最新の観てきた!クチコミ一覧

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なんかの味

なんかの味

ムシラセ

OFF OFFシアター(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「向き合えない家族の真実」

 小津安二郎が1962年に発表した最後の監督作『秋刀魚の味』をモチーフに、保坂萌が書き下ろした会話劇である。

ネタバレBOX

 トリスウィスキーのボトルが並ぶ古ぼけたバーに、平川迪子(橘花梨)が入ってくると、そこへ父の秋平(有馬自由)が続く。10日後に結婚式を控えている迪子は秋平に話があるようでどことなく気が重そうだが、どこ吹く風の秋平は披露宴でギターを演奏させろと急に言い出す始末で埒が明かない。そこへ入ってきたママの薫(松永玲子)は賑やかすぎる関西弁を捲し立てバンドを組もうと言い出し、その距離の詰め方に迪子は困惑しつつ秋平と薫の仲を訝しむ。気だるそうに入ってきたバイトの璃(中野亜美)にダル絡みされた迪子は、つっけんどんな態度がさらに加速してしまい、しまいには秋平に「親子の縁を切る」と激昂するのだった。

 幼い頃に母を亡くして以来祖母と3人で暮らしてきた平川家の父娘は、互いを慮るあまりにぶっきらぼうな対話しかできないようである。ちいさい頃からの不満をぶちまけた迪子は、先程の非礼を詫びた璃と二人だけでココアを飲み四方山話に花を咲かせる。薫に離婚歴があり成人した娘がいることを璃に教わった迪子は、仮に秋平が薫と再婚したら妹ができる、自分は中学生の頃に妹が欲しかったと打ち明ける。璃もまた母子家庭で育ったのだが、男に苦労ばかりしてきた母には複雑な思いがあるようだ。やがて迪子は電話で結婚式をキャンセルして秋平と薫を激しく動揺させる。ここでようやく迪子は、この結婚が新郎側の申し出で破談になったことを打ち明けるのだった。

 『秋刀魚の味』と同様に、本作では結婚を期に顕在化した娘と父親の心の揺れを描いている。しかしそこに隠された家族の真実を明かすミステリを入れ込み、コミカルな会話劇に仕立て上げた点が大きな特徴である。なかなか腹の底を明かさない迪子や秋平と同じく、本当は迪子の母親である薫とすべてを知っているのであろう璃もまた本音をなかなか打ち明けない。説明的な台詞を極力廃し他愛のない会話のなかから種明かししていく仕掛けが秀逸である。

 出演者に当て書きされたという各役はそれぞれぴったりといったところで、特に薫役の松永玲子が会場を大いに沸かせていた。ちいさな劇場ゆえに全体的にもう少し声の大きさを絞ったほうがいいようにも感じたが、皆イキイキと各役を生きていた。当初は「粉ものに白いご飯を強要してくる感じ」などと陰で薫に毒づいていていた迪子が、最後に薫が作ったシチューに「……うま」と嘆息する幕切れもよく考えられたものである。欲を言えば『秋刀魚の味』に描かれていた時代の雰囲気や結婚制度への皮肉を感じたいところであったが、肩の凝らない芝居を大いに堪能した。
四月大歌舞伎

四月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2025/04/03 (木) ~ 2025/04/25 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「充実の三本立て」

 四月の歌舞伎座夜の部は義太夫狂言の「毛谷村」と舞踊「鏡獅子」、そして神田松鯉の講談を歌舞伎化した新作「無筆の出世」の三本立てである。

ネタバレBOX

 「毛谷村」は仁左衛門と幸四郎のダブルキャストで、私が観たのは仁左衛門出演の回だった。仁左衛門の六助はその若さと爽やかさがまず目を引く。「杉坂墓所」では山賊を倒すくだりの決まりがキレイで、父を殺された幼い弥三を引き取るところは慈愛あふれんばかりである。続く「六助住家」で冒頭、わざと微塵弾正(歌六)との剣術の試合に負け、弾正に殴られても鷹揚に受けとめるところに懐の深さを見せる。後半、すべては敵である弾正の策略であったと知ってから庭先の岩を踏んづける怪力を見せて、この男の真の姿を観客にわからせた。対する孝太郎のお園は虚無僧姿で花道から出てきて六助に襲いかかろうとするところの鋭さと、そのあと六助がじつは許婚であったと知ってあとの恥じらいのギャップがまず面白い。臼を持ち上げる怪力とクドキも見応え十分であった。東蔵のお幸は一部台詞が怪しかったがこの人が出て舞台が締った。

