ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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佐世保バーガーズ

佐世保バーガーズ

東京パイクリート

劇場MOMO(東京都)

2013/07/03 (水) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★

何が言いたいの? この作品で
 シナリオは、何を最も訴えたかったのか? その辺りの詰めが甘い。役者陣は結構頑張っていたし、力もあると思うのだが、シナリオ創作の基本中の基本が、弱いのではどうにもなるまい。セットはきちんと作り込んであるし、演技も悪くない、というレベルで観客に満足感を与えられないのは、この辺りのことが原因だろう。脚本家は、もっと訴求力のあるシナリオを書いて欲しい。

失われつつある物語

失われつつある物語

Minami Produce

ギャラリーLE DECO(東京都)

2013/07/02 (火) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

知的体操
 さて、物語の生まれる場所と其処で生きる創作者、そして創作者の創作の庭でのお話。今回ネタバレには、余り、ネタ的なことは書いていない。他にその手のことは、書く人がたくさんいるだろうからである。

ネタバレBOX

 物語に大小をつけて考えているこの作家が、実際、どんな物語を大きな物語と呼び、どんなタイプの物語をそうでない物語と規定しているのか、この作品だけを観て決める訳にはゆかない。然し、仮にドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」のような作品を大きな物語、と考えているのであれば、それは、作家個人の資質にも由るようには思う。無論、作家を育てた、文化、社会との位置関係、時代と地域特性、及び作家の独自体験にも関わるであろう。何より、単に、知的データベースから、プロットの展開に合う物や要素を適当に見つくろって継ぎ接ぎすれば足りる、と考える人々は、無論、時空を画するような偉大な作品を決して生むことはできないであろうし、当に群小の作品しか生み出すことなどできないであろうから、小さな作品しか産めない、という言い方はできるだろう。然し、それが、時代や地域だけのせいであるとも思わないのである。大きな物語を産むことができる資質については、企業秘密であるから明かさない。個々、自分の頭で考えて欲しい。
 とはいえ、このように色々なことを考えさせる面白い作品であった。
私と彼氏とその彼女

私と彼氏とその彼女

演劇ユニット キャッチ.コム

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2013/06/28 (金) ~ 2013/06/30 (日)公演終了

満足度★★★

誰もが通った道
 高校生男女それぞれの仲良しトリオを巡る学園物。学内隠れ家は秘密の場所、進学と恋、校則とグータラ欲求、教師とのやり取り、友情と恋、三角関係と裏切りの末の友情破綻等々。

ネタバレBOX

 殊に、他人の彼を取ってしまったことで女同志の友情は非難のうちに壊れ、前カレ、前カノの関係は破れて三角関係はあっさり崩れたものの、奪った者もまた、雨の中を独り、ずぶ濡れになって家に帰り、生まれて初めて、何故、雨がシトシト降るという表現なのかを実感する辺り、思春期の柔らかい感性を描いてグー。翌日、彼女は学校を休む。彼から電話が入る。「大丈夫?」彼女は彼の傷心も思い遣って応える「大丈夫」。思えば、彼女が、隠れ家の壁に凭れて泣いていた時、偶然、通りかかった彼が「泣いてたの?」「ううん、泣いてないよ」「そうか、泣いてたように見えたから」彼はそう言うと一旦、隠れ家を離れかけた。戻ってくるとカルピスを持っていて泣いたことは知らんぷりをしてくれて「飲めよ」って置いていってくれた。彼女は2つのことがハッキリした。一つは、生ぬるいカルピスっておいしくないっていうこと、もう一つは、彼女は彼を愛してる、ということだった。
 別のシーンで、彼女は、かつて自分が住んでいた場所に来ている。彼も一緒だ。彼女は、総ての経験をここで初めてしてきた。初めて転んだこと、初めて泣いたこと、初めてブランコに乗ったこと等々、かつてその場所にあった遊具を一つ一つ指さしながら、小さい頃からの自分の様子、団地の前にあった公園のこと、何の約束もしなくても近所の子供達は、皆、この公園に集まってきて遊んだこと、夕ご飯が出来ると、お母さんが、子供の名を呼ぶ。「ご飯ができたわよ」の掛け声と共に。それで子供たちは、家に帰る。こんな経験を全部、ここで初めてしてきた、とファーストキス。
 この辺りの抒情性にこの舞台の真骨頂がある。感情の瑞々しい高校時代、誰もが通ってきた道を、その瑞々しさのまま描いた。
Over The Line

Over The Line

EgofiLter

シアター711(東京都)

2013/06/26 (水) ~ 2013/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

よくぞここまで
 とても大切な問題を、深い所から良く舞台化している。弱者切り捨てが大手を振ってまかり通る時代になった現在、戦中、戦後の弱者の位置、意地、連帯をその屈折を含めて描き得た視点と払ったであろう多大な努力に敬意を表する。

ネタバレBOX

比嘉 東児は、ちくの兄、東京大学で薬学を専攻している。戦争中、女子挺身隊として徴用され終戦後数年を経て戻らぬ妹は亡くなったと思い、彼女の大好きであった坂口 安吾の書生になることを決意し彼を訊ねる。然し、安吾は、シャブなどの乱用で病院から退院したばかりで薬無しでは自分の思うようなものが書けないと感じており、不調を嘆いていて中々会ってもくれない。だが、ちくは、安吾の同人誌仲間であった沖縄の小説家志望の青年、安里 普栄の内縁の妻だった関係で、安里からの紹介状を持参していた。安吾の担当編集者の仲立ちもあり、安吾の書生になるが、安吾の妻は、安吾の文学の優れた読者とは言えぬ凡夫、それに引き換え、洲崎の女給をしている“あげは”は、安吾自身が認める最良の読者であった。その為、体の調子がずっと悪いあげはの下によく通い、妻、三千代の嫉妬を買っている。
 安吾が、東児を初めて書生として認めた日、彼は東児をあげはのいる“大河”へ連れて行って飲ませる。無論、無頼派だからということもあろうし、酒も殆どやらない東児をからかう意味もあったであろう。この夜、東児はしたたか酔い、あげはから渡されたシャブを打って意識が飛んでしまった。その間に、かつては洲崎で一、二を争う大店であった大河に売られた娘と共に来ていた女衒を刺し、この店に匿われていた指名手配犯を調査していた刑事が、2階で起こった騒動を聞きつけて駆けつけた所、彼をも刺してしまった。女衒は、命を落とした。然し、大河の女給、鳥枝がぞっこんとなり、東児の面倒を生涯みる、と言い出すに至って、皆で東児を庇い、匿うことになった。匿っている人物は既にいた。女給仲間と番頭を殺した、として指名手配されている朱美である。
 何れにせよ、遺体は始末しなければならない。そこで、遺体を骨まで砕く解体作業が為される。刑事はまだ死んでいなかったが、逃すわけにもゆかないので、捉えたままにしてある。
上演中故、ネタバレは此処まで、あとは、実際の舞台を観て欲しい。ハンダラ的には必見の舞台だ。
『うそつき』/『屋上庭園』/『千両みかん』

