うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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東京バンビ 最後の公演 !?

東京バンビ 最後の公演 !?

元東京バンビ

OFF OFFシアター(東京都)

2012/10/16 (火) ~ 2012/10/21 (日)公演終了

満足度★★★★

”詰めの甘さを情で補う”個性全開
劇団の作・演出の稲葉氏が失踪(?)して窮地に追い込まれての公演。
一体どーしたのよ的な興味も手伝ってか、雨になった平日の夜、劇場は満席となった。
別に解散することないんじゃないの?と思ったのは私だけか?

ネタバレBOX

冒頭シリアルキラーの女(赤崎貴子)がナイフを持って男に襲いかかるところから始まる。
ふとしたことからその女と結婚したはやし(はやし大輔)は、1年経っても
挙動不審なほど幸せいっぱい、勝手にしろってほどデレデレしている。
ある日彼は自宅に地下室があることを発見、そこに見知らぬ男(アダチヒロキ)が監禁されていることを知る。
妻がシリアルキラーであると言われも尚認めたくないはやし、
しかしついに妻がナイフを手にしながら「私を止めて!」と叫ぶのを目の当たりにする。
これが劇中東京バンビが上演しようとしている作品のストーリーである。

“シリアルキラー妻”の話がフィクションなら、一方は“リアルバンビ”のノンフィクション。
台本が進まなくて苦しむアダチや、
途中不安になったキャストが降りると言うのを説得しながらの稽古風景が描かれる。
そしてようやくシリアルキラーの台本は完成したが、ひどい演出に出演者が全員降板、
本番前日ついにアダチは一人ぽっちになってしまう。
ひとりで複数の役を演じながら途方に暮れていると、
そこへ戻ってきたのははやしだった・・・。

東京バンビの持ち味は、“詰めの甘さを情で補う”ところだ。
もう少し突き詰めればきれいに完結するかも、というところで
「まあ、しょうがないじゃん」「そんなこと言わずにそこを何とか」
と情に訴える(時に土下座をする)。
それは演劇論的にイマイチなのかもしれないけれど
人の弱さやダメさ加減、何よりそういう連中を放っておけない人々の気持ちが
にわかに現実味を帯びて来る。
アダチが「観に来てくれよ、ブースに席作るから」と電話をかけていた
あの相手は稲葉氏だろうと思う。
こういう所も“情で動く”バンビらしさの現われだ。

リアルバンビの稽古風景がどこまで事実なのかは解らない。
しかし、稽古途中で「アダチまでもがバックレたか」と全員蒼白になった時の
はやしのふりしぼるような叫び。
そしてラスト、戻ってきたはやしと台詞を叫ぶアダチの泣き笑い。
二人ともマジで泣いてたから、こちらもマジで泣けて仕方がなかった。
このふたりぽっちの絆こそ究極の“情で動く”バンビの個性だと思う。
この”最後感”の醸し出し方、結構上手いし
ネタとしてなら逆にしたたかさが頼もしい。

稽古風景のナンセンスはとても可笑しかったし
客演のはじけっぷりも楽しかった。
加藤美佐江さん、整った顔立ちで美人なのにあの壊れっぷりは素晴らしい。
客席の反応は”最後だから”というご祝儀だけではなかったと思う。
東京バンビ、再結成を待ってるぜ!
『グレイトフル♥ティア~ズ』

『グレイトフル♥ティア~ズ』

劇団コスモル

OFF OFFシアター(東京都)

2012/10/10 (水) ~ 2012/10/14 (日)公演終了

満足度★★★★

”Vシネ系ベタピュア”
笑いとシリアス、ベタと洗練、混在する矛盾が醸し出す不思議な空気の中で
ラストは思いがけず泣けてしまった。
何だろう、これ。
日本刀も振りまわすが、姉弟や男と女のベタな情愛もあり、という展開は
“Vシネ系ベタピュア”・・・?

ネタバレBOX

倉庫のような事務所、探偵ミカミ(石原義信)がソファで寝ている。
5年前に別れた恋人日山ゆり(奥村円佳)が夢に出て来て「ミカミくん…」と呼びかける。
目が覚めるとゆりから手紙が届き「私が死んだら死の謎を解いて」と書かれていた。
追いかけるように河川敷でゆりの死体が発見され、ミカミは捜査を開始する。
調べていくと会員制ショー・クラブ「くちべに」と、その裏のコールガール組織が浮かぶ。
ゆりは一体誰に殺されたのか、ミカミは「くちべに」に乗り込む・・・。

ミカミの夢や過去の出来事の場面では透けるようなスクリーンが下りて
そこにどでかい文字で台詞が映し出されるのがアナログで面白い。
探偵事務所の壁に冷蔵庫や黒電話が収納されているのも面白い。
すっきりコンパクトな空間でおしゃれな探偵物語が始まるかと思いきや
昔懐かしいコントのような刑事の兄(鳥飼卓司)が出て来てびっくり。

「くちべに」の主いばらを演じる作・演出で主宰の石橋和加子さんがすごい存在感。
父親から暴力を受けて育ったいばらは
その父が女と出ていった後、弟を手にかけようとした母親を殺して少年院に入った。
15歳でシャバに戻って弟と暮らし始め、
やがて政財界の大物を顧客に持つ会員制高級クラブ「くちべに」を運営するようになる。
クラブで歌い踊る一方で、人を殺めた時の記憶を失っているいばらの表情が良い。
大げさでコントのような周辺の芝居は、結果として
いばらの重い人生と姉をかばおうとするヤクザな弟一角(山内康央)、という
主軸のシリアスさを際立たせている。
姉が母親を殺した理由を知る前の一角のやり場のない憤りやいら立ちの表現に説得力があった。
いばらと共にクラブを運営している男Viper(山本光政)、最初は違和感もあったが
最後彼女の名前を呼ぶところ、優しくて哀しくてとても良かったと思う。

この姉と弟と男の情や、ミカミと一角の日本刀による殺陣などのテイストが
まさにこてこてVシネ路線な気がするのだが、私はこれが結構好きだ。
ミカミとゆり、ミカミと一角の関係がベタな演出ながらとてもピュアに感じられる。
ミカミと一角の握手の場面など、タメも長いが引っ張りも長くて歌舞伎のようなテンポだ。

ちょっと残念だったのは、ミカミがゆりの遺体を最初に見た時の反応。
忍び込んだユリの実家で、刑事の兄との対面に驚いてゆりの遺体との対面がおろそかになった。
ラスト、ミカミが目を閉じてゆりとの再会をかみしめるところが
超ベタな演出ながら何だか泣けてしまったほど良かっただけに
途中もゆりとの関係を大切にして欲しかったと思う。

ダンスはもう少しレベルアップして絞り込んだ方が効果的な気がした。
ミカミのキーボード演奏など、前後の準備が必要なものは舞台の流れをさえぎりがちだし、
役者がソファを移動させたり小道具を手渡ししてハケるところなども
演出の工夫でもっと整理できるのではないかと思った。

いばらのキャラが鍵を握る展開が面白いだけに、
ミカミと一角のひとすじの涙がより浮き彫りになるような演出に期待したい。
ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

おぼんろ

ゴベリンドン特設劇場(東京都)

2012/09/11 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

リピートの理由
毎日「ゴベリンドンの沼」を観て来た人達のコメントを読みながら
「もう一度あの空間に身を置きたい」と思うのはどうしてなのだろう。
そして千秋楽、私は再び廃工場の前に立っていた。
当日券の、最後の最後の方に並んで見切り席に座った時、
ここで34回目のステージに立つ5人のことを考えてなんだか泣きたくなった。

ゴベリンドン(高橋倫平)の慟哭と関節が外れるかと思うほどの動きが素晴らしい。
彼の「すまない…」と言いながらのたうちまわるような苦しみが
誰もが持つ弱さと死への怖れから生まれたものであるだけに、一層切なく哀しい。
この異形の者が深い共感を呼ぶのは、設定の巧みさと高橋倫平さんの演技力だろう。

今回は私の足元に照明があったこともあり、照明操作の繊細さや
音響のタイミングの完璧さも感じることが出来た。

最後のステージを終えて挨拶したらすぐ、預かった客の靴を運び、台本を販売し、
乾杯の飲み物を配る5人の動きを見ていると
何か他の公演とは違う“心地よい温度”を感じる。
5人の演技だけでなく、客席や美術や廃工場といった
芝居を取り巻く全てのものが、来る人を歓迎してくれる。
何度も足を運ぶリピーターもきっとそれを感じているのだと思う。

