、まもなく福岡市民ホールでの上演が開幕しますね。
私がやりたいのは、「福岡にもっといろんな人に来てもらう」ということなんですよね。福岡内にも面白い劇団はあるんですけど、最近は外から小劇場の人が来ることがなかなかないから、文化が広がりにくいところがあって、そこをどうにか広げたいと思ったんです。その方が団体も観客も刺激を受けられるし、街も活性化もされるはずだから。じゃあ何を上演するか。そうなった時に『15 Minutes Made』しかないと思ったんですよね。Mrs.fictionsさんが旗揚げから続けられている『15 Minutes Made』は、個性豊かな複数の団体がそれぞれの魅力の詰まった15分の作品を持ち寄る素晴らしい企画だし、観劇に馴染みのない方の入口としてもぴったりの公演だと思ったんです。それで、主宰の今村さんに相談をしたら、快諾して下さって…。「街と劇場」の主催は福岡公演のみですが、Mrs.fictionsさんの主催で東京公演も行うことになり、二都市での公演となりました。福岡の団体が東京の劇場で好評なことも嬉しかったです!

―東京の劇団からはMrs.fictions、コンプソンズ、ザ・クズレルズ、システム個人、さらに、福岡在住のメンバーも参加されているmelomysと福岡で活動をされているギンギラ太陽’sの計6団体の個性の光る公演です。私は、東京公演で初めてギンギラ太陽’sを観たのですが、一人の観客として新たな出会いに感動を覚えました。
ギンギラ太陽’sさんは、ご当地のビルや建物などの被り物を被ってお芝居をされるユニークな団体で、福岡のローカルな話を演劇にされているんですよね。先日、本公演を上演された時には「今回はベスト電器(※福岡の大型家電量販店)が出るけん!」と張り切って観劇されていたお客様もいらっしゃって、登場人物ならぬ登場被り物が重要な見どころになっていることも独特で(笑)。ローカルなお話だけど、それぞれの土地に置換して楽しめるようにもなっていて、東京のファンの方が福岡に遠征してきてくれたりもしているんですよ。そういう機会を地域を横断してもっと作れたらいいなと思いますし、今回の福岡公演をきっかけに、東京の団体さんにも「福岡で公演をしたい」と思ってもらえたら嬉しいなとも思います。
―福岡公演では、演劇に興味がある若者がワンコインで観劇できる回を設けたりと、アクセシビリティの取り組みも印象的です。
ワンコイン公演は、地元の企業である「味の明太子ふくや」さんが協賛を決めて下さって実現したんですよ。今の社長さんが演劇をやられていることもあり、「応援したい」と手を挙げて下さって…。若い方達の新たな刺激やきっかけの場になるといいなと思っています。

観劇のハードルを下げること 演劇の認知を上げること
―この1年での福岡での様々な活動のお話を通じて、中川さんの「演劇」という文化への眼差しの深さにも触れられたような気持ちです。
演劇文化を盛り上げる上で、私の強みは「作り手ではなく観客に近い存在であること」だと思っています。「演劇ってこんなに面白いよ」って、作っている当事者の方はどこか言いにくかったりするかもしれないのですが、私は観客の視点から堂々としゃしゃり出られるというか…(笑)。一回劇場に足を運んでもらえれば、ハードルも下がるはずだし、とりわけ小劇場の演劇は知っていないと観に行きにくいというか、商業以上にハードルが高いと思うので「本当はもっと気楽に楽しめる場所だよ」っていうことを提示できたらと思っています。『15 Minutes Made東京/福岡』もまさにそう。今回は福岡に来たことのない団体さんばかりだから、「知らない」に捉われず、よりフラットに楽しめると思うんですよね。しかも6団体あるから、人それぞれハマれる団体や作品に出会える機会にもなる。劇場に行くことが不安な人は必ずいるはずだから、まずはそこから解していけたら…。その次のステップは、行政や文化財団と手を繋ぐこと。演劇や、演劇に従事している人の存在をもっと知ってもらえる状況を作りたいですし、そのためにもいくつかのサンプルが必要なので、少しずつ環境を耕していけたらと思っています。
―貴重な話をたくさんありがとうございました。最後に、中川さんにとって、ズバリ演劇とはどんなものなのでしょうか?
極論を言うと、私は「演劇がなくなったら人が荒れる」と思っているんですよね。多様な人が多様な作品を作っていることも大事だし、少なくとも私にとっては、演劇が、社会や他者のことを考える最も大きなきっかけになっているんです。終演してもそこで終わらない。「考え続けることができる」という意味で、その“完結しなさ”をとても信頼していますし、この文化を守りたいという気持ちが原動力になっています。「日本が急速に戦争に近づいている」と気づいたきっかけも演劇だったし、それに抵抗しようとする人の姿も私は演劇で見ました。みんなで協力しないと戦争は止められない。だから、演劇に携わることは、私なりのひとつの平和活動でもあると思っています。

