KAEの観てきた!クチコミ一覧

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幽霊たち

幽霊たち

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2011/06/14 (火) ~ 2011/07/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

傑作舞台に興奮!相性の良い佐々木・白井組
終演後、たくさんの方が異口同音に、「難しかったね。よくわからなかった!」と感想を述べていましたが、私は、ワクワクするほど、面白かったし、佐々木さんの演技も、白井さんの演出も、共に、近来稀に見る必見舞台だと感じられました。

カフカの描く世界にも似た、一見不条理系の芝居にも見えるのですが、実際は、人間誰しもが抱えている、根源的命題がテーマの非常に卑近なストーリーなのだと感じます。

白井さんと佐々木さんの取り合わせは、大変相性が良く、終始ワクワクし通しでした。

奥田さんは、もちろん存在感では、何も申し分ないのですが、やはり舞台慣れされていないせいか、時々、台詞を咬みそうになったり、つっかえたりする一瞬、慌てるご本人が顔を出してしまった時があり、その一点が惜しい部分でした。

私が蔵之介さんのファンになったのは、舞台がきっかけでしたから、今でも、舞台俳優の佐々木さんのファンで、彼の舞台は、チケットが入手できなかった時以外、全作品拝見しています。

そして、いつも思うのは、舞台俳優、佐々木蔵之介は、当代一の名役者だという感嘆にも似た喜び!
ファンとしては、こういう喜びを感じさせて下さる役者さんには、感謝の気持ちが溢れます。
映像のみの蔵之介ファンの方に、是非とも観て頂きたい舞台でした。

ネタバレBOX

白井さんの演出には、いつも本当に驚かされます。

どうして、原作の良さを更にレベルアップして、こんなに、白井流においしく料理できてしまうのでしょう!

最初のシーンから、最後のシーンまで、何度、心の中で、お見事!と賞賛の声を発したか、わからないくらいでした。

この作品、登場人物の名前が色で統一され、もちろん衣装もそのカラーなので、一人何役もしていても、色で見分けがつくし、これが、演出的にも大変効果的。

スリリングな展開ながら、途中、挿入される、主人公の過去の記憶の中の出来事が、実にわかりやすく提示され、難解な芝居を単純明快に描く演出の技量が並外れて秀逸です。

探偵であるブルーは、仕事で見張っていた筈のブラックに、自分がどんどん同化して行き、結局、ホワイト=ブラック=ブルーとわかるのですが、内面の自己と対峙し、協調したり、共鳴したり、敵対したりといった、人間の自己内面の複雑さを、舞台上に、切り取って表出するこの作品の独自性を、白井さんは、オリジナルのソースで、巧みに味付けされ、極上のお料理を堪能させて頂き、観客として、大変幸せでした。

まだ、ブラックの正体が解明されない時にも、ブルーが、最初にナレーションする「オレンジは、後のミセスブルー」という紹介により、この芝居の帰結が、悲惨なものにはならないだろう予測がつき、安心して、舞台に身を任せられていたようにも思います。

ポール・オースターの作品も、この芝居の中で、例示される別の作品も、共に、興味が湧き、読みたい小説や観たい芝居がまた増えました。

蔵之介さんには、いつか、カフカの作品を、また白井演出で、取り上げて頂きたいなという新たな期待もしたくなりました。
PHANTOM THE UNTOLD STORY

PHANTOM THE UNTOLD STORY

Studio Life(スタジオライフ)

シアターサンモール(東京都)

2011/06/09 (木) ~ 2011/06/27 (月)公演終了

満足度★★★★

主役の演技力が物言う芝居
よく知られている「オペラ座の怪人」の前日譚的な物語。

主役のエリックを演じる、林さんと山本さんは、共に、スタジオライフの役者さんの中でも、突出して演技力のあるお二人なので、どちらも拝見したく思いましたが、やはり、スタジオライフ初見時に、一目で魅了された山本芳樹さん主演のsortチームの方を選択しました。

オープニングで、スタッフの映写ミスがあったり、第1章の運びがやや冗長には感じましたが、物語が進行するに従って、つまり、主演のエリックの視点からの芝居になるに従って、観客を吸引する力が増し、どんどんこの芝居の世界にのめり込んで行く自分を感じました。

個人的には、第3章のストーリー展開がとても好きです。ジョバンニ役の曽世海司さん、拝見する度に、役者としての技量がアップされて、いつも驚かされます。特に、この芝居のように、主人公に心情的に寄り添うような役柄は、本当に任に合って素敵です。

ストーリー展開的にも、以前この山本さんと曽世さんで観た「白夜行」を彷彿としました。

山本さんは、運命に翻弄される寡黙な主人公をやらせたら、たぶんライフで右に出る役者さんはいないのではと思います。

でも、林さんのエリックも、実は、とても観たいと、幕が下りた瞬間に痛切に思いました。拝見できませんが、林さんのエリックもきっと素晴らしい予感がします。

ネタバレBOX

第1章は、エリックの母、マドレーヌの視点から、芝居が進行するため、やはりまだ青木さんには、荷が重いように感じました。
見るも無残な容姿で生まれたわが子への気持ちの複雑な変化が、まだ表現できる技量が不足しているように思えて、やや残念でした。
エリックの山本さんは、子供時代から、少年、青年へと成長して行く様子が、同じ仮面を被った、表情を見せない姿の中で、見事に演じ分けていらして、さすがだと感嘆しました。

第2章のジャベール役の堀川さん、楽しみな役者さんとして、注目しました。

第3章は、前述したように、曽世さんと、山本さんの達者な演技力の競演で、一番見応えたっぷりの場面です。

最後に、この後に続く、オペラ座のストーリーを暗示した描き方もなかなか余韻があって、成功していたように思います。

全体的に、「レ・ミゼラブル」を彷彿とさせる場面が多かったのは、スタッフの影響なんでしょうね。

ついでのことに、山本さん演じる「オペラ座の怪人」や「ファントム」も観たくなりました。
六月大歌舞伎

六月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2011/06/02 (木) ~ 2011/06/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

諸々に感慨深い松嶋屋4代観劇
現仁左衛門さんが、孝夫さん時代から、もう40年以上のファン歴なので、今月の歌舞伎を見逃すわけにはいかないと思っていました。

先代の仁左衛門さんから、千之助君まで、4代の松嶋屋さんの至芸を拝見できた幸せは筆舌に尽し難い思いです。

故あって、もう一度、今再び観ておきたいと思った「頼朝の死」と、仁左衛門さんが、孫の千之助君と連舞する「連獅子」、共に万感の想いで観劇しました。

千之助君、子獅子の所作が、手順舞踊にならず、懸命に心を表現しようとする様が心打ちました。
親子での「連獅子」は数々観ましたが、孫ととなると希少ではないでしょうか。