『うそつき』/『屋上庭園』/『千両みかん』

アマヤドリ

スタジオ空洞(東京都)

2013/06/26 (水) ~ 2013/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

うそつきを拝見
 実に微妙な戦争状態の中での他所者対仲間、男と女、事実と嘘、混み入った関係の中でのファクトの証明の不可能性等々、頗るデリケートな問題群を敢えて俎上に載せ、舞台化した意欲作。知的で繊細、而も、演出、役者の技量を露骨に問うような緊迫した舞台で、流石、本家の貫録を見せた作品作りであった。この舞台成功の秘訣は、精巧に作られたパズルのようなシナリオの本質を過つ所なく捉え、観客に納得のゆく形にして観せた辺り、作品解釈の深さにその鍵があるように思われる。

ネタバレBOX

 舞台は都市国家カルタゴのガソリンスタンド、クッキーも出す一風変わったカフェ風の場所カルタゴノヴァ。隣国、スコピオとは、休戦を挟んでは居てもずっと戦争状態にあり、エレファントと呼ばれる無敵の武器を持つ強国、スコピオには近年やられっぱなしである。当然のことながら、互いの国民は、疑心暗鬼に陥り、他所者が来たとなれば、スパイの嫌疑を掛ける。 
 このような情況下、店に居るギーコを訪ねて板垣と名乗る男がやって来た。彼は、ギーコと昔暮らし、金を貸していたので、返して欲しい、という理由で訪れたのだが、実際に、ギーコと面通ししても埒が明かない。ギーコの暮らした、板垣の顔とは全然違っていたので、板垣であるのかそうでないのか、確証が持てないのである。板垣は、日記を見せたり、軍からギーコ宛てに届いていた板垣の死亡通知が間違いであるとの説明を繰り返したり、何故、顔が変わってしまったか理由を明かしたりするが、どれも決定打にはなり得ない。ギーコにしてからが、板垣の耳の後ろにあった黒子でも確信が持てず、寝てみても分からない。だが、二人はそれでも段々に親しくなり、ギーコも板垣本人だと内心信じてゆくのだが、このスタンドの協同経営者であるスランプの相棒、ナイルは、カルタゴを代表する兵器製造の天才で、どうしても板垣の話を信じることができない。自分の作っていたエレファント技術を盗みに来たスパイではないか、との疑いを払拭できないのだ。但し、板垣を腕ずくで追い出すこともできないのは、どこかで板垣の言う事の事実性を完全には否定できない、と科学者として冷静に考えているからでもあろう。
 因みに、クッキーコンテストで佳作を取るほどの腕を持つスランプが、実は、ナイル作のエレファントであるという落ちも用意されているが、軍の科学者として、自分のボディーガードに強力な援軍を置いておくのは当然のことであろう。
 連続するシリーズの一部ということだが、実に、スリリングな舞台に仕上がっている。集中して観るべき舞台だ。
 
Call me Call you

Call me Call you

劇団6番シード

吉祥寺シアター(東京都)

2013/06/27 (木) ~ 2013/07/04 (木)公演終了

満足度★★★★

ハラハラドキドキ
 立て籠もり事件が発生した。人質は、ダンススクールに通う女性4人、講師男性1人の5人。事件直前の目撃証言では、不審な男性が報告されているが、20歳前後とみられる他には、情報は無い。

ネタバレBOX

 警察の特殊部隊、キャリア組の課長と指示系統が2つあって、交渉初手で犯人を興奮させてしまう。そこへ交渉人を派遣したとの報が齎される。
 アメリカ流のノウハウを学んだ女性が前線に設けられた移動基地に来所し、犯人とのコンタクトにメディアを利用することを提言、彼女が、犯人との交渉権を持つという流れを作るが、何と! 所轄の県警ヘリが到着、署長直々に派遣された交渉人が登場。この人、おばあさんである。更に、ヘリから降りた時には、晩御飯を作る為に買った材料の入ったビニール袋を抱えた、主婦という感じしか与えなかった為、皆に大丈夫? と懸念を持たせた。偶々、今迄立て籠もり、自殺志願などで説得が必要な時に、それらの難事件を見事に解決してきた人なのであるが、登場の時のインパクとが、余りに場違いだったため、皆あっけにとられてしまうのだ。然し、他人の心理を読む達人であることが、その初手からの対応で皆に認識され、犯人との交渉は事実上、このおばあさんを中心に展開、事実を除々に明かにしてゆく。同時に、人質の解放も進むが・・・。ネット配信のフリージャーナリストらが、捜査を攪乱するわ、人質解放に関して、ダンス講師が、非常識な行動を取るわ等々、様々なハプニングが絡み、舞台はいつもハラハラドキドキの展開を見せる。
 犯人と交渉人とのアップテンポでスリリング、おまけに人情の機微を巧みに埋め込んだやり取りに思わず引き込まれながら愉しめる舞台だ。

班女/弱法師

班女/弱法師

shelf

d-倉庫(東京都)