 続く右近の「鏡獅子」は竹久夢二の美人画から出てきたかのような瓜実顔の初々しい弥生の前シテ、気迫十分の後シテ獅子の精と体を目一杯使った力演で十二分に堪能した。背中を見せてキマる弥生の後ろ姿が特に印象に残った。

 最後の「無筆の出世」は幕開きに神田松鯉の講談が付き、その背景で中間の治助(松緑)が岸を離れようとしている船に勢いよく乗り込み、主人から預かった手紙を濡らしてしまうあたりを松鯉の口述に合わせ無声で演じたところがまず面白い。松鯉が奈落へと引いてからは、治助を刀の試し切りに使えと書かれた手紙を文盲の治助に大徳寺住職の日栄(吉之丞)が善意で読んで聞かせ、その後出奔し大徳寺に逃げた治助の仕事ぶりを買った夏目左内(中車)が引き取る。やがて左内や妻の藤(笑三郎)の引き立てて一から文字を覚えやがては勘定奉行松山伊予守にまで出世するまでをテンポよく描いている。こういう新作になると役者は皆イキイキしており、松緑の治助ははまり役であった。しかし治助が出世するまでを再び現れた松鯉の講談に託し、その横でまた俳優の無音の芝居を入れるのは説明的にすぎるのではないか。最後に治助がかつての主佐々与左衛門(鴈治郎)に掛け軸に入れた因縁の手紙を見せ、この手紙にはとても感謝していると言わせるところは一本気を感じるものの後味が悪かったのも事実である
人の気も知らないで

人の気も知らないで

CTプロデュース with K

雑遊(東京都)

2025/03/27 (木) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/03/28 (金)

同僚の披露宴の余興の打ち合わせで集まった3人の会話劇。
気の知れた仲ゆえの遠慮のない物言いで「喧嘩売ってるの?」「そっちこそ」的な部分にハラハラさせたりもするやり取りがリアルで、シリアスというか重ためというかな部分も経てゆるやかな着地に向かうのが巧み。
また、当日パンフレットにあるように「リアルなチーム栄と演劇的なチーム美」と異なる演出だったので続けて観てその違いも楽しめた。(チーム栄にあったドリンクバーの装置がなく板付きで始まるチーム美とか)

なお、オリジナルの iaku をはじめとして複数の団体で上演された作品とのことだが個人的には今回が初見。

目を向けて、背を向ける。

目を向けて、背を向ける。

TOKYOハンバーグ

「劇」小劇場(東京都)

2025/04/06 (日) ~ 2025/04/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2025/04/08 (火) 19:00

価格4,500円

かなり踏み込んだなという印象

ネタバレBOX

それ故に冷静になっていく自分がいて、共感できる一方で、この物語についてはやはりエゴなのではないかな、それを押し付けるではないけれど、それをのみこんで、そこにいられる状況というのが、言い方は悪いが異常にしか感じなくなる。
繰り返すが共感はできるし、制度的にあればなとも思っている。けれどそれを後世に引き継ぐこと、また新たな命が誕生しながらそれに関わること、その先に未来を感じることはできなかった。
そうなる前に、正直別のオチを期待もしていたのだけれど

なんとなく意外だった
なんかの味

なんかの味

ムシラセ

OFF OFFシアター(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

一見どこにでもありそうな親子関係でありながら、どこにもいないであろう唯一無二の親子が織りなす珠玉の「バンドやろうぜ」ストーリー。
テンポの良い会話に笑いが絶えない脚本、流れるような展開で90分間引き込まれ続ける演出、癖ツヨな登場人物の魅力を最大限に引き出すキャストの演技、観劇後の爽快感で何度も観たくなること請け合い。
個人的には物販の箸も大好きだ。