代々伝わる芸の真髄を見せて頂き、大満足です。

ネタバレBOX

頼朝の死」…大好きな真山青果の名作舞台。真山美保さんに、殊の外可愛がって頂いたせいもあるのかもしれませんが、青果以上に、腹芸の名戯曲を書ける劇作家はいないと信じています。
子供の頃に観た時は、政子は単なる脇役の一人にしか映らなかったのですが、今、人生の紆余曲折を経験してこの芝居を観ると、政子の言う「家は末代、人は一世」の台詞は、とても胸に響きます。
また、頼家の「将軍とは、有るを有りとも知られぬ身か。」の台詞も、痛切に聞こえます。
頼朝の死の秘密を知りたい頼家。お家の名誉のために言えない重保と政子。愛する人を救うために、その秘密を漏らそうとして、愛する重保の手で、命を取られる小周防。
一つの秘密を巡って、皆が苦悩し、悲劇へと突き進む哀切さがたまらなく哀しく。愛おしくなる名舞台です。
私の席からは、広元役の歌昇さんが、死角になり、全く見えなかったことだけは甚く残念でした。
誰でも、秘密は持っているけれど、家族や愛する人のために、口が裂けても言えない秘密を持つ人は、本当に辛い!歌舞伎の世界の役者さんにも、家を守るために、如何に黙して語らずの秘め事が多いのでしょうから、こういう芝居を演じている染五郎さんや、愛之助さんの心中もお察しするものがありました。
それにしても、愛之助さんの重保の容姿、台詞回し、過ぎ去りし、孝夫ファンには嬉しすぎる風情でした。

「梶原平三誉石切」…はっきり言えば、全く面白くありません。播磨屋さんも、若い時分は口跡も良く、血縁の役者さんの中では、群を抜いて名優だと感じていたのですが、どうしたことか、台詞も、変な癖がついて、聞き取りにくいし、個人的にかなり落胆ものでした。
途中から、鶴ヶ岡八幡に居並ぶ平家の若い武将達の、「どなたの血縁か当てゲーム」を、勝手に楽しんで、過ごしました。

「連獅子」…何百回も観たこの演目。親子の獅子でもジンとしますが、祖父と孫の舞いは、感無量です。仁左衛門さんの千之助君を見守る表情だけで、ウルウルしました。
千之助君が、振りをなぞるだけでなく、獅子として、舞台に健気に存在する様に、心から感銘を受けました。
思えば、昔、お父様の孝太郎さんが、楽屋でミニカーで遊んでいて、お父上に叱られていたのは、今の千之助君ぐらいの時でしょうか?
歌舞伎ファンは、こうして、代々の芸の継続を、目で観て応援できるので、やはり、他の演劇とは異質な面があるのだなと、痛感しました。
できれば、千之助君のお子さんの初舞台も拝見したいものです。
それから、今回、初めて、法華僧の日門と、浄土僧の専念の、宗派の違いから起こるいざこざシーンが、個人的にツボになりました。愛之助さんが、念仏を唱える時のおりんの棒を勢い余って、半分折れてすっ飛ばしてしまうハプニングもありましたが、何とか事なきを得てほっとしました。
レ・ミゼラブル

レ・ミゼラブル

東宝

帝国劇場(東京都)

2011/04/12 (火) ~ 2011/06/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

過ぎた日に乾杯!
まさに、この歌詞の心境でした。

今まで、通算100回は超えると思われる観劇歴ながら、実は、このスペシャルキャストには、初見の方がいらっしゃいました。鳳蘭さんのテナ夫人。さすが、貫禄が違いますね。

せっかく、招待券を頂いていた頃は、子育て真っ最中で、私が初めてこの作品を観たのは、父亡き後、一番信頼している劇評家の萩尾瞳さんが、まだ無名だった岡幸二郎さんを大絶賛されていたからでした。

あの時、帝劇の最後列で、岡アンジョルラスに出会った時の感激は未だに忘れられません。

看板に偽りなく、このミュージカルは、本当に、無名な俳優をスターにできる作品だと、嬉しい驚きでいっぱいでした。

あれから、何年でしょう?たぶん、その頃はまだ生まれていなかっただろう、加藤清史郎君の健気なガブローシュ振りを拝見しながら、このミュージカルがどれだけ、たくさんの実力あるミュージカルスターを育て上げて来たかを思うたび、涙が溢れて困りました。

前回のスペシャルキャストの時と違って、今回は、若いアンサンブルの実力も素晴らしく、全くベテラン勢と遜色がないので、観ていて、気持ちの良いことと言ったらありません。

客席にたくさんの女子高生の団体がいましたが、たまたまこんな舞台を観られてしまった彼女達は、幸せ者だなあと、つくづく羨ましくなりました。

ネタバレBOX

やや心配だった、鹿賀丈史さん、声量も、滑舌も、昔のようで、安心しました。

新派で、修行されていた時、「あの子は、歌が巧くてね。絶対伸びる!」と、父が太鼓判を押していた岩崎宏美さん、幼時の長男が、レストランでグヅっている時、わざわざ近くに来てあやして下さった林さん、企画CDにご参加頂いた岡さん、石川さん…と、ご縁がある方が大集合の贅沢な舞台に、心から酔いしれました。
コゼット役の神田さんも、幼い私を可愛がって下さった旭輝子さんに面影がそっくりで、いつも思うのですが、彼女の活躍をお祖母様にも見せてあげたかったなあと感慨深くなりました。

アンサンブルでは、スタジオライフの石飛さん、宇部さん、後藤さんが特に印象的でした。リトルコゼットの清水詩音ちゃんが、テナ夫人に苛められて泣くところは、あまりの名演にもらい泣き。

別所さんのバルジャンは、益々磨きが掛かって、もはや職人芸。とても、禅さんと同世代とは思えません。どてらも、演技派だから、実年齢を感じさせない卓越したバルジャンとマリウス振りでした。

この演出の舞台がもう見納めだと思うと、余計、万感胸に迫る、名舞台となりました。

「レ・ミゼラブル」という素晴らしい作品に心血を注いで下さった全ての方に、一観客として、心より、御礼申し上げます。
しらなみ浮世

しらなみ浮世

蜂寅企画

劇場MOMO(東京都)

2011/06/02 (木) ~ 2011/06/05 (日)公演終了

満足度★★★★

洒落た台詞と劇構成
蜂寅さんは、旗揚げからずっと観ていて、今回3回目。

個人的好みで言えば、今回の作品が一番好きでした。

白波ものとして、取り立てて独自性を感じる筋立てではない、言わば、テレビの時代劇でよくあるパターンのストーリーではありましたが、不思議と、厭きることなく、観られました。
意外と、ワクワクするし、次はどういう展開?と、興味を繋ぐ劇構成が巧みです。

そして、これは、旗揚げでも感じましたが、狭い舞台空間をそれなりに、その場所と錯覚させてしまう、舞台マジック的な簡易的セットが生かされていました。
場面転換一つないのに、こういう風に見せられる才覚は凄いと思いました。