2013/06/28 (金) ~ 2013/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★

三島の特性
 三島は、西洋論理の本質を極めてよく理解していたと考えられる。ローマがキリスト教を国教として採用した後、時の権力者は、その弁証法的な部分を排除し、キリスト教が本来持っていた革命的部分を抜き去った。為政者としては妥当な政治判断であろう。ルネサンスでこの頸木が緩んだ時、再びデュアリズムの箍を填め直したのがデカルトの方法序説だったのではないか? 余りにも有名なCogito Ergo Sumには、弁証法は、入っていない。弁証法的であったのは、寧ろ、その死によって未完に終わった、パンセではないだろうか? 無論、パスカルの未完の大作である。幸か不幸か、その後のヨーロッパの文化・文明はデュアリズムの文脈を基本として発展してきた。無論、弁証法に比べて、遥かに理解され易い二元論は、人口に膾炙しやすいのが、その大きな理由の一つであろう。同時に為政者による拡散も大きな効果を持ったに違いあるまい。それは、キリスト教の父と子への掏り替えという形式を取った。精霊が抜け落ちた、というより精霊を抜いた形での伝播を促した者たちこそ、為政者だったのであり、三島はその様式を受け継いだのだ。天皇制護持を民族アイデンティティーの基礎に据えようとした彼にとってそれは必然であっただろう。無論、個人的に、三島は天皇など何とも思っては居ない。話が逸れた。

ネタバレBOX

  班女に関して言えば、演出家は、この三島のデュアリズムを弁証法化しようとした。それも、演出家に弁証法の第三項目として考えられている読者、リズールをメタ化しないで用いているのである。いくら何でもこれは無謀というものだろう。シナリオは、あくまで二元論で書かれているのに、舞台上でメタ化しないものを登場させたのでは、観客も意味を取れまい。予め、説明書きなど読んで、他人の意見に従って舞台を観る連中なら兎も角、自分の目で見、自分の頭で考える観客は、敢えて、事前に説明書きなど読まぬのが普通だろう。その上で演ずる側と勝負するのであるが、シナリオの本質的構造を変えて、そのことに関して舞台上でメタ化されなければ分かれ、という方に無理がある。役者の身体は、メタフィジックではなくフィジックなのであり、それをメタ化するのは、演出なりシナリオなり、コロスなりであって、身体そのものではない。その点で“班女”を愉しむことはできなかった。これに引き替え、“弱法師”は、二元論をそのまま活かした演出で、三島の特性もストレートに出ており、何より俊徳役の演技が気に入った。その纏った衣装も工夫の凝らされた良い出来のものだった。
☆「2つの嘘と3つの夢とハリウッド」☆

☆「2つの嘘と3つの夢とハリウッド」☆

Lobeauhエンターテインメント

中野スタジオあくとれ(東京都)

2013/06/26 (水) ~ 2013/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★

情況証拠
 ハリウッドで一旗あげたいミュージシャン志望のジュン、女優志望のアリスがシェアしている住居に3人目の入居希望者が現れた。名前は、マユミ。フラワーアレンジメントがしたいという。(6.29追記)

ネタバレBOX

 マユミはずっと4つ違いの姉と暮らして来た。施設を出た後も、姉は妹の為に一所懸命働き、大学まで出してくれたのであった。その姉が亡くなった後、彼女は、ハリウッド近郊のこのアパートに移り住んできたわけであるが、どういうわけかいつになってもフラワーアレンジメントの学校に通うようには見えない。一方、ジュンもアリスも一旗揚げようとやってきた身、チャンスを掴む為なら何でもやる、と威勢がいい。だが、ハリウッドのスター達にしてみれば、こんなタイプこそ、ごろごろしているので、歯牙にもかけない。逆に、一見おっとりしているが、人形のような顔立ちで小さい、控えめでちょっと田舎びたマユミは、魅力的に映る。「源氏物語」の“雨夜の品定め”の風情にも似ていようか。何れにせよ、マユミは、もてる。その結果、LAに着いて間もなくビッグに私邸へ誘われ、危ない目にも遭いそうになったがどうにか難を逃れた。
 当初、三人の借りているアパートの家賃が、抜群の立地、豪華な作りにも拘わらず、安いのか、理由を明かさない先住者2人であったが、オーナーのユウスケが、このアパートのリビングで死体となって発見された、というのが、その理由であった。ユウスケはITベンチャーの社長で、他の会社を吸収合併したりして大きくしていったので、恨みを買ったのではないかというのが、ルームメイト達の意見であった。だが、犯人は見付かっておらす、その後、ユウスケと関係のあった女性が彼と同じように針で刺されて亡くなる、という事件が報告されて、すわ嫉妬による変質的殺人鬼が犯人か、との憶測が流れ、それが、徐々に固定観念と化してゆく。そんな折も折、ユウスケ宛ての小包が届く。偶々、作曲、作詞の発想に行き詰まっていたジュンはマユミの日記を読んでおり、彼女がユウスケに恨みを抱いているらしいこと、届いた小包に書かれている文字と日記の文字とが極めて似ていることなどから、変質的殺人鬼はマユミだと勘違いしてしまう。丁度、同じ頃、アリスも付き合いのある男に連れられて行ったストリップバーで踊っているマユミを見てしまったこと、マユミが自分では、「日本料理店で働いている」と言っていたことなどが重なり、二人はマユミが犯人だと決めつけてパニックに陥ってしまうが。
 まだ公演が残っているので、後の部分は明かさない。実際に舞台を観て確認して欲しい。
クジラの歌

クジラの歌

株式会社Legs&Loins

Geki地下Liberty(東京都)

2013/06/25 (火) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★

シージャックなのに温かい
 舞台は、東京―沖縄を就航するフェリー。航海日数は3日、途中、大阪と鹿児島に寄港する。だが、今回は勝手が違った。東京を出港すると直ぐ、このフェリーは、ピストルを持った数人の人間にシージャックされてしまったのだ。人質に取られたのは、客室乗務員2名、船長及び乗客6人と別室に監禁された女が1人。