月曜日の教師たち

月曜日の教師たち

Cucumber

ザ・スズナリ(東京都)

2025/04/03 (木) ~ 2025/04/15 (火)公演終了

実演鑑賞

俳優出演も多い劇作家たちに俳優の荒澤守が加わったプロジェクトの公演。作・出演の劇作家の人たちは大御所から中堅で、今更シバイを「あだ花」(劇団名らしい)と照れずとも実力もよく知られている人たちである。真面目に言えば、この作家たちが共同で一つの作品を作っても、たまに息抜きに遊びでやるのはいいが、誰が見てもまとまって一つのいい作品が出来るとは思えない。まぁその通りの出来で、作家たちも舞台慣れしているのでボロは出さないが、かといって俳優よりも面白くもない。まぁ、年末隠し芸大会よりはまし、と言ったところである。こちらも承知で見ているから腹は立たないが、これなら皆さん面白く書ける実力ある作家なんだから、いい本書いてよ。

咲きそこね、そして散りそびれ

咲きそこね、そして散りそびれ

東京ストーリーテラー

萬劇場(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/07 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/04/03 (木)

ある事件をきっかけに、幼馴染の神楽と楓太、年金暮らしの常盤さんがチームを組み、
数十年ぶりに帰郷した昭和歌謡歌手の明美ちゃんの後押しをすることに。作曲家と
いちファンの女性、マネージャーも巻き込み、再ブレイクに見事成功‥で話は終わら
ない。ネットでの心無い反応に、歌によって怒涛の反撃を見せる明美ちゃんは痛快の
一言。謎だった2人の男性の正体が明らかになるくだりでは、思わず泣き笑い状態に
陥ってしまった程、ストーリーも素晴らしかった。
歌あり、笑いあり、涙あり、心から楽しめる良い作品だった。【Bチーム鑑賞】

kaguya

kaguya

まぼろしのくに

ザ・ポケット(東京都)

2025/04/03 (木) ~ 2025/04/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

お初の団体さん、アングラ系!?と耳にしてちょっと心配でしたが、そんな心配微塵も感じさせないスピード感溢れるセリフ回し、考えさせるシナリオ…生の迫力!!で、あっという間の100分でした。
ノゾムのマザコンや引きこもり、という世界観だと考えることで自分の中での筋が通りました(2回拝見しました!)

お気に入りの方の出演は、イメージをぶっ壊す役でしたが表情豊かに楽しそうに演じられてたのが印象的でした。

次回作も気になる団体さんです。

熱風

熱風

Nana Produce

サンモールスタジオ(東京都)

2025/04/04 (金) ~ 2025/04/08 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

らしい脚本、らしい演出で、なんかムカムカするし、怒号とかちょっと引いちゃうんだけど、秘密を持つこと、それがあらわになることってそうだよなぁと妙に納得してしまう感覚が不思議だった。
意味深なラストがあの関係性のその後を暗示しているかのようで、なんか怖い。

kaguya

kaguya

まぼろしのくに

ザ・ポケット(東京都)

2025/04/03 (木) ~ 2025/04/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初見団体。にもかかわらず既視感…というか野田地図感。
それ故かはさておき、悔しいかな、物語がほぼほぼ理解できなかった。
他団体でお見かけした役者さん多く、その熱演はとても良かった。

なんかの味

なんかの味

ムシラセ

OFF OFFシアター(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

またまた家族のお話。二組の親子が実は一つの…というのがなんか面白い。親が子を思う気持ち、子が親を思う気持ちにすれ違いあれど最後はなんか一つになれる、そんななんかベタだけどなんかじんとくる話がなんか小気味良いテンポで進み、なんかあっという間の1時間半。

