時の流れやそれによって形を変える人との関係、誰かとの断絶や別れ、そして誰しもに必ず訪れる死。「変わってしまうもの」や「変えられないもの」について考えるとき、私はしばしば劇団スポーツの演劇を思い出す。戻らぬ過去をやり直そうとする『略式:ハワイ』、人生のネタバレを知っても全力で前に進もうとする『逆VUCAより愛をこめて』、幽霊となって現れた友人とともに記憶とその食い違いを探ろうとする『惑星Bb◉忘れた凡ての時間たち』…。こうして見ると、劇団スポーツの作品に出てくる登場人物たちは「〜しようとすること」を、つまり「試み」というものを諦めない人々なのかもしれない。そして、そのことは物語の、演劇の中だけに止まらない。

そんな本公演のシリーズとは別に、新シリーズが始動したのは昨年のことだ。
その名も「NOWHERE」。演劇の実験場、つまり「試み」のための場で、軸となる指針は以下の4点だ。
- No Where ── どこでもない場所〈稽古場・劇場〉を出発点に
② No Wear ── 生身のからだで
- Know Where ── 戯曲の世界をを探求しながら
- Now Here ── いま、ここにいることを遊ぶ。
最初の「試み」として選ばれたのは、昨年9月に早稲田小劇場どらま館で上演されたニック・ペインの『CONSTELLATIONS』。物理学者のマリアンと養蜂家のローランが出会い、別れ、再び出会うまでの歩みとやりとりを描いた二人芝居だった。しかしキャストは6人。「トリプルキャスト?」と思いきや、そうではない。1つの役を3人ずつ演じるという形で、全公演に6名が出演するのである。6人の俳優らのそれぞれ異なる個性と魅力を味わうとともに、1人の人物の多面性に触れる瞬間もあり、私は演劇の内外に発生する変化にとても感動をした。それでいてただ一組の男女の人生を体験した体感もあり、これまで知らなかった本作の、戯曲の深みに感嘆するほどだった。そして、その時密かに心に決めた。「第二弾があるのなら、稽古場を見学させてもらいたい」。どんな風に戯曲の可能性を探り、演劇をひらいていくのかをこの目で見たかったのだ。

そうして1年が経ち、そのときがやってきた。第二弾の「試み」に選ばれたのは、「脅威の喜劇」と評されるハロルド・ピンターの初期作『THE DUMB WAITER /料理昇降機』。登場人物は今回も2人。恋愛を軸に展開する『CONSTELLATIONS』とは何もかもが違うが、しかし同じく二人芝居だ。
殺し屋のベンとガスは今日も地下室でとある指令を待っている。そこに突如ダム・ウェイター(料理昇降機)とともに不可解な指令が降りてくる。次第に二人は止まらない注文に追い込まれて…。

今回のキャストは竹内蓮と田島実紘の2名。配役はぜひ劇場での楽しみにとっておいてほしい。演出は内田倭史が務め、劇団スポーツメンバーのみでの公演だが、クリエーションはそうではない。演劇シーンでも話題を呼んだ漫画『ゲキドウ』の原作者であるココカコがドラマトゥルクとして参加しているのも一つのポイントだろう。大学での演劇経験や作家としての視点も携えながら、カンパニーの意図と観客から見える風景を整理しつつ、演劇を立ち上げること。ココカコは伴走者ではなく、並走者として作品を底から支えているのではないだろうか。このシーンはどう見えるか、あのセリフはどう聞こえるのか。その可能性を紐解きながら戯曲と演劇に向かう姿はとても頼もしい。ちなみにココカコは、12月に上演を控える劇団スポーツの新作本公演『九蓮宝燈の夜』でもドラマトゥルクとして参加する。

稽古場を訪れると、『CONSTELLATIONS』のキャストで今回は装置協力として参加する宮地洸成の姿もあり、キャストの二人を見ながら何やらタイミングを見計らったり、調整をしたりしている。クレジットには装置協力とあるが、捉え方によったら、もしかして宮地は二人を操り、隔て、惑わせるキーパーソンならぬキーマシンこと料理昇降機役でもあるのではないだろうか…!(※あくまで個人の見解です)『CONSTELLATIONS』や満広場『溢れるリズム』での豊かで繊細な表現力も記憶に新しいが、今回宮地がどのような形で作品に携わるのかも楽しみである。他にも見学者の方が数名いて、稽古場では終始賑やかにシーンの工夫が練られていた。私が訪れた日に限らず、稽古場は一般公開されていて、いろんな見学者が見学したり、ときに稽古に参加をしたりしているという。見学者とのディスカッションや見る人が入ることによっての変化や発見。これもまた「試み」の一つなのだろう。

