明けない夜 完全版 公演情報 JACROW「明けない夜 完全版」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    映画のようなつくりだが
    初演を観ていないが高評価の噂は聞いていたので、観ておきたかった。

    TVのサスペンスドラマというよりは昔の映画シナリオに沿ったようなつくりだと思った。

    舞台美術は確かに立派だが、やはりシアタートラムは中劇場規模で、俳優たちの演技の質が小劇場の尺に合ったものになっているのは否めない。

    だからといって、同じ台本で大劇場に慣れた有名な俳優を使えばいいかというと、そうは思えない。

    この作品はやはり小劇場で、息をつめて観るほうがふさわしいと思った。

    昭和に多く作られた映画の小品はいまの時代には映画界の構造上、期待できず、私は中村暢明には、そういった心理劇の佳品を舞台で手掛けてもらいたいと望む。

    ネタバレBOX

    回想場面が挿入され、時系列的に混在して演じられるのだが、私の視力が悪いこともあって最後列に近い位置から上手の字幕が見えにくく、文字上ではいつの出来事か確認できなかったのが残念。演技で判断できたが。

    登場人物たちが昭和の時代を醸し出していたのはお手柄。

    和田商店の社長夫人を演じる蒻崎今日子がいい。

    この妻はたぶん、実家も裕福な良家の出なのだろう。
    気が強く、夫の女癖の悪さに閉口しながらも、離婚する気はさらさらない様子が見て取れる。

    家族でビフテキを食べに行こうという2階廊下の会話の場面に、いかにもこういう家の主婦らしい楽天的な雰囲気が出ていた。

    回想場面の元従業員・秋澤弥里がいかにも昭和の女子事務員らしい地味なつつましさを見せていた。彼女の場合は社長が強引に口説いたのだろうと思わせる。

    ところが商売女になって登場すると、すっかり苦界に身を沈めた女らしい自堕落な感じがよく出ている。
    蓮っ葉なセリフ回しが昭和の映画女優のようであの時代を感じさせた。

    2番目の社長の女、純子を演じるハマカワフミエは舞台に比して動きが小さすぎるように感じた。これは彼女が小柄だからということではない。

    年かさの従業員・やっさんの谷仲恵輔は、さりげなさがいい。

    刑事たちでは今里真と菅野貴夫の演技にリアリティーが感じられた。

    ただ、菅野のほうが本庁の刑事みたいに落ちつていて、前田剛と役の設定を逆にしたほうがいいように思えた。

    女にだらしがない和田社長の仗桐安は、なかなかはまり役だった。

    事件のからくりを終盤にまとめて見せるのは演出のアイディアかもしれないが、ここだけがサスペンスドラマの犯行再現場面のようで疑問は残る。

    本来は、本編の中で面白く見せてこその作劇手腕だと思うが。

    それにしても、和田社長が地元の名士という重しをちらつかせて個人的事情に捜査は及ばないように暗に圧力をかける点、誘拐事件の場合、当然周辺の交友関係は細かく捜査されるので、いくら狂言誘拐に見せても、いずれ、純子の身に疑いがかかればすぐ露見してしまうのに、この社長のずさんな隠ぺい工作には呆れる。

    男の愚かさだけで、こんな事件を引き起こすというのがなんともやりきれないが、現実の事件の動機は案外そんなものかもしれない。ただ、男の下心がなんともみみっちく、刑事が4人もやってきてもっともらしい顔で捜査してるのが滑稽に見えてくる。

    立派な舞台美術だけに、人間の心の襞があまり感じられず、事件の底の浅さがかえって強調されて見えてしまった感はある。

    劇にする以上は、ただ女好きと言うだけでなく、もう少しこの社長の内面をえぐるような背景や心理描写がほしかった。

    終演アナウンスを里美役の子役にさせているのも、ちょっとあざとく感じた。

    吉水雪乃ちゃんはコリッチユーザーの間では秘蔵っ子のように人気のある子役さんのようだからこれもサービスなのだろうか。



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    2011/08/29 21:46

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