新団体結成「祝賀会」
マサ子の間男
やまがた舟唄(渋谷)(東京都)
2012/09/28 (金) ~ 2012/10/01 (月)公演終了
満足度★★★★
「温度調節は亀の下で」
居酒屋の宴会場という場所の面白さに加えて、コントとミュージカルという
”ポッキーと舟盛りがいっぺんに来てマヨネーズで食べたら結構美味しかった”みたいな感じ(?)レトロなハコに優しい男たちがよく似合う夜だった。(タイトルは出演者の発言から)
ネタバレBOX
お風呂屋さんのような入口で靴を脱いで上がり、受付を済ませて宴会場へ入ると
まー懐かしい感じの畳敷きの広間。
カラオケの画面に歌詞と映像が流れ、後は誰かがマイクを持って歌うだけという状態。
奥に大きいフィッティングルームのような半円の舞台があり、
真っ赤な緞帳が左右から閉じるようになっている。
ここで歌うのかぁ、と思って眺めながら
座布団席じゃなくて赤いスツール席にしよう、と座る。
役者さんがビールやお茶、乾き物等を売っているのでお茶を買った。
団体名を記入する紙に考えて来た名前を書き、あとはまた思いついたら書こう。
福田転球さんが言いだしっぺらしいが、合計7人男ばかりの団体である。
飲んだり食べたりしながらゆる~い感じで始まった。
今日は3部構成とのこと。
第1部は昔よくテレビで見たNHKの「てんぷく笑劇場」みたいなコント芝居。
ナンセンスから人情に移る感じの“昭和”な展開。
爆笑するほどではないが、この会場に妙にしっくりして
取り敢えず一人ひとりの役者さんを観察する。
第2部は劇場としての機材が一切無い状態での身体表現。
暗転・明転は出演者の指示で、客がまぶたを閉じたり開いたりして自分で調節する。
ストロボも客が目をしばしばさせて、スローモーションの動きを点滅させるという
何ともアナログな手法だが、これがとっても面白かった。
いつも目がちかちかするが、ストロボはこれでいいじゃんと思ってしまった。
第3部はミュージカル「居酒屋一番」。
居酒屋の宴会場でミュージカルだよ!
コレが一番面白かった。
「アメリカ人」とか、「影」とか、居酒屋一番の店長と店員たちが歌って踊る
“アカペラ”ミュージカルなのだが、妙に本物の展開を踏んでいて可笑しい。
歌、みんな結構上手だし、動きもそろってる。
「アメリカ人」の英語がまた上手いのでこれもびっくりした。
メンバー一人ひとりを検索してみたら、みなさんキャリアの長いベテランさんで
すごい経歴の持ち主なので驚いた。
福田転球・・・・吉本興業所属の俳優・演出家 「天球劇場」主宰
客の反応を見ながらのアドリブがこなれていて安心して見ていられる。
高木稟・・・・・「転球劇場」所属の俳優 子役としてデビュー
そうか、社長になる前は子役だったのか・・・。
松之木天辺・・・オペラシアター「こんにゃく座」や「イデビアン・クルー」に所属していた
俳優・ダンサー
「かえるのうた」が妙に色気があって上手かったので気になった人。
西うらしんじ・・関西の「遊気舎」に所属していた俳優
長身で手足の長い、絶壁の持ち主、一度見たら忘れない顔。
シューレスジョー・・よしもとのピン芸人 海外青年協力隊で野球を教えにジンバブエに
2年半行っていたことがある。
この芸名の由来を調べたらとても興味深かった。
小林高之・・・・「THE黒帯」所属の俳優
時代劇も出来る声よしの人。
神保良介・・・・ニナガワカンパニー・ダッシュで俳優スタート 出演作品がすごい!
アメリカ人役の英語が上手過ぎ。
全員のプロフィールとか、顔と名前が一致するような資料を配っても良かったのでは?
私が調べた少ない情報よりずっとインパクトがあるはず。
お笑い系の人とマジな役者さんが一緒になって創るから
「笑いをとる」事にだけ固執するのとはちょっと違う舞台。
初日はまだちょっと遠慮がちだったように見えたが
“ゆるい進行”と“テンポの良い演目”でメリハリつけたらもっと盛り上がると思う。
やまがた舟唄という場所の面白さや、役者さん達の優しい対応がとても良い。
こういう場所やアドリブに鍛えられている方たちだから
回を重ねるごとに双方向で反応も良くなっていくだろう。
“シチュエーションコメディとミュージカルを足して宴会風味にした”(?)
居酒屋の新メニューを食した感じ♪
団体名が決まるのを楽しみにしています。
貧乏が顔に出る。
MCR
サンモールスタジオ(東京都)
2012/09/20 (木) ~ 2012/09/24 (月)公演終了
満足度★★★★★
変わらなくちゃいけませんかね?
ああ、全くその通りだと思わせるこのタイトルに惹かれて
新宿のサンモールスタジオへ行ったのだ。
再演だそうだがなるほどMCRらしさ全開のテーマ。
「人は簡単に変わらない」「ってゆーか変わらなくちゃいけませんかね?」
という開き直りに似たスタンスがまたいい。
罵倒しながら、男たちは哀しいほど優しい。
ネタバレBOX
トイレはあるが風呂は無い…ような6畳一間のアパートの一室が舞台。
トモ(櫻井智也)、じゅんや(おがわじゅんや)、ヒロ(北川広貴)の3人は
このおんぼろアパートで一緒に暮らしている。
元々はトモの彼女が借りていた部屋で、トモは今でも出て行った彼女が忘れられない。
トモはミュージシャンになりたい賽銭泥棒で、じゅんやは深夜のコンビニ店員、
ヒロは会社をサボってばかりいる会社員だ。
トモはいつも押し入れの上段に布団を敷いて座っている。
このダメダメ3人組の生活にある日お地蔵さんがやって来る。
酔っぱらったトモが担いで来てアパートの廊下に置いたのだが、
このお地蔵さん、“人の記憶を金で買う”という
「徳」なんだか「得」なんだか解らない力を持っていたのだった。
トモは「ギターの弾き方」など次々と自分の記憶をお地蔵さんに買ってもらい、
お地蔵さんの足元に出現する現金を手にしていく。
この部屋には毎日様々な人々が訪れる。
じゅんやに自分の部屋に引っ越しておいでよ、と迫る恋人の奈々子(山田奈々子)や
トモの弟大介(三瓶大介)、大家の息子奥田(奥田洋平)、
そしてヒロの会社の同僚東谷(東谷英人)等々・・・。
そして人の良いヒロがこの同僚にあからさまに利用されていくところから
ついにあることが起こってしまう・・・。
MCRの今回の“ヤなやつ”は、会社の金を横領して
その罪を平然とヒロになすりつけようとする男だ。
極悪人でもないし特権階級でもない、私たちとさして変わらない人間が
少しだけ要領が悪くて根性が足りなくて甲斐性がない人間を
徹底的に下に見て利用する、しかもそれを「当然でしょ?」とうそぶく。
MCRの芝居を観ると、このフツーの人間ほどたちが悪いものはないことに気づかされる。
櫻井智也の書く罵詈雑言満載の台詞には、
「てめえだって俺らと大して変わらねぇくせしやがって偉そーに…」という
人を見下す輩に対する憎悪に近い感情があって
そこに私は毎回否が応でも共鳴してしまう。
次から次へとお地蔵さんに記憶を売ってしまうトモの行為は
荒唐無稽なようで実は私たちに“価値観”を問うてくる。
車の運転、ギターの弾き方、自分の名前、かつての彼女…。
「それ、要るのか要らないのか?」
お地蔵さんの足元に出現する金額にも笑ってしまう。
トモが自分の名前を売って、20円持って戻ってくるのが可笑しい。
金額はあくまで“自分にとってどれくらい大切か”ということで
彼にとって名前なんてどーでも良かったということだ。
みんなに迷惑をかけたくないと極端な行為に出て
結局自分が怪我をしてしまったヒロ。
ヒロのことだから、この先ずっと何かにつけて謝りながら生活するだろう。
そのヒロの記憶を売ってしまって「気にするな、俺は全然覚えてないから」という
トモ流の究極の友情に、何だか泣きそうになった。
初対面のようにまたヒロと再会したトモが「お前、面白いな」と受け容れた時
また3人の共同生活が始まることが、私は心底嬉しかった。
じゅんやもいずれ戻ると思うし(笑)
貧乏も顔に出るが、金の使い方も顔に出る、優越感も顔に出る。
そんなことを思った舞台だった。
ゴベリンドンの沼 終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!
