ちょぼくれ花咲男
文月堂
サンモールスタジオ(東京都)
2011/09/16 (金) ~ 2011/09/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
話がよくできている
開演前のBGMが、名画座の時代劇コメディ映画特集の時のような楽しげなもので、いつもの小劇場演劇の雰囲気とは違う感じだった。
守屋浩の「ありがたや節」を聴いたのは何十年ぶりだろう。
もっと軽い感じのコメディかと思っていたら、コメディというよりも人情物の時代劇という趣で、きちんと作られていたことに感心した。
落語やエノケンの時代劇コメディ映画に近い雰囲気かもしれない。
何よりもストーリーが面白く、江戸の人々の会話が生き生きと描かれ、自然なのがよかった。
黒子や差し金を使うなど演出も工夫されていて、最後までわくわくさせられた。
雑感はネタバレにて。
ネタバレBOX
病気がちのお光(田中玲)が咳き込む演技が、まるで仮病のように大げさでとってつけたようなので笑っているお客もいたが、別に笑いをとろうとしているとも思えず、気になった。
弥七(平田耕太郎)について周囲による「男前」を強調する台詞が何度かあり、私の位置からは髪が覆う彼の顔があまりよく見えなかったのだが、いい男なら一度褒めればじゅうぶんな気がした。
平田は滑舌が悪く、つっかえるのが気になった。
遊女のありんす言葉になぜか京言葉が混じるのも違和感がある。
美鈴(石川佳那枝)が相対死の石田(佐藤滋)に「兄上さまにお詫びして許してもらい、どこか良家の養子になれば」と言うが、相対死の生き残りは非人手下となり、人別帳からも抜かれるので士分には戻れず、この時代には周知のことなので、非現実的な提案に感じた。
今回、一番注目して観た俳優は町医者・向井兵衛役の高宮尚貴だったが、この役は出番は少ないが簡単そうでもなかなか難しいと思う。
日舞が特技なだけに所作が様になっており、なおかつ時代に張って言うところと、喜劇でくだけて言うところの緩急の間がよいと思った。
ただ、この役の設定が、ご家老と一緒にいるので、江戸屋敷詰めの藩医かと思っていたら、配役表では藩お出入りの町医者と書いてある。
劇中、御典医(大名家は御殿医ともいう)推挙の話も出ていたが、姫君のお脈をとるのがいくら名医でも藩お出入りの町医者と言うのはあまり聞かず、不自然に思えた。
秀山祭九月大歌舞伎
松竹
新橋演舞場(東京都)
2011/09/01 (木) ~ 2011/09/25 (日)公演終了
満足度★★★★
まずはめでたい新又五郎誕生
中村又五郎という名跡は、歌舞伎のお師匠番的存在として知られた名脇役の先代の印象が強く残っている。
先代は自身大変な努力家だったが、門閥出身ではない国立劇場研修生を長く指導した功績も忘れてはいけない。
歌昇改め新又五郎は、同世代の私には中村光輝の芸名がなじみ深い。
歌舞伎の子役時代から先代勘三郎がお師匠番の勉強会「杉の子会」で現勘三郎や兄の歌六、いとこの時蔵らと共に数々の名狂言の大役を演じてきた。
また、NHK大河ドラマ「天と地と」で上杉謙信の少年時代の虎千代役を好演してお茶の間の人気を集め、民放のTVドラマにも主演し、「国民的人気少年俳優」と評された時代もある。
アポロ13号打ち上げ特番のスタジオゲストに招かれたほどの有名人だった。
当時に比べれば一般的知名度が低いせいか、襲名興行の割に切符の売れ行きはいまひとつのようだ。
昔のパンフレットを読むと、「踊りでは勘九郎(※現勘三郎)に負けるけど、お芝居では負けていない」が口癖で、祖母の小川ひなさんの目が光る中、踊りの猛特訓を続けたそうだ。
いまは踊りでも高く評価されるようになり、又五郎の名跡にふさわしい俳優に成長した。
屋号が萬屋から播磨屋に戻った形だが、萬屋=小川家は私の母の代からのお付き合いもあり、各人の襲名興行は必ず観に行っている。
種太郎改め新歌昇は、大叔父の中村賀津雄が明るい青年俳優だったころに面差しが似ていて微笑ましい。
ネタバレBOX
「沓手鳥孤城落月」
同時代の戦国物でも、最近のオチャラケNHK大河とは風格が違う。
以前、歌舞伎座で観たときとは、二の丸乱戦から城内への場面転換の方法が違っており、暗転が長く感じた。
裸武者が児太郎と知り、歳月を感じた。彼の叔父の橋之助で観ているせいか、もう、そんなに成長したのかと感慨深い。
襲名ならこの役は新歌昇で観たかったが。
芝翫の休演が惜しまれるが、代役の福助も悪くない。淀君は五世歌右衛門からの成駒屋の当たり役だけに、「沓手鳥」は福助が継承しなければならない重要な演目だ。
大野修理之亮の梅玉は歌右衛門に鍛えられた秀頼役者でもあり、氏家内膳の吉右衛門と共に、脇も贅沢な配役。
修理と内膳のよしあしがこの場を左右する。
秀頼の又五郎は、いかんせん若さがなく、風姿がいまひとつ。
披露目の演目としては疑問が残った。
「口上」は、親戚の勘三郎は病気で無理だが、共に切磋琢磨してきたいとこの時蔵には出てほしかった。
「車引」
梅王丸の又五郎が膝を痛めているとのことで、多少演出が変わっているようだ。
吉右衛門の松王丸、藤十郎の桜丸が華を添え盛り立てる。
“化粧声”も賑やかに仕丁がそろう大舞台は爽快だ。
藤十郎は年をとらないので驚く。
藤原時平の歌六の公家悪の立派さ。貧相で歌舞伎味が薄いと言われ続けた若手時代が嘘のようだ。
「石川五右衛門」
歌舞伎座との舞台機構の違いか、この演目も暗転の長さが気になった。
甥とはいえ、南禅寺山門の染五郎の演技が吉右衛門そっくりで驚く。
つづら抜けの宙乗りは、故・実川延若が復活上演した際、共演者の芝翫が面白く説明してくれたことを懐かしく思い出しながら観ていた。
ロベルトの操縦
ヨーロッパ企画
本多劇場(東京都)
2011/09/08 (木) ~ 2011/09/18 (日)公演終了
満足度★★★★
自己主張
操縦室を勝手に想像していたが、ちょっと違うものだった。
出てくる人が、とにかく相手の身にはならず、自分の「希望」を主張し合い、グダグダになっていく展開。
その中で、妥協させられ、翻弄される人も出てくるのだが・・・。
ヨーロッパ企画の笑いが好きな人は楽しめる笑いになっている。独自のスタイルを貫き通し、多くのファンをつかんでいるのがすごい。
ネタバレBOX
あのロベルトって、飛行機なのか、サイドカーの付いた陸上の乗り物なのかが、判然としない。
宇宙に出ていくのだから、飛行機なんでしょうかねぇ(笑)。
コーラに始まり、安っぽいエンペラーが登場するのが可笑しい。
アフタートークで、やはり最初の設定ではロベルトは登場人物の名前だったことを知り、納得した。
金糸雀喫茶館
黒色綺譚カナリア派
秋葉原 カフェトリオンプ(東京都)
2011/09/16 (金) ~ 2011/09/16 (金)公演終了
満足度★★★★★
楽しいひととき
おどろおどろしい話が多い黒色綺譚カナリア派だが、私は本公演でなく、夏の朗読劇が初見でその雰囲気がとても好きだった。
どちらかというと、番外企画の赤澤さんの演出が好きだ。
今回は、活動休止前のイベントと言うことで、リラックスして楽しめそうな企画なので、お邪魔した。
一人で行ったのだが、居心地がよく、とても楽しいひとときだった。
ネタバレBOX