ネタバレBOX

 人質になった6人の素性がちょっと変わっている。1人は、元大企業経営者。他人が自分の周りに寄ってくるのは、総て金の為で自分の人間的な何かに惹かれてなどではない、と固く信じ込んでいる。次は、元ヤクザで抗争中に人を殺している。お次は、このヤクザの女。自傷癖があり、リストカットの傷跡がある不良少女。傷害罪でパクられた経験もある。どういう因縁か、その時、この少女を逮捕した刑事。現在は、仕事のストレスで精神のバランスを崩し静養中。お後は、ニートで引き籠り、ゲームおたくのブロガー。最後に沖縄で民宿を営む男、弐汰璃。最後の男以外は、誰も彼も、実は、自殺志願サイトに応募してきたメンバーであった。別室の女というのは、直接この流れには、関わってこない。シージャックグループの瀬美の彼女である真心だ。実は、沖縄で民宿を営む弐汰璃の妹である。彼らは、小さな頃、両親が離婚、兄は母と沖縄に残り、真心は父に連れられて東京へ出たのだった。だが、父は亡くなり真心は1人ぼっちになってしまう。おまけに進行性の難病に掛かり、感覚も徐々に麻痺してゆく。現在は、耳が余り聞こえない。末期には筋肉なども急速に衰え、老化症状が現れて死に至ると言われずっと入院生活をしていた。その病院の隣の棟に余命1年と宣告された瀬美が入院して来た。彼は、元バンドマンである。ところで、真心は、毎晩、隣の棟の屋上へ上がって来ては、調子っぱずれの歌を歌っていた。耳が聞こえていないので音程が狂ってしまうということを知った瀬美は、彼女にも分かるようにギターの共鳴板に触れさせ乍ら演奏、音程を調整してゆく。こうして2人の仲は急速に近くなり、終には恋人になった。
 真心は、「鯨に生まれたかった」という。「大きな体で自由に大海原を泳ぎたかった」と。2人は鯨の歌について話をする。鯨は、何故鳴くのかについて。瀬美の答えは「思いを伝える為」だった。
 ところで、瀬美の妹は、天才的なハッカーで自殺志願者のサイトを立ち上げた。その募集に応じた人間が、基本的には、今回の人質である。弐汰璃だけが、妹とその彼のことを案じて、このフェリーに乗り込んできたのであった。
 従って、航海の終わる3日目には、人質全員が射殺される。何故なら、自殺志願者達は、自分では死にきれないので他者や偶然によって死に至ることを望む者達だったからである。謂わば、シージャッカー達は、善意の殺人者だった訳である。偶発的殺人は、既に起こっていた。最初の日、人質達が集められた部屋に偶々やって来て誰何したガードマンは射殺された。その後は、海上保安庁の船に怪しまれることもなく、航海は最終段階に入っている。人質達は、共有スペースに集められ、心臓に手を当てることを命じられた。10回瀬美の心臓が鼓動したら、銃弾が発射される。カウントダウンが始まった。
 この後、ドンデン返しがあるが、それは観てのお楽しみだ。
授業

授業

劇団渡辺

atelier SENTIO(東京都)

2013/06/21 (金) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

静岡の劇団のレベルの高さ
 登場人物3人は総て和装。無論、教授が赤い蝶ネクタイをつけている等アレンジはある。木遣り歌が入る中、日本の伝統演劇である歌舞伎の型のように様式化された動作で、教授の蛮行が、都合三度繰り返される。
 マリーが逸る教授を抑えるようなポーズを取り続けるうち、一度目は、最もスローモーに、二度目はやや早く、三度目は更に早く、教授が、女性徒を刺し殺すシーンが繰り返されるが、一回毎に、演者は各々の位置で足を小刻みにずらしながら回転する。無論、この動作によって時間の経過を表し、複数回同じ動作を繰り返すことによって、この行為が永続していることをも表現している。徐々にスピードが速まるのは、教授のエキセントリックな行為が、進化し深まり続けていることを表現していると取れよう。

ところで別件:今月末6月28日から30日まで“ふじのくに野外芸術フェスティバル”が静岡県で開催される。今回“授業”を演じた劇団渡辺も“羽衣”という作品を上演する。詳細は、以下のURLで調べて欲しい。http://www.spac.or.jp/yagai2013_top.html

ネタバレBOX

 このように開幕直後のシーンで観客は、日本的不条理の世界に誘われるのだ。木遣りの本義は、伊勢神宮の遷宮の折、新しい木を切り倒し、それを運ぶ時に歌われた歴史を持つが、現在では、祝い事の席で謳われることが多いのは、ご存じの方も多かろう。その唄が、本来の意味と現在の意味を同時に抱え込んで、背景に流れているのである。不条理劇の本質と抵抗することが難しいような理不尽な情況に置かれた人間存在の不安を見事に描き出したものとして背筋に冷たいものが走るのを覚えた。作品の読み込みの深さは、科白の息継ぎと間に活かされているが、基本的に訳に忠実な舞台なので、筋書きなどは、述べない。
 ラストが傑作である。またしても女性徒を殺した教授を落ち着かせる為に、マリーがしたこと。それは、壁に貼ってあるたくさんの写真などの中から、適当な物を選んで、勲章よろしく教授の衣装に付けてゆくことである。ヒトラー、アメリカ国旗、ソ連国旗、中国国旗、安倍 晋三。言わんとすることは想像して欲しい。自分の解釈は、独裁者、イスラエルと並ぶ世界最悪のテロ国家、かつてのライバル、これからのライバル、そして阿っ保~。最後の人物は、顔写真のアップであるが、ヒトのみならずガイアに生きる総ての生き物に生命の危機を齎す、核を輸出し、国内ではテロ国家の御用聞きとして、この「被植民国家」で許されている「核平和利用」を何らの展望ないまま躊躇なく推進する、イマジネーションの欠如を残酷なまでに示した馬~鹿である。(言わずもがなだが、ば~かの側近及び本人は劇団にケチをつけかねないので書いておく。これはハンダラの解釈である。文句があるなら俺に言え)

別件:今月末6月28日から30日まで“ふじのくに野外芸術フェスティバル”が静岡県で開催される。今回“授業”を演じた劇団渡辺も“羽衣”という作品を上演する。詳細は、以下のURLで調べて欲しい。http://www.spac.or.jp/yagai2013_top.html
relic(ご来場ありがとうございました!)

relic(ご来場ありがとうございました!)