頬に涙の雫を描いたメイクが流れて落ちている5人の顔を見て、改めて判ったのだ。
私は今日ここへ、ただこの5人に会いたくて来たのだと──。
私はもう次の舞台を心待ちにしている。

小さなエール

小さなエール

643ノゲッツー

OFF OFFシアター(東京都)

2012/10/02 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了

満足度★★★★

変わろうとする人にエールを送る
道徳の授業みたいに“反省”し“心を入れ替える”主人公が出来過ぎの感もあるが
「じゃあどうすればいいのか」という根源的な問いに対して
作者は反論を覚悟の上でひとつのメッセージを発信していると思う。
役者が自ら操作する照明による独特の雰囲気が超現実的なシーンを和らげる。

ネタバレBOX

父親の七光りで豪邸で好き勝手に暮らし、父の愛人の娘たちを
虐待するようにこき使っていた涼太(海老根理)。
会社の経営コンサルタント(谷仲恵輔)の助言にも耳を貸さず
ついに父親は病死、会社は乗っ取られ、妹は通り魔に刺されて死んでしまう。
新しい主としてこの豪邸に乗り込んで来たのは社長令嬢で、
涼太が何度も振ってコケにしてきた娘だった。
他に生きる術を持たない涼太は、彼女に仕える身となってしまう。

ここから社長令嬢始め、こき使って来た使用人たちから
執拗な報復を受ける生活が始まる。
ほとんど昼の連ドラみたいに怨讐渦巻く環境の中で涼太は驚くべき変化を遂げる。
自分のこれまでを反省し、復讐する人々の理由も含め全てを受け容れていくのだ。
その姿は、「零落ぶりを見に来ました」とうそぶく坊主などよりよほど宗教者のようだ。

この豪邸の主の会社に、次々取り入っては潰してきたコンサルタント自身が
たった一度の買収失敗によってリストラされ落ちぶれる様は壮絶だ。
結局涼太の変化が、愛人の娘たちや社長令嬢の心にも作用して
人々はひとつずつ小さな灯りを手にしてこの屋敷を去っていく──。

こんなに真摯に反省、受容して人の心を理解できる人間が
どうして最初あんなに人を人とも思わないような扱いをしてきたのか
その変化に飛躍があり過ぎるから、違和感を覚えざるを得ない。
だが、「じゃあどうすればいいのか」という開き直ったような問いかけに
作者は直球ストレートでひとつの思いをぶつけて来る。

「いじめる人間が変わらなければ何も変わらない」
いじめられて逃げ出しても、先生に言いつけても、マスコミが騒いでも、警察が介入しても
いじめはなくならないし何も変わらない。
平然と他者の痛みを「笑う」行為は、「想像力の欠如」に他ならない。
作者はそこに気付いた涼太の苦悩を描き、彼に小さなエールを送っている。

役者が操作する小さな灯りは、過去と現在を照らし分け、個々の孤独を浮き上がらせる。
横断歩道で鳴る「ぴっぽっぴっぽ・・・」という音が終始小さく流れて
目の前の上下関係が間もなく逆転するのをカウントダウンしているようだ。
次はあの坊主が宗教法人としてこの豪邸を買い取って、いつか脱税で捕まって・・・
みたいな展開もありかもしれないと想像させる。

海老根理さんの素直な表現が、涼太の激変ぶりを“性善説”として訴えてくる。
コンサルタントの谷仲恵輔さん、少し前に芝居屋風雷坊の「今夜此処での一と殷盛り」で
探偵を演じてとても印象的だったが、
「サラリーマンの自信」が時として「想像力の欠如」から来るものだと言うことを
ブレない演技でまたまた強烈に印象付けた。

涼太の渡す小さなキャンドルが、そのまま
変わろうとする人々への小さなエールに見えた。
「人が変わる」とは、それ程に難しく苦しいものなのだ。
ことほぐ

ことほぐ

intro

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/09/29 (土) ~ 2012/10/01 (月)公演終了

満足度★★★★

おかずはないが飯はある
本来めでたいはずの妊娠を誰からも祝福してもらえない3人の女が
ひとつ屋根の下で貧乏共同生活をしている。
根拠のない希望を食い散らかして、絶望を蹴散らして
生まれて来る子どもと2人分あがきまくる女たちに、私はいつしか寄り添っていた。

ネタバレBOX

劇場へ入ると、舞台を挟んで奥と手前に向かいあうかたちで客席があった。
奥の客席へは黒い敷物の上を歩いて舞台を横切って行く。
舞台中央が3人が共同生活するアパートの部屋。

北海道の盆踊りには「子供の部」と「大人の部」があり、曲も踊りも違うのだそうだ。
隣の公園からその「子どもの部」の盆踊りが流れて来る部屋で
お腹の大きい女3人が元気に喧嘩している。
水道代として渡した2千なにがしのお金でピザを食べてしまったさとみ(のしろゆう子)を
その妹えりこ(柴田知佳)と家主である愛子(菜摘あかね)が責めているのだ。

愛子は不倫相手の子を妊娠している。
さとみはDV夫から逃げて来て別れたいと思っている。
えりこは誰の子かわからない子どもを産もうとしている。

いやー、落ち込んだり文句言ったりしながらもたくましいやね。
一環して「産むのだ」ということに迷いが無い(妊娠初期には迷ったかもしれないが
結果として産むと決めた)、後悔する発言が皆無であることはすごいと思う。

社会のせい、相手のせい、自分のせい・・・たぶん全部あるだろうが
“複合貧乏”みたいなこの状況をどう見るか、その視点によって道は決まりそうだ。
役所へねじ込むか、相手に慰謝料を要求するか、プライドを捨てるか。
3人はそのどれをもしないで「妊婦が幸せじゃないなんておかしい」と憤り、
「私たちは貧乏じゃない」と呪文のように唱えている。

多分ひとりではこの状況を受け容れられないだろう。
だから3人は喧嘩しながら、「出てけ!」とキレながら、それでも一緒に丸くなって眠る。
親切ごかしに近づいてきた隣人(加藤智之)の、“自分より下を見たかった”という告白に
ようやく誰かのせいにしている場合じゃないと目が覚めて
さとみは離婚を決意、一番行きたくなかった場所、実家へ頭を下げて戻ろうと決める。
えりこはパートナーが必要だと、自分達を下に見て喜んでいた隣人に
「この子の父親になりませんか?!」と言ってみたりして相変わらず懲りない女だ。

出演者全員の盆踊りが賑やかに繰り広げられ、ひとり、また一人と舞台を去って
愛子だけが取り残されたように佇んで終わる。
盆踊りが「子どもの部」から「大人の部」に移って、
時間の経過と地域性、妊婦たちの変化が映り込んでとても良かったと思う。
照明がまたとても繊細で効果的だった。

妊婦は皆孤独だが、救いが無いわけではない。
愛子の兄や、えりこのバイト先の上司だって優しい人達で心配してくれている。
文句言いながらもさとみの実家は助けてくれるだろう・・・。
社会を代弁するような隣人の無職男だって、水は提供してくれる。
この男を含めた4人が、おかずも無しで白いご飯を食べる場面が良かった。
米と水と、互いにあるものを持ち寄った結果の白いご飯だ。
全員丁寧に「いただきます」と箸を取って無言で食べた。
本来あるべきおかずはないが、白いご飯はあるじゃないか・・・。
切ないながら希望が見えて、何だかちょっとほっとしたのだった。

「ことほぎ」「ことほぐ」と来て、次は何だろう?
「ことほいだら・・・」どうなったのか、続きを見てみたい気がする。
中野坂上の変

中野坂上の変

小西耕一 ひとり芝居

RAFT(東京都)

2012/09/27 (木) ~ 2012/10/02 (火)公演終了

満足度★★★★★

バラエティに富んだひとり芝居
私はまだ小西さんの舞台を2本しか観たことがないが、いずれも強烈な印象を受けた。
70分とコンパクトな中で変化に富んだ5つのストーリーが展開するのが楽しい。
4人の作家が脚本を提供するだけのセンスと実力、それを受け容れる素直さが感じられる充実の舞台だった。

ネタバレBOX

初めて中野のRAFTへ行った。
段差のある客席もゆったりしていて椅子も座り心地がいい。
座席に置いてある当日パンフの中に劇場内での注意事項がもう書いてある。
たぶんすっきりと始まるに違いない。

1.「五十嵐教授の講義~僕こそ君の地球防衛軍~」 作・根元宗子(月刊「根元宗子」)
五十嵐教授は大学で「恋愛心理学」の講義をしている。
これまで何人もの女性に振られ、それから「恋愛心理学」を極めたと言う教授は、
「男としての道」を説き、それを実践していたのだが・・・。