或る、かぎり

或る、かぎり

HIGHcolors

駅前劇場(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

家族の在り方、逃げることの是非、現実を受け入れることの難しさ等など、ぎっしり詰まった良い作品だった。
ハッとする台詞に胸を抉られ、自分の生き方を顧みた。
ラスト、コーヒーを啜るシーンでこちらも鼻水啜る…

 wowの熱

wowの熱

南極

新宿シアタートップス(東京都)

2025/03/26 (水) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

楽日に観劇
平熱に戻った。
序盤の不思議な世界が線として中盤へ繋がり、虚なのか実なのか曖昧さを感じつつもグイグイ惹き込まれる展開、終盤の実?で熱い生を感じさせる起源の物語、脚本が良いね。
自分で何言ってるか分からんが、泣いた。
そして端さんの力強さ、存分に楽しんだ。

悲円 -pi-yen-

悲円 -pi-yen-

ぺぺぺの会

ギャラリー南製作所(東京都)

2025/03/26 (水) ~ 2025/03/31 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白かった!廃工場?倉庫?のような会場自体が物語の舞台として使われ、照明やギターの生演奏をバックに役者さんの特徴的な演技が独特の世界観を演出。途中でホッと笑えるダンスタイムを交えながらも、容易に価値観を見失ってしまう悲しき現代の金融至上主義的沼に引き込まれました。まさにぴえん

フルナルの森の船大工

フルナルの森の船大工

タテヨコ企画

シアター風姿花伝(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/23 (日)公演終了

実演鑑賞

タテヨコ企画の新作はなんとファンタジー風味。115分。3月23日までシアター風姿花伝。

https://kawahira.cocolog-nifty.com/fringe/2025/04/post-b94ee0.html

ここは住むとこではありません

ここは住むとこではありません

TEAM FLY FLAT

雑遊(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/23 (日)公演終了

実演鑑賞

役者の大石ヨウコと、つついきえによるユニットの旗揚げ。屋代秀樹の作演で100分。3月23日まで雑遊。

https://kawahira.cocolog-nifty.com/fringe/2025/04/post-07def2.html

電磁装甲兵ルルルルルルル’25

電磁装甲兵ルルルルルルル’25

あひるなんちゃら

駅前劇場(東京都)

2025/03/13 (木) ~ 2025/03/16 (日)公演終了

実演鑑賞

2014年初演作を改訂再演。80分ほど。3月16日まで駅前劇場。

https://kawahira.cocolog-nifty.com/fringe/2025/04/post-bce147.html

なんかの味

なんかの味

ムシラセ

OFF OFFシアター(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

家族 だからこそ
些細な一言にも 傷つき
家族 だからこそ
ちょっとした 変化に すぐ気づき
自身のこと以上に 胸を痛める。。。

登場人物それぞれの想いを 自身に重ねて
懐かしく 切なく 胸温かく…
心に 染み込んだ 95分🎶

見上げんな!

見上げんな!

万能グローブ ガラパゴスダイナモス

福岡市民ホール 中ホール(福岡県)

2025/04/04 (金) ~ 2025/04/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

鑑賞日2025/04/06 (日) 12:30

座席1階K列1番

価格5,500円

 須崎公園に新しく建設された福岡市民ホール・中ホールの杮落とし公演。主催は福岡で結成20年を迎える万能グローブガラパゴスダイナモス&ゴジゲン。ヨーロッパ企画もちょこっと絡んでいる。
 大看板を背負わされて気負ったわけでもないだろうが、やりたいことを詰め込みすぎて、雑然とした舞台になってしまった印象。群像劇をやりたいのは分かるが、元アイドルとその家族の話は正直余計。中年バンド・ボイジャーズの再結成の物語だけで通した方がスッキリしたと思う。
 どっちつかずの物語がごちゃごちゃと展開されるせいで、前半は殆ど話が進まなかった。観客も明らかに退屈していて、中には溜息をついたりアクビをしたりってのがチラホラ。笑いも今ひとつ散発的。脚本が上がった時点で前半カットしようよって突っ込む役者かスタッフはいなかったのだろうか。
 福岡のお客さんはスタンディング・オベーションが大好きだが、福岡千秋楽にも関わらず、立ち上がる人は皆無だった。お客さんの満足度、以て知るべしだろう。