613

劇場MOMO(東京都)

2013/06/20 (木) ~ 2013/06/24 (月)公演終了

満足度★★★★

考古学の深さ
 サッカー場建設とタイアップする形で、商業施設を建設する予定だった土地に古墳期前期の遺跡が見つかった。邪馬台国かも知れない、という期待を抱いて過疎の自治体は、マイナスのスパイラルから抜け出ようと必死である。

ネタバレBOX

 偶々市総合政策課職員の神山と考古学者の柴田は、中学の同級生である。そこで、神山は柴田に発掘調査で遺跡の出土物発掘の鑑定、検証を依頼した。柴田は、熱心な研究者であるが、遺跡発掘に熱中するあまり、自らの職分に頓着しない傾向がある。発掘のアルバイトをしていた田口が、捏造事件を引き起こしかけるが、柴田はスタッフの注意にも拘わらず、掘り出された土器をチェックしておらず、大問題の危機が訪れる。犯人が直ぐに見付かり本人も犯行を認めた為、大事には至らなかったものの、大発見が、おじゃんになる可能性さえあったのだ。(この時点では、未だ、邪馬台国の可能性が残っていた)
 土地の譲渡を巡りオーナーに迷いが生じたり、遺跡は邪馬台国ではない、との確証がほぼ見えたり、と発掘内容的には、散々な結果に終わったが、考古学は、何も大きな価値のある出土物が出なかったことを地道に確認することも大切な仕事である、との認識に到達して幕。この哲学は中々に深い。
『Cour d'amours(コールドアモール) ・スクラプ's ver2.5』

『Cour d'amours(コールドアモール) ・スクラプ's ver2.5』

マイムリンク

シアターX(東京都)

2013/06/22 (土) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★

残念
 もう少し高いレベルを期待していたのだが、ハッキリ言って期待外れである。個々のマイマーに力の差があり過ぎるのに、集合的な演技をやらせたのは演出家が悪い。

ネタバレBOX

 鳥の形態模写をしているのだが、それは鶴だと思われる。鶴は千年、鶴の一声など人口に膾炙した表現ばかりでなく傑作「夕鶴」のおつうを始めとした文学にも取り上げられるばかりか、その下敷きとなった民話、鶴女房の存在を見れば、その優雅を愛する人と鶴の関係には並々ならぬものがあるのは明らかであり、丹頂鶴は、未だに毎年飛来することがニュースにもなる人気の鳥である。
 その鶴の求愛ダンスなども含めての形態模写が為される中で、体を静止させるべき点に於いてぐらつくなどもってのほかである。身体訓練の足りないことが、一目瞭然なのだ。こんな物を観せられただけで心が離れてしまった。後は推して知るべしである。
 日本全体のレベルとして、マイムやマイマーの力が世界のどの位置にあるのか、自分は知らないが、今迄、舞台で何度かソロのマイムを観た経験では、無論、レベルの高いマイマーも存在する。然し、今回のマイマー達の最良の者でも、自分がソロで観たマイマーには敵わない。もっときちんと身体を鍛え、観察力を鍛え直すべきであろう。自分にはエチュードレベルとしか感じられなかった。残念である。

ある苅屋くんの人生

ある苅屋くんの人生

怪傑パンダース

ザ・ポケット(東京都)

2013/06/19 (水) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★

前説は観ていないが本編は楽しめるスタイリッシュな舞台
 冒頭、「この世は舞台、ひとはみな役者」シェイクスピアの有名な科白が引用される。
 オープニング、上手から下手へ移動するグループと下手から上手へ移動するグループが、段差を設けられた舞台上をスローモーションで移動。式場の階段を結婚式を終えたばかりの新婚カップルが降りてくる。この時の照明センスが抜群で舞台効果を高めている。当初、やや暗めで移動する人物像がシルエットのように浮かび上がるか上がらぬかの微妙な明度だったが、カップルが階段を降り切る辺りでぱっと明るくなり、新郎新婦の友人たちが、普通の動作に戻って、クラッカーを鳴らす。