いきなり教授の講義が始まって、その口調に少しびっくり。
こういう話し方をする小西さんを初めて観た。

2.「欲望」作・ハセガワアユム(MU)
カメラマンの男がモデルに話しかけながらシャッターを押している。
「そうそう、いいよ~。ほんとに可愛いねぇ」といかにもカメラマンらしい乗せ方。
そのうちにモデルのある発言にひどく動揺する。
彼の口から出た言葉は「10歳」「手を縛って」・・・。

怪しいでしょ、このカメラマン、アイスキャンデーとか。
でもこの“火サス”の犯人みたいなカメラマンが妙にはまってるから面白い。

3.「マジでインする5秒前」作・櫻井智也(MCR)
「よっちゃん」は始めて彼の古いアパートに来てシャワーを浴びている。
彼はそのよっちゃんに向かって話しかける。
ずっと友達で来たのに、なぜかここへ来て男女の関係になったらしい二人の
あからさまな会話が声高に続く。

個人的に一番面白かった作品。
台詞に勢いがあって、演じる人の腹の底からずるずるといろんなものが
引きずり出されてくる感じ。
若い男女には若いなりの見栄や不安や寂しさがあって、
そのコントロールにこんなに苦労するのか。
古いアパートのシャワーの水圧がこんなにもシチュエーションに彩りを添えるとは(笑)
優男の小西さんが、普通の“男っぽさ”全開なのがとても面白かった。

4.「僕の話」作・舘そらみ(ガレキの太鼓)
落語家のように座布団に正座して29歳の役者が語り始める。
夕べ人を初めて人を殺したのに平気な顔で「恋人同士の芝居」なんか出来ない・・・。

どこまで事実でどこからが創作なのか一瞬分からなくなるような、
境界線上を歩いている感じがしたのは、緊張感が伝わってくるから。
自分はいつ、どこから演じ始めるのか、24時間演じているのか、
役者さんなら誰もが持っている葛藤なのかもしれない。

5.「脚」作・小西耕一 特別出演 山田奈々子(日替わり)
モデルの女性が画家のアトリエにやって来たが、彼は脚しか見ないし脚しか描かない。
調べてみると“脚ばかり描く”有名な画家で、再びモデルの依頼が・・・。

二人芝居のこの日の相手役は山田奈々子さん。
つい先日MCRの舞台で男どもを罵っていた奈々子さん、今回は画家のモデル役。
「描く」という行為を挟んで向き合う画家とモデルは
次第に発言がストレートになり、結果的に自分自身をさらけ出していく。
そのプロセスと正直な自分を出しきった満足感みたいな表情が面白い。
脚かストッキングか、確かにそれは問題だ(笑)

暗転を挟んですっきりと進行する5つのストーリー。
役者が作品に出会うことの大切さを強く感じた。
日頃の舞台で与えられた役を演じることはもちろんだが、
「こういう役をどう演じてくれるかな」という興味や
「こういう役を演じさせて欲しい」という要求を
ひとり芝居というスタイルは実現してくれる。
役者さんにとっては大変なことだろうが、
変化と進化を同時にプッシュする強力な推進力かもしれないと思った。


新団体結成「祝賀会」

新団体結成「祝賀会」

マサ子の間男

やまがた舟唄(渋谷)(東京都)

2012/09/28 (金) ~ 2012/10/01 (月)公演終了

満足度★★★★

「温度調節は亀の下で」
居酒屋の宴会場という場所の面白さに加えて、コントとミュージカルという
”ポッキーと舟盛りがいっぺんに来てマヨネーズで食べたら結構美味しかった”みたいな感じ(?)レトロなハコに優しい男たちがよく似合う夜だった。(タイトルは出演者の発言から)

ネタバレBOX

お風呂屋さんのような入口で靴を脱いで上がり、受付を済ませて宴会場へ入ると
まー懐かしい感じの畳敷きの広間。
カラオケの画面に歌詞と映像が流れ、後は誰かがマイクを持って歌うだけという状態。
奥に大きいフィッティングルームのような半円の舞台があり、
真っ赤な緞帳が左右から閉じるようになっている。
ここで歌うのかぁ、と思って眺めながら
座布団席じゃなくて赤いスツール席にしよう、と座る。
役者さんがビールやお茶、乾き物等を売っているのでお茶を買った。
団体名を記入する紙に考えて来た名前を書き、あとはまた思いついたら書こう。

福田転球さんが言いだしっぺらしいが、合計7人男ばかりの団体である。
飲んだり食べたりしながらゆる~い感じで始まった。
今日は3部構成とのこと。

第1部は昔よくテレビで見たNHKの「てんぷく笑劇場」みたいなコント芝居。
ナンセンスから人情に移る感じの“昭和”な展開。
爆笑するほどではないが、この会場に妙にしっくりして
取り敢えず一人ひとりの役者さんを観察する。

第2部は劇場としての機材が一切無い状態での身体表現。
暗転・明転は出演者の指示で、客がまぶたを閉じたり開いたりして自分で調節する。
ストロボも客が目をしばしばさせて、スローモーションの動きを点滅させるという
何ともアナログな手法だが、これがとっても面白かった。
いつも目がちかちかするが、ストロボはこれでいいじゃんと思ってしまった。

第3部はミュージカル「居酒屋一番」。
居酒屋の宴会場でミュージカルだよ!
コレが一番面白かった。
「アメリカ人」とか、「影」とか、居酒屋一番の店長と店員たちが歌って踊る
“アカペラ”ミュージカルなのだが、妙に本物の展開を踏んでいて可笑しい。
歌、みんな結構上手だし、動きもそろってる。
「アメリカ人」の英語がまた上手いのでこれもびっくりした。

メンバー一人ひとりを検索してみたら、みなさんキャリアの長いベテランさんで
すごい経歴の持ち主なので驚いた。

福田転球・・・・吉本興業所属の俳優・演出家 「天球劇場」主宰
        客の反応を見ながらのアドリブがこなれていて安心して見ていられる。
高木稟・・・・・「転球劇場」所属の俳優 子役としてデビュー
        そうか、社長になる前は子役だったのか・・・。
松之木天辺・・・オペラシアター「こんにゃく座」や「イデビアン・クルー」に所属していた
        俳優・ダンサー
        「かえるのうた」が妙に色気があって上手かったので気になった人。
西うらしんじ・・関西の「遊気舎」に所属していた俳優
        長身で手足の長い、絶壁の持ち主、一度見たら忘れない顔。
シューレスジョー・・よしもとのピン芸人 海外青年協力隊で野球を教えにジンバブエに
          2年半行っていたことがある。
          この芸名の由来を調べたらとても興味深かった。
小林高之・・・・「THE黒帯」所属の俳優
        時代劇も出来る声よしの人。
神保良介・・・・ニナガワカンパニー・ダッシュで俳優スタート 出演作品がすごい!
        アメリカ人役の英語が上手過ぎ。

全員のプロフィールとか、顔と名前が一致するような資料を配っても良かったのでは?
私が調べた少ない情報よりずっとインパクトがあるはず。

お笑い系の人とマジな役者さんが一緒になって創るから
「笑いをとる」事にだけ固執するのとはちょっと違う舞台。
初日はまだちょっと遠慮がちだったように見えたが
“ゆるい進行”と“テンポの良い演目”でメリハリつけたらもっと盛り上がると思う。
やまがた舟唄という場所の面白さや、役者さん達の優しい対応がとても良い。
こういう場所やアドリブに鍛えられている方たちだから
回を重ねるごとに双方向で反応も良くなっていくだろう。
“シチュエーションコメディとミュージカルを足して宴会風味にした”(?)
居酒屋の新メニューを食した感じ♪
団体名が決まるのを楽しみにしています。
貧乏が顔に出る。

貧乏が顔に出る。

MCR

サンモールスタジオ(東京都)

2012/09/20 (木) ~ 2012/09/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

変わらなくちゃいけませんかね?
ああ、全くその通りだと思わせるこのタイトルに惹かれて
新宿のサンモールスタジオへ行ったのだ。
再演だそうだがなるほどMCRらしさ全開のテーマ。
「人は簡単に変わらない」「ってゆーか変わらなくちゃいけませんかね?」
という開き直りに似たスタンスがまたいい。
罵倒しながら、男たちは哀しいほど優しい。