女優さんたちがカフェで、作品にちなんだお料理や飲み物をサービスしてくれる。
芝原弘さんが執事役で、席に着くとメニューとシステムを丁寧に説明してくれた。
特技のパフォーマンスも、俳優の自己陶酔ではなく、お客の立場に立って演じられていくのがさすが。
こういうイベントでも俳優さんたちは、自分たちだけでなく、お客を楽しませるのが仕事なのだということを痛感させてくれた。
芝原さんが語る怪談噺は、過去の公演のあけびという少女の扮装でスケッチブックを手に登場する。
その抑揚のない、ちょっと拗ねたようなぶっきらぼうなしゃべりかたが、怪談の内容にとても合っていて、グイグイひきこまれていった。
中里順子さんは、リクエスト形式のミニレビューと、レビューショーと二通りあって、どちらも楽しいパフォーマンスだった。
ヘビメタを歌う時も、「ここでギターの人が出て」と、本来のバンドの情景を説明しながら歌ってくれるという親切さ。
山下恵さんとのダンスセッションもこういう企画ならではだった。
驚々
多少婦人
池袋GEKIBA(東京都)
2011/09/17 (土) ~ 2011/09/19 (月)公演終了
満足度★★★
シチュコメ作家としての今後に期待
酒井雅史さんの作品は、明治大学時代から観てきたが、必ずしもコメディではなく、人間の心理に注目した作品が多い。
だが、今回のような長編シチュエーションコメディは初めてで、シチュコメファンとしては新しい一面を見たようで嬉しかった。
多少婦人は作家が2人体制で短編が中心だが、また機会があれば、酒井氏にシチュコメを書いてほしいと思う。
彼は俳優としても、とぼけた味わいがあって好きだ。
「騙す」といっても、最近、小劇場ではやりの詐欺や毒殺ではないのが、一番の救いだった。
「驚々」にちなみ、登場人物の名前の一部に全員「きょう」と読む漢字が入っているのがご愛嬌。
ネタバレBOX
冒頭のサプライズの説明が、最初はわかりにくく、シチュコメとしてはツカミが弱い。
実際は無意味な偽装告白の「予行演習」が何度も繰り返されるのも興をそぐ。
控室のひと部屋が舞台で、飲み会のメンバーがほとんど抜けてそこに集合するのが不自然で、舞台を二分して、両方の場面を見せながら話が進行するなら手腕を感じたのだが。
智恵(小宮凜子)がだんだんドレスアップしていくが、彼女はサプライズの仕掛けについては説明を受けておらず理解していないという設定なので、自分がサプライズの対象だと思い込んでドレスアップしていくのだろうか。これもわかりにくい。
めかしこんでいく真意と可笑しさが私にはあまり伝わらなかった。
彼女自身は本筋には関係ない存在だけに、天然ボケのようなキャラが浮き、出てくると間延びしてイライラしてしまう。
智恵の勘違いが際立つようなストーリーならよかったのに。
杏子(山本しずか)の婚約者仲原(芝田遼)が登場してからがとても面白く、芝田は最近、多少婦人の本公演での客演も多いが、彼の演技を観ているとワクワクする。
サプライズを仕切る響(石井千里)のリアルさもいい。
ただ、石井と山本の役どころが、フライヤーどおり、もっと対決するような設定なら、より面白かったのにと思う。
山本と芝田が対面してから、カレーの味付け以外にひと波乱ほしかった。
狭山(山村遊哲)の皮肉屋的な言動が、サプライズへの批判にもなっており、興味深い。
この辺に、酒井の作品の特徴がよく出ている。
初日のせいか、肝心のところで、みかんがセリフを噛んだのが彼女には珍しく、惜しかった。
彼女はもっとスパイス的な強い役で使ってほしかった。
全体にあと20分くらい短縮して、メリハリをつけてほしかった。
シャイロック
東京演劇アンサンブル
ブレヒトの芝居小屋(東京都)
2011/09/09 (金) ~ 2011/09/19 (月)公演終了
満足度★★★★
興味深い新釈シャイロック
シェイクスピアの『ヴェニスの商人』とは趣の異なるアーノルド・ウェスカーの作品。
役名が同じでも設定やストーリーはかなり違うので興味深かった。
初演以来、10回の改稿を重ねているそうだが、日本ではこの東京演劇アンサンブルが最新版で初演となる。
ユダヤ人についての捉え方、描き方がかなり違う。
シェイクスピアファン、シェイクスピアにあまり興味ない人、両方に観てほしいと思った。
有料プログラムに本戯曲が生まれた背景や分析、解説がなされているので、興味のある方には一読をお勧めする。
再演を希望したい。
ネタバレBOX
観終わった後、各自が自分の中でいろいろ思いを巡らせることができる作品だと思った。
東京演劇アンサンブルは「あー、面白かった」だけで終わらない作品を上演し続けている劇団。
私にとっては「人生の良き友」のような劇団である。
この劇場、唯一自宅から歩いて行けるので、引っ越したくないとさえ思っている。
がめつい高利貸しというイメージのシャイロック(松下重人)が、本作では、読書家で教養があり、貴族のアントウニオウ(竹口範顕)に人生において影響を与えるほどの存在に描かれている点にまず驚く。
しかし、その知識と教養が娘のジェシカ(樋口祐歌)には重荷で、反抗を生む。
シャイロックに姉リヴカがいる設定で、志賀澤子の温かみがとてもよい。
ポーシャ(清水優華)も颯爽としたスーパーウーマンではなく等身大の描かれ方で、ジェシカ同様、自分の境遇や結婚に迷いや悩みを持っている。
「肉1ポンド」の証文の意味や、判決の出し方、受け止め方もシェイクスピア版とは違うが、ここで明かすのは興をそぐので控えます。
2組の若い男女のハッピーエンドで終わらず、かなりほろ苦い幕切れ。これがまたよい。
バサーニオウ(公家義徳)の妻に対する考えかたに男の本音が出ていて面白い。実は私の父が結婚の時に母に送った手紙を死後に発見し、その文章とほぼ趣旨が同じ台詞で苦笑してしまった。
終幕の男たちの語らいの場面に、いつものアンサンブルの団風が出ていて、借り物の役でなく俳優の個性が役になじんで見えてとても良かった。
松下重人は、誠実な人柄がにじみ出る俳優なので、このシャイロックは似合っている。
ただ、松下を含め、初日ではないのに俳優の何人かに台詞のとちりがあり、手ごわい戯曲だったのだろうが、残念だった。
清水は成長著しい期待の若手で最近好演が続いているが、まだ線が細く感じた。
バサーニオウがベテランの公家なので、個人的には桑原睦のポーシャで観てみたかった。
桑原は行動力ある銀行家の娘レベッカをくっきりと演じるが、ポーシャも似合うはず。
桑原ならジェシカを保護して世話をするという包容力も出たと思う。
ジェシカの樋口は見事抜擢に応え、難役をこなした。もっとよくなるはず。
実際に建築学専攻の本多弘典が若き建築家ロドリゲスを演じているのも面白い。
本多は加藤健一の若いときに似た目力がある個性的な俳優で、少ない出番でも印象に残る。
名家に生まれ、屈託はないが100%善人ではない青年グラチアーノ役を尾崎太郎が好演。
三瓶裕史の肖像画家モーゼ、浅井純彦のシャイロックの協力者テュバルも、いかにもその役らしさが出ていた。
こういう脇の層の厚さがこの劇団の魅力でもある。
センの風とムラサキの陽【8/8池袋演劇祭CM大会・最優秀賞受賞!】
劇団バッコスの祭
南大塚ホール(東京都)
2011/09/09 (金) ~ 2011/09/11 (日)公演終了
満足度★★★★
