ダンシング・ヴァニティ
ピーチャム・カンパニー
Space早稲田(東京都)
2011/06/08 (水) ~ 2011/06/15 (水)公演終了
満足度★★★★
凄まじく刺激的
「場面反復」の超実験的小説、筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』をピーチャム風にアレンジするといったいどんな情景になるのだろうか、とワクワクしながら劇場入りした。ここの舞台はとにかく狭い。だからこの壮大なる回想劇のセットも見ものだった。結果、ちょっとしたワンダーランド的な夢物語になったのではなかろうか。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
主人公の美術評論家は定説に異を唱える浮世絵論を発表してベストセラーとなり、娘とめいはコンビを組んでクラブの人気歌手となる。妻は神経症のため頭を左右に振る。この一家の物語だが、時間はまっすぐ流れず、ひとつの場面が何度も反復され、そのたびに少しずつストーリーがズレながら進んでゆく。主人公は時空を超えて江戸時代や戦時中と往還する。早世した息子や亡父、コロス(劇の合唱隊)や歌舞伎の登場人物も「現実」に乱入する。なんとも奇妙でパラレルワールドな展開だ。コロスはギリシャ劇でよく登場するので御馴染みな場面だ。
この小説の繰り返しは語り手(おれ)の臨終の床で回想される記憶ということであり、その瀕死時の走馬燈が廻るような記憶の繰り返しそのものが言語化されているということになる。
これらは本当にあったことなのか、現実に記憶をつけ加えたものなのか、妄想なのか、夢の中の出来事だったのか、または反復そのものが実際にあったことなのかも解らない。人間の記憶の断片は部分的に強調されたり、省略されたり、回想するうちに歪曲されていくものだけれど、失敗も含めて通過してきたことで現在の自分がある。終盤にどの道を通っても完成された死はない、と主人公は知るのだ。
ここで白い顔のフクロウの存在だが、常に「おれ」を冷静に見ているこの者は何かの象徴なのだろうけれど、もう一人の「おれ」なのかもしれない。
これだけの膨大でスピーディーなセリフを覚えたキャストらにまったくもって感服する。一番面白かったのは「ねずみ捕り」の場面だ。八重柏が演じる鼠はなんだかチーズを片手にカジカジ喰らってるような小悪党っぽい鼠でとにかく楽しい。強いて言うならセリフを吐くのが必死な役者が居て表情に悲壮感が漂っていた。それと手作りのお面やゴムパンチのシーンは学芸会風でなんとも頂けなかった。
2時間20分の長丁場の中、何度も繰り返される同じシーンを飽きずに観られると楽しめる舞台だ。
音無村のソラに鐘が鳴る
演劇企画ハッピー圏外
TACCS1179(東京都)
2011/06/10 (金) ~ 2011/06/13 (月)公演終了
満足度★★
客席はガラガラ。
自慢じゃないが芝居は真剣に観てるほうだと自覚している。なのに、前半、久しぶりに眠くなるほどダルカッタ。たぶん前半の描写はコメディなのだろうけれど、スベリまくって受けないのだ。それもそのはず、でんでん面白くない。これで一気に眠くなったワタクシは起きているのに必死なほどの戦いとなったのだった。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
物語は民間宇宙開発局で、ロケットを飛ばすことに望みをかける局員らと、ロケット打ち上げに規制法案を示す国連が絡んだ航空自衛官との争いを描写したものだ。
こう書くと大層に壮大な物語のように感じられるが、実のところはストーリー自体は単調だ。終盤になってようやく、小波のようなうねりが訪れるが、それまでが、およそコメディとは言い難いお笑いに観客シーーン。。
序盤、観客を暖めることをしくじると、その後の展開はまず冷え込んでしまうのが殆どだが今回もそんな結果に。
役者は頑張っていたが本がイマイチだった。更に舞台を使うキャストらの配置もまずい。舞台は中央に設置された台だけだから、セットはないに等しいのだが、こういった場合、観客の想像力を搔き立てる脚本が必要不可欠なのだが、その練りこみが甘かった。だから割と静かに本編は進んでゆく。
そうして舞台そのものを盛り上げる音響も宇宙的なイメージが沸かなかった。音響は劇団伍季風の宇田川大介だったが彼なら壮大な音響の演出が出来るだろうに・・、と思う。
もうちょっと笑いのネタが面白かったなら楽しかったのだが・・。
静かの海【ご来場ありがとうございました】
青春事情
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2011/06/08 (水) ~ 2011/06/12 (日)公演終了
満足度★★★★
悲喜こもごも青春真っ只中
いあいあ、想像してた以上の素晴らしさ!ホント素敵な物語でした。
高校生時代の彼らと大人になった彼らを交錯させながら、思春期独特の歯がゆくも言えなかったそれぞれの感情を描写した友情物語。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
序盤、渡辺(本折)と立花(鈴木・とくお組)のお笑い芸人の場面から始まる。このネタは大して面白くもないのだが(笑)、序盤の伏線が後の渡辺を主軸とする青春ものを予感させる描写だ。
ワタクシは個人的にとくお組の鈴木が面白くて仕方がない。劇中でも「じゃがいも」と言われていたが30代にしておっさん顔のキャラクターが実に愛おしいのである。更にだ、鈴木のセリフをヨクヨク聞いていると、さ行の発音がオカシイ。息が抜けるような発音をするのだ。だから客席から鈴木の口内をじーーーっと観ていて判明したのだけれど、生まれつきの自由三昧、隙な歯並びがそのような発音になるのだと解ってしまった。その上、煙草の吸いすぎなのか歯が黒い。苦笑!