おぼんろ
ゴベリンドン特設劇場(東京都)
2012/09/11 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了
満足度★★★★★
立ち上がるキャラクター
主宰の末原拓馬がきれいな顔で情熱的に語るから
その青いパッションに惹かれて人が集まるような印象があったが、
それは大きな誤解だった。
5人の役者の一人ひとりが創り込む登場人物が何と魅力的なことだろう。
廃工場のシャッターの内側は、痛みを伴う大人のファンタジーの世界だった。
ネタバレBOX
廃工場の中が丸ごと物語りの世界になっている。
廃材を利用したという飾り付けも、役者の衣装も、
観る者を架空のその国へと惹き込む。
悲劇に悲劇が重なるようなストーリーの根幹にあるのは
人間の尽きることのない欲望と孤独を怖れる気持ち、
そして大切な誰かを守ろうとする、身勝手なほどの愛情だろうか。
役者がそこにいるだけで、一人ひとりのキャラクターが立上がって来る。
ゴベリンドンを演じた高橋倫平さん、高い身体能力を生かした
縦横無尽の動きが魔物の孤独と哀しみを一層引き立てている。
“死ねない運命”にもがき苦しむゴベリンドンの慟哭が
びんびん伝わって来て素晴らしい。
死体洗いの老婆ザビイを演じたさひがしジュンペイさん、
欲の塊のようなこの老婆は、金品も欲しいが
実は人々から一目置かれたくて仕方がないという
孤独の裏返しのような欲求にまみれている。
その観るもの誰にでもある俗っぽい気持ちを
見透かすような台詞に魅せられる。
二人の叔母メグミを演じたわかばやしめぐみさん、
この人のちょっとハスキーなアルトの声は本当に魅力的。
“沼の声”として歌う所もミステリアスな感じが素敵だし、
ちっちゃな顔で、紅一点の華やかさと母親の温かさを両方表現できる人だ。
兄のトシモリ演じた藤井としもりさん、
この人の表情や瞳は何か哲学的なものを感じさせる。
魔物を恨みながらも、その魔物と契約してしまった自分を
激しく責める気持ちがどこかあきらめに似た表情ににじんでいて
凄惨な行為に走る心理に説得力を与えている。
作・演出で弟タクマを演じ末原拓馬さん、
まずこの世界観を一から作り上げたことがすごいと思う。
ゴベリンドンの森、沼、伝説と俗世がクロスするエピソード、
これらを目に見えるかたちにしたのがあの廃工場だ。
純なタクマがどれほど悲しかったか計りしれないが、
それでも大好きな兄を一人にはしないというラスト、
小さな希望の芽を残したところに救いがあって温かい気持ちになった。
幼さの残るタクマが少しずつ大人になっていくところがとても良かった。
気温が下がったことに加えて扇風機もあり、劇場は大変快適だった。
ビールケースの椅子にぷちぷちの座布団がこれまたとても良かった。
360度スムースに向きを変えて観ることができる。
都心のヘンな客席の劇場に持ち込みたいくらいだ。
末原拓馬さんの前説に情熱は感じるが、
始まりは一気に物語りに入った方が効果的かもしれないと思った。
この廃工場へ足を踏み入れた瞬間、
私たちは物語りの世界に引きずり込まれる。
この劇場にはそれだけの力があるし、
観客の想像力をもう少し信じても良いと思う。
もちろん終演後にいろんな話が聞けるのはとても楽しい。
5人の努力の賜物である特設劇場、
こういう空間でいつでもロングランできたら本当にいいね!
エッグ
NODA・MAP
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2012/09/05 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
ふかっちゃんパワフル
まず新生プレイハウスの空間がとても魅力的。
鉄板の顔ぶれで挑む思いがけないテーマと、椎名林檎の歌が効果的な舞台。
仲村トオルの声が良いし、妻夫木聡の明るく真摯なキャラが存分に生きる。
深津絵里の(歌も含めて)細い体からは想像も出来ないほどの存在感が印象に残った。
ネタバレBOX
卵の殻を割らずに白身と黄身を取り出すというほとんど冗談みたいな
「エッグ」というスポーツに国民は熱狂している。
オリンピックの正式種目になったら参加するのだと
リーダー格の円谷(仲村トオル)を中心にチームは日々練習に明け暮れている。
舞台はチームのロッカールームで、長方形の白いロッカーが並び
時にはそれがドアになって人々はそこから出入りする。
この整然と自在に移動するロッカーによる空間の仕切り方が秀逸。
新入りメンバーのアベ(妻夫木聡)はやる気満々、
彼は新しい手法でチームに勝利をもたらし一躍花形選手になる。
アベはチームのオーナー夫妻の娘でシンガーソングライターのいちごいちえ(深津絵里)と政略結婚、
彼は純粋に妻を愛するが、妻は円谷さんが好きだったのに…と夫を無視する。
やがてこの時代設定が第二次世界大戦中の満州であることが明らかになってから
文字通り卵はある方向へと転がり始める。
スポーツである「エッグ」の技術は細菌兵器に応用され、人体実験へとつながっていく。
日本の敗戦が決まるとオーナー夫妻によって責任は全てアベに押し付けられ、
彼は細菌を植えつけられて満州に置き去りにされる。
そこで初めて「誰からも愛されなかった」夫をひとりに出来ないといちごは駆け戻って来る。
そして夫の車椅子に寄り添った時、爆撃に遭って夫と運命を共にする──。
作・演出の野田秀樹の、「誰もやらないからボクがやる」的な挑戦は評価したいと思う。
前半は野田秀樹自らの劇場改修ネタも含めてコメディタッチ。
「演劇はおもしろくあるべき」(特別号外インタビューより)というポリシーのせいか
後半のシリアスな部分の比重が少なくかけ足の印象が否めない。
暗い歴史である「丸太」の人体実験を扱うのに、ラスト近く雪崩のような描き方で
オチはしっかり社会問題にしてみました、みたいな感じ。
演出自体はストレッチャーや白いカーテン、ビニールのような透明シート等を使ったりして
シリアスな展開にふさわしい緊張感があってとても良かったと思う。
野田秀樹自身、井上ひさしやつかこうへい、寺山修司の各氏に対する
オマージュがあると語っているが、(前出のインタビュー)
井上ひさしならもっと正面からどかんと扱う気がするなぁ。
遠慮がちにぼかしたり、ささっと足早に通り過ぎる所が
スタイリッシュに傾いていて、説得力という点では若干弱い印象を受けた。
ラスト、孤独なアベの元へ戻って来たいちごの行動にちょっと飛躍があり過ぎて
もう少しその前から気持ちの変化とか無かったのかなと思った。
4年間の結婚生活で、一方的に愛され大切にされてきたいちごの心情が
どこかで動いていたからこそ、ラストあの行動に結びついたのだと言う気がするから。
難しい椎名林檎の歌を、深津絵里は我儘アイドルのキャラでよく歌ったと思う。
声も良いし音域も広いが、いかんせん歌が難しくて生歌は気の毒。
エンディングに流れたのはCDらしいが、それはとても上手かった。
椎名林檎本人かと思っちゃった。
奥行きのある舞台を使って出演者みんな手前から奥へよく走り、舞台全体がダイナミック。