余力を残して・・・
池袋演劇祭優秀賞受賞の凱旋公演の形をとった再演もの。正確には三演ということらしいが。
古色蒼然とした旧公会堂のような南大塚ホールだが、戦時中が題材のこの作品にはふさわしい雰囲気かもしれない。
作者は大変気に入っている作品らしく、自ら代表作になるだろうと書いている。
秀作であるのは確かだが、今後、上演を重ねていくほど、さらによくなっていく可能性を秘めた作品だと思う。
逆に言えば、まだ不満に感じる点もあるということ。
役者の演技には文句がないが、脚本の人物描写はまだ練る余地があると思う。
昨年、個人的には☆4つの評価だったが、今回も再演でやはり昨年と同じ点が気になった。
今回、一番感心した点は、俳優が箱の大きさに合った芝居をしていたという点。
小劇場劇団の場合、それがひとつネックになるのだが、見事にクリアしていた。
いつもは多少オーバーに感じる主役・丹羽隆博の演技が、大劇場ではちょうどよく見えた。
ネタバレBOX
昨年、冒頭の球技(?)がとてもよかったので今回どうかと思っていたら、球技とアクロバティックな動きを組み合わせ、より大劇場に合ったオープニングになっていた。
作家の森山智仁の昨年の解説によると「史実の再現ドラマではなく、あくまでフィクションなので」ということだった。
まぁ、そうなのだが、今回も気になったのは、重要な任務を担う役柄、研究者と新聞記者4人とも女性と言う点。この時代、男性が戦地に行っているとはいえ、やはり不自然に感じてしまうのだ。
今回は出演者も増えたが、全体としてやはり女優の数が多い。
しかも、研究者と新聞記者は1人ずつ役が増え2人ずつ出るが、またも女性なのである。
小野教授の田仲晶は昨年に続く好演で、食堂の娘だった雨宮真梨が今回はもう一人の研究者役に変わった。
既婚を装い、実は未婚という昨年の設定はなくなり、筋がすっきりした。
新聞記者・神出を昨年好演した金子優子が今回は神出と炎童子の2役を演じた。
そのぶん神出のウェイトは多少軽くなった。
炎童子は原子力の炎ともいえるのかもしれない。
もう少し演出面で強い印象を持たせたほうがよかったと思う。
ラスト、出撃の場面で、晴生(丹羽)との対決が観たかったのだが。
大門少佐は、昨年の石井雄一郎から西郷豊に変わったが、貫禄があり、適役だった。
陸軍中尉の杉本仕主也も、所作が軍人らしくてよかった。
研究室の学生が2人とも急に海軍を志望して簡単に入ってしまうのもひっかっかる。
晴生が入隊前夜「明日、飛ぶということもある」と話すが、入隊して訓練もなしにそれはありえない。
学生の会話に「何ビビってんだよ」や「やべぇ」と現代語が入るのも、いつもの現代語の時代劇では気にならないが、戦時中では気になる。一考されたし。
、
村崎座の座員も戦意高揚劇団にいるとはいえ、この時代なら軍需動員は当然あったはずで、せめて会話に出すくらいあってもよかったと思う。
そうでないと、まるでサークル活動みたいに好きなことをやって過ごしているふうに見えてしまう。
座付き作者が軍事機密まで知っているという設定も前回同様気になった。
村崎座の蒙古襲来の芝居も、陰陽師と炎童子が出てくるので複雑になった印象。
座付き作者の稲垣佳奈美の柝の打ち方がよい。案外、ちゃんと打てない俳優も多いのだ。
舞台美術は、予算との兼ね合いもあるだろうが、前半の部分などもうひと工夫ほしかった。
ラストの灯篭流しの部分はなかなか美しい演出だが、小野教授が花をみつけるところの晴生との場面、花にスポットライトが当たる時間が長いわりに、中途半端に幕が下りてしまう感じでもう少し丁寧な終幕にしてほしかった。
昨年は小野がこのあと長崎に行き今生の別れになるという設定なのだが、今回、花が咲いてると、原爆投下直後なのかどうか?、時系列が混乱する。
新宿コントレックス Vol.1
新宿コントレックス実行委員
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2011/09/08 (木) ~ 2011/09/08 (木)公演終了
満足度★★★★
気軽に観られる企画
前回のパイロット版(?)公演も観たが、今回の参加劇団は、ゾンビ・ジャパンを除いて、ほかの公演やコントライブを何度か観ているため、いくつかのネタは既に観たものだった。まぁ、それでもじゅうぶん楽しめたけれど。
若手がこういう企画を考えて実施することには意義があると思う。
客席は圧倒的に劇団員たちの知り合いで埋まっていて終演後は同窓会みたいな雰囲気だが、回を重ねるごとに、クチコミで一般客が増えていくとよいな、と思う。
会場が、自宅から3番目くらいの近場なので、気分転換に寄席を覗く感じで出かけるには手ごろなのだ。ただ、1日だけで定員が少ないので、前もって予約は必須だが。
※1日だけの公演ですが、次回公演も決まっていて、継続的企画なので、いちおうお薦めマークを付けました。
ネタバレBOX
<アガリスク・エンターテイメント>
『差別』は、前回Vol.0でも出したネタで、幼子を挟み、夫婦がその子の出生を巡ってかみ合わない会話を繰り広げる。
ちょっときわどい題材でもあるが、今回のこの劇団のコントでは一番面白い。幼子役にダッコちゃん人形でも使ってくれれば雰囲気出たかも。
ほかのコント3題は、ここがよくやる「小ネタ」だが、アガリスクは本当はもっと面白いコントが書けるはずなので、お遊びっぽい小ネタではなく、1、2本長めのコントをやってほしいと思う。
<トリコロールケーキ>
今回は3つとも秋葉原のライブで観たネタで、それがこの劇団初見の公演だった。
『命乞い』は、Vol.0に続き、これで観るのが3度目のネタ。何度見ても面白いが。
『離婚』中腰でエア椅子で離婚話をする夫婦。この中腰姿勢の設定は、磯川家ユニットのコントライブでも観たことがあるが、トリコロールケーキの場合は、台詞がきちんとしているのが特徴で、好感が持てる。
『ネコの思い出』も、初見で一番気に入ったネタ。ネコの思い出とはあまり関係ない内容なのがミソ。
この生物教師の一見普通で実は変態というのが会話だけで表現され、可笑しい。
またも、「やめてください」ギャグがあったが、多用しないほうがよいと思う。
<コント集団神と仏>
『幼稚園』。「生きる」という公演で観て、大好きなネタ。幼稚園児のシュールな会話が面白い。
『大人の優しさ』。見た目のインパクトとバカバカしさで笑わせるが、もっと面白くなりそうに思う。
コナンネタでは磯川家ユニットのほうがくだらないが面白かった記憶がある。
<黒薔薇少女ユニット>
『水面に映るシェイクスピア』
前回よりいっそう演劇らしい。これは旗揚げの時に演劇として上演した作品の短縮版のようで、観てみたかった作品。
体を目いっぱい使った太田守信と堀口武弘の演技がいい。
ここでも美少女・花岡志穂里が登場する。
最後のオチが私の位置からは見えづらく、終演後、ほかの劇団の人に解説してもらった(笑)。
やっぱり「イクラ」でしたか。
<ソンビジャパン>
劇団名は「復活」が由来だそうで、私の苦手なゾンビネタでなくてホッとした(笑)。
浅草っぽいというか、昭和のコントの懐かしさがある。
『男たちの挽歌』
ロシアンルーレットネタに、内藤陳のトリオ・ザ・パンチを思い出した。
『TUTAYA』