つまりはおっさん顔で、はちゅおんもままならぬ歯の黒い鈴木君が女子にモテるわけはないのだが、そのキャラクターはバカボンのパパみたいに愛すべき役者なのだ。
随分、話がそれてしまったが、本編の物語は高校の同級生5人の友情と三角関係の恋愛事情、そして大人になった彼らを綴ったものだったが、前半はコメディタッチで激走する。これらの激走っぷりが実に可笑しく、それでいてほのぼのとした風景なのだ。
思い出の中の彼らは、自分がどんな人生を歩むのかなど何も解らず、気楽に、けれど頼りなく、ふらふらと、へらへらと毎日を過ごしていた。彼らは7月の子供だった。始まったばかりの夏休みが永遠に続くものだと錯覚する7月の子供。陽射しは眩しく彼らを照らしている7月の子供。
学生時代を振り返ると無邪気でお気楽だったあの頃を思い出す。甘酸っぱくも苦い思い出もある高校時代。それらを想像させるような、軽快なタッチが美しい。
後半は美月が子宮がんで入院した辺りから観客の泣き落とし作戦に入るのだが、その場面でもうるうる・・と泣ける。美月が亡き母を思い焦がれ、母がいるという月の「静かの海」に行きたいと訴えるシーンは闘病中の憐憫さと重なって、大きなクライマックスの場面だ。
それぞれの人生に迷った時、彼らはその時々に応じて励ましたり励まされたりしながら生かし生かされていく。登場人物は7人だったが、全てのキャラクターの立ち上がりが絶妙で活き活きと描かれていた。そしてどのキャラクターも全員が好きになれる。
観終わった後に喜びを噛みしめられる舞台だった。素晴らしい!
いないいない
ガレキの太鼓
アトリエ春風舎(東京都)
2011/06/03 (金) ~ 2011/06/12 (日)公演終了
満足度★★★
舘そらみの本にしては良く解らなかった
今までの作風から逸脱した閉塞感のある作品だ。閉塞感を感じたのは舞台の描写ではない。こういった作品を観る観客の一瞬の閉塞感だ。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
舞台は隠れ家に集った男女が、まるで遊び半分にかくれんぼをしているかのような描写だ。そこでは合宿気分で一時的な引きこもりのような風景。しかし、そのお遊びのような状況も日が浅いうちは和気藹々と能天気に過ごすも、やがて時の経過と共に話のネタも尽きるのだ。
彼らがここに逃げてきた理由、それが徐々に解き明かされていくが、彼らの元に一通の通知が来る。それによって彼らの扱いがどんどん悪くなり、やがて何処かへ連れ去られるらしいという噂を聞く。身の危険を感じた彼らは伊藤が用意した隠れ家に身を潜めるのだが、この展開は何やらヒトラー政権のユダヤ狩りに似ている。アンネの日記のように閉じ込められた潜伏期間の状況を日記に記す北川。
その一室に閉じ込められた2年未満の出来事を描写した舞台だったが、その描写に緊迫感はない。つまり、彼らは1年以上も身体を洗ってないが薄汚れていないし、精神的にも病まない。病んだのは林だけだ。こういった状況の中で閉じこもったまま平気でいられる人間なんているはずもなく、徐々に人間関係が壊れるのだと思うのだが、割にみんなが冷静なのだ。
死んだ人物がいたのだろうか?それとも全てが妄想だったのだろうか?
全体的に死と隣り合わせな緊張感もインパクトもない。
よく解らない舞台だった。
アンネの日記からヒントを得たなら、彼らは生きてはいないはずだ。
天守物語
少年社中
吉祥寺シアター(東京都)
2011/06/03 (金) ~ 2011/06/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
絶品!