どうも、雰囲気がゲキバカに似ていると思ったら、ゲキバカの吉田さんが、制作だったのですね。

ネタバレBOX

前回公演で花魁役だった、川端さん、今回の白波家業の方が、任に合って、光っていました。

つむじ風の陣太は、初登場の時は、とても颯爽とした盗人の所作には程遠い印象でしたが、観ている内に、それなりに見えて来て、不思議でした。

初役の堀畑さんが、とても魅力的な女優さんで、一目でファンになりました。

岡っ引きの娘で、正義感が強いがために、婚家の裏帳簿の不正を黙って見過ごせず、離縁されてしまう初。私も、その正義感故に、二人の息子をずいぶん生き辛くさせた経験があるので、この件は、胸にジンと来ました。

悪党だらけの芝居かと危惧しましたが、こういう正義感のある人物や、仕事に責任を持って挑む同心や岡っ引きが登場して、ほっとしました。

各人が、なかなか素敵な台詞を吐いたりして、単なる時代劇を超えているのが、なかなか魅力的なお芝居でした。

ただ、最後の悪党達の理屈は、どうも、生理的に納得できない感じもしました。
昔の歌舞伎狂言とあkだと、悪事にも、それぞれ、やむに止まれぬ理由があって、それは、私利私欲のためではなく、お家の再興のためだったり、主君のためだったりして、最後は、悪党も改心したり、後悔したりするものが大半ですが、この芝居の悪党達は、最後に、居直るかのように、悪事も仕事の一つ的な哲学を論じて、去って行くんですね。

言ってみれば、ここが、ユニークな、作者の独自性の表れなのかもしれないですね。

最後の風車の回り方がややちんけな感じがして、すっきりとした大詰めにならなっかったのが、ちょっと残念でした。

風車は、むしろ、最後の最後で、ドドっと、出した方が効果的だったかもしれません。
戦争にはいきたくない

戦争にはいきたくない

らくだ工務店

駅前劇場(東京都)

2011/05/20 (金) ~ 2011/05/29 (日)公演終了

満足度★★★

看板に偽りあり感が否めない
日常の断片を、時系列でリアルに丁寧に描く、脚本・演出の技量は並外れていると感じます。

ただ、このタイトルに引かれてチケットを買った自分には、やや、誇大広告感が拭えませんでした。

タイトルにある、「戦争」は、必ずしも、普遍的概念のそれのみではなく、誰かの内面的戦争であったりする。舞台は、確かにネジ工場で、間違いありません。

でも、たとえば、永井愛さんの「こんにちは、母さん」と、同じくらいの比率で、日常に実際の「戦争」を織り込む程度で、舞台に提示するのなら、ここは「戦争にはいきたくない」というタイトルは、やはりルール違反な印象を受けてしまいました。

役者さんは、皆さん、自然体で、とても素敵な演技を披露して下さいました。
ただ、山路さん目当てで行った自分としては、やや肩透かしを食らいましたけれど…。
(でも、あれだけの出演で、あのゾッとする程の威圧感は、さすがです。)

久々に舞台を拝見した河相我聞さん、存在感ある古川さん、クスっと笑わせてくれる間合いが絶妙の今村さん、可憐な小橋さんのたおやかさ、和ませ役の駒木さん等、俳優陣には、全くもって、何一つ不満の見当たらない、素晴らしい舞台を拝見できて、大満足です。

後、当日制作の方に提案ですが、入場するなり、「傘をお預かりします」と言われ、先の方が番号札をもらっていたので、さすがと感心したところ、柄物の傘は、見分けがつくので、番号札はなしと言われました。
でも、終演後、たくさんの傘の中から、自分のものを探すのはやはり難儀でしたし、ブランド物の高い傘と、似た柄の安い傘を間違える方がいるかもしれません。
「預かる」と言う以上は、責任を持って、どの傘も番号札を配った方が、後で、問題が少ないように思うのですが…。

ネタバレBOX

前回の公演で、一目惚れした、俄かファンなので、今回も、始まりからの、自然な舞台進行には大変好感を感じて観ていました。

ネジ工場の経営不振とか、戦争が色濃く、登場人物に圧し掛かって来る感じの芝居かと勝手に想像していたので、いつまでも、楽しく笑っていられる舞台の空気が変わらず、お目当ての山路さんも一向に登場せず、楽しんで観ている心の片隅で、いつ、そういう不穏な空気になるのかとか、山路さん登場は、後どれくらい?とか、余計な邪念が湧いてしまって、全神経を舞台の世界に集中できないきらいがありました。

前回公演に比べて、やや、日常の断片の切り取り方、提示の仕方に、緩急がなさすぎたのも、気になるところでした。特に、停電のシーンは、とても長く感じて、もう少し、枝葉末節、整理して、脚本に刈り込みを入れた方が、冗長な感じが薄くなる気がします。

最後、金子と、ポポの運命や如何に??というのも、大変気掛かり、心残りでした。
少しでも、台詞なりにヒントが隠れていたら、想像の手助けにもなったのですが…。

でも、開演前に、ご挨拶された石曽根さんは、私の抱いていたイメージよりずっとお若く、爽やかな好青年の印象で、この方が、私の嫌いな、観客騙しありきのような、似非演劇を物する方だとは思えないので、次回に期待したいと思います。

今のところ、らくだ工務店は、まだ気になる劇団の一つで、変わりありません。
又聞きの思い出

又聞きの思い出

ワンツーワークス

ザ・ポケット(東京都)

2011/05/19 (木) ~ 2011/05/29 (日)公演終了

満足度★★★★

なるほど、そういう意味?
昔、まだ若かりし頃、ウディ・アレンの映画は、よくデートで観に行っていたので、ハートフル・コメデイタッチの芝居なのかとばかり思っていました。

ところがどっこい、かなりストレートな家族劇。自分には思い当たらなかったとしても、誰か知人の家庭では似たような状況が展開されていそうな、万国共通の普遍的なストーリーが、そこに描かれていました。

ストリーテーラーである、アルマの最初の台詞で、この題名の意味がわかり、なるほど、面白そうと、観客に興味を抱かせるのが、巧みだなと感心しつつ納得しました。

意外性がないと言えば、そんな気もするけれど、家族の間では、ありがちな感情の行き違いの様が、普遍的なので、それ程、古臭い印象は受けません。

前回公演では、これ以上ないというくらい、憎たらしいキャラの人物を熱演された重藤さんが、今度は一転、悩める青年を好演していて、役者力のある方だなと驚きました。

久々に舞台で拝見した萩原さん、時折、台詞を言えるかとハラハラさせられる場面があったのは、残念でした。
ダイアン役の山田キヌヲさんのスタイルの良さに、西洋人の雰囲気があり、素敵でした。
奥村さんには、もう少し、ハリウッドで、バリバリ活躍されているエージェントの気風を体現して頂きたかったと思いました。