ネタバレBOX

トイレはあるが風呂は無い…ような6畳一間のアパートの一室が舞台。
トモ(櫻井智也)、じゅんや(おがわじゅんや)、ヒロ(北川広貴)の3人は
このおんぼろアパートで一緒に暮らしている。
元々はトモの彼女が借りていた部屋で、トモは今でも出て行った彼女が忘れられない。
トモはミュージシャンになりたい賽銭泥棒で、じゅんやは深夜のコンビニ店員、
ヒロは会社をサボってばかりいる会社員だ。
トモはいつも押し入れの上段に布団を敷いて座っている。

このダメダメ3人組の生活にある日お地蔵さんがやって来る。
酔っぱらったトモが担いで来てアパートの廊下に置いたのだが、
このお地蔵さん、“人の記憶を金で買う”という
「徳」なんだか「得」なんだか解らない力を持っていたのだった。
トモは「ギターの弾き方」など次々と自分の記憶をお地蔵さんに買ってもらい、
お地蔵さんの足元に出現する現金を手にしていく。

この部屋には毎日様々な人々が訪れる。
じゅんやに自分の部屋に引っ越しておいでよ、と迫る恋人の奈々子(山田奈々子)や
トモの弟大介(三瓶大介)、大家の息子奥田(奥田洋平)、
そしてヒロの会社の同僚東谷(東谷英人)等々・・・。
そして人の良いヒロがこの同僚にあからさまに利用されていくところから
ついにあることが起こってしまう・・・。

MCRの今回の“ヤなやつ”は、会社の金を横領して
その罪を平然とヒロになすりつけようとする男だ。
極悪人でもないし特権階級でもない、私たちとさして変わらない人間が
少しだけ要領が悪くて根性が足りなくて甲斐性がない人間を
徹底的に下に見て利用する、しかもそれを「当然でしょ?」とうそぶく。
MCRの芝居を観ると、このフツーの人間ほどたちが悪いものはないことに気づかされる。

櫻井智也の書く罵詈雑言満載の台詞には、
「てめえだって俺らと大して変わらねぇくせしやがって偉そーに…」という
人を見下す輩に対する憎悪に近い感情があって
そこに私は毎回否が応でも共鳴してしまう。

次から次へとお地蔵さんに記憶を売ってしまうトモの行為は
荒唐無稽なようで実は私たちに“価値観”を問うてくる。
車の運転、ギターの弾き方、自分の名前、かつての彼女…。
「それ、要るのか要らないのか?」

お地蔵さんの足元に出現する金額にも笑ってしまう。
トモが自分の名前を売って、20円持って戻ってくるのが可笑しい。
金額はあくまで“自分にとってどれくらい大切か”ということで
彼にとって名前なんてどーでも良かったということだ。

みんなに迷惑をかけたくないと極端な行為に出て
結局自分が怪我をしてしまったヒロ。
ヒロのことだから、この先ずっと何かにつけて謝りながら生活するだろう。
そのヒロの記憶を売ってしまって「気にするな、俺は全然覚えてないから」という
トモ流の究極の友情に、何だか泣きそうになった。
初対面のようにまたヒロと再会したトモが「お前、面白いな」と受け容れた時
また3人の共同生活が始まることが、私は心底嬉しかった。
じゅんやもいずれ戻ると思うし(笑)

貧乏も顔に出るが、金の使い方も顔に出る、優越感も顔に出る。
そんなことを思った舞台だった。
ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

ゴベリンドンの沼  終了しました!総動員1359人!! どうもありがとうございます!

おぼんろ

ゴベリンドン特設劇場(東京都)

2012/09/11 (火) ~ 2012/10/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

立ち上がるキャラクター
主宰の末原拓馬がきれいな顔で情熱的に語るから
その青いパッションに惹かれて人が集まるような印象があったが、
それは大きな誤解だった。
5人の役者の一人ひとりが創り込む登場人物が何と魅力的なことだろう。
廃工場のシャッターの内側は、痛みを伴う大人のファンタジーの世界だった。

ネタバレBOX

廃工場の中が丸ごと物語りの世界になっている。
廃材を利用したという飾り付けも、役者の衣装も、
観る者を架空のその国へと惹き込む。
悲劇に悲劇が重なるようなストーリーの根幹にあるのは
人間の尽きることのない欲望と孤独を怖れる気持ち、
そして大切な誰かを守ろうとする、身勝手なほどの愛情だろうか。

役者がそこにいるだけで、一人ひとりのキャラクターが立上がって来る。
ゴベリンドンを演じた高橋倫平さん、高い身体能力を生かした
縦横無尽の動きが魔物の孤独と哀しみを一層引き立てている。
“死ねない運命”にもがき苦しむゴベリンドンの慟哭が
びんびん伝わって来て素晴らしい。

死体洗いの老婆ザビイを演じたさひがしジュンペイさん、
欲の塊のようなこの老婆は、金品も欲しいが
実は人々から一目置かれたくて仕方がないという
孤独の裏返しのような欲求にまみれている。
その観るもの誰にでもある俗っぽい気持ちを
見透かすような台詞に魅せられる。

二人の叔母メグミを演じたわかばやしめぐみさん、
この人のちょっとハスキーなアルトの声は本当に魅力的。
“沼の声”として歌う所もミステリアスな感じが素敵だし、
ちっちゃな顔で、紅一点の華やかさと母親の温かさを両方表現できる人だ。

兄のトシモリ演じた藤井としもりさん、
この人の表情や瞳は何か哲学的なものを感じさせる。
魔物を恨みながらも、その魔物と契約してしまった自分を
激しく責める気持ちがどこかあきらめに似た表情ににじんでいて
凄惨な行為に走る心理に説得力を与えている。

作・演出で弟タクマを演じ末原拓馬さん、
まずこの世界観を一から作り上げたことがすごいと思う。
ゴベリンドンの森、沼、伝説と俗世がクロスするエピソード、
これらを目に見えるかたちにしたのがあの廃工場だ。
純なタクマがどれほど悲しかったか計りしれないが、
それでも大好きな兄を一人にはしないというラスト、
小さな希望の芽を残したところに救いがあって温かい気持ちになった。
幼さの残るタクマが少しずつ大人になっていくところがとても良かった。

気温が下がったことに加えて扇風機もあり、劇場は大変快適だった。
ビールケースの椅子にぷちぷちの座布団がこれまたとても良かった。
360度スムースに向きを変えて観ることができる。
都心のヘンな客席の劇場に持ち込みたいくらいだ。

末原拓馬さんの前説に情熱は感じるが、
始まりは一気に物語りに入った方が効果的かもしれないと思った。
この廃工場へ足を踏み入れた瞬間、
私たちは物語りの世界に引きずり込まれる。
この劇場にはそれだけの力があるし、
観客の想像力をもう少し信じても良いと思う。
もちろん終演後にいろんな話が聞けるのはとても楽しい。
5人の努力の賜物である特設劇場、
こういう空間でいつでもロングランできたら本当にいいね!
エッグ

エッグ

NODA・MAP

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

ふかっちゃんパワフル
まず新生プレイハウスの空間がとても魅力的。
鉄板の顔ぶれで挑む思いがけないテーマと、椎名林檎の歌が効果的な舞台。
仲村トオルの声が良いし、妻夫木聡の明るく真摯なキャラが存分に生きる。
深津絵里の(歌も含めて)細い体からは想像も出来ないほどの存在感が印象に残った。

ネタバレBOX

卵の殻を割らずに白身と黄身を取り出すというほとんど冗談みたいな
「エッグ」というスポーツに国民は熱狂している。
オリンピックの正式種目になったら参加するのだと
リーダー格の円谷(仲村トオル)を中心にチームは日々練習に明け暮れている。
舞台はチームのロッカールームで、長方形の白いロッカーが並び
時にはそれがドアになって人々はそこから出入りする。
この整然と自在に移動するロッカーによる空間の仕切り方が秀逸。

新入りメンバーのアベ(妻夫木聡)はやる気満々、
彼は新しい手法でチームに勝利をもたらし一躍花形選手になる。
アベはチームのオーナー夫妻の娘でシンガーソングライターのいちごいちえ(深津絵里)と政略結婚、
彼は純粋に妻を愛するが、妻は円谷さんが好きだったのに…と夫を無視する。

やがてこの時代設定が第二次世界大戦中の満州であることが明らかになってから
文字通り卵はある方向へと転がり始める。

スポーツである「エッグ」の技術は細菌兵器に応用され、人体実験へとつながっていく。
日本の敗戦が決まるとオーナー夫妻によって責任は全てアベに押し付けられ、
彼は細菌を植えつけられて満州に置き去りにされる。
そこで初めて「誰からも愛されなかった」夫をひとりに出来ないといちごは駆け戻って来る。
そして夫の車椅子に寄り添った時、爆撃に遭って夫と運命を共にする──。