アンサンブルの動きに勢いと力強さがあって爽快感があり、
後半の満州を追われるスローモーションのシーンでは溜めた動きに心情がこもっていた。
橋爪功は大好きな役者さんのひとりだが、小悪党みたいな役をやると何とはまるんだろう。
ひびのこづえさんの衣装もシンプルで美しく、秋山菜津子と深津絵里はとても素敵だった。
A HALF CENTURY BOY
久ヶ沢牛乳
本多劇場(東京都)
2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了
満足度★★
ふーん・・・
久ヶ沢徹さんはSET所属の俳優・ナレーターということで50歳。
身長180㎝のガタイのいい人らしい。
でも全然知らなかった・・・。
だけど岩井秀人とケラリーノ・サンドロヴィッチが本を提供するんだから
”この役者にこれをやらせたい”と思わせる俳優さんなのだろうと期待して出かけた。
会場は熱心な女性ファンでいっぱい。
そして始まってみれば、まあ先回りするようによく笑うこと笑うこと。
そりゃ面白いですよ。
小宮孝泰、いしのようこ等達者な人が出てるしギャグは外れがない。
でもそんなに壊れたように笑うのは、かえって異様な感じがする。
身内ならではのネタには温度差を感じざるを得ない。
どのパートをどの作家が担当したのかがわからないのが残念だった。
岩井さんはこれかな、ケラさんはここかしら、と考える楽しみはあるにしても
久ヶ沢徹という俳優の魅力を引き出す為に複数の作家が本を提供するというのとは違う。
彼の半生記におけるいくつかのエピソードを脚色するに留まっている気がした。
”誰が書いても久ヶ沢徹の半生記”なら、逆にどうしてこの脚本家がそろったのか
どうして日替わりゲストに谷原章介とかが来るのか、
しろうとさんが楽しめるような裏話を聞かせて欲しかったなあ。
ふーん、本多でこういうのもやるんだって感じ。
久ヶ沢徹ファンクラブ向けイベント、
目的の違ういちげんさんにはついて行けないものであった。
勉強不足でどーもすいません。
ルルドの森
バンタムクラスステージ
コア・いけぶくろ(旧豊島区民センタ-)(東京都)
2012/09/07 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
生きている古代信仰
パイプ椅子と折りたたみテーブル、それに何枚かの布を使っただけのセットで
取調室からホテルの部屋、凄惨な犯行現場や司法解剖室まで自在に魅せる。
猟奇的殺人事件の謎解きと、人の心理の不可解さ満載の舞台。
息もつかせぬ緊張感のうちに事件は起こり、銃声が響き、犯人は笑った・・・。
ネタバレBOX
昔中学校の体育館の舞台はこんなだったっけ、と思いながら席に着いた。
校長先生が卒業証書を渡すようなひときわ高い舞台。
セットも何もなくて奥にパイプ椅子が見える。
事件はもう6件起きている。
いずれも遺体の一部、脳や肝臓などがきれいに持ち去られている猟奇的殺人だ。
そして7件目が発生する。
犯人は同一犯なのか、それとも別の人物か・・・。
事件を追う捜査本部のメンバーたちが関係者に当たるうち
昔カルト的人気を誇ったテレビ番組「ルルドの森」と
その主演女優菱見玲子(山本香織)に行きつく。
捜査官三島(福地教光)と黒船(早川丈二)は知らず知らず
次第に危険な森へと足を踏み入れて行く──。
最初から最後まで全く緊張感が途切れることなくストーリーにひき込まれた。
犯人と思しき人物は一人ではないし、捜査官も含めて登場人物の背景も複雑だ。
クールなようだが、犯人に対しては自分をコントロール出来ない三島がいい。
よくある刑事物とは一線を画すキャラクターがとても魅力的だ。
引退した女優菱見玲子がいかにもそれらしい美しさと貫禄を備え、
重大な秘密を抱えて悩むギャップが鮮やかだった。
この劇団はいつもそうらしいが、暗転がなく
場面転換を全て観客に見せながら行う。
役者がハケる時に椅子を持って行ったりするのだが
整然と静かに、黒子になったように、スピーディーで違和感がない。
セットがほとんど無い舞台をリアルに見せるのは音響の力もあると思う。
何度かある銃声など完ぺきなタイミングで素晴らしかった。
もうひとつ、照明による仏壇の表現などに工夫があって
こういう方法もあるのかと感心した。
それにしてもこの劇場(?)はちょっと気の毒だと思う。
下北沢辺り(他をよく知らないので取り敢えず挙げている)の
コンパクトな小劇場でやったらもっと濃密で張りつめた舞台になると思う。
そういう所でぜひまた観てみたい作品。
来年は本拠地を関西から東京に移すと言うバンタムクラスステージ。
ぜひぜひ東京でがんがんやって欲しい。
ダークなクライムサスペンス、サイコホラーなど、脚本が大変かもしれないが
笑いに頼らず無駄のない台詞とテンポの良いストーリー展開は素晴らしい。
このテイスト、笑いに転びがちな若手の小劇場系劇団とは一味も二味も違う。
私もキーワードとなった「金枝篇」を読んでみたい。
そして福地教光さん、素敵でした。
絶対また観に行きます!
眠れるホテルの羊たち
株式会社Legs&Loins
Geki地下Liberty(東京都)
2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了
満足度★★★★
洗練された空間
様々な理由で眠れなくなった人々が集まる癒しのホテル。
眠れないほど苦しくて、受け容れられなくて、寂しい人々にも
いろんな出来事が起こって少しずつ変化して行く。
ベタな展開と解っていながらラストはやっぱり泣いちゃった。
ネタバレBOX
開演20分前、少し暗い舞台にはもう出演者がいて話したり笑ったりしている。
中央奥にはホテルの受付カウンター、その手前に大きなソファ、
上手と下手には客室がある。
セットがシックで、スケルトンの客室の黒い枠や、そこにつけられた小さな照明が素敵だ。
前説にも出て来る白と黒の羊の衣装がかわいい。
ここは自殺の名所である樹海にほど近いホテル。
滞在費1カ月50万円には、1日2食と睡眠薬の処方がついている。
宿泊客は「自殺しないこと」を約束してチェックインする。
このホテルにある日一人の青年がやって来る。
彼にはある目的があり、それはオーナー夫妻に関わることだった・・・。
冒頭ソファに座って羊を数える少年ヒカル役の宮内彗人君はまだ11歳だという。(がんばって舞台にいっぱい出てね)
彼の母親はこのホテルにヒカルを置き去りにしたまま行方不明だ。
ヒカルは母親が見つかるのを待っている。
オーナー(新里哲太郎)は睡眠薬の代わりに切れ目なく酒を飲んでいる。
妻の深月(深華)はホテルを切り盛りしながらも常に優しく美しい。
元アイドルやヤクザ、ゲイの男(女?)、ギターをかき鳴らすナルコレプシーの男など
皆薬に頼って眠りにつくが、気をつけないと自殺を図る者が出る。
互いの気配を気にしながら、ここでは生きることが少し楽になるように見える。
青年メリノ役の梶原拓人さんがピュアでとても魅力的。
オーナー役新里哲太郎さん、飲んだくれる理由に説得力があり切なさ全開。
妻役の深華さん、美しく雰囲気抜群なのに台詞を噛んだのが惜しい!