もし、またどこかで、この芝居が再演されることがあるなら、今度は、エディ役は、山口馬木也さんに是非と、妄想しつつ、帰宅しました。

ネタバレBOX

時々、心に残る名台詞のある、心憎い芝居でした。

幕が下りた時、後ろの男性は「こえー、こういう終わり方かよ!」と絶句し、前の女性は、「え、意味わかんない」と言いました。

そんなに、怖さも感じず、意味もわかった私は、芝居の受け止め方って、人それぞれだなと、改めて、認識しました。

誰にも、家族に言えない想いがあったり、配偶者でない人に惑わされたり、夢と現実の狭間で葛藤があったりと、描かれる世界が万国共通なので、きっと誰もが、登場人物の誰かに自分を投影して観られる芝居だと思いました。

親の愛情を感じられずに、どこかに愛を求めて、放浪しているアルマを観て、昔、ウディ・アレンと恋愛関係にあったダイアン・キートン主演の映画「ミスター・グッドバーを探して」を思い出し、その時感じた心のヒリヒリが再燃して、何故か、帰り道で泣いてしまいました。

親子の関係というのは、どこの世界でも、そのバランスが難しいものですね。お互い、愛情がないわけでもないのに、どこかで、歯車の噛み合わせがズレると、男女関係以上に、なかなか元の鞘には収まらないものなのかも。
風と共に来たる

風と共に来たる

劇団テアトル・エコー

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2011/05/20 (金) ~ 2011/06/01 (水)公演終了

満足度★★★★

映画制作は妥協との闘いから生まれる
初演を観たかったのですが、諸事情で見逃したので、今回の再演は、本当に嬉しく思いました。

私にとっての「風共」は、ビビアン・リーとクラーク・ゲーブルではなく、帝劇初演で観た、那智わたるさんと高橋幸治さんのコンビの舞台作品。これは、未だに各場面が鮮明に思い出される名舞台で、私の50年以上の観劇歴でも、ベスト1の舞台でした。キャストも、好配役で、これ以上の「風共」はもう2度と観られない気がします。

まあ、そんなわけもあり、この映画制作舞台裏秘話の舞台は、大変興味深いものがありました。

映画も小説も舞台も、ありとあらゆる作品を熟知しているので、各シーンが、殊更面白く感じられました。

ただ、演出のせいかもしれませんが、秘書役の女性の演技が、芝居じみてオーバーなため、せっかくの男優3人の丁々発止の演技に水をさしたのが残念。

アメリカでのオリジナル舞台を知らないので、何とも言えないのですが、この作品、男優3人だけの芝居にした方が、一層面白かったような気がしました。

ネタバレBOX

メラニーのお産の場面で、プリシーを殴るスカーレットをどう描くかで、あんなに、葛藤があったとは知りませんでした。

私が観た初演舞台が、プリシー役は、宮城まり子さんだったか、黒柳徹子さんだったかは不確かですが、確かに、ここのプリシーの場面は衝撃的でした。
熱烈なシオニストだった脚本家のベンが、意思に反すると、映画にクレジットされるのを拒否したという事実も衝撃的でした。

原稿料に釣られて、書きたくない脚本を無理強いされて書くベンに、個人的事情も手伝い、一番感情移入して見ていました。

ですが、私は、戦後最大の出版プロデューサーと言われた、妥協を許さない祖父や、独断と偏見の音楽プロデューサーの夫もあり、安原さん演じるプロデューサーの信念にも共感する部分が多く、特に、彼の「映画の一番の権力者は、誰だかわかるか?それは、木戸銭払って映画を観に来てくれる大衆だよ」と、脚本家と監督に言う台詞が、殊に胸に響きました。

昔、私が好きだった東宝の舞台では、演劇を愛し、観客の求めているものをしっかり把握している数多くの演劇プロデューサーが、素敵な舞台をたくさん生み出して下さいました。
菊田さんが今度の帝劇の「風共」のキャスティングを、どんな思いで、あの世からご覧かしらと、ちょっと、哀しい現実とリンクして、様々に感慨深い舞台となりました。
黒い十人の女

黒い十人の女

ナイロン100℃

青山円形劇場(東京都)

2011/05/20 (金) ~ 2011/06/12 (日)公演終了

満足度★★★★

痛快感があった
私は、この映画は未見なので、舞台化に当たり、どれぐらい、ケラさんのオリジナリティが発揮されているのか、知る由もないのですが、映画未見の私には、ゾクゾクする程、刺激的で、ワクワクする芝居でした。

最近のケラさん舞台で、一番好きかも。

とにかく、10人の女が壮観!皆が個性に溢れ、何だか不思議な魅力に溢れていました。

私は、男運がいい方で、みのすけさん演じる風松に対する女達の復讐を個人的にはしたくなる対象はありませんが、親類や親友を酷い目に遭わせた男達に、こういうことをしたくなって、登場人物の女性達の行動に、何だか、爽快感さえ感じてしまいました。

テレビドラマの「必殺仕置き人」を見終わった後の痛快感に似た感情でした。

10人の女達も良かったけれど、それ以上に、魅力的だったのが、桃子役の奥村佳恵さん。彼女の活躍は、今後もとても楽しみです。

花巻アナウンサー役の小林高鹿さんは、ずいぶん昔に一度舞台を拝見して以来でしたが、いやあ、驚きました。得な役どころだったせいもあるでしょうが、この舞台の成功要因のかなりの位置をこの方が占めていたと思います。
演技が、妙技になっていました。

ネタバレBOX

いつも思うのですが、ケラさんは、舞台での映像の使い方がお上手ですね。

今回も、要所要所で、映像が魅力的に使われていました。

女達の登場がファッションショーのモデル風だったのも、小粋な演出でした。

でも、現代の男達の、コンテンポラリーダンス風の振付は、何だかあまり見栄えが良くありませんでした。踊れないヒトも踊れるように見せるのが、振付の腕の見せ所だと思うのですが…。

他が絶妙な表現だっただけに、幕開きのこの部分だけが、素人芝居じみて残念でした。

大事な役のみのすけさんが、何度か噛んだのも、惜しいところ。

花巻アナウンサーの、自分の状況を物語るニュース解説が面白くて、これから、当分、頭から離れそうにありません。

それにしても、私も、この風松みたいな、親友の旦那に、こういうお仕置きしたくてたまらない!!
散歩する侵略者

散歩する侵略者

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2011/05/13 (金) ~ 2011/05/29 (日)公演終了