作・演出の野田秀樹の、「誰もやらないからボクがやる」的な挑戦は評価したいと思う。
前半は野田秀樹自らの劇場改修ネタも含めてコメディタッチ。
「演劇はおもしろくあるべき」(特別号外インタビューより)というポリシーのせいか
後半のシリアスな部分の比重が少なくかけ足の印象が否めない。
暗い歴史である「丸太」の人体実験を扱うのに、ラスト近く雪崩のような描き方で
オチはしっかり社会問題にしてみました、みたいな感じ。
演出自体はストレッチャーや白いカーテン、ビニールのような透明シート等を使ったりして
シリアスな展開にふさわしい緊張感があってとても良かったと思う。

野田秀樹自身、井上ひさしやつかこうへい、寺山修司の各氏に対する
オマージュがあると語っているが、(前出のインタビュー)
井上ひさしならもっと正面からどかんと扱う気がするなぁ。
遠慮がちにぼかしたり、ささっと足早に通り過ぎる所が
スタイリッシュに傾いていて、説得力という点では若干弱い印象を受けた。 

ラスト、孤独なアベの元へ戻って来たいちごの行動にちょっと飛躍があり過ぎて
もう少しその前から気持ちの変化とか無かったのかなと思った。
4年間の結婚生活で、一方的に愛され大切にされてきたいちごの心情が
どこかで動いていたからこそ、ラストあの行動に結びついたのだと言う気がするから。

難しい椎名林檎の歌を、深津絵里は我儘アイドルのキャラでよく歌ったと思う。
声も良いし音域も広いが、いかんせん歌が難しくて生歌は気の毒。
エンディングに流れたのはCDらしいが、それはとても上手かった。
椎名林檎本人かと思っちゃった。

奥行きのある舞台を使って出演者みんな手前から奥へよく走り、舞台全体がダイナミック。
アンサンブルの動きに勢いと力強さがあって爽快感があり、
後半の満州を追われるスローモーションのシーンでは溜めた動きに心情がこもっていた。
橋爪功は大好きな役者さんのひとりだが、小悪党みたいな役をやると何とはまるんだろう。
ひびのこづえさんの衣装もシンプルで美しく、秋山菜津子と深津絵里はとても素敵だった。


A HALF CENTURY BOY

A HALF CENTURY BOY

久ヶ沢牛乳

本多劇場(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★

ふーん・・・
久ヶ沢徹さんはSET所属の俳優・ナレーターということで50歳。
身長180㎝のガタイのいい人らしい。
でも全然知らなかった・・・。
だけど岩井秀人とケラリーノ・サンドロヴィッチが本を提供するんだから
”この役者にこれをやらせたい”と思わせる俳優さんなのだろうと期待して出かけた。

会場は熱心な女性ファンでいっぱい。
そして始まってみれば、まあ先回りするようによく笑うこと笑うこと。
そりゃ面白いですよ。
小宮孝泰、いしのようこ等達者な人が出てるしギャグは外れがない。
でもそんなに壊れたように笑うのは、かえって異様な感じがする。
身内ならではのネタには温度差を感じざるを得ない。

どのパートをどの作家が担当したのかがわからないのが残念だった。
岩井さんはこれかな、ケラさんはここかしら、と考える楽しみはあるにしても
久ヶ沢徹という俳優の魅力を引き出す為に複数の作家が本を提供するというのとは違う。
彼の半生記におけるいくつかのエピソードを脚色するに留まっている気がした。
”誰が書いても久ヶ沢徹の半生記”なら、逆にどうしてこの脚本家がそろったのか
どうして日替わりゲストに谷原章介とかが来るのか、
しろうとさんが楽しめるような裏話を聞かせて欲しかったなあ。

ふーん、本多でこういうのもやるんだって感じ。
久ヶ沢徹ファンクラブ向けイベント、
目的の違ういちげんさんにはついて行けないものであった。

勉強不足でどーもすいません。

ルルドの森

ルルドの森

バンタムクラスステージ

コア・いけぶくろ(旧豊島区民センタ-)(東京都)

2012/09/07 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

生きている古代信仰
パイプ椅子と折りたたみテーブル、それに何枚かの布を使っただけのセットで
取調室からホテルの部屋、凄惨な犯行現場や司法解剖室まで自在に魅せる。
猟奇的殺人事件の謎解きと、人の心理の不可解さ満載の舞台。
息もつかせぬ緊張感のうちに事件は起こり、銃声が響き、犯人は笑った・・・。

ネタバレBOX

昔中学校の体育館の舞台はこんなだったっけ、と思いながら席に着いた。
校長先生が卒業証書を渡すようなひときわ高い舞台。
セットも何もなくて奥にパイプ椅子が見える。

事件はもう6件起きている。
いずれも遺体の一部、脳や肝臓などがきれいに持ち去られている猟奇的殺人だ。
そして7件目が発生する。
犯人は同一犯なのか、それとも別の人物か・・・。
事件を追う捜査本部のメンバーたちが関係者に当たるうち
昔カルト的人気を誇ったテレビ番組「ルルドの森」と
その主演女優菱見玲子(山本香織)に行きつく。
捜査官三島(福地教光)と黒船(早川丈二)は知らず知らず
次第に危険な森へと足を踏み入れて行く──。

最初から最後まで全く緊張感が途切れることなくストーリーにひき込まれた。
犯人と思しき人物は一人ではないし、捜査官も含めて登場人物の背景も複雑だ。
クールなようだが、犯人に対しては自分をコントロール出来ない三島がいい。
よくある刑事物とは一線を画すキャラクターがとても魅力的だ。
引退した女優菱見玲子がいかにもそれらしい美しさと貫禄を備え、
重大な秘密を抱えて悩むギャップが鮮やかだった。

この劇団はいつもそうらしいが、暗転がなく
場面転換を全て観客に見せながら行う。
役者がハケる時に椅子を持って行ったりするのだが
整然と静かに、黒子になったように、スピーディーで違和感がない。
セットがほとんど無い舞台をリアルに見せるのは音響の力もあると思う。
何度かある銃声など完ぺきなタイミングで素晴らしかった。
もうひとつ、照明による仏壇の表現などに工夫があって
こういう方法もあるのかと感心した。

それにしてもこの劇場(?)はちょっと気の毒だと思う。
下北沢辺り(他をよく知らないので取り敢えず挙げている)の
コンパクトな小劇場でやったらもっと濃密で張りつめた舞台になると思う。
そういう所でぜひまた観てみたい作品。
来年は本拠地を関西から東京に移すと言うバンタムクラスステージ。
ぜひぜひ東京でがんがんやって欲しい。
ダークなクライムサスペンス、サイコホラーなど、脚本が大変かもしれないが
笑いに頼らず無駄のない台詞とテンポの良いストーリー展開は素晴らしい。
このテイスト、笑いに転びがちな若手の小劇場系劇団とは一味も二味も違う。

私もキーワードとなった「金枝篇」を読んでみたい。
そして福地教光さん、素敵でした。
絶対また観に行きます!
眠れるホテルの羊たち

眠れるホテルの羊たち

株式会社Legs&Loins

Geki地下Liberty(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

洗練された空間
様々な理由で眠れなくなった人々が集まる癒しのホテル。
眠れないほど苦しくて、受け容れられなくて、寂しい人々にも
いろんな出来事が起こって少しずつ変化して行く。
ベタな展開と解っていながらラストはやっぱり泣いちゃった。

ネタバレBOX

開演20分前、少し暗い舞台にはもう出演者がいて話したり笑ったりしている。
中央奥にはホテルの受付カウンター、その手前に大きなソファ、
上手と下手には客室がある。
セットがシックで、スケルトンの客室の黒い枠や、そこにつけられた小さな照明が素敵だ。
前説にも出て来る白と黒の羊の衣装がかわいい。

ここは自殺の名所である樹海にほど近いホテル。
滞在費1カ月50万円には、1日2食と睡眠薬の処方がついている。
宿泊客は「自殺しないこと」を約束してチェックインする。
このホテルにある日一人の青年がやって来る。
彼にはある目的があり、それはオーナー夫妻に関わることだった・・・。

冒頭ソファに座って羊を数える少年ヒカル役の宮内彗人君はまだ11歳だという。(がんばって舞台にいっぱい出てね)
彼の母親はこのホテルにヒカルを置き去りにしたまま行方不明だ。
ヒカルは母親が見つかるのを待っている。