鷹役の中村龍介があまりにも妖艶で美しい。まず、会場に入ると天守閣のセットに圧倒される。このセットでこれから始まる物語に相当な期待感が生まれ、なんだか嬉しくなってワクワクドキドキする。結果、照明、音楽、衣装、音響、メイク、演技力、それらの匠は秀逸な演出と融合し幻想的な舞台を作り上げていた。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
その昔、妖怪と人間が創造される。妖怪は地を鎮め、地を守り人間を守ることを天命とし、白鷺城の天守閣から人間を眺め見守っていた。これら妖怪を束ねる美しい婦人の名を「富姫」という。一方で妖怪が天変地異を操り人間を滅ぼそうとしていると疑心暗鬼になった人間たちは妖怪を滅ぼし、天守閣にある、願いが叶うという獅子頭を奪おうと企む。これらを軸に妖怪と人間と、妖怪だった鳥の因果応報を含んだ悲恋の物語だ。
舞台とは視覚の満足度から高揚感も満たされる。今回の舞台はメイクと衣装のバランスがあまりにも美しくファンタジー性溢れる舞台だった。衣装制作はどうやら5人で制作したらしいが、こうした裏方の力量があってこその舞台だと今更ながらに感じる。
そして全てのキャストらの演技力も素晴らしかった。地上と天空を結ぶ梯子までをも想像できて壮大な物語だったと改めて感じる。舞台はコミカルな場面も用意され、クスリ・・と失笑し、序盤に踊るシーンから始まり、踊りで終わる舞台はほぼ戯曲通りに描写していた。しかし演出家の毛利は終盤で桃六に「苦しくても生きる」というメッセージを充分に散りばめセリフとして吐かせる。これらは毛利の脚色によるものだが、そのメッセージは強く観劇者の心に残り感動したと思う。
泉鏡花といえば、人間界と妖しげな異界とが交錯する不思議な世界を描いた作家で有名だが、その戯曲は舞台化し易いよう舞台セットまで書かれている。特に『天守物語』は、姫路城の天守の第五層に住んでいて「左右に柱、向って三方を廻廊下のごとく余して、一面に高く高麗べりの畳を敷く。紅の鼓の緒、処々に蝶結びして一条、これを欄干のごとく取りまわして柱に渡す・・・」と延々と続くのだ。笑
舞台は泉鏡花の妖しい世界観と毛利の演出が見事に融合され舞台化されていた絶品だ。最後の場面。花吹雪が舞い上がる煌びやかな安土桃山的舞台はこの世のものとは思えないほど優美で幻想的であった。素晴らしいエンタメであった。
1億円
劇団シアターザロケッツ
劇場HOPE(東京都)
2011/06/02 (木) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★
初見の劇団だったけれど
椅子の上に当日パンフも何もない。他劇団のチラシさえも。あるのはアンケート用紙のみ。これじゃあ、キャスト名も役柄も解らないな・・と先が思い遣られる。こういった観客に対して配慮のない劇団の公演は大抵、マズイ舞台が多い。この時点で他の公演を観れば良かった・・と激しく後悔。しかしながら意に反して役者らの演技が良かった。ストーリーはベタで想像の範囲内だったけれど、男性キャストが頑張った。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
物語は詐欺師・金村を後輩の詐欺師・チーム中村が詐欺るお話。
チーム中村のリーダー役の藤川ありさのキャラクターが観客に受け入れられ難いと感じる。彼女の鼻っ柱の強さは演技なのだけれど、独特の話し方のニュアンスや表情にケンがあるのだ。観客が役を超えてこういったキャラクターに嫌悪感を感じてしまったらひじょうにマズイ。素直にそう思った。
今回は女性キャストと男性キャストの演技力やインパクトに差がありすぎた。男性キャストが実にいい。特に荒木太朗の軽さはコメディとしては上質さを感じ、金村を演じた正木の情けなさも素敵だった。佐藤の目での演技力も、また井上のコミカルなホテルマンとしての怪しさも充分に楽しめた。
一方で深川の演技力がイマイチ。まだ新人なのだろうか?
ストーリー性にもうちょっとミステリーを加味させたなら次回の公演は期待出来ると感じた。
『最期の○○と、それからのこと。』
劇団わらく
中野スタジオあくとれ(東京都)
2011/06/01 (水) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★★
バリコメディ!
確かに序盤のシーンは「リア王」のパロディだ。しかし、長女と次女に国を譲ったのち2人に事実上追い出されたリア王が、末娘の力を借りて2人と戦うも敗れる。というリア王の荒筋からは大きく違っているので、3人の娘に愛情試験を課すところまでがパロディだろうか。今回の衣装は巫女役の小島がチクチク縫って仕上げたらしく、手作りの温かみが感じられた。この劇団はソワレ観劇後、必ず会場で飲み会があるので参加されると楽しい。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
序盤、三人娘が登場するシーンの演出が素敵だ。これで完璧にヤラレテ、にやり・・と。
三人娘のそれぞれの表情もいい。りさ、りか、りなの相反する性格もその演技力で魅せる。この時点で三人のリアクション力がなかったらこの芝居はまったく、無力なのだが、りか役の末森が特にコミカルさを如実に表現しくすり・・と笑う。
りさとりかの親を親とも思わない強欲さの表現はむしろ滑稽なほどで、末娘のりなに至ってはお父様想いな反面、結果的に父の骨を黒ダイヤにしてしまうのだから、これはもうコメディとしかいいようのない光景だ。
更に父親の亡霊が金魚蜂のようなワイングラスを片手に裕次郎ばりにガウン姿で登場し、「わしはワイングラスが好きなのじゃなくて中のワインが好きなんじゃ。」とのセリフには、確かにそうだ!と笑えたし面白かった。しかしながら、この場面はあまりにも緩すぎて昭和のコントを見ているような古さがあった。昭和のテキストが悪いと言ってるのではない。しかしながら今までの舞台上で演じられた空気が一掃されシュールどころか、ただのベタなコントになりかねない。ここは荘厳あらたかに父親が雷鳴を響かせながら登場するくらいのお茶目さが欲しかった。笑
それでもバカバカしい展開とキャストらの表情に仰け反って充分、笑ったし、楽しかったのだ。わらくは不条理劇の得意な劇団と勝手に考えていたので意表をつかれて面食らった。笑
