うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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プラトニック・ギャグ

プラトニック・ギャグ

INUTOKUSHI

駅前劇場(東京都)

2013/12/25 (水) ~ 2013/12/29 (日)公演終了

満足度★★★★

挙動不審
イマドキのナンセンスをちりばめ、惜しげもなく裸体を晒した果てには
“いつの間にか取り残される”者の孤独があった。
現実と脳内劇場とを並行して見せる演出も、そのギャップが鮮やかで面白い。
力のある役者さんがそろって、へらへら笑っているうちに何だか身につまされてくる。
特に藤尾姦太郎さんの“挙動不審”ぶりが素晴らしく、ブラックなラストが冴える。

ネタバレBOX

ノア(堀雄貴)とナギ(石澤希代子)の不器用なラブストーリーが
アニメのような世界で展開する。
人体模型のキリト(満間昴平)やヘビコ(竹田有希子)、
最後には二人を応援する恋敵のスプー(萩原達郎)、
何かと邪魔する先生のドラン(椎木樹人)などキャラの立った登場人物たちが
賑やかにスクールライフを繰り広げる。

一方現実世界では、小学校時代にはいつも一緒に遊んでいたが4人が
大学生になるとカナ(鈴木アメリ)とシュウスケ(板倉武志)が付き合い始め
ハルマ(後藤彗)は自分の方向を探りに海外へと旅立つ。
トウジ(藤尾姦太郎)はいつもふざけてギャグを言っては皆を笑わせていたが
次第に現実世界から置いてきぼりを食う不器用な男だ。
大学生になって久しぶりに4人がそろったある日、
カナとシュウスケが付き合っていることを知らされたトウジは
タガが外れたような行動に出てみんなを呆れさせる。
トウジは子どもの頃からカナが好きだったのだ。
そしてついにトウジは自分が作り上げた脳内世界を破壊し始める…。

A side とB sideとが平行して描かれ、共に不器用なラブストーリーが展開するのだが
Aはトウジの脳内で作り上げた理想の世界である事が判ると
現実世界に上手く対応出来ずにいつもギャグで紛らわせているトウジの孤独が際立つ。
Aではもう少しで成就する所だったのに、Bで容赦ない現実を突き付けられたトウジは
自分で作り上げた脳内ラブストーリーを破壊してしまう。
現代の“逃避”と“置いてきぼり感”がリアルに伝わって来て彼の孤独に共感すると同時に
上手く行かないと何かを壊さずにいられない、その極端さがイマドキっぽい。

中途半端だったら見ていられないようなギャグも
役者陣の指先まで神経の行き届いた表現でぐいぐい惹きつける。
藤尾姦太郎さんの挙動不審ぶりが素晴らしく、悲哀と狂気を見せて秀逸。
好きと言う気持ちを表すのに、ギャグで笑わせる事しかできない男が上手い。
彼にとって意味不明なギャグだけが、彼女へのメッセージだったのだが
当然それは伝わることもなく、全く報われないところがリアル。
ナンセンスギャグの中にブラックを潜ませて、最後に深くエグるという構成が効いている。
フライヤーのデザインやBGMのセンスも素敵。

「行かないで。ここにいて。ずっとここにいて」という
最後にようやく吐いたトウジの台詞が痛いほど切ない。




THE BELL

THE BELL

CHAiroiPLIN

神楽坂セッションハウス(東京都)

2013/12/21 (土) ~ 2013/12/23 (月)公演終了

満足度★★★★

ゆうびんやさん♪
ダンスなんてあまりわからない私だけど、何だか楽しくて笑って観てた。
ストーリーがあって、歌があって、身体とことばが一緒に動く感じ。
アカペラで歌うのが良かった。
清水ゆりさん、作詞・作曲に素敵な声。
ダンスって、人間の原始的な表現なんだなぁ。
でも「衝撃作品!」っていうのはよく分からなかった気がする・・。

ネタバレBOX

演技スペースには薄茶色の紙が敷き詰められている。
やがてそこにポストが2つ運ばれて来て、白山羊と黒山羊が登場する。
互いに来た手紙を食べてしまってちっとも話は通じない。
テーマは手紙、大量の手紙、配達する郵便屋さん、届かない荷物、そして伝書鳩…。

10通のハガキが、短い台詞や
♪ゆうびんやさん、落し物、葉書が10枚落ちました♪
と歌いながらのダンスが圧巻。
ことばはリズムで、リズムに身体が反応する。
ダンスって、身体の動きに意味を見いだすものだと思っていたので
何となく無理やりなイメージがあったけど、これは全然違う。
彼らが身体を動かしたくなる理由が解るのが楽しい(いかにも超初心者の感想…)
アカペラで踊りながらにもかかわらず、よく音程がそろっていたので感心した。

映像の使い方がスタイリッシュだ。
山羊がだんだん大きくなる映像とか、降り積もるひらがなとか
情緒のある使い方で面白かった。

清水ゆりさんの作詞・作曲とアコーディオン、きれいな声がとてもよかった。
どこにも届かない荷物の役で寂しい歌を歌っているのに、
台車に乗ってゆっくり横切って行くのがそこはかとなく可笑しい。

市東春華さん、ダイナミックかつ細かい動きがすごい。
10枚のハガキの中でも存在感大だった。

演じる側にとっては、表現の幅が問われる大変さがあるのかもしれないけれど
観ている方は爽快で楽しかった。
治天ノ君

治天ノ君

劇団チョコレートケーキ

駅前劇場(東京都)

2013/12/18 (水) ~ 2013/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

なぜ今「大正天皇」か
文句無しに今年のベスト3に入る作品。
大正天皇の皇后を狂言回しに3代の天皇が描かれる構成、
厳選された台詞、例によって役が憑依したかのような隙の無い演技、
大きな世界観を持ちながら繊細な感情を丁寧に掬う演出、全てが素晴らしい。
なぜ今「大正天皇」なのかと思っていたが、その答えがあまりに鮮やかに示されて
自分の知識の無さに打ちのめされつつ劇場を後にした。
登場人物一人ひとりの誠実さや無念さが押し寄せて、まだ冷静になれない。
政治的なことより、大正天皇という人物に寄り添ってみたいという
何か作者の温かい気持ちが作品にあふれているのを感じる。


ネタバレBOX

劇場に入ると踏んでいいのかどうか一瞬ためらうような
赤いじゅうたんがひとすじ敷かれており、
その先は舞台下手側、3段ほど上がった所にしつらえた玉座に続いている。
ドレープを寄せた厚いカーテンが下がるだけのシンプルな舞台。
厳かな光に玉座が浮び上る。

冒頭ここに座るのは明治天皇(谷仲恵輔)である。
天皇は畏怖されるべき存在で人情など不要、と説く明治天皇にとって
純粋で優しい大正天皇は“資質が及ばない、その次の天皇までのつなぎ”と映る。
大正天皇(西尾友樹)の進取の気性を愛し、彼を支える有栖川宮(菊池豪)、
四竈(岡本篤)、首相の原敬(青木柳葉魚)たち。
そして皇后節子(松本紀保)は最後まで彼を敬い、寄り添う。
しかし時の政治家牧野(金成均)、大隈(佐瀬弘幸)らは大正天皇の能力を認めながらも、
今この国に必要なのは先帝、明治天皇が唱えた天皇像だという考えに傾いていく。
そして生来病弱だった大正天皇が脳病を患ったのを機に一気にその動きは加速、
大正天皇の意思を無視して皇太子ヒロヒト(浅井伸治)が
摂政(天皇に成り変わって公務を取り行う役職)となることを強行する。
やがて時代は「殖産興業」「富国強兵」という
明治のスローガンが復活したかのように転がり始める…。

「治天ノ君」がフィクションであることを踏まえながらも
史実の行間をよくぞここまで豊かに創造したと感嘆する。
誰ひとりとして無駄な台詞はなく、責任ある立場とそれ相応の複雑な心理を抱えている。
中でも大正天皇の何と魅力的な人間像だろう。
結婚の際、皇后節子に「仲の良い夫婦とはどのようなものか」と問い
「一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に怒る」ものと聞いてその通りにしようと答える。
大正天皇が明治天皇に向かって言う
「わたくしは不詳の息子でありますが、たゆまず努力します」
という言葉は「父と呼ぶな」と言われて育った孤独な人生そのものだ。
奢らず人に教えを請い、素直に人の意見に耳を傾ける大正天皇は
現在の“新しい皇室”を先取りするかのような人物として描かれている。