皮墓村と森 28日後・・・(これでも芸名なのか?)の掛け合いが面白くて一番気に入った。
皮墓村は若いときの西村雅彦を思い出す。
『エンディング』もネタらしいが、個別アンケートがあるなら、告知をやってほしかった。
折込チラシかと思って提出し忘れてしまった。
しかもこちらは『挽歌』が『換歌』になってましたぞ(笑)。
ライリュウの化石
青果鹿
劇場MOMO(東京都)
2011/09/01 (木) ~ 2011/09/05 (月)公演終了
満足度★★★
俳優と役柄の隙間
座付き作家の澤藤さんは岩手県出身の作家なので宮沢憲治作品には格別の愛着があるようだ。
この劇団、観るのは三度目で、個人的には一番初めに観た『注文の多い料理店』を脚色した作品が一番面白かった。
テーマを盛り込みすぎた前回の作品に比べ、今回はシンプルな仕上がり。
しかし、澤藤さんの持つ“楽しい毒気”が今回は足りないように思えた。
小道具の化石がなかなかよくできていて、恐竜の骨格の大型レプリカも力作だが、作品としては物足りなさを感じた。
アングラ的な味付けが特徴の劇団だが、今回、キャラクターと俳優陣の演技に隙間が感じられ、一種ファンタジー作品なのだが全体に学芸会っぽい印象になってしまったように思う。
また、作品におけるキャラクターの配置も成功しているとは言えず、各自が際立ってこない。
作品イメージに合った演技力ある俳優を集めることが当面の課題だと思う。
ネタバレBOX
テンションの高い楢ノ木修一(島本和人)以外、客演陣の演技に思い切りが悪く、役によっては照れが見え隠れするので、観るほうが照れてしまう。
たとえば、バナナン大将(森一)は童話的な役だが、俳優が役になりきっていないせいか、演技がやすっぽく見えるのだ。
令嬢の水前寺彰子(佐橋美香)も、演技が普通すぎてこの役のすっとんきょうな面白さが出ていない。
役柄の設定では、質屋の妹娘瑠璃子(久保木彩)をわがままでバブリーなイケイケギャルにしているので、令嬢との対比が出ない。
田舎を嫌いながらも垢抜けしない娘の扮装にしないと、まるでキャバ嬢みたいで面食らう。
久保木は、M的演技なのに、英二といきなりと恋におちてしおらしくなるのが、見た目とギャップがありすぎてピンとこない。
何より1960年代のような超ミニの衣裳だから、いったいいつの時代の芝居かわからなくなってしまう。
姉娘菊子(遠藤紀子)のファッションは70年代のOL風だし。
童話調のクルミ(白石里子)以外、女優陣の衣裳選びがよくなかったと思う。
菊子は、もう少し強めに役を作らないと性格が中途半端に見えてしまう。
修一の弟の英二(加戸谷隆斗)は、純朴な感じはするが、演技がぎこちない。
おじさん役ばかり観ていたので、白石里子の少女役が新鮮だった。
ハッピーエンドの幕切れは、いまひとつ感動が薄かった。
ジャンヌ・ダルク―ジャンヌと炎
東京演劇集団風
レパートリーシアターKAZE(東京都)
2011/09/01 (木) ~ 2011/09/05 (月)公演終了
満足度★★★★
視覚効果が素晴らしい
マテイ・ヴィスニュック、ペトル・ヴトカレウ、浅野佳成のKAZEおなじみのトリオにより、当初予定の「セチュアンの善人」から変更しての上演となった。
若手の小劇場劇団の台頭により、新劇も時代を経てある意味、岐路に立たされていると思うが、東京演劇集団風は特色ある作品構成で、新しい観客層開拓を進めている。
以前から観たいと思っていた作品で楽しみにしていた。
ネタバレBOX
旅役者の一座が劇場に到着したという趣向で始まる。
KAZE自体、実際、旅公演の多い劇団だけに、面白い趣向だ。
人形劇風の小さな人形や、カーニバルのような大型人形なども登場し、豪華で美しい衣裳とともに視覚的効果もじゅうぶん。
戦争の場面の音楽が恐ろしく、髑髏の仮面をつけた死者のダンスも非常に不気味で印象に残る。
ラスト近く、ジャンヌが火刑に処せられる場面の語りは、その残酷さゆえに胸が塞がれる。
「ヘレン・ケラー」のときに白根有子の日を観られなかったので、今回のジャンヌ役は楽しみにしていた。「星の王子さま」の王子役など、小柄な白根は少年少女の役が得意なようだ。
今回の白根は、星の王子さまのときと同じような訥々としたしゃべりかたで、この作品の「純粋無垢な心を持つ、勇気ある、しかし平凡な少女が起こした奇跡の物語」という主題には沿った演技かもしれないが、以前に観た堀北真希のジャンヌの鮮烈な名演技が記憶に新しいせいもあり、物足りなさも感じてしまった。
オーラやカリスマ性が台詞からはあまり感じられず、後光を放つような衣裳の強い視覚効果に負けてしまっているように見えた。
神の啓示を受け、強固な行動力を発揮していく際も、それ以前との対比や変化が伝わってこないのだ。
いつものトコトコした歩幅の狭い白根の歩き方の癖が出ていて、違和感があった。
白根のセリフ回しは、劇団の重鎮、辻由美子を思わせ、彼女がお手本なのかもしれない。
若いころの辻は王子様役には定評があったそうなので、白根は正統派の後継者なのかもしれないが。
準決勝
あひるなんちゃら
駅前劇場(東京都)
2011/09/02 (金) ~ 2011/09/06 (火)公演終了
満足度★★★★
脱力系の笑い
あひるなんちゃらを観るのは二度目だが、一種独特の雰囲気の芝居だなと思う。
コントともコメディーとも違う面白さがある。
登場人物は全員大真面目なのだが、言動がそれぞれおかしな人が出てきて笑いを誘う。
受け付けない人もいるかもしれないが、こういう脱力系の笑いが私はけっこう好きだ。
NHKの「サラリーマンNEO」の笑いとも共通するものを感じ、日頃、演劇になじみがない人にはむしろ受け入れやすいかもしれない。
受付で「チケットは特にありません」と言われ、これまた拍子抜けした。別になくてもかまわないが。
ネタバレBOX
まだ優勝もしていない段階で「応援チームにトロフィーを渡してやりたい」と言い出すクボ(黒岩三佳)を中心に話が進む。
しかも、単に渡すだけではなく、そのトロフィーは歴代の優勝チームの歴史が刻まれたものでないと意味がないと言う。
何とも矛盾した主張で、周囲が何を言ってもクボは聞き入れない。
クボは審判(三瓶大介)の頭を殴ってトロフィーを盗んできてしまい、トロフィーがないと大会が中止になるというので、もうひとつ同じトロフィーを注文して大会事務局に偽物のほうを返そうと言うのだから頑固だ。
場面としては、控室のやりとりが私の好みで面白かった。
次のトロフィーを扱う会社の事務所の場面も、どこか抜けている社長(永山智啓)とマイペースな女事務員ミト(墨井鯨子)、ミトの上司のカワカミ(松木美路子)の三者かみ合わない会話も面白い。
松木は風琴工房を離れてからは初めて観たが、いつもシリアスな役だったので新鮮だった。
今回も笑わない真面目な役なのだが、だからこそ墨井とのやりとりが可笑しい。
フリーになってから新境地を開拓するかもしれない。
トロフィー職人のセンゴク(篠本美帆)がいい味を出している。
弟子のイワイ(関村俊介)の退職理由が「子猫の世話」とは、昨今、どこの劇団もなぜか「猫」のネタが多くて不思議だ。
場面転換中に「男と女の準決勝」なるデュエット歌謡曲が流れ、この間、俳優が「ただいま、場面転換中です。」の横断幕を掲げて立っているが、池田ヒロユキのとき、あきらめたような無表情さにふき出した。