序盤、三人娘が登場するシーンの演出が素敵だ。これで完璧にヤラレテ、にやり・・と。
三人娘のそれぞれの表情もいい。りさ、りか、りなの相反する性格もその演技力で魅せる。この時点で三人のリアクション力がなかったらこの芝居はまったく、無力なのだが、りか役の末森が特にコミカルさを如実に表現しくすり・・と笑う。
りさとりかの親を親とも思わない強欲さの表現はむしろ滑稽なほどで、末娘のりなに至ってはお父様想いな反面、結果的に父の骨を黒ダイヤにしてしまうのだから、これはもうコメディとしかいいようのない光景だ。
更に父親の亡霊が金魚蜂のようなワイングラスを片手に裕次郎ばりにガウン姿で登場し、「わしはワイングラスが好きなのじゃなくて中のワインが好きなんじゃ。」とのセリフには、確かにそうだ!と笑えたし面白かった。しかしながら、この場面はあまりにも緩すぎて昭和のコントを見ているような古さがあった。昭和のテキストが悪いと言ってるのではない。しかしながら今までの舞台上で演じられた空気が一掃されシュールどころか、ただのベタなコントになりかねない。ここは荘厳あらたかに父親が雷鳴を響かせながら登場するくらいのお茶目さが欲しかった。笑
それでもバカバカしい展開とキャストらの表情に仰け反って充分、笑ったし、楽しかったのだ。わらくは不条理劇の得意な劇団と勝手に考えていたので意表をつかれて面食らった。笑
untitled
shelf
atelier SENTIO(東京都)
2011/06/02 (木) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★
挑戦的試み
まずワタクシには解り辛かった。さまざまなテキストから抽出しそれを断片的に繋げて一つの作品に構成したものだったから、全ての本を読んでるならば容易に解釈出来たのだろうが・・。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
引用文献として「FOCUS]、「小さき者へ」有馬武郎著、「小さなエイヨルフ」イプセン著、「しあわせな日々」「ロッカバイ」サミュエル・ペケット著、「欲望という名の電車」ウィリアムス著だったが、これらの著書の一部分をキャストらのセリフで吐かせ、静寂なうちにスローモーションで動かせる、という演出方法だった。
「FOCUS]ではまさに原発のネタだったし、「小さき者へ」では、お前達の父なる私が未来の君達に向けて吐くセリフが神がかりだったし、「小さなエイヨルフ」でも前公演を彷彿とさせる記憶の蘇りもあった。
しかしながら、それらはほんの断片に過ぎず、こちらの感性に訴える何かが不足していた。今回の舞台は演出家・矢野の言う「素直に今の想いをかたちにしたい結果の積み重ね」らしい。しかしそれらはあくまでも演出家のしたいこと、見せたいことであって、観客が観たいものなのだろうか?
演劇の基本に戻って考えたとき、やはり観劇後、観客に満足感がなかったなら、それはただの自己表現のみの場となってしまう。個人的に矢野の演出は高く買っているが、今回の舞台に関しては理解の範疇を超えていたのだった。つまり、ワタクシには短編集の名ゼリフの羅列としか見えなかった。断片の繋がりは身体表現でカバーしていた。
初心者向きではない。
ともしび
劇団芝居屋
ザ・ポケット(東京都)
2011/05/31 (火) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★★
解りやすい人情劇
劇団芝居屋の舞台は相変わらずベタで昔気質の芝居だ。舞台上で繰り広げられるキャストらの演技は自然ではなく大げさでわざとらしい感は否めないが、これが芝居屋の特徴だ。舞台ではラーメンを啜ってる場面で客席も啜り泣きが・・。
その情景は客席でもラーメンを食べてるかのようだった。笑
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
父との確執があった長男の一郎は父の葬儀の為に十数年ぶりに故郷に帰ってくる。そこで生前の父親が開業していたラーメン屋の状況と理由を知ることになる。更に父が心に秘めていた一郎に対する想いも同時に知る。ラーメンを通じて知りえた親子の人情劇。
田中一郎を演じた足達祐紀の演技が実に素敵だ。彼は2年前の「約束」にも出演されていたが、ここでの演技力は今でも心に残っている。劇団芝居屋の公演の中では今でも「約束」が最高傑作と思っている一人だが、今回も命を取り上げた題材で親子の絆としての表現は絶品だったと思う。
コメディ的な要素も加味され終盤ではほろり・・とし、素敵な喜びの時間だった。個人的にはもうちょっと自然体でも良かったような気がするのだが、観て良かったと思う。
おまんじゅう
多少婦人
OFF OFFシアター(東京都)
2011/06/02 (木) ~ 2011/06/06 (月)公演終了
満足度★★★
こういう仕上がりなら
特におまんじゅうに拘らなくても良かったような気がするオムニバス4編。個人的には「蛮頭村殺人事件」が好み。こちらのインパクトが強すぎて、むしろ他の3篇が小粒に感じてしまう。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
1・蛮頭村殺人事件ではキャストらの所作がいちいち面白かった。そうして音響と共に冴え渡る演出もgood!
どうでもいいような推理の探偵、探偵よりも推理力の確かな小林、更にインパクトありすぎる刑事、それらが絶妙に絡んで物語を最大限に面白くしていた。それに加味して地主の道明寺の表情があまりにも素敵!ホラーコメディ。
2・平和の代償は誰が払うか
会社でおしゃべりが激しい女子社員を黙らせる為にみかんは他の社員と画策を練るも、計画通りにいかず、更に煩くなる。笑
3・つつむ
まんじゅう星人はだれか?を巡って新たなる人間関係が露出され、終盤では萩にいじられまんじゅう星人がバレてしまう。
4・具と皮で出来ている
まんじゅう屋に勤務する人間関係を描いた物語。
物語の間に刑事(石井千里)との絡みコネタを披露するが、これが意外に面白い。むしろこちらのコントネタがなかなかの大粒で好みだった。次回はこの刑事を主軸に物語を作って欲しいほど。刑事役の石井が実に可愛い!