一握りの閣僚が「自分が泥をかぶっても大日本帝国を導かねばならぬ」などと言うのが
“臣民”にとっていい迷惑であったことは、歴史の結果を見れば明らかだ。
時代の流れと閣僚たちの思惑に翻弄された47年の生涯は
あまりに口惜しく無念の連続であり、それが病の元凶だったのではないかとさえ思う。

その大正天皇を側で見守り続けた皇后節子が、地の文を語るというかたちが秀逸。
節子による「~だった。~なのだ。~であった。」という書き言葉の語りが
硬質な物語に相応しく、冷静に状況を見つめていた彼女のスタンスにも合っている。
摂政となり、さらに喪中にも関わらず明治60年祭を催して
急ぎ“大正時代”を消去しようとする息子ヒロヒトに節子が語りかける。
「あなたは父上を二度葬るおつもりですか」と。
実際の死と、歴史上の死とをめぐる、決定的な親子の決別の場面だ。
決して激せず、常に美しいことばと発音で優雅に話すこの賢明な皇后を演じる
松本紀保さん、単語の最後の響きにまで神経の行き届いた発音と
生来の気品あるたたずまいが素晴らしく、舞台全体をけん引する。

大正天皇を演じた西尾友樹さん、脳病(多分脳いっ血の後遺症とも言われる)を
患ってのちの言語の障害など、難しい表現が痛々しいほど上手い。
皇后との会話など初々しい場面も素晴らしく、のちの悲劇的展開が一層哀しく際立つ。
己を知りつつさだめを受け入れてひたむきに努力する、日本一孤独な男が素晴らしい。

後に侍従として仕えた四竈を演じた岡本篤さん、“誠実”と言う言葉が似合いすぎ。
不自由な口で軍歌を歌う大正天皇に合わせて歌うところ、思い出しても涙がこぼれる。
これほど万感の思いがこもったお辞儀を、久しぶりに見た気がする。

明治天皇役の谷仲恵輔さん、これまで拝見したどの舞台よりも(と言っても4~5回だけど)
その声がコントロールされ、役と台詞に活かされていたと思う。
あの時代を象徴する素晴らしい明治天皇だった。
立ち姿、お辞儀をはじめ全ての人の所作が美しく、重厚な舞台だった。

「現人神」だの「天皇機関説」だの「象徴」だのと様々に言われて来たが
結局はその時々よって“利用法”が変わってきたということなのだろう。
現人神をも利用して国を動かす、げに政治家とは怖ろしく野蛮な人種だ。
「アベノミクス」とか言ってケムに巻かれていると、いつのまにか
「ウミノモクズ」となってしまいそうな気がする。

くり返す歴史の辻に立って、演劇の力というものを考える時
必ず思い出す1本になるであろう舞台だった。
制作に関わる全ての人々に感謝と敬意を表したいと思う。
ありがとうございました。


有明をわたる翼

有明をわたる翼

演劇企画フライウェイ

ザムザ阿佐谷(東京都)

2013/12/18 (水) ~ 2013/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★

12月20日、開門
1997年「潮止め」により、諫早湾は完全閉鎖、
地元の人が“ギロチン”と呼ぶ、あの映像は当時繰り返し放送された。
演劇人と生態学研究者が協力して制作した作品は、
国を相手に訴訟を起こしもう一度海を取り戻そうという“開門派”と、
今さら自治体の補助金無しで生活できるわけがないという“現実派”の
真っ二つに割れる漁協の対立に、専門家の協力や
ロミオとジュリエットばりのラブストーリーを絡めた意欲作。
渡り鳥たちの精巧な動きと本格的なダンスが美しく、
人間の愚行と対照的に、自然界における命の連鎖を的確に表現している。

ネタバレBOX

「鳥のことばが解る」百合江(村上麗奈)は、絵を学ぶため諫早を出て東京へ行く。
彼女が自分の限界を感じて故郷へ戻った時
国を相手に訴訟を起こそうという開門派と
開門してももう海は戻らないし、補助金無しでは暮らしていけないという反対派で
漁港は真っ二つに分かれ激しく対立していた。
補助金をもらって生活を安定させ、漁師でない男に娘を嫁がせたいと
誰よりも誇り高い漁師だったはずの百合江の父は、ついに陸へ上がる決意をする。
一方訴訟のために村人を説得に回る富雄(神田敦士)は
専門家のハカセ(斉藤真)の助言を得ながら訴訟に備えるうち
百合江と結婚の約束を交わす仲になる。
そんな時、船で調査に出ていた富雄とハカセは天候の急変で嵐の中沖へ流されてしまう。
誰もが救助をためらう中、百合江の父はひとり訴訟委任状を託して救助に向かう。
富雄とハカセは助かり、結婚に大反対だった父は還らなかった。
それを機に村は一気に訴訟へと団結、2010年12月、確定判決で
干拓事業と漁業被害の因果関係が認められ、開門の実施が命じられた。
そして2013年12月20日、有明は開門の日を迎える…。

証言台で語る当事者のことばが、環境と人生の激変をストレートに語って
“専門家の言うことを聞かない国”の失敗がここでも露わになる。
このまま補助金をもらって突き進むのも
一度立ち止まって後戻りするのも、どちらも苦しい選択なのだが
人間は反省してやり直す道を選んだ。

その人間どもの失態を干潟で見ている鳥の群れは
ファンタジーのようでいながら、自然界をきっちり代弁している。
羽をあしらった衣装や帽子で優雅に踊る鳥たちは
一歩間違えれば学芸会になってしまいがちだが、
鳥らしいリアルな細かい動きと本格的なダンスで、見事に人智を超えた存在になった。
渡り鳥オオソリハシシギを率いる長老、月読(羽根渕章洋)の深いまなざしと
群れに1羽だけ迷い込んでいるフラミンゴのルーノ(参川剛史)が良い。
おちゃらけたルーノの台詞に、はぐれ者の孤独と人生の方向を見失った心細さがにじむ。
ハカセ役の斉藤真さん、滑舌よく専門家としての立場から地元に協力する
熱い思いが伝わってきて良かった。

上手と下手に吊るされたステンレス(?)の巨大なシートの演出が秀逸。
富雄が説得に訪れると、裏からそれを叩いて拒否の台詞に替える場面、
嵐の中激しくそこに叩きつけられる場面では迫力ある大きな音が響いて効果抜群。

自然に逆らえば人は居場所を失う、そして失った時には
先頭に立った国など何の助けにもならないということを改めて考えさせられた。
新説・とりかへばや物語

新説・とりかへばや物語

カムヰヤッセン

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2013/12/13 (金) ~ 2013/12/23 (月)公演終了

満足度★★★★

もっとシンプルでも…
元の古典は「左大臣が2人の子どもの性別を『取り替えたいなあ』と思って
ほんとに取り替えちゃったらそれぞれ出世したが最後は元の性に戻った」という話。
オリジナルをストレートに舞台化しても十分センセーショナルでインパクト大なのに
それを落語界に置き換えてからの構成がちょっと“複雑にし過ぎ”の感あり。
創作落語を練る噺家が作中人物と会話しながら論理を展開することで
役者陣のキレのいい江戸弁が醸し出す“時代の空気”を中断しているように感じた。

ネタバレBOX

舞台奥にぐるりと優美な格子戸がめぐらされていて、
開演直前、その向こうに役者さんたちが入って来て座った。
開演後は、ハケると格子戸をあけてそこに座ることになる。
この出ハケ、部屋の出入りがリアルだしスピーディーでとても良かった。
客入れの際に流れた噺家の出囃子も、落語好きには面白くて好き。

ある噺家のところへ女性が熱心に弟子入りを希望して通うが、
彼の師匠は「女の噺家など認めない」の一点張り。
そこで彼は、新作落語で大胆な仮説を立て、男女の差など意味はないと主張する。
「喋り」は本来女の仕事だったのにいつの間にか男が取って代わったのだと…。
その創作落語とは…。
女の世界だった落語に「向いている」と息子を送りこみ、
男ばかりの藩校に勉強好きな娘を入学させる父親。
二人はそれぞれの世界で評価を得るが、恋愛問題で本来の性と葛藤することになる。
そして結局は元の性に戻って居場所を得る、というストーリー。
この創作落語完成の後、師匠は女弟子の存在を認める…。