オーナー(新里哲太郎)は睡眠薬の代わりに切れ目なく酒を飲んでいる。
妻の深月(深華)はホテルを切り盛りしながらも常に優しく美しい。

元アイドルやヤクザ、ゲイの男(女?)、ギターをかき鳴らすナルコレプシーの男など
皆薬に頼って眠りにつくが、気をつけないと自殺を図る者が出る。
互いの気配を気にしながら、ここでは生きることが少し楽になるように見える。

青年メリノ役の梶原拓人さんがピュアでとても魅力的。
オーナー役新里哲太郎さん、飲んだくれる理由に説得力があり切なさ全開。
妻役の深華さん、美しく雰囲気抜群なのに台詞を噛んだのが惜しい!
サソリのジョー役の宮下貴浩さん、クールなヤクザがとても素敵だった。

人を救い、癒す空間の演出が巧みでいいホテルだなあと思わせる。
彼らが必要としているのは実は睡眠薬ではなくて、この空間、この人間関係だ。
最後、オーナーが傷ついたヒカルを抱きしめるところで
ベタな展開にやっぱり泣けたのは“ここにいれば大丈夫”という確信が嬉しかったから。

ギターがもっと本編の内容に絡んだら効果が集中するような気がした。
ライブのようにBGMとして演奏するとか、効果音的に入れるとか。
ただかき鳴らすだけではもったいないと思う。

役者さん達が、最後眠った場面から、一人二人ずつ起き上がって挨拶、
舞台を降りて去っていく終わり方にもセンスが感じられた。
居酒屋ベースボール、ホームページもクールなイメージだったが
その舞台もまた、洗練されたテイストが随所に感じられる劇団だった。















ナイアガラ

ナイアガラ

劇団HOBO

駅前劇場(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/10 (月)公演終了

満足度★★★★★

シリーズ化して欲しい
新宿中央公園に暮らすホームレスたちを描くほろ苦ストーリー。
“脇役体質の役者が全員脇役に徹する”とどうなるのかと思ったら
“ちゃんと舞台で会話する”とこんなに面白いということを見せてくれた。
厳選された台詞とそれを租借する役者の力、意外に(?)洒落た演出で
笑いながら、この笑いは久々の上質な笑いだと思った。

ネタバレBOX

奥行きのある舞台、ブルーシートの小屋が建っているので
ホームレスの話かと予想する。

暗転の後、座っている老人の見事な老けっぷりにびっくりした。
この山さん(喰始)、度々失禁するが、哲学的な発言で皆の尊敬を集めるインテリじいさんだ。
口元の衰えなどが自然で、喰始さんってこんなよぼよぼだったっけ?と思うほど。
この山さんを、口は悪いが親身になって世話する元建設会社社長のクマ(省吾)や
元床屋の拓(本間剛)、手癖の悪いのが玉にキズのガンちゃん(西條義将)、
最近仲間に加わった、リストラされた谷田貝(おかやまはじめ)など
ユニークな面々がそろっている。
ルポライターだという川本(古川悦史)も毎日のように通って一緒に飲んでいる。
彼らを束ねるのが、役所や支援団体・ヤクザとも“ナシをつける”社長(林和義)だ。
彼のさばき方が実に気持ちよく、それは距離感の保ち方が上手いからだと解る。
ここの住人の、互いの尊厳を大切にしながらさらりと協力し合う姿が実に良い。
普通の人のようにスーツ着て日銭稼ぎの仕事に行ったりするが
やはりどこか“ドロップアウトした人間”の哀しみと日陰感が漂う。

──この世には3種類の人間がいる。
   敵と味方と無関心だ。

──暑さ寒さも空腹も工夫すれば何とかなるが、
   孤独だけはどうしようもない。
   だから人との関係だけは断ち切ってはいけない。

山さんの言葉をみんな噛みしめていて、
初めて野宿しようと公園にやって来る挙動不審な人に
さりげなくかける言葉や眼差しにその気持ちがあふれている。

脇役体質がそろうと何が違うのだろう、と思っていたが
相手の台詞を受ける芝居がこんなに会話を面白くするのかと目から鱗の体験。
かしわ手の場面とか、酔っぱらって同じ話をする件など爆笑もの。
アドリブなんだか綿密な演出なんだかか分からないけど可笑しさ全開。

ここから抜け出して行く者、故郷へ帰る者、フクシマへ稼ぎに行く者、
そしてそっと一生を終える者・・・。
様々な人を見送って一人公園に残った谷田貝が、新入りに声をかける場面。
その労わるようなさりげなさは、かつて自分がしてもらったことそのままだ。
この終わり方が力んでなくて秀逸。
台詞と言いこの終わり方と言い、すごく洗練されていてある意味洒落た演出だと思う。
これ、「ナイアガラシリーズ」にならないかなあ、
毎回変なおじさんが出て来て、みんないろんな人生があって面白そうだと思った。

本編ではないが、劇団HOBO ホームページの「予告CM」がめちゃめちゃ笑える。
喰始さんの「森の熊さんを詩吟でやります」って可笑し過ぎでしょ。

力で押すのではなく、受ける芝居ってこういうことなのかと再認識した舞台。
この台詞、この会話、私にとって絶対次も観たい劇団となった。
背水の孤島

背水の孤島

TRASHMASTERS

本多劇場(東京都)

2012/08/30 (木) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

饒舌な表現者
綿密な取材に裏打ちされた“リアル”と想像力の跳躍による”近未来”、この二つを一度に堪能できる脚本。
震災という人智の及ばぬ出来事の前に、人はどう生きるのか、どうあるべきか、メディアと国民性、
テレビに出来ないこと、演劇の可能性など
様々なことを考えずにはいられない素晴らしい舞台だった。

ネタバレBOX

客席に入ってまずセットに目が釘付けになった。
テレビ局らしい照明機材や机の上の小型モニター、
モニターの上に置かれている小さくなったガムテ、足元の紙袋のひしゃげ具合・・・。
ここに毎日通ってくる人々がもうすぐ登場するのを待つ血の通った現場だ。
重々しいBGMが流れる中、それを眺めながら開演を待つ。

プロローグ
やがて始まるプロローグでは、震災後まもなくこのスタジオで行われたひとつのインタビューが描かれる。
太陽光発電の1年分の発電量が、浜岡発電所の1時間分にしかならないという事実、
電力不足で、あのトヨタまでもが海外移転を考えているという日本の現実が明らかになる。

前編「蠅」
プロローグの後、数分間流れる字幕とその朗読で説明がなされ、
明けた時には、貧しい被災者が暮らす納屋のセットになっていた。
前編の「蠅」は、被災地の暮らしに密着するドキュメンタリー取材クルーと
被写体として選ばれた“最も貧しい被災者家族”の話だ。
 
急ごしらえの納屋を改造した部屋に父と医大生の娘、高校生の弟が住んでいる。
母親の遺体はまだ見つかっていない。
被災者の窮状をアピールするためには、洗濯機などあっては困るとか、
“知りたい”という欲求の前にはプライバシーなど無いも同然の取材する側の傲慢さ。
“人の役に立ちたい”と言いつつ自分の為に活動していることに気付かないボランティア。
補償金をもらって、働かなくても良くなった被災者の戸惑い。
再建には程遠い被災地の中小企業の現実。
もしかしたら死んだ人より生き残った人の方が悲惨なのかもしれないのが被災地だ。
取材クルーが目にしたのは、極限状態の中で価値観もモラルも
一瞬のうちにひっくり返り、あるいはじわじわと変貌する人間の危うさだった。
実はクルー二人のモラルだって異常事態を理由にとっくに崩壊しているのだが。

まさに“五月蠅い”蠅のぶ~んという羽音が時折客席の方にまで響く。
誰かが何かに群がって利を得ようとすると、その音が大きくなる辺り音響が絶妙。

後編「背水の孤島」
再び流れる字幕で時間の経過が説明され、彼らの7年後が始まる。
後編「背水の孤島」のセットは原発推進派の大臣室である。
開け閉てにびくともしない重厚なドア、調度品、壁面の作りなど相変わらず秀逸。
医大生だった娘は被爆した人々を救う為の研究を重ね、
その論文は海外では認められたが
日本政府は「補償金額が莫大になり財政が破たんする」ことを理由に認めようとしない。
高校生だった弟は、今その大臣の秘書を務めている。
その弟が、テロまがいの脅しで大臣に自分の要求をのませようとする。
その要求とは、姉の論文を認めさせ、それを踏まえた被爆者救済法案の立案と
国債の海外向け発行の中止である。
人を傷つけず、自分が逮捕された後に大臣が変心することを計算に入れた巧みな計画で
説得力があり、見ごたえがある。
(緊張感の極みの場面で銃の弾倉だろうか、外れて落ちたのは残念だった。笑っちゃった…)
最後は国家でもマスコミでもなく普通の人々が「正しいと信じる」選択をして終わる。
苦いけれど爽快で、未来に少し希望が持てそうなラストが良かった。