ネタバレBOX

 この刹那、リストラをされたことに恨みを持った暴漢が大きな刃物を持って登場、新郎の友人を刺そうと向かってくる。友人は、腕を切られたが、手洗いから戻って来た新郎が、友人を助けに入り、胸を刺されて病院へ搬送されたものの死んでしまう。
 冒頭シェイクスピアの引用にあっように、人生がシナリオ化されていると言う前提で物語が展してゆくが、これは、霊界で霊の生殺与奪を管理している会社の意向によってである。然し、人生はホントにシナリオに書かれていることだけで進んで行くのだろうか? 意思の介在する余地は無いのか、といった当然の疑問が湧く人も多かろう。
 新郎、拓也は亡くなってしまった。新婦、は、失意の底に沈む。彼女は、自分も飛び降りて、彼の下へ行こう、と高いビルの屋上に上がり、飛び降りようとした刹那、強風に煽られて我に返り、自殺を思いとどまった。だが、そこへ、拓也を殺させた冥界のエージェントが現れ、自殺を思いとどまった彼女を無理やり屋上から突き落としてしまう。彼女も結局は絶命。冥界へ旅立つが。
 一旦、冥界へ魂が到着してしまうと24時間以内に現世へ戻らなければ魂は消滅してしまう。そこで、生まれ変わりの為の手助けをしてくれる人物を探し、次のシナリオを急いで見付ける必要があるのだ。拓也は、幸いこの人物を素早く見付け、次のステップに進もうとするが。その途上、「自殺」という形でエージェント達に殺された彼女に再会する。だが、それも束の間、会社の利益を守ろうとするスタッフ達に捕まり拓也はプロデューサーに、新妻は、生まれ変わりサポートに捕まってしまう。
 一方、新郎新婦の友人達も、式終了後、無念の死を遂げた拓也の妻を慰めようと結婚後住むはずであった新居へと向かうが、途上、待ち合わせに遅れた、オカルト好き不思議友達は、トンデモナイ情報を持ち込んできた。新婦が後追い自殺を試みたというのである。偶々、彼女は、占い師に不思議な小箱を貰っていた。その小箱を貰った時に、占い師の「悪いことがあったら云々」という占いは当たっていた。日本で最優秀と言われる大学の院を優秀な成績で卒業した新郎友人も、早速、地べたに数式を書いて所謂オカルトと言われる事象の現実性を計算、また、ニュートンが万有引力を発見した時に人々が、彼の業績を何と呼んだかの歴史的な事実を指摘し、分からない事象は、現実に在り得ると結論する。結果、友人達は謎の箱を開けてみるが、中には何も入っていなかった。だが、占い師が、現れた。ホログラムような投影像かと思うと、実態だと言う。何れにせよ、彼女の後ろ盾を得て、幽体離脱を果たした友人4人も、冥界へ旅立つこととなった。
 冥界では、天主は、数多くの星で仕事をしている為見付からないと思っていたのに査察に目をつけられているとの情報も入ったばかりではなく、闖入者が現れたり、と異常な事態に戦々恐々である。既に天主の命を受けた査察サイドの密偵や捜査官が潜入しているとみて良さそうだ。死者の魂を管理するプロデューサー、監督、スタッフ、魂のお助け屋、ガードマンら対新婚夫婦及び友人と彼らをサポートする査察官らの戦いが展開される。勝利するのは、どちらか、 占い師の正体は 新婚カップルはどうなるのか 捕まった者達は大丈夫なのか、罠は仕掛けられていないのか等々畳みかけるような展開が続く。
殺意が死んだ夜

殺意が死んだ夜

ビビプロ

小劇場 楽園(東京都)

2013/05/29 (水) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★

単なるサスペンスでない
 最後のドンデンで一挙に深みを増した。人間一皮剥けば何を考えているか分からないという不気味さを最後に出したのは流石。 出だし役者の登場シーンが中々効果的だ。狭い出吐け口から出て来た役者達は、衣装掛けに引っ掛かった衣装を1つづつ取ってテーブルの周囲を回る。その時、衣装を互いに投げ合ったりもするのだが、スモークが焚かれる中、テンションの高い歩きぶりだけで緊張感を維持しているのは、役者達の力量の高さからだろうか。

ネタバレBOX

 一瞬の暗転後、舞台は、一組の男女に変わる。ここは、弁護士事務所だ。カップルは二男夫婦である。其々が、持って来た荷物を下ろすが、女の荷物は非常に多い。それを荷物の少ない夫が、助けてやっていないのも、若干、不自然な感じを抱かせる。妻は、夫の泊ったホテルに同宿していなかったということを示してもいるのだろう。何れにせよ、敢えて夫婦に距離を感じさせる出だしである。
兄弟5人は、亡くなった父の遺産相続に関する協議の為に、こうして弁護士 立会いの下、事務所で話し合いをする為に集まった。然し、問題は、少し複雑である。父の死亡原因が、事故、他殺の両面から洗われている点、また、遺産については、死後遺書が発見された点、その額などについてである。
 三々五々集まって来た兄弟は、それぞれ、独自の生活パターンを持ち、今では兄弟であるということ以外、共通点は殆ど無い。二男の妻が、三男の元恋女であったと言う点が、奇妙な関係ではある、が。
 協議開始に際し、五男だけが、大幅に遅刻して、欠席のまま、議事が進行してゆくが、遺産総額は、50億円。その総てを二男が相続することになっていた。
 サスペンスであるから、無論、情報は小出しである。従って、観客は、新たな情報が出てくる度に前提条件の変更乃至は判断の変更を迫られるので、観飽きることが無い。ちゃんと組み立てられたサスペンスの醍醐味である。
 最後の最後にどんでん返しが設えられているが、最後のドンデンで舞台がぐっと締まるようなドンデンだ。サスペンスファンには、既に既知のパターンかも知れないが、期待して良かろう。何れにせよ、作家は、最後のドンデンで、この作品を単なるサスペンスで終わらないものにしている。サスペンスの涯に見えてきたものは? 舞台を観て確かめて欲しい。
サロメ

サロメ

虹創旅団

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2013/06/20 (木) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★★

演技&演出
 シナリオは、ワイルドの原作をかなり忠実に訳す、という形をとっているので、多少エキセントリックな世界を描いている以上余り問題はないと思うが、男性に女性の役を演じさせたり、逆に女性に男性の役を演じさせたりした割には、演出家のそのように表現したかった必然性が表せるレベルの演技ではなかった。唯、男が、女を演じ、女が男を演じるに過ぎなかったからである。ワイルドの生きた時代に、性的マイノリティーであるということは、リンチを喰らって死ぬことすら覚悟せねばならないほどのことであったはずだし、現在もその問題を引き摺っているのであれば、男性は己の内にある男を殺す、女性もまた己の内にある女性を殺すことで滲む己の内側にある異性を表現して初めて、この物語の原点に立つことになるだろう。このような仕掛けを創った以上、それは目指されるべきであった。
 演者の多くが若いせいもあろうが、演技に溜めが無い。一所懸命になる余りに、劇場のサイズも考えずに声を張り上げるのも頂けない。役者たちも己自身の特性を良く知るべきである。これは、年齢には関係ない。生きる時に、何に注意をして生きているかである。電車の中で、メダカのように群れてばかりいては決して見えてこないものを知るべきである。表現する者として生きてゆくのであれば、生涯、孤独に探求を続ける覚悟はしなければならない。表現する者には、それしか生き残るすべは無いからだ。例え、恋人と一緒に時を過ごしていようとも、それは、同じことだ。我々にとって実存が本質的に孤独なものであるなら、恋人とともにいることは、孤独が一つから二つになったに過ぎまい。
 と、この程度のことは、自分自身で突き詰めて臨むべき舞台であろう。言っておくが、この程度のことは二十歳前後になれば、誰もが通過していて当然のレベルである。もし、本当にマイノリティーであるならば。
 これらの前提が全然、見えなかった。一所懸命なだけではいけない。