帝国
劇26.25団
ギャラリーLE DECO(東京都)
2011/06/01 (水) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★★
シュールコメディ
大爆笑はない。むしろ、失笑!とか苦笑!とかの類。物語はミステリーを装いながらもどこかヨーロッパ的なセンスがある。
フランスやイタリアの美術館へ行くと小学校低学年の生徒らがゴッホやピカソの絵画を床に座り込んで模倣している姿をよく見かけるが、これは授業の一環だ。つまり幼少の頃から名画をしょっちゅう観て模倣して育つ。そういった環境で育った生徒らが将来の画家になるのである。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
今回のお話は贋作画家のお話だ。
画家・伴五歩は二人の娘を残して海に投身自殺した。しかし娘らは父が何者かに殺されたのではないかと疑う。これをきっかけに父の遺品の絵画をオークションにかけることを思いつく。
一方、伴五歩に贋作を書かせて本物だと売りさばき私服を肥やしていた我忘市の市長とその配下は、自分達の裸婦画が世に出るのを恐れ、裸婦画を巡って画策を練る。
高尚な絵画にこじつけた裸婦画を描く会、パンパデュールと称した高級裸婦画クラブでの実態も表現しながら物語をミステリー仕立てにしていた。登場人物のそれぞれのキャラクターの立ち上がりが個性的で実に面白い。
やはり極めつけはドミンゴ(裸婦画コレクター)こと長尾長幸のぶっ飛んだキャラクターだ。最初、オカマかと思ったが、なんとなく同性愛者っぽいキャラ立てだ。彼自身も裸婦画のモデルになれそうだ。序盤に撒いた伏線をきっちり回収し終盤ははじまりの再現で〆る。
ワタクシの観た回は少々キャストらがアガッテいたのか噛みが目立ったが、それでも全体的に夜の遊園地みたいなワクワク感で楽しめた。
メガネ夫妻のイスタンブール旅行記
城山羊の会
こまばアゴラ劇場(東京都)
2011/05/21 (土) ~ 2011/05/31 (火)公演終了
満足度★★
説明の内容とは全く違う
意外に低俗。
まず制作の対応が悪い。時間の都合上、途中退場するかも知れないと伝えたら、途中退場は入口を塞いでしまう為出来ないから3階で観ろという。そもそも上演時間1時間45分で開演時間を守ってくれるなら途中退場はしなくて済むのだが、遅れてくる観客の為に、開演時間を遅らすというのだ。つまり時間を守って早めに来た観客よりも遅れてくる観客を優先するという姿勢が問題だ。更に暴風雨の為、観客の入りはそこそこだったが、後部座席に空席があるにも関わらずスタッフが客席通路に椅子を設置し自分たちがそこに座って通路をを塞いでしまうという小屋の安全性を無視していた。
むしろスタッフが3階で観るべきだし、万が一、公演中に体調が悪くなった観客の誘導に時間がかかるのではないか?とも思う。後日、オリザ氏に直接申告はするが・・。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
内容は説明とは全く違う。およそ吉岡妻の不倫劇といっても過言ではないほど、妻・晶子のモラルのなさが露呈する。愛猫が死んだことをきっかけに次々と晶子の好色さも強調される。好色な性の相手はなにも男だけではない。大家のトキコの慰めにも喜びの声をあげてしまうほどだ。笑
そのうち、お隣さんの主・一郎とも不倫していた事実が明らかになる。つまりは晶子に全ての関係者が振り回される結末だが、いったいこの物語はどんな終わり方をするのだろうかと観ていると、晶子の差し出したワインを飲んだ一郎があっさりと死んでしまう。
なんじゃ、そりゃあ~!!みたいな内容だが、元々、大した内容はない芝居だ。コメディだと思って観れば支払ったチケット代は諦めもつくが、内容のある芝居を期待したなら、チケット代は溝に捨てたようなものだ。
吉岡夫の声がぼそぼそと聞取り難い。全体的に緩いコメディ色の強い作品だが好みは完璧に割れると思う。ワタクシは劇団チョコレートを観た後に観劇したのでレベルの差に唖然!として芸術作品とは思えなかった。むしろTV番組をみたような気分。全体的にバカバカしい。
『十二人の怒れる男』/『裁きの日』
劇団チョコレートケーキ
ギャラリーLE DECO(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/06/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
『裁きの日』重厚にして濃密
素晴らしい舞台だった。密室での会話劇。こういった会話劇にはキャストらの秀逸な演技力も要求される。それに応え熱演。そして本も素敵だ。裁判員制度に関しては様々な論議があったが、制度が決まる前は容認的な声が多かったものの、決まってからは何故か否認の意見が多かったのも事実だ。
今回の舞台は社会全体の秩序に視点を置く裁判長、裁判官らと、加害者個人に視点を置く裁判員らの争点の違いが山場で見応えがあった。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
序盤、裁判長と堀田裁判官の二人が加害者に対して既に「死刑」と結論付けており、裁判員達を妥当な結論に導く為に、誘導しようという思惑の密談から始る。