満足度★★★

現実の侵略者は、もっと手強いので
この作品は、イキウメの初期の作品だと思いますが、私は、小説で読んだだけで、拝見するのは今回が初でした。

最近の前川作品の緊迫した濃密感が好きなので、この舞台は、ややそういう濃密度が希薄で、ちょっと期待ハズレな部分がありました。

それに、ここに登場する侵略者は、私と家族の周囲に蠢く侵略者より、ずっとヒトが良くて、退場の仕方がどうも楽天的な感じで、ちょっと肩透かしだったかも。

舞台空間の使い方も、作品の凝縮度を悪い方に緩和させた原因だったように感じます。

最近イキウメに参加された、大窪さんと坂井さんが、驚く程、イキウメ役者として、進化されていて大変嬉しい驚きでした。

主役の窪田さんも、熱演でしたが、もう一皮向けたら、素敵な役者さんに成長される予感がして、今後も、大注目の俳優さんです。

毎回、イキウメを観劇する度、思いますが、伊勢さんの愛らしさに、心が洗われるような感覚を覚えました。

満足度の星は3っつですが、これは、あくまでも、他劇団との比較ではなく、私がイキウメに期待する満足度限定の基準値に基づく評価です。

ネタバレBOX

白を基調にした舞台と書いている方が多いのですが、私の席からは、オールグレイに見えました。

小説で読んだ時も、今ひとつピンと来るものを感じませんでしたが、やはり、この侵略者達がヒトが良すぎるせいではと感じます。

現実の侵略者は、もっと非情で、手強くて、こんなに簡単に撤退してくれないでしょうから…。

私の愛する世界を侵略しようとしているヒト達が、こんな風に物分りが良いといいのにと、心から思いました。

最後に、愛する夫に、「私から、愛の概念を奪って!」と懇願する鳴海の台詞に、私も、誰かに演劇愛の概念を奪われたら、楽なのかもと思いつつ、いや、命尽きるまで、演劇に対する愛は捨てないぞと心に誓いました。

力不足で、家族を守る力はなくても、せめて、侵略者のガイドにだけはなるまいと、心に誓うきっかけになった、大変貴重な観劇体験ではありました。
青に白

青に白

ペテカン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2011/05/13 (金) ~ 2011/05/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

歓喜の声を上げたい程、素敵な芝居
私とペテカンとの出会いは、シアタートップスさよなら公演の時。

つまり、まだ日の浅いファンですが、今日は、改めて、あの日の出会いに感謝したくなりました。

素晴らし過ぎるくらい、絶妙のブレンド具合の芝居の色合い。笑って泣いて、嬉しくなって、もう今年最高の至福の観劇となりました。

いろいろ信じ難いことがたくさんあって、ちょっと小劇場嫌いになり掛けていた私の演劇愛に再び火をつけてくれたペテカンに、心より深謝致します。

ネタバレBOX

本田さんと濱田さんの、掛け合い漫才のような開幕口上から、もうとっても楽しくてウキウキします。

あー、この劇団は、心からお客さん本意の舞台を見せてくれるに違いないという安心感が、心に充満し、安心して、身も心も委ねる体勢が整いました。

客演の濱崎さんが台詞を言い出した時は、ペテカンの色と混ざるかと少し不安になったのですが、それも、すぐに杞憂だったと感じました。

ここの芝居の脚本、演出、役者力、全てが、他の小劇場のお手本にしてほしいような匙加減で、絶妙ったら、ありません。

役者さん全員、拍手喝采したい素晴らしさですが、中でも、四條さんの粋な演技っぷりには惚れ惚れしました。
彼女の歌う「愛の賛歌」は、全てにおいて絶品でした。

楽日なので、この芝居、ヒトに薦められないのが残念無念!!

帰り道、心がホコホコして、ずっと笑顔でいられました。

山口さんが二役だったことを、後で知って、ビックリしました。巧い役者さんになられたなあと感慨深くなりました。
ロマン

ロマン

東京タンバリン

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2011/05/13 (金) ~ 2011/05/22 (日)公演終了

満足度★★★

ちょっと食傷気味のテーマなれど
息子がお気に入りの男優さんお二人がご出演でしたので、ふらっと三鷹まで行ってみました。

ホント、息子が敬愛している扇田さん、とても自然体の演技で、好感が持てました。

この芝居、扇田さん初め、男優陣が圧倒的に良くて、レベルアップに貢献されています。

ちょっと、最近、あちこちの小劇場で何度も観た傾向の芝居なので、またかとややテーマ自体には食傷気味でしたが、キャストが良かったので、観劇後の満足度はかなり高く感じました。

ネタバレBOX

またもや、夢と現実の落差に悩む、青年小説家のお話です。

最近、売れない漫画家や、書けない小説家や、やりたい仕事でなかなか芽が出ず、バイトに疲れた青年が主人公の芝居を何度観たことかと思いますが、この芝居、主人公の佐藤君役の、扇田さんの自然体の演技が実に秀逸なので、つい、感情移入して観てしまいました。

我が家の息子達も、似たような境遇で、苦悩している最中ですし。

宝塚のレビューでも使えそうな大階段をうまく機能させ、公園や、マンションの部屋や、喫茶店に見立てる工夫も優れていました。

スタイリッシュ!と絶賛するには一歩手前の演出も、かえってご愛嬌な感じがします。

勝った人が、歩数を決めて進める、誰もが記憶にあるジャンケンゲームで、「パイナップルやチヨコレートは食べ物なのに、グリコは会社名じゃん」と突っ込む台詞が愉快でした。
ホント!遊んだ当時は気づかなかったけど、あれはグリコの宣伝目的だったのかしら?と、疑問が一つ生じました。(笑い)

この芝居、男性の描き方には、説得力があるのですが、何故か、女性は通り一遍な描かれ方で、その点には不満がありました。あまり、人間的魅力を感じる女性がいませんでした。

だいたい、最近、こういう、人妻なのに、若い男の子をつまみ食いする女性が、登場する芝居がやけに多い気がしますが、今の既婚女性って、そんなに貞操観念が低いヒトばかりなのかしら?
それとも、劇作家が住む世界限定のこと?
小劇場界ではそうなのかもしれませんが、出て来る女性、皆、似たり寄ったりなのには、やや疑問を感じました。

最後のシーン、小学校時代からの男性二人の友情が壊れなかったのは、微かな救いで、ちょっと嬉しくなりました。

以前、この主人公と同じお名前の方が主宰をされていた劇団の、如何にも嘘だらけのお月様シーンより、この舞台のお月様の眺めの方が悠に感動的でした。

扇田さん同様、前田役の森啓一郎さんの好演が大変印象的でした。
たいこどんどん

たいこどんどん

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2011/05/02 (月) ~ 2011/05/26 (木)公演終了