「ベルナルダ・アルバの家」
ウンプテンプ・カンパニー
シアターX(東京都)
2011/09/01 (木) ~ 2011/09/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
丁寧に作られた芝居
このお芝居を観たいと思ったきっかけはフライヤーの写真がとてもお洒落な感じだったからですが、ロルカの作品と知り、フライヤーのイメージとは違うかもしれないとか観劇前は思ったりもしました。
観劇後の感想は非常に満ち足りた気持ちで、宣伝美術から、音楽、照明、美術、俳優の演技すべてに主宰であり演出家の長谷トオルさんの神経が細部にまで行き届いていて、「お見事」と言うしかありません。
久々素晴らしい公演に巡り合え、幸せです。次の公演もぜひ拝見したいと思っています。
ネタバレBOX
開演前、小鳥のさえずりが聞こえてきて、効果音かと思ったら、上手側のせり出した空間に鳥籠が吊られ、本物の小鳥がいるのだった。
開演し、家の出入り口に照明で外光がサーッと差し込んだ時、その美しさに息をのみ、期待感が膨らんだ。
俳優の演技は全員素晴らしく、文字通り役を生きている。伊達に稽古に時間をかけてはいないと思った。
台詞が難解でなく、一つ一つしっかりと伝わってくる。翻訳ものの場合、作品と観る側の自分との間に少しでも距離感があると、たちまち置いて行かれてしまうのだが、そんなことがまったくなかった。
特に威厳ある女家長を演じる新井純の存在感はものすごく、この難役は俳優が負けてしまうと台無しだと思うが、新井は堂々とした演技でしっかりと舞台全体の統率もとっていた。
女中頭ポンシア(坪井美香)との丁々発止の会話にも魅せられた。
こいけけいこ、薬師寺尚子といった小劇場でもおなじみの若手女優2人が出演しているのも好ましい。
末娘アデーラ(薬師寺)と4女マルティリオ(森勢ちひろ)が2人とも小柄な女優ながら、火花を散らせる場面に惹きつけられた。
スペイン大使館が後援ということで、作者や作品、国情と時代背景などを解説したオールカラーの無料パンフレットが付いているのも親切である。
以前、アンダルシア地方の写真展を観たことがあるが、舞台はその風景を思い起こさせるほど想像力をかきたてられるものだった。
オリジナルに作曲された音楽も旋律が美しく、元からついていた歌曲のように思えるほどマッチしている。
音楽は生演奏(神田晋一郎・則包桜)で、最近、生演奏の公演が流行のようだが、この公演はアクセサリー的な生演奏などではなく、奏者も演じ手の一員として溶け込んでいる。
この閉鎖的な家の外界の状況を音楽がすべて表現しており、特に外を通る男たちの労働歌に女たちが聞き惚れる場面がよかった。
8年間も服喪による禁欲生活が続くことで、女たちの性への欲望が鬱積し、爆発し、近所の未婚の妊婦に激しい憎悪と暴力が向けられ、そして思わぬ悲劇的終幕を迎える。
衣裳が黒であることから、フライヤーは全員白い服で撮影している意味が生きてくる。
劇中の台詞にもあるように、白いリネンやレースは「女たちの未来への希望」の象徴でもあり、鳥籠の小鳥たちは女たちの身の上を暗示してる。
また、劇中の台詞にも「オリーブの畑」が登場するが、ロルカもまたオリーブ畑のそばで銃殺されたとパンフに書いてあり、感慨深かった。
誠実な舞台は心の奥に強く訴えかけてくるものがあると痛感した。
『シバイ~演劇オブザデッド~』
The Dusty Walls
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2011/09/01 (木) ~ 2011/09/04 (日)公演終了
満足度★★★
ゾンビの好きな方にはオススメ
最近、なぜか小劇場劇団ではゾンビネタが目立つようだがそんなにゾンビ愛好家が多いのだろうか。
それともゾンビを出せばインパクトがあると思っているのだろうか。
私は映画でもゾンビものは大嫌いで絶対に観に行かないので、今回も普通なら観ない芝居だが、劇団8割世界の主宰・鈴木雄太が久々俳優として客演するというのでそれだけを目的に観に行った。
ゾンビは、襲われた人間が同化するという原理が吸血鬼や日本の化け猫と同じで、劇中の松井の台詞ではないが、私は「生理的に受け付けない」(笑)。
“ノンストップホラーコメディ”とうたっているが、コメディーという印象は薄かった。
ネタバレBOX
結論から言うと、お目当てで観た鈴木雄太は芝居が巧いということはよくわかり、それは収穫だった。
彼が終始、安定感ある演技でこの芝居を支えていたと思う。
脚本家の竹山(竹田桂)がなかなか面白いキャラで笑わせる。
佐倉一芯は、劇中劇の演技にリアリティーがあってよかった。
人気女優高木役の三井智映子とマネージャーの布施雅英、演出助手の鈴木若菜も印象に残った。
演劇についての諷刺・自虐ネタには苦笑した。
しかし、ゾンビになった役者たちが芝居をするというだけでも気持ちが悪いのに、小林(小林達明)がブリーフ一枚のだらしない格好で「セックスしたい」と舞台をウロウロするので、よけいに気持ちが悪くなった。
しかも小林が“素人童貞”だったので、竹山による復活の儀式が失敗したというお下劣なオチには呆れた。
高木の出演する深夜ドラマの内容がわざとらしくて聞いていて全然面白くない。誰もが知ってる内容でもないことを舞台上で話す場合、とってつけたような複雑な内容にしないほうがよいと思う。
高木がタランティーノのオファーを断ってこの芝居に出るという設定も作為的すぎてシラケた。
要するにコメディー部分があまり面白くなかった。
劇場入り口近くの前から2列目が遅れてきた客のために空けてあり、それが一番見やすい特等席というのもやむえない配慮かもしれないが引っかかる。
開演ギリギリや遅刻してきた数人がちょうどぴったりと収まり、遅く来たほうが良い席に座れるわけだ。
この劇場、ほかの劇団だと遅く来た客は後方の悪い席に座らされるのだが。
案の定、目の前に背の高い男性がすわり、視界がさえぎられて大変見づらくなってしまった。
ほかの会場では、スタッフが補助用に前の列に椅子を置くと「見えづらくなるから前に移りたいんですけど」と言って強引に移ってしまう常連客もみかけたことがあるが、こちらはそうもいかない(苦笑)。
カラーのパンフレット付きだが、血まみれの俳優の顔写真なんてあえて見たくない。また、どうせなら出演者のひとことくらい入れてほしい。
それよりももう少し入場料を安くしたほうが良いのでは。
私の実感では3000円までが妥当な芝居だと思った。
11のささやかな嘘
ジェットラグ
銀座みゆき館劇場(東京都)
2011/07/15 (金) ~ 2011/07/18 (月)公演終了
満足度★★★★
役者の演技は楽しめた
銀座みゆき館劇場は素通りするばかりで中に入ったのは初めてでした。
なかなかすわり心地がよい椅子で、見やすいし、よい劇場だと思います。
有吉佐和子の『悪女について』を思わせる、亡くなった人物についてゆかりの人間が次々に登場して語るという手法。
キャストも豪華で、作・演出も小劇場界の人気実力派のコンビということで興味をそそられました。