テレビが一番つまらなくなる日(2013年版)

テレビが一番つまらなくなる日(2013年版)

劇団 東京フェスティバル

駅前劇場(東京都)

2013/06/19 (水) ~ 2013/06/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

ネット選挙解禁
 参院選が近い。ここ暫く地方(敢えて痴呆と書きたくなる)議会の立候補演説をしている候補を見る度、吐き気を覚える日々だったが、今回の舞台を観て選挙に行く気になった。シナリオの面白さもさることながら、役者陣のキャラも立ち、とても客演ばかりとは思えない。劇団員全員が濃密な空気を漂わせるような雰囲気こそないものの、各々の出演者が、役どころをキッチリ演じていて楽しめる。

ネタバレBOX

 TV局の選挙特番の舞台裏が、物語の展開する場所である。選挙当日、昼の出口調査では、当選枠5名のうち現職が3位までを占め、残る2議席は激戦となっている。この選挙区に大日本放送の元人気アナ、松尾が首相の肝入りで立候補した。彼女は、脳天気にトップ当選を自負していたが、「東スポしか読んだことが無い」と豪語する彼女に正確な票読みなどできる訳も無い。ところで、彼女の属していたTV局では、局の面子も掛かり、プロデューサー、ディレクターは躍起になって松尾の当選を目指す。当然のことながら、視聴率アップの至上命題にも応えなければならない。元人気アナの当選を独占配信すべく準備は万端であった。
 然し、本番迄2時間半の17時半、出口調査でトンデモナイ情報が飛び込んで来た。誰にもマークされていなかったダークホースがいきなり5位に踊り出たのである。4位は既にほぼ確定、議員歴40年のベテランで、松尾が5位との予測が完全に裏切られることになった。このダークホース、資料も殆ど無い、ネットカフェ難民出身ということは分かっているのだが。思い掛けない泡沫候補の躍進にTV局は上を下への大騒ぎ。顛末は舞台を観てのお愉しみだ。

そして、明日-いつわり-は箱の外へ

そして、明日-いつわり-は箱の外へ

劇団 暴君ハヤブサ’69

サブテレニアン(東京都)

2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

丁寧な作り
 Team真を拝見。全体としてとても丁寧に作っていることに好感を持った。物語は、死刑執行1時間前の死刑台へ通じる部屋。教戒師と死刑囚が、執行前の最後のひと時を過ごしている。だが、この死刑囚は、ちょっと変わっていた。

ネタバレBOX

 自分に関わりのあること、名前や生年月日、自らの人間関係などに関する記憶を失くしていたのである。無論、自分の罪についても知らなかった。在る朝、そのことに気が付いた彼は監守に、この事を訴え、精神科医の診断を受けることになる。何人かの医師が、彼の症状を診断するが、一人を除いて記憶喪失だという診断は下さなかった。その結果、最高裁の判断は死刑を執行で確定した。
 研修医が診てさえ明らかな記憶喪失を殆どの医師が、否定したのは面倒なことに関わりたくない一心からであった。詰り、放っておけば、死刑になる。死人に口無しで誰からも咎められる気遣いはない。一方、もし、自分より業界上位の人物と異なる判断を出して誤診ということにでもなったら。多寡が死刑囚の為にリスクは負いたくない、という保身である。だが、それは正しいのか? と一人正しい判断をした医師は問うのだ。そもそも、医師の仕事とは、人の命を救うこと、はっきり記憶喪失の症状が出ているのにそれを指摘しないことは、医師として、人間としての人倫に悖る。彼は、精神科医師として、若干の躊躇はあったものの、普遍的解を選ぶ。それは、彼の亡くなった彼女が夢に立ち、「自らの信ずる所に従え、私がついている」と応援してくれたからであった。医師の迷いの原因とは、記憶喪失の患者、殺人犯は、この医師の彼女を殺していたことにあった。
 物語は、このように密接に絡みあいながら、徐々に犯人の記憶を呼び覚まして行き、終に完全にその覆いを解く。最後に犯人は己の罪を自覚し、心から犠牲者に詫びて罪を背負って死刑台へ進む。
 この間、教戒師は、登場時の蓮っ葉な様子から、死刑囚との心理的対決を含む支えになるなかで真に真面目に人として死刑囚に向き合う。殺人犯を演じた松田 勇也のどこかおどおどしつつ緊張したような、死刑囚の不安の表現と共に、教戒師のドラスティックな変化を演じた小綿 久美子の演技、その演出も気に入った。同時に、一人、自分より権威のある医者達に逆らい、また、彼女を殺された痛みに耐えて前に進んだ医師を演じた牛居 朋広の若きヒポクラテスぶりも良い。更に、彼女役を演じた那智月 まやが、普通の女の子らしさを自然に出して、この特異な情況に安定感を齎している。出演した役者其々が、ちゃんとキャラを立て、己の仕事を果たしたバランスの良い舞台であった。演出のバランス感覚を褒めておきたい。
パラノイアショー op.136

パラノイアショー op.136

hi-pine company

吉祥寺シアター(東京都)

2013/06/14 (金) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★

これでパラノイア? 
 おこがましい。陳腐で徹底するならそれはそれで、面白いのだが、勉強していないことが明かな独りよがりで、大仰な観念を並べられてもシラケルばかりだ。面白く感じた所は、意識的に創られた部分ではなく単にハプニングが、偶然に齎した結果であろう。
 太い幹での作業が全然、行われていないことが明らかで、それを小手先で誤魔化している。それが、見抜けない観客ばかりだと思っているとしたら、哀れである。