サソリのジョー役の宮下貴浩さん、クールなヤクザがとても素敵だった。
人を救い、癒す空間の演出が巧みでいいホテルだなあと思わせる。
彼らが必要としているのは実は睡眠薬ではなくて、この空間、この人間関係だ。
最後、オーナーが傷ついたヒカルを抱きしめるところで
ベタな展開にやっぱり泣けたのは“ここにいれば大丈夫”という確信が嬉しかったから。
ギターがもっと本編の内容に絡んだら効果が集中するような気がした。
ライブのようにBGMとして演奏するとか、効果音的に入れるとか。
ただかき鳴らすだけではもったいないと思う。
役者さん達が、最後眠った場面から、一人二人ずつ起き上がって挨拶、
舞台を降りて去っていく終わり方にもセンスが感じられた。
居酒屋ベースボール、ホームページもクールなイメージだったが
その舞台もまた、洗練されたテイストが随所に感じられる劇団だった。
ナイアガラ
劇団HOBO
駅前劇場(東京都)
2012/09/05 (水) ~ 2012/09/10 (月)公演終了
満足度★★★★★
シリーズ化して欲しい
新宿中央公園に暮らすホームレスたちを描くほろ苦ストーリー。
“脇役体質の役者が全員脇役に徹する”とどうなるのかと思ったら
“ちゃんと舞台で会話する”とこんなに面白いということを見せてくれた。
厳選された台詞とそれを租借する役者の力、意外に(?)洒落た演出で
笑いながら、この笑いは久々の上質な笑いだと思った。
ネタバレBOX
奥行きのある舞台、ブルーシートの小屋が建っているので
ホームレスの話かと予想する。
暗転の後、座っている老人の見事な老けっぷりにびっくりした。
この山さん(喰始)、度々失禁するが、哲学的な発言で皆の尊敬を集めるインテリじいさんだ。
口元の衰えなどが自然で、喰始さんってこんなよぼよぼだったっけ?と思うほど。
この山さんを、口は悪いが親身になって世話する元建設会社社長のクマ(省吾)や
元床屋の拓(本間剛)、手癖の悪いのが玉にキズのガンちゃん(西條義将)、
最近仲間に加わった、リストラされた谷田貝(おかやまはじめ)など
ユニークな面々がそろっている。
ルポライターだという川本(古川悦史)も毎日のように通って一緒に飲んでいる。
彼らを束ねるのが、役所や支援団体・ヤクザとも“ナシをつける”社長(林和義)だ。
彼のさばき方が実に気持ちよく、それは距離感の保ち方が上手いからだと解る。
ここの住人の、互いの尊厳を大切にしながらさらりと協力し合う姿が実に良い。
普通の人のようにスーツ着て日銭稼ぎの仕事に行ったりするが
やはりどこか“ドロップアウトした人間”の哀しみと日陰感が漂う。
──この世には3種類の人間がいる。
敵と味方と無関心だ。
──暑さ寒さも空腹も工夫すれば何とかなるが、
孤独だけはどうしようもない。
だから人との関係だけは断ち切ってはいけない。
山さんの言葉をみんな噛みしめていて、
初めて野宿しようと公園にやって来る挙動不審な人に
さりげなくかける言葉や眼差しにその気持ちがあふれている。
脇役体質がそろうと何が違うのだろう、と思っていたが
相手の台詞を受ける芝居がこんなに会話を面白くするのかと目から鱗の体験。
かしわ手の場面とか、酔っぱらって同じ話をする件など爆笑もの。
アドリブなんだか綿密な演出なんだかか分からないけど可笑しさ全開。
ここから抜け出して行く者、故郷へ帰る者、フクシマへ稼ぎに行く者、
そしてそっと一生を終える者・・・。
様々な人を見送って一人公園に残った谷田貝が、新入りに声をかける場面。
その労わるようなさりげなさは、かつて自分がしてもらったことそのままだ。
この終わり方が力んでなくて秀逸。
台詞と言いこの終わり方と言い、すごく洗練されていてある意味洒落た演出だと思う。
これ、「ナイアガラシリーズ」にならないかなあ、
毎回変なおじさんが出て来て、みんないろんな人生があって面白そうだと思った。
本編ではないが、劇団HOBO ホームページの「予告CM」がめちゃめちゃ笑える。
喰始さんの「森の熊さんを詩吟でやります」って可笑し過ぎでしょ。
力で押すのではなく、受ける芝居ってこういうことなのかと再認識した舞台。
この台詞、この会話、私にとって絶対次も観たい劇団となった。
背水の孤島
TRASHMASTERS
本多劇場(東京都)
2012/08/30 (木) ~ 2012/09/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
饒舌な表現者
綿密な取材に裏打ちされた“リアル”と想像力の跳躍による”近未来”、この二つを一度に堪能できる脚本。
震災という人智の及ばぬ出来事の前に、人はどう生きるのか、どうあるべきか、メディアと国民性、
テレビに出来ないこと、演劇の可能性など
様々なことを考えずにはいられない素晴らしい舞台だった。
ネタバレBOX
客席に入ってまずセットに目が釘付けになった。
テレビ局らしい照明機材や机の上の小型モニター、
モニターの上に置かれている小さくなったガムテ、足元の紙袋のひしゃげ具合・・・。
ここに毎日通ってくる人々がもうすぐ登場するのを待つ血の通った現場だ。
重々しいBGMが流れる中、それを眺めながら開演を待つ。
プロローグ
やがて始まるプロローグでは、震災後まもなくこのスタジオで行われたひとつのインタビューが描かれる。
太陽光発電の1年分の発電量が、浜岡発電所の1時間分にしかならないという事実、
電力不足で、あのトヨタまでもが海外移転を考えているという日本の現実が明らかになる。
前編「蠅」
プロローグの後、数分間流れる字幕とその朗読で説明がなされ、
明けた時には、貧しい被災者が暮らす納屋のセットになっていた。
前編の「蠅」は、被災地の暮らしに密着するドキュメンタリー取材クルーと
被写体として選ばれた“最も貧しい被災者家族”の話だ。
急ごしらえの納屋を改造した部屋に父と医大生の娘、高校生の弟が住んでいる。
母親の遺体はまだ見つかっていない。
被災者の窮状をアピールするためには、洗濯機などあっては困るとか、
“知りたい”という欲求の前にはプライバシーなど無いも同然の取材する側の傲慢さ。
“人の役に立ちたい”と言いつつ自分の為に活動していることに気付かないボランティア。
補償金をもらって、働かなくても良くなった被災者の戸惑い。
再建には程遠い被災地の中小企業の現実。
もしかしたら死んだ人より生き残った人の方が悲惨なのかもしれないのが被災地だ。
取材クルーが目にしたのは、極限状態の中で価値観もモラルも
一瞬のうちにひっくり返り、あるいはじわじわと変貌する人間の危うさだった。
実はクルー二人のモラルだって異常事態を理由にとっくに崩壊しているのだが。
まさに“五月蠅い”蠅のぶ~んという羽音が時折客席の方にまで響く。
誰かが何かに群がって利を得ようとすると、その音が大きくなる辺り音響が絶妙。
後編「背水の孤島」
再び流れる字幕で時間の経過が説明され、彼らの7年後が始まる。
後編「背水の孤島」のセットは原発推進派の大臣室である。
開け閉てにびくともしない重厚なドア、調度品、壁面の作りなど相変わらず秀逸。
医大生だった娘は被爆した人々を救う為の研究を重ね、
その論文は海外では認められたが
日本政府は「補償金額が莫大になり財政が破たんする」ことを理由に認めようとしない。
高校生だった弟は、今その大臣の秘書を務めている。
その弟が、テロまがいの脅しで大臣に自分の要求をのませようとする。
その要求とは、姉の論文を認めさせ、それを踏まえた被爆者救済法案の立案と
国債の海外向け発行の中止である。
人を傷つけず、自分が逮捕された後に大臣が変心することを計算に入れた巧みな計画で
説得力があり、見ごたえがある。
(緊張感の極みの場面で銃の弾倉だろうか、外れて落ちたのは残念だった。笑っちゃった…)
最後は国家でもマスコミでもなく普通の人々が「正しいと信じる」選択をして終わる。
苦いけれど爽快で、未来に少し希望が持てそうなラストが良かった。
役者陣は皆役に染まって熱演だが、
父親役の山崎直樹さん、大臣役のカゴシマジローさんが見事にはまり役。
野崎役の龍坐さん、前編の放射能の影響に立ちすくむところ、観ていて怖くなった。