入場しても、パンフに配役が書いてなかったので、最近はやりの役名=本名、または番号の芝居かと思ったら、ストーリーをネタバレさせないための仕掛けで、終演後、人物相関図が渡された。
ネタバレBOX
才能ある作家と言われながら、芥川賞受賞以来、連載も中断ばかりで1冊も単行本を出版していない作家、夏木が自殺し、49日に個人とかかわりのある人物たちが自宅を訪れる。
夏木に対し、みんなそれぞれの立ち場で、個人へかける思いがあったり、金や物品を貸したりしているが、嘘もついているという設定。
夏木という作家も実像が語られるにつれ、女癖が悪いなどダーティーな部分が明るみになってくる。
最初のほうに編集者役で板垣雄亮が出てくると、独特の空気が流れる。
こういうこずるくて真面目に話しているのに可笑しみを感じさせる役は巧い。
夏木を愛したために、夫を殺してしまったちほ役、千紘れいか。宝塚バウホールで紫吹淳の相手役に抜擢され、初ヒロインを務めて以来観る舞台なので楽しみにしていた。在団中、怪我をしたことも、その後の退団につながったと聞いていたが、劇団四季の時代を観ていない。
宝塚の新人の頃から情感豊かな娘役だったが、大人の女優さんに成長していて歳月を感じた。
ちほが殺した夫の弟で、夏木の親友だった根米隆也(古山憲太郎)は1年前に自殺したことになっているが、この隆也の霊が夏木の飼い猫に憑依しているということが何となくわかってくる。
それが最初はわからなかったのだが、どうやら隆也は猫としてしかみんなの目には映っていないことがわかってくる。
猫であり、人間であり、人間としての姿はみんなには見えないという不思議で難しい役どころを古山が好演。
苗字も根米(ネゴメ)→猫目に引っ掛けてあるらしい。
「え?俺、自殺したの?」と猫=隆也の霊がいぶかしむ場面があり、隆也の霊は自殺した自覚がないらしい。
そこで、夏木と同じように小説を書いていて、夏木が隆也の作品を盗作したうえ、隆也を殺したのではないかという疑念がわいてくる。
終幕近く、夏木の妻(李千鶴)が、猫だけが夏木のすべてを見て知っていたと語りかける。
役者の演技は楽しめたが、救いのない話でミステリーとしてもあまりすっきりしなかった。
明けない夜 完全版
JACROW
シアタートラム(東京都)
2011/08/25 (木) ~ 2011/08/28 (日)公演終了
満足度★★★★
映画のようなつくりだが
初演を観ていないが高評価の噂は聞いていたので、観ておきたかった。
TVのサスペンスドラマというよりは昔の映画シナリオに沿ったようなつくりだと思った。
舞台美術は確かに立派だが、やはりシアタートラムは中劇場規模で、俳優たちの演技の質が小劇場の尺に合ったものになっているのは否めない。
だからといって、同じ台本で大劇場に慣れた有名な俳優を使えばいいかというと、そうは思えない。
この作品はやはり小劇場で、息をつめて観るほうがふさわしいと思った。
昭和に多く作られた映画の小品はいまの時代には映画界の構造上、期待できず、私は中村暢明には、そういった心理劇の佳品を舞台で手掛けてもらいたいと望む。
ネタバレBOX
回想場面が挿入され、時系列的に混在して演じられるのだが、私の視力が悪いこともあって最後列に近い位置から上手の字幕が見えにくく、文字上ではいつの出来事か確認できなかったのが残念。演技で判断できたが。
登場人物たちが昭和の時代を醸し出していたのはお手柄。
和田商店の社長夫人を演じる蒻崎今日子がいい。
この妻はたぶん、実家も裕福な良家の出なのだろう。
気が強く、夫の女癖の悪さに閉口しながらも、離婚する気はさらさらない様子が見て取れる。
家族でビフテキを食べに行こうという2階廊下の会話の場面に、いかにもこういう家の主婦らしい楽天的な雰囲気が出ていた。
回想場面の元従業員・秋澤弥里がいかにも昭和の女子事務員らしい地味なつつましさを見せていた。彼女の場合は社長が強引に口説いたのだろうと思わせる。
ところが商売女になって登場すると、すっかり苦界に身を沈めた女らしい自堕落な感じがよく出ている。
蓮っ葉なセリフ回しが昭和の映画女優のようであの時代を感じさせた。
2番目の社長の女、純子を演じるハマカワフミエは舞台に比して動きが小さすぎるように感じた。これは彼女が小柄だからということではない。
年かさの従業員・やっさんの谷仲恵輔は、さりげなさがいい。
刑事たちでは今里真と菅野貴夫の演技にリアリティーが感じられた。
ただ、菅野のほうが本庁の刑事みたいに落ちつていて、前田剛と役の設定を逆にしたほうがいいように思えた。
女にだらしがない和田社長の仗桐安は、なかなかはまり役だった。
事件のからくりを終盤にまとめて見せるのは演出のアイディアかもしれないが、ここだけがサスペンスドラマの犯行再現場面のようで疑問は残る。
本来は、本編の中で面白く見せてこその作劇手腕だと思うが。
それにしても、和田社長が地元の名士という重しをちらつかせて個人的事情に捜査は及ばないように暗に圧力をかける点、誘拐事件の場合、当然周辺の交友関係は細かく捜査されるので、いくら狂言誘拐に見せても、いずれ、純子の身に疑いがかかればすぐ露見してしまうのに、この社長のずさんな隠ぺい工作には呆れる。
男の愚かさだけで、こんな事件を引き起こすというのがなんともやりきれないが、現実の事件の動機は案外そんなものかもしれない。ただ、男の下心がなんともみみっちく、刑事が4人もやってきてもっともらしい顔で捜査してるのが滑稽に見えてくる。
立派な舞台美術だけに、人間の心の襞があまり感じられず、事件の底の浅さがかえって強調されて見えてしまった感はある。
劇にする以上は、ただ女好きと言うだけでなく、もう少しこの社長の内面をえぐるような背景や心理描写がほしかった。
終演アナウンスを里美役の子役にさせているのも、ちょっとあざとく感じた。
吉水雪乃ちゃんはコリッチユーザーの間では秘蔵っ子のように人気のある子役さんのようだからこれもサービスなのだろうか。
新宿コントレックス Vol.0
新宿コントレックス実行委員
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2011/07/14 (木) ~ 2011/07/14 (木)公演終了
満足度★★★★
遅くなりましたが
タイトル別に感想書こうと思ってたら、パンフをなくしてしまい、探したけどみつかりませんでした。
1日だけなので、あの空調がよくない狭小空間はツラいです。
まぁ、コントだからまだ我慢できるけど。
企画自体は好きなので、次回も通いたい。
感想はネタばれで
ネタバレBOX
<アガリスク・エンターテイメント>
以前、秋葉原ライブで観たネタが中心で新鮮味はなかった。
冠婚葬祭はシチュコメの基本を抽出したネタで面白い。息が合わないところもあって気になったけど。
「火星木星土星」と「タケノコニョッキ」は、お遊び要素が強く、コントと言えるのかどうか。
<トリコロールケーキ>
人質とってメロメロに口説くのは、前にも観たネタだけど面白い。
今回のツボは「やめてください!会社を」かな。気にいってしまった。
<黒薔薇少女地獄>
太田守信さんのキャラが何と言っても可笑しい。
アングラ風コントっていうのがいいですよね。嵌りました。
アングラファンや海賊ハイジャックファンにもオススメです。
描いたように(満員御礼!!無事公演終演いたしました!)