満足度★★★★★

下世話が光放つような演出に、陶酔感あり
迷いましたが、これは観て正解でした。

6歳の頃からの橋之助ファンとして、嬉しく思える作品でした。

現代歌舞伎の趣のある、大変スピーディな道中物で、長時間の観劇を感じさせない芝居でした。

改めて、井上ひさしさんの偉才ぶりを痛感すると共に、井上作品と、蜷川さんの相性の良さを実感しました。

ネタバレBOX

幕開き後しばらくは、古田さんの早台詞がほとんど聞き取れず、このまま行くのかと心配になりましたが、きちんんと会話は聞き取れ、ほっとしました。

たぶん、古田さんは、狂言回し的な解説台詞は不向きな役者さんだなと感じますが、でも、この太鼓もちの役は、大変任に合っていました。愛嬌ある役なので、ピッタリだったと思います。

橋之助さんは、子供の頃から、素質のある役者さんでしたが、今回、初めて彼の歌を聴いて、驚きました。なかなか巧いんですもの。声もいいし…。

また、彼の歌う芝居、観たくなりました。

心配していた鈴木京香さんも、何故か、映画の演技よりずっと良かったし、宮本裕子さんが、相変わらず、見事な猥雑感を醸し出して、絶品艶技!同性の私が観ても、何かドキドキでした。

地味ながら、市川夏江さんが、良い老女ぶり。昔の新国劇を思い出してしまう雰囲気がありました。

大林さんは、背が高いせいもあるでしょうが、普段着物を着ている女性に見えず、借りてきた猫みたいな風情が残念でした。彼女が登場すると、突然、アマチュアの芝居のようになってしまうので。

モンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」が、時代劇なのにも関わらず、うまく劇中に取り入れられていて、暗転が楽しく感じました。

3・11以来、何度も耳にする地名がたくさん出て来る芝居で、最後の場面、主人公二人の見聞きした江戸の現状が、今の日本の置かれた状況とダブり、心をざわつかせましたが、作品全体の空気は、大変痛快で、娯楽時代劇の様相でした。

心からのカーテンコールの拍手が何度も続き、久しぶりに、コクーンで、満足感を得られた公演でした。

いつか再演があるなら、この太鼓もち役、今度は浅野和之さんか、段田さんで観てみたい気がします。

ただ、一つ思ったのは、もう鏡はいいんじゃないかな?いい加減、マンネリ感あり。
鳥瞰図 ―ちょうかんず―

鳥瞰図 ―ちょうかんず―

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2011/05/10 (火) ~ 2011/05/22 (日)公演終了

満足度★★★★

芝居じみた演出がやや残念
「鳥瞰図」は、初めて早船作品に出会った舞台で、それ以来、早船さんとサスペンデッズファンになった自分には、待ちわびた待望の再演でした。

ですが、私の50余年に亘る観劇経験において、どうも初演より進化した再演作にはあまりお目に掛かったことがなく、今回も、ややそういう不安があっての観劇でした。

でも、やはり、最初の衝撃は変わらず、早船さんの物語構成、人物の動かし方、台詞で、感情を如実に表出する劇作家としての手腕に、改めて打ちのめされる思いでした。

ただ、その後、ご自身の演出での作品を多く拝見したせいか、今回は、この早船さんの名戯曲と違う空気の演出の不自然さが目についてしまいました。

その点が、やや残念!
いつの日か、早船さんご自身の演出で、この作品をもう一度拝見してみたい気がしています。

ネタバレBOX

茂雄役が、浅野さんから、入江さんに替わられ、入江さんの茂雄も、自然体で良かったのですが、何しろ、初演の浅野さんの当意即妙の名演技が今でも目に焼きついているため、どうしても、不足感を感じてしまいました。

野村さんは、昔テレビで子役として活躍されていた時、拝見して以来でしたが、美しい女性に成長されて、感慨深い思いがしました。

知っているストーリーでも、やはり、終盤の渡辺さんの独壇場には、涙が溢れました。

先日の震災で、液状化現象で多大な被害が出た地域を舞台にしているので、初演では感じなかった別の感情も湧き上がり、嗚咽しそうになる部分がありました。

初演で、圧倒的に面白かった場面が、今回の演出では、あまり前面に出ず、全体的に、テンポが悪くなったような印象がありました。
各人の動作が自然な流れにならず、時々細切れ感があるのが残念でした。

また、ビデオをセッティングしてからの音声が聞こえるまでの間など、細かな所作の間が、不自然で、これが、作品世界に引き込まれる気持ちに微妙にセーブを掛けるきらいがありました。
早船さんの書く台詞が自然なだけに、この雰囲気にマッチしない、演出のわざとらしさに、少し鼻白む思いを感じる瞬間が幾度かあり、芝居じみて感じてしまうことが、もったいないなと感じました。
をんな善哉

をんな善哉

劇団青年座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2011/05/12 (木) ~ 2011/05/22 (日)公演終了

満足度★★★★

笑って泣ける王道芝居には満足ですが
世の中は、節電のため、どこもエスカレーターは停止していて、地下鉄の階段を幾度も上り、息せき切って、ハンズからの渡り廊下を走り、ようやく劇場に着いたのが、開演2分前。「あー、間に合った!」と思ったのはぬか喜びで、受付にヒトが溢れ、もぎりの方が後方にいらして、ようやく、「左のドアからお入り下さい」と言われて、客席に入ろうとした矢先、「開演しましたから、お待ち下さい」と足止めを喰らいました。

会場も、携帯も、まだ時刻は、開演1分前の表示なのに。

「いつのきっかけで、入れますか?」と男性。聞かれた女性は、他と話中で、指示出さず。

私を先頭に、10名ほどのお客さんが待ちぼうけを喰っていました。

そうこうする内、客席に拍手が沸き起こり、高畑さんの台詞が聞こえ出しました。時計を見ると、開演予定時刻。

「何故?私達、開演してもいないのに、足止め喰ってたの?」と疑念が湧きました。

それから、待つことしばし。ようやくお兄さんが、「それでは、2名づつご案内します。あ、お客様は、前方ですので、先に、17列目のお客様からご案内します。」と、先頭の私は後回しにされ、ようやく席に着いた時には、高畑さんと堀部さんの会話が相当進行中で、しばらくは、状況把握に手間取り、気持ちもザワザワとして、せっかくの楽しみにしていた芝居の興を殺がれたことは大変残念でした。

一体、最後尾にいらした方が開幕何十分後に着席できたかは知る由もありませんが、演出の都合上の問題もなさそうな公演でしたし、私が入ろうとした時はまだ開演もしていなかったのですし、もう少し、観客に配慮した方策を講じて頂きたかったと憤りを感じました。

せめて、客席の後ろで、待機させて下さってもいいのにと思います。
そうすれば、座らなくても、劇の進行は理解できますから。

と、前置きが長くなりましたが、芝居自体は、久々に、ホームに戻った高畑さんを筆頭に、青年座の演技派揃い踏みの舞台で、笑って泣いて、誰もが安心して楽しめる人情喜劇で、大満足致しました。