身分や職業による言葉づかいが変なところも散見されるがツッコまないでおこう。
ついでにフライヤーの写真、着物の合わせ方が“死人”になってないか?
男女とも右手が懐に入るように合わせる“右前”が正しいと思うのだけれど…。
そういった時代考証の甘さはともかく
師匠(北川竜二)や女噺家(笠井里美)、男女の入れ替わりを提案する父親(太田宏)、
それに創作落語をけしかけ、途中からリードする男(辻貴大)らの
江戸弁の台詞に勢いがあってとても魅力的だ。
女になり切る為の所作その他を教えるよし乃を演じた工藤さやさん、
たたずまいも仇っぽくて優しく、とても素敵だった。

個々のキャラクターは確かにインタビューしてみたくなる奥行きと魅力がある。
想いを同じくする登場人物が2人で同じ台詞を唱和するなど
力強く惹き込まれる演出は秀逸。
お上の締め付けや、先細りの業界を憂える新旧の考え方の違いなど
社会的背景も説得力がある。
だが“性別にとらわれない生き方”を問い、“幸せを感じる居場所”を探すなら
シンプルに“女が学問をし、男が噺家を目指す”構造でも良かったのではないか?
作り手の迷いや疑問がいちいち顔を出すと流れが途切れてもったいない。

息子が女を装って落語家になるところも、
客や席亭など周りに“実は男である事がバレている”という設定が中途半端。
周囲を完全に欺いてこそ、自分のアイデンティティへの悩みが深まる気がする。

今の時代に、北川さんのこのテーマへの着眼点とアプローチは素晴らしい。
作家の、また観る者の想像力をかきたてる「とりかへばや物語」、
改めて、古典の大胆な発想に驚かされる。

アクアリウム

アクアリウム

DULL-COLORED POP

シアター風姿花伝(東京都)

2013/12/05 (木) ~ 2013/12/31 (火)公演終了

満足度★★★★

熱帯魚たち
括りたがるオヤジ世代、括られて影響される素直な若者たち、
世代の違いをこれ以上ないほどの振れ幅で見せる演出が素晴らしい。
限られた選択の中でしたたかに小ずるく生きる者もいる。
小さなアクアリウムで一生を終える、熱帯魚達の儚い生態。

ネタバレBOX

小劇場系にはちょっと珍しい黒い幕の前で、前説の谷さんが
「古いタイプのお芝居をしますが、すぐ終わりますので…」と言って笑いを誘った。
確かに、“伝兵衛な”部長(大原研二)とその部下菊地(一色洋平)の
脳いっ血起こしそうに力の入ったやりとりは古いタイプ、っていうか
古い年代の言いそうな“今の若いもん批判”と“根拠のない決めつけ”が強烈。
ここでもう笑わせながら、時代の違いや世代間の深い溝が露わになる。

あの“少年A”と同じ1982年生まれの住人が集まっているシェアハウスが舞台。
舞台手前中央にきれいな熱帯魚の水槽が、ほうっと明るみを帯びて置かれている。
大家のゆかり(中林舞)とてつ(東谷英人)は仕事をしているが
他の4人はほぼ無職だ。(あとワニとトリが普通に同居している)
すみ(百花亜希)は余命短い病人だし、ゆう(堀奈津美)は生活保護を受けている。
フリーターのしんや(渡邊亮)は、自分に自信がなくいつも暗くうつむき加減。
ゆうき(中間統彦)は10代、親の金で暮らす気楽な若者。
ここに北池袋で起こった猟奇殺人の犯人を捜査するため二人の刑事がやって来る。
刑事に暴露された各々の過去や経歴に、表面上穏やかだったハウスは大揺れ。
互いを疑い、批判し、ついにはハウスを出て行く者も現われる…。

アクアリウムに象徴される現代の若者像が鮮やか。
徹底して管理された中で生まれ育ち、外を知らない、出ようとしない。
自分の限界を広げるより、定時に与えられるわずかなえさで生き延びる事を選ぶ。
ただこれがベストだとは思っていない。
人との距離が上手く取れない反面、人とふれあうことに憧れていたりする。
シェアハウスなんて微妙にめんどくさい住み方を選ぶことからも
中途半端な価値観の揺らぎに翻弄される姿が透けて見える。

オヤジ部長の強引な論理が妙な説得力を持つのはその勢いと迷いの無さだ。
世間代表みたいな部長の如く、社会は世代を括りたがる。
“サカキバラ世代”だの“ゆとり世代”だのと、色をつけてひとまとめにしようとする。
一方括られた側も結構それを受け入れ、その仲間に入ろうとする。
実はそれぞれ個性があるのに、“括られたがる”のもまた人の習性なのだ。
群れから外れる孤独は誰もが怖れるところだから。

役者陣の充実が素晴らしく、怒涛の台詞が生き生きと走りまわる感じ。
大原研二さんのアクの強さ、一色洋平さんの滑舌と軽やかな動きが秀逸、
トーンの低いシェアハウスの日常との対比を鮮やかにする。
生活保護受給者のゆうがキレて「シェアハウスなんて掃き溜めみたいな所」と叫ぶところ、
強い自嘲といら立ち、金の有る者が無い者を見下す態度への怒りがこもっていて
その説得力に思わず惹き込まれた。

“サカキバラ世代”らしい特徴のひとつとされる
「自分もいつか誰かを殺してしまうんじゃないかという不安」を抱いている
しんやの気持ちを、誰も本当に理解できていないというのもリアルな展開。
そんな「いつかやっちゃいそう」な人が大勢いたら、マジ怖くて出かけられないわ。
特異なニュースの犯人と同世代だからというだけでひとくくりにするという
マスコミ好みの乱暴な論理が与える影響に対する、作者の冷静な視点を感じた。

少年A(清水那保)が自分のしたことを語る場面、
もっと直接しんやに影響を与えるような演出がされるのかと思ったが
絡みが希薄な印象を受けた。
ワニとトリの存在理由もイマイチよく分からなかった。
シェアハウスの癒しになっていたとは思うけれど…。

アクアリウムの小さな社会の営みは、
日々危ういバランスの上に成り立っているのだなぁと思った。




Crossing,Christmas,Clearance.クロッシング クリスマス クリアランス

Crossing,Christmas,Clearance.クロッシング クリスマス クリアランス

バンタムクラスステージ

シアターKASSAI(東京都)

2013/12/06 (金) ~ 2013/12/09 (月)公演終了

満足度★★★★

薬莢…「C.C.C.」本編
大切な家族を守ろうとして男がとった行動は、思いがけない真実に辿り着く。
1960年代、移民が生き抜くための知恵とはいえ
イタリアンギャングとアイリッシュギャングの抗争が続くボストンを舞台に
あるユダヤ人一家の歴史を紐解いていく緻密な脚本が見事。
バンタムらしい豪快な銃声が響く一方、家族への情愛や仲間への信頼が
細やかに描かれて切ないストーリーになっている。
銃声の後、薬莢が転がる乾いた音がたまらない。
“やっちまった”感と何とも言えない“撃つ者の痛み”が残る音だ。

ネタバレBOX

玩具屋から身を起してビデオゲームメーカーCEOになったアルフレッドが
廃墟となった倉庫で自分の半生をルポライターに語るところから始まる。
虐げられたユダヤ移民の一家を守るために自分の父がやったこと
それを許せなくて兄がとった行動、それを見ていた子どもだった自分。
全ては、一家を取り巻く容赦ない“歴史の日陰”で起こった出来事だった・・・。

サスペンスだから詳細は語らないが
登場人物がとても上手く整理されていて洋物特有の(名前とか)わかりにくさがない。
客席には人物相関図が配られているから良く分かるが、
それが無くても充分把握できる。
暗転せずに整然と行われる場転(と言ってもパイプ椅子と折りたたみテーブル)
のおかげで複数の場所・過去と未来が自在に切り替わる。
このスピーディーさも“映画のよう”と評される所以だろうか。

登場人物がとても魅力的。
ある決意を持ってギャングの世界に足を踏み入れて行く
兄レナード(福地教光)の、明るい屈託のなさと悲壮な決意が同居する人物像が立体的。
レナードのキャラが、事の明暗とリンクして結末の救いにもなっている。
この人が泣く場面は説得力があって、追いつめられた人間の苦悩が浮かび上がる。

弟のアルフレッド役の栞菜さん、兄に憧れ誇りに思う少年らしさが素晴らしい。
小柄なせいかいっそうリアルで可愛らしい。
イタリアンギャングのボス、スタイリッシュで冷静なカルロを演じた
松木賢三さん、一瞬見せた狂気が弾けていて素晴らしかった。
その手下の殺し屋カレンダー役斉藤厚さんのたたずまい、立ち姿、帽子の被り方、
舞台上いつどこにいてもきれいな姿勢にはほれぼれした。
アイリッシュギャングの酒場を仕切るヒューズのキャラも素晴らしい。
演じるドヰタイジさんの声と、度胸の良いキャラがぴったり。
殺陣師でもあるというドヰタイジさんの別の顔も観てみたくなった。