613
テアトルBONBON(東京都)
2011/08/24 (水) ~ 2011/08/28 (日)公演終了
満足度★★
人間が描けていない
初見の劇団ですが、ツイッターで存在を知り、主宰のかたのブログやツイッターを読み、興味を持ち、観に行きました。
受付や客席誘導係などスタッフの笑顔と親切さが印象的で、好感を持ちました。
しかし、劇が始まると、期待していたのとはだいぶ違うレベルで正直失望しました。
ひとことで言うと、最初に設定ありきで、作者がストーリーに都合よく登場人物をあてはめ、人間がきちんと描かれていないので感動が薄いのです。
点景としての登場人物が多すぎると思ったが、作品に合わせてキャストを選んだのでしょうか?
劇だけを観ると、学生演劇にありがちな、人数がたくさんいるので役を作らざるをえないような印象を持ちました。
普通のユニットなら、それはまずないとは思いますが。
人情劇を目指されるなら、そのジャンルの優れた芝居や名作映画を観たり、戯曲やシナリオを読んで、もっと人間描写を勉強されたほうがよいと思います。
料金設定も高めで、見合った内容の芝居とは思えませんでした。
素人観客なのに僭越なことを書いてしまいましたが、優れた人情劇を数多く観てきた経験から、とても不自然で後味の悪い芝居に思えたので。
また、登場人物が多いので、パンフには役名だけでなく職業や続柄も書いたほうが親切だと思います。
1時間45分。あと15分は刈りこめたと思います。
ネタバレBOX
ストーリーは公演情報に載っているので省略させていただく。
要は、売れない画家とカフェの女店員の、恋に不器用な若い二人が結婚を決意するまでの話。
画家の借りてる部屋が大家の倉庫になっているのでそのぶん家賃が安いが、人の出入りが多くプライバシーが保たれないという設定。
そのため、入れ代わり立ち代わり人が訪ねてきて、観ていて落ち着かず、出入りがわざとらしくてイライラした。
せっかく舞台美術がトップライトのある凝った部屋になっているのに、照明による時間経過を巧く表現していないので、観ていて時間が混乱する。
回想場面の挿入はともかく、主人公アキラの仕事が7時に終わるのに、帰りが11時で遅いと同棲相手のエミが文句を言っているが、画廊に勤めているカナが11時過ぎに訪ねてくる。ずいぶん遅い訪問だなと不自然に思う。
ところがそのあと、アキラもエミも同じ服装の時にキザキが昼の弁当を食べに入ってくるので、11時というのは午前11時のことなのか?と思うが、そうではないらしい。
このキザキの変人めいたキャラも笑いを取るためなのか、必然性がなく、わざとらしい。
大家のオオタワラ社長というのが、画廊のオーナーのような態度だが、業務内容が不明。
カナが絵の修復技術を持っているという設定だが、アキラが師匠のウダガワ画伯から譲り受けたという絵がどうして傷ついたのかも会話では説明がない。
冒頭で、カナがアキラに好意を抱いているとわかり、エミが同棲がかえって壊れるきっかけにもなるみたいなことを言うので、アキラとカナが結ばれるのかと思った。
いらだってばかりいる描写でエミの魅力が伝わらず、カナのほうに感情移入してしまうのだ。
配送業者が荷物を持ち上げる場面が多いが、小道具がみるからに軽そうで浮いており、芝居がわざとらしいうえ、重いほうの荷物を役者が軽々と持ち上げてしまうポカがあり、失笑が漏れていた。
形だけ重そうな芝居をさせるから、こういうポカが起きるのではないか。
姉の婚約者が聾唖者というのも結婚への障壁を表現したいのかもしれないが、蛇足のエピソードだと思う。
この姉がやけにベタベタしたキャラなのも意味不明。
運送業者とキザキ、オオタワラ社長とバーのママ、チハルが実は付き合っていたという設定も蛇足だ。
スリーサイズをやたら聞きたがるバイトの同僚も出す必然性を感じない。
私が一番呆れたのは、兄弟弟子のイチロウへの思いを、アキラがみんなとの雑談の場で説明してしまう場面。
その前にこの2人が水と油なのはみてとれるだけに、直接関係ない人間たちに「あの人はこういう性格で、自分とはこんな感情のもつれがある」なんてことや、イチロウの心の中を軽々と話してしまえるものなのか。わだかまりがあるだけに、ふつうの人間の感情の流れでは考えられない。
ラストのアキラとエミの甘いシーンも、それまでの描き方が表面的だからとってつけたようでいい気持ちになれない。
作者が自分の頭の中ではわかっているものだから、あれこれ都合よく人間を動かしている点が興ざめの芝居だった。
人情劇は設定だけでは感動できないことを作者には知ってほしい。
途中で急にムーディーな音楽が入る場面も、前後がバタバタしているだけに唐突に感じられた。
美女劇 伯爵令嬢小鷹狩掬子の七つの大罪
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2011/08/10 (水) ~ 2011/08/21 (日)公演終了
満足度★★★
想像を超えるものがなかった
この劇団ユニットは以前も観たことがあるが、今回は寺島しのぶ目当てで観劇。
満席のスズナリのてっぺんから見下ろす舞台は、往時の天井桟敷の隠微な雰囲気を少しは感じさせてくれただろうか。
通路も補助席でぎっしり埋まった。
私の前の補助席に座った女性が、より見やすいとおもったのか、後ろが1つあいているのをよいことに
椅子を移動して私の鼻先に鎮座したので、彼女のお団子ヘアで視界がさえぎられてしまった。
補助席は視界確保のために階段1つ置きに設けてあるのだから、身勝手なことこのうえない。
ファッションとはいえ、そういう自分勝手な行動をとるなら、せめて高々としたお団子ヘアで満席の劇場に来ないでほしい。
観終わっての感想は、だいたい想像したとおりと言おうか。
寺島しのぶはやはり圧倒的存在感で、つぐみのひとり芝居の場面で他の女優とは明らかに演技の豊かさが違った。
そのぶん突出していて、このユニットに溶け込んでいるとは言い難く、彼女自身参加して、どの程度充実感が味わえたのかは疑問が残る。
寺島の参加が何らかの化学反応を起こせば面白かったが、ゲストの芝居以上の効果が生まれなかったように思う。
ネタバレBOX
ブルジョワのお遊びを嗤った反転の女中劇。
つかのまの自由が与えられて自分の時間と空間を謳歌する女中つぐみ(寺島しのぶ)の正体が最後に明らかになるが、含みを持たして、観客を惑乱して終わる。
もうひとりのつぐみを演じる村田弘美は、寺山修司のアングラ劇で活躍する若手だが、寺島しのぶとのラストの場面は貴重な体験となっただろう。
本水を使った演出も観ていてあまり効果的には感じられなかった。
いつもながら黒色すみれの歌唱力と声量は素晴らしいけれど、今回は高音が響きすぎて少々圧迫感を覚えた。
本篇に挟まる「便所のマリア」の人形劇は素晴らしいのだが、本編とのつながりや必然性を感じないので、「見世物」として浮いてしまっているように感じた。
また、寺島しのぶの出番が少なく、彼女の存在感が強ければ強いほど、彼女が舞台を去ると、ぽっかり穴が開くようで、そこに「便所のマリア」の話が入ると、いっそうツギハギ感が強まる気がした。
どうせなら寺島と人形の共演が観てみたい気がしたが。
ゲゲゲのげ ~逢魔が時に揺れるブランコ~
オフィス3〇〇