ベテラン陣のさすがの演技はもちろんのこと、酒屋の娘役の小暮さんと、その恋人役の豊田さんの、自然な好演技が大変印象的でした。

鈴木聡さんと青年座の相性は、「妻と社長と九ちゃん」で既に実証済みですが、今回は、ベストキャスト揃いで、本当に、朗らかに笑える楽しい舞台でした。

ネタバレBOX

鈴木聡さんの芝居は、よく不倫関係が描かれるのですが、この芝居では、不倫になりかかるけれど、プラトニックで終わる、中年の元恋人同士のストーリーが絡み、その描き方が、非常に共感を覚えるもので、ちょっと、個人的感情移入が過ぎて、涙が出ました。

昔、ラジオ番組を担当していた時、良く掛けた、さだまさしさんの「線香花火」の歌詞を思い出すシーンもあり、高幡さんが、私と同い年ということもあり、自分自身のこれまでの生き方を省みるきっかけにもなった舞台でした。

この主人公よりやや年上の年代の私も、昨年来、淋しい生活を送る、昔のボーイフレンド達から、あの頃の気持ちを告白されたりして、手塚さん演じる田村の淋しさが少し、理解できるような気持ちになりました。きっと、50代男性は皆多かれ少なかれそういう気持ちになる世代なのかもしれません。

酒屋の娘の交際相手の「インターネット君」が、「幸せは脳内で感じるもの」という、持論を話す件が、とても自然で、説得力があり、舞台上の諒子(高畑)同様、この台詞だけで、私も、この青年に好感を抱いてしまいました。

この芝居の登場人物全員に、役を演じている役者さんもろとも、、好感が抱けて、まさに、私の理想とする、人情喜劇でした。

鈴木聡さんの脚本も、男女のドロドロした部分は描かず、誰にも、印象の良い作品に仕上がっていて、好印象でした。

ただ、病気で仕事を休んで、お店も休業していた職人が、いきなり、短時間で、来客に善哉を振舞うという件は、幾らなんでもやや不自然ではと思います。

そのことが、気持ちよいエンディングに繋がるエピソードだけに、粗が目立って残念でした。

また、和菓子屋のセットは大変リアルなのに、作業場の窓越しに見えるビルの風景が、ややデフォルメされた雰囲気で、アンバランスな感じがありました。

手塚さん演じる田村が、「笹本」に来訪した時の、入り口の違いによって、彼と諒子の関係の変化を表現した脚本か演出は、非常に秀逸だったと思います。
港町純情オセロ

港町純情オセロ

劇団☆新感線

赤坂ACTシアター(東京都)

2011/04/30 (土) ~ 2011/05/15 (日)公演終了

満足度★★

名作がズタボロ
橋本じゅんさんファンとしては、彼の復帰は本当に嬉しく、観劇させて頂きましたが、収穫はほぼそれのみ。

新感線のシェークスピア物は、「メタルマクベス」「リチャード3世」と拝見し、これが私には3作目でした。この2作も、どちらかと言えば、不作でしたが、今回の「オセロ」が、作品レベルとしては、ダントツ、前2作を下回る出来栄えに感じました。

青木豪さんは好きな劇作家ですが、脚色に関しては、あまり才気を感じません。それまで、シェークスピア未見だというクドカンさんの「マクベス」の方が、悠に、原作の味わいを生かしていました。

せっかくの名作「オセロ」が台無しの印象!

新感線にいつも期待している高揚感やエンタメ性も、今回は、ほとんど、体感できず、とても残念でなりませんでした。

久しぶりに、誘った友人に悪いことをした気持ちになりました。

ネタバレBOX

原作では、イァーゴーに当たる、この芝居の核となる役を演じる役者さんが、この方こんな役者力でしたっけ?と目を疑うような空回り演技で、愕然としました。2階席だったせいもあるのでしょうが、この方の台詞がほとんど聞き取れないだけでなく、この作品の彼の役割がこんな解釈で演じられていることに違和感がありました。

舞台設定を、30年代の日本のやくざ社会に置き換えていること自体には、何の異論もありません。
原作にはない、役を追加しているのもいいでしょう。

でも、この芝居、観客にどういうスタンスで見せたいのかが、全く不明です。
「オセロ」のパロディに徹するなら、それも良し。でも、何もかもが中途半端で、この料金でこの芝居を評価するなら、星ひとつでも多すぎる感じがしました。

相変わらず、何をやっても、器用に演じる伊礼彼方さんの役者力に敬服したのと、粟根さんの被り物が面白かったのと、じゅんさん復帰が嬉しかったので、おまけで、星二つにと思いますが、私のお隣の席にいた女性は、1幕半ばで退場し、もう2度と席には戻って来ませんでした。
レ・ミゼラブル

レ・ミゼラブル

東宝

帝国劇場(東京都)

2011/04/12 (火) ~ 2011/06/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

圧巻の禅ジャベール楽日
今まで、100回は観たと思う「レ・ミゼラブル」ですが、今回のキャスト(と言っても、今日のソワレのキャスト限定ですが)程、全員に不満を感じないカンパニーは初めてかもしれません。

今までは、なるべく自分のベストキャストの日を選んで行っても、必ず誰かに不満がありました。

今回のアンサンブルメンバーは、殊更目立つ人がいない代わりに、皆さん、真っ当に役を演じていらっしゃいました。

石川禅さんのジャベール役楽日でしたが、本当に申し分のない役作りで、感動を頂きました。
ちゃんと、歌詞が台詞として聞ける数少ないジャベール役者さんだと思います。

期待の和音ファンテーヌは、想像以上に素晴らしく、こういう上手い女優さんがどうしてトップにならなかったのかと不思議でした。

安定の育三郎マリウスや、自分的には最高の駒田・阿知波コンビのテナルディエ夫妻、演技・歌・慈愛心の3拍子揃った別所バルジャンが良かったのは言うまでもなく、そこに、新キャストの、Jenniferエポニーヌが大変な好演をされていて、嬉しくなりました。


以前、政府軍の陰声に一耳惚れし、CDにご参加頂いたよしつぐさんが、とうとうアンサンブルから昇格されて、アンジョルラスとして再生された記念すべき舞台、私も、母のような気持ちで見守りました。

たまに、役の気持ちが理解できてるのかと疑惑を感じるバルジャンとか、スタンドプレイが過ぎるテナ夫人とか、歌えない、演技できない、見た目も可愛くないコゼットとか、いろいろ拝見して来たので、こういう、純粋に舞台の世界に没頭させてもらえるキャストで、この不朽のミュージカルを鑑賞できたのは幸せでした。

最後のカーテンコールが何度も拍手鳴り止まず、演劇を愛する心を育ててくれた亡き父に、心から感謝したくなりました。
観たい芝居を、自分のお金を出して観に行って、こうして感動をもらえて帰ることができる時、至上の喜びを感じます。

本当に、不朽の名作ミュージカル、万歳!!