おもちゃが喋るという設定は、クリスマスファンタジーらしい展開で
暗くハードな世界とセットになって一層切なさが増すのかもしれないが、
私の好みからすると少し緩くなって物足りなさも感じる。
あの、もっと死ねばいいとかバンバン撃てとかそういうことじゃなくて…。
例えば「ルルドの森」の(これしか観てないので比較対象はこれのみ)
犯罪心理に迫る分析とか、わかっていながら傾いていく人間の弱さとか
そういう展開に息詰る“暗い緊迫感”があった。
あれが他に無い新鮮さだった。
基本あの感じを突き詰めて欲しいというのが個人的な好み。

レナードが持つ少し細身のあの銃は
コルト○○とかワルサー○○とか名前があるんだろうか?
ガンマニアじゃないのでよく分からないが、そんな情報も
史実に沿って教えてもらえたら面白いと思う。

個性的で完成度の高い劇団が東京に来てくれて、楽しみが増えた。
次に暗闇で薬莢の音が響くのは来年3月、待遠しいなぁ。

Crossing,Christmas,Clearance.クロッシング クリスマス クリアランス

Crossing,Christmas,Clearance.クロッシング クリスマス クリアランス

バンタムクラスステージ

シアターKASSAI(東京都)

2013/12/06 (金) ~ 2013/12/09 (月)公演終了

満足度★★★★

番外編「クロッシングマナー」
関西の人気劇団バンタムクラスステージが
東京へ拠点を移しての第一弾、初日幕開けは、
本編より先に番外編を演るという珍しい順番。
70分ほどの短編で“サスペンスコメディ”とうたっているが
本編の人間関係をコンパクトに紹介しながら時にハラハラさせる展開で
構成と緩急のバランスが巧み。

ネタバレBOX

借金の取り立て屋をしているレニーは
金を横領した疑いをかけられて窮地に陥る。
背景にあるイタリアン・ギャングとアイリッシュ・ギャングの対立。
今日の夕方5時までに金を取り返さないと
身代わりになってくれているヒューズが拷問にかけられる。
何としても真犯人を見つけ出さなければ…。

コメディだけどちゃんと謎解きの面白さもあり、充実のストーリー展開。
福地教光さん演じるレニーの、
二枚目ながら弱さやワケありな雰囲気もちゃんとチラ見せするあたり
計算された“本編へのお導き”も効いている。
この番外編は男ばかりだが、例によって整然とパイプ椅子を移動して場面転換
と思いきやいきなり踊り始めたりして、そのギャップが可笑しい。

正確に拷問7日目に息絶えるように仕事する緻密な殺し屋カレンダー(斉藤厚)、
レニーの仕事仲間でクールだけどハラのすわったヒューズ(ドヰタイジ)など
魅力的なキャラが登場していよいよ本編が楽しみになって来た。

銃声バンバン響くんだろうな。
人も死ぬんだろうな(当たり前か)。
客席に出来たての人物相関図が配布されたから予習して行こう。
登場人物に「おもちゃの人形 飛行機 丈太郎」ってあるけど…。
トイストーリー+ギャング抗争って一体どんな話なんだろう?
星降る闇にピノキオは、青い天幕(サーカス)の夢を見る

星降る闇にピノキオは、青い天幕(サーカス)の夢を見る

天幕旅団

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2013/12/05 (木) ~ 2013/12/08 (日)公演終了

満足度★★★★

バイタルサイン
本歌取りファンタジー今回は「ピノキオ」と聞いて
“少年っぽさ”と“硬質”な台詞のイメージから
何となく加藤晃子さんのピノキオを想像していたが、見事に違ってた。
渡辺実希さんのピノキオは、繊細で壊れやすく孤独。
原作のピノキオなら加藤さんだが、これはやはり渡辺さんが相応しいと思った。
今回も4人の身体表現が美しいが、少し動きが多くて落ち着かなかった印象も残る。

ネタバレBOX

コオロギ(加藤晃子)が暖を取ろうと入り込んだ家には壊れたピノキオ(渡辺実希)がいた。
「僕の話を聞いてくれるかい?」と人間の子どもになれなかったピノキオは
自分のこれまでを語り始める。
お父さんのゼペット(渡辺望)に作ってもらったこと、学校へ行ったこと、
ペテン師(佐々木豊)に騙されてサーカスに売られたこと、
大鯨に遭って海に沈んだこと、やっとこの家に戻ってお父さんと暮らしたこと、
そのお父さんが死んでしまって、長い間ひとりでこうしていること。
そしてピノキオはコオロギにひとつの頼みごとをする…。

原作ではピノキオに説教して殺されてしまうコオロギだが、ここでは
ピノキオの話を聞いて、それを観客に伝えるという狂言回しの役割を果たす。

原作の“言うことをきかないピノキオ”なら加藤晃子さんが適役かもしれない。
しかしコオロギが出会った、もう首も動かせないピノキオは、
嘘と気付きながら運命に抗った”絶望のピノキオ“だ。
死の直前、ゼペットお父さんがその手で包み込んだのはピノキオの硬い木の頬だった。
でも彼は「温かいね」と言った、そんなはずないのに。
「ピノキオが人間の子どもになる」というのは孤独なゼペットの願いだったのだ。
それがそのままピノキオ自身の願いになった。

壊れて少しずつ傾いていくピノキオの身体の動きが美しく哀しい。
冒頭いきなり“ピノキオのなれの果て”を見せ、
コオロギに語り、コオロギに終わらせてもらうという構成が上手い。
静謐でなめらかな動きのうちに行われる場面転換や
ピノキオが絶望して胸を叩く時の、コーンという音も澄んで美しい。

若干物足りない感じがするのは、ダークな部分がさらりと描かれたせいだろうか。
「白雪姫」のあっと驚く多重人格のコビトや、
「クリスマスキャロル」の衣服を使った演出と、スクルージの二面性
「ピーターパン」でシルバーが見せる表裏のある人物像など
“人の多面性”特に黒い部分にスポットライトを当てる視点が冴えた舞台を思うと
えぐり方が優しい印象を受けた。

流れるような動きは美しいが、誰かが視界を横切る事が多くて
もうちょっと中央のピノキオに集中したいと思う時があった。
動きのメリハリがあったらもっと良いと思う。

衣装が素敵で、ファンタジーらしい楽しさがある。
シンプルなピノキオの衣装が本当にかわいい。
ピノキオの鼓動はゼペットが作ったたくさんの時計と共にようやく止まった。
渡辺ピノキオ、人生も天幕(サーカス)のように跡形もなく消えるんだね。
さよならを教えて

さよならを教えて

サスペンデッズ

ザ・スズナリ(東京都)

2013/12/04 (水) ~ 2013/12/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

大人になっちまった悲哀
もの想う大人は皆解っているのだ、自分のダメなところくらい。
だけど解っているのにダメな方へと傾いて行ってしまう。
そしてだんだん大事な人を大事にしなくなる。
早船さんの無駄のない台詞で、それもまた人とのつながり方のひとつなのだと気づく。
コテコテダンスもありの濃い目の味付けながら、やはり毎日食べても飽きない”人の心の普遍性”を描いていてその切なさにどうしようもなく涙がこぼれる。
婚約している二人の関係が壊れていく時の緊張感がどきどきするほど秀逸。
山田キヌヲさん、とても上手いしきれいだった。衣装も素敵。

ネタバレBOX

舞台は壁紙などの内装工事を請け負う小さな会社。
宏美(岩本えり)は父の代からのこの会社を受け継いでいる。
婚約者の洋介(佐野陽一)は中学の同級生だが、彼は勤めていた会社で
大きなプロジェクトに失敗してから変わってしまったと宏美は感じている。
異動先の部署で部下の女性からパワハラと訴えられ
結局会社をクビになった洋介を見かねて「ウチを手伝ってくれない?」と持ちかけた宏美。
今は一緒に仕事しているが、昔からのやり方に批判的な洋介とことごとく対立する。
同じく中学の同級生で、病気退職して戻って来た夏子(山田キヌヲ)も
ここで仕事を手伝っている。