そんな思惑に気付かない裁判員たちは定番通りに加害者に殺意があったかどうかを議論する。こういった論議で参加者を支配してしまうのは発言力の強いものと、説得力のある者だと相場は決まっているが、ここでは意外にもフリーターのような格好の見た目軽そうな裁判員・水野(西尾友樹)の言葉が冴え渡る。この設定は想定外だったので度肝を抜かれたが、こういった手法も古川の上手いところだ。
しかし、元々人間というやつは弱い生き物だ。そんな人間が人様の生き死に関して裁く立場になるというのは、物凄い重圧と負担がかかる。その上、「死刑」と決まってしまったならば間接的に人殺しになる訳だ。一生、罪の意識に苛まれる。そういった感情に負けてしまう裁判員も当然いるのだが、「その感情に支配されてはいけない。」と裁判長は法の論理を説明する。そしてかつて「死刑判決」を下した過去の記憶も話す。
その内容は、死刑囚が死と向かい合ってその罪の重さを考え続け悔い改めた数年間と、被害者遺族にとっては、その判決が一条の光となった経緯などだ。
ここでの登場人物全員を善良な人として終わらせているのは古川の優しい性格からだろう。
判決に正しいか間違っているかなどない。裁くのも裁かれるのも人間だ。しかし社会の秩序を考えたときにその法は生きるが、個人の更正を考えたときに死刑判決は更正のしようがない。
裏窓
スポンジ
OFF OFFシアター(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
紀子役の菊地春美が頑張る
相変わらずリアルな舞台セットが素晴らしい。そうして毎回のことながらキャストらの熱演だ。この物語りでキャストらの熱演がなかったら実に痛々しい舞台なのだ。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
兄が経営するバイク屋を手伝う弟。その弟・猛が超能力者だ。しかしどうやらスプーン曲げしか出来ないらしい。これを超能力というのかどうかは疑問だが、個人的には超能力とは予知能力があるとか瞬間移動するとか、そういった類のものだと勘違いしていた。笑
その果てしなくどうでもいいような超能力を持った猛は自らの能力を誇示すべくTV出演をする。しかし世の中というのは自分の目で確認できないものは信じない、という輩が多い中、案の定、猛は世の中から好奇の目で見られてしまう。
数年後、今度は映画出演が決まったが、彼の妻・紀子は普通の暮らしを望む。どちらかというと紀子の考えの方が常識的だろうとは思う。もし、ワタクシが人間を超越した能力の持ち主だったなら、そんな力は微塵も出さず、隠し通して普通の人間を装うだろう。実際、眼の前で超能力を見たことも、またそういった力もないから本当の事は解らないが超能力者が一般人と共に暮らすことがどんなにストレスかは想像できる。
そんな紀子と猛の考え方の相違から紀子は猛にビンタを張られるが、これが本気で殴っていたのに、ワタクシ、唖然・・。
当然のことながら紀子の左頬は指の跡がくっきりと赤く染められて耳までも赤くなっていた。役者って凄いな・・と改めて思う。これを公演ごとに経験するわけだ。
物語に結果はない。超能力を持った人間と、それに振り回される家族の物語。それだけだ。前作の「美しい手」でもそうだったが中村の描く世界感はどうでもいいような事柄から、人が生きる過程での胡散臭さの取り上げ方が上手い。そういった人間同士の危険性を内包した舞台だった。素晴らしいと思う。
『欲しけりゃくれてやる』
天才劇団バカバッカ
劇場MOMO(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★★
緩さの中に涙あり
超満員御礼で3階席も満席になり立ち見も出るという前代未聞の観客導入数!素晴らしいですね。
天才劇団バカバッカの看板俳優といっても言い過ぎではない木村昴が今回もぶっ飛ばす。毎回の事ながらこいつの喉はどうなってるんだろうか?と驚く。舞台上で途切れのないセリフを吐きまくり、テンションは高いまま。笑
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
舞台は次男が自宅を抵当にして借金をしたまま失踪してしまったことから始る騒動劇。地上げ屋と行政の立ち退き攻勢にあいながらも自分達の家族と家を守ろうとする家族の物語だったが、俗に言う地上げ屋がバカっぽく人情味溢れ、行政が極悪人のような設定は面白い。
また物語は直線的には進まず、フラッシュバックとして現在と過去を行き来しながら展開する。時間軸の交錯だ。それを解りやすく観客の正面に映像として時計で表現する。これは良いアイデアだ。母が白髪のままで幼児期の光子を演じたのは度肝を抜いたが、コメディなら、それもありなのかも知れない。
中盤、長男・雄大と幼馴染の2人の3人の場面で不自然な場面があったがキャストがセリフを忘れたのだろうか?こういうときベテランならアドリブで突っ込み、笑いをとるが、経験の浅い若い劇団員では、観客を騙す演技は身に付けてないようだった。
更に舞台上でなんら必要もないカメラマンと編集者の存在が気になったが、物語をすっきりさせるにはこういったそぎ落としも必要だと思う。1時間30分の公演にまとめた方がベストだと感じた。
それでも充分、楽しく拝見させて頂いた。終盤ではホロリ・・とさせられ落涙した。いい舞台だと思う。
又聞きの思い出
ワンツーワークス
ザ・ポケット(東京都)
2011/05/19 (木) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★★
家族の確執