もちろんツッコミどころはあるだろうが、
私が震災のような現在進行形の出来事をテーマにした作品に求めるのは
「別の視点」と「想像力を駆使した可能性」の提示だ。
この作品は、その2つを最大限に見せてくれる。
東電や政治家の言い分も言わせた上で、「それは違うだろ!」と
真っ向から言える脚本がどれほどあるだろうか。
毎回の凝りに凝ったセットにしても、時間の蓄積を雄弁に語るところを目の当たりにすれば
登場人物のキャラ設定同様、背景も大切な表現者なのだと解る。
この暑苦しいまでの、表現せずに居られない体質がTRASHMASTERSのすごいところだ。
さっぱりと洗練されずに、ずっと饒舌な表現者で有り続けて欲しい。
忘れっぽい私にがつんと刺激を与えてくれたことを感謝したいと思う。
うつくしい革命
劇団フルタ丸
「劇」小劇場(東京都)
2012/08/31 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了
満足度★★★★
フルタ丸の進路
結成10年となるフルタ丸が、「ちゃんちゃらおかしい」(当日パンフより)という
理想と現実の狭間で
「演じる」こと、それを「仕事」にすること、それで「生活」することを問いかける。
その上で「当然やるっきゃないでしょ」という決意が示されている。
前半の抑圧された描写の緊張感と、後半真実が明らかになってからのギャップが鮮やか。
ネタバレBOX
元遊園地だったところにある郊外のタウン。
ここには「二度と演じません」という約束と引き換えに
生活を保障された元役者たちが暮らしている。
そこへマツナカ(真帆)というひとりの元役者がやって来た。
彼女は監視員から、演じることや戯曲の朗読、モノマネ等も禁止されていて
禁を破れば銃殺も覚悟しなければならないこと等の説明を受ける。
舞台上手の一段高いところに彼女の部屋は用意され、
その部屋から広場を見下ろすことができるようになっている。
部屋には最初からオペラグラスが置かれていて
マツナカは自然にそれで広場を見下ろすようになる。
やがてこの安定した暮らしを維持しつつ、ここで演じることができるよう
革命を起こそうという密かな動きが現われた。
誘われたマツナカは頑なに拒否するが、やがてあることに気づく──。
“役者で食ってく”事の厳しさから、次第に疲弊して行く残念な現実。
作者はこの根本的な“職業的困難”を憂いつつ
じゃあ、辞めれば楽になるのか、楽になれば幸せなのかと突き付けて来る。
その姿勢に悲壮感はなく、むしろ笑い飛ばしているところが心地よい。
しかもラストはマツナカの選択にウルッと来てしまった。
住民たちの「舞台組」と「映像組」の対立や、内通者の存在などがリアルで
前半は銃の「パン!」という音も緊張感を呼ぶ。
エピソード毎の暗転が頻繁で、少し流れが途切れがちな印象だったが
後半、真実が明らかになってからは勢いがついて気にならなくなった。
勢い余って若干持って行き方に無理も感じられたが
マツナカを現世(?)へ戻す為の「強力なワークショップ」だと思えばいいか。
ならば尚更、マツナカが演じることをあきらめて来た理由づけが弱いのが残念。
ただ所属劇団が潰れたというだけでなく何か強い理由があれば
再びそこへ戻る覚悟が感じられるような気がした。
役者陣が個性的なキャラクターを生き生きと演じていて、
演じることの根源的な意味を考えさせる。
母親を演じ、キャリアウーマンを演じ、強い男を演じ、悪女を演じる・・・。
そもそも人は、どこからが素でどこからが演技なのか曖昧なものだ。
マツナカが食らったビンタの「びたん!」という快音が忘れられない。
あれは“現実”の音だ。
フルタ丸は“現実”を少し距離を置いて眺めながら、
真面目に自分の進路を進んでいて、その青臭いまでのみずみずしさが魅力だ。
フルタさん、うつくしい革命はその航路の彼方にあるんですね。
いい嘘、悪い嘘
山田ジャパン
ウッディシアター中目黒(東京都)
2012/08/29 (水) ~ 2012/09/02 (日)公演終了
満足度★★★
嘘とホラ
後から思い出しても、すぐに役名と役者名が結びつくのは
濃いキャラ設定と役者陣の熱演の賜物だが(親切なパンフもある)
個人的にはもう少しリアルな嘘の方が笑えたかと思う。
ネタバレBOX
下町のカフェ&ケーキの店で
貧乏劇団の座長でもある店長と座員、常連客たちが
即席ウソ劇団を結成、出張演劇の依頼に応えてミッションに挑む。
「不倫の恋人と別れたい・・・」
嘘が嘘を呼び、嘘に嘘を重ねて話はどんどん拡大していく。
SPに守られたり、爆弾処理したり、果てはゾンビに宇宙人・・・。
ゾンビ辺りから、その嘘の大きさについていけなくなってしまった。
誰も騙されない嘘って、それは嘘じゃなくてホラじゃないだろうか。
ハタから見る嘘の面白さとは、
“小さなウソが次第に自分の手に負えなくなっていくさま”ではないかしら。
悪気どころか、良かれと思ってついたささやかな嘘が身の破滅を招いたり
収集がつかなくなってパニックになったりするところが可笑しいのだと思う。
早々にありえない方向へ行ってしまうと、もうあとはハチャメチャしかない。
それもひとつの面白さだろうと思うけれどこのストーリーは、
親子が互いに素直になったり、芝居を諦めるという主人公を説得したり、
不倫の精算も不器用ながら誠実だし、誰もが生きることに真摯だし・・・と
“ちょっといい話”がラストにあるのでなんだか勿体ない気がする。
この力技みたいな脚本に役者陣はよく応えていて
天然石のブレスレットを売る会社員高橋(小林大介)や
シングルマザーの美里(相原美奈子)などはキャラに無理なくはまって
台詞もよくなじみとても面白かった。
しかしウッディシアター、詰め込んだねえ。
小さい座布団が重なるように並べられて
常に隣の知らないオヤジと腿が触れ合う1時間30分。
もう少し快適な観劇環境を提供することも考えていただけたらと思った。
【全日程終了!!!】鬼FES.2012【ご来場有難う御座いました】
ロ字ック
APOCシアター(東京都)
2012/08/24 (金) ~ 2012/08/26 (日)公演終了
満足度★★★★
女子は AB-normal
3日間で18劇団が30分ずつの演目を披露、
ビールやかき氷片手にスタンディングで観劇するという夏のフェスの2日目
拘束ピエロを観る。
6月に観た「so complex semi-normal」が男の子バージョンなら
こちらは女の子バージョンということで興味深々出かけた。
ネタバレBOX
セットは椅子がひとつだけ。
さほど奥行もない横長の舞台をフルに使って
いじめられる側が「リセット!」の一言でいじめる側に周り、
髪を切られて、回りまわって仕返しされて、・・・と
加害者と被害者がくるくる入れ替わる様は男の子バージョンと似た展開。
ゲーム感覚で暇つぶしのようにターゲットを決めては複数で痛めつける。
白いドレスを着せられたら、さあ、今度はあなたがいじめられる番。
ここで責められるのは「いじめた人間」ではなくて
「いじめを見ていて助けてくれなかった人間」だ。
助かるチャンスも、変わるきっかけも奪った人間、
自分が標的にされることを恐れた卑劣な傍観者だ。
ちくっと胸が痛むけど、適当に言い訳しながらすり抜けて行った奴。
簡単に立場が入れ替わって誰もがいじめていじめられて
でもその中には時間がたっても絶対に許せない人間もいる。
だから仲直りして後ろに回って髪を切ってあげていた彼女は
そっと大きなハサミに持ち替える。
そのハサミがギラリと光った瞬間に暗転・・・。
──やっぱり女は殺しちゃうんだ。
この鋭いラストと、冒頭ゲームのように標的が決まるキレの良い演出が秀逸。
長い髪と白いドレスが次々と移って行って
今いじめられているのが誰だかわからなくなるような感覚。
30分で見事に完結する中身の濃い舞台だった。
役者陣の台詞も緊張感をキープして見ごたえがある。
この1回で終わるのはまことに勿体無い。
男の子バージョンとセットでやったら面白いのに。
いじめる人間は何を満たしたいのだろう?
