幸福な職場(再々演) 公演情報 劇団 東京フェスティバル「幸福な職場(再々演)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    幸せになるために必要な4つのこと
    謎かけもひねりもない直球ストレートな“いい話”でありながら、道徳の教科書でなくエンターテイメントとして成立しているところが素晴らしい。“ひたむきな人”とは、こんなにも周囲を変化させる。そして人は、工夫次第で幸福な職場を作ることが出来る。ノンフィクションを柱に、リアルだがよく整理された台詞が、事の経緯を自然に効果的に見せて上手い。笑いのセンスもいいし役者陣がいい。泣くような場面ではないのに泣いてしまったのはなぜだろう?和尚の言う「幸せになるために必要な4つのこと」が、私にはあるだろうか?今もそれを考えている。

    ネタバレBOX

    王と長島がまだ新人だった昭和34年、チョークメーカーの地味な事務所が舞台。
    養護学校の教師(土屋史子)が卒業生を雇ってもらえないかと頼みに来る。
    もう何度か訪れているが、知的障害者への理解が今よりさらに無い時代、
    会社の専務(岡田達也)は、手間のかかる従業員を雇う
    ゆとりも理由も無いと渋っている。
    この時の教師の真摯な言動に圧倒されるものがあった。
    「親より長生きできない者がほとんどの彼らに、働く体験だけでもさせてやって欲しい」
    土下座して頼みこむ教師の姿に、昨今の“土下座パフォーマンス臭”は微塵もない。
    誰かのために損得を度外視して頭を下げるひたむきさに打たれて思わず涙がこぼれた。

    2週間の体験労働は全て順調に行ったわけではなく、理解と人手と工夫が求められる。
    問題点と改善の工夫、そのプロセスがリアルで、実話の力が感じられた。
    効率の悪さに悩む専務に、和尚(朝倉伸二)が投げかける言葉がいい。
    「仕事に人を合わせているように見える、人に仕事を合わせたらどうか」

    従業員のうち、障害者に寄り添っていこうとする男(菊池均也)と
    非効率的だと否定する男(滝寛式)のやりとりもリアルで、
    豊かなキャラクターのバランスも良い。

    そして何と言っても知的障害者を演じた桑江咲菜さんが素晴らしい。
    話し方のトーンとか間とか、とても努力されたのだろうと思う。
    彼女の「お仕事、楽しい!」と休憩も取らずに働く姿が周囲を変えていく。
    それは饒舌なアピールではなく、ひたむきな姿がそうさせるのだが
    決して多くない台詞に集中力と緊張感があり、動きの全てに神経が行き届いている。
    結果的にその後50年間勤め続ける実在の方を、説得力を以て演じる。
    舞台上で職場を変えていく存在が、観客をも巻き込んでいくのが伝わって来て感動した。

    作・演出のきたむらけんじさんは、前説で肝心の
    「携帯電話など音の出る電子機器…」というくだりを忘れて引っ込むような
    のほほんとした雰囲気の方だが、この作品の素晴らしいところは
    障害のあるなしに関わらず、「人はなぜ働くのか」ということを
    鋭く問うているところだ。

    熱心な教師の訪問に辟易していた専務に和尚が言う台詞が実に秀逸。
    ─人が幸せになるには4つのものが必要だ。
    「愛されること、誉められること、人の役に立つこと、必要とされること」
    最初の1つは親からもらえるが、あとの3つは働くことで得られるものだ。
    だから人は働きたいのだ…と。

    終演後、思わず受付で赤・青・黄・白のチョーク4色セットを買った。
    これで何をしようというわけではない、だが和尚の言った4つのものは
    「働く目的」であると同時に「生きる意味」でもある。
    私にとって、それを日々問いかける小さなお守りになると思う。

    0

    2014/02/07 00:07

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大