ダンシング・ヴァニティ 公演情報 ピーチャム・カンパニー「ダンシング・ヴァニティ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    凄まじく刺激的
    「場面反復」の超実験的小説、筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』をピーチャム風にアレンジするといったいどんな情景になるのだろうか、とワクワクしながら劇場入りした。ここの舞台はとにかく狭い。だからこの壮大なる回想劇のセットも見ものだった。結果、ちょっとしたワンダーランド的な夢物語になったのではなかろうか。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    主人公の美術評論家は定説に異を唱える浮世絵論を発表してベストセラーとなり、娘とめいはコンビを組んでクラブの人気歌手となる。妻は神経症のため頭を左右に振る。この一家の物語だが、時間はまっすぐ流れず、ひとつの場面が何度も反復され、そのたびに少しずつストーリーがズレながら進んでゆく。主人公は時空を超えて江戸時代や戦時中と往還する。早世した息子や亡父、コロス(劇の合唱隊)や歌舞伎の登場人物も「現実」に乱入する。なんとも奇妙でパラレルワールドな展開だ。コロスはギリシャ劇でよく登場するので御馴染みな場面だ。

    この小説の繰り返しは語り手(おれ)の臨終の床で回想される記憶ということであり、その瀕死時の走馬燈が廻るような記憶の繰り返しそのものが言語化されているということになる。

    これらは本当にあったことなのか、現実に記憶をつけ加えたものなのか、妄想なのか、夢の中の出来事だったのか、または反復そのものが実際にあったことなのかも解らない。人間の記憶の断片は部分的に強調されたり、省略されたり、回想するうちに歪曲されていくものだけれど、失敗も含めて通過してきたことで現在の自分がある。終盤にどの道を通っても完成された死はない、と主人公は知るのだ。

    ここで白い顔のフクロウの存在だが、常に「おれ」を冷静に見ているこの者は何かの象徴なのだろうけれど、もう一人の「おれ」なのかもしれない。

    これだけの膨大でスピーディーなセリフを覚えたキャストらにまったくもって感服する。一番面白かったのは「ねずみ捕り」の場面だ。八重柏が演じる鼠はなんだかチーズを片手にカジカジ喰らってるような小悪党っぽい鼠でとにかく楽しい。強いて言うならセリフを吐くのが必死な役者が居て表情に悲壮感が漂っていた。それと手作りのお面やゴムパンチのシーンは学芸会風でなんとも頂けなかった。
    2時間20分の長丁場の中、何度も繰り返される同じシーンを飽きずに観られると楽しめる舞台だ。

    0

    2011/06/11 12:40

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大