男子が暴力支配による自己顕示欲なら
女子は論理なき女王様願望だろうか。
そんな単純なものではないだろうが、いずれにしてもその理由は虚ろなものに見える。
男の子バージョンもそうだったが
この日のいじめも、こちらが痛くなるようなリアルな描写で
相変わらずの容赦ない感じが強く印象に残る。
そこそこの写真
各駅停車
OFF OFFシアター(東京都)
2012/08/23 (木) ~ 2012/08/27 (月)公演終了
満足度★★★★
淀みない台詞
半分しか血の繋がらない姉妹たちが、父の“余命2ヶ月”を機に実家へ集合する。
軽やかな会話の裏にある、半分だからこそ
その絆を大切にする姉妹の切ない気持ちが伝わってくる舞台だった。
説明的でない、台詞の質を堪能した。
ネタバレBOX
舞台は田舎の広い一軒家の庭である。
素朴な木のテーブルの周りに手製の木の椅子が3脚、ベンチが一つ置かれている。
その奥は懐かしい縁側、サッシではなく木枠のガラス戸は常に開け放たれている。
客入れの段階から蝉の声と夏祭りの笛の音が小さく流れていた。
駅からも遠い不便な場所だが、この庭からの眺めは素晴らしいという設定。
槙田家の4人姉妹のうち次女が父親とふたりで住む家に
次々と他の姉妹たちが帰ってくる。
一度倒れた父が、いよいよ余命2ヶ月と宣告され、次女が知らせたからだ。
好き勝手に生きてきた父のおかげで彼女たちは母親の違う姉妹である。
父の最期を見守るため皆しばらく滞在することになる。
なめらかに、転がるように姉妹たちの会話が弾む。
その会話の中に4人姉妹の性格がそれぞれ豊かに描かれている。
おっとりした長女(桜かおり)は、休みは簡単にもらえたと言うが何か秘密がありそうな様子。
おおらかに姉妹達を迎える次女(梅澤和美)には、母親とではなくこの父と暮らす理由があった。
三女(長沢彩乃)と四女(加藤尚美)は顔を合わせれば口喧嘩ばかりしているが
実は誰よりも相手のことを心配していて、喧嘩はその裏返しみたいなものだ。
次女のキャラクターがとても魅力的で安定感がある。
彼女を軸に、父親の死をめぐって姉妹たちの過去と現在が描かれる。
「槙田さんちのちっとも似てない4姉妹」と言われながら育った子ども時代を共有する彼女たちは、
その絆が片方だけであるがゆえに、一層強く結びついているように見える。
父親の再婚によって同居することになったとはいえ、
本来なさぬ仲の4人が互いの存在を認め合うのにはそれなりの時間がかかっている。
後半、突然の五女(小瀧万梨子)の出現に誰もが驚いたが
それを素直に受け入れる土壌が自然に出来ているのもとても良かった。
初日の舞台ながら、淀みなく交わされる台詞の応酬が心地よく
縁側から出入りする緩やかな生活空間が、のどかな地方の暮らしを思わせて楽しい。
姉妹の他に、父の民芸品作りを手伝う弟子の青年(大金賢治)や
ただ一人結婚している四女の夫(伊藤毅)、
民芸品ビジネスを手伝う女性(日向彩乃)らがみな個性的で
姉妹が奏でるアンサンブルに程よい変化と客観性をもたらしている。
“説明させる”のではなく、何気ない会話の積み重ねによって
登場人物のキャラクターを浮き上がらせるのは“質の高い台詞”によるものだと思う。
微妙に変化する照明も、繊細でとても良かった。
「お父さんが死んだらみんなで写真撮ろうか」という長女の言葉の
本当の重みがわかるのは物語の終盤になってからだ。
その写真は、“そこそこ”どころか
これからの彼女たちを支える大切な一枚になるに違いない。
ラスト、次女が長女にかける「いってらっしゃい」という言葉に
思わずほろりとさせられた。
窓からは夏の空が・・・
演劇集団Nの2乗
「劇」小劇場(東京都)
2012/08/21 (火) ~ 2012/08/26 (日)公演終了
満足度★★★★
離婚の理由
築40年の一軒家のリビングを舞台に、離婚したい人、離婚したくない人、
離婚した人、一人で寂しい人など様々な人間模様が繰り広げられる。
役者陣がそれぞれのキャラを生き生きと演じていて充実の舞台だが、
それだけに離婚したい「理由」が語られないことが最後まで気になった。
ネタバレBOX
ダイニングテーブルに椅子が2脚、上手に2人掛けの長椅子というさっぱりしたリビング。
築40年という年代を感じさせるものは特に見当たらないが
壁に掛かった数枚の和な感じのタペストリーが少し雰囲気を醸し出す。
この家の住人瞳(大室由香利)が修造(藤原基樹)に離婚届を突きつけ
署名捺印を迫るところから物語は始まる。
もう瞳の引越し先も決まり、あとは修造が身の振り方を
決めるばかりになっている。
なんとか少しでも結論を先延ばしにしようと悪あがきをする修造。
そこへ職場の先輩や大家、それに四国にいるはずの修造の姉までが
次々とやって来て、ことはちっとも進まない。
さらに不動産屋が、新しい借り手早苗(江口ヒロミ)と幸一(高沢知也)を
連れてやってくる。
ついに業を煮やした瞳が皆の前で離婚を宣言、
雑誌の離婚特集に背中を押されたと話す。
偶然なことに新しい借り手早苗は、その雑誌の副編集長だった。
瞳は、この時とばかりに早苗に特集の内容について尋ねる。
すると早苗の口から意外な言葉が・・・。
登場人物がくっきりと表現されていてとても魅力的。
特に女性誌の副編集長で11歳年下の読者モデルと再婚した早苗を演じた江口ヒロミさん、
キャリアウーマンとしての自信と、再婚した幸せオーラのバランスが素晴らしい。
所謂キャリアウーマンによくあるヤな女ではなくて
思慮深く温かみのある女性として描かれていたのがとても良かった。
彼女の「好きという気持ちが、信頼や尊敬という気持ちに移行できるかどうか」が結婚の鍵だという言葉、本当にその通りだと思う。
この説得力ある言葉と、年下の幸一との絆を感じさせる初デートのエピソードが
その場にいたすべての人の心に染み入るのがわかる。
瞳も修造もチャーミングな人間なのに今ひとつ感情移入できなかったのは、
瞳の「離婚したい理由」がよくわからないからだ。
離婚の理由なんて一つではないかもしれないし、言葉では表現しにくいものだろう。
でもその“表現しにくいものを一生懸命表現して相手に伝えようとすること”が
“相手と向き合う”こと、最も”エネルギーを要すること”ではないだろうか。
だとしたら修造にも観客にも曖昧なら曖昧なままに、伝えようとして欲しかった。
あんなにひとりで先走って(いるように見える)離婚したがる理由は何なのか、
修造のはっきりしない性格だけが問題なのか、私は知りたい。
四国から家出してきた姉が離婚したい理由も「いろいろあるのよ」って
そりゃそうだろうけど、あなたの「いろいろ」のさわりだけでも話してくれませんか?
ラスト、姉は四国に戻り、二人は話し合って離婚となったが
あの“ぐだぐだ逃げ一点張り”だった修造が
いったいどんなふうに向き合って、何が変わってそのさわやかな表情になったのか、
そのプロセスが一切描かれないので、若干置いてきぼり感を覚えたかな。
あの二人がもう一度考え直す余地がありそうな結末は、
希望の気配があって良い終わり方だったと思う。
それから聞きにくいことを率直に口に出しちゃっては
周囲から口を抑えられたり「それを言っちゃう・・・」とたしなめられたり、
というパターンが多すぎて、その言い方でしか質問できないのはちょっと残念。
この辺がコントっぽくて、魅力的なキャラのなのに会話の仕方が勿体無い気がした。
終盤、真ん中から外へ左右に大きく押し開く窓を開けた修造の視線の先には、
夏の空が広がっているのが感じられた。
人を呼び人を包み込む、この古い一軒家の佇まいが浮かぶようだった。
今夜此処での一と殷盛り
風雷紡
サンモールスタジオ(東京都)
2012/08/11 (土) ~ 2012/08/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
探偵は二階にいる
大正13年、長野県諏訪で謎の多い凄惨な事件が起こるまでと、
昭和22年東京大森の探偵事務所での謎解きが交互に照らし出される構成。
暗い歴史のリアルさとコミカルな探偵事務所のやり取りのバランスが素晴らしく
演出の妙を堪能した舞台だった。
ネタバレBOX
劇場に入るとまず囲炉裏を切った土間のある古い家が目に入る。
部屋の壁には柱時計が3つ、いずれも紐でぐるぐる巻きになっている。
上手2階の高さには御簾がかかっていて、その奥に部屋があるらしい。
庭の垣根の前に糸車が置いてあり、
この糸車が照明に浮かび上がってひとりでに回るところから舞台は始まった。
御簾の奥は探偵事務所、と言っても野崎(谷仲恵輔)が間借りしているささやかな部屋だ。
昭和22年、ここへ一人の少女(吉永雪乃)がやってきて
「先日亡くなった祖父のことを調べて欲しい」と依頼する。
謎の多い祖父の人生、大量殺人事件の噂、一夜にして地図から消えた村、残された遺書など観ている私たちも、事件の真相を知りたくなってくる。
古民家の囲炉裏端は大正13年の長野県姫淵村である。
養蚕業が成り立たなくなってからというもの、ここでは村の娘を売って生活していた。
「見目がよければ宿場町、手先が起用なら工場町」という言葉の通り
お婆様(横森文)の占いによって決められ、売られていく。
やがてこの村を支配する御子柴一族の複雑な人間関係や
それがもたらす歪んだ憎しみが明らかになっていく。
一族の言うままに娘を売ることになった一人の父親が絶望して首を括り、
母親は村と因習を呪ってついに凶行に及ぶ・・・。
そこに行き着くまでに、彼らを取り巻く人々の優しさと悲しみが丁寧に描かれているので
このおどろおどろしい出来事が本当に哀れに思われる。
片目のお婆様を演じた横森文さん、凄みがあって存在感ありまくり。
東京から戻った御子柴家の長男太一郎を演じた及川健さん、
育ちの良さが透ける涼やかな声と容姿ながら、母親への屈折した思いが滲んでいた。
この村の因習を断ち切ろうとするかのような壮絶なラストが強く印象に残る。
そして探偵野崎役の谷仲恵輔さん、表情がイマイチはっきり見えない御簾越しの演技だが
大仰な動きと声がコミカルな味を出して、暗い時代との対照が際立つ。
中原中也の詩の朗読も、次第に哀愁を帯びるように変化していってとても良かった。
大家のお駒(吉永恭子)との掛け合いも息が合っていて
“二階の探偵”シリーズになりそうな雰囲気。
ちょっと物足りなかったのは、
少女のお世話係としてついてきた、鍵を握る女性累(松葉祥子)が
情報を小出しにして真実へと探偵を導いたその真意がイマイチわからないこと。
“火サスの崖”じゃないけど、最後に累がその出自や本心を語ってくれたら
もっとわかりやすく、腑に落ちたんじゃないかなあという気がした。
私の理解力不足かもしれないけど・・・。
オープニングの音楽や舞台の作り、脚本構成すべてが厳選されていて
そこに役者がぴたりとはまりこんでいる。
御簾がかかると照明が柔らかくなり、悲惨な時代とのコントラストがより強くなる。
明と暗、軽と重、強と弱、その計算され尽くした対比の結果、時代と人の心が一層浮き彫りになった。
タニンノカオ~人命救助法2012
シンクロナイズ・プロデュース
東京アポロシアター(東京都)
2012/08/09 (木) ~ 2012/08/19 (日)公演終了
満足度★★★★
スキャンダル!