物語をウルフ家の長女がナレーターとして進行させる。家族の歴史を時間軸を交錯させながら展開させるが、手法としては新しくない。物語りもしごく解り易くベタだ。最近、特に思うことだがベテランの俳優も小劇場の著名な役者も演技力に殆ど差はない。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
ウルフ家の家計を継ぐと期待されて育った長男エディ。しかし彼は両親の期待の重圧に耐え切れなくなる。一度は自分の夢の為にカリフォルニアへ行くも父親の破産で実家に舞い戻ってくる。
その影でウルフ家の長女・アルマは女として生まれたことが、男の子を欲しがっていた父親の失望の的となってしまう。感受性が強く敏感なアルマは両親からの愛情を受けずに育ち、結果、本当の愛を求めて男から男を渡り歩くふしだらな女と化身してしまう。彼女がここでのナレーターだ。
やがて父親は長男・エディに執着し家計を継ぐことを強要し、一方でアルマの奔放さを嫌い突き放す。妻の居る身の、エディの忘れられない恋と、父親の不倫相手への想いを血の継承のごとく描写しながら結局薬局、ここに登場する男は全て妻よりも他の女を好きだという。笑
男の性なのか、どちらの妻もそういった夫の告白に傷つき、絶望し耐えるのである。身ごもっているエディの妻は、哀れ生まれ来る子供と一緒に捨てられる運命にあるのだが、こういった筋書きもやはり1950年代という古い時代の象徴なのだとも思う。
結局、両親の期待を裏切りエディは父親の現金を盗みカリフォルニアへ飛んでしまう。家族の愛憎劇。
キャストらの演技力はそれなり。ワタクシはいつも演技力の面に於いて好きな小劇団の役者と比較してしまうが、今回のキャストらは彼らと比較しても同等かそれ以下。演出のレベルも特に際立ったところはなかった。
ビタースイート
studio salt
Space早稲田(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★★
相変わらずの麻生0児の演技
やはり最終章に「もろきゅう」を持ってきたのは演出家の思惑通りだろうと思う。この「もろきゅう」で観客は「ああ~、面白かった!」と言う筈だ。
以下はネタばれOXにて。。
ネタバレBOX
『パーフェクト・ワールド』
お隣の北朝鮮をもじった風刺ネタ。兄と妹の井の中の蛙状態の情景と鈴木一朗(入国審査官)の大きな隔たりのある世界感が絶妙だった。コメディ。
『金柑』
鈴木一朗の実父・一が入院している寿会館での親子の会話を描いた作品。二人の間には父の行動に起因した親子の確執があった。しかし会話の中でそれらの過去の膿は少しずつ流れ浄化してゆくさまを表現する。温かみのある作品だ。
『半熟卵』
なぜか女に振られてしまう俺は、職場に入社した半分の顔に欠点を持つ女を好きになる。勿論、この女を誰も口説く奴なんかはいない。俺は一大決心しコクる。しかし「私、彼氏がいるの」とあっけなく断られてしまう。想定外だ。俺はこの女のレベル以下なのか・・。とことんフラレル俺の恋愛感情を描いた作品。コメディ。
『もろきゅう』
放射能の汚染地域に住み続ける男・山下(麻生0児)にTVディレクターと寿会館でボランティア活動をする黒田が取材に訪れる。放射能汚染を気にする二人は防護服を着用して取材するも、能天気な山下はTシャツ姿できゅうりを育て悠々自適に暮らす。その対照的なさまを滑稽に描く。無知ほど恐いものはない、という風刺コメディ。これが一番ウケタ。麻生0児は、こういった役柄が実に良く似合う。笑
スタジオソルトの素晴らしいところは、その筋にあった役者を揃えるところだ。だから年齢相応のキャストの吐くセリフに違和感がなくマッチする。どの物語も上手く仕上げてたと思う。
関ヶ原でダンス
劇団6番シード
吉祥寺シアター(東京都)
2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★★
じたばた!
終わってみると完璧、ナンセンスコメディだ。
今回は吉祥寺シアターという箱の大きさの関係上、座席は中央から後部座席のほうが全体をバランスよく観られるのでお勧めだ。全体的に眺めると舞台セット、衣装、音響など時代劇に相応しい情景の中、役者らの動きが実にコミカルで、その動きも計算されたものだとつくづく感じる。特に七寸五分堅物の小沢の動きがコメディなのだ。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
序盤、闇の中で壮大な音響が流れ、観客を時代に誘う始まりは充分だった。こういった観客の感情を暖める仕掛けは絶妙だ。
物語は合戦が始る前の関が原での百姓、武士らの情景を綴ったものだが、どいつもこいつも戦う前から腰が引けていて敵か味方かを分別出来ない。という愚痴会話から始る。笑
関が原まで来たものの戦はいやじゃ、と尻込みする百姓どもがあまりにも滑稽だ。そこに更に弱腰の七寸五分堅物がオドオドと登場し、コイツも戦が始る前からジタバタと可哀想なくらい臆病で弱虫な態度をみせつける。笑
その心を身体で表現する小沢のオロオロっぷりが素敵だ。妻子を人質にしても自分だけは助かりたいという、しごく解りやすい超自己愛の塊だ。笑
そんな虫のように弱い男らの中で徳ばぁだけが実に勇敢で潔いのだ。演じたのは宇田川美樹。彼女の演技があまりにも秀逸で清々しい。ワタクシが観た宇田川の演技の中でも群を抜く素晴らしさだ。ずっと観てきた役者が演技で実力を発揮した時ほど、嬉しいものはない。この感情はきっと見続けてきた者にしか解らない至福感だ。
