貧乏が顔に出る。 公演情報 MCR「貧乏が顔に出る。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    変わらなくちゃいけませんかね?
    ああ、全くその通りだと思わせるこのタイトルに惹かれて
    新宿のサンモールスタジオへ行ったのだ。
    再演だそうだがなるほどMCRらしさ全開のテーマ。
    「人は簡単に変わらない」「ってゆーか変わらなくちゃいけませんかね?」
    という開き直りに似たスタンスがまたいい。
    罵倒しながら、男たちは哀しいほど優しい。

    ネタバレBOX

    トイレはあるが風呂は無い…ような6畳一間のアパートの一室が舞台。
    トモ(櫻井智也)、じゅんや(おがわじゅんや)、ヒロ(北川広貴)の3人は
    このおんぼろアパートで一緒に暮らしている。
    元々はトモの彼女が借りていた部屋で、トモは今でも出て行った彼女が忘れられない。
    トモはミュージシャンになりたい賽銭泥棒で、じゅんやは深夜のコンビニ店員、
    ヒロは会社をサボってばかりいる会社員だ。
    トモはいつも押し入れの上段に布団を敷いて座っている。

    このダメダメ3人組の生活にある日お地蔵さんがやって来る。
    酔っぱらったトモが担いで来てアパートの廊下に置いたのだが、
    このお地蔵さん、“人の記憶を金で買う”という
    「徳」なんだか「得」なんだか解らない力を持っていたのだった。
    トモは「ギターの弾き方」など次々と自分の記憶をお地蔵さんに買ってもらい、
    お地蔵さんの足元に出現する現金を手にしていく。

    この部屋には毎日様々な人々が訪れる。
    じゅんやに自分の部屋に引っ越しておいでよ、と迫る恋人の奈々子(山田奈々子)や
    トモの弟大介(三瓶大介)、大家の息子奥田(奥田洋平)、
    そしてヒロの会社の同僚東谷(東谷英人)等々・・・。
    そして人の良いヒロがこの同僚にあからさまに利用されていくところから
    ついにあることが起こってしまう・・・。

    MCRの今回の“ヤなやつ”は、会社の金を横領して
    その罪を平然とヒロになすりつけようとする男だ。
    極悪人でもないし特権階級でもない、私たちとさして変わらない人間が
    少しだけ要領が悪くて根性が足りなくて甲斐性がない人間を
    徹底的に下に見て利用する、しかもそれを「当然でしょ?」とうそぶく。
    MCRの芝居を観ると、このフツーの人間ほどたちが悪いものはないことに気づかされる。

    櫻井智也の書く罵詈雑言満載の台詞には、
    「てめえだって俺らと大して変わらねぇくせしやがって偉そーに…」という
    人を見下す輩に対する憎悪に近い感情があって
    そこに私は毎回否が応でも共鳴してしまう。

    次から次へとお地蔵さんに記憶を売ってしまうトモの行為は
    荒唐無稽なようで実は私たちに“価値観”を問うてくる。
    車の運転、ギターの弾き方、自分の名前、かつての彼女…。
    「それ、要るのか要らないのか?」

    お地蔵さんの足元に出現する金額にも笑ってしまう。
    トモが自分の名前を売って、20円持って戻ってくるのが可笑しい。
    金額はあくまで“自分にとってどれくらい大切か”ということで
    彼にとって名前なんてどーでも良かったということだ。

    みんなに迷惑をかけたくないと極端な行為に出て
    結局自分が怪我をしてしまったヒロ。
    ヒロのことだから、この先ずっと何かにつけて謝りながら生活するだろう。
    そのヒロの記憶を売ってしまって「気にするな、俺は全然覚えてないから」という
    トモ流の究極の友情に、何だか泣きそうになった。
    初対面のようにまたヒロと再会したトモが「お前、面白いな」と受け容れた時
    また3人の共同生活が始まることが、私は心底嬉しかった。
    じゅんやもいずれ戻ると思うし(笑)

    貧乏も顔に出るが、金の使い方も顔に出る、優越感も顔に出る。
    そんなことを思った舞台だった。

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    2012/09/26 17:45

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