取材・文・写真/丘田ミイ子
<中川さんプロフィール>
中川實穗(なかがわみほ)/演劇ライター、一般社団法人 「街と劇場」の代表理事。2013年より東京で演劇ライターとして活動したのち、2024年末に故郷の福岡に拠点を移し、東京と福岡を横断して活動。月刊フリーペーパー「観劇せん?」の発行や各公演のパンフレット制作を手がけるほか、「ローチケ演劇宣言!」や「ステージぴあ」などのプレイガイドや、「ほぼ日」などのメディアで様々な公演の取材やインタビュー記事を担当。2026年8月、「街と劇場」初の主催公演となるMrs.fictions presents『15 Minutes Made 東京/福岡』福岡公演を開催。
<公演情報>
Mrs.fictions presents『15 Minutes Made 東京/福岡』福岡公演

<出演団体>
ギンギラ太陽’s、コンプソンズ、ザ・クズレルズ、システム個人、melomys、Mrs.fictions
<上演作品>
・ギンギラ太陽’s『女ビルの一生』
作・演出・かぶりモノ造型:大塚ムネト
出演:宗真樹子、上田裕子、杉山英美、大塚ムネト
・コンプソンズ『ベビーカー』
作・演出:金子鈴幸
出演:大宮二郎、中尾ちひろ(おなかポンポンショー)、横手慎太郎(シンクロ少女) 制作:鈴木啓佑
・ザ・クズレルズ『真夏に崩れる』
東京公演出演:入江雅人、長田悠幸、こがめみく、小島あやめ、鈴木麻美、高木稟、田尻祥子、武田裕子、中島克枝、野澤爽子、巻島みのり、吉田ヤギ
福岡公演出演:入江雅人、長田悠幸、こがめみく、高木稟、中島克枝、野澤爽子、吉田ヤギ
・システム個人『ちょっと良いタオルとか』
作・演出:林泰製(システム個人)
出演:帯金ゆかり、中村亮太(転転飯店)、藤本悠希(劇団肋骨蜜柑同好会)
・melomys『THE DAY 1041』
作・出演:田崎小春 演出:田崎小春・melomys
音楽:na/no 映像:文目卓弥 ドラマトゥルク:内田龍太郎、野村玲央
・Mrs.fictions『ミセスフィクションズの恋しくて』
作・演出:中嶋康太(Mrs.fictions)
出演:今村圭佑(Mrs.fictions)、岡野康弘(Mrs.fictions)、米田ひかり
<会場>
福岡公演:福岡市民ホール 小ホール
<日程>
福岡公演:2026年8月8日(土)~8月11日(火・祝) ・全5ステージ
8月8日(土) 18:00
8月9日(日) 13:00/18:00
8月10日(月) 19:00
8月11日(火祝)13:00
※受付開始は開演の45分前、開場は開演の30分前
※開場時には事前精算チケットのお客様からのご入場となります。開場後は事前精算・当日精算チケット共にご来場順のご案内となります。
※高校生以下(枚数限定・要学生証)チケットをご購入・ご予約のお客さまは、当日受付にて学生証をご提示ください。
※当日精算にてご予約のお客さまは、開演5分前までにご来場頂けない場合キャンセル扱いとなる場合がございます。
※未就学児の入場はご遠慮いただいております。
※車いすをご利用のお客さまは、お手数ですがご購入・ご予約前に各公演お問い合わせ先メールアドレスまでお問い合わせください。
※福岡公演のみ、終演後に「おわりの会」を行います。
おわりの会とは…終演後、時間を気にせずアンケートに答えて欲しい、また劇場空間をゆったり味わってほしい、という思いから発案した企画です。15分程度のトークセッションを行う予定です。
<チケット>
福岡公演:前売4,300円/当日4,800円
※高校生以下1,500円(枚数限定・要学生証)
※日時指定・全席自由
ローチケ:https://l-tike.com/play/mevent/?mid=784960
Corichチケット!(当日精算):https://ticket.corich.jp/apply/467714/
<スタッフ>
舞台美術:三井優子
照明:黒太剛亮(黒猿)、佐藤優衣、菅本千尋(演劇空間ロッカクナット)
音響:斎藤裕喜(Québec)、宇田川大介
映像:高柳蓉季
舞台監督:水澤桃花(箱馬研究所)
総合演出:Mrs.fictions
宣伝美術:西日
宣伝写真:山岸和人
フライヤーモデル:大宮二郎(コンプソンズ)、田崎小春(melomys)
当日運営:髙橋知美(キューズリンク)、宮野風紗音(かるがも団地)
東京公演主催・制作:Mrs.fictions
福岡公演主催:一般社団法人 街と劇場
公式HP:https://www.mrsfictions.com/next_2026_15mm_tokyo-fukuoka.html
<お問い合わせ>
福岡公演 一般社団法人 街と劇場
E-MAIL info@machitogekijou.com
HP https://lit.link/machitogekijou