役者陣は皆役に染まって熱演だが、
父親役の山崎直樹さん、大臣役のカゴシマジローさんが見事にはまり役。
野崎役の龍坐さん、前編の放射能の影響に立ちすくむところ、観ていて怖くなった。

もちろんツッコミどころはあるだろうが、
私が震災のような現在進行形の出来事をテーマにした作品に求めるのは
「別の視点」と「想像力を駆使した可能性」の提示だ。
この作品は、その2つを最大限に見せてくれる。
東電や政治家の言い分も言わせた上で、「それは違うだろ!」と
真っ向から言える脚本がどれほどあるだろうか。
毎回の凝りに凝ったセットにしても、時間の蓄積を雄弁に語るところを目の当たりにすれば
登場人物のキャラ設定同様、背景も大切な表現者なのだと解る。
この暑苦しいまでの、表現せずに居られない体質がTRASHMASTERSのすごいところだ。
さっぱりと洗練されずに、ずっと饒舌な表現者で有り続けて欲しい。
忘れっぽい私にがつんと刺激を与えてくれたことを感謝したいと思う。

うつくしい革命

うつくしい革命

劇団フルタ丸

「劇」小劇場(東京都)

2012/08/31 (金) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

フルタ丸の進路
結成10年となるフルタ丸が、「ちゃんちゃらおかしい」(当日パンフより)という
理想と現実の狭間で
「演じる」こと、それを「仕事」にすること、それで「生活」することを問いかける。
その上で「当然やるっきゃないでしょ」という決意が示されている。
前半の抑圧された描写の緊張感と、後半真実が明らかになってからのギャップが鮮やか。

ネタバレBOX

元遊園地だったところにある郊外のタウン。
ここには「二度と演じません」という約束と引き換えに
生活を保障された元役者たちが暮らしている。
そこへマツナカ(真帆)というひとりの元役者がやって来た。
彼女は監視員から、演じることや戯曲の朗読、モノマネ等も禁止されていて
禁を破れば銃殺も覚悟しなければならないこと等の説明を受ける。

舞台上手の一段高いところに彼女の部屋は用意され、
その部屋から広場を見下ろすことができるようになっている。
部屋には最初からオペラグラスが置かれていて
マツナカは自然にそれで広場を見下ろすようになる。

やがてこの安定した暮らしを維持しつつ、ここで演じることができるよう
革命を起こそうという密かな動きが現われた。
誘われたマツナカは頑なに拒否するが、やがてあることに気づく──。

“役者で食ってく”事の厳しさから、次第に疲弊して行く残念な現実。
作者はこの根本的な“職業的困難”を憂いつつ
じゃあ、辞めれば楽になるのか、楽になれば幸せなのかと突き付けて来る。
その姿勢に悲壮感はなく、むしろ笑い飛ばしているところが心地よい。
しかもラストはマツナカの選択にウルッと来てしまった。

住民たちの「舞台組」と「映像組」の対立や、内通者の存在などがリアルで
前半は銃の「パン!」という音も緊張感を呼ぶ。
エピソード毎の暗転が頻繁で、少し流れが途切れがちな印象だったが
後半、真実が明らかになってからは勢いがついて気にならなくなった。
勢い余って若干持って行き方に無理も感じられたが
マツナカを現世(?)へ戻す為の「強力なワークショップ」だと思えばいいか。
ならば尚更、マツナカが演じることをあきらめて来た理由づけが弱いのが残念。
ただ所属劇団が潰れたというだけでなく何か強い理由があれば
再びそこへ戻る覚悟が感じられるような気がした。

役者陣が個性的なキャラクターを生き生きと演じていて、
演じることの根源的な意味を考えさせる。
母親を演じ、キャリアウーマンを演じ、強い男を演じ、悪女を演じる・・・。
そもそも人は、どこからが素でどこからが演技なのか曖昧なものだ。

マツナカが食らったビンタの「びたん!」という快音が忘れられない。
あれは“現実”の音だ。
フルタ丸は“現実”を少し距離を置いて眺めながら、
真面目に自分の進路を進んでいて、その青臭いまでのみずみずしさが魅力だ。
フルタさん、うつくしい革命はその航路の彼方にあるんですね。
いい嘘、悪い嘘

いい嘘、悪い嘘

山田ジャパン

ウッディシアター中目黒(東京都)

2012/08/29 (水) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

満足度★★★

嘘とホラ
後から思い出しても、すぐに役名と役者名が結びつくのは
濃いキャラ設定と役者陣の熱演の賜物だが(親切なパンフもある)
個人的にはもう少しリアルな嘘の方が笑えたかと思う。

ネタバレBOX

下町のカフェ&ケーキの店で
貧乏劇団の座長でもある店長と座員、常連客たちが
即席ウソ劇団を結成、出張演劇の依頼に応えてミッションに挑む。
「不倫の恋人と別れたい・・・」

嘘が嘘を呼び、嘘に嘘を重ねて話はどんどん拡大していく。
SPに守られたり、爆弾処理したり、果てはゾンビに宇宙人・・・。
ゾンビ辺りから、その嘘の大きさについていけなくなってしまった。
誰も騙されない嘘って、それは嘘じゃなくてホラじゃないだろうか。

ハタから見る嘘の面白さとは、
“小さなウソが次第に自分の手に負えなくなっていくさま”ではないかしら。
悪気どころか、良かれと思ってついたささやかな嘘が身の破滅を招いたり
収集がつかなくなってパニックになったりするところが可笑しいのだと思う。

早々にありえない方向へ行ってしまうと、もうあとはハチャメチャしかない。
それもひとつの面白さだろうと思うけれどこのストーリーは、
親子が互いに素直になったり、芝居を諦めるという主人公を説得したり、
不倫の精算も不器用ながら誠実だし、誰もが生きることに真摯だし・・・と
“ちょっといい話”がラストにあるのでなんだか勿体ない気がする。

この力技みたいな脚本に役者陣はよく応えていて
天然石のブレスレットを売る会社員高橋(小林大介)や
シングルマザーの美里(相原美奈子)などはキャラに無理なくはまって
台詞もよくなじみとても面白かった。

しかしウッディシアター、詰め込んだねえ。
小さい座布団が重なるように並べられて
常に隣の知らないオヤジと腿が触れ合う1時間30分。
もう少し快適な観劇環境を提供することも考えていただけたらと思った。
【全日程終了!!!】鬼FES.2012【ご来場有難う御座いました】

【全日程終了!!!】鬼FES.2012【ご来場有難う御座いました】

ロ字ック

APOCシアター(東京都)

2012/08/24 (金) ~ 2012/08/26 (日)公演終了

満足度★★★★

女子は AB-normal
3日間で18劇団が30分ずつの演目を披露、
ビールやかき氷片手にスタンディングで観劇するという夏のフェスの2日目
拘束ピエロを観る。
6月に観た「so complex semi-normal」が男の子バージョンなら
こちらは女の子バージョンということで興味深々出かけた。

ネタバレBOX

セットは椅子がひとつだけ。
さほど奥行もない横長の舞台をフルに使って
いじめられる側が「リセット!」の一言でいじめる側に周り、
髪を切られて、回りまわって仕返しされて、・・・と
加害者と被害者がくるくる入れ替わる様は男の子バージョンと似た展開。
ゲーム感覚で暇つぶしのようにターゲットを決めては複数で痛めつける。
白いドレスを着せられたら、さあ、今度はあなたがいじめられる番。

ここで責められるのは「いじめた人間」ではなくて
「いじめを見ていて助けてくれなかった人間」だ。
助かるチャンスも、変わるきっかけも奪った人間、
自分が標的にされることを恐れた卑劣な傍観者だ。
ちくっと胸が痛むけど、適当に言い訳しながらすり抜けて行った奴。

簡単に立場が入れ替わって誰もがいじめていじめられて
でもその中には時間がたっても絶対に許せない人間もいる。
だから仲直りして後ろに回って髪を切ってあげていた彼女は
そっと大きなハサミに持ち替える。
そのハサミがギラリと光った瞬間に暗転・・・。