これまでの演出はこれが最後で、次は、ずいぶん、情感場面がカットされたり、大道具をあまり使わず、映像を使用したりするようです。

これまでの演出の「レ・ミゼラブル」は、今公演で見納めです。ちょっと感慨深い気持ちになるのは、そのせいもあるのかもしれません。

ネタバレBOX

余談ですが、今日の若林さんの指揮の方が断然好きです。

物語の進行に勢いがあり、時間の経つのも忘れ、気持ちが呑み込まれて行く高揚感が、別の指揮者の時より、優れていると感じました。

阿部アンジョルラス、歌声では文句なく、リーダーの資質が溢れていましたが、ただ1点気になったことが。ガブローシュが死んだ時、アンジョルラスが一番項垂れ、気落ちしてる風なのは、ちょっとキャラクターと違うのではと感じました。
裸の女を持つ男

裸の女を持つ男

クロムモリブデン

シアタートラム(東京都)

2011/04/16 (土) ~ 2011/04/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

刹那的悲哀と痛快さがない交ぜに、魅了
青木さんて、鶴屋南北の再来ではと、この劇団体験3回目にして感じました。

文章でこの劇団を語ろうとすると、適切な表現がなかなか見当たらないけれど、全てのクオリテイの度合いが揃っていると言うか、頃合の匙加減で時代を調理する、料理人の技を感じます。

役者さんが、全員、作・演の青木さんの主旨を心身で掌握し、それを、ご自身の工夫で、舞台上に体現していることが、肌で感じられ、観劇冥利に尽きる90分を過ごさせて頂けて、感謝です。

アンケートで、「今回の芝居であなたの思う一番悪い人物は誰ですか?」という質問事項がありましたが、その中の選択肢にはなかった、「この芝居を楽しめない観客」を、私なら、一番悪い人物と認識するだろうと思いました。

この芝居は、スネに傷持つ人、日頃、誰かを騙したり、自らの利益のために他人を利用するような日常を過ごす観客には、きっと、心から素直に楽しむ余裕が生まれないように感じました。

幸い、自分には、そういう卑怯な部分はあまりないので、この芝居、充分堪能することができました。

開演に間に合いそうもなく、途中で引き返そうかと思いましたが、これは、観て本当に良かった!

益々、クロムモリブデン中毒になりそうです。

ネタバレBOX

実際の記憶に新しい芸能界の事件を題材にしながら、現実の事件の当事者には感じる筈もなかった、共感をこの舞台からは感じられ、そういう意味で、青木さんの作風には、歌舞伎の色悪モノに通じる劇作センスが溢れていると驚嘆しました。

客演が、辰巳さんお一人だけというのも、成功の一因だと思います。
この劇団の役者さんは、主宰のやりたいこと、見せたいものを、皆さん、きちんと、心得て、日々お稽古されているのだろうなと、舞台を拝見していて、バシバシ感じ取れるのです。
それが、観客として、大変、痛快で、心地良い体感となっています。

私の好きな劇団、イキウメとも似た、観劇中の高揚感。これは、病み付きになりそうです。

立場上、止むに止まれず、悪事に追い込まれ、全てを、わが身に押し付けられて、自分自身、それを、実体験と誤認して行くことになる、森本の悲哀が、哀れでなりませんでした。

私の周囲の演劇青年達が、森本の二の舞にならないようにと、祈るばかりです。
トップ・ガールズ

トップ・ガールズ

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2011/04/01 (金) ~ 2011/04/24 (日)公演終了

満足度★★★★

幕開きを観る事叶わず、残念
せっかく、開演ギリギリセーフで、間に合ったのに、あろうことか、会場案内係の青年の対応の悪さ故、こちらには、全く非がないにも関わらず、7~8分、見逃すことになりました。

そのため、どんな導入で、この芝居が始まったのか、想像の域を出ず、大変残念でした。

私の席に座っていた女性に場所を移動して頂け、席に座った時には、いろいろな時代のトップ・ガールズ達が、皆、口々に、自分の過去を語っている最中で、しばらくは、誰が誰やら、わからず仕舞い。

それもあってか、1幕は、心が遊離したまま、舞台を見守るだけで、イマイチ、のめり込めずに時間だけが過ぎて行きました。

ところが、2幕になると、俄然面白くなり、この個性溢れる女優さん達の夢の共演が、とても、ワクワクとして観劇できるようになり、ほっとしました。

皆さん、良かったけれど、特に、3役を、見事に演じ分けた麻実さん、意外にも、儚い少女の心を見事体現した渡辺えりさん、いつも身震いするほどの名演技の神野さんの名演ぶりに、魅了されました。

いつか機会があれば、もう一度、今度は、開幕からしっかり観たい舞台です。

ネタバレBOX

いたいけなえりさんの純粋少女っぷりに、思わず、涙を誘われました。

終盤の、寺島しのぶさんと、麻実さんの、立場の違う姉妹の白熱の会話に、頃合の良いリアルを感じました。

麻実さんは、マリーンが押しのけた男性社員の妻役が、これまた、抜群のコメディセンスで、唸らせ、演技力の幅を感じさせられました。

この方がいるだけで、その舞台の半分は成功間違いなしと思われる、脇役の重鎮、神野さんの、面接シーンが、受ける、受ける!

スタイリッシュな舞台美術と、演劇界のトップガールズによる、派手ではないけれど、キラッと光る舞台を堪能しました。
わが星

わが星

ままごと

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2011/04/15 (金) ~ 2011/05/01 (日)公演終了

満足度★★★★

何気ない日常の愛おしさ
評判高い「わが星」、やっと拝見できました。

最初の方は、単調に思えて、やや眠くなったりもしましたが、観ている内にだんだん引き込まれ、描かれている世界に、誰もが同一概念を持てる、類稀な、人間賛歌的なステージングだと共感を覚えました。

何気ない日常に愛おしさを感じ、旧友に電話して声を聞きたくなる衝動に駆られて、劇場を後にしました。

癖のある役者さんには、不向きな作品のように感じます。
そういう意味では、とても、センスの良いキャスティングでした。

ネタバレBOX

作者の柴さんが、「わが町」をお好きだということがよくわかる作品でした。

そして、この「わが星」は、柴さんの手で、しっかり、日本という国のお話になっていました。

以前、ある劇団の、たぶん、この作品に触発されて上演されたであろう舞台を観たことがありますが、それとは、明らかに、似て非なるもの!

やはり、柴さんだからこそのこのクオリティだと感嘆しました。

チーちゃんと、ツキちゃんの二人芝居の部分が、圧倒的に好みです。
あのやりとりを観ていると、自分には、素敵な友人がたくさんいることに、自然と気づかされ、涙が出ました。

周囲の大切な人達との日々を一層大事に、生きて行きたいと思わせてくれる、哲学的啓示の潜む、神秘的な作品でした。

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