職人や、地主で大家の夫妻等が出入りするこの事務所で
次第に相手に寛容でいられなくなっていく宏美と洋介。
ネットでのバーチャルな世界に逃げ込む職人、大家夫妻の嫁姑問題、
そして夏子の驚愕の行動…・。
小さな世界で絡まり、引っ張り合い、ほどけてしまう人間関係の脆さ哀しさが描かれる。

「終わりが見えるとやさしくなれる」という洋介の言葉が沁みる。
このまま続くと思うから、うんざりして粗末に扱ってしまう私たちの習性を言い当てている。
「結局自分に自信がないんだ」という言葉もリアルに説得力がある。
自信がないから強い態度に出る、相手を威圧する。
デスクに向かう洋介を演じる佐野さんの全身から、
自分にも周囲にも苛立っている様子が伝わって来たし
それをそのまま宏美にぶつけるところでは観ていてこちらも緊張した。
ありがちなハッピーエンドでないところもよかった。

夏子のクールな観察とストレートな物言いが爽快。
入院前事務所に来て、会社を去る洋介と見送る宏美に
「別れてもいいから二人で(見舞いに)来て」というところ。
“さよならの仕方”を考えさせていいなあと思った。
かわいいニットキャップが似合う山田キヌヲさんがとても素敵だった。

大家の奥さんを演じた野々村のんさん、
この方は“困った人”を可愛らしく見せるのが上手いと思う。
情熱的な“なりきりダンス”が面白かった。

中学時代の回想シーンを挿入して
もの想う大人になってしまった哀しみと不安を際立たせた結果
宏美が夏子を思いやって泣く場面に説得力が増した。
ここもまた、子ども時代と決別するもうひとつの“さよなら”だったような気がする。

呪い

呪い

ジェットラグ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2013/11/27 (水) ~ 2013/12/01 (日)公演終了

満足度★★★

呪い屋
フライヤーのホラーっぽい「呪い」の二文字に期待していたが
ちょっと中途半端な感じ。
登場人物の面白いキャラや、役者さんの熱演は良かった。
チュートリアルの徳井義実が原作とのことだが、芝居にしたら
コントの集中力が失せてゆるくなった感じが否めない。

ネタバレBOX

ある朝目が覚めたらおいなりさんに変身していたというカフカのような男。
阿藤快の夢ばかり見る妻と綾戸知恵の夢ばかりみる夫、
浮気性ですぐムラムラする女、
彼らは皆「呪い屋エンジェル」に呪いをかけられたせいでこうなってしまったのだ。
そしてある日、1人の青年が呪い屋を訪れ元カノを呪って欲しいと言う…。

コントの積み重ねのようなやりとりはそれなりに楽しめる。
警官役の野仲イサオさんがとても面白かった。
台詞も間も練れている印象を受けた。
呪い屋に依頼して相手を呪ってもらうというアイデアが、仕置き人のようで面白い。

いくつかのエピソードが最後はまとまり
全ての人間関係が明らかになってチャンチャン、のハッピーエンド。
最後はやっぱり「愛は勝つ」というのが性格悪い人間としては物足りない。
本当に悪い奴がひとりブラックに終わるような話を期待してた。

BGMの音量が劇場サイズにしては大き過ぎる気がした。
前説に事前に録っておいた“原作の徳井氏と演出の山崎氏”の会話が流されたが
徳井氏がしゃべりを生業とするとは思えない間延びした話で
相づちを打つ山崎氏が気の毒な感じだった。
以前徳井氏がドラマに出演した時は、結構上手くてびっくりしたんだけどなぁ。


THE BELL BED UNDERGROUND & XXXX

THE BELL BED UNDERGROUND & XXXX

不定期開催演劇ユニット マリーシア兄妹

Geki地下Liberty(東京都)

2013/11/29 (金) ~ 2013/12/01 (日)公演終了

満足度★★★

男気に☆3つ半です!
フライヤーや劇団名とは裏腹になかなかスタイリッシュな舞台を見せてくれたマリーシア兄妹。
Geki地下Libertyの空間を上手く使った演出やBGMのセンスも好き。
「ルパン三世」のようなクールな頭脳と余裕の態度、それに男たちの心意気が素敵だし、キモの台詞を大切にする真摯な姿勢もよい。
もう少し台詞を絞ってメリハリのある会話が交わされたり、銃の登場に緊張感が生じたら、素晴らしくカッコいい舞台になると思う。

ネタバレBOX

舞台中央にキングサイズのダブルベッド、上手に革張りのソファセット。
この部屋の住人七森隼人(大浦力)は、組織の金を持ち逃げすること6回。
今度もまた追われているのだが、今回はここに追手が全員集結してしまった。
毎回組織から金を取り返しに来る、組織の跡目候補佐野(飯村孝太郎)のほかにも
殺し屋の美女2人組、元殺し屋鉄(吉田哲也)、
おまけにドジな潜入捜査官2人までが変装してもぐりこんでいる。
実は七森と佐野は高校時代の同級生でその後17年間腐れ縁で繋がっている。
そして七森が危険を冒して組織の金を奪い続けるのにはある理由があった…。

チャラい話が次第に口に出さない男同士の友情に移行する構成が良かった。
七森の人柄に触れて少しずつ変化する追手の様子も面白い。
相変わらず大浦力さんの軽くいなすような中で時折見せる目力が効果的。
熾烈な組織の中でもまれる佐野のキャラが、俗世にまみれながら柔らかくてリアル。
元殺し屋のキャラが静かで淡々としていて逆に怖い感じがうまく出た。
演じる吉田哲也さんの“受け”が上手いので会話に味わいが生まれる。
殺し屋美女2人組のキャラも面白い。
潜入捜査官の設定がちょっとお粗末すぎてリアルさに欠けたかな。

ルパン三世みたいな軽い中に「いちいち言わねーよ、そんなこと」的な
熱い思いやりがにじんでいて、そこに元殺し屋が何気に絡むあたり
とても洗練されたストーリーになっている。

ただ台詞に今ひとつメリハリがなく、饒舌な割に効果が薄れたのが勿体ない。
元殺し屋が銃を手にする時、もう少し緊張が走るような演出が欲しかった。
軽いノリの中にピリッと凍りつく瞬間があったら、
ラスト佐野の決意の行動がより強い説得力を帯びると思う。

この劇場は段差があってとても観やすいから好き。
BGMの選曲、音量ともに高感度大大。

ラストシーンがとても素敵で、あーさりげない男気っていいよなぁと思った。
さんぞーさん、また楽しみにしていますよ!


テラヤマ☆歌舞伎『無頼漢 -ならずもの-』

テラヤマ☆歌舞伎『無頼漢 -ならずもの-』

流山児★事務所

みらい座いけぶくろ(豊島公会堂)(東京都)

2013/11/21 (木) ~ 2013/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

水野忠邦 VS 河内山宗俊
社会派の中津留章仁さんが寺山修司の原作をどんな歌舞伎に書くのか期待していたが
“体制批判と庶民のうっぷん晴らし”という歌舞伎本来の表現に
時代を反映させて、見事な「平成の歌舞伎」になっていた。
改めて寺山修司という人の作品の力を感じる。
社会の底辺で生きる者に権力者の理想など机上の空論、
お江戸が炎上すれば政権交代、というのは江戸時代か、平成の世か?!

ネタバレBOX

江戸後期、老中水野忠邦の過激な改革のせいで庶民の暮らしは窮屈になる一方だ。
歌舞伎は取り締まられ、花火も禁止、女どもは商売が出来なくなった。
遊び人の直次郎(五島三四郎)は、世の中を変える芝居がしたいと役者を志願する男。
美しい花魁の三千歳(田川可奈美)と恋に落ち、
悪徳商人森田屋に身受けされそうな三千歳を守ろうとする。
三千歳は生き別れた母を探しており、人斬りになった兄を憂いていた。

一方、権力者水野(塩野谷正幸)の近くにいながら、
体制に批判的で“不良”オヤジの茶坊主河内山宗俊(山本亨)は
松江出雲守の妾にされそうな上州屋の一人娘を五百両で取り戻す事を請け合う。

お上に抗う歌舞伎者たちは河内山と共に出雲守の屋敷へ乗り込み、
上州屋の娘と、やはり餌食にされようとしている三千歳を救うため死闘を繰り広げる。
そしてついに江戸の町に火が放たれ、禁じられていた五尺玉の花火が上がる。
河内山は二人を救い出せるのか、三千歳の母親は、直次郎の恋の行方は…?