──やっぱり女は殺しちゃうんだ。
この鋭いラストと、冒頭ゲームのように標的が決まるキレの良い演出が秀逸。
長い髪と白いドレスが次々と移って行って
今いじめられているのが誰だかわからなくなるような感覚。
30分で見事に完結する中身の濃い舞台だった。
役者陣の台詞も緊張感をキープして見ごたえがある。
この1回で終わるのはまことに勿体無い。
男の子バージョンとセットでやったら面白いのに。

いじめる人間は何を満たしたいのだろう?
男子が暴力支配による自己顕示欲なら
女子は論理なき女王様願望だろうか。
そんな単純なものではないだろうが、いずれにしてもその理由は虚ろなものに見える。
男の子バージョンもそうだったが
この日のいじめも、こちらが痛くなるようなリアルな描写で
相変わらずの容赦ない感じが強く印象に残る。
そこそこの写真

そこそこの写真

各駅停車

OFF OFFシアター(東京都)

2012/08/23 (木) ~ 2012/08/27 (月)公演終了

満足度★★★★

淀みない台詞
半分しか血の繋がらない姉妹たちが、父の“余命2ヶ月”を機に実家へ集合する。
軽やかな会話の裏にある、半分だからこそ
その絆を大切にする姉妹の切ない気持ちが伝わってくる舞台だった。
説明的でない、台詞の質を堪能した。

ネタバレBOX

舞台は田舎の広い一軒家の庭である。
素朴な木のテーブルの周りに手製の木の椅子が3脚、ベンチが一つ置かれている。
その奥は懐かしい縁側、サッシではなく木枠のガラス戸は常に開け放たれている。
客入れの段階から蝉の声と夏祭りの笛の音が小さく流れていた。
駅からも遠い不便な場所だが、この庭からの眺めは素晴らしいという設定。

槙田家の4人姉妹のうち次女が父親とふたりで住む家に
次々と他の姉妹たちが帰ってくる。
一度倒れた父が、いよいよ余命2ヶ月と宣告され、次女が知らせたからだ。
好き勝手に生きてきた父のおかげで彼女たちは母親の違う姉妹である。
父の最期を見守るため皆しばらく滞在することになる。

なめらかに、転がるように姉妹たちの会話が弾む。
その会話の中に4人姉妹の性格がそれぞれ豊かに描かれている。
おっとりした長女(桜かおり)は、休みは簡単にもらえたと言うが何か秘密がありそうな様子。
おおらかに姉妹達を迎える次女(梅澤和美)には、母親とではなくこの父と暮らす理由があった。
三女(長沢彩乃)と四女(加藤尚美)は顔を合わせれば口喧嘩ばかりしているが
実は誰よりも相手のことを心配していて、喧嘩はその裏返しみたいなものだ。
次女のキャラクターがとても魅力的で安定感がある。
彼女を軸に、父親の死をめぐって姉妹たちの過去と現在が描かれる。

「槙田さんちのちっとも似てない4姉妹」と言われながら育った子ども時代を共有する彼女たちは、
その絆が片方だけであるがゆえに、一層強く結びついているように見える。
父親の再婚によって同居することになったとはいえ、
本来なさぬ仲の4人が互いの存在を認め合うのにはそれなりの時間がかかっている。
後半、突然の五女(小瀧万梨子)の出現に誰もが驚いたが
それを素直に受け入れる土壌が自然に出来ているのもとても良かった。

初日の舞台ながら、淀みなく交わされる台詞の応酬が心地よく
縁側から出入りする緩やかな生活空間が、のどかな地方の暮らしを思わせて楽しい。
姉妹の他に、父の民芸品作りを手伝う弟子の青年(大金賢治)や
ただ一人結婚している四女の夫(伊藤毅)、
民芸品ビジネスを手伝う女性(日向彩乃)らがみな個性的で
姉妹が奏でるアンサンブルに程よい変化と客観性をもたらしている。
“説明させる”のではなく、何気ない会話の積み重ねによって
登場人物のキャラクターを浮き上がらせるのは“質の高い台詞”によるものだと思う。
微妙に変化する照明も、繊細でとても良かった。

「お父さんが死んだらみんなで写真撮ろうか」という長女の言葉の
本当の重みがわかるのは物語の終盤になってからだ。
その写真は、“そこそこ”どころか
これからの彼女たちを支える大切な一枚になるに違いない。
ラスト、次女が長女にかける「いってらっしゃい」という言葉に
思わずほろりとさせられた。
窓からは夏の空が・・・

窓からは夏の空が・・・

演劇集団Nの2乗

「劇」小劇場(東京都)

2012/08/21 (火) ~ 2012/08/26 (日)公演終了

満足度★★★★

離婚の理由
築40年の一軒家のリビングを舞台に、離婚したい人、離婚したくない人、
離婚した人、一人で寂しい人など様々な人間模様が繰り広げられる。
役者陣がそれぞれのキャラを生き生きと演じていて充実の舞台だが、
それだけに離婚したい「理由」が語られないことが最後まで気になった。

ネタバレBOX

ダイニングテーブルに椅子が2脚、上手に2人掛けの長椅子というさっぱりしたリビング。
築40年という年代を感じさせるものは特に見当たらないが
壁に掛かった数枚の和な感じのタペストリーが少し雰囲気を醸し出す。

この家の住人瞳(大室由香利)が修造(藤原基樹)に離婚届を突きつけ
署名捺印を迫るところから物語は始まる。
もう瞳の引越し先も決まり、あとは修造が身の振り方を
決めるばかりになっている。
なんとか少しでも結論を先延ばしにしようと悪あがきをする修造。
そこへ職場の先輩や大家、それに四国にいるはずの修造の姉までが
次々とやって来て、ことはちっとも進まない。

さらに不動産屋が、新しい借り手早苗(江口ヒロミ)と幸一(高沢知也)を
連れてやってくる。
ついに業を煮やした瞳が皆の前で離婚を宣言、
雑誌の離婚特集に背中を押されたと話す。
偶然なことに新しい借り手早苗は、その雑誌の副編集長だった。
瞳は、この時とばかりに早苗に特集の内容について尋ねる。
すると早苗の口から意外な言葉が・・・。

登場人物がくっきりと表現されていてとても魅力的。
特に女性誌の副編集長で11歳年下の読者モデルと再婚した早苗を演じた江口ヒロミさん、
キャリアウーマンとしての自信と、再婚した幸せオーラのバランスが素晴らしい。
所謂キャリアウーマンによくあるヤな女ではなくて
思慮深く温かみのある女性として描かれていたのがとても良かった。

彼女の「好きという気持ちが、信頼や尊敬という気持ちに移行できるかどうか」が結婚の鍵だという言葉、本当にその通りだと思う。
この説得力ある言葉と、年下の幸一との絆を感じさせる初デートのエピソードが
その場にいたすべての人の心に染み入るのがわかる。

瞳も修造もチャーミングな人間なのに今ひとつ感情移入できなかったのは、
瞳の「離婚したい理由」がよくわからないからだ。
離婚の理由なんて一つではないかもしれないし、言葉では表現しにくいものだろう。
でもその“表現しにくいものを一生懸命表現して相手に伝えようとすること”が
“相手と向き合う”こと、最も”エネルギーを要すること”ではないだろうか。
だとしたら修造にも観客にも曖昧なら曖昧なままに、伝えようとして欲しかった。
あんなにひとりで先走って(いるように見える)離婚したがる理由は何なのか、
修造のはっきりしない性格だけが問題なのか、私は知りたい。
四国から家出してきた姉が離婚したい理由も「いろいろあるのよ」って
そりゃそうだろうけど、あなたの「いろいろ」のさわりだけでも話してくれませんか?

ラスト、姉は四国に戻り、二人は話し合って離婚となったが
あの“ぐだぐだ逃げ一点張り”だった修造が
いったいどんなふうに向き合って、何が変わってそのさわやかな表情になったのか、
そのプロセスが一切描かれないので、若干置いてきぼり感を覚えたかな。
あの二人がもう一度考え直す余地がありそうな結末は、
希望の気配があって良い終わり方だったと思う。

それから聞きにくいことを率直に口に出しちゃっては
周囲から口を抑えられたり「それを言っちゃう・・・」とたしなめられたり、
というパターンが多すぎて、その言い方でしか質問できないのはちょっと残念。
この辺がコントっぽくて、魅力的なキャラのなのに会話の仕方が勿体無い気がした。

終盤、真ん中から外へ左右に大きく押し開く窓を開けた修造の視線の先には、
夏の空が広がっているのが感じられた。
人を呼び人を包み込む、この古い一軒家の佇まいが浮かぶようだった。

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