座・高円寺1(東京都)
2011/08/01 (月) ~ 2011/08/23 (火)公演終了
満足度★★★★★
演劇へのあふれ出る愛
演劇の楽しさってこういうワクワク感なんだよなぁということを思い知らされた作品。
「すごーい、すごい!」と心の中で叫びました。
渡辺さんが20代でこれを考えて書いたのもすごいけど、演出してこういう形にするっていうのがやはり天才だなぁと。
(私は渡辺さんと同年配で、ほぼ同時期に同じくらい年の離れた相手と初婚で結婚したという共通点があり、勝手な親近感がある)。
女優としての渡辺さんのファンだが、女優としても才能あるのに、作・演出家としてもこんなに才能があるというのに敬服する。
そしてこの作品を観て思ったのは、渡辺さんは本当に演劇を愛して、まっすぐに純真無垢な気持ちで真摯に誠実に取り組んでいる人なんだなぁということ。
それが強く感じられた。
「人間性なんて劇作には関係ないよ」と昔、私に言った学生劇団の関係者がいるが「関係あるよ!」と言いたい(笑)。
第一次小劇場ブームのころ、渡辺さんからの電話を職場で一番多く受けたのは私だった。
劇団主宰にはいろんな人がいて、制作任せの人や、すっぽかしが平気な人もいたが、渡辺さんだけはどんなに忙しくても、寝てなくても、ご自身で連絡してこられ、「ゲネプロの時間伝わってますか?」とか「来週が初日だって私言いましたっけ?」とか「いま、写真探してるのでよろしくお願いします」とか細かい確認をおろそかにしない真面目な方でした。
稽古中、過労で声が出ないこともあり、「ごめんなさい。こんなガーガー声で失礼します」と電話の向こうで謝っておられた。
その誠実な人間性が今回も作品を通してひしひしと伝わってきました。
あの人だからこの作品ができたのだという・・・。
最近の女性作家のブログなどを読むとお洒落な生活感が伝わるが、それとは少し違う。
貧しい都会生活の中で血肉をふりしぼるように書いたという渡辺さんの青春が息づいている。
渡辺さんが尊敬し憧れ、「夢のような芝居」を目指してきたという唐十郎氏の作劇術の影響が強く感じられ、それを確認できたことも嬉しかった。
そういう意味では、唐十郎信奉者の若き作・演出家にこそ、ぜひこの作品を観てほしいと思いました。
ネタバレBOX
若月(松村武)が登場してしゃべり始めたとき、その抑揚まで唐十郎の芝居に出てくる人物のようで「あ」と思った。
「記憶の糸」に操られて登場する男といえば、唐作品の定番だ。
そこにサンシャイン・シティの建設により失われていく東京池袋という町と時代への渡辺さんの想いも重ねあわされていて、感慨深かった。
小学生がワーッと出てくる場面、俳優たちの動きやかしましさが本物の小学生に見えて感心した。
この小学生、ビワの実の精みたいで、河童に変身するのがまたビックリだが、その河童がなんだか腐ったビワの実のようでもあり、不気味さがたまらない。
若月の戦時疎開中のいじめ体験と、マキオ(吉田裕貴)のいじめ体験を重ねる構成も秀逸。
マキオのいじめを扇動する教師(土屋良太)の描き方も、実際小学生の時にこのような体験をした私にはリアルに感じられた。
鬼太郎(中川晃教)の登場シーンが大型ミュージカルのようで驚いたし、妖怪・茶飲め小僧(加藤亜依)との対決場面などはとても舞台とは思えぬスピード感があり、アニメや実写版映画に抵抗がある私でも、こちらのほうがむしろ楽しんで観られた。
一反木綿が舞う場面や杉の木に封じ込まれ同化した子供、びわの実が成った舞台美術など視覚効果も素晴らしい。
鬼太郎であると同時にマキオの親友を演じる中川の声の悲しさが印象に残った。
横長で見づらい座・高円寺の舞台を中央四角に作りこむなど、舞台面も見やすく工夫されていた。
入れ子のようになった複雑な構成で、正確に理解できた自信はないけれど、幸福感で満たされた。
中川の女性ファンの姿も多く見受けられ、彼が登場してひとことせりふを言うたびに隣の中年女性が「ふわぁ」と奇声を発して跳ねるものだから座席が揺れ、いささか興をそがれた。この奇声、ほかからも一斉に聞こえてきた。
ほかの席でも「座席が揺れて落ち着かなかった」と終演後、不満を漏らす声がきかれた。
彼のコンサートではないので、抑えてほしいところだ。
Nazca -ナスカ-
劇団銀石
吉祥寺シアター(東京都)
2011/08/18 (木) ~ 2011/08/21 (日)公演終了
満足度★★★★
難解でも魅力的
言葉遊びのような独特なセリフと難解な構成が個性になっているような劇団。
私のように演劇を専門的に勉強したわけでもなく、頭がよくない観客にとってはじゅうぶん理解できたとは言えないのですが、私は佐野木さんが創る芝居が、理屈抜きで、ただ「好き」なんです。
自分にとって受け付けられない難解さではなく、独特の個性があり、それに惹かれて観続けている。
前回公演の中途半端感に比べれば、シンプルで、テンポもよく、時間も気にならなかった。
今回は吉祥寺シアターの大舞台で、映像を駆使して縦横に使うなど、それにふさわしい空間演出だったと思う。
「愛する者を失っても、それでも生きてゆく物語」が今回のテーマだそうだ。
初演を観ていないのでどのあたりを改訂されたのかわからないけれど、プラネタリウムのような涼やかな空気が流れ、夏芝居らしく暑苦しさがなく、なかなか考えさせられる内容で楽しめた。
ネタバレBOX
前にも書いたが、銀石は野田秀樹の芝居と共通する雰囲気を感じる。
野田さんが「最近は難解で感情移入できないから楽しめなかったと観客がソッポを向く傾向があるが、僕は昔から簡単に感情移入できる芝居を創りたくなかった」と新聞のインタビューで語っていたことを思い浮かべる。
好みや評価が分かれる劇団だと思うが、いまよりも広く観客の心を捉えるには「難解な個性」だけでなく、解釈は人それぞれでも、何か1本スッと太い筋がより明確に伝わる工夫が必要かとも思う。
そのへんの伝わり方が今回、何となくモヤモヤとしていたようにも感じるが、欠点はあっても、ちんまりとまとまっていない若さに期待している。
抽象的な世界が、個々の具象的な場面によって紡がれていくという点で観客にとっては難易度が高いのかもしれない。
場面の相関関係がいまひとつ理解しにくく、太平洋戦争の特攻隊を連想する場面もどこか戦争ごっこのように描かれ、弟と兄や父との絆がいまひとつ、シリアスに迫ってこない感もあった。
ウツセミを演じる安藤理樹のキレのある動きと聞き取りやすいセリフ、表現力はさすが。蝉の鳴き声もうまい(笑)。
明るくも病弱で命はかなげな妹(浅利ねこ)の隔離されたような存在も気になる。
SF的な世界の中でゆったりとした日常を演じる母親役のながみねひとみがとてもよかった。
ピアノ演奏の吉田能が中空で人々の営みを眺めている様子が、観客の視点と一体化しているようで、演者ではないが印象に残った。
団扇を使っている姿が俳優だけになかなかかっこよく、面白い演出。目立ちすぎてもいけないし、難しい立場と思うが。
「聞き出すことが危機脱すること」。今年の夏は、蝉の声に耳を傾ける人々にも昨年までとは違うさまざまな想いが去来したことと思う。
死者の声に耳を澄ませながらも、これからの人類の未来と足元の現実をしっかりとみつめて行動しなければならないことを改めて考えさせられた。