久しぶりに“暮れの12時間時代劇”を観たような気分。
時代劇の楽しさ満載でわくわくした。
強請集り(ゆすりたかり)で名を馳せた河内山宗俊の台詞もケレン味たっぷりで心地よく
悪い奴ながら庶民の味方をする男は山本亨さんにぴったり。
対する水野忠邦の端正なたたずまいは正統派時代劇風だ。
塩野谷さんの権力の頂点に君臨する侍ぶりが素晴らしい。
普通に脚立を担いで出てきた時は「電球でも取り換えるのか」と思ったが
するする登ると仁王立ちで演説、侍の所作も美しく、鍛えられた動きにほれぼれした。

直次郎役の五島三四郎さん、直情型の遊び人を粋な江戸っ子らしく演じとても良かった。
谷宗和さん、水野の不正を暴こうと一座に紛れて機会を狙う元武士の役で
「花札伝綺」に続いて拝見したが、とても“無頼”の似合う役者さんだと思う。

現代の問題を論理的に追及しつつエンタメに展開するというのが
中津留さんのスタイルだと思うが今回は逆だ。
エンタメの中に社会問題を巧みに織り込んだ感じ。
芝居がかった河内山の台詞など
歌舞伎ベースでありながら台詞が柔軟で随所に現代的な笑いもあった。

上妻宏光さんの三味線がもっと冴えるかと思ったが、歌声に埋もれてしまった感じ。
公演中1度でもライブで演奏したら、すごい音だろうと思うとちょっと残念。
衣装がチャチくなかったのも○。

時代劇ファンとしては、リアルでない歌舞伎っぽいチャンバラも
様式やお約束も、猥雑さも楽しかった。
それに何と言ってもあのエネルギー、体制に反発し束縛を憎む精神が息づいている。
オープニングを野外で行うという、いわば「河原でやっていた頃の芝居」の
再現を宣言するような始まり方も、原点へのオマージュを感じさせる。

あー、やっぱり悪漢が魅力的だと面白い。
この底辺の人間の怒りとパワー、最近調子こいてる
どこぞの腹イタぼんぼん宰相に見せつけてやりたいと思ったぜ。
ホンキィ・トンク騎士(KNIGHT)

ホンキィ・トンク騎士(KNIGHT)

無頼組合

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2013/11/22 (金) ~ 2013/11/25 (月)公演終了

満足度★★★★

風吹淳平はモテる
銃声とキレの良いアクションが楽しく、スピーディーな出ハケでテンポ良いエンタメ舞台。
シリーズ第5弾という安定感と魅力的なキャラは安心して観ていられるが、
“定番の楽しみ”は今度の悪役がどんな奴か、どんな最期を遂げるか、
そして敵なのか味方なのかわからない正体不明の協力者だ。
その意味でちょっと主人公風吹淳平のキャラに頼り過ぎている感じがした。

ネタバレBOX

「理不尽」だらけの世の中、私立探偵の仕事も楽じゃない。
依頼人に調査結果を報告したら逆ギレされてボコられるし、
助手は愛想尽かして辞めてしまうし。
そんな時、ひとりの若い女性がストーカー対策の身辺警護を依頼してくる。
それが“最も危険なゲーム”への片道切符だった…。

シリーズ1~4までのあらすじ付き当日パンフが親切。
いい加減なようで頑なに何かを守ろうとする探偵のキャラが魅力的。
白川孝さん演じるこの探偵がのびのびと気持ちよさげだ。

ただ悪役集団のヤクザが少しありきたりな印象。
もう少し強烈なキャラでメリハリが欲しい。
その中で細面の三浦英太さん演じる木津の狂気が際立っていた。
“少し頭は足りないが視力聴力に優れた殺し屋”に育て上げられた男というのは
スピンオフが出来そうなエピソードではないか。
目つきや身のこなしが素晴らしく、やくざに利用された人生の哀しみがあった。
三浦さん、あのガングロで前説やった方かしら?すごい落差…。

前回私が無頼組合を観たのは「汚れた世界」だったが
その時強い印象を受けた滝澤信さんが今回も
裏社会の調整屋・コーディネーター泊役で出演していた。
あの泊にはもうちょっといい台詞を言って欲しかった気がする。
イマイチ信用していいのかどうかわからない、危険な男を
登場する度にカッカッと笑わせるだけでなく
探偵の価値観と対立するような深い台詞を吐かせたらもっと面白いと思う。

キリコ役の大平美由紀さん、そのいでたちもカッコ良くて素敵だった。
あと時折唐突に挿入される歌とダンス、結構好きですね。

風吹淳平の人間的な魅力とそれに惹かれる仲間たち、
生きていた伝説の探偵ジョージ・オハラとの再会、
毎回訪れる謎の依頼人、反目したり協力したりするコーディネーターの存在、
そして巨悪が操る様々な悪い奴ら…とくれば、あと2~3作どころか
「007」や「水戸黄門」のような長寿シリーズだって可能かも!?
青い童話と黒い音楽

青い童話と黒い音楽

ロデオ★座★ヘヴン

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2013/11/20 (水) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★★

ほんとうの音楽
脚本「空想組曲」のほさかよう、演出「こゆび侍」の成島秀和による2本立て。
空のもっと高みへと垂直に昇り続け、ついに燃え尽きた作曲家の人生と
どうしても死んだ親友と離れたくない少女の受容と再生の旅。
どちらも宮沢賢治のストイックさを映すようなキャラクターが登場する。
カンパネルラとジョバンニの別れのシーン、絶妙な間がどうしようもなく泣かせる。映像と照明がセンス良く繊細で印象的。

ネタバレBOX

「夜鷹無限上昇」

若い女性記者が、過去に一度だけ売れた作曲家に取材を申し込む。
彼は、理想を求めるあまり「こんなのは音楽ではない」と
自分の仕事も成長のプロセスも否定してもう5年も作品を発表していない。
その結果、家族も仕事も友人も失って孤独な人生を送っていた…。

「作曲家は曲を作るのではなく、自分に聴こえた“本当の音楽”を楽譜に再現するのだ」
と言う作曲家の極端なまでのストイックさが宮沢賢治の生き方に重なる。
作曲家役の音野暁さん(熱演!)の苦悩ぶりが深く辛そうで、
「ゲージュツカって大変なのね」と距離を感じてしまいそうになるところを
女性記者の存在が上手くつないでくれるところがいい。

ただ冒頭、回想して話し始める彼女が「あーごめんなさい!」を連発しながら
“話が自己チューでまとまらない”キャラを前面に出すのが少々うるさく感じられた。
平凡な女性が、ラスト「君には(本当の音楽は)わからない!」と言われた時に
「わかりませんよ!だからわかりたいんです!」と叫ぶ、
その瞬間、彼女の人間としての成長が鮮やかに伝わる。
その素直な情熱が作曲家を変え、彼を救うことになる。

アクティングスペース一面に敷き詰められた白い紙が、
最初歩くたびにかさこそして気になったが、
やがてその紙が楽譜の書き損じになると、途端に生気を帯びて見えた。
芸術も人の価値観も、「わかるかどうか」が重要なのではない。
「わかろうとすること」それこそが、芸術家の孤独を癒すただひとつのものだ。

「深海のカンパネルラ~B&B version~」

親友を水の事故で亡くした少女は、「銀河鉄道の夜」をくり返し読み
妄想をふくらませることで、この1年を過ごしてきた。
親友は星が好きで、少女は海が好きだった。
星の名前と深海魚の名前、二人が互いの趣味を理解し共有していく様が楽しい。
やがて少女は亡くなった親友と向き合うのだが
この時の会話の間が絶妙で、泣かずに済むと思っていたのにボロ泣きした。
カンパネルラ役の船越ミユキさん、きりっとした表情で少年っぽさが素敵。
死んだことを責める少女にぼそっと「ごめん」と答えるところとか
繊細な台詞がとてもよかった。
短い出番ながら牧座内音楽さんの車掌がとても印象的。
もっと台詞が聞きたいと思った。

宮沢賢治に激似の先生(澤口渉)が言う
「人生は、理想を求めて、破れて、絶望して、また理想を求める、いろいろあるんだ」
という意味の台詞が心に沁みる。
「そういう者に、私はなりたい…、なりたかった」という最後の台詞が秀逸。
賢治もまた理想を求めて絶望して死んだのだ。

2作とも映像の使い方、照明の美しさが強く印象に残る。
改めて、繰り返しかたちを変えて継がれていく作品の魅力を感じた舞台だった。
SOU - 双・相・想 -

SOU - 双・相・想 -

演劇ユニット ランニング

ザムザ阿佐谷(東京都)