舞台は終盤までジタバタし情けない情景を全うしながら、人間同士が小さな小競り合いを繰り返す。どの世も人間なんてそんなもんだ。結局薬局、雨乞いの踊りも空しく空は晴れ渡り合戦は始ってしまうようだが、徳ばぁの死によって少しずつ勇気を取り戻した百姓どもが、いざ合戦に向けて挑む。
要は滑稽なナンセンスコメディだ。
らん -2011New version!!-
秦組
前進座劇場(東京都)
2011/05/22 (日) ~ 2011/05/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
素晴らしい殺陣シーン
演出、舞台セット、照明、音響、衣装、全てに於いて大満足な舞台だった。特に序盤の舞台全体の演出はお見事だ。これから始る舞台の質の高さを容易に想像出来るシーンだ。そして一番の見せ場は殺陣シーンだが、この場面で矢島が頑張る。流石はJAEの横山の指導だけはあるのだ!しかし、全体的な矢島の演技がまずい。これは舞台上の彼女のキャラクターもそれを後押ししてしまうのだが、もうちょっと違ったキャラクターならば演技力をカバーできたのに・・と残念に思う。しかしながら、きっと、矢島のファンはこういったキャラが好みなのかもしれないが・・。
本日、根本が舞台上で倒れるというアクシデントがあったが、
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
その部分を関係者に追求すると、「その質問には答えられない」という。演出ならば「演出です」と胸を張って答えるだろうから、つまりはアクシデントだ。これをスタッフ全員で隠していたので、隠せば隠すほど、刑事のように根性むき出しにして詮索してしまうのが人間だ。つまり一般の観客に聞き込んだのだが(セールスも出来るな・・笑)なんと3日間も通いつめてる矢島のファンは昨日と違ったという。なるほど・・。笑
どうやら殺陣の場面で赤の谷の住人と接触し、プチ失神したらしいのだ。そういえば、舞台上でキャストらがボソボソ話してたのを聞いた。(割と前の方の席)「キャー!!根本!!~(^0^)」なんて悲鳴はあげなかったが、直ぐに復活した・・。
物語は、貧しい村の百姓らが厳しい年貢の取立てを行う殿様に陳情にいくも、むげにされた挙句、2人の百姓を殺してしまう。立ち上がった百姓に加勢した赤の谷の輩だったが、その中に村を守るという救世士がいた。彼女の名を「らん」という。らんと共に戦った赤の谷の輩は村人たちの業によって村人らに裏切られてしまう。しかし裏切られても「らん」は好きな村人・正太郎の為に自らを犠牲にするという究極の悲哀ものだ。
終盤に村の新長役を演じた丸尾の吐くセリフに胸を打たれ泣く。いつの世も一途な愛ほど美しいものはない。
今回の殺陣シーンで魅せたのは月影こと杉本有美だ。凛とした美しさの中に闘志を燃やして戦う、真っ直ぐな目がいい。そしてハコベこと滝佳保子のド迫力極まる刀捌きが素敵だ。この紅2点が舞台を引き締める。
勿論、他のキャストも決して手を抜いていない。だからこそ舞台上であれだけの殺陣を見せられるのだ。勿論、中村と根本も飛んだり跳ねたりと殺陣で暴れまくる。
正直申し上げて、これほど魅せてくれるとは思ってなかっただけに大満足な舞台だった。何度も言うが矢島に演技力があったなら末恐ろしい女優になる。
鬼泪~KIRUI~
カプセル兵団
アイピット目白(東京都)
2011/05/19 (木) ~ 2011/05/22 (日)公演終了
満足度★★★
アクシデント
序盤、役者らの滑舌が悪く、何を言っているのか聞き取れなかった。無駄に怒鳴るセリフが多く、内心「失敗したな・・。」なんて観に来たことを悔やんだのだ。しかし、観ているうちに役者らの発音に耳が慣れて、ようやく流れを掴むことが出来た。こんな理由からこの劇団を初見の観客と常連の観客とでは芝居の流れや役者のキャラクター、怒鳴り声を受け入れるまでに時間差があるのだと思う。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
物語は語りべの男と一体の鬼が化け物退治の旅で関わるはめになった陰陽師や言霊師、もののけ、魔界の鬼の王らとの合戦模様。
今回の出色は北出浩二だ。彼は客演らしいが、芝居中に倒れるシーンでおもいっきり口内を切ったらしく、口から本物の流血シーンを見せていた。本来なら「気の毒に・・」とか「大丈夫か?」などと観客も心配するのが普通だろうが、場面が場面だけになんだか可笑しくて笑ってしまった。ようするに他人にそういった心情をさせないキャラクターの持ち主なのだ。今、思えばその流血シーンが最大の笑いどころだったような気がする。
また役者らが頻繁にアドリブ攻撃していて、それに慣れないキャストらはちょっとした失神状態だった。笑
滑舌が良く聞き取り易かったのは吉久だ。舞台中でマメに今の状況を言葉で説明していたが、これをバック映像で流すなど工夫したらもっと解り易かったように思う。
次のシーンへの場面展開は絶妙だった。舞台上でのスピードがとにかく速い。暗転につぐ暗転の連打で怒涛に押し寄せる波のようだった。魔界の王が復活するシーンは「風の谷のナウシカ」に登場する巨神兵を真似したようで、それなりに想像させる演技力は持ち合わせているようだったが、観劇後、とにかく疲れた。
この疲れはなんなんだろうと考えているうちにUPが遅くなってしまったが、たぶん、ハイスピードな展開と、殆どないに等しい間、そして早台詞なのかと今更ながらに感じる。