 元アイドルがバンドメンバーたちの新しい絆になる、それは問題ない。ただ、その背景になるドラマは最小限に抑えるべきだろう。『フラガール』みたいにさ、グループをまとめ上げるキャラは設定だけがあれば充分なのだ。
 元アイドルとマネージャーのやり取りを延々と見せたり、認知症の始まった父ちゃんとの交流を描いたりさ、本筋に大して絡んでこないよね? そんなことに時間を割くんじゃなくて、さっさとボイジャーズの面々のいざこざの渦中に彼女を放り込んだ方が、芝居のテンポがどれだけ上がったことか。
 今回も脚本はガラパの川口大樹だが、毎回、やりたいことを詰め込みすぎて失敗してしまう悪い癖が抜けない。ガラパの弱さは、川口大樹以外に脚本を書ける人材がいないことで、結果、どんなに脚本に違和感を覚えても、誰も異を唱えようとはしない。唯々諾々と従うしかないのだろう。
 舞台を宇宙にまで広げながら、ベースにある人間関係は、男子校のバンドOBというミニマムなものだ。このギャップが、一般観客の感情移入を阻害してしまっている。「大濠高校」って実名を出して、しかも男子校(注:現在は共学)の悲哀なんてものを語られても、そんな個人的な動機で共感を得ようとするのはどうなんだろうと首を傾げるしかない。
 彼らがグループのボーカル兼作曲家の柳に「新しい風景」を見せようと、宇宙飛行の旅に応募、見事当選するのだが、正直、ご都合主義的展開である上に、どうして宇宙にまで行かないと曲が作れんのよと白けてしまう。

 終劇後、ロビーで、お年寄りの夫婦がやっぱりため息をつきながら「若い人には面白いんだろうけどねえ」と呟いていたのを小耳に挟んだ。
 作品というものに賛否はつきものだが、地元劇団で20年頑張ってきたガラパに対しては、地元民はどうしても贔屓しがちだ。しかし本音ではもうちょっと面白くできるはずだがなあと残念に感じている観客も多いはずである。毎回、水準の作品を作ってはいるんだよ。でも悪く言えばいつも「そこそこ」。それが一般客の本音だ。
 そういう一般観客の声に耳を傾けられれば、今後の進歩も見込めないではない、と思う。
 ガラパが福岡を代表する劇団の一つであることを否定しようとは思わない。しかし今のまま「そこそこ」で終わるのか、褒め殺しにあって「ぐだぐだ」になっていくか、自覚がなければそのどちらかに陥るだろう。
 結成20年を区切りに、奮起を期待したいものなのだが。

ネタバレBOX

 劇中、「大濠高校」の看板に点を打って「犬濠高校」にした、というエピソードは実話だろうか。ガラパのメンバーの誰かのやったことだとしたら、誰なのかを教えてもらいたい。その人のファンは辞めるから。
 軽いイタズラじゃんとかそれくらいの武勇伝なら誰にでもある、とかいうお為ごかしのご意見は勘弁して頂きたい。もしも何らかの事故が起きていたら命に関わる事態になっていた可能性だってありそうなのだ。
 フィクションの中の登場人物なら、いくら無茶をしたって構わないけれど(むしろ無茶であって欲しい)、「実名」を出されちゃうと「フィクションだから」が免罪符にはならないんだよ。
 そこんとこ、脚本の川口大樹は理解していたのかどうか。