2013/11/20 (水) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★

改めてタイトル上手い!
出演者だけでなく作家も演出家も毎回入れ替わるというユニークなユニットで
第3回という今回は2人の作家による2本立て。
同じセットを使い、全く違う2つの物語が繰り広げられる。
コンパクトで、企画と演出の面白さが味わえる舞台だった。
観終わって、改めて2つのタイトルの上手さに感心した。

ネタバレBOX

①「パンジーな乙女達」作:井保三兎 演出:元吉庸泰

舞台は段差のある2つの空間に区切られている。
上手の一段高くなったところはラジオ局のスタジオで
落ち着いた声の女性が、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」などかけながら
リスナーからの葉書を読んだりしている。
ディレクターの男性とADの女性がブースの外で
25年も続いた番組が今日最終回を迎えたことをあれこれ話している。

一方とあるマンションには4人の女たちがメールで呼び出されて集まって来る。
「先生」と呼ばれる作家は、曜日ごとに違う女性をここへ呼んで
法外とも思える金額を渡していた。
子どもを抱えた女、親の借金を抱えた風俗嬢、いじめられている女子高生、
そして路上で詩を作る女…。
みな作家に声をかけられて週に一度
ただ食事を作るだけとか、一緒にごはんを食べるだけでお金をもらっていた。

それぞれの事情が明らかになる中、部屋の奥から作家の死体が発見される。
自分がやったと打ち明ける詩人の女。
やがてラジオではパーソナリティの女性が重大な告白を始める。
「私は夫を殺しました」
その夫とは、別居しているあの作家だった…。

作家の謎めいた行動とそれを見守る妻の心理が面白い。
よくある事情を抱えた女たちの表情もいい。
ディレクターとADの二人がマンション場面とかぶるシーンが少々わかりにくい。
場面の切り替えにもうひと工夫あれば
もっと鮮やかに2つの空間が対比されたような気がする。
登場しない作家と、その妻の深い孤独が伝わってくる舞台。
AD役の辺見のり子さん、風俗嬢の江崎香澄さんが印象的だった。
いくつかあるパンジーの花言葉が、女たちの個性を端的に表していてよかった。

②「終末の天気」 作・演出:元吉庸泰

もう何か月も前から隕石の衝突によって世界は終わる、と伝えられている。
あれこれ試したが回避は不可能で、ついに明日衝突のその日を迎える。
地方の高校の演劇部で、最後の稽古をしようと張り切る桃子だが
部員はちっとも集中しないし、変な不良にはからまれるし、
肝心の脚本は最後の2ページがまだ作家から届かない。
学校には他に行き場のない教師やOB達が集まって来ている。
そしてその時は刻々と近づいて来る…。

今実在の作家・演出家たちを短く評した台詞がおかしい。
「柿食う○は力入れて台詞言えばいい」とか笑ってしまった。
諦めと開き直りの中、ひとり奮闘する桃子(藤桃子)が健気。
作家と演出と主演、3人でてっぺんを目指そうという決意が初々しい。
遠く離れてしまった作家の星耶と“交信”する姿に信頼と情熱が伝わってくる。

ちょっと同じところをぐるぐる回っているような印象を受けたのは
似たような台詞が繰り返されるからか。
もっと劇中劇でドラマチックに語らせても良かったと思う。
最後の日に学校を掃除する西川先生(西川智弘)のキャラが面白そうだったので
もっと演劇がらみのエピソードが聞けたらより深みが増した気がする。
最後の日に演劇人が何を想って学校に集まったのか、
演劇部が舞台なのだからその理由を演劇に集中してもよかったと思う。
その結果の”屋上集結“もきっと素敵だ。
さめザわ

さめザわ

張ち切れパンダ

サンモールスタジオ(東京都)

2013/11/13 (水) ~ 2013/11/20 (水)公演終了

満足度★★★

喜劇の果てのブラックは好き
職場で名前すら覚えてもらえない存在感の薄い男「鮫沢」の特技は「死んだふり」。
生きている時には誰にも気づいてもらえない男が
死んだ途端に注目を浴び、周囲を大混乱に陥れる。
そのギャップが面白くて止められなくなった男のうすら悲しい人生模様が面白い。
いまひとつ“オチ切れなかった感”が残るラストがちょっと消化不良かな。

ネタバレBOX

古いスーパーの事務室、ロッカーが並び、部屋の隅に事務机がひとつ。
休憩室らしいテーブルと椅子、ソファー、漫画本が無造作に積み上げられている。
冒頭、このテーブルに仰向けにもたれたまま鮫沢が死んでいる。
見守る店長、その妻、同僚たち、警官。
鮫沢は何故死んだのか、殺されたのか、もしそうなら犯人は…?

フラッシュバックのように巻き戻されるその日の出来事。
いるんだかいないんだかわからない鮫沢の側で、
同僚たちは次々とうっかり秘密をこぼしてしまう。
商品万引き、不倫、単なるいじめ、大事な思い出の品をめぐる争い…。
そしてその都度鮫沢は殺される、何度も、何人にも…。

鮫沢の特技が「死んだふり」というのが面白い。
「ウケ」を狙ってとんでもない行動に出て、その反応を楽しむというのは
他に自己アピールの術を知らない若者が思いつきそうなことだが、
単なる悪ふざけでなく、痛みと物悲しさを感じさせるところが上手いと思う。
傾いたスーパーを買収する大手スーパーの社員が
鮫沢の高校の同級生で、彼の特技をよく知っていたというエピソードも○。
鮫沢のコミュニケーション下手なねじれた性格を物語る。

鮫沢役の深井邦彦さんがとても良かった。
存在は薄いが、緊張しやすく周囲を観察する目を持っていて、
折りあらば見返してやろうと思っているようなところもある男。
思い込みが激しくて人の思惑をつかむ感覚がちょっとずれている男。
特に高校時代のエピソードで、同級生のせっかくの誘いを断った後の
泣き笑いの表情、自己嫌悪と寂しさの混じった表情が秀逸。
役柄とは裏腹に、深井さんの存在感は大きい。

店長の妻役の小林美江さん、その妹役の中島愛子さんが上手かった。
キャピキャピバイトのゆみちゃん役、古市香菜さんの
したたかな世渡り上手ぶりが徹底していて良かった。

従業員による犯人探しや、お巡りさんの出入りに時間を割くよりも
個々の殺人エピソードに丁寧な理由が描かれていたらもっと共感できたと思う。
死んだふりから起きあがった鮫沢の反応もきちんと見たかった。
結局鮫沢は最後本当に死んでしまったのか、起き上がったのは皆の願望なのか。
どちらでも良いが、みんなは露呈した秘密にどう始末をつけるのか、
登場人物たちの変化が書かれていないところが物足りない。
当日パンフにもあるが「役者のキャラクターに助けられて」いる。
脚本の多少の無理や隙間を、役者陣がよく頑張って補っていたと思う。
でも個人的に「喜劇の果てのブラック」というテイストは、とても好きです。






韓国現代戯曲連続上演

韓国現代戯曲連続上演

韓国現代戯曲連続上演実行委員会

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/11/06 (水) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

洪明花さんとナギケイスケさん
韓国の若手作家の3作品を、小池竹見(双数姉妹)・金一世(世amI)・山田裕幸(ユニークポイント)が演出。
バラエティに富んだ作風でそれぞれ違ったテイストが楽しめた。
中でも、シンプルな二人芝居「上船」(ユン・ジヨン作・山田裕幸演出)に強烈な印象を受けた。
無駄のない台詞、ドラマティックな結末、舞台美術、ユニークな演出。
洪明花さんとナギケイスケさんの味わい深い演技が素晴らしかった。

ネタバレBOX

①「真夜中のテント劇場」 作:オ・セヒョク 演出:小池竹見

舞台中央にたっぷりと大きな白い布がくしゅくしゅと置いてある。
やがてそれが、会社に労働環境の改善を求めるテントデモ活動のテントになる。
素早くフックをかけてロープで布を引き上げると舞台は広いテントの内部になった。
ここで籠城第1日目のナウン(洪明花)の使命感と高揚感、孤独を描きながら
口は悪いが籠城に付き合う後輩のチョウン(北見直子)と二人、
力強く豊かな想像力で不安な夜を乗り切る様がつづられる。

外界から隔絶され、抵抗の証であるテントが
やがて大きく波打つ雲海となるところに、掲げる目標と希望の広がりが感じられる。
終了後に洪明花さんから
「テントデモは韓国で一般的な抗議行動のひとつ」という解説があった。
仲間を得て朝を迎えるナウンの喜びが、改めてさぞやと思われた。

