小さなエール 公演情報 643ノゲッツー「小さなエール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    変わろうとする人にエールを送る
    道徳の授業みたいに“反省”し“心を入れ替える”主人公が出来過ぎの感もあるが
    「じゃあどうすればいいのか」という根源的な問いに対して
    作者は反論を覚悟の上でひとつのメッセージを発信していると思う。
    役者が自ら操作する照明による独特の雰囲気が超現実的なシーンを和らげる。

    ネタバレBOX

    父親の七光りで豪邸で好き勝手に暮らし、父の愛人の娘たちを
    虐待するようにこき使っていた涼太(海老根理)。
    会社の経営コンサルタント(谷仲恵輔)の助言にも耳を貸さず
    ついに父親は病死、会社は乗っ取られ、妹は通り魔に刺されて死んでしまう。
    新しい主としてこの豪邸に乗り込んで来たのは社長令嬢で、
    涼太が何度も振ってコケにしてきた娘だった。
    他に生きる術を持たない涼太は、彼女に仕える身となってしまう。

    ここから社長令嬢始め、こき使って来た使用人たちから
    執拗な報復を受ける生活が始まる。
    ほとんど昼の連ドラみたいに怨讐渦巻く環境の中で涼太は驚くべき変化を遂げる。
    自分のこれまでを反省し、復讐する人々の理由も含め全てを受け容れていくのだ。
    その姿は、「零落ぶりを見に来ました」とうそぶく坊主などよりよほど宗教者のようだ。

    この豪邸の主の会社に、次々取り入っては潰してきたコンサルタント自身が
    たった一度の買収失敗によってリストラされ落ちぶれる様は壮絶だ。
    結局涼太の変化が、愛人の娘たちや社長令嬢の心にも作用して
    人々はひとつずつ小さな灯りを手にしてこの屋敷を去っていく──。

    こんなに真摯に反省、受容して人の心を理解できる人間が
    どうして最初あんなに人を人とも思わないような扱いをしてきたのか
    その変化に飛躍があり過ぎるから、違和感を覚えざるを得ない。
    だが、「じゃあどうすればいいのか」という開き直ったような問いかけに
    作者は直球ストレートでひとつの思いをぶつけて来る。

    「いじめる人間が変わらなければ何も変わらない」
    いじめられて逃げ出しても、先生に言いつけても、マスコミが騒いでも、警察が介入しても
    いじめはなくならないし何も変わらない。
    平然と他者の痛みを「笑う」行為は、「想像力の欠如」に他ならない。
    作者はそこに気付いた涼太の苦悩を描き、彼に小さなエールを送っている。

    役者が操作する小さな灯りは、過去と現在を照らし分け、個々の孤独を浮き上がらせる。
    横断歩道で鳴る「ぴっぽっぴっぽ・・・」という音が終始小さく流れて
    目の前の上下関係が間もなく逆転するのをカウントダウンしているようだ。
    次はあの坊主が宗教法人としてこの豪邸を買い取って、いつか脱税で捕まって・・・
    みたいな展開もありかもしれないと想像させる。

    海老根理さんの素直な表現が、涼太の激変ぶりを“性善説”として訴えてくる。
    コンサルタントの谷仲恵輔さん、少し前に芝居屋風雷坊の「今夜此処での一と殷盛り」で
    探偵を演じてとても印象的だったが、
    「サラリーマンの自信」が時として「想像力の欠如」から来るものだと言うことを
    ブレない演技でまたまた強烈に印象付けた。

    涼太の渡す小さなキャンドルが、そのまま
    変わろうとする人々への小さなエールに見えた。
    「人が変わる」とは、それ程に難しく苦しいものなのだ。

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    2012/10/07 15:07

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