消失

消失

もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡

相鉄本多劇場(神奈川県)

2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

愚かな我々に贈られたエチュード
 我々、科学技術の恩恵を受けながら、日々、愚行を繰り返すヒトという生き物の漠然と感じている終末的不安を顕した作品。

ネタバレBOX

  舞台は、最終戦争勃発後、かつて未来を夢見たヒトが移住用に打ち上げた人工の月が空に掛かる世界。第一陣の移住者たちは、既に移住を終えていたが、その後の状況の激変で、彼らへの支援や、後発移住者の入植も行われず、今では、死に絶えていると思われる月だ。
 そんな2つの月を眺めながら、中年の兄弟が暮らしている。二人とも未婚だが、弟は、結構もてて、兄が、大好きである。ところで、最近、弟は、スワンレイクという3つ年下の元教師にぞっこんである。初めは、相手にしなかった彼女だったが、訪れた兄弟の物置きに、彼女へのプレゼントの証を見付け、心を動かされる。話をしてみると話題も合い、二人は急速に近付いて行くが、弟は時々、頭痛を訴え、調子を崩す。すると、兄の友人、ドーネンがやってきて治療をしてくれるのだった。但し、ドーネンも、最近、物忘れが酷くとんでもないミスをやらかす。
 他方、兄弟の家の2階に間借りをしたい、という女性、エミリアが現れた。彼女の夫は、第一次移住者、彼女も追って行くはずであったが、最終戦の結果、シャトルが飛ぶことは無かったのである。結果、夫は、亡くなっていると考えられるが、その具体的手続きはできないまま、宙吊りである。
 ところで、この家の電気やガス、水道などは、何が狂ったか頓珍漢な状態である。水は時に苦く、時に濁る。水道から歯が流れ出たことさえあった。ガスのスイッチを捻ると水道が出る。といった具合なのだ。そこで、ガス屋に修理を頼むが、出張して来た人物は、実は、探偵だとエミリアに明かし、彼女に協力を求める。
 探偵がやってくるのは、弟のつきあって来た女性の失踪に絡んでの事だと思われた。謎を明かしてゆくのは、実は、知り合いであったエミリアとスワンレイクである。エミリアの夫は、スワンレイクの同級生で、彼女に目を潰されていた。エミリアは、結婚後、夫からスワンレイクを紹介されていたのである。そのスワンレイクは、弟からアルバムを見せて貰うが、そのアルバムの1枚1枚の写真について細かい説明をしてくれる弟の写真は1枚も無いのであった。他方、彼女は、失踪している、前の弟の彼女に家を訪ね、母と会い、前の彼女と弟が一緒に映っている多くの写真を見ていた。彼女は、この事実のギャップに不信感を抱く。
 その後の情景では、買い物に出掛けた女性達の留守中に弟のケアをしている、兄とドーネンの姿が描かれる。
 最終に至るシーンで、兄と弟、ドーネンの関係、失踪事件の顛末、スワンレイクと弟、探偵、実は、管理局員、等々の実相が明かされてゆく。が、上演中なので、ここは明かさない。ちょっと面白い仕掛けがある。
リスボン@ペソア

リスボン@ペソア

重力/Note

BankART Studio NYK(神奈川県)

2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

特異性を良く表現
 序盤で、種子島への鉄砲伝来以来、日本人には余り馴染みの無いポルトガルについての説明が為されるが、この辺りは親切な導入と言えよう。

ネタバレBOX

 日本では、Pessoa自身を知る人も多くあるまい。かく言う自分も初めて知った。存在の中枢を降りてゆくことによって、彼は、その中心に空虚のあることを悟ったのではないか、と感じる。その意味でハイデガーに近いのではないか、と。生没年を調べてみると、ぺソアの方が、1年早く生まれている。但し、没年は、ハイデガーの1976年に対して、ペソアは1935年である。
 一方、ハイデガーの生まれたドイツは第一次世界大戦に敗れ1918年には、大変な精神的危機に陥っていた。その深刻さは1945年を凌ぐと言われる。
 他方、ペソアの生まれたポルトガルは、大航海時代の先鞭をつけておきながら、対スペイン戦争で敗れて以来、その栄華は、地に落ち、リスボンでの大地震の影響もあって、国力の衰えは、誰の目にも明らかであった、と同時に栄華を極めるスペインに対する劣等感は、並大抵のものではない。それが、現在迄続いているのが、ポルトガルという国である。
 これらの社会的条件が、ペソア及びハイデガーの持つ精神的傾向に類似を齎していると感じられるのかも知れぬ。何れにせよ、存在をひっかきながら滑り落ちてゆくような、体験を二人とも持っていたような気がしてならないのだ。哲学者、ハイデガーが現象学的実存主義に立ったのに対し、ペソアが、多重人格とも言えそうな<異名>を多数持ったということが、逆に存在の中心への地獄下り決行の例証になるのではないか、と思われる。少なくとも、存在論の中心に居座るのは、紛れもない影、乃至は、空虚であろう。何故なら、問いを発する主体は、点に過ぎず、問われる主体は、せいぜいが関係に過ぎないからである。存在の実体は其処に無いことを存在論という言語的営為が証明してしまうのだ。一方、存在とは、ア・プリオリな実体そのものであろう。その意味ではヘーゲルの認識の方が、正しい。取りとめのないことを書いてしまった。然し、このような存在論的アプローチをしてみたくなるような、妙に懐かしい、そして地獄下りの陰影を帯びた、冥界の風景とでも言えるような不思議な世界であり、その寂しさである。
 その雰囲気を、ポリフォニックな発声や、意図的な吃音、シュールレアリスティックな感興で演じてみせた。また、工場などで用いられる運搬用パレットを壁面、天井などに張り付け、丸く作られた演技空間の音の響きなども実に面白い工夫で、ペソアの特異性を表現するのに役立っていた。演出、演技、特徴的な衣装なども面白い。また、床に所狭しと撒き散らされた紙が、ペソアの創造した<異名>そのものででもあるかのような効果を齎してもいる。

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