②「秋雨」 作:ジョン・ソジョン 演出:金世一

ここはつい先日、一晩に5人の死者が出たラブホテルの足元にある公園。
ホテルの一室で「社長」と呼ばれる傍若無人な客、相手をする若い女、
そしてポン引きのような若い男が死ぬ。
別の部屋で客を取る盲目の中年女性と、料金をごまかすその客も。
仮面をつけた謎の男が現われると、次々と死んでいくのだ。
実は仮面の男と盲目の女、若い女はかつて家族だった…。

日本の古典芸能である能が好きだという作家の作品らしく
冒頭から前傾姿勢で透明なビニール傘をさしてしずしずと歩く登場人物が
まさに能のような歩き方で、これが“死者”の彷徨を思わせて強烈な印象。
ビニール傘を使った殺人のアイデアと繊細な照明が秀逸。

③「上船」 作:ユン・ジヨン 演出:山田裕幸

港の近くでおでんの屋台を営むキム・ユギョン(洪明花)。
ある日もう最終の船も出た後、ひとりの客ソン・チャンムク(ナギケイスケ)がやって来る。
彼は「28年前の約束を思い出して」やって来たかつての恋人だった。
互いに会いに行ったのに会えなかった時のことなど初めて語り合う二人。
やがて来るはずのない船がやって来て、彼はそれに乗り込むが…。

おでん屋の女将を演じる洪明花さんが素晴らしい。
途中「イイダコがあるよ」と客に勧め、注文が入ると実際に調理し始めたので驚いた。
フライパンを火にかけて油を熱し、タコを炒めてしょう油らしいものを加えると
香ばしい香りが客席まで漂って来た。
全ての手順がよどみなく、商売人らしい無駄のない手つきで
これが舞台である事を忘れさせるようなリアルさに引き込まれた。

自分の親がついた嘘のせいで男がやむなく去って行ったことや
その時身ごもっていた子どもを喪って自分も自殺を図った女の過去などが明らかになり
男が最期にどうしても会っておきたかった気持ちが切々と伝わってくる。
ラスト、男が船であの世へと旅立つのを見送って初めて女が屋台の外へ出て来る。
杖をつき身体を傾けながら歩く女が、この不自由な足のせいで
どんな気持ちでたった一度の恋を諦めたか、胸を締め付けられる思いがする。
号泣する彼女に観ている私も思わず寄り添いたくなるシーンだった。

台詞と役者の見事な融合や演出の面白さで「上船」が最も完成度が高いと思うが
3作とも個性あふれる作風でとても面白い企画だった。

一晩たってこれを書いていてまた泣けて来た。
やっぱり☆5つにしようと思う。
栄え

栄え

MCR

駅前劇場(東京都)

2013/11/06 (水) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★

少し薄味だった
“イケメンを多数集めた舞台が人気らしいので、それに便乗して借金でも返してやろうか、
と企んだ結果がそこから遠く離れた今作品“(説明文より)…うん、合ってる。
看板に偽りなしだ。
思いがけずSF仕立てなのだが、そのシュールさが日常の延長線上にあるのが櫻井流。
男がしょぼい人生をやり直すには、絶対不可欠なものがあった。
一つは友情、もう一つは男よりちょっと積極的な女の勇気。
いつもの”切羽つまった男の捨て身の優しさ”が薄味だったような気がするのは
展開のせいか、見せ場の台詞がイマイチ際立たなかったせいか?

ネタバレBOX

客入れのBGMがとても素敵で、相変わらずセンスの良さを感じさせる。
冒頭男子校の教室では、櫻井智也先生が品行方正であるはずもなく
つられるように生徒もそれなり。
その生徒の中に、40歳の栄(友松栄)がいた。
彼はある日突然、この高校生時代にタイムスリップしてしまったのだ。
だから全てを知っている、40歳になった同級生の夢破れた姿も
東北に巨大地震が起こることも
そしてこれから栄に訪れる伊達(伊達香苗)との恋が哀しく終わることも…。

事情を知った友人堀(堀靖明)と小林(小栗剛)が
「こんな奇跡が起こったんだ、未来を変えることだって出来るはずだ!」
と栄を励ますが、彼は「どうせ何も変わらない」と全てを諦めている。
だが先に変わったのは友人たちの方だった、という所が感動的。

ミュージシャンになりたいという目的を後押ししてくれる栄に感謝しつつ
しょぼい未来を変えてみせると決意する小林。
自分には小林のような目的が無いと、深く内省する堀。
そして宗教法人の跡取りとしての全てを捨て、栄と共に生きると誓う伊達。
それらに背中を押されるように人生が変わって行く栄。

MCRの作品の中で私が断トツに好きな「貧乏が顔に出る」、
次に好きな「俺以上の無駄はない」には究極の男の優しさがあった。
“いちいち理由は言わないが大事なものは守る”という捨て身の優しさがあった。
罵詈雑言の果てにじ~んと男気を感じさせる間があった。
今回も小林と堀の心情にそれは見られたが、饒舌な台詞の中に埋もれがちだったかな。
小林の「栄、俺に感謝して金を貸してくれ!」という見せ場のキメ台詞など、
流れの中に埋没してもったいない気がした。
ラスト、栄と伊達の思いがけない(笑)キスシーンはとても良かった。
イケメンでなくても素敵なラブストーリーは成立することを見せてくれて楽しかった。

タイムスリップしても未来は変えられない…と思いきや
努力すれば結構変えられる、でも変わらない人もいるってところが
櫻井さんの面白いところで好きだ。
でも伊達や小林のその後が、ちょっと知りたかった。
私が見落としたのかしら。

堀靖明さんの髪の毛ぷるぷる震える力演が好きだ。
栄の父親役本井博之さんのいーかげんな感じ、小栗さんのギターの上手さ、
伊達香苗さんの豊かな胸が印象に残った。
【本日千秋楽は15時から!!!】『そこで、ガムを噛めィ!! 〜The Baseball comedy! 2013〜』 (※当日券は全ステージ出します!!!)

【本日千秋楽は15時から!!!】『そこで、ガムを噛めィ!! 〜The Baseball comedy! 2013〜』 (※当日券は全ステージ出します!!!)

8割世界【19日20日、愛媛公演!!】

テアトルBONBON(東京都)

2013/10/30 (水) ~ 2013/11/04 (月)公演終了

満足度★★★

☆3つ半です!
客入れから劇中まで音楽が好み。
日高ゆいさんの素晴らしいピッチングフォームとタイミングの良い効果音が
試合シーンのテンションを一気に上げる。
この男から女になった助っ人ピッチャーとか、
「チームで一番男らしい」と言われる優しい女性マネージャーなど
魅力的なキャラが何人も登場するのだが
せっかくの設定が活かし切れていない感じがとてももったいない。

ネタバレBOX

舞台装置というにはあっさりし過ぎな“部室感”漂うミーティングルーム。
草野球チーム「東松原ドラゴンライオンズ」は
0勝26敗という屈辱的な相手チーム「梅ヶ丘パレッツ」との試合を明日に控えている。
明日手術を受ける監督のためにも、どうしても明日は勝たなくてはならない。
そこへ強力な助っ人が現われる。
その女性藤沢みちるは、かつて「武士沢」という男で
「神」と呼ばれるピッチャーだった。
そして決戦の日、チームも人生も大逆転はなるのか…?!

途中部室が野球場に転換するところがとても面白かった。
日高ゆいさんは、ソフトボールでもやってたのかというカッコいいピッチングフォーム。
ちょっと緩い笑いと試合シーンのメリハリがとても良かった。
ダンスのキレがあと一歩上がったら、もっと劇的に盛り上がると思う。

新人君の自己紹介をくり返すより、それをしながら
チームメンバーのキャラ紹介が欲しかったかな。
せっかく個性豊かなチームメンバーがそろっているのだから
ギャグ以外の台詞でキャラをアピールする場面があったらもっと共感出来た。

入院中の監督の代理でやって来た奥さんにも
“置物”だけでなく何かあるはずだと思って観ていたし
優しいマネージャーのとんでもない秘密とか、
新人君の驚きの隠れた才能とか、ついつい期待してしまった。
いつか出るだろうと思っていたら何も出てこなかった感じが残念。

あの設定なら、もっと面白い台詞と展開の広がりが可能だと思う。
まだまだ実力の8割しか発揮されていないのが勿体ない。
”看板女優”日高ゆいさん、さすがの安定感と振り切れ具合が○。
鈴木雄太さんの次に期待して☆の数は3.5としたい。

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