
テレビドラマや映画、舞台で唯一無二の存在感を放つ名バイプレイヤー、小手伸也。一見すると華やかなバイタリティにあふれる彼だが、その原点を辿ると、意外にも「内向的で(人の頼みを)断れない少年時代」と「予期せぬ演劇との遭遇」があった。CoRich舞台芸術!チャンネルでのインタビュー動画を元にした、全4回連載の第1回である本稿では、彼がどのようにして表現の世界へ引き寄せられていったのか、その深層を探る。
ガチャポンとトラウマ――内向的だった少年時代
現在でこそ画面狭しとダイナミックな演技を繰り広げる小手伸也だが、意外にも幼少期は「目立つことが大の苦手な子ども」であったという。幼稚園のお遊戯会で動物の鹿役をあてがわれた際も、茶色の全身タイツが恥ずかし過ぎて、「自分に芝居なんて絶対に無理だ」と心に強く刻み込んだほどだった。
当時の彼を支えていたのは、極めてミクロで内向的な情熱である。集団に馴染めず、幼稚園へ通うことすら拒否していた小手を励ますため、親と交わした約束が「登園できた日は1回だけガチャポン(ウルトラマン消しゴム等)を回していい」という取引だった。毎日地道に集めたカプセルトイや牛乳キャップ、スーパーカー消しゴム(カー消し)を仲の良い友人たちと互いに見せ合って悦に入り、小さなコミュニティの中で静かに遊ぶことこそが彼の世界のすべてだったのである。
また、この時期の給食で無理やり食べさせられたポテトサラダ(玉ねぎ入り)のトラウマは、50歳を超えた現在も尾を引いているという。自ら表舞台に立つことなど露ほども考えていなかった内向的な少年は、周囲の熱気から一歩引いた場所で、静かに自身の内面世界を育んでいた。
頼まれたら断れない――「祭り上げられ」続けた生徒会長時代
自分から前に出るタイプではなかった小手だが、小・中学校へ進むにつれて不思議な役割を次々と背負わされることになる。生物係、学級委員長、そしてついには中学校の生徒会長まで務めることとなった。
だが、本人の弁によれば、そこには自発的なリーダーシップや野望は一切なかったという。周囲から「誰もやる人がいないから」「小手なら断らないから」と推され、イエスと言わざるを得ない流されやすさの結果であった。「好きだった女子生徒から『生徒会長をやってみたら?』と言われ、真に受けて立候補した」という甘酸っぱくもほろ苦いエピソードも含め、自身の意思とは裏腹に、周囲から「祭り上げられてしまう」稀有な天性が、この頃から発揮されていたのである。
クラスの中心で脚光を浴びる「一軍」の陽キャラたちを殊更嫌うでもなくどこか客観的に冷めた目で見つめながらも、依頼された役目は器用にこなしてしまう――。この「内向的な観察眼」と「頼まれたら期待以上の成果を出してしまう器用貧乏さ」の同居こそが、のちの俳優・作家・演出家としてのポテンシャルの下地となっていたのだった。
都立竹早高校での転機――デジタルオタク少年と「コア」な仲間たち
高校進学時、小手が選んだのは都立の進学校・竹早高校だった。当初は小・中学校時代から続けていたバスケットボール部へ入部したものの、周囲のレベルの高さに圧倒され、次第に居心地の悪さを感じ始める。
そんな彼を惹きつけたのは、当時巻き起こっていたファミコンブームと、黎明期のパソコン文化だった。親に買い与えられた名機「PC-9801」(※NECが開発したパーソナルコンピュータの製品群の俗称)に没頭し、自作プログラミングでゲームや音楽を制作する楽しさに目覚めた小手は、人数不足で部活動への格上げも認められなかった文化系サークル「コンピューター研究同好会(通称:コン研/CORE TEAM)」に足を踏み入れる。
部員たちが自らを「CORE(コア)※COmputer REsearchingの略」と呼ぶその空間は、漫画研究会や生物部や演劇部といった校内の文化系オタクたちが集うハブ(拠点)のような場所であった。運動部の殺伐とした競争から離れ、自分の「好き」を掘り下げられるこの居場所こそが、小手にとって真に心地よいアジール(避難所)となったのである。
『朝日のような夕日をつれて』――20分間のカルチャーショック
演劇との本格的な出会いは、このコン研で出会った先輩(水泳部と演劇部を兼部していた異色の人物)からの誘いがきっかけだった。極度の部員不足に悩んでいた竹早高校演劇部のヘルプとして、小手は文化祭の公演を手伝うことになる。
当時の文化祭では、校舎での企画とは別にホールを借り切って舞台表現を行う舞台発表の場が用意されていた。限られた持ち時間の中で演劇部が上演した作品は、鴻上尚史率いる劇団「第三舞台」の不朽の名作『朝日のような夕日をつれて』であった。
本来であれば2時間近くかかる濃密で劇的な劇構造を、なんと20分程度の超ダイジェスト版に圧縮して上演するという無茶な試みであったが、客席でこれを目撃した小手に、激しい稲妻が走る。
「それまで演劇といえば、学校の観劇会で見るようなシェイクスピアや新劇、あるいは『キャッツ』のようなミュージカルのイメージしかなかった。しかし、そこにあったのは演劇という皮をかぶりながら、畳み掛けるようなギャグと爆発的な笑い、そして時に難解で詩的な言語空間が同居する、見たこともない世界だった」
「演劇って、こんなにポップで自由で、めちゃくちゃ面白いのか――」。固定観念を根底から覆された小手少年は、自らも「演劇部の助っ人」として、表現の迷宮へと一歩を踏み出すこととなる。ノーと言えない流されやすさから始まった彼の足跡は、こうして劇的な文化体験と交差し、早稲田大学演劇倶楽部での飛躍、そして劇団innerchild(インナーチャイルド)の旗揚げへと繋がっていくのだった。
次回は「劇団『カムカムミニキーナ』との劇的遭遇と、開演15分前の地獄――悪夢を乗り越えた『強靭なメンタル』の正体」
高校演劇の衝撃を経て、2浪の末に早稲田大学へと進学した小手伸也。劇団「カムカムミニキーナ」との運命的な出会いと、学生演劇時代に経験した伝説の「開演15分前の地獄公演」の裏側に迫る。
【動画出典】CoRich舞台芸術!チャンネル『【劇トクッ!】小手伸也、登場!①』
URL: http://www.youtube.com/watch?v=xK63UytHqic