稽古の印象はまさに「NOWHERE」。一にも二にも試行錯誤で、圧縮したり、拡大したり、増やしたり、減らしたり、速くしたり、遅くしたり、閉じ込めたり、はみ出したり…のトライアンドエラー。そして何よりエラーにすら糸口を見つけようとする劇団スポーツの面々のタフさ、である。
『THE DUMB WAITER /料理昇降機』は、「ふん!」とベンが鼻を鳴らすところから始まる。全貌が見えない二人のやりとりと料理昇降機を通じてやってくる見えない脅威からの指示、そして、それに対して忠実なベンと懐疑的なガス…。そこに人が二人いると、会話が始まり、役割や関係というものが段々と浮かび上がっていく。だけど、それはあくまで「見えていること」や「聞こえていること」だけで、思いもがけないところにこそ本質は宿っているのかもしれない。例えば圧縮しきれなかった言葉や、はみ出してしまう身体などに。Whatを立ち上げながら、Howを探求し続ける中に。ActからPlayを見出していく上に。「見ようとすること」や「聞こうとすること」でしか辿り着けない戯曲や演劇の可能性がある。そんなことを痛感する稽古だった。

もうひとつ印象的だったのが、ベンとガスの2人にそれぞれイマジナリーフレンドがいる、という設定で進められた稽古だった。これは内田が発案した方法で、『CONSTELLATIONS』の稽古でも実践されたと言う。
稽古に参加している人たちが協力して、竹内と田島の背後に付く。引きの画で見ると、ボクシングの試合前のリング端での光景みたいで思わず少し笑ってしまったのだが、内田によってゴングが鳴らされると、二人芝居がより多層的な手触りで立ち上がっていく。

イマジナリーフレンド役の人はとくにセリフを言うわけではなく、話されている会話はベン発ガス着、あるいはガス発ベン着のはずなのに、そこに一人ずつ存在が増えるだけで、心身の可動域が変わったり、急に言葉の宛先があやふやになったり、逆に鮮明になったりと、とても不思議な体感になったのだ。そこに人が二人いるとたしかに会話は始まるが、誰に向けての言葉や振る舞いであるかということにはいくつかの可能性があるのかもしれない。そうした疑いを持つことも必要なのかもしれない。目の前の相手に放たれている言葉もあれば、もっと別の誰かに向かっていくものもあるだろう。そして、それは舞台上ではない可能性もあるし、客席である可能性も大いにある。
ハロルド・ピンターの『THE DUMB WAITER』にこんな4人のシーンはないが、劇団スポーツ の『THE DUMB WAITER』の稽古場ではたしかに存在していた。演劇はやはり上演だけではないし、舞台に上がったものだけで成立しているわけでもない。こうした舞台上になくともたしかに存在したいくつものクリエーション、そこで重ねられた「試み」とそこから生まれた瞬間の集積なのだ。稽古場が実験場であることを改めて握りしめるような2時間だった。

劇団スポーツの自己紹介には「スポーツもしますし演劇もします」という言葉がある。どちらもPlayであるし、どちらにもスタンバイがいる。どんなStand byがPlayをよりよいPlayにしていくのだろうか。それはやっぱり「チャレンジングであること」なのかもしれない。そして文字通り「人が人のそばにいるということ」なのかもしれない。
繰り返すが、劇団スポーツに出てくる登場人物たちは「試み」というものを諦めない。そのことは物語や演劇の中だけではない。劇団スポーツの在り方そのものがそうなのだ。それは、決められたこと、こうだと思い込んでいることに別の答えや見方を探そうとすることでもある。ここでしかできないことを試み、成立させようとすることでもある。そして、それはとてもむずかしく、しかしそのむずかしさはやさしくしないと伝わらない。むずかしいことをやさしくみせるというむずかしさに劇団スポーツはいつも向かっていくのだ。とびきりの遊びで。その遊びの先にある、いや、遊びの先にしかない風景の、言葉の、演劇の最もそばにいられる日を私は待ち侘びている。

取材・文・稽古場写真/丘田ミイ子
<作品情報>
劇団スポーツ NOWHERE#2『THE DUMB WAITER』

作:ハロルド・ピンター
翻訳:喜志哲雄
演出:内田倭史
出演:竹内蓮 田島実紘
<会場>
早稲田小劇場どらま館
<日程>
8月20日(木)~24日(月)全7ステージ
8月20日(木) 19:30
8月21日(金) 19:30
8月22日(土) 12:00/17:00
8月23日(日) 12:00/17:00
8月24日(月) 14:00
受付開始・開場は開演30分前/上演時間:約70分(予定)
<料金>
一般:3,500円/U-30:3,000円/U-18:1,000円
※全席自由
https://ticket.corich.jp/apply/476615
<スタッフ>
ドラマトゥルク:ココカコ
照明:中村仁(黒猿)
宣伝美術:内田倭史(劇団スポーツ)
装置協力:宮地洸成
舞台美術:内田倭史・ココカコ
舞台美術補佐:宮地洸成
版権コーディネート:株式会社シアターライツ
制作:劇団スポーツ
主催・企画制作:劇団スポーツ 株式会社イマジリック
助成:アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成】