 川口大樹には演劇が分からない、とまで断言するつもりはない。
 例えば、期限切れのクーポン券を捨てられない松尾というキャラがいる。クーポンを出して捨てろ、と言われた松尾は、渋々クーポンを、財布から、ポケットから、体中のあちこちから取り出すのである。どんだけ溜めとんねん、と突っ込みたくなるが(「手品師か!」の声がかかった)、これが舞台ならではの演出であることは、コメディ好きな演劇ファンには先刻ご承知であろう。明らかにハーポ・マルクスへのオマージュである。
 そうした秀逸なギャグがある一方、クライマックスで、宇宙に漂うメンバーの歌声を拾うために、福岡タワーのてっぺんに登ろうとする仲間たちが懸命に走る……というシークエンスを挿入したのは頂けなかった。
 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』で、しんちゃんが東京タワーを鼻血を流しながら疾走したように、これは「映画」ならではのアイデアである。実際に走って見せなければ感動は生まれない。舞台で「走るまねごと」を見せられても、これまたシラケるだけなのだ。
 それでもやりたくって、やっても意味ないって判断を上回ってやってしまったんだろう。観客もこういう明らかな失敗シーンまで褒めてちゃ、ガラパを甘やかすことにしかならないと理解しておくべきだ。
 ダメなアイデアを思い切って捨てられないのがガラパの最大の弱点なのだから。

 今回の「やりたいのは分かるけど」ってツッコミたくなる最大のものは、メインアイデアとも言える、「宇宙の歌声を何年後かに受信する」だ。
 劇中でも、「土星軌道にある宇宙船から放たれた電波は半年経って地球に届く」って言ってるんだけど、だったら20年前、まだ火星か木星か、その辺りで遭難した宇宙船からの音声は、とっくの昔に地球に届いているはずだ。仮に歌声が地球に向かって送られていたとしても、それを集積することは初めから無理だと、メンバーのほぼ全員が気づいていたはずなのである。
 実はこの「時間差ではるか昔の歌声が届く」というのは、SF小説ではよく使われる手だ。とり・みきの短編漫画にもある。ただし、それらの作品における宇宙船は亜光速で飛ぶ未来の宇宙船で、だから光と同じ速さの音声は、何年もかけて地球に届くことになるのだ。
 つまりこれはもともとSFじゃなきゃ成立しないアイデアなのである。おかげで舞台では科学的知識が欠如した連中がバカ騒ぎをしているようにしか見えなくなっていたのだが、それでもどうしても「やりたかった」んだろうね。
 でもそれって、ガラパのメンバー全員がいささか科学に疎いことを露呈することになっちゃってるんだけど、いいのかねえ。
 話に無理が生じる、と分かったら、潔くそれを捨てる。捨てたほうがよかったよ。アイデアってのは、十のうち九は使い物にならないものだと覚悟しておくべきものだ。そうしたクズなアイデアは捨てる。捨てる「勇気」が必要だったと思う。

 あともう一つ、タイトルに関する件。
 「見上げんな!」とはまた大胆かつ豪快ではあるが、作品の内容に照らし合わせてみると、いささか腑に落ちないものを感じてしまう。どちらかというと。「見上げてごらん夜の星を」としたほうがピッタリくるからだ。宇宙に消えた友達の歌声を探すって話なんだから。
 もしかしたら川口さんは「つやつけとう」のが嫌いなのかもしれない。「つやつける」より「ダサい」。「粋」よりも「野暮」。多少、被虐願望があるような気もする。
なんかの味

なんかの味

ムシラセ

OFF OFFシアター(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

とても楽しく拝見しました。これぞムシラセ。
お話はもちろんのこと、演技もすばらしく、90分とはとても思えない濃い時間、そして90分とは思えないテンポの良さがありました。
ムシラセを観たことがない方はもちろん、ご無沙汰の方にも強くおすすめできる作品でした。
まさに必見。

ネタバレBOX

キャッチーな導入から、どんどん重たくなっていくテーマ。物語終盤、幾度目かのバンドやろうぜの言葉に、何故か笑っていて、それなのに涙が出てしまう。緊張と緩和と言ってしまえば簡単ですが、それでは説明のつかない解放感がありました。会場を出たときには、全身にシーブリーズを振ったような爽快感、下北沢の空気がおいしく感じられます。
金曜日の下北沢は大変に賑わっていて、送別会終わりだろうか、花を携えた男性を囲む10数人のサラリーマンに、写真を撮ってもらえませんかと声をかけられ、それに快く応じてしまえるような優しさを持って帰ることができました。
そんな特別な体験になる観劇でした。本当に観て良かったです。

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