人間の“欲望の行き着く先”を描いた二つの作品は、不条理というより
スキャンダラスな新聞の三面記事のよう。
コミカルとシリアス、全くテイストの違う2作品で1時間45分とコンパクトながら
ストーリーの面白さと演出の違いがとても面白かった。
ネタバレBOX
「人命救助法」
溺れた人を助ければ、表彰され名誉を得てその結果金になる・・・(マジっすか?)
だから4人で協力して“やらせ”の人命救助をしよう!という話。
冒頭のコーラスが楽しい。
♪わら、わら、わーら♪
と藁をも掴む輩を揶揄する歌詞で結構上手に歌うもんだからますます可笑しい。
銀行の融資やら、校長への昇進やら様々な思惑を抱いて腹黒い4人が結託する。
ところが案の定裏切り者が出て水の中で足の引っ張り合い。
このスローモーションの格闘がとても面白かった。
ブラックなそれもあっけないブラックな結末で、
掴む藁を間違えるとこういうことになるんだと実感。
薄暗い舞台上で背中を向けて着替える役者を見せながら次の作品に入っていく・・・
しかもとてもスマートに行われていて感心した。
2つの作品が関連性を持っていること、
そして同じ役者がここからスイッチを切り替えていくことが伝わって面白い。
「タニンノカオ」
施設の爆発事故で顔を失った男。
欠損した人体のパーツを本物そっくりに作る医師が彼に新しい仮面を与える。
見た目と機能を補えば、人工パーツによって元の生活を取り戻すことができるのか、
それはパーツが「顔」でも同じなのかという
東大医学部卒の安部公房らしいこだわりが感じられる。
首から上をすっかり白い包帯で覆うという姿は、
他のどの部分の怪我よりも非日常的で、もはや普通の人生とは思えない悲劇が漂う。
周囲や妻と、それまでのような人間関係を築けなくなった男は
全く新しい「顔」を得ることで自分の存在を取り戻そうとする。
「他人」になりすました男は、外で出会った妻を誘惑して交際を始める。
だがあっさり自分の誘いに乗った妻に対する不信感に悩み
ついに自分が夫であることを告白する。
だが実は、妻は「他人」が夫であることに気づいていた・・・。
冒頭、包帯男の声のトーンがちょっと不自然に聞こえたのは
包帯のせいでくぐもっていたのか、それとも
1本目と違うキャラであることを強調しているのか理由は定かでない。
自宅では相変わらず包帯の「夫」、外では新しい仮面で「他人」と
2人の役者がひとりを演じる、切り替えの演出が面白い。
自分を取り戻そうとしてやったことなのに、取り戻すどころか
さらに失うことになった男の混乱と失望が浮き彫りになる。
「顔」は単なる身体の一部分ではなく、
取り替えの効かない「自己」そのものなのだと改めて感じる。
同時に、妻ばかりか大家の知恵遅れの娘にも正体がバレていたという事実に
「顔」が変わっても「自己」の本質は変わらないのだとも言える。
彼は一体何のために新しい顔を手に入れようとしたのか?
個人的には2本目の「タニンノカオ」のストーリーと演出が好み。
人間の喪失感と変身願望が、今の時代を感じさせてとても面白かった。
約50年も前の作品のテーマに、改めて普遍性を感じた。
コングラッチュ ユー
チャーミーゴリラ
小劇場 楽園(東京都)
2012/08/07 (火) ~ 2012/08/19 (日)公演終了
満足度★★★★
ダンスと歌のレベル高し
役者陣の濃い目の演技と、マジなダンスと歌が良い対比を見せる。
軽くて楽しくて笑って終わるかと思っていたらなんだか涙が出てきちゃった。
おまけに私がファンクラブに入っている
あのアーティストの歌に乗せて踊りまくるから思わず☆が増えそうになった。
ネタバレBOX
ラジオから流れた「姫島の霊媒師」の話に引き寄せられて
この島へとやって来たケンタ(中村恭平)。
島の人々や他の観光客と一緒に、死んだ姉の霊と語り合うことで
周囲も自分も変化し成長するというコメディ。
脚本はイマドキのお笑いセンスで細かく笑いを入れてくるタイプ。
やりすぎるとコントをつないだようになりがちなところを
役者陣の濃いキャラ作りでバランスをとっている。
ダンスと歌が本格的でびっくりした。
なんでこんなに上手いの?
と思ったらそちらの分野で活躍しているプロの方だった。
でも他の役者さんたちも、メリハリの効いたダンスがとても素晴らしかった。
終盤姉の霊と話すシーンがしんみりさせて良かった。
「自分らしく」「自分のために」生きることばかりが強調されがちな時代だが
やっぱり”誰かのために生きる”“誰かの分まで生きる”ってあると思う。
それは人を支えるし、人を大きくするだろう。
ちょっと出ハケが頻繁で落ち着かない展開だったが
もう少しストーリーを整理したら“誰かのために生きる”という
ケンタの決意がさらに際立ったような気がする。
笑いと涙のコントラストがはっきりすれば、物語に深みが増すと思う。
そこそこ歌って踊る劇団はいくらでもあるが、このくらいのレベルになると
劇団の個性としてとても面白い。
イッチー役の後藤健流さん、キレの良いダンスが素晴らしくて見とれてしまった。
コウヘイ役の竹村つとむさん、ラストのアカペラが泣かせる。
いい声だし、いい歌だった。
タケシ役の藤枝直之さん、この濃いキャラを一貫してブレずに演じて面白かった。
サブストーリーの充実に大いに貢献している。
超個人的に挿入曲の選択が良い。
「歩いて帰ろう」がガンガン流れて私はあやうく立ち上がりそうになった。
チャーミーゴリラ、終わってみればなんだかウホウホな気分であった。
THE TUNNEL
ユニークポイント
座・高円寺1(東京都)
2012/08/10 (金) ~ 2012/08/14 (火)公演終了
満足度★★★★
これが答えだ
奇しくもオリンピックのサッカーで日韓の関係性が浮き彫りになった昨今
カラフルなスコップのフライヤーも印象的なこの公演は
異文化と歴史の対立を超えた未来の可能性を考えさせる。
トンネル反対派に対する説得力に欠けるのが残念だが、
この作品の制作意図、制作体制こそがその答えではないか。
ネタバレBOX
舞台にはトンネル工事現場と思しき小高い山が2つ。
2つのあいだには通路が架っており、1つはなぜかてっぺんから滑り台で降りられる。
冒頭、上手と下手に役者が別れて並び、そこから順番に小高い山に駆け登って
話したり踊ったり肩を組んだりして滑り台から下りて来ては、それを繰り返す。
それがあんまり嬉しそうで楽しげなので
障害が多いに決まってるこの話が、明るい結末を用意しているのだと判る。
役者陣の豊かな表情と身体表現から、どうやってここに至ったのか知りたくなる。
福岡―釜山130キロをトンネルで結ぶという国家プロジェクトが始動し
賛成反対、賛否両論渦巻く中で、様々な立場の人々を描く物語。
トンネル工事現場の作業員が面白い。
日本側の作業員と班長(栗原茂)の、仕事や家族に対する考え方が変化していく様がリアル。
韓国側の作業員を演じる韓国の役者さん二人が、とても達者な方たちだった。
韓国語にはバックに字幕が映し出されるが、なくても想像できるほど豊かな表現力。
公園の女(石本径代)、おおらかで野性的なキャラクターがとても良かった。
達観した眼差しで、リヤカーで旅をする一家や学校へ行かない少年を見守る。
ギターをかき鳴らしながら唄う姿が強く印象に残る。
高校の演劇部はまるで社会の縮図のようだ。
トンネル開通式典での出し物を依頼された高校演劇部は喜びに沸き立っている。
父親がトンネル工事の仕事をしている生徒もいる。
ところがトンネル反対運動のメンバーの話を聞いて
自分たちの活動に疑問を持ち始めた一人の生徒が、式典参加を取りやめようと言い出す。
演劇部が分断される事態に、顧問の先生は無理に説得をせず
みんなの総意なら取りやめても構わないと話す。
結局、式典当日の反対運動メンバーによる妨害にもかかわらず
最後はみんなで歌ってハッピーエンドになるのだが
この持って行き方に説得力がないのが残念。
妨害されて思わず壇上に上がり、自分の心情を訴える高校生の言葉に
「それでも自分はトンネルの向こうにある未来を見たいのだ」という説得力がない。
未来を担う者が、たとえ拙い言葉でもその先にある未来を切り拓く決意を語らずして
一体他の誰がここで演説するべきだろうか。
一番の見せ場で「私の高校生活」を語っても、
反対派の心を変化させる理由にはなりにくいと思う。
ここが弱いので、ハッピーエンドになだれ込むのが安易に見えてしまう。
「それがみんなの意見なら、式典参加を取りやめてもよい」と理解を示す
顧問の先生(渋谷はるか)はとても良い先生ぶりではまっている。
ただこれも、反対運動に傾く生徒に語りかける言葉に力がない。
真摯に教師に向かって疑問をぶつける生徒の方がよほど力強い。
「自国の文化が損なわれる」と危惧する反対派に
両国の市民レベルの交流とか、互いを理解するための具体的な行動など
抽象的な不安を払拭し、それを凌駕するだけの流れが示されないので
せっかくの大団円が虚ろなものに見えてしまってとても残念だった。
白い衣装で人々を見守る明花さんが奏でる韓国の楽器は
個性とメリハリのある音で良かったと思う。
個人的にはトンネルの完成後、淡々と次の現場へ行くという班長と
それを支える妻(齋藤緑)、姉と弟の一家が現実的で温かく
自国の文化とはこういう市民が家庭において守っていくのだなあと感じた。
演劇人がこういうテーマに取り組む姿勢、制作体制は素晴らしいと思う。
こういう動きこそが今後の両国を変えていくのだと
私はトンネル反対派に訴えかけたい気がするが、
山田さん、どうだろうか?
富裕
monophonic orchestra
新宿眼科画廊(東京都)
2012/08/10 (金) ~ 2012/08/15 (水)公演終了
満足度★★★★
リーディングのだいご味
リーディングの面白さは、動きが限定される分台詞に集中できる事だ。
それはそのまま役者さんの力量が露わになることでもある。
須貝英という人の抽出する会話のリアルさが際立つ公演だった。
ネタバレBOX
「浮遊」に登場するのは1人の男(大石憲)と2人の女(安川まり、伊佐千明)。
“失踪”というちょっと衝撃的なキーワードが介在する微妙な関係の3人。
富裕とは所有する“量”ではなく“質”の問題なのだと思う。
多くを所有することより、何をどこまで所有するか、その深さが問われる。
所有の仕方が浅いと、人は不安になって
相手を試したり傷つけたくなる──。
安川まりさんの、どうしようもない喪失感が痛々しく
ラストの悲しみと同時にどこかほっとした表情が良かった。
3人の関係が、過去と現在を行き来しながら描かれる。
それにしても男はどうしていつも答えを出さないのか。
女が突きつけたものに従って生きているように見える。
「ファーファーファーファー、ファーラウェイ」は2人芝居(片桐はづき、櫻井竜)。
台詞の醍醐味とリアルさで、この日一番印象に残った作品。
高校生2人の電話での会話から始まるこの話は、
冒頭のリアルなやりとりで一気にひき込まれた。
ディズニーシーに2人で行きたいけど、相手が少しでもそれをためらうようなら
みんなで行こうって言おう・・・という手探りの期待感が伝わって来て微笑ましい。
上手と下手に離れて向かい合っていた役者2人が
少しずつ歩み寄ったり離れたりするのが彼らの関係を視覚的に示して面白い。
ここでも女が「もう友達同士には戻れないのを覚悟の上で」告白しても
男は明確な返事をしない。
その後も節目節目には電話で連絡を取り合いながら細いつながりを絶とうとはしない2人。
自分が所有したい相手から、「所有したい」と言われない失望感を抱えてきた女が
「さよなら」と言ったとき、ようやく大人になったのかもしれない。
告白のときの片桐はづきさんの初々しい覚悟と
ラストの「さよなら」が切なくて泣けてしまった。
生き生きと躍動感ある会話が楽しく、話の弾む高校生の会話を隣で聴いているよう。
この会話の再現が素晴らしい。
単なるイマドキのてれてれした会話の再現ではない。
きちんと再構成されていながら“平成24年の会話”になっている。
あえて間を置かずに会話の内容で時間の経過を知らしめる方法も、
テンポを落とさず全体の流れを止めることもなくて良い。
2人が常にテンション高く、快活で、話題を選んでいるのは
相手に不機嫌な声を聴かせるほど親しくなれない2人の関係を物語る。
この戯曲は、リーディングでもう完成されているような気がする。
もうひとつは「一人寝の夜に」という小説の朗読。
ホチキスの村上直子さんの朗読で
須貝さんの繊細な目が感じられる作品。
「浮遊」の本公演はどこがどんなふうに変わるのだろう。
須貝さんの人間観察の鋭さと共に興味が尽きない。
わずか20名ほどの観客を前に演じられるという贅沢なひとときを堪能した。
「ごらく亭」の夏休み
オフィス・REN
北沢タウンホール(北沢区民会館)(東京都)
2012/08/09 (木) ~ 2012/08/09 (木)公演終了
満足度★★★★
究極の一人芝居
最近は創作落語で人気が出る噺家が多い中、
役者が古典を選ぶところが面白いし嬉しい。
もはや“役者さんの落語”ではないレベルを堪能。
開口一番の前田一知さんは故桂枝雀師匠の息子さん。
演目「平林」、枕の声が枝雀を彷彿とさせてちょっとびっくりした。
普段はバンド等の活動をしていて落語は“最近趣味で始めた”と言っているが
もはや趣味の域ではないし、古典に向いた声だし、もっと落語をやってほしい。
松永玲子さん(ナイロン100℃)が落研出身とは知らなかったが素晴らしい。
男勝りの女房となよなよしたお妾さんのキャラが、
練り上げた声で見事に対比されて、さすが役者さんの落語。
ラサール石井と小倉久寛の漫才が、この日一番笑いをとったかもしれない。
小倉さんのキャラを存分に生かしたネタで、これは鉄板。
終始自信なさげな彼の言動に大いに笑った。
ラサール石井さんの「つる」、大ウケで拍手が出たのが
言い間違った時だったのはご愛嬌。
トチるとすぐバレるのも古典ならではだろう。
トリは松尾貴史さんの「宿屋の富」。
日頃クールなキャラの松尾さんが、くじが当たって動転する男を演じるのが可笑しい。
全体に一つの演目にかける時間が短く、みんな駆け足なのが残念。
皆さんせっかく稽古するのだから、お座敷芝居なしでゆっくり噺を聴きたいと思った。
落語は究極の一人芝居、時代の空気や人情を写すのに間とテンポは必須だ。
それが役者の豊かな演技力によって再現されるところが魅力なのに
オチに向かって転がるように話すのは勿体無い。
来年は一人一人の噺をもっとたっぷり聴けたらいいなあと思った。